PC: フェイ コズン
NPC: レベッカ クラッド
場所:エドランス
――――――――――――――――
キゴウアヴェの討伐から帰還してさらに二日。
傷自体は向こうの村で3日休んで直してから帰途についたので、すでに傷跡が
うっすら確認できる程度にまで回復していた。
しかし普通の傷なら一日もあれば、傷跡も残さずに完治しているはずだった。
(やはり魔獣も上位クラスになってくると、その爪や牙も魔法の武器と考えた方
がよさそうだな)
由緒正しい……と言うのが正しいかはわからないが、フェイは感染症や呪いで
はないれっきとした人狼の血を引く、古代種の末裔だ。
その不死性は、鍛えられた銀の魔力でなければ、どんな傷も見る見るうちに治
してしまうと言う超回復能力によって、伝説に語られるほどのものだった。
しかし、フェイはと過去に負った大怪我で死にかけ、そのときアカデミーの医
療技術によって体内の血のほとんどを入れ替えるという大手術を受けたおかげで、
伝説ほどの不死身の肉体はとうにうしなっていた。
そのときに獣化能力も失ったほどだが、それでも普通の傷なら食事して一眠り
すれば大抵は完治するという人間離れした回復能力は残った。
そして、当然弱点も引き継いだらしく、銀でなくとも魔力で負った傷は治りに
くい。
(それにしてもあの魔獣は良く似ていた……、奴が動き出したのか?)
決して忘れることのできない、その目に焼きついた奴の姿を思い描きながら、
過去と現在に思いをはせていた。
アカデミー構内に幾つも設けられた休憩室。
修士以上しか入れない奥棟は、常に生徒やギルド関係者であふれている表棟と
違い休憩室は割とすいている。
その実力と模範的な人格から、戦士ながら『聖騎士』と称されるエルガーと同
じ教室に所属していたが、空いた時間は1人になりたがるフェイはよく休憩室を
利用していた。
教室とはアカデミーに認可をうけた教師資格を持つものの開けるもので、修士
を得た者たちなら字湯に参加でき、研究や活動といった主催者の目的に同調する
者たちのグループというのが近いだろうか。
アカデミーが保有する技術や知識はここで日々うみだされていて、参加者は学
生過程では得られない技術や知識を求めて席を置くのが普通だった。
しかしフェイは少し事情が違う。
幼少時にアカデミーで命を救われその後も育ててもらった。
その際養父として直接面倒を見てくれたのが、現在所属している教室の先生で
ある クラッド・ディガー であった。
アカデミーと養父に返しきれない恩のあるフェイにとって、そのために働くと
いうのは自然なことであった。
至上命題として復讐を掲げていても、その情報収集や経験をつむためにギルド
を利用するのにもアカデミーは都合も良く、養父が開く教室が冒険者のパーティ
を対象にした連携や戦術といった研究をしているというのも好都合だったのだ。
そうして教室の一員となり、日々アカデミーの仕事を中心に研鑽を積んでいた
ものの、いまひとつパーティと意見が合わないフェイはつい独りでいることを好
みがちだった。
(エルガーが俺を心配してくれてるのはわかる。 だが……)
フェイが敵と狙う「奴ら」には独りでは勝てない。
本物の伝説の人狼、最強と信じれる戦士だった実父を打ち倒し、エドランスに
のみいる眷族という特殊な種族の中でも戦闘力の高かった狼型の村を滅ぼした。
アカデミーの奇跡に救われたフェイは、本物の実力者が仲間と連携を取ったと
きの脅威を目の当たりにした生き証人だった。
だからフェイは自分なりに自身の特性・戦力を考え、特攻とも言うべき単身突
撃によってできうる最大の打撃を敵に与え、その後に続く仲間の負担を減らすと
いう戦術を身に着けた。
これはなかなかに効果を上げ、特に仲間の負傷率は劇的に減った。
そして着実に実績を積み上げ、最近では教室内でも最高レベルと言われるエル
ガーのパーティに加わって仕事をこなしてきたのだった。
ところが、どうもうまくいってない。
前回も先走りすぎたかもしれないが、結果はうまく言った。
しかし、何かがよくない。
とはいえ、今のところうまくいってるならそれでいいのではないか、という思
いがあるのも確かだった。
(何がいけないと言うのだ)
自分でも何か感じなくもないが、エルガーは考えが甘いのだとこじつけて納得
する。
そう、自身のリスクを恐れていては奴らには勝てない。
そして俺はとのリスクに耐えられる体を持っている。
「あのー、フェイさん」
休憩室の扉から覗き込むようにして、物思いにふけるフェイに声をかけたのは、
同じ教室に参加している魔法使いの少女だった。
まだ組んで仕事をしたこがないと言うこともあり、うろ覚えだったが、記憶底
からフェルミと言う名前を思い出した。
「えーと、先生がお呼びです。 教室ではなく、ギルドの会議室へおこしくださ
い」
「ギルドのほう? わかった。」
養父でもある先生はどうやらエルガーと同じようなことを思ってる。
それは会話の中から気がついていたが、そういう事情は別にして、リーダーで
あるエルガーの指示を無視した事に対して、何らかの罰がある野は当然と考えて
いたため、その内容が決まったのだろうとフェイは思った。
(罰は当然だろうが、教室でなくギルドとは?)
少し疑問に思いつつも、行けばわかることなのですぐに席を立つ。
フェルミに礼を言って廊下に出ると、ギルドのある表棟に向かって歩き出した。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
ギルドの会議室というのは、ミーティングや交渉の場として利用される問いだ
けの普通の部屋だ。
10人も入れば窮屈に感じるであろうその部屋にフェイがついたときには、先客
がいた。
部屋には丸テーブルが1つと壁際に10脚ほどの椅子が積まれていた。
自分でとってきたのだろう、つまれているのと同じ椅子に座り、背もたれに身
体を預けた男がきつい目つきでフェイをにらみつけていた。
一目見て日陰者と思わせるその男は、小妖精のレベッカに連れ出されてきたコ
ズンであった。
「ちょっと! やめなさいって!」
コズンの目の前、丸テーブルの上に座っていたレベッカが慌てたように立ち上
がって手を振りながらで言った。
「あんた何で寝てたか、もう忘れたの?」
コズンの体感ではついさっきである昼の出来事を思い出したのか、一瞬むっと
した顔をしたものの、しぶしぶながらフェイから視線をはずした。
その際舌打ちを忘れなかったところがらしいと言えばらしいのだが、レベッカ
はふわりと浮き上がると、コズンの赤茶けた頭を「ぺち!」と叩いた。
「コ、ズ、ン!」
フェイはレベッカに説教されだしたコズンを視界の隅に入れながら、無言のま
ま椅子を取ると、少しはなれたところにおいて腰を下ろした。
そうして待っていると程なくして、フェイにはみなれた先生、クラッドが入っ
てきた。
「またせたな」
入ってくるとそのまテーブルに着き、立ったまま挨拶をした。
フェイを見た後、慌てたように頭を下げるレベッカに頷き返す。
「レベッカ、そちらが?」
「はい、これがコズンです」
「これ、ってなんだぁ!」と言おうとしたコズンだったが、レベッカににらま
れ、代わりに手を振って挨拶代わりとした。
レベッカがまた怒りだしたが、コズンにすれば見知らぬおっさんに過ぎないの
だ。
それでも挨拶の意を示したぶんだけ、気をつかってはいたのだが。
「二人に来てもらったのは、暫く組んで仕事をしてもらいたいということなのだ。」
「はぁ?」
淡々と言ったグラッドの言葉に最初に反応したのはコズンだった。
レベッカに何か頼みごとがあるとつれてこられたに、仕事でなく今あったばか
りの見知らぬ奴と組めときた。
何の話だ?と疑問に思うのも当たり間だろう。
「それが今回の罰ですか?」
フェイも疑問に思ったが、ざっとみてコズンの実力を測っていたので、足かせ
のペナルティか、となんとなく納得しかけていた。
それと知られたエルガーのパーティにいればこそ、高難度の依頼が舞い込んで
くる、初対面だったが、贔屓目に見てもコズンの実力は初心者とは言わないにし
ても名前で仕事を取るには程遠いようにおもえた。
しかし、罰扱いされておとなしくしてられるほど、人間のできていないコズン
は怒声で答えた。
「ああ?! すかしたツラしてなにいってんだぁ?」
「ちょ……ほんとにやばいって!」
「るっせぇ!」
今にも席を立ってフェイ飛び掛りそうなコズンを、レベッカが小さい体で懸命
に立ちふさがるように飛び上がった。
コズンもレベッカにうかつな暴力を振るうきはないらしく、怒鳴りつけただけ
にとどめた。
「チッ! おい、こいつの罰とやらに俺がつきあわにゃならないって事じゃない
だろうなぁ?」
視線を変え、今度はグラッドをにらみながら不満を隠すことなくうなるように
言った。
「ふむ」
クラッドは顔色1つ変えず落ち着いた様子でコズンに向き直った。
「フェイは……言わずともわかっているようだが、コズン、きみは思い違いをし
ている。」
「なにいって……」
「よいかな、君は今日だけではない。 何のことかはわかるな?」
「う……」
「喧嘩は……まあそれもだが、君が暴れるたびに壊してくれた備品はただではな
いのだよ」
仲間と別れ独りになってからのコズンは、ギルドに顔を出しては一暴れを繰り
返していた。
本来なら待合室はパーティを募る場所でもあったが、すぐに噛み付いてくるコ
ズンと組もうとする者は誰もいなかった。
レベッカがなんとかツテを頼っても、今日のように台無しにしてしまう。
ただ自分より弱いものに突っかかることがないため黙認されていたが、さすが
にギルドも我慢の限界ということだろうか。
「ただ働きで返せってことか?」
「いや、もちろん報酬は払うさ。 アカデミーがね」
「?」
「諸事情から、依頼人から報酬の見込めない仕事と言うものもある。 間に言う
と アカデミーが代理依頼するわけだが、こういう仕事はフリーの冒険者には任
せづらい」
もちろんアカデミーとしてギルドに大々的に告知をして、冒険者を募ることも
あるが、今、フェイとコズンに言われてるのは、情報を拡散させたくない案件と
いうことだろう。
遺跡とかは調査の優先権が関係してくるし、たとえば人助けだとしても、アカ
デミーは慈善団体ではないため、報酬を肩代わりしたなんて話が広まるのは非に
好ましくないのだ。
「くわしく説明するほどのこともないだろう。 君たちは私達からの依頼をこな
してくれればよいだけだ」
そういうとテーブルの上に二枚の紙を置いた。
「これが今回の依頼だ。 言い忘れていたが二人にはレベッカが監督につく。」
そういうとレベッカと視線を交わす。
「ふむ、委任状を忘れたようだ。 悪いがレベッカは一緒に取りに来てくれるか
な?」
「あ、はい」
「二人はレべッカが戻るまで依頼書を読んでおいてくれ」
そういうとクラッドはレベッカを促していったん外に出た。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「あれが例の子かね?」
扉を少しはなれたぐらいでクラッドはレベッカに話しかけた。
「日の出の魔術師が後輩を育てていたなんて、しらなかったよ」
「そんな、育てるってほどでないですよ。 ただ、なんとなくほっとけなくて」
レベッカは後ろに遠ざかる扉を心配そうに振り返った。
「すいません、なんだか厄介なこと頼んだみたいで」
「いや、どちらかと言うと、こちらの方が厄介かけるかもしれんのだ」
「え、そんなことないですよ」
クラッドのセリフを気遣いにとったのか、レベッカは首を振って答えた。
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NPC: レベッカ クラッド
場所:エドランス
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キゴウアヴェの討伐から帰還してさらに二日。
傷自体は向こうの村で3日休んで直してから帰途についたので、すでに傷跡が
うっすら確認できる程度にまで回復していた。
しかし普通の傷なら一日もあれば、傷跡も残さずに完治しているはずだった。
(やはり魔獣も上位クラスになってくると、その爪や牙も魔法の武器と考えた方
がよさそうだな)
由緒正しい……と言うのが正しいかはわからないが、フェイは感染症や呪いで
はないれっきとした人狼の血を引く、古代種の末裔だ。
その不死性は、鍛えられた銀の魔力でなければ、どんな傷も見る見るうちに治
してしまうと言う超回復能力によって、伝説に語られるほどのものだった。
しかし、フェイはと過去に負った大怪我で死にかけ、そのときアカデミーの医
療技術によって体内の血のほとんどを入れ替えるという大手術を受けたおかげで、
伝説ほどの不死身の肉体はとうにうしなっていた。
そのときに獣化能力も失ったほどだが、それでも普通の傷なら食事して一眠り
すれば大抵は完治するという人間離れした回復能力は残った。
そして、当然弱点も引き継いだらしく、銀でなくとも魔力で負った傷は治りに
くい。
(それにしてもあの魔獣は良く似ていた……、奴が動き出したのか?)
決して忘れることのできない、その目に焼きついた奴の姿を思い描きながら、
過去と現在に思いをはせていた。
アカデミー構内に幾つも設けられた休憩室。
修士以上しか入れない奥棟は、常に生徒やギルド関係者であふれている表棟と
違い休憩室は割とすいている。
その実力と模範的な人格から、戦士ながら『聖騎士』と称されるエルガーと同
じ教室に所属していたが、空いた時間は1人になりたがるフェイはよく休憩室を
利用していた。
教室とはアカデミーに認可をうけた教師資格を持つものの開けるもので、修士
を得た者たちなら字湯に参加でき、研究や活動といった主催者の目的に同調する
者たちのグループというのが近いだろうか。
アカデミーが保有する技術や知識はここで日々うみだされていて、参加者は学
生過程では得られない技術や知識を求めて席を置くのが普通だった。
しかしフェイは少し事情が違う。
幼少時にアカデミーで命を救われその後も育ててもらった。
その際養父として直接面倒を見てくれたのが、現在所属している教室の先生で
ある クラッド・ディガー であった。
アカデミーと養父に返しきれない恩のあるフェイにとって、そのために働くと
いうのは自然なことであった。
至上命題として復讐を掲げていても、その情報収集や経験をつむためにギルド
を利用するのにもアカデミーは都合も良く、養父が開く教室が冒険者のパーティ
を対象にした連携や戦術といった研究をしているというのも好都合だったのだ。
そうして教室の一員となり、日々アカデミーの仕事を中心に研鑽を積んでいた
ものの、いまひとつパーティと意見が合わないフェイはつい独りでいることを好
みがちだった。
(エルガーが俺を心配してくれてるのはわかる。 だが……)
フェイが敵と狙う「奴ら」には独りでは勝てない。
本物の伝説の人狼、最強と信じれる戦士だった実父を打ち倒し、エドランスに
のみいる眷族という特殊な種族の中でも戦闘力の高かった狼型の村を滅ぼした。
アカデミーの奇跡に救われたフェイは、本物の実力者が仲間と連携を取ったと
きの脅威を目の当たりにした生き証人だった。
だからフェイは自分なりに自身の特性・戦力を考え、特攻とも言うべき単身突
撃によってできうる最大の打撃を敵に与え、その後に続く仲間の負担を減らすと
いう戦術を身に着けた。
これはなかなかに効果を上げ、特に仲間の負傷率は劇的に減った。
そして着実に実績を積み上げ、最近では教室内でも最高レベルと言われるエル
ガーのパーティに加わって仕事をこなしてきたのだった。
ところが、どうもうまくいってない。
前回も先走りすぎたかもしれないが、結果はうまく言った。
しかし、何かがよくない。
とはいえ、今のところうまくいってるならそれでいいのではないか、という思
いがあるのも確かだった。
(何がいけないと言うのだ)
自分でも何か感じなくもないが、エルガーは考えが甘いのだとこじつけて納得
する。
そう、自身のリスクを恐れていては奴らには勝てない。
そして俺はとのリスクに耐えられる体を持っている。
「あのー、フェイさん」
休憩室の扉から覗き込むようにして、物思いにふけるフェイに声をかけたのは、
同じ教室に参加している魔法使いの少女だった。
まだ組んで仕事をしたこがないと言うこともあり、うろ覚えだったが、記憶底
からフェルミと言う名前を思い出した。
「えーと、先生がお呼びです。 教室ではなく、ギルドの会議室へおこしくださ
い」
「ギルドのほう? わかった。」
養父でもある先生はどうやらエルガーと同じようなことを思ってる。
それは会話の中から気がついていたが、そういう事情は別にして、リーダーで
あるエルガーの指示を無視した事に対して、何らかの罰がある野は当然と考えて
いたため、その内容が決まったのだろうとフェイは思った。
(罰は当然だろうが、教室でなくギルドとは?)
少し疑問に思いつつも、行けばわかることなのですぐに席を立つ。
フェルミに礼を言って廊下に出ると、ギルドのある表棟に向かって歩き出した。
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ギルドの会議室というのは、ミーティングや交渉の場として利用される問いだ
けの普通の部屋だ。
10人も入れば窮屈に感じるであろうその部屋にフェイがついたときには、先客
がいた。
部屋には丸テーブルが1つと壁際に10脚ほどの椅子が積まれていた。
自分でとってきたのだろう、つまれているのと同じ椅子に座り、背もたれに身
体を預けた男がきつい目つきでフェイをにらみつけていた。
一目見て日陰者と思わせるその男は、小妖精のレベッカに連れ出されてきたコ
ズンであった。
「ちょっと! やめなさいって!」
コズンの目の前、丸テーブルの上に座っていたレベッカが慌てたように立ち上
がって手を振りながらで言った。
「あんた何で寝てたか、もう忘れたの?」
コズンの体感ではついさっきである昼の出来事を思い出したのか、一瞬むっと
した顔をしたものの、しぶしぶながらフェイから視線をはずした。
その際舌打ちを忘れなかったところがらしいと言えばらしいのだが、レベッカ
はふわりと浮き上がると、コズンの赤茶けた頭を「ぺち!」と叩いた。
「コ、ズ、ン!」
フェイはレベッカに説教されだしたコズンを視界の隅に入れながら、無言のま
ま椅子を取ると、少しはなれたところにおいて腰を下ろした。
そうして待っていると程なくして、フェイにはみなれた先生、クラッドが入っ
てきた。
「またせたな」
入ってくるとそのまテーブルに着き、立ったまま挨拶をした。
フェイを見た後、慌てたように頭を下げるレベッカに頷き返す。
「レベッカ、そちらが?」
「はい、これがコズンです」
「これ、ってなんだぁ!」と言おうとしたコズンだったが、レベッカににらま
れ、代わりに手を振って挨拶代わりとした。
レベッカがまた怒りだしたが、コズンにすれば見知らぬおっさんに過ぎないの
だ。
それでも挨拶の意を示したぶんだけ、気をつかってはいたのだが。
「二人に来てもらったのは、暫く組んで仕事をしてもらいたいということなのだ。」
「はぁ?」
淡々と言ったグラッドの言葉に最初に反応したのはコズンだった。
レベッカに何か頼みごとがあるとつれてこられたに、仕事でなく今あったばか
りの見知らぬ奴と組めときた。
何の話だ?と疑問に思うのも当たり間だろう。
「それが今回の罰ですか?」
フェイも疑問に思ったが、ざっとみてコズンの実力を測っていたので、足かせ
のペナルティか、となんとなく納得しかけていた。
それと知られたエルガーのパーティにいればこそ、高難度の依頼が舞い込んで
くる、初対面だったが、贔屓目に見てもコズンの実力は初心者とは言わないにし
ても名前で仕事を取るには程遠いようにおもえた。
しかし、罰扱いされておとなしくしてられるほど、人間のできていないコズン
は怒声で答えた。
「ああ?! すかしたツラしてなにいってんだぁ?」
「ちょ……ほんとにやばいって!」
「るっせぇ!」
今にも席を立ってフェイ飛び掛りそうなコズンを、レベッカが小さい体で懸命
に立ちふさがるように飛び上がった。
コズンもレベッカにうかつな暴力を振るうきはないらしく、怒鳴りつけただけ
にとどめた。
「チッ! おい、こいつの罰とやらに俺がつきあわにゃならないって事じゃない
だろうなぁ?」
視線を変え、今度はグラッドをにらみながら不満を隠すことなくうなるように
言った。
「ふむ」
クラッドは顔色1つ変えず落ち着いた様子でコズンに向き直った。
「フェイは……言わずともわかっているようだが、コズン、きみは思い違いをし
ている。」
「なにいって……」
「よいかな、君は今日だけではない。 何のことかはわかるな?」
「う……」
「喧嘩は……まあそれもだが、君が暴れるたびに壊してくれた備品はただではな
いのだよ」
仲間と別れ独りになってからのコズンは、ギルドに顔を出しては一暴れを繰り
返していた。
本来なら待合室はパーティを募る場所でもあったが、すぐに噛み付いてくるコ
ズンと組もうとする者は誰もいなかった。
レベッカがなんとかツテを頼っても、今日のように台無しにしてしまう。
ただ自分より弱いものに突っかかることがないため黙認されていたが、さすが
にギルドも我慢の限界ということだろうか。
「ただ働きで返せってことか?」
「いや、もちろん報酬は払うさ。 アカデミーがね」
「?」
「諸事情から、依頼人から報酬の見込めない仕事と言うものもある。 間に言う
と アカデミーが代理依頼するわけだが、こういう仕事はフリーの冒険者には任
せづらい」
もちろんアカデミーとしてギルドに大々的に告知をして、冒険者を募ることも
あるが、今、フェイとコズンに言われてるのは、情報を拡散させたくない案件と
いうことだろう。
遺跡とかは調査の優先権が関係してくるし、たとえば人助けだとしても、アカ
デミーは慈善団体ではないため、報酬を肩代わりしたなんて話が広まるのは非に
好ましくないのだ。
「くわしく説明するほどのこともないだろう。 君たちは私達からの依頼をこな
してくれればよいだけだ」
そういうとテーブルの上に二枚の紙を置いた。
「これが今回の依頼だ。 言い忘れていたが二人にはレベッカが監督につく。」
そういうとレベッカと視線を交わす。
「ふむ、委任状を忘れたようだ。 悪いがレベッカは一緒に取りに来てくれるか
な?」
「あ、はい」
「二人はレべッカが戻るまで依頼書を読んでおいてくれ」
そういうとクラッドはレベッカを促していったん外に出た。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「あれが例の子かね?」
扉を少しはなれたぐらいでクラッドはレベッカに話しかけた。
「日の出の魔術師が後輩を育てていたなんて、しらなかったよ」
「そんな、育てるってほどでないですよ。 ただ、なんとなくほっとけなくて」
レベッカは後ろに遠ざかる扉を心配そうに振り返った。
「すいません、なんだか厄介なこと頼んだみたいで」
「いや、どちらかと言うと、こちらの方が厄介かけるかもしれんのだ」
「え、そんなことないですよ」
クラッドのセリフを気遣いにとったのか、レベッカは首を振って答えた。
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