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2025/03/10 06:53 |
星への距離 7/スーシャ(周防松)
PC:スーシャ  ロンシュタット
NPC:バルデラス 自警団団長 団員
場所:セーラムの街
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この街に来てから、誰かに「助けて」と声に出して伝えたことは、なかった。
クーロンで過ごしていた頃に、痛いほど学んだから。

助けを求めたところで、無駄だ。
誰もアテにならない。
助けてなんてくれない。
何の役にも立ちはしない、同情やなぐさめを投げ与えるのが関の山。
助けてくれる段階まで、他人の事情に踏みこんでくれる人間なんて、いやしない。

恨みはしない。
腹を立てることもしない。
誰だって、いざこざには巻き込まれたくないのだから。

それなら、どうするか。
わかりきったことだ。
自分で、どうにかするしかない。
逃げるなり耐えるなり勇気を出して追い払うなり、自分で決断して実行するのみ。
自分一人で頑張るしかない。

……それじゃあ。
自分は、あの青年に、何を求めたのだろう?
あの時かすかに震えた唇は、何を言おうとしたのだろう?

――「助けて」……?




団長や団員に連れられ、スーシャは自警団の詰め所にやってきた。
元々は農作業の道具を保管していた粗末な小屋だが、自警団を組織するにあたって、
もう少し大きめの小屋に改築したものである。
雨をしのぐため、フードのついたマントを着せられたが、宿屋の主人にタオルでふい
てもらった髪が、また湿っぽくなっている。
おまけに、生乾きの服が肌にはりつき、心地悪い。

詰め所に入るなり、団長は木製のテーブルへスタスタ歩いて行き、椅子に腰掛けた。

「座りなさい」

椅子をすすめられ、スーシャは腰掛ける。
クッションなんてものはない、固い椅子。
テーブルを挟んで向かい合う、がっしりした体つきの団長は、椅子に腰掛けてなお、
見上げねばならなかった。
緊張した面持ちで見上げていると、団長は安心させるかのようにして微笑んでみせ
た。
「長くはかからない。そんなに怖がることはないよ」
そうは言われても、この居心地の悪さはどうしようもない。
「事件について、今わかっていることを話そう」
スーシャは、こくり、とぎこちなく頷いた。


団長の話によると、以下のようなことだった。

団長を探して宿屋に飛び込んできたあの農夫。
実は、別の街に住んでいる姪っ子が結婚するということで、それに見合った服を仕立
ててもらおうと仕立て屋に行ったのだという。
農夫は、一般庶民の結婚だから、当初はよそ行きとして取ってある服を着ていけば大
丈夫と考えていたらしい。
しかし、詳しい話を聞いて農夫は驚いた。
何をどう間違えたのか、農夫の姪っ子は玉の輿に乗ったのだという。
本人や家族にとっては「おめでたい話」だが、式に呼ばれる親戚としてはたまらな
い。
いつものように気楽な結婚式というわけにもいかず、取りあえず着て行く物だけでも
上等に、と考えたらしい。
一階の店舗には誰もおらず、戸口で何度も大声で呼びかけたが返答がなかったため、
農夫は仕方なく店の奥へと足を踏み入れたのだという。

「農夫の話によると、三人は……めちゃくちゃなやり方で殺されていたそうだ。刃物
で斬られた跡も、殴られた跡も、力任せに引き裂かれたような跡も……二目と見られ
ない有り様だそうだ。死体の一部がなくなっている、という話もあった」

年端もゆかぬ少女に対して、団長は配慮もへったくれもない説明をする。
あるいは、変に気を使うべきではない、と思っているのかもしれない。

と、団長がずいっと前にのめり出して来る。
スーシャは、反射的に身を引いた。

「ところで、ここ最近、家族の誰かがトラブルにあっていた、ということはあるかい
?」
「……わかりません」
スーシャは、暗い表情と声とで答えた。
自分とあの人達は、そんな情報を共有するほど親密ではなかった。
「家の近くで妙な人を見たとか、店に妙な客が来たとか、そういうことは?」
「……ない、と思います」
家事と家族関係に神経をすり減らしている彼女に、のんべんだらりと周囲を見まわす
余裕などない。
「そうか」
団長が、椅子を引いて立ち上がる。

「……ああ、そうだ」
不意に思い出したように、団長はスーシャを見、そして座りなおす。
団長につられて立ち上がりかけたスーシャは、慌てて椅子に腰掛けた。

「君は、確かお使いに出ていたんだったね。何の用事だったんだ?」

尋ねられてスーシャは困った。
あれは、とっさについた嘘だ。
何の用事かなんて、そんなところまで考えていない。
「あ、あの……」
言うべきだろうか、本当のことを。
養母の仕打ちに深く傷ついて、泣きながら街へ飛び出したことを。
……あまり、言いたくない。

「ああ、無理に言わなくてもいい。個人的にちょっと気になっただけだ」

言うべきかを真剣に悩むスーシャに気遣わしげな声で言うと、団長は今度こそ椅子か
ら立ち上がった。

「今日のところは、聞きたいことはそれだけだよ。ありがとう。それじゃあ、宿まで
団員の誰かに送らせよう」
「いえ、そんな、悪いです」
スーシャがおろおろしていると、団長は「いいから」と制した。
「こんな夜中に、女の子の独り歩きは感心しないな。おまけに雨も降っている。犯人
もまだ見つかっていないんだから、危険だよ。送られておいた方が良い」
団長はそう言うと、団員の一人を呼び、「宿まで送ってやれ」と告げた。
「よ、よろしくお願いします」
「そんなに堅苦しくなるこたぁないよ。行こう」
団員に連れられ、スーシャは再び外に出る。

――雨は、ほんの少し、小降りになっていた。


スーシャが去った後、団長は再び椅子に腰かけ、テーブルに片肘をつく。

「団長、ずいぶん簡単な取り調べでしたけど、あれでいいんですか?」

奥のスペースで書類をまとめていた若い団員が、声をかけてくる。

「ああ。情報としては期待していないよ」
団員は、きょとんとした表情でまばたきをした。
「団長、もしかして犯人のめぼしがついてるんですか?」
その言葉に、団長は軽く頭を振る。
「実行犯については断定できないが……スーシャが関わっていると見て間違いない
と思う」
「……まさか、スーシャが殺したって言うんですか!?」
思わず、といった具合で声が大きくなる。
その拍子に持っていた書類の束を落とし、ばさばさと床の上に散らしてしまった。
「それはないな。彼女はまだ十二歳だろう? おまけにあんなに小柄で細い。頑張れ
ば一人ぐらい殺せるかもしれないが、三人も殺すのは容易じゃないだろう」
「じゃあ……」

あたふたと書類を拾い集めながら、団員は考える。
団長は一体何を言いたいのだろう、と。

「俺はな、スーシャとは別に実行犯がいるとにらんでいるんだ」
「まさか。あんな大人しい子が人殺しの計画を……そうは思えませんけど」
団員の言葉に、団長は否定の意味をこめて手をひらひらと振る。
「大人しいとは言ってもな、事情が事情だろう。お前だって知っているはずだ。あの
子は家の中で随分冷遇されていたというじゃないか。その恨みが募って、爆発したの
かもしれない」

そう言いながら、団長は膝を打った。

「そうだ。殺し屋のようなものを雇ったのかもしれない。幼女趣味の奴なら、体で支
払えば事足りるからな」

あんた、自分が何を言ってるのか、わかってるのか――。

団員は、拾い集めた書類を握りしめる。
しかし、声に出して言う事はしない。
仮にも相手は団長で、自分は団員。
閉鎖的な田舎の街では、とにかく「長」とつく者に立てついてはいけない。
祖父母や父母から言われ続け、染みこんだ意識がそうさせるのだ。

若者特有のまっすぐさや潔癖なまでの良心は、この環境では歓迎されない。

「やったという証拠はない。だが、やっていないという証拠もない」

団員は、せめてものウサ晴らしにと、拾い集めた書類を放るようにして机の上に置い
た。



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2007/09/06 21:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離

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