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2025/03/10 06:34 |
ファブリーズ 17/アーサー(千鳥)
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PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士(ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ)
  エンプティ  レノア バルメ
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森

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 モルフで育った人間に、魔女バルメのお話を知らない者は居ない。
 「お前のような悪い子は、魔女の使い魔にされてしまうよ」
 それが、悪戯をした子供を叱る大人たちの決まり文句。

 バルメは子供たちを攫って使い魔にしてしまう悪い魔女。
 使い魔になった子供たちは町中で悪戯をして回っ、人々を困らせた。
 しかし、最後には騎士によって倒され、魔女は老木に姿を変えてしまう――。

「――私は、そのように伺っていますが」 

 こわい猛獣などお話の中には登場しない。
 既にこの物語は十分すぎるほど完結しているのだ、猛獣がどちらの味方であるにし
ろ、その存在の登場は不自然でしかなかった。
 俺もモルフの言い伝えにそれほど詳しいわけではなかったが、バルメ祭で語られる
お話はどこの町でも殆ど一緒だった。

「それは、大人たちから見たお話ね」

 悪い魔女はそう言ってふわりと微笑んだ。
 口調や振る舞いだけ見れば、裕福な家庭の婦人のようだった。
 とても森の中で隠遁していた老女のものではない。
 しかし、相手は魔女だ。
 甘いお菓子の匂いと、穏やかな物腰は子供たちを誘惑する為の魔法なのかもしれな
い。
 俺たちもまた魔女の魔法にかかりつつあるのではないだろうか。

「それが事実ではないのか?」

 ジュリアが突き放すように尋ねた。
 バルメは彼女の疑問には答えず、3つのティーカップにお茶を注いだ。
 4本の細い枝を腕のように器用に動かして、カップをお盆に載せる。 

「お茶でもいかが?」

 鼻先に湯気の立つ紅茶を突き出され、俺たちは自然と目を合わせた。
 闇夜の森を疾走し、身体は冷え切っていた。
 しかし、これが魔女の食べ物であることが俺たちを躊躇させた。

「残念ながら、我々はお茶会に招待されたわけではありません」
「あら、残念だわ」

 俺の言葉にも、魔女の穏やかな表情が崩れることはなかった。
 ヴァンが少しだけ残念そうな顔をしたのを横目で見ながら、思案する。
 魔女バルメは、本当に居た。
 しかも、木に姿を変えたまま、再び子供たちを使い魔として操っているのだ。
 全ての子供たちを解放するつもりは無い。
 取りあえず、チャーミーとレノアさえ取り戻せれば帰る事が出来る。
 あとは討伐隊を作るなり、ハンターを雇うなりして本格的な魔女狩りを行うよう
ファブリー氏に提案すればいい。
 後ろのジュリアと自称騎士にはあまり期待はしていなかった。

「ところで、あなたの言った猛獣とは・・・」
 
 鼻歌を口ずさむネコ耳の使い魔の前に、ふわりと黒い布キレが舞い降りた。
 三日月形の目が、布の動きを追って左右に揺れ、大地に視線を落とす。
 身構えた使い魔が飛び掛ろうとしたとき、黒い布は急に形を変えた。
 ばっと布を引っ張る音と共に、黒い布は空気を吹き込んだ風船のように膨らんで
いった。
 まるで、着替える最中に手と首を出す所を縫われてしまったように伸び縮みを繰り
返し、黒い布は最終的に人の形を取った。
 そのうちにどこからともなく手が伸びて、フードから人の顔がのぞいた。
 
「お前は・・・」

 見覚えのあるその顔は、ファブリー家の使いとして俺の事務所にやってきた魔法使
いのものだった。

「折角同行を願い出たというのに、ファブリー家の警備をまかされるなんて、計算外
でした」 

 どうやら、間に合ったようですね。
 そう言って服の埃を払い、辺りを見回したエンプティは横たわるファブリー家の少
年とその従者の姿を見つけると、「そうでもなかった」と眉を寄せ付け加えた。

「まぁ、エンプティ。お久しぶりね」

 老婆が、先程より少しだけ高い声で男の名を呼んだ。

「お久しぶりです。バルメの魔女殿」
「ま、魔法使い。お前はこの魔女の仲間だったのか。やはりぼくの推理は正しかっ
た」

 ヴァンが何故か嬉しそうに腰に手を当てて言った。 
 
「いえいえ、違いますよ。私たちは単なるお茶のみ友達です。200年ほど前の」
「・・・・・・」

 ただの奇術師かと思っていたが、エンプティは本当の魔法使いだったのか。
 しかも、ただ魔法を使える人間というわけではなく、寿命すら超越した類の。
 目の前の老婆もそうだが、それはすでに人間ではない。  

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2007/06/04 22:20 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ

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