忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/17 02:32 |
滅びの巨人―2 【“空”腹絶倒】/雑(乱雑)
PC: 雑
NPC:
場所:ポポル北東の森

――――――――――――――――



確か二十日前。

全てはここから始まったんだと思う。うん。


「気ままな一人旅に、乾杯だぁーっ、と!」


ポポル北東の森。

今俺は、テントを張りつつポポルへ向かって移動中。

前の街で騎士団の装備を新調して、ついでに個人依頼もいくつかこなしたおかげで懐
はほくほく。

移動鍛冶屋っつー物珍しさは毎回いい販促になる。

旅道具も服も新しくできて嬉しい限り。


「…っぷはー!久々に順調な旅だ!運が向いてきたな!」

月が隠れた森の夜は真の暗闇だが、焚火の周りだけは色を持つ。

パチパチと爆ぜる音をBGMに、酒は進む。


この時点での失敗点。

一つ、俺は酒に弱い
二つ、傍に焚火
三つ、この後の行動


「この後どう行くんだっけか…?」

地図を引っ張り出し、コンパスと合わせ確認する。

焦点が上手く合わないのは何でだろうか。


四つ、自分が酔ってることに気付いていない


「…んぁ?良く見えねぇな…」

拍車をかけるように、焚火の明るさが減少する。
どうやら焚き木が燃え尽きたらしい。

「っと、燃える物燃える物… っと」


その時真っ先に目に入ったのは、手に持っている、地図が描かれた羊皮紙であり。

大事な地図が描かれた(強調)、羊皮紙であり。


「ほれっ。 これでよしっと。 … …おう?」

それを無くしたら確実に迷うので絶対に燃やしてはいけないという事を思い出したの
は、焚火の中で黒ずむ羊皮紙を見届けた後だった。



五つ。“順調な旅”は俺には無理。




■滅びの巨人-2 空腹絶倒



――目を覚ますと、そこは大自然。

木々に降りた朝露が、森の合間から差し込む朝日に照らされ輝く。

耳に聞こえるのは、傍の美しい渓流のせせらぎ。

新緑が萌えいずる香りと新鮮な空気を胸一杯に吸い込んで、伸びでもしようかと思っ
た刹那、




ぐぅ。




…先に腹の虫が泣き声を上げた。

「…くぁーぁ、っと。悪いな腹の虫。今日も食いモンはねぇぞ。水だけで頑張れ、あ
と草」

し損ねた伸びをすると同時に、腹の虫におあずけ宣告。

ぱんぱんと腹を叩くと、腹の虫がもう一度悲痛な泣き声をあげた。


からっぽの腹を水で無理矢理埋めて、荷物を纏め、歩き始める。




どこまでも続く茶と緑。遠い地平は霧が覆う。



――草と水のみで生きる生活、十日目。


二十日前。地図を燃やした後、少し落ち込んだものの特に焦ったりはしなかった。

幼少をスラムで過ごした経験と、近くの物を瞬間的に加熱できる魔法。

それらが他の追随を許さないほどのサバイバル能力を与えてくれていたので、荒野な
らまだしも森で迷って死ぬ要素は皆無。

まして非常食も含め約十日分のまともな食料も持ってきている。

コンパスは残っているので、大まかな方向の検討を付けて一直線に歩けばいつか何処
かの街に着くだろう、と。



…思っていたのだが。


「…どうなってんだ。…やっぱ生き物の気配すらしねぇ」


大誤算だった。十日ほど歩き、持ってきた食料を食い尽くした頃に気付いたのは、

“付近から生き物の気配が完全に消えた”

という事。鳥も獣も、虫すらも居ない。

森を支配するのは、不気味なほどの静けさ。


「コンパスも狂いっぱなし。かぁーっ、太陽の方向だけじゃ限界があるぜ、ったく」



コンパスもいつの間にか狂い始め、引き返すことも満足にできなくなってしまった。


そして十日間が過ぎ、飯にありつくことも出来ず、方向を定めることも出来ず今に至
る、というわけだ。



「…絶対絶命、ってやつか。…何より嫌な予感がするぜ。ちくしょう、大抵あたんだ
よなぁ、こういう予感って」


コンパスの狂いは地質から行って十分ありえる。

ここらへんには特殊金属、“魔蓄鉱”が豊富にあると聞く。魔具を作るのに良く用い
られる、魔力を備蓄できる鉱物だ。電磁系の魔力を帯びてるのがここらへんに多いの
だろう。


…が。生き物の存在の消滅は納得できない。

森といえば命の象徴といっても過言ではないはずだ。それに生活の跡はある。まるで
“一斉に逃げた”かのような状況。


…沈没する船からは鼠が逃げ、火事が起こる山からは猿が逃げ。

よく聞く大災害前の動物の予知を思い出させる。



俺にはそんな力なんて無い。…筈なんだが。

第六感、とでも言うべきか。感覚器官以外の感覚も、ここは危ない、ここはおかしい
と告げる。


「離れられるなら速攻で離れてるっつの」


ぐぅ。


「おうおう、お前もそう思うか」

腹の虫と会話しながら歩く。

いや、彷徨う。



「…ッ!」



と、不意に木の根に躓き倒れかけた。足を上げる高さと注意力、両方が自然と下がっ
ている。


「…と。…かーっ、足に力入んなくなってきたか…流石にそろそろヤベェな…」


商売道具を詰め込んだ鉄製のリュックが重心を大きく揺らす。

前の街で調子に乗って金属の塊を大量に仕入れたのが不味かったかもしれん。

今や合計120kg近い荷物は、身体強化魔法をかけた体にもじわじわと疲労を与えてく
る。

まして十日間まともな栄養を取ってない体には、エネルギーがもう残っていない。


森ん中は平坦。

だが今の俺に移る道のりは、まさに死の行進“レミングス”。


「…目まで霞むか。体自体も酷使しすぎたな」


再び、躓く。 今度は耐え切れなかった。

派手な音を立てて、うつ伏せに倒れる。荷物たちが、俺を押さえつけるように背中に
食い込む。

…これを退かす気力は、もう残っていなかった。


「…動かねぇ、か。…ちくしょう、あの世行ったら絶対酒なんか飲まねぇ」


瞼が重い。おそらくこの目を閉じればもう俺は“終わる”。

スラムに生きて、鍛冶屋に育てられて。鍛冶屋になって、世界を回って。

まだまだ色んなことしたかったんだがなぁ。運が無いな、俺。


「…今行くぜ、お前等」


浮かぶのは、先に逝ったスラムの仲間達。

あっちで会ったら、何して遊ぼうか。まずは両手一杯の土産話だな。

格好つけた台詞吐いて、目を閉じる。



「…?」



…閉じようとしたんだが、その前に手が“何か”の感触を感じた。

硬い、明らかな無機物質の感触。

うつ伏せに倒れてるせいで詳しくは分からない。


「…くっ、そっ」


じりじりと、手と足を醜くもがかせて、方向を変える。

目に入ったのは、箱のような物体。蓋は…なんとか開けられそうだ。


「…ははっ、やっと運が向いてきたか…?」


瞬間移動用のポータルなんかだったら最高だが、それじゃないにしろ食料が入ってた
ら万々歳だ。

ともすれば力尽きそうな手を、必死に動かして箱を開けて…


「……」


箱の中身が全て奇妙な夜空だったり人だったりの“絵”であることを確認した時点
で。


「…なんじゃ、こりゃ…」


力尽きた。






「…  は、  ……うぁは、うぁはははは」





尽きた…が。



「……神さんめ、あれか?期待させて落とすっていう常套手段か?」

そう。呆気を越えて何か腹が立ってきた。

「…そう簡単に、死んでたまるかよ…」

手を前へ。最後の精神集中を、目前の木へ。

「…溺れる者ってのは、藁も、魚も、藻も掴むんだぜ…」


意識を木へ飛ばすと、その木が“一瞬”で炭となった。


――俺の使える数少ない魔法。

付近の意識した対象の内部に直接干渉し、その温度を一瞬で任意の温度へ上昇させる
魔法、“瞬間加熱”。


炭となった木から、大量の煙が上がる。

それは生への狼煙。


誰かが見つけてくれるなんて、万に一つもないかもしれない。

でもゼロよりはましだろ?


少し笑って、今度こそ気を失った。






その時俺は知らなかった。

ここが実はポポルに非常に近い場所で、さらにこの区域の清掃をポポルの学校が今日
しようとしていること。





その時俺は知らなかった。


こんな行き倒れなんて問題にもならないような大問題。

ポポルに、鳥が、獣が、虫さえも逃げる元凶、大厄災が迫ってきていること。



…その時、俺は知らなかった。

まさか俺が、一介の鍛冶師の俺が、そんなもんに真正面から向っていくハメになるな
んて。







――――――――――――――――
PR

2007/09/12 00:30 | Comments(0) | TrackBack() | ○滅びの巨人

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<シベルファミト 27/ベアトリーチェ(熊猫) | HOME | ファブリーズ  21/アーサー(千鳥)>>
忍者ブログ[PR]