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2025/11/01 17:15 |
星への距離13/スーシャ(周防松)
PC:スーシャ  ロンシュタット
NPC:バルデラス 
場所:セーラムの街(自警団の詰め所)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

気がついたら、悲鳴を上げていた。
悲鳴を上げたら、ぞくり、と沸いた恐怖心が自分の全てを支配した。

「いや! 来ないでぇっ!」

完全にパニック状態のスーシャは、悲鳴を上げながら、手当たり次第に物を投げつけ
た。
歩く死体、と化したかつての『家族』に。
医者夫婦も歩く死体としてこちらに近寄ってきていて、同じように物を投げつけられ
ているはずなのだが、彼女の目には『家族』しか映っていない。

非力な少女がめちゃくちゃに投げつけるものだから、大半は当たらないで変な方向に
飛んでいく。
花瓶が空を飛び、ホウキが落ちて床に転がり、タオルが途中でふわりと落ち、書類が
羽根のように散乱する。
そのうち、インクの入った小瓶が母親の顔にぶち当たった。
ゴト、とつまらない音を立てて落ちた小瓶は、床に中身をたれ流した。
「ひっ……!」
スーシャは体を硬直させ、声を詰まらせる。

――別の恐怖が、頭のてっぺんから突き刺さった。

まだ彼らが生きていた頃に植えつけられた、平手や拳の記憶が一瞬のうちに甦ってき
たのだ。
死体だと、死んでいると頭では理解していたとしても、その記憶だけは消えづらい。
また、あのヒステリックな罵声がどこからか浴びせられるのではないかという気持ち
が彼女の中にはあった。
――客観的に見て、もう二度とあり得ないことだとしても。

風邪をこじらせた時の悪寒のように、震えが止まらない。
恐怖で濡れた目を見開き、けっ、くっ、と妙な呼吸を繰り返した。
あと少しのきっかけがあれば、彼らが別の動きをして見せたなら……本当に頭が狂い
そうだった。

――ぼす。

その時、彼女の頭に大きな手が乗せられた。
「……落ちつけ」
そして、低いけれど、静かで落ちついた声が、短く告げた。
ぎこちなく顔を上げると、ロンシュタットが自分を見つめていた。
彼女の頭に手を乗せたのは、他ならぬ彼だった。
スーシャは無我夢中で彼の衣服にしがみつく。

「ど、ど……どうしてっ?」

突然口をついて出た言葉に、ロンシュタットがほんの少しだけ戸惑ったような気配を
見せる。

「どうして、どうしてっ……死んだ人が生き返って……!?」

混乱と恐怖の極みにある彼女は、やっとのことでそれだけを言った。
本当は、もっと違う、いろんなことを考えていたけれど、それは言葉にまとまらな
かった。 
ロンシュタットが、かすかに首を横に振った気がした。
「生き返ったわけじゃない」
「じゃあ、あれは……あれは!?」

そっ、と頭から彼の手が離れる。

「あれは、死体だ」

黒い巨大な剣――バルデラスを片手に、ロンシュタットが彼らに向き直る。

「ま、ちゃっちゃと終わらせるから、スーシャちゃんは隅っこで小さくなってなよ」

バルデラスに軽い口調でうながされ、スーシャはもそもそと詰め所の隅っこに移動し
た。

それからは、一方的な展開だった。
死体は五つ。
仕立て屋一家三人と、医者夫婦の二人。合わせて五人。
対するロンシュタットは一人。
バルデラスがいるのだが、武器として存在しているのだから二人とは言い切れない。
つまり、ほぼ五対一。

普通なら不利な展開になるものだが、彼の場合は違った。

一見無造作とも思える一振りで、仕立て屋の店主の首がはね落とされ、女房の腕が切
り落とされ、息子のどてっ腹に剣が突き刺さる。
時折、死体の体から、ぐぶう、と空気の漏れる音がした。
――ちゃりん。
剣を突き刺されたはずみだったのだろうか、息子の衣服のポケットから硬貨が数枚床
に落ちた。
スーシャは、隅っこで小さくなって震えながら、顔を覆った手の指の間からそれを見
た。
家の手伝いもロクにせず、毎日自堕落に暮らしていたあの息子が、まとまった金を
持っているとは考えにくい。

(もしかして、お店の売り上げに手をつけたのって……?)

そのうち、ゴドッという鈍い音がして、足元に何かが転がってくる。
何気なくそれに視線を向けると、それは医者の首だった。
入れ物のない眼窩が、じっと見つめるようにこちらを向いている。

スーシャは悲鳴を上げなかった。
恐怖心で混乱することもなかった。

……もう、何も。
もう何も、彼女は自分の中から感情を拾い上げることができなかった。
強烈な疲労感が体にまとわりついて、神経がいつものようにスムーズな感情伝達の役
割を果たさなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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2007/12/20 20:39 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離
Rendora-11/アダム(Caku)
キャスト:アダム・クロエ
NPC:シックザール
場所:ヴィヴィナ渓谷→フィキサ砂漠丘
--------------------------------------------------------

「アダム」


声をかけられて振り返る。そこにはつい先日知り合った竜の少女がいた。
なぜか頬を赤らめて近づいてくる。距離に比例してアダムの心拍数も軒並み急上昇する。目の前で立ち止まると、両手を胸の前で組んだ格好でじっと上目遣いで見つめてくる。こんな顔と仕草で見つめられるのは初めてで、こちらも顔が赤くなるのは止められない。

「お願いがあるんです、聞いて…いただけますか?」

不安そうに俯きながら、ぽつりと呟く。がくがくと首を頷かせるアダム。こんなことを嫌いじゃない女性に言われて断らない男という人種はいない。神に誓ってもいい!

アダムが肯定すると、クロエは寄り添うように抱きついてきた。予想外だけど希望的イメージの一つにアダムが狼狽して、慌てて肩に手を…置こうとしてじっとクロエがこちらを見上げていることにドキリとした。夢か!これは夢だ!と自身に言い聞かせても胸の鼓動は収まらない。正直あれだよね、上目遣いって各国共通の殺し動作ですよね。しかし、クロエはそれだけではなく、いきなりアダムのシャツをめくって肌に手をおく。さすがにアダムもびっくりして離れようとするが、クロエがそれを許さない。
この進捗は正直驚きだがこのまま流れに乗ってしまえ!とにやけた次の瞬間。

「人の体って興味があるんです♪」

なんかクロエさんが嬉々とした笑顔、悪寒すら催すほどにすげぇ笑顔。今までの脳内シュミレートが急遽警報発令、なぜってクロエさんの手に握られてるソレです、そう名前は確か缶切り。ちょっと待って、と口にしたその瞬間。クロエは満面の笑みで缶切りをアダムの胸板に突き刺して、ぐにっと。そのままぐにぐにってえぐるとその向こうには肉片が脂肪が血管が動脈が肋骨が肺が内臓が心臓がーーーーーーーー

そのアダムの内包物の前には、愛らしい血塗れのクロエ、さん、が、げふっ、ごふっっ、て、い…て…




* * * * * * …





「そんなオチあるかぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!」






大絶叫と共に毛布代わりのジャケットをどかせて起き上がる。

『…おはようございます、アダム…ってどうしました?』

夢でも現でもまったく変わらないクロエの優しげな声が朝の谷間で首を傾げていた。てりり、てりり…と猛禽類の鳥の声が高く蒼穹から響いている。川のせせらぎもきらきらと流れる音で自然の豊かさを象徴している。実にいい朝だった。

『寝起きの抜群さから言って、すごいいい夢でも見たんじゃない?』

アダムの隣で転がっていたシックザールがのんきに発言する。基本、無機物のシックザールに睡眠という概念はないらしく、アダムの寝言まで細部に聞き取れていたようだ。

『なんかさっきまでは馬鹿みたいに幸せそうだったのにねー急に青ざめてうなされてたよ』

シックザールがん無視のまま、体を調べる。鎖骨胸板腹肩この間の傷と昨日の傷と四肢に顔、よかった俺は人のしてのパーツが全部揃ってる とちょっぴり涙が零れてくる。

『うわ泣いてるよアダム!どうしたのそんなに感動ものだったの!』

「俺今生きてることに大感動してる…」

『えぇと、アダム平気ですか?痛いところとかありますか?』

アダムの奇行の下で心配そうなクロエの声が加わった。アダムは生返事で「大丈夫、すごく意味のある夢だった」とベッド代わりのクロエへ返しながらも今後彼女に缶切りは絶対持たせないようにしようと心に誓うのであった。


* * * * * *


回復は著しく、ついに正午を過ぎる辺りには谷を登りヴィヴナの森林地帯を抜けることが出来た。緑の丘を越えると、その向こうはすでに地平線まで砂漠が続く景観があった。風紋という砂漠独特の絵画が大地に描かれては消えていく、というのはなんとなく壮大な景色だ。
まだ緑がかろうじてある丘で、アダムが遠くを見据える。

「砂漠越えか、どうするかな」

「アダムがつらいなら、私が飛びましょうか?」

後ろからひょっこりクロエが問いかける。クロエが元の姿になって飛べば確かに徒歩で砂漠横断などよりはよほど早く、安全だろう。しかしアダムは首を横にふった。

「駄目だよ。砂漠じゃクロエさん目立ちすぎる、それじゃ帝國の伏兵に見つかるだろうし、いくらここが大自然地帯だってったって、まだ正統エディウス国内だからクロエさんだって分かる姿はしないほうがいい。ここからは極力、元の姿は抑えたほうがいい」

「そうですか…そうですね、私もフィキサ砂漠は初めてだから迷っちゃうかもしれません。アダム、フィキサ砂漠は初めてですか?」

「いんや、でも二回目」

うーんと困り顔であごに手を当てるアダム。このエディウスに入るきっかけとなった旅団の警護の仕事では水も装備も全部向こうが用意してくれていた。さらに悪いことにアダムには単身砂漠越えなんて冒険経験はない。地図も方位を示す羅針盤すら持ち合わせていない。これでは砂漠の屍となることが素人でも容易に想像付く。

「ヴィヴナ渓谷側からは出られないって言うしなぁ…」

ヴィヴナ渓谷は国境に隣接している。シメオンとの当初の予定ではそこから出ることも不可能ではない、という話もあった。が隣国のパウラ連合との凶悪な関係もあり国境周辺は夜盗盗賊の聖地になりつつあるというとんでもない噂もある。
結局フィキサ砂漠を越えるしかない、しかし情熱的な太陽の光に早くも汗が落ちるのが止まらないアダムであった。


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アダムの夢見鳥パワーが足りなかったようです。

今回のRendoraはアダムが惨殺死体で発見されそうなところからスタートしました。
これがPCゲームであったらそのままBAD ENDです。よかったねアダム!

Rendora診断(最高五つ★)
恋愛レベルLv-1
ドキドキ度… ★★★★★
ほんわか度…☆☆☆☆★
ヤヴァイ度…★★★★★
胸キュン度…☆☆☆☆★

恋愛レベル下がりました。残念。

2007/12/20 20:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora
星への距離14/ロンシュタット(るいるい)
PC:スーシャ、ロンシュタット
NPC:バルデラス、団員
場所:セーラムの街


 感覚が痺れ、麻痺してしまったように動かなくなったスーシャをよそに、ロンシュタットの行う破壊行為は余りに一方的だった。
 それは、戦闘ですらない。
 かつて、人であったもの、人の形をしたものを粉々にしているだけの、事務的な作業だ。
 こんな時でも表情を変えることなく、淡々と剣を振るい、近寄ってくる死体を切り裂き、壁へ叩きつけ、床へ這い蹲らせた。
 5つの死体を完膚なきまでに叩き潰し、二度と動けないような肉塊へ変えるまで、かかった時間は僅かに数十秒。
 団員がここにいたなら、ロンシュタットの桁外れの戦闘力には、比較するものがないことを知り、呆れ果てたに違いない。
 最後に剣に付いた血を落とすために、鋭く血振りをして鞘へ収める。
 チン、と澄んだ音を最後に、詰め所に再び静寂が戻って来た。

 頬に当たる風が気持ちいい。
 そう感じて我に返ったのは、どれくらい経過してからだろう?
 スーシャはいつの間にか詰め所の外にいて、町中のベンチに座っていた。
 あの死体はどうしたんだろうと、まだ鈍くしか動かない意識を集中させながら辺りを見回す。
 もちろん、死体など無い。
 ただ、さっきと同じ様に、近くに背を向けてロンシュタットが立っているのが見えた。
 彼が死体を退治し、自分をここまで連れて来たんだ、とぼんやり分かった。
 お礼を言わなくちゃ。
 そう思っても体がまだうまく動かない。
 のろのろと立ち上がり、話しかけようとすると、相手から声が先にかかった。
「おっ、落ち着いたのかい、スーシャちゃん?」
 声の主は、もちろんロンシュタットではない。
 間違っても彼はそんな話し方はしない。
「おいロン、スーシャちゃんが気付いたぞ」
 彼の腰にかかっている長剣、バルデラスがうきうきしながら言った。
「いやあ、あの後、声をかけても全然返事をしないからびっくりだ。怖いなら怖いと言ってくれれば、あんな連中相手にしないであそこから出たのになぁ。いやいや、でもあれは女の子には怖いよな」
 一息にそこまで言ってから
「おいロン、お前も少しはスーシャちゃんに気を使えよ。怖がる女の子の目の前で戦うとは何事だ」
 今度は話の先をロンシュタットに変えた。
 だからお前はわかっちゃいないんだ、とか、あんなやつらは敵じゃないぜ、とか、ずっと喋り続けているバルデラス。よほど先程の戦闘でフラストレーションが溜まったのだろう。手応えが無さ過ぎる、と今度は愚痴をこぼし始めた。
 これじゃお礼も言えないよ。
 スーシャのそんな思いを感じたのか、
「お前、うるさいぞ」
 ロンシュタットの低い声がする。
 途端にピタリと喋るのを止めるバルデラス。
 明らかに不満そうな剣だが、スーシャは(取敢えず置いておいて)ぺこりと頭を下げて言った。
「あの……あの……あ、ありがとうございます」
 ほんの少し振り返り、ちらり、と視線が向けられる。
 特に何も込められていない視線に、何故かスーシャは安堵する。
「気にするな」
 短く言っておいて、ロンシュタットはまた前を向いた。
 ぼんやりと、今は大丈夫みたいだな、と思う。
 もしあの人達が、また起き上がって来ても、簡単にやっつけてしまうだろう。
 出会った時も、思い出してみれば小山のような怪物をやっつけてしまった。きっと本気を出せば、どんな悪魔や怪物にも負けないんだろうな、と想像も付かない強さに感心する反面、どうやって強くなったんだろうなと不思議さもある。
 しかし、それ以上考える事はまだできず、ただ張り詰めて切れた神経の糸が、ゆっくり繋がるのを、後姿を見ながら待っていた。

 角を曲がって、見覚えのある男がやって来る。
 宿へ荷物を取りに出かけた、団員だ。
 片手に袋を提げ歩いていたが、ベンチに自分が座っているのと、ロンシュタットが見ているのに気付くと、少し歩みを早くして、通りを真直ぐ渡り、前へ立つ。
「あれ? 詰め所にいたんじゃないのかい?」
 荷物を渡し、首を傾げながら言う。相変わらず真面目そうな顔をしているところを見ると、怒っているのではないらしい。団長は中にいろと言っていたが、ちょっと外の空気を吸いに出るのは構わないくらいに思っているのかもしれない。
「まあ、団長が帰ってくる前に、詰め所に戻ってくれよな?」
 などと言い始める。
 受け取った荷物を──それほど量は多くないが──見ていると、団員が、え? と聞き返した。
 スーシャ自身も聞き漏らしてしまった会話は、ロンシュタットが団員へ向けて言ったもののようだった。
 団員も聞き漏らしたらしいその台詞を、彼はもう一度口にした。
「ここに来るまで、誰に会った?」
 聞き取れても、意味の分からない質問だ。
 彼が何の意図を持って聞いているのかさっぱり予測できない。
 だが、言葉通りに受け取るなら、質問の受け手である団員は、この街の住人の名をひとりひとり上げなくてはいけなくなるだろう。
 ロンシュタットは団員が何を答えていいのか分からないのを見ると、更に続ける。
「俺は昨夜、この街の住宅街を歩いた。結構な数の家があった」
 だから?
 お前は何が言いたいんだ? と眉を寄せて団員が無言で聞く。
「天気が悪く、外へ出にくいが、既に朝は過ぎている。だが俺は、誰にも会っていない」
 何を言っているのか、団員は分からない。
「この街の人間は、お前と団長以外、誰もいないのか?」
「いや、そんな事は……」
 言い直して、団員は言葉がしかし続かない。
 考え込むような、言われて気付いたようなあいまいな表情を浮かべたまま、周囲を見回す。
「ああ……確かに、ここには誰もいないな。だけどな、宿には主人がいたし、ここに来る前はすれ違ったりも……した……」
 急に不安を色濃く顔に出す。
 それで、彼がほとんど誰とも会わずにここまで来た事が分かった。
「犬や猫はどうだ? 飼い主がいるもの以外にも、野良の一匹くらい見かけなかったのか?」
「あ……」
「俺は、ここにいた」
 それが、駄目押しだった。
 団員は再び、周囲を見回す。今度は落ち着かない様子で、何度も何度もきょろきょろと。
「どうなってるんだ? 確かに、人がいない。いや、それだけじゃない。犬も猫も見かけなかった。だが、宿には人がいたし、ここに来るまで、ほとんどなかったが、確かに人とすれ違った。それなのに、ここには……」
 誰もいない。
 街が持つ、人の気配がどんどん薄れ、静寂が支配していく。
 そしてスーシャはまた、不意に思った。
 ロンシュタットが腰をかけず、立っているのは警戒しているからだと。
 それなら、また、何か悪い事が起こるのかも知れない。
 繋がり始めた神経は緊張によって一気に張り詰め、頭の中も冴え渡り始める。
 しかし、その冷たさは心地よさを吹き飛ばし、再び心臓が氷でできたように、体の熱が失われていった。

2007/12/20 20:48 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離
立金花の咲く場所(トコロ) 52/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 畑の妖精(?)
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はー、これ結構便利ねー」

 リリアは声を潜めながら、感心したようにつぶやいた。

 日が暮れてしばらくたった周囲は、畑で切り開かれているとはいえやはり山の中、
すっかり暗く静まり返っていた。
 しかしそれはあくまで「ヒト」の感覚ではそうというだけで、むしろ小動物や昆
虫といったささやかな生命達の多くは、外敵に見つかりにくい夜にこそ活動的にな
る。
 そういう意味で夜の自然とは、昼間とはまた違った命の息吹が、満ち溢れた世界
であった。
 畑荒らしをどうにかする為にこのまま畑にとどまることにした一行は、たそがれ
時に畑を見に来た村の兎人にその旨を伝えて、畑の外の茂み、つまり森の中に陣を
張って待ち伏せることにした。

 そう決めたのはいいものの、待ち伏せをスキルとして身につけているのはリック
とリリアぐらいで、アベルとラズロもそれなりに気配の消し方は身につけているも
のの、戦闘待機の状態を維持し続けたまま長時間というのは無理だった。
 気配を消すに一生懸命で、すぐに動き出せないようではせいぜい見てるだけだ。
 騎士や傭兵の偵察のスキルとしては十分だが、撃退・捕縛を臨機応変に行う待ち
伏せには足らない。
 ましてやヴァネッサはその足らないレベルすら身につけていないとなると、距離
も必要になり、ますます敵を捕らえるのは無理だろう。
 相手側からないうえに、多少能力はあっても経験も浅く、パーティとしても初ミ
ッションとなれば、メンバーを分けるのは避けたいところ。
 アカデミーの基礎課程で学んだことが身についてきたか、全員がそのことに気が
つき頭を悩ませていたところ、ヴァネッサの提案で魔法をためすことにした。
 魔法で隠れるといっても、姿を隠すような(いわゆる透明化)タイプはまだ難しい
し、ましてや他人にかけるのはかなり上級になるために今のヴァネッサにはできな
いし、幻術タイプにしてもまだまだ初級魔法使いの道を歩き出したばかりでは考え
るまでもなかった。
 他の四人も魔法の実力は体を鍛えるようにいかないことは良くわかっているので、
ヴァネッサの魔法には、言い方は悪いがはじめから期待していなかった。(誤解の無
いように付け加えておくなら、独学で初級レベルとはいえ魔法を取得したヴァネッサ
の才能は十分過ぎるぐらいで、あくまでまだ経験地が足らないという事なのだ)

 そんなヴァネッサの提案とは、隠れ方自体はリックのレンジャー(というかシー
フ?)のやり方で、それを初級魔法の「隠れんぼ」で強化するというものだった。
 「隠れんぼ」は気配を消すのではなく、周囲の自然の気配と同化してまぎれさせ
る魔法で、無機質な人工建造物の中では使えないうえ、あくまで気配をごまかすだ
けで、視覚的に花にも作用しないため、ある程度レベルがあがると使われなくなる
のだが、効果は個人対象でなく範囲指定だし、精霊の力を借りるので魔力消費も少
なくてすむ――つまり疲れにくいため長時間の使用も比較的楽という長所もある。
 今回のようにパーティでおぎない合える場合は利用価値の高い魔法で、実技だけ
でなく座学もまじめに受けているヴァネッサは、自分にできることについてはちゃ
んと応用まで考えられるようになっていたのだった。

 リックがアベルとラズロとともに場所を選び、草木をととのえて5人が潜める場
所を作った。
 その上でヴァネッサが慎重に魔法をかけて全員でいつでも飛び出せる体制で待機
していた。
 それぞれが初めての事に多少の緊張を伴いながら様子を伺っていたわけだったが、
それぞれ納得の効果が出ているようだった。

「中にいるからわかりにくいけど、確かに気配がまぎれているみたいね」

 リリアは声を潜めたりなるべく動きを抑えたりしているものの、特別な集中や緊
張をしていない自分達の周りで、昆虫や小動物が警戒もせずに普通にいる状況に感
心していた。

「たしかにな、この程度の声なら気づいたとしても、動物やむしの鳴き声と変わら
 ないように知覚されてるみたいだな。」

 ラズロも手を伸ばせば届きそうな距離を、栗鼠かなにかの小動物が横切るのを視
界に捕らえながら確認するようにささやいた。
 同意するように頷いたアベルだったが、畑と森の境界、予測侵入経路のほうを目
を凝らすようにして顔をしかめた。

「効果はあるみてーだけど、火が使えないとさすがにみづらいな」

 ある程度の夜目は利くが、敵の正体は依然として不明だ。
 どんな些細な異変も見過ごさないと言い切るには、明るいとは言いがたい今宵の
月明かりでは心もと無かった。
 畑に入って現場を押さえてから動くことになるとはいえ、できるだけ早いうちか
ら様子がわかれば対応も整えやすい。
 
「ふっふーん、私がいるから大丈夫!」

 そういって振り返ったリリアの瞳は猫のように縦に収束し、金色に光っていた。

「……私は猫だからね」

 いつ模様に陽気な声色。
 なのにどこか不安を感じさせる緊張感を漂わせながら、リリアが言った。
 リックもなぜか固唾を呑むようにして様子を見ている。

「……へー、夜目が利くのか」
「……ではまかせよう」

 アベルもラズロも普通に頷いた。
 アカデミーにきてから、眷属ではない獣人、ライカンスロープとよばれる種族が
いることを知ったし、眷族に比べれば半人と呼ばれるように圧倒的に自分達に近い
姿で、混血すらあるとなれば、リリアが「猫」を告白したところで、見た目からし
て眷属ではないし、アベル、ヴァネッサ、ラズロの三人からしたら「ああ、獣人か
ぁ」ぐらいの事で、リリアがそれを言うだけでなぜ緊張しているのかはさっぱりわ
からなかった。
 当然、リリアとリックが安堵したように笑顔を向け合っているのを見ても「な
に?」
というのが正直なところだった。
 
「リリア?」

 なぜだかその笑顔がヴァネッサには泣き出しそうに見えてきにかかった。
 リリアはなんでもない、と首を振ると暗闇を見据えるように奥に向き直った。

「ねえ、この仕事が終わってゆっくりできるときにさ、みんなに聞いてほしいこと
 があるんだけど、いいかな?」

「うん、いいけど?」

 ヴァネッサはよくわからないまま返事をした。
 アベルたちもふしぎそうな顔をしているが、リックの顔を見る限り、そんなに悪
いことではなさそうだった。

 そのあとはなんとなくみんな黙ったまま(待ち伏せだからあたりまえといえばそ
のとおりではあったが)しばらく時が過ぎた。

「……きたよ、三人?」

 ふいに、小さいながらいつもとは違う硬い声でリリアが囁いた。

「なんだか小柄な……、あれは……コボルド?」

 目を細めて闇にうごめく影を捕らえながらリリアが呟く。

「! もう一人、後ろに人間らしいのがいるよ。コボルド3に人間1。 全員レザー
アーマーにショートソード、弓とか他に目立つ装備はなし」

 手馴れた様子で情報を出すリリアに、近くに浮かんでいた妖精が感心したように
いった。

『へえ、ほんとに冒険者みたいだ』

「……いたのかよ」

 ことばはわからないものの、すっかりその存在をわすれいたアベルの呟きに、実
は全員が心の中で頷いていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2008/01/06 20:56 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
星への距離15/スーシャ(周防松)
PC:スーシャ  ロンシュタット
NPC:バルデラス 自警団員
場所:セーラムの街

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

スーシャは、おどおどしながら周囲を見た。

――自分達以外、誰もいない。

人間はおろか、残飯をあさる野良猫や野良犬も、いない。
いつもなら、とっくに出歩いているはずなのに。

生活している匂いが、今日は極端に感じられない。

――それが、どんなに不気味なことか、スーシャは痛いほど理解した。

「この町に、今何が起きているんだ? 昨日は仕立て屋の家族が殺されていたし、今
朝は医者夫婦が殺されていた……」

危険な状況を察したらしい団員は、辺りの様子を警戒しながら呟く。
その横顔に隙はなく、それなりに場数を踏んできた経験を物語っていた。

ただし、今彼が直面しているのは未経験の恐怖だが。

「まさか、今度は神隠しでも起きてるっていうのか?」
「違う」
「何でそう言い切れる?」

ロンシユタットは答える代わりに、団員の後方にある建物の屋根に目をやる。

「お出ましだ」
「何?」

いぶかしげに団員が振り向こうとした瞬間――大きな影が彼めがけて降ってきた。

途端、スーシャのすぐ近くで衝撃音が轟いた。

「きゃあっ」

スーシャは思わず目を覆った。
団員が、ベンチを突き破って近くの壁に叩き付けられていたからだ。

降ってきた影にはじき飛ばされたのだと理解するまでには、多少の時間がかかった。

「ぐ……あっ……」

団員のかすかな声に恐々と目から手をどけてみると、彼はずるずると壁に寄りかかろ
うとしているところだった。
即死は免れたが、かなりの重傷である。
体のあちこちから赤い液体がしみ出し、地面にしたたり落ちる。
「し、しっかりして下さい……」
おずおずと近寄って声をかけたが、返事をする気力はないらしく、目を閉じたまま
だ。
嫌な呼吸音が、のどの奥から聞こえている。

――このままでは、死んでしまう。

スーシャは、緊張した顔付きで手を握りしめた。

――今、自分にできる事は。

スーシャは、覚悟したように深呼吸をすると、団員の体にそっと指先をかざした。



ロンシュタットは身軽な動作でソレの動きを交わし、バルデラスを掴み取った。

すぐ背後に迫っていたソレに、振り向くことなくバルデラスを突き刺す。

背後で、おぞましい絶叫が上がった。


降り立ったソレは、絶叫の主にふさわしい、おぞましい姿をしていた。

かろうじて人間と呼べそうな形態だが、目はぎょろりとしていて瞳孔がなく、巨大な
口からは鋭い牙がのぞく様は、間違いなく人間以外の生き物――魔物のそれだった。
嫌な臭いのする体液が、傷口からあふれている。

ロンシュタットは顔色一つ変えず、バルデラスを持ち直す。

体勢を整えるためか、ソレは飛び退き、ロンシュタットと距離を置く。

「あ~っ、くっせぇなコイツ! ロン、後で責任持って俺様を洗えよ。臭いが取れな
くなったらお前のせいだからな!」

嫌そうな口調でバルデラスがぼやいた瞬間、ソレは高く飛び跳ねて襲いかかってき
た。



「う……?」

激痛のただ中にいた団員は、突然痛みが消えたのを感じ、目を開けた。
「お!?」
痛みが消えただけではなく、体が自由に動くことを知り、団員はさらに驚く。
「俺……無事だったのか?」
信じられない思いで、唖然と体のあちこちを確認するが、かすり傷一つ負っていな
かった。
「大丈夫……ですか?」
ハッとして顔を上げると、スーシャが弱々しい笑みを浮かべていた。

「すごいですね……あんなにひどくぶつかったから、死んじゃうんじゃないか、って
思ったんですけど……ケガ一つしてない、なんて……」

「あ、ああ……?」

今一つ釈然としないながら、団員は頷いたのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2008/01/11 17:27 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離

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