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2025/10/18 11:23 |
浅葱の杖ーー其の二十一/ファング(熊猫)
キャスト:トノヤ・月見・ファング
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/古い屋敷敷地内
―――――――――――――――
なんの説明もなくただ不気味に佇んでいる屋敷を前に、ファングは
呆然とするしかなかった。

「…何だこりゃ」

かすれた声で、うめく。答えを期待してはいなかった。
あったとしても、きっとろくなものではないだろうが。

空腹で倒れている月見を棒でつつきながら、トノヤが面倒くさそうに
息を吐く。

「どうでもいいけど、俺ら結局どうなったわけ?つーかここどこよ?」
「そう遠くまで来てないぞ。日も傾いてないし」

ワッチがいやに真面目な顔で空を見ている。
ファングは空腹だけで満たされた腹を撫でてから、

「問題はさぁ、なんで俺らがここに連れて来られたかだよね」

したり顔で額のバンダナに手をやって、ごちる。
足は自然と屋敷の裏へと向かう。周辺は霧と森で囲まれ、他に人家はない。
しかも、屋敷へと続く道が――けもの道すらない。
手入れをされていないというより、人が出入りしていた様子がない。
まるでただの広場に、この屋敷が『置かれた』ような・・・。

その事に少なからず戦慄を覚えたファングは、答えを待たずに足を早めた。
壁が切れ、屋敷の裏が霧の中から出現する――

「うぉい…」


墓地である。


規模はそれほどではないが、少なくとも20基ほどの墓石が並んでいる。
更に増した寒気を抑えるようにして、思わずファングは
自分の二の腕を掴んだ。

「なぁ、おい。皆こっち来―」
「黄泉の国へよーこそー」
「ひぎゃあああああああああ!」

振り返ったすぐその目の前に、ランタンで照らされたトノヤの顔(白目)
が出現したので、ファングは思わず悲鳴をあげていた。

「よーこそー」

パニックに陥りそうになる自分の胸を押さえ、唾を飛ばさん勢いで
叱咤する。

「いや、それはもういいから!」
「ひゃっひゃっひゃっ」

飽きずに笑うトノヤを振り払って、ファングは言葉を続けた。

「おかしいって!なんで屋敷の裏が墓地なんだよ?」
「葬儀屋だったとか。名付けて葬儀屋敷」
「いや、いくら葬儀屋でも自分の家に墓地作んないから。
つか意味不明だから」

顔色ひとつ変えずに言うトノヤに、膝から力が抜ける。
ワッチと月見は、とうとう屋敷のドアを壊しにかかっていた。
特に月見に丸め込まれたらしいワッチが、岩を掲げているのが酷く気掛かり
で、
さすがにファングは止めに入った。

「やめろそこの破天荒と破廉恥!」

―――――――――――――――
文なんて書き方忘れたんですけど。
つか、焼きプリンの意味がわかんねぇ。
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2007/03/09 01:05 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
立金花の咲く場所(トコロ) 36/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:リリア リック 
場所:エドランス国 アカデミー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 もう一度校舎内に戻り職員室前に戻った四人は、壁にすえられた掲示板の
ところで足を止めた。
 そこにはアカデミーで行われる一月分の授業の表が張り出されていた。
 表には「実技・槍・1」や、「実技・精霊・3」なんてのや、「座学・剣・
2」や「座学・政治・4」などが、各教室と時間で区切れたマス目に配置され
ていた。
 リリアはどこに持っていたのか、両掌を合わせたぐらいの紙切れを取り出
すと、ヴァネッサとアベルの前に差し出して見せた。

「この表にあるのが私たちが受けられる授業の一覧で、実技は実践、座学は
講義のみのこと、後の数字は授業の進行番号で、1から順に内容が進むよう
になってるの。クラスの授業と旨く調節して好きなのをこの申し込み用紙に
書いて職員室の受付にだすんだよ。」

 リリアがみせた紙には名前と希望授業を書き込めるようになっていた。

「朝きたら出しておくってのが基本かな。クラスの授業も私たちのような二
巡目以降になると出なくても問題ないのもでてくるから、日によってはこっ
ちを優先させたりいろいろ自由にできるんだよ。」

 それに頷きながらリックも付け加える。

「クラスの授業は各クラスでばらばらだから、この表にはいちいち書いてな
いし、進み方も教師によってぜんぜん違うから、一日の予定がはっきりする
当日の朝に出すのが良いんだ。」

 へーなるほど、と感心するアベル。
 ヴァネッサも感心してきいていたが、ふと気づいたように言った。

「れにしても、当日の朝でこれだけの生徒の受講希望にあわせて、予定を処
理できるなんて、すごいですね。」

 お、とリックが見直したようにヴァネッサをみる。

「眼の付け所が良いね。食堂のと同じで、この情報処理・管理システムもア
カデミーの開発したものなんだぜ。」
「えー?魔法とか料理とか武具とかそういうのはわかるけど、なにそれ?」
「んー、アベルはいまいちわかってないみたいだけど、こういうところが凄
いとこなんだぜ。王宮だってこのシステム使ってるから、エドランスは行政
処理が迅速正確って評判を得られてるんだ。」
「・・・・・・へー・・・・・・。」

 アベルは「とにかく凄いことらしい。」といった感じて気のない返事を返
したが、ヴァネッサにはなんとなくわかる気がした。
 実家の宿でも宿泊予定や食堂の注文とか少し込み合うととたんに混乱して
間違わないように必死になったことがあるからかもしれない。
 不特定多数の情報を管理し適切に処理をする。
 人がこなす事としてこれはかなり難しいことの一つなのだ。

「あはははは、だめだめ。」

 こまったアベルの助け舟というわけでもないだろうが、リリアが話に割り
込みリックの口をふさぐ。

「リックはそういう地味~な話語りだすと長いんだから。」
「ちょ、おい!」
「はいはい、とにかく受けたい授業はあさいちでここにだしにくれば良いっ
てこと。」

 リックを適当にあしらいながらリリアはアベルとヴァネッサに念を押した。

「うーん、それにしても俺たち、ここのこと何んにもしらねえなぁ。」

 アベルがさすがに考えるようにつぶやいた。

「やっぱリック達みたいに予備校?とかいっかなきゃならんのかな?」
「なーにいってるのよ。」
「そうそう、別に俺たちもそこで教えてもらったわけじゃないぞ。」
 
 リリアもリックも笑いながら首を振る。

「アカデミーでは全部自分でやっていくのが基本なんだ。この専門課程の授
業にしたって自分で選択してとっていくんだ。別に先生が決めてくれるわけ
じゃないし、とり方やそれぞれの授業の説明をしてもらえるわけでもない。
買い物の仕方にしたって、もっといえば施設の場所なんかもね。」

 リックのことばにリリアも少し前を思い出すようにに続ける。

「私たちも能天気に過ごしてたら、授業の申し込みはわからないし、買い物
もどこですればいいかもわからない。ギルドの仕事しながらやっていくつも
りだったのにどこが窓口かもわからない、でかなりトホホだったんだ。」

 少し照れたようにいったリリアはそこで明るい笑顔を見せた。

「でもね親切な先輩にあえて、色々教えてもらえたんでなんとかなったの。」

 自分たちが親切にしてもらったから、次は別誰かに・・・・・・。
 なんていうほどお人好しの二人ではなかったが、友達に最初にしてやれる
こととしてはこれだろうと思ったのは確かだった。
 照れ笑いをうかべるリリアとリックをみて、なんとなく気持ちを察したア
ベルとヴァネッサもつられて笑顔になる。

「情報収集は冒険者の基本とはいえ、こんなことで時間つぶすのは何だしな。」

 そういってリックは軽くアベルの肩を叩いた。

「これで大体必要なことはわかったと思うけど・・・・・・どうする? なんだか
んだまわってるうちに結構良い時間だけど?」

 なんならのまま街にでも繰り出してみるか?そうリックがきいてきたので、
アベルとヴァネッサは顔を見合わせて頷いた。

「今日はいったん戻りましょう。早くかえれるなら女将さんの手伝いもでき
るし、ね。」
「そうだなぁ、今日のところはそうしたほうがいいか。手伝える時はなるべ
く戻ってないと忙しくなったら迷惑かけるんだろうし。」

 意見をあわせる姉弟にリリアもリックも頷いて見せた。

「それじゃあ仕方ないねー。」
「ん、じゃあ俺たちは単位の引継ぎの手続きとかもあるから。」

 リリアとリックは用があるということなので、姉弟は先に帰ることにした。

2007/04/01 20:39 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 37/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ウサギの女将さん
場所:エドランス国 せせらぎ亭

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただいまー」
「ただいま帰りました」

アベルとヴァネッサは、せせらぎ亭に戻った。

「あらあらあら、おかえりなさい。案外、早かったわねぇ」

とたとたと軽い足音を立てて、女将は店の奥から現れる。
そして、ちょっと首をかしげた。

「あらあらあら? 二人だけ? ラズロ君はどうしたの?」

女将の言葉に、二人は少し困ったようにお互いを見る。

「それが……教室で別れた後、ちらっと姿を見たきり、なんです」

ヴァネッサは、隠してもしかたないと思い、ありのままを話した。
リリアとリックと会話している時に見かけた後、ラズロの姿は見かけなかった。
女の子達に囲まれて逃げられなくなっているのかもしれないし、一人でぶらぶらとア
カデミー内を探索しているのかもしれない。

女将は、ぴん、と耳を立てた。
そして、くすくすと小さく笑い出した。

「でもでもでも、きっと、そのうちに帰ってくるわ。あまり心配はいらないと思う
の」
「え?」
二人は、不思議そうに女将を見つめる。
しかし女将はまったく意に介さぬ様子で、楽しそうに笑っている。

「うふふふ。ラズロ君は女の子に人気があるのねぇ。質問責めにあってるわよ」

――女将の特技である、『音の聞き分け』スキルが発動しているらしい。

「……ところで……今日はお弁当、いらなかったのかしらぁ?」
女将は、頬に手を当てて、ちょっと寂しげにうつむいた。
「あ……」
ほとんど無意識のうちに、二人はカバンに手をやる。
その中には、女将が持たせてくれたお弁当が入っている。
女将特製のパンの中に、ヴァネッサが作った野菜とひき肉を炒めた具の入ったもの
だ。

「すみません、今日は、テストがあっただけで、授業はなかったんです……」
「ごめん、女将さん」

ヴァネッサが申し訳ない顔をし、アベルが頭を下げると、

「あらあらあら、そんな、気にしないで。もしかしたら必要かもしれないと思って、
作っただけなのよ」

と、女将はふさふさした両手を前に出し、気にしないで、と訴えた。

「それに、私はパンを焼いただけ。具はヴァネッサちゃんに作ってもらったんだも
の。ね」
「は、はい」
茶目っ気たっぷりのウィンクをされて、ヴァネッサはしどろもどろで頷いた。

「さてさてさて、それなら、お弁当は、今食べちゃいなさいな。待ってなさいね、
ちょうどお茶でも飲もうと思ってたところだから、二人の分も用意するわ」
「あ、手伝います」
後ろについて行こうとしたヴァネッサを、女将は止める。
「いいのいいの。初めてアカデミーに行った後なんですもの、疲れてるでしょう?」
女将はそう言うと、とてとて、と奥に向かう。

二人は近いところのテーブルにつき、カバンから弁当を取り出した。
包みを開け、小さく、いただきます、と言ってからパンに手をつける。

「アベル君、アカデミーでうまくやってけそう?」
黙って食べるのも変なので、ヴァネッサは聞いてみた。
アベルは口いっぱいに頬張っていたパンを飲みこんでから、答えた。
「なんとかなるって。知ってる人もいるし」
「うん、そうだね」
「同じクラスにゃ、ラズロもリックもリリアもいるし」
「初めてだな、同い年の女の子の友達……私、正直、何を話したら良いのかわからな
かったけど、明るい子だから、話してて楽しかったな」

ヴァネッサは、手元のパンに視線を落とし、ちょっと微笑んだ。
生まれて初めてできた、同い年の女の子の友達。
そう思うと、リリアという存在が、ものすごく貴重な気がする。

「あー。そうだな。俺だってラズロに会うまで、同い年のやつに会ったことない」
「そうだね。ずっと、私か、ずっと年上の子と遊んでたもんね」
「そうそう。俺、ずーっと、同い年の男友達欲しかったんだ」

ヴァネッサは、屈託なく笑うアベルを見て、心の中で一言詫びた。

(ごめん、アベル君……無理矢理、作った花輪を頭に乗せたりして)

女の子みたいで嫌だ、と明らかに拒絶の姿勢を示す幼いアベルに、姉の権力で花輪を
乗せたことが、かつてあった。
一度きりで、しかもすぐに半泣きで払い落とされたが。

「じゃあ、今は願いがかなって、幸せ?」

ヴァネッサが尋ねると、アベルはなんだか悩んだような表情を見せた。

「んー……。でもなあ、なんていうか、ラズロは友達っていうのとは、なんか違うん
だよな。なんつーか……目標っつーか、そんな感じ」
「それって……ライバル、ってこと? 」

ヴァネッサは、思わず身を乗り出していた。
弟に、そんな存在ができるなどと考えたことがなかったのだ。

「確かに、剣の腕前は凄いよね……」

ちらり、とギサガ村のまっくら洞窟でのことを思い出す。
巨大アリを食い止めている時の剣さばきは、天性の才能を思わせた。

「剣の腕だけじゃないよ。あいつ、おっさんと一緒に旅してたんだろ? それって、
将来やりたいことを見つけようとしてるってことじゃねえのか、って俺、思うんだ
よ。俺、自分が将来何をしたいかなんて、村にいた時、一度も考えたことなかった
ぜ。ずっと、ギサガ村での生活が続くと思ってたし……俺、ラズロに出会った時、こ
のままでいいのか、って思ったんだよな」

「そっかあ……」
弟は、一歩、大人に向けて成長している。
それは微笑ましくもあり――なんとなく寂しいことでもあった。

「お待たせ。さあさあさあ、どうぞ」

そこへ、女将がティーポットとカップを載せたお盆を持って現れる。
なれた手つきでカップにお茶をそそぎ、それぞれの前に置く。

「ありがとうございます」
「ありがとう、女将さん」
「うふふふ。どういたしまして」

女将は、いそいそと椅子に腰掛けた。

「どうだった? アカデミーの様子は」
「すっごく広い!」
「うふふふ、それはそうよぉ。覚えるのに時間がかかるのよねぇ」
「リック君とリリアちゃんも、そう言ってました」
「あらあらあら、それは誰?」
「同じクラスの人で、今日、知り合ったんです。いろいろ教えてくれて、案内もして
くれたんです」
「まあまあまあ、良かったわねぇ。良いお友達になれるといいわねぇ」



――そんな具合で、せせらぎ亭の時間は過ぎていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2007/04/01 20:42 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 38/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ファーナ ラズロ ギア セリア
場所:エドランス国 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エドランスを中央列国の覇権争いから切り取り、「山と森の田舎」におしこめた
要因のひとつ
である国を囲むようにそびえる山々。
 しかしその山々こそが気流を断ち切り、一年を通じて安定した天候を保つのに
大きな役割を担
っていることを、アベルたちは基礎授業の地学で知った。

(今日もいい天気だけと、アベル君は大丈夫かな?)

 基礎はクラスで一緒だし、それ以外でも座学は一緒に受けられる。
 しかしさすがに実技はそうはいかない。
 魔法を学ぶヴァネッサは教室の窓から外を眺め、いまごろは剣の実技試験の最
中のはずの弟に
思いをはせていた。

「ヴァネッサ、ボーっとしてるなんて、結構余裕?」

 横合いからヴァネッサの頬を軽くつついた細くしなやかな指の持ち主は、明る
く良く通る声を
していた。
 振り向いたヴァネッサに微笑むその相手は、まるで絵画の中から抜け出てきた
ような美しい容
姿をしていた。
 絹のように光沢を放つ黄金の髪は、まるで純金を磨き上げたようで、全体的に
小柄ながら幼さ
を感じさせない顔は一見すると冷徹な印象を与えそうなほど整っているのに、そ
の淡く緑を浮か
べる瞳といたずらっぽく笑みを浮かべる口元が太陽の光のように暖かさを感じさ
せる。
 白い透き通るような肌に暖かさを感じさせるのは、彼女のその「表情」ゆえだ
ろう。
 その彼女は、髪の間に見隠れする上部がとがった独特の形をする耳が示すよう
に、妖精族の出
身で、この世界では亜人種としては比較的良く見るエルフとよばれるタイプだった。

「なーにを心配してるか知らないけど、こっちもそれどころじゃないでしょ。」
「そうね、ファーナさんのいうとおりね。」
「あー、もう。さんはいらないって!」

 彼女、ファーナはクラスメイトの一人で、たまたまよくおなじ魔法基礎の授業
をとっていたこ
とからなかよくなったのだ。 見かけこそ少女なファーナだが、実際はもう100
年を生きていると
知ってから、ヴァネッサはついつい年長者として対応してしまうのだが、エルフ
と人間は生きて
いる時間が違うので、100歳とえばエルフでは小娘扱いのファーナとしては、さ
ん付けはきにいら
ないらしく、最近では前述の掛け合いが挨拶代わりになっていた。

「ふふふ、ごめん。ファーナのいうとおり、ね。」

 ファーナがいうよに、ヴァネッサもまた魔法の実技試験を受けに来ていたのだ。
 試験といっても、実技単位取得というアカデミーで受けねばならない試験の中
では緊張すると
かそういう部類にも入らない、授業の総括的なものだったが、それでも上の空で
通してもらえる
ほど甘いものではないはずだった。

「じゃあ、次は……。」

 待合室となっている教室の入り口に、次の生徒を呼びに来た案内の女性が姿を
見せる。
 そろそろ自分の番。
 それを察して声をかけてくれたクラスメイトに感謝しつつ、ヴァネッサは窓際
を離れた。


 ヴァネッサが教室で試験の順番待ちをしているころ、アカデミーの敷地内にあ
る訓練場をかね
た構内公園では、爽やかな草の香りを乗せた風が優しくそよぐ青空の下、「長
剣・実技」の試験
が行われていた。
 10人が輪になり、その中で能力を調整されたゴーレムを相手に時間内に規定
以上のダメージ
を与えるという方式で一人づつが試験を受けるというのが試験の内容だった。
 最初の一人は2階生で、槍術ではすでにLV3までいっていて実践も何度も経験し
ているというだ
けあって、危なげなくクリア。
 二人目は基礎クラスは違うものの、剣術の授業ではよく同じ時間をとっている
こともあって比
較的なかのよい少年だったが、こちらは残念ながら失格だった。
 その後二人続けて合格してラズロの番になった。
 前の二人が「なんとか」合格したのに対しラズロはかなりの余力をのこしたま
まのクリアだっ
た。
 ほかの生徒とともに戦いを見守ったアベルは内心、最初の2階生よりも剣に関
してはラズロのほ
うが上と感じていた。

(てこたぁ、ラズロは2階生でも通用するってことか。)

 試験用の模擬剣を次の順番であるアベルに渡そうと、ラズロが歩いてくる。
 
「……実力を出せるかどうかだけだ。」

 この一月、初日こそのんきにしていられたが、次の日からは怒涛のような日々
が続いた。
 アカデミーそのものと下宿先でのバイト生活に慣れるのに時間がいったのと、
PTに誘ってくれた
リックとリリアに追いつこうと、冒険らしい依頼が受けられる「戦闘系スキル
LV1」の条件を満たそ
うと取れる限りの授業を受けてきたことが、まさに目の回る日々を決定付けた。
 そのかいあって、入学一月足らずで試験までこぎつけられたのだ。
 当然その間、アベルはラズロと一緒の授業を受けることが多く、お互い殿程度
の実力なのかはよ
くわかっていた。
 相変わらず言葉は足らないが、ラズロはアベルがほかの受験者のように舞い上
がって実力を出し
切る前にタイムアウトする危険性を忠告したのだった。
 
「わかってる、よ!」

 剣を受け取り、ラズロと入れ替わるように縁の中央へとでてきたアベルは二三
度感触を確かめる
ように剣を振り回してから正眼に構えて、「開始」の声をまった。



「うちのひよこ達はどうだい?」

 職員室で書類を整理していたセリアの元を、アカデミーでも名を知られた「ガ
イアマスター・ギ
ア」が訪ねたのは日が沈んで少ししたころ。
 アカデミーは昼も夜も関係ないので、中は昼と同じように様々な人がうごめい
ている。
 もっとも、修士以下は仕事をしたり寮住まいだったりのため、夜は帰るという
二重生活をするの
がほとんどのため、実際の数はかなり減っているのだけれども、それでもなお人
が多いということ
なのだ。
 当然ギアのいうひよこ達も、今頃は食堂の手伝いに精を出しているため、アカ
デミーには姿がな
かった。

「ギア殿が心配することはなにもなさそうですよ。三人そろって、LV1をクリア
したようだし、基礎
でもそろそろPTでの実習にでれそうですよ。」
「そりゃだいぶ早いなぁ。」
「なにいってるんですか。」

セリカはあきれたように先輩を見上げる。

「もともとこのクラスは二順目以上、最低でも予備科を経た者ばかり。わかって
てねじ込んだんで
しょうに。」
「ははは、まあそうなんだが、社会通念とかそっちのほうはさすがに心配だった
しな。」
「そうですね、ラズロはともかくあの二人があんなに優秀とは思いませんでした
よ。」

 セリカは初日にやったテストの結果の一覧を見せた。

「ほう、ヴァネッサは予想通りだが、アベルも結構やるなぁ。」

 実を言えば、アベルも行方知れずの父にしっかりした教育を受けていた。
 専門的な知識に関しては、次第に剣の方のめり込んでいったこともありたいし
たことは知らない
が、一般常識に関しては辺境の田舎育ちとは思えない水準で学んでいた。

「実技のほうは心配してないんだが……。」

 心配してないといいつつきにしてるのがみえみえで、その様子にセリアも笑い
そうになってしま
う。

「そうですね。ラズロもアベルも問題なくクリアしたようですね。ヴァネッサ
も……。」

 試験結果のレポートをめくりながら話していたセリアが戸惑ったようにくちご
もる。

「ん?クリアしてるんだ?」
「ええ。私は戦士で魔法のほうは明るくないのでちょっと……。」
「どうしたんだ?」
「えーと結果は間違いないんですが、そのレポートにですね、『精霊の祝福を得
られる可能性あり』
と書いてあるんですが、どういうことかわからなかったもので。」
「ほう……。」

 少し困ったように言うセリアからレポートをうけとって内容を確認したギア
は、思わず口元が緩
むのを感じた。
 試験ではアカデミーで開発した感応石に魔力を決められたようにコントールし
て注ぐという、魔
法の中ではすべてに通じる基礎が課題だった。
 ヴァネッサは村にいたときから、特に回復・治癒といった人に作用する魔法を
修練していたため、
魔力コントロールは初心者の域を超えていたが、試験官を驚かせたのはそれでは
なかった。

(精霊魔法でもないただの魔力供給で精霊力の比率が高い、か。ふふふ、呪で
縛ったわけでも、まし
てや盟約や契約なんてしてもいないのに、精霊達が自分から力を貸したってか。)

 まれに精霊たちは自ら進んで力を貸してくることがあるという。
 心なのか魂なのか、そうなる素質が何なのかはいまだ研究者の間でも見解が分
かれているところで
はあるが、一つわかっていることは、魔法の技術として精霊の力を「利用」する
のとはまったく違う
可能性を手にすることができるということ。
 例えば、エルフのような妖精族は技術ではなく、精霊を友としみとめあうこと
で力を借りる。
 人間が開発した魔法に比べ、「破壊」の系統は明らかに少ないが、代わりに奇
跡とも言えるような
魔法を行使することもあるという。
 そうした精霊の力を借りられる状態を称して、「祝福」と呼んでいるのだった。
 
「ふふふ、まあ精霊系に素質ありって事だな。」
「はあ。」

 ギアは詳しい説目は避け、レポートをセリアに返した。
 その後雑談を少ししたギアは、適当なところで切り上げて職員室を出た。
 

―――――――――

2007/04/01 20:46 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
蒼の皇女に深緑の鵺 03 /セラフィナ(マリムラ)
PC:セラフィナ ザンクード
NPC:
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ここの地元民なら…頼みたい事がある。もし良ければ…この先のカフールと
いう地
への近道を案内して欲しい」

 この申し出に、セラフィナは即答できなかった。いろんな思いが頭を駆け巡
る。
 “仕事”で死にかけたところを命拾いで済んだ、というのなら、仕事相手を
追うつもりなのだろう。そして、その仕事相手というのは致死量の毒と鋭い刃
を持つ敵。彼の動きから考えて、1対1ではココまでの深手を負わせること
は、余程の手練でも難しいと思われる。複数、いや、多数と考えるのが適当
か。味方を探そうとしないあたりは味方を信用しているのか、それとも一人で
戦っているのか。どちらにしても戦場がカフールへ移ろうとしているのは確実
のようだった。

「案内をするには、貴方は目立ちすぎます」

 セラフィナが小さく苦笑すると、ザンクードは「問題ない」と自分の体を見
やった。

「傷が癒えれば姿を隠す術は持っている。人目に付く前に傷が癒えれば済む話
だ」

 彼はどのくらい川を流されてきたのだろう。その流されたことで、敵に先ん
じる事が出来ればよいのだが。カフールまで、徒歩では丸一日かかっても辿り
着けないかもしれないのだから。

「川を渡る際に馬を捨てたので、細い道を辿ることは出来ますが歩きになりま
す。よろしいですか?」

 疲れて、いた。本当は横になって一晩休んで、患者の容態を確かめてからカ
フールへ向かうつもりだった。が、そんな余裕はなさそうだった。彼の敵が
“侵略種”であるとすれば、危険なのはカフール国民だ。背負い袋の中から松
明を取り出し、焚き火から火を移した。荷を背負って立ち上がる。

 夜だというのに、ザンクードはセラフィナを止めることなく立ち上がる。や
はり急ぎなのだ、とセラフィナは思った。急ぎの理由は追っ手か、それともカ
フールへ向かった方か。どちらにしてもここでの長居は望んでいないことは明
白だった。

「夜目は利きますか」

 松明の明かりに照らされ、ザンクードの黄色い複眼が不気味に光る。蟲種の
平均など知らないが、人に比べると若干大柄な彼を見上げて聞いた。

「こっちの心配は無用だ。それより案内は大丈夫なんだろうな」

 不遜に答える彼の先を歩き出しながら、セラフィナの心はざわついていた。
嫌な予感というか、危険な匂いが辺りにたちこめているような、そんなざわつ
きだった。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 夜間の山道で、その上獣道となると、早く歩くというのはかなり難しい。し
かもセラフィナは護衛のために武道を身につけているものの、サバイバルな特
殊訓練などの経験を積んだことない素人同然だ。そんなときにカイならば……
と思うが、自分は彼ではないし、彼にはなれない。せめて治療の前であった
ら、と疲労の色も隠せない。
 遅々として進まぬ山道歩きに痺れを切らしたのか、ザンクードがセラフィナ
の腕を掴んだ。

「このままでは遅れをとる。本当に近道なんだろうな」

 そして、腕を掴んで初めてセラフィナの手のひらが赤く腫れていることに気
付く。疲労も色濃いセラフィナは、手を隠すように小さく笑みを浮かべた。

「貴方が追っている相手がどこからどういうルートを辿ったのかは分かりませ
ん。でも、この場所からならこちらへ向かった方が近いのは本当です」

 すると、しばらくの沈黙の後にザンクードはセラフィナを小脇に抱え上げ
る。

「え、あの……」
「こっちの方が早い。方向を指示してくれ」

 少しは信頼してくれているのだろうか、いや、きっと急ぎたい為だろう。そ
してそれはセラフィナの予測が大きく外れていなかったことを意味する。

「……わかりました。月の方角にもう少し進めば沢に出るはずです。さっきの
川とは別の支流になりますが、そこからなら川沿いに進めば……」
「口を閉じておくことだな。舌を噛むぞ」

 ザンクードは傷が完治していない身でありながら、セラフィナを抱えて森の
木々を縫うように走り始めた。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「まずいな……」

 濁流が収まってきたとはいえ、流木や土砂が両岸を埋める沢が木々の隙間か
ら見えてきた頃、ザンクードは走るのを止め、周囲に気を配り始めた。一旦下
ろされたセラフィナは、そのザンクードの様子を伺う。

「間違いない。“連中”の匂いだ」

 触角が小刻みに震える。風は上流から流れており、風下なためにまだ見つか
ってはいないだろうが……。

 セラフィナには読み取れない表情でザンクードは上から見下ろすと、自分の
武器と鎧を確かめ、セラフィナに告げた。

「隠れていることだな。出て来られると足手まといだ」

 セラフィナが黙って頷くのを見届け、ザンクードは木々の合間を上流に向か
って駆け出した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

2007/04/04 22:56 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺

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