▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士(ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ)
エンプティ
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
風が強くなった。
竜の吐き散らした火の粉が、酒気を含んだ風に乗り、湖から森へと周囲に広がって
いく。
熱風を浴びた木々はその熱さから逃れるように身をよじらせた。
その中心では、異形の竜と一人の騎士が炎をもろともせず激しい死闘を繰り広げて
いる。
「行く」
足元に落ちた蛍のように儚い焔を革靴で踏み消すと、ジュリアが短い合図とともに
駆け出した。
「お気をつけて」
俺の見送りの言葉をあっさりと無視し、ジュリアは走りざまに剣を抜くと、竜の背
後に回りこんだ。
長い黒髪とドレスがまるでダンスを踊るように華麗に舞う。
ここが未だファブリー邸の大広間であったなら俺もその動作に心をときめかせたか
もしれない。
しかし、その後の彼女の行動は、ドレスを着た淑女の行いとはかけ離れていたわけ
だが。
ジュリアの細身の剣が針のように竜の黒い剛毛を掻き分けて、その肉を突いた。
その傷は浅い。
しかし、ジュリアは追撃することなく、剣を引き抜くと竜と距離をとった。
呪いの魔法を纏った剣は、その小さな傷口から茨のつるが伸びていくように全身を
苦痛で絡め取る。
騎士を地面にひき倒し、その身を食いちぎろうとしていた竜に、予想外の苦痛が襲
う。
その痛みに耐えられず、体をよじる竜から、騎士は地面を転がるように逃れた。
「危機一髪。ジュリアさんもなかなかやるじゃないか」
ピュウと軽く口笛を吹き、俺は隣に控えていたエンプティを見た。
魔女の話では、相手は数々の猛者を一飲みにしてきた竜だ。
銘酒『竜殺し』と、バルメの長年による結界の効果もあるのだろうが、彼らの攻撃
は竜にダメージを与えて いるようだ。
特に騎士殿――ヴァン・ジョルジュ・エテツィオの剣の腕は目を見張るところが
あった。
最初は口だけの詐欺師の可能性も考えてはいたのだが、本物もしくは同等の教育を
受けている事は事実なのかもしれない。
ならば、何故あれほどまでに、彼は騎士らしく見えないのか。
彼に足りない部分を考えようとして、余分なところばかりなのだと気がついたとき
に、エンプティが遅い返事を返 してきた。
「貴方は宜しいのですか?テイラックさん」
「俺は損得を考える方が得意な商人でね。竜を倒す騎士や賢者には役不足さ」
第一、俺の銃で竜を倒すのは難しい。
先ほどの初弾も、あの黒い獣には小石をぶつけられた程度だったに違いない。
騎士の攻撃は、竜の体力を削ぎ、ジュリアの剣もまた、その呪いを徐々に竜の身体
に絡めて行った。
それでも、未だ決定的なダメージにはならない。
「しぶといな。あと少しだというのに・・・バルメは何故出てこない?」
額に浮いた汗を拭う。
それだけ、あたりは炎に包まれていたのだ。
この森の分身とも言えるバロメが、この状況に気がつかないわけがない。
竜を倒すことが彼女の使命ならば、今この機会を逃すなど考えられないというの
に。
この場に老木の魔女の姿はなかった。
「変化の術が限界まで来ているのです。彼女に状況の正常な判断は望めません」
エンプティが答える。
「彼女は樹木に姿を変えることで、途方もなく永い寿命と、竜を捕らえる大きな檻を
手に入れました。が、同時に人として必要な部分をいくつか失っているのです」
俺は先ほどのバルメとの話し合いを思い出し、彼の言葉に頷いた。
穏やかな婦人のような振る舞いとは裏腹に、子供達に対する認識はどこか狂ってい
た。
いくら話し合っても平行線と思われたからこそ、俺達は竜退治を手伝うことに同意
したのだ。
月夜に狼の姿になった男が理性を失うように、老木に姿を変えた女の精神は既に普
通ではないのかもしれない。
「それに、重要な事をお話し忘れていましたが、恐らく彼女は竜を殺すことができな
いのです」
「どういうことだ・・・?」
まるで、たった今思い出したかのような仕草。
しかし、エンプティが意図的に隠していたのは明白で、それゆえにその理由がろく
なものでない事を予測してしまう。
俺は眉を潜めて、聞きたくない話の先を促す。
「あの竜を倒すのが魔女の目的なのだろう?」
「確かに、その通りなのです」
しかし――と、エンプティは付け加え、ある意味俺の予想どうりの事を告げた。
「あの竜はかつて、宮廷に仕える一人の女魔道師―――魔女バルメの息子だったので
す」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士(ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ)
エンプティ
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
風が強くなった。
竜の吐き散らした火の粉が、酒気を含んだ風に乗り、湖から森へと周囲に広がって
いく。
熱風を浴びた木々はその熱さから逃れるように身をよじらせた。
その中心では、異形の竜と一人の騎士が炎をもろともせず激しい死闘を繰り広げて
いる。
「行く」
足元に落ちた蛍のように儚い焔を革靴で踏み消すと、ジュリアが短い合図とともに
駆け出した。
「お気をつけて」
俺の見送りの言葉をあっさりと無視し、ジュリアは走りざまに剣を抜くと、竜の背
後に回りこんだ。
長い黒髪とドレスがまるでダンスを踊るように華麗に舞う。
ここが未だファブリー邸の大広間であったなら俺もその動作に心をときめかせたか
もしれない。
しかし、その後の彼女の行動は、ドレスを着た淑女の行いとはかけ離れていたわけ
だが。
ジュリアの細身の剣が針のように竜の黒い剛毛を掻き分けて、その肉を突いた。
その傷は浅い。
しかし、ジュリアは追撃することなく、剣を引き抜くと竜と距離をとった。
呪いの魔法を纏った剣は、その小さな傷口から茨のつるが伸びていくように全身を
苦痛で絡め取る。
騎士を地面にひき倒し、その身を食いちぎろうとしていた竜に、予想外の苦痛が襲
う。
その痛みに耐えられず、体をよじる竜から、騎士は地面を転がるように逃れた。
「危機一髪。ジュリアさんもなかなかやるじゃないか」
ピュウと軽く口笛を吹き、俺は隣に控えていたエンプティを見た。
魔女の話では、相手は数々の猛者を一飲みにしてきた竜だ。
銘酒『竜殺し』と、バルメの長年による結界の効果もあるのだろうが、彼らの攻撃
は竜にダメージを与えて いるようだ。
特に騎士殿――ヴァン・ジョルジュ・エテツィオの剣の腕は目を見張るところが
あった。
最初は口だけの詐欺師の可能性も考えてはいたのだが、本物もしくは同等の教育を
受けている事は事実なのかもしれない。
ならば、何故あれほどまでに、彼は騎士らしく見えないのか。
彼に足りない部分を考えようとして、余分なところばかりなのだと気がついたとき
に、エンプティが遅い返事を返 してきた。
「貴方は宜しいのですか?テイラックさん」
「俺は損得を考える方が得意な商人でね。竜を倒す騎士や賢者には役不足さ」
第一、俺の銃で竜を倒すのは難しい。
先ほどの初弾も、あの黒い獣には小石をぶつけられた程度だったに違いない。
騎士の攻撃は、竜の体力を削ぎ、ジュリアの剣もまた、その呪いを徐々に竜の身体
に絡めて行った。
それでも、未だ決定的なダメージにはならない。
「しぶといな。あと少しだというのに・・・バルメは何故出てこない?」
額に浮いた汗を拭う。
それだけ、あたりは炎に包まれていたのだ。
この森の分身とも言えるバロメが、この状況に気がつかないわけがない。
竜を倒すことが彼女の使命ならば、今この機会を逃すなど考えられないというの
に。
この場に老木の魔女の姿はなかった。
「変化の術が限界まで来ているのです。彼女に状況の正常な判断は望めません」
エンプティが答える。
「彼女は樹木に姿を変えることで、途方もなく永い寿命と、竜を捕らえる大きな檻を
手に入れました。が、同時に人として必要な部分をいくつか失っているのです」
俺は先ほどのバルメとの話し合いを思い出し、彼の言葉に頷いた。
穏やかな婦人のような振る舞いとは裏腹に、子供達に対する認識はどこか狂ってい
た。
いくら話し合っても平行線と思われたからこそ、俺達は竜退治を手伝うことに同意
したのだ。
月夜に狼の姿になった男が理性を失うように、老木に姿を変えた女の精神は既に普
通ではないのかもしれない。
「それに、重要な事をお話し忘れていましたが、恐らく彼女は竜を殺すことができな
いのです」
「どういうことだ・・・?」
まるで、たった今思い出したかのような仕草。
しかし、エンプティが意図的に隠していたのは明白で、それゆえにその理由がろく
なものでない事を予測してしまう。
俺は眉を潜めて、聞きたくない話の先を促す。
「あの竜を倒すのが魔女の目的なのだろう?」
「確かに、その通りなのです」
しかし――と、エンプティは付け加え、ある意味俺の予想どうりの事を告げた。
「あの竜はかつて、宮廷に仕える一人の女魔道師―――魔女バルメの息子だったので
す」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
PR
トラックバック
トラックバックURL: