忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/10/27 21:15 |
浅葱の杖22/トノヤ(アキョウ)
キャスト:トノヤ・ファング
NPC:ワッチ・月見
場所:ヴァルカン/古い屋敷敷地内
___________________

「おや、ずいぶんと元気なノックですね。いらっしゃいませ、お客人。私は当屋敷の
執事、セバスと申します。お待ちしておりました。さ、どうぞ中へお入りください」

「………………え、ええええ!?」

ワッチの投げた岩によって大穴の開いた扉の向こうから出て来たのは、セバスと名乗
るやたら背の高い、品の良さそうな温和な初老の男だった。
壊れた扉を開け、腕を屋敷の奥へと示し、中へ入るよう催促している。
なかなか入ってこない四人を見て、セバスという執事は小首をかしげた。

「?どうぞ、中へお入りください。主人が奥の応接室でお待ちでございます」
「ちょ、ちょっと待って!あ、いやあの、待っていたってどういう……?というかこ
こ何処なんですか?俺たち気がついたらここにいて……」

急展開の急展開に頭がついていけず、ファングは頭に浮かんだ疑問を端からぶつけ
た。
疑問を口に出していく端からさらに疑問が浮かび、もう何がわからないのかすらわか
らなくなってきた。
ワッチは岩を投げた体制のまま固まっているし、トノヤは考える事をはじめから諦め
ているのか欠伸をしながらダルそうに突っ立っている。月見に至っては頭がショート
したらしくいつの間にか頭からプスプスと湯気をだして倒れている。
執事は少し困った顔をした。

「ええと、こちらはガラス職人リア様のお屋敷で、リア様の旧友であられる鍛冶屋ド
ム様から、紹介状を持った四人組がこちらに来られると連絡をいただいたので、お待
ちしておりましたのですが。人違いでありましたかな?」

人違い、と言った瞬間執事の目の色が変わった。
温和そうな雰囲気から急に、鋭く刺すようなとても素人とは思えないものに。
空気が変わりおもわず臨戦態勢になるが、ファングはハッと思い出したように荷物の
中からしわしわになった紙を出す。

「え!あ!紹介状!?これ!?ってうそぉ!ここがガラス職人の家ぇええ!?」

癖のある大胆な文字が並ぶ紹介状を確認すると、執事ははじめの温和な顔に戻った。


「ふむ、確かにドム様の紹介状ですな。なにやら色々あったようですが、まあ、詳し
い事は奥でどうぞ」

執事はニッコリ笑うと、案内いたします、と正面の扉の方へ歩き出した。

「どういうことなんだぁ~?」

ワッチは月見を小脇に抱えて、隣を歩くファングに聞いた。

「よくわかんないけど、目的地のガラス職人の家にたどり着けたってことでしょ。
もー疲れてあんまり色々考えたくない」
「そうだなぁ、さっさとリアって奴に直してもらって早く街に帰りたいね。これ以上
なにか起きる前に」
「なんかあっけねーのな」
「いやいや、道中十分いろいろあったでしょ」

そういえば二日酔いもいつのまにか直ってるな、とファングが伸びをしていたら、前
を歩いていた執事が歩くのをやめた。

「こちらが応接室でございます。どうぞ」

執事は数回ノックし、質素な扉を開けた。

____________________
PR

2007/09/06 20:49 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
Get up! 04/フェイ(ひろ)
PC: フェイ コズン
NPC: レベッカ クラッド
場所:エドランス

――――――――――――――――

 
 キゴウアヴェの討伐から帰還してさらに二日。
 傷自体は向こうの村で3日休んで直してから帰途についたので、すでに傷跡が
うっすら確認できる程度にまで回復していた。
 しかし普通の傷なら一日もあれば、傷跡も残さずに完治しているはずだった。

(やはり魔獣も上位クラスになってくると、その爪や牙も魔法の武器と考えた方
がよさそうだな)
 
 
 由緒正しい……と言うのが正しいかはわからないが、フェイは感染症や呪いで
はないれっきとした人狼の血を引く、古代種の末裔だ。
 その不死性は、鍛えられた銀の魔力でなければ、どんな傷も見る見るうちに治
してしまうと言う超回復能力によって、伝説に語られるほどのものだった。
 しかし、フェイはと過去に負った大怪我で死にかけ、そのときアカデミーの医
療技術によって体内の血のほとんどを入れ替えるという大手術を受けたおかげで、
伝説ほどの不死身の肉体はとうにうしなっていた。
 そのときに獣化能力も失ったほどだが、それでも普通の傷なら食事して一眠り
すれば大抵は完治するという人間離れした回復能力は残った。
 そして、当然弱点も引き継いだらしく、銀でなくとも魔力で負った傷は治りに
くい。
 
(それにしてもあの魔獣は良く似ていた……、奴が動き出したのか?)

 決して忘れることのできない、その目に焼きついた奴の姿を思い描きながら、
過去と現在に思いをはせていた。


 アカデミー構内に幾つも設けられた休憩室。
 修士以上しか入れない奥棟は、常に生徒やギルド関係者であふれている表棟と
違い休憩室は割とすいている。
 その実力と模範的な人格から、戦士ながら『聖騎士』と称されるエルガーと同
じ教室に所属していたが、空いた時間は1人になりたがるフェイはよく休憩室を
利用していた。

 教室とはアカデミーに認可をうけた教師資格を持つものの開けるもので、修士
を得た者たちなら字湯に参加でき、研究や活動といった主催者の目的に同調する
者たちのグループというのが近いだろうか。
 アカデミーが保有する技術や知識はここで日々うみだされていて、参加者は学
生過程では得られない技術や知識を求めて席を置くのが普通だった。

 しかしフェイは少し事情が違う。
 幼少時にアカデミーで命を救われその後も育ててもらった。
 その際養父として直接面倒を見てくれたのが、現在所属している教室の先生で
ある クラッド・ディガー であった。
 アカデミーと養父に返しきれない恩のあるフェイにとって、そのために働くと
いうのは自然なことであった。
 至上命題として復讐を掲げていても、その情報収集や経験をつむためにギルド
を利用するのにもアカデミーは都合も良く、養父が開く教室が冒険者のパーティ
を対象にした連携や戦術といった研究をしているというのも好都合だったのだ。

 そうして教室の一員となり、日々アカデミーの仕事を中心に研鑽を積んでいた
ものの、いまひとつパーティと意見が合わないフェイはつい独りでいることを好
みがちだった。

(エルガーが俺を心配してくれてるのはわかる。 だが……)

 フェイが敵と狙う「奴ら」には独りでは勝てない。
 本物の伝説の人狼、最強と信じれる戦士だった実父を打ち倒し、エドランスに
のみいる眷族という特殊な種族の中でも戦闘力の高かった狼型の村を滅ぼした。
 アカデミーの奇跡に救われたフェイは、本物の実力者が仲間と連携を取ったと
きの脅威を目の当たりにした生き証人だった。
 だからフェイは自分なりに自身の特性・戦力を考え、特攻とも言うべき単身突
撃によってできうる最大の打撃を敵に与え、その後に続く仲間の負担を減らすと
いう戦術を身に着けた。
 これはなかなかに効果を上げ、特に仲間の負傷率は劇的に減った。
 そして着実に実績を積み上げ、最近では教室内でも最高レベルと言われるエル
ガーのパーティに加わって仕事をこなしてきたのだった。
 ところが、どうもうまくいってない。
 前回も先走りすぎたかもしれないが、結果はうまく言った。
 しかし、何かがよくない。
 とはいえ、今のところうまくいってるならそれでいいのではないか、という思
いがあるのも確かだった。

(何がいけないと言うのだ)

 自分でも何か感じなくもないが、エルガーは考えが甘いのだとこじつけて納得
する。
 そう、自身のリスクを恐れていては奴らには勝てない。
 そして俺はとのリスクに耐えられる体を持っている。



「あのー、フェイさん」

 休憩室の扉から覗き込むようにして、物思いにふけるフェイに声をかけたのは、
同じ教室に参加している魔法使いの少女だった。
 まだ組んで仕事をしたこがないと言うこともあり、うろ覚えだったが、記憶底
からフェルミと言う名前を思い出した。

「えーと、先生がお呼びです。 教室ではなく、ギルドの会議室へおこしくださ
い」
「ギルドのほう? わかった。」

 養父でもある先生はどうやらエルガーと同じようなことを思ってる。
 それは会話の中から気がついていたが、そういう事情は別にして、リーダーで
あるエルガーの指示を無視した事に対して、何らかの罰がある野は当然と考えて
いたため、その内容が決まったのだろうとフェイは思った。

(罰は当然だろうが、教室でなくギルドとは?)

 少し疑問に思いつつも、行けばわかることなのですぐに席を立つ。
 フェルミに礼を言って廊下に出ると、ギルドのある表棟に向かって歩き出した。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


 ギルドの会議室というのは、ミーティングや交渉の場として利用される問いだ
けの普通の部屋だ。
 10人も入れば窮屈に感じるであろうその部屋にフェイがついたときには、先客
がいた。
 部屋には丸テーブルが1つと壁際に10脚ほどの椅子が積まれていた。
 自分でとってきたのだろう、つまれているのと同じ椅子に座り、背もたれに身
体を預けた男がきつい目つきでフェイをにらみつけていた。
 一目見て日陰者と思わせるその男は、小妖精のレベッカに連れ出されてきたコ
ズンであった。

「ちょっと! やめなさいって!」

 コズンの目の前、丸テーブルの上に座っていたレベッカが慌てたように立ち上
がって手を振りながらで言った。

「あんた何で寝てたか、もう忘れたの?」

 コズンの体感ではついさっきである昼の出来事を思い出したのか、一瞬むっと
した顔をしたものの、しぶしぶながらフェイから視線をはずした。
 その際舌打ちを忘れなかったところがらしいと言えばらしいのだが、レベッカ
はふわりと浮き上がると、コズンの赤茶けた頭を「ぺち!」と叩いた。

「コ、ズ、ン!」

 フェイはレベッカに説教されだしたコズンを視界の隅に入れながら、無言のま
ま椅子を取ると、少しはなれたところにおいて腰を下ろした。
 そうして待っていると程なくして、フェイにはみなれた先生、クラッドが入っ
てきた。

「またせたな」

 入ってくるとそのまテーブルに着き、立ったまま挨拶をした。
 フェイを見た後、慌てたように頭を下げるレベッカに頷き返す。

「レベッカ、そちらが?」
「はい、これがコズンです」

 「これ、ってなんだぁ!」と言おうとしたコズンだったが、レベッカににらま
れ、代わりに手を振って挨拶代わりとした。
 レベッカがまた怒りだしたが、コズンにすれば見知らぬおっさんに過ぎないの
だ。
 それでも挨拶の意を示したぶんだけ、気をつかってはいたのだが。

「二人に来てもらったのは、暫く組んで仕事をしてもらいたいということなのだ。」
「はぁ?」

 淡々と言ったグラッドの言葉に最初に反応したのはコズンだった。
 レベッカに何か頼みごとがあるとつれてこられたに、仕事でなく今あったばか
りの見知らぬ奴と組めときた。
 何の話だ?と疑問に思うのも当たり間だろう。

「それが今回の罰ですか?」

 フェイも疑問に思ったが、ざっとみてコズンの実力を測っていたので、足かせ
のペナルティか、となんとなく納得しかけていた。
 それと知られたエルガーのパーティにいればこそ、高難度の依頼が舞い込んで
くる、初対面だったが、贔屓目に見てもコズンの実力は初心者とは言わないにし
ても名前で仕事を取るには程遠いようにおもえた。
 しかし、罰扱いされておとなしくしてられるほど、人間のできていないコズン
は怒声で答えた。

「ああ?! すかしたツラしてなにいってんだぁ?」
「ちょ……ほんとにやばいって!」
「るっせぇ!」

 今にも席を立ってフェイ飛び掛りそうなコズンを、レベッカが小さい体で懸命
に立ちふさがるように飛び上がった。
 コズンもレベッカにうかつな暴力を振るうきはないらしく、怒鳴りつけただけ
にとどめた。

「チッ! おい、こいつの罰とやらに俺がつきあわにゃならないって事じゃない
だろうなぁ?」

 視線を変え、今度はグラッドをにらみながら不満を隠すことなくうなるように
言った。

「ふむ」

 クラッドは顔色1つ変えず落ち着いた様子でコズンに向き直った。

「フェイは……言わずともわかっているようだが、コズン、きみは思い違いをし
ている。」
「なにいって……」
「よいかな、君は今日だけではない。 何のことかはわかるな?」
「う……」
「喧嘩は……まあそれもだが、君が暴れるたびに壊してくれた備品はただではな
いのだよ」
 
 仲間と別れ独りになってからのコズンは、ギルドに顔を出しては一暴れを繰り
返していた。
 本来なら待合室はパーティを募る場所でもあったが、すぐに噛み付いてくるコ
ズンと組もうとする者は誰もいなかった。
 レベッカがなんとかツテを頼っても、今日のように台無しにしてしまう。
 ただ自分より弱いものに突っかかることがないため黙認されていたが、さすが
にギルドも我慢の限界ということだろうか。

「ただ働きで返せってことか?」
「いや、もちろん報酬は払うさ。 アカデミーがね」
「?」
「諸事情から、依頼人から報酬の見込めない仕事と言うものもある。 間に言う
と アカデミーが代理依頼するわけだが、こういう仕事はフリーの冒険者には任
せづらい」
 
 もちろんアカデミーとしてギルドに大々的に告知をして、冒険者を募ることも
あるが、今、フェイとコズンに言われてるのは、情報を拡散させたくない案件と
いうことだろう。
 遺跡とかは調査の優先権が関係してくるし、たとえば人助けだとしても、アカ
デミーは慈善団体ではないため、報酬を肩代わりしたなんて話が広まるのは非に
好ましくないのだ。

「くわしく説明するほどのこともないだろう。 君たちは私達からの依頼をこな
してくれればよいだけだ」

 そういうとテーブルの上に二枚の紙を置いた。

「これが今回の依頼だ。 言い忘れていたが二人にはレベッカが監督につく。」

 そういうとレベッカと視線を交わす。

「ふむ、委任状を忘れたようだ。 悪いがレベッカは一緒に取りに来てくれるか
な?」
「あ、はい」
「二人はレべッカが戻るまで依頼書を読んでおいてくれ」

 そういうとクラッドはレベッカを促していったん外に出た。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ 


「あれが例の子かね?」

 扉を少しはなれたぐらいでクラッドはレベッカに話しかけた。

「日の出の魔術師が後輩を育てていたなんて、しらなかったよ」
「そんな、育てるってほどでないですよ。 ただ、なんとなくほっとけなくて」

 レベッカは後ろに遠ざかる扉を心配そうに振り返った。

「すいません、なんだか厄介なこと頼んだみたいで」
「いや、どちらかと言うと、こちらの方が厄介かけるかもしれんのだ」
「え、そんなことないですよ」

 クラッドのセリフを気遣いにとったのか、レベッカは首を振って答えた。


―――――――――――――――

2007/09/06 20:56 | Comments(0) | TrackBack() | ○Get up!!
ファブリーズ  20/ジュリア(小林悠輝)
キャスト:ジュリア アーサー
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
--------------------------------------------------------------------------


「私はこのダウニーの森に猛獣を閉じ込めることに成功したけれど、その状態を保ち続
けるためには私自身もモルフに留まらなければならなかった――この地は魔法に馴染み
がない。魔女は町に住めない。だから私はこの森で生きていくことを選んだの」

 老木は溜め息をついたようだったが、ジュリアはその仕草に何の感慨も抱かなかった。

 不完全な封印をしたのが悪い。
 不死かそれに近いものを得るような魔法使いならば、大抵の魔獣や悪魔を容易く捻じ
伏せることができように。

「昼なお暗いこの森は、静かで孤独な場所だった。
 私は動物と話す術は身につけていたけれど、彼らと人間では価値観よりももっと根本
的な前提が違う。意思のやりとりは不毛でしかなかったし、そうでないように飼いなら
すつもりもなかった。
 だって調教なんてしたら、嫌がる声をまともに聞いてしまうじゃない――」

 二度目の溜め息。嘆きではない別の感情。

「でも、そんな孤独の日々にも終わりが訪れた。
 ひとりの少女が、私の家に現れた。人間だった私の背はそれほど高くなかったけれど、
その半分より小さな、まだほんの子供だったあの子は、私の家の扉を叩いて、“おかあ
さんとはぐれちゃったの”と言ったのよ」

 自称騎士が何か言いたそうに口を開いて、テイラックにとめられた。

「土に汚れた服を着て、靴も履いていなかった。
 私は――迎え入れて。そして、二人で暮らし始めた。
 あの子は自分が親に捨てられたのだということにさえ気づいていなかった」

 この長話に何らかの価値を見出すかどうか。
 ジュリアは無駄だと思い初めていた。


 物語の結末はもう見えている。
 きっと魔女は捨てられた子どもの救済だとかそういったことに使命感を覚え、ずっと
ずっとくり返し続けたのだろう。そしていつしか子を浚い、獣に変えるようになった。

 どうしてそう歪んだのかは知らない。正統な理由があったのかもわからない。
 しかし、理解すべき一点は、“彼女は心からの善意で行っている”ということだけだ。


      ☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆


「――哀れな子ども達を、放っておいていいはずがない。
 ねぇ、そうでしょう?」

 魔女の語りは締め括られた。
 沈黙が降りる。肯定の返事をしてはならないが、否定もし辛い嫌な問い。

「放っておけばいい」と答えること自体に良心の呵責は一切ない。
 しかしその言葉を発した後に起こるかも知れない面倒は避けるべきだった。


「猛獣とは何だ」

「こわぁい猛獣よ。実在するとは思えない、まるで物語の魔物のような」

 話を逸らすべく問うと、魔女は相変わらず愛想よく答えてきた。
 老木に刻まれた顔は表情豊かなようでいて、穏やかな正の感情しか見せない。

「鋭い牙と、大きな翼の猛獣よ。
 毛並みはまるで狼のよう。瞳は針のように細く、どんな闇でも見通す。
 とても大きく、力が強く、挑んだ戦士たちは一飲みにされるか、それとも爪で切り裂
かれるかしてしまったわ」

「……」

「そうね。私の国ではその黒い獣のことを、竜と呼んでいたわ」

 ジュリアは「そんなものがいるはずがない」と反射的に言いかけ、喉元で飲み込んだ。
 魔女は微笑んでいる。もう日付は変わったに違いない。こんな時刻まで付き合うつも
りはなかったのに。


-----------------------------------------------------------

2007/09/06 20:59 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ
星への距離 7/スーシャ(周防松)
PC:スーシャ  ロンシュタット
NPC:バルデラス 自警団団長 団員
場所:セーラムの街
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この街に来てから、誰かに「助けて」と声に出して伝えたことは、なかった。
クーロンで過ごしていた頃に、痛いほど学んだから。

助けを求めたところで、無駄だ。
誰もアテにならない。
助けてなんてくれない。
何の役にも立ちはしない、同情やなぐさめを投げ与えるのが関の山。
助けてくれる段階まで、他人の事情に踏みこんでくれる人間なんて、いやしない。

恨みはしない。
腹を立てることもしない。
誰だって、いざこざには巻き込まれたくないのだから。

それなら、どうするか。
わかりきったことだ。
自分で、どうにかするしかない。
逃げるなり耐えるなり勇気を出して追い払うなり、自分で決断して実行するのみ。
自分一人で頑張るしかない。

……それじゃあ。
自分は、あの青年に、何を求めたのだろう?
あの時かすかに震えた唇は、何を言おうとしたのだろう?

――「助けて」……?




団長や団員に連れられ、スーシャは自警団の詰め所にやってきた。
元々は農作業の道具を保管していた粗末な小屋だが、自警団を組織するにあたって、
もう少し大きめの小屋に改築したものである。
雨をしのぐため、フードのついたマントを着せられたが、宿屋の主人にタオルでふい
てもらった髪が、また湿っぽくなっている。
おまけに、生乾きの服が肌にはりつき、心地悪い。

詰め所に入るなり、団長は木製のテーブルへスタスタ歩いて行き、椅子に腰掛けた。

「座りなさい」

椅子をすすめられ、スーシャは腰掛ける。
クッションなんてものはない、固い椅子。
テーブルを挟んで向かい合う、がっしりした体つきの団長は、椅子に腰掛けてなお、
見上げねばならなかった。
緊張した面持ちで見上げていると、団長は安心させるかのようにして微笑んでみせ
た。
「長くはかからない。そんなに怖がることはないよ」
そうは言われても、この居心地の悪さはどうしようもない。
「事件について、今わかっていることを話そう」
スーシャは、こくり、とぎこちなく頷いた。


団長の話によると、以下のようなことだった。

団長を探して宿屋に飛び込んできたあの農夫。
実は、別の街に住んでいる姪っ子が結婚するということで、それに見合った服を仕立
ててもらおうと仕立て屋に行ったのだという。
農夫は、一般庶民の結婚だから、当初はよそ行きとして取ってある服を着ていけば大
丈夫と考えていたらしい。
しかし、詳しい話を聞いて農夫は驚いた。
何をどう間違えたのか、農夫の姪っ子は玉の輿に乗ったのだという。
本人や家族にとっては「おめでたい話」だが、式に呼ばれる親戚としてはたまらな
い。
いつものように気楽な結婚式というわけにもいかず、取りあえず着て行く物だけでも
上等に、と考えたらしい。
一階の店舗には誰もおらず、戸口で何度も大声で呼びかけたが返答がなかったため、
農夫は仕方なく店の奥へと足を踏み入れたのだという。

「農夫の話によると、三人は……めちゃくちゃなやり方で殺されていたそうだ。刃物
で斬られた跡も、殴られた跡も、力任せに引き裂かれたような跡も……二目と見られ
ない有り様だそうだ。死体の一部がなくなっている、という話もあった」

年端もゆかぬ少女に対して、団長は配慮もへったくれもない説明をする。
あるいは、変に気を使うべきではない、と思っているのかもしれない。

と、団長がずいっと前にのめり出して来る。
スーシャは、反射的に身を引いた。

「ところで、ここ最近、家族の誰かがトラブルにあっていた、ということはあるかい
?」
「……わかりません」
スーシャは、暗い表情と声とで答えた。
自分とあの人達は、そんな情報を共有するほど親密ではなかった。
「家の近くで妙な人を見たとか、店に妙な客が来たとか、そういうことは?」
「……ない、と思います」
家事と家族関係に神経をすり減らしている彼女に、のんべんだらりと周囲を見まわす
余裕などない。
「そうか」
団長が、椅子を引いて立ち上がる。

「……ああ、そうだ」
不意に思い出したように、団長はスーシャを見、そして座りなおす。
団長につられて立ち上がりかけたスーシャは、慌てて椅子に腰掛けた。

「君は、確かお使いに出ていたんだったね。何の用事だったんだ?」

尋ねられてスーシャは困った。
あれは、とっさについた嘘だ。
何の用事かなんて、そんなところまで考えていない。
「あ、あの……」
言うべきだろうか、本当のことを。
養母の仕打ちに深く傷ついて、泣きながら街へ飛び出したことを。
……あまり、言いたくない。

「ああ、無理に言わなくてもいい。個人的にちょっと気になっただけだ」

言うべきかを真剣に悩むスーシャに気遣わしげな声で言うと、団長は今度こそ椅子か
ら立ち上がった。

「今日のところは、聞きたいことはそれだけだよ。ありがとう。それじゃあ、宿まで
団員の誰かに送らせよう」
「いえ、そんな、悪いです」
スーシャがおろおろしていると、団長は「いいから」と制した。
「こんな夜中に、女の子の独り歩きは感心しないな。おまけに雨も降っている。犯人
もまだ見つかっていないんだから、危険だよ。送られておいた方が良い」
団長はそう言うと、団員の一人を呼び、「宿まで送ってやれ」と告げた。
「よ、よろしくお願いします」
「そんなに堅苦しくなるこたぁないよ。行こう」
団員に連れられ、スーシャは再び外に出る。

――雨は、ほんの少し、小降りになっていた。


スーシャが去った後、団長は再び椅子に腰かけ、テーブルに片肘をつく。

「団長、ずいぶん簡単な取り調べでしたけど、あれでいいんですか?」

奥のスペースで書類をまとめていた若い団員が、声をかけてくる。

「ああ。情報としては期待していないよ」
団員は、きょとんとした表情でまばたきをした。
「団長、もしかして犯人のめぼしがついてるんですか?」
その言葉に、団長は軽く頭を振る。
「実行犯については断定できないが……スーシャが関わっていると見て間違いない
と思う」
「……まさか、スーシャが殺したって言うんですか!?」
思わず、といった具合で声が大きくなる。
その拍子に持っていた書類の束を落とし、ばさばさと床の上に散らしてしまった。
「それはないな。彼女はまだ十二歳だろう? おまけにあんなに小柄で細い。頑張れ
ば一人ぐらい殺せるかもしれないが、三人も殺すのは容易じゃないだろう」
「じゃあ……」

あたふたと書類を拾い集めながら、団員は考える。
団長は一体何を言いたいのだろう、と。

「俺はな、スーシャとは別に実行犯がいるとにらんでいるんだ」
「まさか。あんな大人しい子が人殺しの計画を……そうは思えませんけど」
団員の言葉に、団長は否定の意味をこめて手をひらひらと振る。
「大人しいとは言ってもな、事情が事情だろう。お前だって知っているはずだ。あの
子は家の中で随分冷遇されていたというじゃないか。その恨みが募って、爆発したの
かもしれない」

そう言いながら、団長は膝を打った。

「そうだ。殺し屋のようなものを雇ったのかもしれない。幼女趣味の奴なら、体で支
払えば事足りるからな」

あんた、自分が何を言ってるのか、わかってるのか――。

団員は、拾い集めた書類を握りしめる。
しかし、声に出して言う事はしない。
仮にも相手は団長で、自分は団員。
閉鎖的な田舎の街では、とにかく「長」とつく者に立てついてはいけない。
祖父母や父母から言われ続け、染みこんだ意識がそうさせるのだ。

若者特有のまっすぐさや潔癖なまでの良心は、この環境では歓迎されない。

「やったという証拠はない。だが、やっていないという証拠もない」

団員は、せめてものウサ晴らしにと、拾い集めた書類を放るようにして机の上に置い
た。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2007/09/06 21:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離
シベルファミト 27/ベアトリーチェ(熊猫)
第二十七話 『涙のない別れ』

キャスト:ルフト・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ウォーネル=スマン・イン
場所:ムーラン→ウォーネル=スマン邸
――――――――――――――――

視界を遮る煙幕に捲かれ、ベアトリーチェは盛大に
咳き込みながら転げるように部屋を出た。
もちろんベッドに置いた自分の武器は忘れない。

即座に扉を閉じ、廊下の窓を開けて首を出す。
砂が入るのを防ぐためだろう、窓は思ったほど広くは
開かなかったが、それでも風を感じることはできた。

新鮮な空気をたっぷり吸って一息ついてから、

「あの女…!今度会ったらブン殴ってやるっ」

と怨嗟の混じった声でうめく。
さらに文句を言い募ろうとしたとき、地鳴りと共に
屋敷全体が振動した。

思わず上を見上げる。下がっているシャンデリアが、振り子のように
軋みながらゆっくりと揺れていた。

(あーあ。ここぞとばかりに派手にやっちゃって…)

胸中で呟き、吐息を漏らす――
適当にあたりをつけて歩き出す。使用人の姿は見えないが、おそらくこの
騒ぎで借り出されているか、避難しているかのどちらかだろう。
もっともそのほうがこちらにとっては好都合だ。
まさか白昼堂々、泥棒じみた真似をすることになるとは思っていなかったが。

ベアトリーチェがいるのは屋敷の離れである。
連れてこられた時に見ていたのだが、どうやら屋敷とは一本の通路で
繋がっているらしい。
だとすれば、それを使えば少なくとも外の警邏には気付かれることなく
屋敷に向かえるわけだ。

分厚い絨毯の上では靴音は吸収される。もっとも、今着ているムーランの
民族衣装の装飾は隠密には向かないが。

手に持ったソウルシューターの後方に手を突っ込み、中の取っ手をひねる。
錠が外れるような音。そのまま取っ手を引っ張ると、内蔵されていた
鉄の鉤爪が姿を現した。
ベルトに通したソウルシューターはいったん背中に回し、鉤爪を右手に
装備したままで、ベアトリーチェは屋敷の中を駆け抜けた。

・・・★・・・

「あったりー♪こんなベタなのなんで見つけらんないのかしら」

絵画の裏から現れた格納庫から、壮麗な装飾が施された花器を取り出す。

「これは…たぶん『ファンデルファーレの涙壷』ってやつかしらね」

光の加減によって色を変える美しい工芸品を窓の光に透かしながら、
ひとり呟く。装備した鉄鉤で傷つけないように、頭に被っていた
薄絹のショールでくるんで腰にしっかり結びつけてから歩き出す。

(犬と魚の戦闘を陽動にして、頼まれた品を探す。それを全部あの
うさんくさい暗殺者とやらに渡して、おたから持って一人でとんずら。
あとに残るのは犬と魚と暗殺者だけ!)

「完璧なプランじゃない」

一人呟いて、笑みを浮かべる。と、曲がり角にさしかかった。一応
壁に張り付いて、誰もいない事を確かめてから進む。
前方に扉があった。横手の窓の景色から想像するに、どうやら
この先が屋敷へと繋がる通路らしい。

ぱっと扉にとびついて、耳を押し当てる。しかしいまだ勢いを
失わない戦闘によって生じる地鳴りや、破砕音が邪魔をして
よくわからない。結局、いちかばちかドアを開けることにした。

胸中でカウントして、勢い良く扉を開けて転がり込む。
その勢いで鉤爪を前方に突き出し――たものの、そこには広い
通路が広がっているだけで誰もいなかった。

が。

だだだだだ、と重い足音が響いてきたかと思うと、屋敷へと続く
扉がばん、と開いて一人の男が転がるように入ってきた。
男は豪奢な身なりをしていたものの、それに準ずる気品はなく、
ただ膨れ上がった巨体を汗で濡らしながらこちらに走ってくる。
どう考えても相手の視界のまん前に自分はいるのだが、それには
全くといっていいほど興味を示さず、ベアトリーチェの横を通り過ぎて
そのまま遠ざかっていった。

「…なんなの」
「あいつがウォーネルだよ」

突然の答えにびくりとして振り返ると、今しがた男が開け放った扉の
枠に寄りかかったインがいた。指には鍵の束をひっかけて、それを
くるくる回して音をたてている。

「びっ…くりするじゃない。なんなの?どうしたの?」
「俺にもわからん。とにかく野菜が食べたいらしい」
「は?」
「厨房の野菜全部食ったあげくまだ足りないとか言ってよ。
仕方ないんで外の"野菜"を食べに行ったってわけだ」

いぶかしげな顔でつかみどころのない話を聞く。インは退屈そうに
こちらに歩いてくると、ベアトリーチェの前で立ち止まった。

「…それよりどうだ?頼んだものは見つかりそうか」
「いくつか見つけたわ。どうしようもなく簡単な場所にあったわよ」
「隠す奴が馬鹿だからな。まぁその調子で頑張ってくれや」

じゃらじゃらと鍵が鳴る音が通路に響く。インはそのまま通り過ぎると、
男を追って歩いていった。

「…なんなのよ。どいつもこいつも!」

怒りに任せて手近な壁を蹴ってから、彼女は大股で歩き出した。

――――――――――――――――

2007/09/12 00:27 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト

<<前のページ | HOME | 次のページ>>
忍者ブログ[PR]