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2025/10/20 16:45 |
立金花の咲く場所(トコロ) 41/ヴァネッサ(周防松)
件  名 :
差出人 : 周防 松
送信日時 : 2007/06/03 12:26


PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 教官
場所:エドランス国 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そんなこんなで、初クエストに挑戦することになった早朝。
朝特有の、ひんやりした空気の中を5人の少年少女が歩く。
その5人というのは、アベル・ヴァネッサ・ラズロ・リリア・リックのことである。
5人はこれからアカデミーに行き、アベル・ヴァネッサ・ラズロの三人分のクエスト
挑戦の申請をするところである。
申請を済ませ次第、香草の採取に出発する予定である。
ラズロ以外の4人は多少眠気があるぐらいで普段と大差ないのだが、ラズロは早起き
があまり得意ではないのか、何だかぼんやりしていた。

「えへへー、初クエストのおかげで、朝から得しちゃったぁ。せせらぎ亭の朝ご飯が
タダで食べられて、そのうえお昼ご飯までついてくるんだもん。あたし、せせらぎ亭
絡みのクエスト専門でやってこうかな」
ニコニコ顔で、リリアは荷物の入ったリュックの底をぺしぺしと叩く。
朝ご飯、と言っても大して手のこんだものではない。
余った材料を使って作る、いわば「まかない飯」である。
今日の朝ご飯は野菜入りのあんかけオムレツと、クルミ入りのパンだった。
アベルが野菜を刻み、ヴァネッサがあん作りとオムレツ作りを担当した。
お昼ご飯の方は、完全に女将が作ったもので、包みを開けてみるまでは何が入ってい
るのかわからない。
「現金な奴」
ぼそりと呟くリックを、リリアは睨みつけ、それからヴァネッサのそばにくっついて
歩いた。
「にしても、ヴァネッサって料理得意なんだね。美味しかったよ」
「得意……なのかな……?」
ヴァネッサは首をかしげる。
料理をするのは長年の慣習みたいなもので、あまり得意とか不得意とかは考えたこと
がない。
カタリナに教えられつつ、初めて目玉焼きを作ったのが楽しかったのを覚えている。
その後、毎日のように目玉焼きを作っていたら、「今度はオムレツを教えてあげる
よ」と言われ……そんな具合で、少しずつ覚えていったのだ。
それがカタリナにちょっとでも楽をさせられるとわかると、ヴァネッサは次第に食事
作りを担当するようになった。
一方アベルが簡単なものとはいえ料理ができるのは、無理矢理手伝わされていたせい
でもあるが、料理する人間を間近で見ていたところにも一因はある。
兄や姉のすることに、下の子は興味を持つものだ。

「得意だよぉ。少なくともあたしよりは、さ。すごいよね」
「お前はイモの皮一つむけないもんな」
「人には向き不向きっていうのがあるのっ」
すかさずリリアが反論している。
ヴァネッサは、なんとなく気にかかった。
(……どうして、リック君そんなこと知ってるんだろう)
リリアの反応を見ると、イモの皮一つむけない、というのは、どうやら事実のよう
だ。
ということは以前、リリアに料理を作ってもらったことがあるのだろうか?

「……でも、本当に料理が得意な人って、玉ねぎのみじん切りしても涙が出ないって
聞いたことあるよ? 私、玉ねぎを切ってると涙が出るから、得意なんじゃなくて慣
れてるだけだと思う」
以前、ヴァネッサはそんな話を聞いたことがある。
本当かどうかはわからないが、全くの嘘とも言いきれないような気がして、今でもな
んとなく信じている。
「いや、それは泣かないほうがどうかしてるんじゃ……」
リリアは極めて常識的なことを口にする。
「俺だって泣くし、かーちゃんだって玉ねぎ切ってる最中に「ああ、目が痛い」とか
言って顔洗ったりしてたじゃねえか。みんな泣くんじゃねえの?」
そう言われると、やはり泣くのが普通のように思われる。
「やっぱり、デマなのかな……?」
「いや、デマでしょ、明かに」
「……まさか、ずーっと信じてたのか?」
アベルの問いかけに、ヴァネッサは正直に、こく、と頷いた。

……沈黙。
全員の視線が、ヴァネッサに集中していた。

「ほ、ほら。クエスト挑戦の申請に行くんでしょ、玉ねぎは後回し!」

リリアの言葉で、一同の時間が再び動き出した。



「おはようございまーす」

アカデミー内の教務室の入り口で、リリアが明るい挨拶の声を上げる。
教務室には、昼間ほどではないが、何人かの教官が仕事をしていた。
「えぇと、セリア先生いますかー?」
すると、近くの机に向かっていた教官がこちらに向き直った。
「今日はまだ出てきてないよ。どうしたんだい?」
「クラスメイトが、クエスト挑戦の申請をするので、セリア先生のサインを頂きたい
んです」
リックは相手が教官ということもあってか、敬語を使っている。
「……でも、セリア先生いないんだよね?」
困ったなあ、と言わんばかりにリリアは頭をかく。
こちらは良くも悪くも親しみ溢れる口調である。
「ああ、それならこの紙に書いて提出してくれれば大丈夫だよ。セリアには後で渡し
ておくから」
教官は、ぴらり、と用紙を数枚取ってこちらに差し出す。
「ええ? 先生、それっていいの?」
「教官のサインなら誰のでも通ることになってるの。本当は、担当の先生のサインが
一番なんだけどね」
「わっかりました! 先生、ありがと!」
リリアは親しげに礼を述べ、差し出された用紙を受け取って、早速三人に説明しよう
とする。
「それから、注意ね。僕は一応、教官なんだから、教務室にいる時ぐらいはちゃんと
敬語を使うように」
「はーい、以後気をつけまーす」
笑顔で答えると、リリアは再びこちらを向く。
傍らのリックが、ため息をついていた。

「えーとね、じゃあ、書き方教えるね」

(リリアちゃんって、いろんな人と仲良しなんだなぁ……)

書き方について説明を始めたリリアを見つつ、改めてそう思うヴァネッサだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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2007/06/04 22:12 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
ヴィル&リタ-12 ないものねだり/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
PC:ヴィルフリード、(リタルード)
NPC:ハンナ
場所:エイド(ヴァルカン地方)
-------------------------------------------------

 鏡越しに目が合った。

「おじさまって、本当にすごいんですね」

「……その”おじさま”ってのはやめてくれ。ケツん中がムズ痒くなる」

 あら、とハンナは、やや低く艶のある声を赤い唇からこぼし、くすりと笑った。

「とても似合っていらっしゃるのに」

「……嫌味か?」

 ヴィルフリードは鏡の中の自分を睨む。

「お髭がとっても似合っていますわ」

 言われて、ヴィルフリードは鼻の下に貼り付けた付け髭を軽く撫でつけた。
 それだけではない。
 いつもは、撥ねも気にせず手櫛で適当に結わえられていた髪の毛は下ろされて
おり、油を塗った丁寧に櫛で後ろに撫でつけている。顔は目の下や頬に濃い色を
置き、以前よりも疲れを濃く感じさせる。眉も一部を抜いたり、はたまた書き加
え、やや強い弧を描いたそれは、大きく印象を変えていた。よく見れば目尻にも
何か描き加えてたあとがある。
 薄汚れてはいるが、やや上等めの服。そしてほんの数点、男物の装飾品を身に
つけ、腰にはガラクタを半分ほど詰め込んで膨らませた銭入れを下げている。

「そういうの、どこから手に入れてくるんです?」

 ヴィルフリードは教えるべきか、と少し迷った挙句、結局は「秘密」と短く答
えた。
 逃亡する人間に「便利屋」の存在は、なるほど、役に立つだろう。
 しかし、彼らは中立者だ。他の者にとっても「便利屋」なのである。
 利用すれば、利用されることなんて当たり前である。
 何度か利用している自分でさえ、未だに用心に用心をいくら重ねても、杞憂す
ることなどないのだから。

「まだ日が高いな……」

 よろい戸の隙間から明るさを見て、ヴィルフリードは座りなおした。

「これからどうなさるんですか?」

「……なぁ。本当にやめてくれねぇか。その敬語。
 さっきの……リタと話すような感じでいい」

 しかし、ハンナは微笑んでやんわりと嘆願を払った。
 なんとも、やりづらい。
 心の中で、じゃりと石の粒ごと苦いものを押し潰すような感覚を味わう。

「……まずは日暮れ頃、ギルドに行く。 設定は、荷の護衛を安く頼もうとする商人。
 どっかの似たような護衛の依頼を引き受けた冒険者と依頼人を探して、一緒に
行動して割安に済まそうと交渉に走る。
 上手くいけば明日の朝にでも発てる」

「隠密行動って、夜に行動するものだと思っていましたわ」

「暗闇に紛れるよりも、人に紛れた方がいいって時もあるんだ。
 あんたは、身体能力を発揮するよりもどちらかというと役者に向いてる。
 そうだろう?」

 占い師という生業に携わっていたなら尚更。

「……確かにその通りですわね」

 納得したように、ハンナは綺麗に尖った顎を小さく揺らした。

「最後に確認したいんだが」

 ハンナは、素直な目をヴィルフリードに向ける。
 この女の、一瞬にして仮面を自ら割る所が、全く調子が狂わされる。
 一瞬、その面食らう視線に何を言いかけたか忘れかけたが、無理矢理思考を引
き戻す。

「あー……と。
 ……どの程度の覚悟なんだ?」

 彼女は数度瞬きをし、それだけで問い返す。

「いや、その。
 命の危険を冒してまで逃げたいのか、っていうことだが」

 というのも、どうもハンナからは、切羽詰まった人間にしては緊張感というも
のがあまり匂わない。
 勘でしかないが、連れ戻されたとしても、特にそれほどの命の危険は無いので
はないだろうか。

「前にも言いましたが……戻るわけにはいかないんです」

 ヴィルフリードを真正面から見ているというのに、ヴィルフリードよりも遥か
遠くを見つめているような視線を浴びせられているような気分になった。
 その視線の先は……『姉さん』とやらの存在に向けられているのだろうか。
 なんだか、無性にそれがイラついた。

「……事情は、詳しくは聞かないけどな。
 だけど……勿論、これは例えばの話だが」

 ハンナの焦点が再び戻ってくる。
 苛立ちをぶつけるよう、それをへし折るつもりの強さで問う。

「それは、死んだとしても、ってことも含むのか?」

 彼女は、曖昧に微笑んでそのまま沈黙した。
 ヴィルフリードの苛立ちはあっさりとかわされた、
 十分に時間が経ち、その会話は打ち切られたと思ったその時。俯いたままの小
さな声が聞こえた。

「私は、どちらでもいいんです」

 それは、「逃げるにしろ戻るにしろ」ということなのか、それとも「逃げるに
しろ、死んだとしても」ということなのか。
 ヴィルフリードには、それを質さなかった。
 ただ、最近の抱いていた怒りが少しだけまた焦げ付いた。

「……なぁ。
 それ、流行ってるのか?」

 ハンナの視線が持ち上がるのを確かめる。
 少しだけ自分から視線をずらしたのは、お門違いだと知っていたからだろうか。

「なんでもかんでも一人背負い込んで、オッサンには関係ないって風に振舞って
苛めるの」

 ハンナは宛然とした笑みを作り、再び仮面をつける。

「だって、おじさまとはまだ知り合ったばかりで、事実関係ないでしょう?」

「そりゃそうだ」

 焦げ付いた箇所に冷水を浴びせられ、ヴィルフリードは笑った。
 なるほど。この丁寧な口調は、距離の表れか。ならば、今の口調がさっきより
少しだけ砕けた響きになってきたというのは、喜んでいいことなのかもしれない。

「それに、私はあの子ほどじゃないわ。
 八つ当たりはやめて欲しいわ、おじさま」

 流石は占い師業に携わっていただけのことはある。簡単に矛先は見透かされて
いたようだ。

「……だからかしら。
 時々、あの子が必死で打ち立てたモノを、『そんなものなんて、こんなに脆い
のよ』って思い知らせたくて、蹴飛ばして壊したくなるのは」

 おや、とヴィルフリードは思った。
 自分はもしかしたら、このハンナという女性のことを勘違いしていたのかもし
れない、と思いなおした。
 ふと、ハンナは、突然可笑しそうに笑いだした。

「ねぇ。おじさま。
 あの子のこと、”ルーディ”って呼んだら……きっと楽しいわ」

「はぁ?」

 唐突にそう言われヴィルフリードは面食らう。その一方、ハンナは、どこかし
ら機嫌がいいように見えた。
 やはり、このハンナという女はよくわからない。

2007/06/04 22:13 | Comments(0) | TrackBack() | ○ヴィル&リタ
ファブリーズ 17/アーサー(千鳥)
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PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士(ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ)
  エンプティ  レノア バルメ
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森

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 モルフで育った人間に、魔女バルメのお話を知らない者は居ない。
 「お前のような悪い子は、魔女の使い魔にされてしまうよ」
 それが、悪戯をした子供を叱る大人たちの決まり文句。

 バルメは子供たちを攫って使い魔にしてしまう悪い魔女。
 使い魔になった子供たちは町中で悪戯をして回っ、人々を困らせた。
 しかし、最後には騎士によって倒され、魔女は老木に姿を変えてしまう――。

「――私は、そのように伺っていますが」 

 こわい猛獣などお話の中には登場しない。
 既にこの物語は十分すぎるほど完結しているのだ、猛獣がどちらの味方であるにし
ろ、その存在の登場は不自然でしかなかった。
 俺もモルフの言い伝えにそれほど詳しいわけではなかったが、バルメ祭で語られる
お話はどこの町でも殆ど一緒だった。

「それは、大人たちから見たお話ね」

 悪い魔女はそう言ってふわりと微笑んだ。
 口調や振る舞いだけ見れば、裕福な家庭の婦人のようだった。
 とても森の中で隠遁していた老女のものではない。
 しかし、相手は魔女だ。
 甘いお菓子の匂いと、穏やかな物腰は子供たちを誘惑する為の魔法なのかもしれな
い。
 俺たちもまた魔女の魔法にかかりつつあるのではないだろうか。

「それが事実ではないのか?」

 ジュリアが突き放すように尋ねた。
 バルメは彼女の疑問には答えず、3つのティーカップにお茶を注いだ。
 4本の細い枝を腕のように器用に動かして、カップをお盆に載せる。 

「お茶でもいかが?」

 鼻先に湯気の立つ紅茶を突き出され、俺たちは自然と目を合わせた。
 闇夜の森を疾走し、身体は冷え切っていた。
 しかし、これが魔女の食べ物であることが俺たちを躊躇させた。

「残念ながら、我々はお茶会に招待されたわけではありません」
「あら、残念だわ」

 俺の言葉にも、魔女の穏やかな表情が崩れることはなかった。
 ヴァンが少しだけ残念そうな顔をしたのを横目で見ながら、思案する。
 魔女バルメは、本当に居た。
 しかも、木に姿を変えたまま、再び子供たちを使い魔として操っているのだ。
 全ての子供たちを解放するつもりは無い。
 取りあえず、チャーミーとレノアさえ取り戻せれば帰る事が出来る。
 あとは討伐隊を作るなり、ハンターを雇うなりして本格的な魔女狩りを行うよう
ファブリー氏に提案すればいい。
 後ろのジュリアと自称騎士にはあまり期待はしていなかった。

「ところで、あなたの言った猛獣とは・・・」
 
 鼻歌を口ずさむネコ耳の使い魔の前に、ふわりと黒い布キレが舞い降りた。
 三日月形の目が、布の動きを追って左右に揺れ、大地に視線を落とす。
 身構えた使い魔が飛び掛ろうとしたとき、黒い布は急に形を変えた。
 ばっと布を引っ張る音と共に、黒い布は空気を吹き込んだ風船のように膨らんで
いった。
 まるで、着替える最中に手と首を出す所を縫われてしまったように伸び縮みを繰り
返し、黒い布は最終的に人の形を取った。
 そのうちにどこからともなく手が伸びて、フードから人の顔がのぞいた。
 
「お前は・・・」

 見覚えのあるその顔は、ファブリー家の使いとして俺の事務所にやってきた魔法使
いのものだった。

「折角同行を願い出たというのに、ファブリー家の警備をまかされるなんて、計算外
でした」 

 どうやら、間に合ったようですね。
 そう言って服の埃を払い、辺りを見回したエンプティは横たわるファブリー家の少
年とその従者の姿を見つけると、「そうでもなかった」と眉を寄せ付け加えた。

「まぁ、エンプティ。お久しぶりね」

 老婆が、先程より少しだけ高い声で男の名を呼んだ。

「お久しぶりです。バルメの魔女殿」
「ま、魔法使い。お前はこの魔女の仲間だったのか。やはりぼくの推理は正しかっ
た」

 ヴァンが何故か嬉しそうに腰に手を当てて言った。 
 
「いえいえ、違いますよ。私たちは単なるお茶のみ友達です。200年ほど前の」
「・・・・・・」

 ただの奇術師かと思っていたが、エンプティは本当の魔法使いだったのか。
 しかも、ただ魔法を使える人間というわけではなく、寿命すら超越した類の。
 目の前の老婆もそうだが、それはすでに人間ではない。  

*******************************

2007/06/04 22:20 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ
紫陽花 其の十二/フロウ(聖十夜)
PC:クランティーニ・セシル・イヴァン・フロウ
場所:クーロン・カランズ邸別宅
NPC:フィーク・フィル・パンドゥール フィール・マグラルド

-----

光が、次いで闇が、襲い掛かる。フロウは、吹き飛ばされそうになっていたフ
ィークを抱えて、身体を低くした。爆風が襲い掛かるが、フロウは腕を翳して
耐える。
顔を上げると会場の風景は一転しており、黒焦げになって吹き飛んだ料理と椅
子が散乱していた。他には何事も無かったような客達と、耳を押さえるイヴァ
ン、そしてそれに話し掛けるセシルがいた、のだが
「あああぁぁ!料理がぁ!!まだ一杯食べられましたのですのにいぃ!!」
「そこかよ!」
フィークが突っ込むと、フロウはだってと口を尖らせた。
「ご飯は大切なのですよ!?食べないと死んでしまいますですぅ!!」
「んな事言ってる状況じゃないだろ!」
ああ、もう、と頭を掻くフィークを横目に、フロウは猫さん大丈夫ですかぁと
のほほんと問いかけた。
ズレていても、見るところはちゃんと見ている。。
先程まで辛そうにしていたイヴァンはもう回復したのか、針を取り出してい
た。そういえば周りの客の皆々様が各々武器を取り出しているような気がしな
いでもない。仕事を、っとイヴァンが呟いたが、フロウはうーん、と唸って指
を唇に当てた。
「あはは、皆警戒してますですねぇ」
「お前馬鹿か!こいつら俺ら狙ってんだよ」
セシルが見兼ねたのかお叱りを飛ばしてくる。フロウは一瞬キョトンとし、ポ
ンッと手を打った。
「…成る程」
「て事で自分の身くらい自分で守れよ、構ってる暇なんか無いからな!」
そう言いながら、セシルはナイフ一本で敵の群れに応戦する為に飛び出す。一
方イヴァンは数人の「敵」を倒した後、律義にも依頼主を守っていた。
その辺りはプロである。
どうしようか、と見ているうちに、「敵」の一人がフロウの背後で武器を振り上
げた。気が付いてフロウはギリギリそれを避ける。相手の舌打ち。
「いきなりは危ないなのですよぉ」
次いで横や正面から、一斉に「敵」が襲い掛かってきた。
慌ててしゃがんだフロウの頭上スレスレを釘の付いたこん棒が通り過ぎ、飛び
込み前転の要領で飛んだ胸のすぐ下を、ナイフが唸りながら通過する。
そこにすかさず襲って来たトンファを尻餅をつくように避け、立ち上がった際
にドレスの裾を踏み、少しよろけた耳の横を、ナイフが凪いで行った。
「大丈夫か…あれは」
「この、ちょこまかと!」
セシルの冷めた呟きに重なるように、ナイフを持ったタキシードの男がフロウ
に向かって走り込んできた。その男の視界から、フロウが一瞬消える。目標を
失った男は次の瞬間、真横にフロウの言葉を聞いた。
「ご苦労様なのでぇーすぅ」
フロウにとっては一歩横へズレただけなのだが、男は対応出来ずに振り返ろう
とし、
その首に、にこりと笑ったフロウの手刀が思い切り叩きつけられた。
体格の良いその男は、突っ込んだ勢いのまま白目を向き、倒れながらフロウが
避け続けて何故か一直線に並んだ客達に衝突する。慌てて敵達は逃げようとし
たが、
「あ…足が…動か…」
と呟きながら、次々とぶつかり合い、積み重なって倒れていった。フロウが避
ける際に、手で急所を突いていた事に気が付いていた者などいないだろう。
「人間ドミノ倒しかんせーいなのですよぉ」
セシルが、呆れたようにフロウを見る。そんな彼の元にフィークが飛んでき
て、こっそりセシルに耳打ちした。
「言っとくけど、フロウはあまり怒らせない方がいいぞ。滅多に怒らないけど
な」
「…知るか」
セシルの言葉にフィークが肩を竦める。そのままセシルの側で飛び続けるフィ
ークを、セシルは睨んだ。
「何でついて来るんだ」
「んと、一番危なかしそうだから?」
「迷惑千万」
そう言いつつドレスの裾を踏みそうになるセシルに、フィークは、敵が来る方
向を一々報告する。
そんな二人をのほほんと見ながら、フロウは近くに奇跡的に無傷で転がってい
た壷を、襲い掛かって来たドレス姿の女性の顎に躊躇いもなく叩き付けた。セ
シルが「ああ!いくらすると思ってんだ!」と叫んだが、全く気にしない。裾
を捌いて一挙動で新たな敵の背後へ回り込み、蹴り倒す。
「なあ、あいつ神官とか似合わないんじゃ?」
「俺もそう思…うぅ!?」
一瞬だけフィークがセシルの側を離れた瞬間を見計らったように、敵の手がニ
ュッと伸びて来た。
呆気なく敵の手に握られたフィークを見て、セシルが眉を寄せる。
「…何遊んでるんだ」
「遊んでる訳ねぇだろう!!」
ジタバタと暴れるフィークを手に、敵は大声で叫んだ。
「動きを止めろ!でないとこいつを握り潰すぞ!!」
一瞬の、静寂……
は、訪れ無かった。
イヴァンは聞こえていない訳が無いのに、構わず針を投げ続け、セシルはお
ー、虫頑張れよとやる気無く言いながら敵の攻撃を避けている。逆に捕まえた
男が戸惑う程だ。
「…本当に潰すぞ?」
「どうぞ?」
やや弱気気味に言う男に、セシルがあっさりと頷く。
「プチッと行くぞ?」
「だから良いって」
「セシル!!てめ…」
「本当にやるからなあ!!!」
半分涙目で叫ぶ男の肩に、ポンッと手が置かれた。振り替える男の目に飛び込
んで来たのは、純粋な笑顔。
フロウがニッコリと笑った。
男もつられて笑う。
次の瞬間、男の肘がおかしな角度に曲がっていた。弾みで解放されたフィーク
が、方向転換できずにふらふらとセシルの頭の上に飛んでいき、ポテッと落ち
る。
男が、声にならない悲鳴を上げた。フロウはそれを一瞬冷たく見下ろし、セシ
ルの方へ駆け寄る。
「フィーク、大丈夫なのですか?」
「あぁ、うん、何と、か?」
頭の上から振り落とされたフィークを、フロウは受け止めて様子を見る。
「回復を…」
「だーーわーーやめろ!おかしな所に手が生える!!!」
手を翳そうとしたフロウを慌ててフィークが止めた。フロウはそんな事ないで
すよぉ、と顔を膨らませる。
セシルが顔を引き攣らせて何だそれ、と呟いた。
「そんな事ないっていうならあの男回復させてみろよ」
なおもフィークを治そうとするフロウに、フィークは必死に倒れた男を指し示
した。フロウは男を振り返って、口を曲げる。
「ボクの大切な友達を傷つけた罪人さんにかける魔法なんてありませんですよ」
「まあまあ、そこを試しに」
フロウはむぅっと唸って、未だ悶えてる男に近寄った。男はフロウの姿を見
て、必死に後ずさる。
「お、俺が悪かった!!神に謝るから許してくれ!!」
「神様なんて関係ありませんですよ。フィークがどうしてもって言うからやりま
すですけどね」
フロウはそう言って手を翳し-


頭に一本余分に骨が生えた男の悲鳴は、街中に響き渡ったそうな。


   *   *   *

「ははは、お疲れさん」
全ての客が沈黙した中、イヴァンの足元で、フィルが得意気に言った。ちなみ
に彼は何もやっていない。
フィール・マグラルドはそんな護衛を満足そうに見つめ、腕を組む。
「お疲れ様。見事だったわ」
そんな彼女に、セシルは鋭い視線を向けた。フィールは、どうかした?と首を
傾げる。
「あんた、この襲撃に気が付いてただろう?」
単刀直入にセシルが切り出すと、フィールはあら、と小さく呟いた。
「どうしてそう思うのかしら?」
「爆発や襲撃者に全然動じて無かったから」
「あら?仮にもマグラルド家の当主たる者、そんなものに一々動じてられないわ
よ」
ホホホと笑ってフィールはセシルを見た。セシルはぐっとフィールを睨む。
「一つだけ、聞かせろ」
「愛の告白なら間に合ってるわよ」
「そうじゃない。あんた、何企んでるんだ?」
フィールはスッと笑みを消す。
イヴァンとフィルはじっと二人の会話に耳を傾け、フロウはフィークと戯れて
いた。
たっぷりと時間を置いて、フィールが瞳を閉じる。躊躇うように首を小さく振
り、セシルに視線を向けた。
「そうね。一つだけ、教えてあげるわ」
そのあまりにも重々しい口調に、セシルは唇を引き結ぶ。フロウまでもが真剣
な表情でフィールに視線を向けた。
「せっちゃん」
「変な呼び方をするな!で、何だ?」
「…その恰好で凄んでも、迫力無いわよ?」
うふふ、と笑うフィールに、セシルはガクリと崩れ落ちた。


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2007/06/04 22:24 | Comments(0) | TrackBack() | ▲紫陽花
ファブリーズ 18/ジュリア(小林悠輝)
キャスト:ジュリア アーサー
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
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「我々は、チャーミーお嬢様の希望を叶えて差し上げようと思ったのですよ」

 エンプティは何のことでもないように言って、その少女を一瞥した。レノアは眠り続
けているが、その表情は特に安らかということもないように見えた。屋敷で見た、獣化
の兆候は目立たない。

「ねぇ、エンプティ。彼らは紅茶を飲んでくれないのよ」

「でしたら私がいただきましょう――おや、葉を変えましたか?」

「二百年前の葉はそのまま使えないわ。
 たとえどんなにいいものでもね」

「例外もありますよ。
 いずこかの領主殿は魔法の棚をお持ちのようで」

 魔女は愉快そうに笑って、「だって彼は過去に生きているんだもの、例外よ」と応え
た。何の話をしているのか傍からはまったくわからないが、とりあえずこの状況とはま
ったく関係のないらしいということだけは簡単に推測できた。

 どうでもいいから早く帰りたい。
 ジュリアは苛々しながら口を開いた。

「できるだけ短く事情を話せ。
 でなければ、何も話さずお前らだけでこの場から消えろ」

「そちらの魔女殿は随分と短気でいらっしゃるようですね」

「いま何時だと思ってるんだ」

「一日の内で最も魔女狩りに適さない時限だと判断しております。
 こうなってしまった以上、お話せざるを得ないでしょう……まったく、どうして誘い
入れるようなことをしたのか」

 ジュリアが「手短に」と呟くと、テイラックが「まぁ、そう言わずに」と諌めてきた。
 彼はこれを何らかの機会だと思っているのかも知れない。その可能性についてはジュ
リアも否定しない。有利な返事を得るためには、ある程度の譲歩は必要だ。

「皆様は、バルメの魔女の童話をどれほどご存じでしょうか?」

 テイラックは「一通りは」と応え、ヴァンは「騎士が魔女を倒したんだろう?」と応
えた。ジュリアは自分も何かを言うべきかと悩んだが、無言で通すことにした。
 思いついた言葉はとてもひねくれたものだったから。

 魔女も黙っている。
 エンプティは続けた。

「物語にどれほどの真実が含まれているでしょう。
 魔女を討伐しに森へ分け入った勇敢な英雄に、誰が着いていったものですか。彼が森
へ入り、そして再び人界へ戻るまでのことは永遠の秘密であり、失われた現実なのです」

「だからどうした」

「騎士は本当に魔女を倒したのでしょうか?
 魔女は本当に打ち倒されるべき邪悪だったのでしょうか?
 ――ところで、ヴァン殿」

「えっ?」

 自称騎士は素頓狂な声を上げた。まさか自分が指名されるとは思っていなかったらし
い。目立ちたがりのくせに迂闊とは、また面倒な性格だ。

「庶民はどうやって、騎士と、そうではない旅人を見分けるものなのでしょうね」

「そ、それは……騎士なら従者を連れているし、馬を持っている。
 銀の拍車、紋章入りの盾、剣。そもそも服装だって庶民とは違う」

「従者、馬、拍車、盾、剣、服。それからいくらかの立ち振舞い。
 それさえ揃えれば、きっと私のような者でさえも、立派な騎士に見える……」

「どういうことだ?」

「今こそ推理のし時でしょう、探偵騎士殿」

 ヴァンは沈黙の後に「まさか」と呟いた。
 エンプティは満足そうに頷いた。

「ええ、私が魔女退治の騎士です」


 ……
 …………

「そ、そうじゃないかと思っていたんだ!」

 恐らくその場の全員が、嘘だ、と思った。

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2007/06/04 22:29 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ

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