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2025/03/10 07:13 |
ヴィル&リタ-12 ないものねだり/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
PC:ヴィルフリード、(リタルード)
NPC:ハンナ
場所:エイド(ヴァルカン地方)
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 鏡越しに目が合った。

「おじさまって、本当にすごいんですね」

「……その”おじさま”ってのはやめてくれ。ケツん中がムズ痒くなる」

 あら、とハンナは、やや低く艶のある声を赤い唇からこぼし、くすりと笑った。

「とても似合っていらっしゃるのに」

「……嫌味か?」

 ヴィルフリードは鏡の中の自分を睨む。

「お髭がとっても似合っていますわ」

 言われて、ヴィルフリードは鼻の下に貼り付けた付け髭を軽く撫でつけた。
 それだけではない。
 いつもは、撥ねも気にせず手櫛で適当に結わえられていた髪の毛は下ろされて
おり、油を塗った丁寧に櫛で後ろに撫でつけている。顔は目の下や頬に濃い色を
置き、以前よりも疲れを濃く感じさせる。眉も一部を抜いたり、はたまた書き加
え、やや強い弧を描いたそれは、大きく印象を変えていた。よく見れば目尻にも
何か描き加えてたあとがある。
 薄汚れてはいるが、やや上等めの服。そしてほんの数点、男物の装飾品を身に
つけ、腰にはガラクタを半分ほど詰め込んで膨らませた銭入れを下げている。

「そういうの、どこから手に入れてくるんです?」

 ヴィルフリードは教えるべきか、と少し迷った挙句、結局は「秘密」と短く答
えた。
 逃亡する人間に「便利屋」の存在は、なるほど、役に立つだろう。
 しかし、彼らは中立者だ。他の者にとっても「便利屋」なのである。
 利用すれば、利用されることなんて当たり前である。
 何度か利用している自分でさえ、未だに用心に用心をいくら重ねても、杞憂す
ることなどないのだから。

「まだ日が高いな……」

 よろい戸の隙間から明るさを見て、ヴィルフリードは座りなおした。

「これからどうなさるんですか?」

「……なぁ。本当にやめてくれねぇか。その敬語。
 さっきの……リタと話すような感じでいい」

 しかし、ハンナは微笑んでやんわりと嘆願を払った。
 なんとも、やりづらい。
 心の中で、じゃりと石の粒ごと苦いものを押し潰すような感覚を味わう。

「……まずは日暮れ頃、ギルドに行く。 設定は、荷の護衛を安く頼もうとする商人。
 どっかの似たような護衛の依頼を引き受けた冒険者と依頼人を探して、一緒に
行動して割安に済まそうと交渉に走る。
 上手くいけば明日の朝にでも発てる」

「隠密行動って、夜に行動するものだと思っていましたわ」

「暗闇に紛れるよりも、人に紛れた方がいいって時もあるんだ。
 あんたは、身体能力を発揮するよりもどちらかというと役者に向いてる。
 そうだろう?」

 占い師という生業に携わっていたなら尚更。

「……確かにその通りですわね」

 納得したように、ハンナは綺麗に尖った顎を小さく揺らした。

「最後に確認したいんだが」

 ハンナは、素直な目をヴィルフリードに向ける。
 この女の、一瞬にして仮面を自ら割る所が、全く調子が狂わされる。
 一瞬、その面食らう視線に何を言いかけたか忘れかけたが、無理矢理思考を引
き戻す。

「あー……と。
 ……どの程度の覚悟なんだ?」

 彼女は数度瞬きをし、それだけで問い返す。

「いや、その。
 命の危険を冒してまで逃げたいのか、っていうことだが」

 というのも、どうもハンナからは、切羽詰まった人間にしては緊張感というも
のがあまり匂わない。
 勘でしかないが、連れ戻されたとしても、特にそれほどの命の危険は無いので
はないだろうか。

「前にも言いましたが……戻るわけにはいかないんです」

 ヴィルフリードを真正面から見ているというのに、ヴィルフリードよりも遥か
遠くを見つめているような視線を浴びせられているような気分になった。
 その視線の先は……『姉さん』とやらの存在に向けられているのだろうか。
 なんだか、無性にそれがイラついた。

「……事情は、詳しくは聞かないけどな。
 だけど……勿論、これは例えばの話だが」

 ハンナの焦点が再び戻ってくる。
 苛立ちをぶつけるよう、それをへし折るつもりの強さで問う。

「それは、死んだとしても、ってことも含むのか?」

 彼女は、曖昧に微笑んでそのまま沈黙した。
 ヴィルフリードの苛立ちはあっさりとかわされた、
 十分に時間が経ち、その会話は打ち切られたと思ったその時。俯いたままの小
さな声が聞こえた。

「私は、どちらでもいいんです」

 それは、「逃げるにしろ戻るにしろ」ということなのか、それとも「逃げるに
しろ、死んだとしても」ということなのか。
 ヴィルフリードには、それを質さなかった。
 ただ、最近の抱いていた怒りが少しだけまた焦げ付いた。

「……なぁ。
 それ、流行ってるのか?」

 ハンナの視線が持ち上がるのを確かめる。
 少しだけ自分から視線をずらしたのは、お門違いだと知っていたからだろうか。

「なんでもかんでも一人背負い込んで、オッサンには関係ないって風に振舞って
苛めるの」

 ハンナは宛然とした笑みを作り、再び仮面をつける。

「だって、おじさまとはまだ知り合ったばかりで、事実関係ないでしょう?」

「そりゃそうだ」

 焦げ付いた箇所に冷水を浴びせられ、ヴィルフリードは笑った。
 なるほど。この丁寧な口調は、距離の表れか。ならば、今の口調がさっきより
少しだけ砕けた響きになってきたというのは、喜んでいいことなのかもしれない。

「それに、私はあの子ほどじゃないわ。
 八つ当たりはやめて欲しいわ、おじさま」

 流石は占い師業に携わっていただけのことはある。簡単に矛先は見透かされて
いたようだ。

「……だからかしら。
 時々、あの子が必死で打ち立てたモノを、『そんなものなんて、こんなに脆い
のよ』って思い知らせたくて、蹴飛ばして壊したくなるのは」

 おや、とヴィルフリードは思った。
 自分はもしかしたら、このハンナという女性のことを勘違いしていたのかもし
れない、と思いなおした。
 ふと、ハンナは、突然可笑しそうに笑いだした。

「ねぇ。おじさま。
 あの子のこと、”ルーディ”って呼んだら……きっと楽しいわ」

「はぁ?」

 唐突にそう言われヴィルフリードは面食らう。その一方、ハンナは、どこかし
ら機嫌がいいように見えた。
 やはり、このハンナという女はよくわからない。
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2007/06/04 22:13 | Comments(0) | TrackBack() | ○ヴィル&リタ

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