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2025/10/06 17:39 |
47.前夜祭/イートン(千鳥)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  メイルーン 市長邸
NPC ナスビ・クリエッド・市長ワトスン(クリスティ・ハドソン夫人)
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 儀式前日。召喚術に必要なアイテムを揃える為に、イートンとクリエッドは早朝から馬車に乗ってクーロンへと向かった。やはり、怪しげなアイテムを入手するなら、あの町ほど適した場所は無い。金さえ払えば、あの町の商人は何でも揃えてくれるのだから。

 流れる景色を眺めながら、イートンは八重と出会った頃の事をぼんやりと思い出す。ソフィニアからクーロンに続く街道で、二人は出会った。
(私たちが出会って、まだ一ヶ月も経っていないのか・・・)
 確か、出会って直ぐに八重のルナシー化を目の当たりにしたのだ。あの、恐ろしい人喰いウサギの姿を。その時体験した恐怖に、一瞬体を震わせながらも、イートンは自分の勘が外れていなかった事を強く核心する。
(あの時は勢いで旅に同行させてもらったんだよなぁ)
 英雄の物語を書く。それが最初のイートンの旅の動機であった。それまでにも、何度か小旅行を繰返してはいたが、今回は長い旅になる事を覚悟して屋敷を出た。そして、今まで読んだどんな物語より刺激的な生活をしている気がする。魔族のニーツが仲間になり、可愛らしくも不思議な生き物が自分の足元を転がっている。
(今は、小説を書く暇も無いな)
 この物語の結末を知る者は、今はまだ誰も居ない。

「あのー、これー、何か・・・動いてるんですけど」
「そうですね、イートンさん」
 いや、むしろ浮いている。
 クーロンの奥まった路地を通り、一見何屋だか分からない小さな店の中に二人は立っていた。もちろん、如何にも執事と言った出で立ちのクリエッドと、お坊ちゃま然としたイートンがそんな場所を通っていけば注目を浴びるのは当然で、一目見るなり物盗りに変身した男たちにクリエッドが乱射するという一幕があったり無かったり・・・。
「儀式には新鮮な生贄が必要なさかいなぁ」
 店の外観に劣らぬ怪しげな店主が、訛りのある口調で商品の説明を続ける。
 置かれた箱全てが何らかの運動性を持っていて、ガサ、ゴソと音を奏でる。むしろ唯一動かない、一番小さな箱が異様な波長を放っていて怖い。
(しかも、やたらに重いし・・・)
 元々体力には自信が無いが、腰が抜けそうな程に、重い。
 敢えて何が入っているか訊かない事にした。

 市長邸に帰還したのは、既に随分と夜が更けた時刻であった。
(気持ち悪い・・・・) 
 動く荷物の番をしていたイートンは、完全な乗り物酔いに陥っていた。そんな様子を見てクリエッドが言葉をかける。
「荷物運びは屋敷の者にさせましょう」
「すいません、クリエッド」
 空を見上げれば満月と見分けがつかぬほど丸い月が地上を照らしていた。八重は今ごろどんな思いでこの月を見ているのだろう。
 庭の方でガサゴソと音がした。
 しかし、好奇心よりも疲労感の方が強いイートンは敢えて見ないふりをして玄関に向かう。
(きっとナスビちゃんが遊んでるんですね・・・) 
 そして、その勘は間違っていなかった。

「ようやく帰ってきたか」
 ホールには、疲れた顔をしたニーツがいて、そんな彼を口説くエドガーが居た。
(・・・人が疲れてる時に、その顔晒しやがって)
 などと思っている事など微塵も感じさせないホエホエとした笑顔のまま、イートンはエドガーを「邪魔です」と追い払い、ニーツの顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?顔色が悪いですけど・・・」
 彼もだいぶ無理をしているのだろう、普段より青白い顔をしたニーツはそれでも首を振って、無理に表情を明るくして見せた。会ったばかりの時に比べて、彼の態度は随分と柔らかいものに変わっていた。少女とも見紛う容姿の彼だが、時折見せる徹底した冷徹な態度も彼の本性であろう。
(魔族がどんなこと考えてるか何て、人間の私には分からないけど・・・)
 彼が、自分たちに親しみを覚えるくらいには仲良くなっていると思うのは、自惚れでは無いはずだ。
「で、これを明日の夜までに覚えろ」
「・・・・・え?」
 別のことを考えていたので、イートンの反応はかなり鈍かった。細かく、几帳面な文字が紙の上を走っていた。枚数にして6枚。
「うわー、ニーツ君って字、綺麗ですねぇ」
「出来ないのか?」
 癖のある字にコンプレックスを持つイートンはとりあえず逃避してみる。しかし、ニーツの視線がそれを許さない。全ての紙に目を通したイートンは観念したように息を吐いて言った。 
「うぅ、頑張ります・・・」
今夜は眠れそうに無い。

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2007/02/17 23:43 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
48.捕まえられたら/八重(果南)
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PC 八重・イートン・ニーツ
場所 ヴェルン市長亭 
NPC クリエッド・ワトスン市長(ハドソン・ジェームス)・ナスビ
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「今回の作戦を説明する」
 そう言ってニーツはテーブルの上に大きな紙を広げた。テーブルを囲んで八重、イートン、クリエッド、そしてイートンの膝からテーブルに乗り移ったナスビがその紙を覗き込む。
「これ、ヴェルン湖周辺の地図ですよね」
 ニーツが広げたヴェルン湖周辺の地図には、赤いペンでしるしがつけてあり、しるしの横にはそれぞれ、ポイントA、ポイントBという言葉が書かれている。
「見てわかると思うが、今回の作戦はこのヴェルン湖で行う。ここに空き地があるだろう」
 そう言ってニーツは指でポイントAを指した。
「俺とイートンは市長より先に行ってここで待機し、召喚ゲートを張る。クリエッドはこのポイントA付近に邪魔者が入ってこないように見張っていてくれ。誰一人として入れるな」
「分かりました」
「そして、八重」
 ニーツの言葉に、八重は顔を上げた。
「お前の役目は市長をヴェルン湖のポイントBに誘い出し、魔族化した市長をある程度弱らせ、挑発し、ポイントAにおびき寄せることだ。まあ、あまり期待はしてないが、頑張れ」
「ひどい言い草だな」
「当たり前だ。変身したらお前は自我もなく暴れまわるんだろう。それに、そのお前をコントロールするのがあれじゃ、な…」
 ニーツに冷たい視線で見られ、ナスビは憤慨して言った。
『オマエ、我輩の新の実力が信じられないとでも言うのかッ!』
「しょうがないですよ、ナスビちゃん」
 イートンが苦笑して言う。
「いつもそんなコロコロしてるんですから。本当は強いって言われたって、にわかには信じられませんよ。ねぇ、ニーツ君?」
「まあ、一種の危険な賭けかもな」
『イートン!ニーツ!!』
 ナスビはふんっと鼻を鳴らすとえらそうに言う。
『まあいい。貴様らがそんな軽口を叩いていられるのも今のうちだ。<ヴェルンの涙>を持つ我輩の新の力を見た暁には、貴様らなんぞもう足元にも及ばないほどのビューティフルかつ、最強の我輩の姿をその目で拝ませてやるからなッ!』
「ああ、分かったから、お前は八重と市長のすぐ側に潜んでおけ。いいな?」
 それでも、『いーや、貴様らは我輩の実力を分かってないッ!!』とばたばた暴れるナスビと、それをとりおさえるイートン、冷たく見つめるニーツの喧騒をよそに、八重は窓の外を見つめていた。青白い、病人のような月がこっちを見ている。
(俺は、いつまで<ルナシー>でいなくてはならないんだろうな…)
 八重はため息をついた。
「…‥エンジ…」


「ああ、夢のようだわ」
 ヴェルン湖が、夕方の光に紅く染まるころ、<勝負モード>の化粧をしたハドソンは、八重とともにヴェルン湖畔を歩いていた。
「こうして八重様と夕方のヴェルン湖畔を散歩できるだなんて…。なんてロマンチックなんだろう…。ねぇ、そう思わないこと?八重様?」
 一人勘違いをしているハドソンに、八重はいつになく優しく笑いかけた。
「ふふっ」
「あら、今日はご機嫌がよろしいのね?」
 ハドソンが顔を輝かせる。
「いつもなら、すぐ私の前からいなくなってしまわれるのに。ねぇ、もしかして、私の求愛に応えてくれる気になったのかしら?」
「求愛、ね…」
 ヴェルン湖に夕日がゆっくりと沈むのを見つめていた八重は、不意に言った。
「ミセス・ハドソン、<おにごっこ>は好きかね?」
「お、おにごっこ?」
 困惑した表情を浮かべるハドソンに、八重は言う。
「君がおにで、私が逃げる。それで、もし君が私を捕まえられたら」
 夕日は、もう一本の赤い筋になりかけていた。八重は言う。
「君の言う、求愛とやらに応えてやろう」
「そ、それは本当かい?八重様!」
 ハドソンが興奮のあまりばふーっと鼻息を噴き出す。夕日は、最後の光を残し、西の空へ消えた。
 夕日が消えたとたん、ハドソンの肌がどす黒い色に黒ずんできた。顔と手に、もしゃもしゃと黒い体毛が生え、瞳の色が血のような紅い色に染まっていく。
『くんくん、匂うぞ匂うぞ。オマエも<モンスター>だろ?』
 今やヒトの原型を失いつつある<ジェームス>はにたぁっと笑った。
『オレはなぁ、一度でいいからオマエみたいなタフなヤツと戦ってみたかったんだよぉ』
「それは光栄だね」
八重が苦笑を返す。
『おにごっことかいったよなぁ?いいぜぇ、やってやるぜぇ』
ジェームスはぺろりと舌なめずりをした。
『捕まえて、オマエの肉を喰ってみてぇ』
「さて、そうカンタンに捕まえられるかな?」
 そういう八重の体からも徐々に白い体毛が生えてきた。目が鬼灯色に染まる。
「そのまえに俺がオマエを喰らってしまうかもしれないな」
 バリバリっと服が裂け、耳が伸び、体が巨大化する。一瞬後には八重の体は巨大なモンスター<ウサギ>と化していた。
「グルルルルゥっ…」
 <ウサギ>が恐ろしい唸り声を上げてジェームスを見下ろす。
『くははっ、やっぱ、そうこなくっちゃなぁ』
 ジェームスがにたぁっと笑う。
『こいよ、ウサ公。勝負しようぜぇ』



2007/02/17 23:44 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
49.ヴェルンの魔族再び/ニーツ(架月)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  ヴェルン湖
NPC 市長(ジェイソン)・ナスビ・ベル=リアン・ユサと部下達
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「大丈夫でしょうか。八重さん」
 儀式の準備もすっかり整い、あとはニーツの指示を待つのみになったところで、イートンが呟いた。
「まあ、大丈夫だろう」
「そんな安易な…」
「信じるしかあるまい?まあ、いざとなったら、俺が何とかするさ」
「ニーツ君一人で?」
「…今夜は満月だ。何とでもなるだろう」
 ニーツはそう呟き、夜空を見上げる。紅く色付く真円の月。
 そう、満月に影響されるのは何も融合生物だけではない。ニーツ達魔族自身もまた、その影響を大きく受けている。
 いつもより強い力をその身の内に感じながら、ニーツは視線をイートンへ移した。
「それより、お前もそろそろ詠唱を始めた方が良いぞ」
「ええ?もうですか!?」
「遅すぎて困ることはあっても、早すぎて困ることはないだろう?」
「そ、そうですけど…」
 と、カンニングペーパー片手にイートン。
「忘れたら、隣で教えて下さいね」
「ああ。…っと言いたいところだが…」
 ふとニーツは、何かを見つめるように、瞳を細めた。しばしの沈黙のあと、おもむろに、口を開く。
「イートン、此処はお前一人がやれ」
「ええええ!?何ですか?いきなり!!」
 あまりのことに、イートンは思わず絶叫した。
「野暮用が出来た」
「野暮用って…」
 脱力するイートンには全く構わず、ニーツは遠くを見つめる。
「クリエッドではヤバイな…
 イートン、いいか?失敗するなよ。タイミングを見誤るな。お前に全てが掛かっているんだからな」
「え?え?」
「早く終われば戻ってくる。じゃあ」
 言いたいことだけ言い置いて、ニーツの姿はかき消えた。後に残されたのは、呆然とするイートン。
「ちょっと待って下さいよ。僕一人でどうしろと…」
 こんな事なら、意地でもおじさんに頼んでおけば良かったと、イートンは思わずにはいられなかった。

 未だ戦闘の痕が色濃く残るヴェルン湖湖畔。
 そこでニーツは、”野暮用”に向かって、言い捨てた。
「何だ。どんな客かと思えば…お前か」
「随分とご挨拶だね。こっちは…待ちくたびれたよ!!」
 いきなり襲い来る炎の弾を、避けもせず、ニーツは腕ではじく。火傷一つ負っていないその腕を戻し、ニーツは相手をひたと見据えた。
「…死んだと思っていたがな」
「死ねるものか!シュワルツェネ兄の敵を討つまでは!!兄は…兄は…僕を庇って…」
 金の瞳に恨みと憎しみを宿し、野暮用こと、ベル=リアンはニーツを睨み付けた。
「自業自得だろう」
「うるさい!シュワルツェネ兄は、一度も間違ってなんかいない!」
 噛み付くように、ベル=リアンは否定する。
「兄は悪くない。間違っているのはお前の方だ!この、色違いのはみだし者!」
 勢いに任せて言い放たれた言葉に、ニーツの目の色が変わった。
 風もなく木々はざわめき、小さな生き物達は、息をひそめる。
 一瞬にして、世界がその存在を変えていた。ニーツの魔力が支配する世界へと。
「ほう…」
 ニーツの唇が、笑みを形作る。しかし、その目は笑っていない。
「懐かしい呼ばれ方だな…」
「シュワルツェネ兄が教えてくれたんだ!魔族としても、生き物としても、お前の存在はおかしいんだって」
 流石に魔族の端くれだけあり、ベル=リアンもひるむことはない。暫し睨み合う二人。先に口を開いたのは、ニーツだった。
「ふふ…確かに、そうかもしれないな。けれど…」
 ニーツが翳した手のひらに、信じられないほどの魔力が凝縮していく。
「俺を怒らせた事、後悔するんだな」
「く…おい!出てこい!!」
 ニーツの迫力に押されながらもベル=リアンは声を上げた。それに従うようにあちこちから飛び出してきたのは…
「人間を引っぱり出してきたか…確か、ユサとか言ったな?」
 不愉快そうに、ニーツは言う。ベル=リアンはユサ達を引き連れ、誇らしげに笑った。
「シュワルツェネ兄が遺してくれたんだ!」
 だが、ニーツはそんなベル=リアンに嘲笑で答えた。
「それで勝ったつもりか?愚かしいな」
「どうかな?人間相手に手が出せるの?」
「あまり、甘く見ないで貰いたいな」
 一瞬の沈黙。
 動いたのは、二人同時だった。

 "狂犬"と"ウサギ"が睨み合っているのを、じっと見守っている影があった。
 影は、ゆっくりと夜空に皓々と輝く月を見上げる。
 射し照らす光は、ゆっくりとその影にまとわりつき、変化していく。
 小さな、丸っこい影から、人影へ。
「やれやれ…」
 漏れ出る声は、紛れもなく、青年のもの。
「あの魔族も、大概人使いが荒い。いや、ウサギ使いか?」
 黙っていれば可愛いのに、と、すっかり変化を終えた影は独りごちた。
 一つに束ねた長い髪が、風に翻る。
 すらりと伸ばされた指の先に、仄かに光が灯った。
「古より定められし契約よ、我がマスター、ドクター・レンの名に於いて遂行されん。
 其は束縛を望むもの。我と彼とを繋げ。――鎖縛」
 青年の指先の光が弾け、見えない鎖が、暴れウサギへと絡みつく。
 今にも狂犬に飛びかかろうとしていた<ウサギ>の動きが止まる。くるりと向きを変え、反対方向へ駆け出した。
『あ、おい!待て!!』
 それをすかさず追いかける狂犬。二匹のそんな動きを確認して、彼は紅い瞳を細めた。
「さて、行くか」
 そう呟き、自身もその二匹を追うために、走り出した

2007/02/17 23:44 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
50.イートン、道《ゲート》を開く ~市長の苦悩編/イートン(千鳥)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  ヴェルン湖
NPC 市長(ジェイソン)・ナスビ・ベル=リアン・ユサと部下達
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「イートン君、ちょっといいかな?」
 儀式の前夜、ニーツから渡された紙と必死に向かい合うイートンの部屋に、予期せ
ぬ来訪者が現れた。イートンはすぐさま扉の向こうの人物の正体に気づき、少し驚い
た表情で扉を開ける。
「どうしたんですか・・・市長・・・?」
 最近ではずっと他の人格に主導権を握っていた、ワトソンの久々の出現である。
「こんな時間に済まない」
「いえ。どうぞ」
 イートンはワトソンを部屋の中に招き人を入れようとしたが、彼はそれを片手で制
し扉の前で話を始めた。
「明日の儀式は私にとってとても重要な意味を持っている。君に失敗は許されない。
全力で当たって欲しい」
 高圧的な口調だが、これが本来のワトスン=ベーカーウォールの姿である。なまじ
クリスティやらハドソン夫人などという奇天烈な人格が潜んでいるため、元の人格の
彼がまともに見えるが、ワトソンとてメイルーンの市長を務める男である.
「でも、いいんですか?本当に・・・ジェームズがいなければ貴方は市長の座を追わ
れてしまうかもしれないのですよ」
 心配する素振りを見せながらも、皮肉な問いを乗せてしまうのは、イートンが彼と
いう存在を無条件で許せないからであろう。
「残念ながらそれはないだろう」
 イートンの心中など察することなく、市長は自嘲とともに答えた.
「君は知らないだろうが、すでに警備隊の指揮権は私にあるのだよ」
「フワセル一族はどうしたんですか?」

 フワセル一族、それはワトソンのベーカーウォール一族に並んでこの町で権力をも
つ一族だ。クーロンが今より更に混沌としていた頃、近郊のメイル―ンもまた暴力に
支配された町であった。町の荒廃を恐れた時の市長は、ある傭兵の一団を受け入れる
ことで自衛力を強化した。彼らのリーダーがインバル・フワセル、彼らの祖先であ
る。この町に住み着いた彼は尚、部隊の指揮権を渡すことなく地位を確立してきた。
時にはベーカーウォール一族を退け自ら市長となりメイルーンを動かした。しかし、
軍事面を強化した課税は商人、農民の反発を生み、それ以来、メイルーンでは二つの
勢力が事あるごとに、争いを続けていたのだ。
「彼らは既に存在しない」
――――ジェームズに食われた。
「――!」
「彼の行動は年々激しさを増してる。もう、私には止められんのだよ」
 自分の狂った人格が起こす悲劇をワトソンは今までずっと黙ってみているしかなか
った。『ヴィルンの涙』を見つけ、その効果を知ったときの喜びは図り知れぬものだ
った。ジェームズの魂を永久の葬り去る為に、ワトソンもこの機会を逃すわけにはい
かない。

「彼の罪は私の罪。それを補う為なら私は構うものなど無い」

 そう言って、ワトソンはイートンに頭を下げた。

-------
 遠より放たれた強力な魔力の波動は、微風となってイートンの髪を揺らし、頬をな
でた。長い間ニーツの消えた空間を眺めていた彼も、そこでやっと我に返って辺りを
見回す。
「はっ。いけない。早く始めないと、ニーツ君に怒られてしまう!」
 一人で行うのも心配だが、見られていると緊張するので、ちょうど良かったかもし
れない。イートンは今になってそう思い直した。
(間違えたら、すっごくにらまれそうだし・・・)
 森の入り口にはクリエッドが立っていて、ちょうど屋敷と湖を繋ぐ小道にB地点が
あった。目を凝らしても、まだ八重たちの姿は見えないが、月の魔力が既にこの潮に
充満している。そろそろ始めないと本当に間に合わないかもしれない。

 足元に置かれた袋を手にとる。もぞもぞと動く中身が一体何なのかはイートンも聞
かされていない。
 むしろ、恐くて聞けない。
 腰の短剣を抜くと、迷いなく袋に突き立てた。ビクンと大きく痙攣したソレは動く
のを止めた。滴る血が、魔方陣をぬらし、イートンの袖を染める。
(あぁぁぁぁ。ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!祟ったりしないで下さいね)

 ――――満る月の下、九十九の贄と我が血をもって汝に捧げる。
 双頭の獣を従え、紅き剣を佩く門の番人よ、
 いま一時の気まぐれに我が呼び声に答え給え。
 溢れる杯は汝の手にあり。
 金烏は羽根を落とし、足元に伏したり。
 我は開門を願う者なり。
 魔界とこの地を結ぶ高き番人よ、
 漆黒の空より降り立ちて、その光を<道>と成せ――――  

 イートンの呪文に答えるように、文字が浮かび上がり光り始めた。さすが、ニーツ
が頭を悩ませて作っただけある。特別なマジックアイテムと段階さえ踏めば魔力のな
い者でも行使できる、理論重視の魔法陣。魔力に溢れた人間ならもっと簡単に儀式を
行えるであろう。
『だから意味があるんだろう?下手に厄介な魔族を降ろされても困るしな』
 そう言ったニーツの言葉を思い出す。さらにこんな事も言っていた。
『ようは気合だ、気合』
 ソレが一番自分に欠けているような気がしなくも無いが。

 カンニング・ペーパを捲りつつ、イートンは長い詠唱を続けた。

2007/02/17 23:45 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
51.イートン、道《ゲート》を開く ~ヴェルンの守護戦士編/イートン(千鳥)

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PC 八重・イートン・ニーツ
場所 ヴェルン市長亭 
NPC クリエッド・ワトスン市長(ハドソン・ジェームス)・ナスビ
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 夜空の光を集め、目映くきらめくヴェルン湖の辺りを、二つの巨大な影が猛スピードで移動していった。
 一つはウサギ、一つは野犬。光の悪戯としか思えない巨大な影は実際を持っても大きなものであったが、満月の悪戯であることも、また否定は出来ない。
 肉眼では見えぬ、細く強じんな糸が幾十にもそのウサギの身体に巻きつき、自由を奪っていた。悶えながら引き摺られるその身体を黒い犬が追う。その距離を次第に狭
 まっていた。
 野犬がウサギに追いつくよりも早く、ウサギのするどい爪が身を拘束する糸を引きちぎった。勢いで軽くバウンドするが、すぐさま応戦の姿勢に入った。
 
「切れた。さすがルナシーというべきか・・・」

 前方を走っていた青年が舌打ちとともに振り返る。
 長い髪が音を立てて広がるが、赤い紐で結われていためすぐに彼の背中に落ち着いた。その色は月の白い光に酷似しながらも、仄かに赤みを帯びていた。その髪よりも
 さらに暗い赤の瞳を半眼にして、青年はあとわずかに迫った魔方陣と、戦う二匹を交互に見た。

「イートンがどれだけ詠唱を終えたか分からぬからな・・・」

 逆方向に走り出すこともないだろう。
 そう見当をつけて青年は魔方陣の中枢へと跳んだ。

 ―――

 詠唱が途切れた。それは節と節との間に置かれた束の間の休息。
 イートンは額の汗をぬぐって一息吐いた。

「・・・ふぅ」
「おい。イートン」
「うわぁぁぁ!?」

 いきなり後ろから声がして、心臓が止まるかというほど驚く。

「何をそんなに驚いておるのだ。
 まぁ、ゲートを固定できた事は誉めてやらぬでもないが」
「・・・・・」
「どうした?」

 イートンはその紫の瞳を見開いて、背後に現れた成年の顔を食い入るように見つめた。

「・・・ナスビちゃん?」
「いかにも。ふふん、我輩のビューティホーな姿に感服したようだな」

 満足げにイートンを見下ろす成年・・ナスビは、木兎の時と変わらぬ尊大な赤い瞳を満足げに細める。
 白い貫頭衣に、中から紅い薄布が重ねてある。全身を白に染め上げたその衣装にイートンは見覚えがあった。そう、ニーツの持ってきた本に描かれていた、ヴェルンの戦士の服だ。胸元には金の糸に通された赤い珠が幾つも光っており、その数により地位と強さが示されたという。

「うっわー」

 ヴェルンの古代人に遭遇したイートンは頭のてっぺんからつま先まで無遠慮に見つめて、一言。

「かわいくない・・」
「な、何だと!このメガネがっ!」

 その言葉にすぐさまナスビが反応する。

「だって、前の姿の方が絶対可愛いじゃないですかー!」
「我輩の美しさがわからんとは。だからお主はメガネなのだ!」
「こんなん、抱っこしてると思ったら悲しくなりますよ~」
「お主が勝手にやってるだけであろうが!!」
「もう遊んであげないですよ」

 ―――――望むところだ。
 そうナスビが叫ぼうとした瞬間、ジェームズの咆哮が湖に響いた。

「・・奴らの存在を忘れておったわ」
「八重さんは、大丈夫なんですか!?」
「なに、そう簡単にはやられぬだろう。それより、ニーツはどうした?」
「それが僕にも・・野暮用が何とかって」
「ふぅん」

 ナスビは生返事をしながらニーツの気配を探る。ルナシーやジェームズよりもさら
に抜きんでた魔力を放つ気配が一つ。そしてまた、別の存在も感知された。

「まぁ、心配要らぬ。これからジェームズを前方の魔方陣に招き入れる。お主はそこから出てはならぬぞ」

 ヴェルン湖の辺(ほとり)に描かれた魔方陣は二つ。一つはイートンが立つ召喚用の魔方陣、もう一つは魔族の力を封じ、魔界へ送り返すための魔方陣だ。イートンが己の血を使わずにゲートを開いたのは、実際の召喚を避けるためであるあ。しかし、術者の血と代用できる動物は稀少で、今回使われたのが例の袋の中の・・・・謎の生き物である。

「八重さんは魔法陣の中に入っても大丈夫なんですか?」
「我輩が切り離す。良いか、絶対にこの外には出るでないぞ?術の失敗が市長のような存在を生むのだからな」

 引きつった笑いを浮かべながらイートンは頷く。
 そして、次の段階の呪文を唱え始めた。

---

「どうした、ウサ公。」

 ジェームズの振るった爪が深く八重・・・ウサギの肩を抉った。吹き出す赤い血が白い毛を染める。しかし、ウサギもまた低い唸り声を上げてジェームズに襲いかかる。
 横に飛退いたジェームズだが、高く飛んだウサギは素早く身体を反転させて蹴りを放った。重心の低いウサギはそのまま続けてジェームズに体当たりを食らわせ、その
 身体に歯を立てる。今度はジェームズが血をまき散らしながら、地を転がる。
 二匹の力はほぼ互角だ。
 お互いに見つめあったまま、態勢を整える。雲一つかかる事なく満月は彼らの上空にあった。その光を浴びてウサギの赤い瞳は獰猛さを増し、野犬は零れる月の光りを振り落とすように黒い身体を奮わせた。
 二匹が同時に地を蹴った瞬間、その間に人の形をした影が滑り込んだ。

 「離れよ。じゃれ合っている暇は無いのだ」

 二匹の鼻先に両手を広げる。
 掌より放たれた魔法に二匹はあっけなく吹き飛ばされた。

「我輩はヴェルンの守護霊なり。
 この地での争いは我輩の審判無くしておこなうこと不可能であるぞ」
「おまえだな・・さっきから邪魔してるのは」

 ジェームズがその鼻で素早くナスビの正体を察知する。

「邪魔なのは・・ぬぅあっち!」

 ジェームズと向き合っていると、後ろからウサギが攻撃を仕掛けてきた。それをすんでで避けて、ナスビは水面に着地した。静かに波紋を広げるヴェルン湖に立ってナスビはうなる。

 「本当に邪魔なのはウサギの方か・・」

 一応正体は八重なのだから無駄に攻撃はできない。しかし、手加減などすれば危険なのは自分の方だ。

「全く、久々に元の姿に戻ったというのに・・・」

 腕を組んで溜息をつくと、ナスビは再び戦い始めた二匹の前に割って入った。


2007/02/17 23:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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