第二十七話 『涙のない別れ』
キャスト:ルフト・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ウォーネル=スマン・イン
場所:ムーラン→ウォーネル=スマン邸
――――――――――――――――
視界を遮る煙幕に捲かれ、ベアトリーチェは盛大に
咳き込みながら転げるように部屋を出た。
もちろんベッドに置いた自分の武器は忘れない。
即座に扉を閉じ、廊下の窓を開けて首を出す。
砂が入るのを防ぐためだろう、窓は思ったほど広くは
開かなかったが、それでも風を感じることはできた。
新鮮な空気をたっぷり吸って一息ついてから、
「あの女…!今度会ったらブン殴ってやるっ」
と怨嗟の混じった声でうめく。
さらに文句を言い募ろうとしたとき、地鳴りと共に
屋敷全体が振動した。
思わず上を見上げる。下がっているシャンデリアが、振り子のように
軋みながらゆっくりと揺れていた。
(あーあ。ここぞとばかりに派手にやっちゃって…)
胸中で呟き、吐息を漏らす――
適当にあたりをつけて歩き出す。使用人の姿は見えないが、おそらくこの
騒ぎで借り出されているか、避難しているかのどちらかだろう。
もっともそのほうがこちらにとっては好都合だ。
まさか白昼堂々、泥棒じみた真似をすることになるとは思っていなかったが。
ベアトリーチェがいるのは屋敷の離れである。
連れてこられた時に見ていたのだが、どうやら屋敷とは一本の通路で
繋がっているらしい。
だとすれば、それを使えば少なくとも外の警邏には気付かれることなく
屋敷に向かえるわけだ。
分厚い絨毯の上では靴音は吸収される。もっとも、今着ているムーランの
民族衣装の装飾は隠密には向かないが。
手に持ったソウルシューターの後方に手を突っ込み、中の取っ手をひねる。
錠が外れるような音。そのまま取っ手を引っ張ると、内蔵されていた
鉄の鉤爪が姿を現した。
ベルトに通したソウルシューターはいったん背中に回し、鉤爪を右手に
装備したままで、ベアトリーチェは屋敷の中を駆け抜けた。
・・・★・・・
「あったりー♪こんなベタなのなんで見つけらんないのかしら」
絵画の裏から現れた格納庫から、壮麗な装飾が施された花器を取り出す。
「これは…たぶん『ファンデルファーレの涙壷』ってやつかしらね」
光の加減によって色を変える美しい工芸品を窓の光に透かしながら、
ひとり呟く。装備した鉄鉤で傷つけないように、頭に被っていた
薄絹のショールでくるんで腰にしっかり結びつけてから歩き出す。
(犬と魚の戦闘を陽動にして、頼まれた品を探す。それを全部あの
うさんくさい暗殺者とやらに渡して、おたから持って一人でとんずら。
あとに残るのは犬と魚と暗殺者だけ!)
「完璧なプランじゃない」
一人呟いて、笑みを浮かべる。と、曲がり角にさしかかった。一応
壁に張り付いて、誰もいない事を確かめてから進む。
前方に扉があった。横手の窓の景色から想像するに、どうやら
この先が屋敷へと繋がる通路らしい。
ぱっと扉にとびついて、耳を押し当てる。しかしいまだ勢いを
失わない戦闘によって生じる地鳴りや、破砕音が邪魔をして
よくわからない。結局、いちかばちかドアを開けることにした。
胸中でカウントして、勢い良く扉を開けて転がり込む。
その勢いで鉤爪を前方に突き出し――たものの、そこには広い
通路が広がっているだけで誰もいなかった。
が。
だだだだだ、と重い足音が響いてきたかと思うと、屋敷へと続く
扉がばん、と開いて一人の男が転がるように入ってきた。
男は豪奢な身なりをしていたものの、それに準ずる気品はなく、
ただ膨れ上がった巨体を汗で濡らしながらこちらに走ってくる。
どう考えても相手の視界のまん前に自分はいるのだが、それには
全くといっていいほど興味を示さず、ベアトリーチェの横を通り過ぎて
そのまま遠ざかっていった。
「…なんなの」
「あいつがウォーネルだよ」
突然の答えにびくりとして振り返ると、今しがた男が開け放った扉の
枠に寄りかかったインがいた。指には鍵の束をひっかけて、それを
くるくる回して音をたてている。
「びっ…くりするじゃない。なんなの?どうしたの?」
「俺にもわからん。とにかく野菜が食べたいらしい」
「は?」
「厨房の野菜全部食ったあげくまだ足りないとか言ってよ。
仕方ないんで外の"野菜"を食べに行ったってわけだ」
いぶかしげな顔でつかみどころのない話を聞く。インは退屈そうに
こちらに歩いてくると、ベアトリーチェの前で立ち止まった。
「…それよりどうだ?頼んだものは見つかりそうか」
「いくつか見つけたわ。どうしようもなく簡単な場所にあったわよ」
「隠す奴が馬鹿だからな。まぁその調子で頑張ってくれや」
じゃらじゃらと鍵が鳴る音が通路に響く。インはそのまま通り過ぎると、
男を追って歩いていった。
「…なんなのよ。どいつもこいつも!」
怒りに任せて手近な壁を蹴ってから、彼女は大股で歩き出した。
――――――――――――――――
キャスト:ルフト・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ウォーネル=スマン・イン
場所:ムーラン→ウォーネル=スマン邸
――――――――――――――――
視界を遮る煙幕に捲かれ、ベアトリーチェは盛大に
咳き込みながら転げるように部屋を出た。
もちろんベッドに置いた自分の武器は忘れない。
即座に扉を閉じ、廊下の窓を開けて首を出す。
砂が入るのを防ぐためだろう、窓は思ったほど広くは
開かなかったが、それでも風を感じることはできた。
新鮮な空気をたっぷり吸って一息ついてから、
「あの女…!今度会ったらブン殴ってやるっ」
と怨嗟の混じった声でうめく。
さらに文句を言い募ろうとしたとき、地鳴りと共に
屋敷全体が振動した。
思わず上を見上げる。下がっているシャンデリアが、振り子のように
軋みながらゆっくりと揺れていた。
(あーあ。ここぞとばかりに派手にやっちゃって…)
胸中で呟き、吐息を漏らす――
適当にあたりをつけて歩き出す。使用人の姿は見えないが、おそらくこの
騒ぎで借り出されているか、避難しているかのどちらかだろう。
もっともそのほうがこちらにとっては好都合だ。
まさか白昼堂々、泥棒じみた真似をすることになるとは思っていなかったが。
ベアトリーチェがいるのは屋敷の離れである。
連れてこられた時に見ていたのだが、どうやら屋敷とは一本の通路で
繋がっているらしい。
だとすれば、それを使えば少なくとも外の警邏には気付かれることなく
屋敷に向かえるわけだ。
分厚い絨毯の上では靴音は吸収される。もっとも、今着ているムーランの
民族衣装の装飾は隠密には向かないが。
手に持ったソウルシューターの後方に手を突っ込み、中の取っ手をひねる。
錠が外れるような音。そのまま取っ手を引っ張ると、内蔵されていた
鉄の鉤爪が姿を現した。
ベルトに通したソウルシューターはいったん背中に回し、鉤爪を右手に
装備したままで、ベアトリーチェは屋敷の中を駆け抜けた。
・・・★・・・
「あったりー♪こんなベタなのなんで見つけらんないのかしら」
絵画の裏から現れた格納庫から、壮麗な装飾が施された花器を取り出す。
「これは…たぶん『ファンデルファーレの涙壷』ってやつかしらね」
光の加減によって色を変える美しい工芸品を窓の光に透かしながら、
ひとり呟く。装備した鉄鉤で傷つけないように、頭に被っていた
薄絹のショールでくるんで腰にしっかり結びつけてから歩き出す。
(犬と魚の戦闘を陽動にして、頼まれた品を探す。それを全部あの
うさんくさい暗殺者とやらに渡して、おたから持って一人でとんずら。
あとに残るのは犬と魚と暗殺者だけ!)
「完璧なプランじゃない」
一人呟いて、笑みを浮かべる。と、曲がり角にさしかかった。一応
壁に張り付いて、誰もいない事を確かめてから進む。
前方に扉があった。横手の窓の景色から想像するに、どうやら
この先が屋敷へと繋がる通路らしい。
ぱっと扉にとびついて、耳を押し当てる。しかしいまだ勢いを
失わない戦闘によって生じる地鳴りや、破砕音が邪魔をして
よくわからない。結局、いちかばちかドアを開けることにした。
胸中でカウントして、勢い良く扉を開けて転がり込む。
その勢いで鉤爪を前方に突き出し――たものの、そこには広い
通路が広がっているだけで誰もいなかった。
が。
だだだだだ、と重い足音が響いてきたかと思うと、屋敷へと続く
扉がばん、と開いて一人の男が転がるように入ってきた。
男は豪奢な身なりをしていたものの、それに準ずる気品はなく、
ただ膨れ上がった巨体を汗で濡らしながらこちらに走ってくる。
どう考えても相手の視界のまん前に自分はいるのだが、それには
全くといっていいほど興味を示さず、ベアトリーチェの横を通り過ぎて
そのまま遠ざかっていった。
「…なんなの」
「あいつがウォーネルだよ」
突然の答えにびくりとして振り返ると、今しがた男が開け放った扉の
枠に寄りかかったインがいた。指には鍵の束をひっかけて、それを
くるくる回して音をたてている。
「びっ…くりするじゃない。なんなの?どうしたの?」
「俺にもわからん。とにかく野菜が食べたいらしい」
「は?」
「厨房の野菜全部食ったあげくまだ足りないとか言ってよ。
仕方ないんで外の"野菜"を食べに行ったってわけだ」
いぶかしげな顔でつかみどころのない話を聞く。インは退屈そうに
こちらに歩いてくると、ベアトリーチェの前で立ち止まった。
「…それよりどうだ?頼んだものは見つかりそうか」
「いくつか見つけたわ。どうしようもなく簡単な場所にあったわよ」
「隠す奴が馬鹿だからな。まぁその調子で頑張ってくれや」
じゃらじゃらと鍵が鳴る音が通路に響く。インはそのまま通り過ぎると、
男を追って歩いていった。
「…なんなのよ。どいつもこいつも!」
怒りに任せて手近な壁を蹴ってから、彼女は大股で歩き出した。
――――――――――――――――
PR
トラックバック
トラックバックURL: