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2025/10/05 17:46 |
42.召喚術とドクター「レン」(後編)/八重(果南)
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PC イートン ニーツ 八重
場所 メイルーン市長邸地下牢
NPC (ナスビ) クーロン
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 それは分厚い、古い本だった。表紙にはなにやら複雑そうな魔方陣の図が描かれている。
 ニーツは、黙ってその本のページを繰った。
「うわあ…」
 中を覗いたイートンは、思わず声を上げた。中は、小さい文字でびっしりと説明が書き込まれている。時々図も描いてあるが、それは魔方陣の図や、なかには、魔族が人を食らう図など、恐ろしい図も描かれてあった。
「召喚魔法は、直接魔族と対峙して交渉する儀式だからな。最悪の場合、呼び出した魔族に喰われる危険をも伴っている」
「そうなんですか…?」
「しかし、世の中には変な人間がいてな、その行為を<悪用>したヤツがいる」
「<悪用>って…、どういうことです?」
「…あった、このページだ」
 ほの暗い図書館で、人間が魔族をどのように使うのか、ふと気になって、気まぐれに開いた本、<召喚術体系>。その中で、ふと、自分の興味を引いたページが、こんな場所、こんなところで役に立つとは、ニーツは思いもしなかった。ニーツは、声に出して読み始める。
「魔族を召喚した際と、魔族との交渉に失敗した際、召喚した人間には以下のようなことが起こりうる危険性がある。一つ、その魔族に喰われる。二つ、魔界に引きずり込まれる。三つ、その魔族の全部、あるいは一部が召喚した人間の体に融合する。…ここは基本だな。ここじゃなく、このもっと下、…ここだ」
 ニーツの言葉に、イートンと八重の体に緊張が走る。
「魔族が人間に融合した場合。その人間は、魔族と融合した分だけ、魔の力に支配される。主な特徴として、凶暴化、異形の姿に変身することなどがある。殊に、満月の夜は魔の力が増幅するため、どんなに軽症のものでも、そのものの凶暴化や、異形化は避けられない定めとなろう」
「これは…っ、<ルナシー>の症状と同じじゃないか!」
 八重が、そう言って、いきおいよく身を乗り出した。
「凶暴化…、異形化…、<ルナシー>とは、<魔族と融合した人間>のことをいうのか!?そうなのか!ニーツ!」
「落ち着け、八重とやら」
 そう言って八重をたしなめたのは、他でもない、クーロンだった。
「お前は、早合点しすぎる傾向があるようだな。情報を知りたいなら、もっと慎重に構えたらどうだ」
「…っ」

…十年だぞ、十年何も掴めなかったんだ。

 その言葉が喉まで出掛かった。が、そんなことを他人にぶつけた所で何になるというのだろう。何にせよ、クーロンに戒められたことは的を得ている。
「…先があるんだろう?ニーツ、続けてくれ」
 はぁ…、と息をつくと八重は肩を落とし、床に座った。ニーツは、そんな八重にじぃっとした視線を向けた後、無言で先を読み始めた。
「…普通、これは厄災であり、一種の病としてみなされる。だが、中には、魔族と融合することにより、その人間が強力な魔力をもち、強靭な体になるというところに着眼し、積極的に魔族と人間との融合を研究した、極めて稀な人物もいる」
「極めて稀な人物…?」
 不思議そうに、そう呟いたイートンは、突然はっとした。
「もしかして…、もしかして、そういうことなんですか…!ニーツ君…?」
「イートン、何がだ?」
 焦る八重と、身を乗り出すイートンをニーツは目で静止すると、読み始めた。「その人物は、独自の研究の結果、魔族と人間を融合することで、新たな生物を作り出すことに成功した。その人物の名は、ドクター<レン>…」
「ドクター<レン>…?」
「そうだろう?ナスビ?」
 ニーツは、そう言ってナスビをじろっと睨んだ。
「そいつがお前の生みの親の名だな?」
『…軽々しく、その名を口にするな』
 ナスビはニーツを横目で睨みつけた。
『我がマスター、ドクター<レン>を侮辱するものは許さんぞ』
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2007/02/17 23:32 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
43.ヴェルンの愉快な(?)仲間達/ニーツ(架月)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  メイルーン 市長邸
NPC ナスビ・クーロン
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「…マスター、ですか」
『左様。ドクター<レン>は、我がマスターであり、ヴェルンを発展せしめた偉大なる人物である。お前ごときに、軽々しく呼ばれる道理はフギャ…!』
「で、そのドクター<レン>なんだが…」
 胸を大きく張って―いるつもりなのだろう―言うナスビを再び踏みつけながら、ニーツが淡々と言葉を続ける。
「コイツがまた…」
『コイツとは何だ!コイツとは!お前などとは格が違う…!』
「はいはい、ナスビちゃん。相手にしてもらえなくて寂しいんですね。…貴方も、満月の夜には凶暴化するのですか?」
 イタチゴッコになりかけた二人の会話を、慌ててイートンが遮る。そのイートンの言葉に、八重は思わず、頭の中で想像してしまった。
―満月の夜、辺りの人間を喰らいながら、暴れ回る二羽の兎の怪物…
(できれば、勘弁して貰いたいな…)
 思わず自分でそう突っ込んでしまうほど悲しい想像を、八重は無理矢理追い払った。それにかぶるように、ナスビが答える。
『否。我輩はそのような事はせぬ。我輩は、我輩の元の姿に戻るのみよ。無論、力もな。
 暴走せぬ、魔族との融合。それこそ、我がマスターの最終目的。我輩は強力すぎてこのような器に封印されることとなったが…
 魔族よ、マスターの偉大さが、解ったか!』
「やはり愚か者だな。そいつは」
 得意満面の口調で言い切ったナスビの言葉を、しかしニーツは冷淡に切り捨てた。
『な…何…!?』
「そもそも、魔族を召還して、自分の力にしようと言う考え方が好かないな。弱い人間が、強さを求めてなんになる?魔族の力を手に入れて、ヴェルンはどうなった?何をした?
 戦争。侵略。そして、最終的には、自ら滅んでいるじゃないか。他力本願な考え方をして、残ったのはお前と、八重や市長のような『化け物』のみではないか」
「化け物は無いんじゃないのか?ニーツ」
「否定出来るのか?」
 呆れて言葉を挟んだ八重だったが、ニーツに即答され、肩を竦めて黙り込んだ。
「まあ、そう言う事じゃな。不相応な力を求めるもんじゃない、と言うことだ。おおと、其処な木兎。こやつに手を出そうと考えない事じゃ。倍返しでは済まされんぞ?」
 クーロンの言葉に、ニーツに対して臨戦態勢に入っていたナスビは、グッと力の開放を押しとどめた。
「コイツはワシの孫娘みたいなものでな。性格はよおく解っておる。あまり怒らせると、この街が吹き飛ぶぞ」
「孫…”娘”?」
「言葉のあやだ。気にするな。クーロン、あまりふざけたこと言っていると、本当にこの街を吹き飛ばすぞ?」
「ああぁぁ!!それは止めて下さいぃぃぃ!!!」
 ニーツとクーロンのお茶目な言い合いに、涙目でイートンが声を上げる。
 だが、クーロンはしれっと言い放った。
「ワシは別に構わんがな」
「僕は困りますぅぅぅ…!!」
「まあ、冗談はこれくらいにして…」
「冗談なんですかぁぁ!!??」
「当たり前だろう。さて、話がずれた。本題に戻すぞ」
 あくまで冷静にそう切り返すニーツに、イートンは思わず脱力した。
(うぅぅ…魔族って、解らない…)
 思い悩むイートンを余所に、話はどんどんと進んでいく。
「先程もちらりと言ったとは思うが、市長は、ドクター<レン>の失敗作である可能性が高い」
「…そうはいっても、ニーツ。そのドクター<レン>は、千年も前の人物なのだろう?」
「ああ、そうだ。だが、八重。もしその召還術で融合した魔族が、その融合させられた人間の”血”に欠片を自らの”血”を残していたとしたら?」
「……」
「市長の血脈の中には、確実に魔族の血脈も宿っている。魔族は融合したまま、代々伝えられてきた。
 最も、それが具現するのは、何代…いや、何百代に一人なんだろうけどな。例え親がまともな人間であろうとも、その血の中には、確実に狂気が潜んでいるんだ」
 ニーツの説明に、八重は小さく息をついた。
 ずっと探し続けていた答えが、ようやく姿を見せ始めたのだ。
「市長の中では、いくつもの魂が溶け合っているんだろう」
「…私も、そうなんだろうか…」
「多分な。ティターニアが言っていた、千年前のお前…それは多分、お前の先祖か…」
「でも、彼女は間違いなく八重さん本人だといっていましたよ?」
 精霊の森。
 ついこの前のことなのに、遠い昔の記憶を探るように、イートンは王妃ティターニアの言葉を口にする。
 だがニーツは、軽く肩を竦めただけだった。
「融合した魔族によっては、千年程生きることも可能かもしれないからな。ひょっとしたら、ティターニアの言った通り、八重自身だったのかもしれない。まあ、それは八重が記憶を取り戻さない限り、解らないことだ。だが市長は、この街で生まれ、この街で育った。過去を知っているものがいる。そうだろう?イートン」
「はい…」
「だったら、そう考えるのが普通だろうな…」
 そこで、ニーツは小さく息を吐いて、言葉を切った。
 数瞬の沈黙。
 それを破るように、イートンが口を開く。
「それで…」
「ああ。それで、市長の中の魔族、その融合を解く方法なんだが…」
 イートンの問いかけを含んだ言葉に、ニーツは、本を捲った。

2007/02/17 23:34 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
44.通りゃんせ/イートン(千鳥)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  メイルーン 市長邸
NPC ナスビ・クリエッド・市長ワトスン(クリスティ・ハドソン夫人)
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「この本には、魔族は召喚した者の生気を奪いきったら勝手に帰っていくと書いてあるが…」
「それじゃあ、市長が死んでしまいます!」
「もちろん、それは困る。混ざった血を別けることは出来ないが、あれだけの魂が絡まっているんだ。市長の体には魔族の魂も宿っている」
 ページ捲っていたニーツの手が止まる。そこには人間が魔族を召喚させる方法が書いてある。複雑な魔法陣に入手困難なアイテム。こんな面倒な事をしなければ、人は魔族を呼ぶ事が出来ないらしい。
「それを分離させ。帰す」
「帰す?・・・つまり、市長の複数の魂をくっつけている、原因が、魔族の魂だということですか?ジェームスは魔族だと?」
 首をかしげたイートンだが、自分で結論を見つける。ニーツは「断定はできない」と短く答えた。
「恐らく、満つる月が魔力の解放の力を持つのと逆に、<ヴェルンの涙>には魔力を抑える力があるのだろう。儀式は、<ヴェルンの涙>を外した状態で、もっとも魔族の魂が活性化される夜に行う。俺が、市長に混ざり合った魂の結合を解く。そして魔界への通り道…ゲートを開き、魔界へ魔族の魂を還すのは・・・」
「イートン、お前がやれ」
「ええぇ!?」
 突然の指名にイートンが素っ頓狂な声をあげる。
「なんで僕が!?」
「魂を帰すには、召喚の儀式と逆の順序を踏まなくてはならない。俺たち魔族がこちら側に来るのと、人間が呼び寄せるのは、全然違う。魔法がまるきり使えないわけではないのだろう?」
「でも・・・伯父さんの方が使えるんですよ、ああ見えて」
「イートン」
 ニーツはいつになく真面目な顔でイートンを見上げた。
「俺が頼んでいるのはお前だ。分かるな?」
「・・・ニーツ君。・・・分かりました」 
 思わず心を打たれ、承諾したイートンだが、次に口に乗せた言葉は冷静だった。
「でも、本当は伯父さんに借りを作るのが嫌なんですよね」
「・・・・」
 ニーツの返事は無い。
「すまないな、本当ならば私がやるべき事だろうに」
「謝るのは早いぞ、八重。」
 二人の様子をナスビを弄びながら黙って見ていた八重が口を開いた。
 そんな彼にニーツは皮肉な笑みを浮かべさらに追い討ちをかける。
「なんせ、儀式を行うのは満月の晩なんだからな」

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 突然、書斎に現れたイートン達に、市長は何の反応も示さなかった。
 どうやって牢屋から抜け出したのか、これから何をするつもりなのか。
 ただ、黙って彼らの話に耳を傾けた。
「本当に、私を元に戻せるというのかね」
「僕らを信頼して頂くしかありません」
 イートンの真摯な表情を見つめて、市長、ワトソンは直ぐに視線を逸らした。
 エドガーが主導権を握ろうと、暴れ出したからだ。
「いいだろう。必要なものは全てこちらで手配しよう。
 クリエッド、力になってやれ」
「承知しました」
 いつの間にか扉の前で控えていた執事が慇懃に頭を下げた。
 肘をかけていた椅子から立ち上がると、市長は何かを思い出したように、
「あぁ」
 と声を漏らした。
「「!??」」
 それからの市長の行動は、八重とニーツにとって全く不可解なものだった。
 ただ、イートンがさっと顔色を変え、クリエッドの白い眉が僅かに跳ねた。

「『奥様』。ご客人が驚いておられます」
「何をいってるんだい!クリエッド。だからこそ、奇麗にしなくちゃいけないのさ」
 大きな鏡台の扉を開けた市長は引出しからゴチャゴチャと化粧品を広げ出すと、白
粉を塗り始めた。

((ハドソン夫人!??))

 イートンの伯父の言葉を思い出し、二人は納得した。
 もちろん、その目の前の光景には、依然納得いかなかったが。
「特に、いい男がいるときにはね」
 そう言って、こちらを振り向くと、市長は八重に向かってウインクした。硬直する八重の隣でニーツが笑いを堪えている。
「そこの素敵なお方。紅はどんな色がお好きだい?」
 もしやシャツに跡でも残そうというのか。恐ろしい想像に八重は顔を真っ青にして首を振った。
「答えてやらないのか?『そこの素敵なお方』?」
「ニーツ!」
 ツボにはまったらしい彼は涙を浮かべて笑っている。
 ニーツを叱り付けて、八重は辺りを見回した。いつもならここで彼が助け舟を出してくれるはずなのに。
「・・・イートンは何処に行ったんだ?」
「ナスビもいないな」
「イートンだって!?ふん!そりゃあいなくてせいせいするね」
 夫人が鼻息荒く答える。
「アタシはあのボウヤの母親が大キライでね、あの子がこの町を出るとき行ってやったのさ『二度とアタシの前に顔を見せるな』ってね。」  
 勝手に口紅の色を選ぶ事にした夫人は、茶色がかった赤い紅を塗りたくると、ツッバ、ッパッと音をたてて唇の上の紅を広げ、再び八重に熱い視線を注ぐ。
「どうやら、忘れちゃあいなかったようだね」
 八重も夫人の顔など二度と見たくなかった。

2007/02/17 23:37 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
45.インターバル/八重(果南)
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PC 八重・イートン・ニーツ
場所 ヴェルン市長亭裏庭・地下牢
NPC ナスビ・ワトスン市長(ハドソン夫人)・クリエッド
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 じゃあ、私も人間に戻れるのか?

 その問いに、ニーツとナスビは同時に言い放った。

「『それは無理だな』」


「八重様~、どこにいらっしゃるのぉぉ~」
 草むらに身を潜め、八重は声の主から身を隠した。ここは市長亭裏庭の一角。ハドソン夫人の魔の手から逃れるため、八重はさっきからずっとここに潜んでいる。しばらくこのあたりを執拗に探索していた夫人の足音が、ようやく遠ざかった。
「ふぅ…。あのクソババアめ…」
 一息つくため、習慣的に八重は煙草をくわえた。
「いや、元はジジイだからクソジジイかな」
 その時、後ろからごそごそっという物音が聞こえた。
『見つけましたわよぉ~』
 びくっ、と八重は煙草を口からぽろりと落とした。が、それは一瞬で、八重は振り向くと、
「お前、していいことと悪いことがわかっていないようだな、ナスビ?」
 耳をがっと掴んで、ナスビを目の前にぶら~んとぶら下げた。耳を掴まれたナスビは、目の前でじたばたと暴れる。
『痛いッ!離せッ!今のは、少しからかっただけではないかっ!!』
「ああ、離すさ」
 ぱっと八重に手を離されたナスビは、そのまま地面に思いっきり叩きつけられた。そのまま目の前の地面をころころと転がり、
『起こせっ!起こさんかッ!!』
 仰向けに転がったまま足をじたばたさせる。八重はため息をついた。
「…悪かった。とりあえず、夫人に見つかりたくないから、もう少し静かにしてくれ」
 体を持ち上げ、地面にきちんと立たせてやると、ナスビはえらそうにふんっと鼻を鳴らした。
『全く、はじめからこのように丁重に扱えばいいのだ』
 しかし八重の反応はない。
『…八重?』
 ナスビは八重の顔を覗き込んだ。
『お前、もしや我輩とニーツが言ったことを気にしているのか?』
 ナスビがちょこんと首をかしげる。
『お前の<融合>は解けないと言われたのは、そんなにショックか?』
「…悪かったな。ショックじゃないといえば嘘になる」
 八重は、とび色の冷めた瞳をナスビに向けた。
「生憎、これでも心は人間のつもりなんだ」


「何故だ?何故私の<融合>は解くことができないんだ?」
 牢の中で、八重は目の前にいるニーツに詰め寄った。ニーツはふっとどこか悲しげに目をそらす。
「魔族としての俺の直感だ。お前は、あきらかに市長とは融合の仕方が違う。だから、市長と同じ方法では、おそらくお前の融合は解けないだろう」
『あたりまえだ。マスターの技は偶然の産物の<融合>よりずっと高度であらせられるからな』
 ナスビが誇らしげに言う。
『マスターの融合は綿密な計算と理論の元に成り立っている高度なものである。単に召喚術の失敗に巻き込まれたあの市長とは違う』
「そうだったんですか?市長は召喚術の失敗に単に巻き込まれただけだと」
 イートンが驚いてナスビの顔を見つめる。ナスビは平然と言い切った。
『あたりまえだ。マスターはあんな中途半端な融合生物を創ったりはしない。
 大体、あんなヤツは全然<兵器>に向いてないだろう』
「兵器…」
 イートンが呟く。
「やっぱり、ドクター<レン>は融合生物を兵器として開発していたんですね…」
「だから、ヴェルンだってあんなに発展したんだろう」
 ニーツはさらりと言ってのける。
「じゃあ、じゃあ…、もし八重さんがそのドクター<レン>に創られたものだとしたら、八重さんは元々<生物兵器>だったと…」
『大体はあってるが、正しくは違うな』
 ナスビが言う。
『まあ、詳しいことはこの件が片付いてからでもよかろう。それでいいな、八重』
「…解った」
 まずは市長をどうにかするのが先決だ。それでもいい。どうせ…、人間に戻れないのなら、同じことだ。


 イートンは、クリエッドと一緒に召喚術に使う材料を探しに行った。数日前、ニーツに材料のメモを渡されたとき、イートンが「うげ…」という顔をした。
「蝙蝠の生き血…、大蛇の抜け殻…」
 イートンはおそるおそるクリエッドの顔を見た。
「こんなもの…、手に入れることができるんでしょうか…?」
「大丈夫です。コネがありますから」
 クリエッドはきっぱりと言い切った。
「もう少し経ったらそれらの品を受け取りに行きましょうね。イートンさん」
「やっぱり、行かなきゃ、ダメですか…?」
「年寄り一人に荷物を背負わせる気ですか?イートンさん?」
「うう…」
 ゲテモノが嫌いなイートンにはかなりの苦行だろう。
 ニーツは次の満月に備えて召喚術体系を読みふけっている。書斎をあてがわれ、八重が覗くと、時々、何かうなづきながらメモを取っている姿が見える。
 それぞれに仕事があるのだ。
『お前にもあるだろう、仕事が』
 ナスビの言葉に、八重はうんざりした顔でふうとため息をついた。
「市長が<ジェームズ>化したときのオトリ」
『解っておるじゃないか』
「しかし、それまではあのババアのお守りだなんてうんざりだな」
 市長の足音がまた近づいてきた。八重はまたため息をつく。

 次の満月まで、あと、三日。

2007/02/17 23:39 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
46.十三夜/ニーツ(架月)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  メイルーン 市長邸・図書館
NPC 市長(クリスティ)・クーロン
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 どうしても、理論に何かが足りない気がして、ニーツは本を閉じた。
 夜の帳もすっかり落ち切り、既に月が皓々と地上を照らしている時間帯である。大体この時刻になると、クリスティやらエドガーやらが、何故かお茶を持ってこの部屋にやって来る。折角ハドソン夫人が八重に夢中だというのに、夜は彼が寝てしまうために、夫人も引っ込んでしまうのだ。代わりに出てくる二人は、何故かニーツに執心の為、こんな時刻にお茶、と言う事態が起こる。
 出来れば、どちらかが来る前に、いなくなりたい。
 窓を開けると、夜の冷たい風が、部屋の中にスッと入り込んできた。日がな一日本に向かっているニーツにとっては、心地良い。
 フワリと、ニーツは窓の外に跳んだ。そのまま屋根の上に移動し、空を見上げる。今宵は十三夜。もうほとんど真円に近い月が、ニーツを見下ろしている。
「さてと…、こっちも気が進まないが、行くか」
 なんだか最近、気の進まないことばかりさせられている気がする。心の中で自嘲したニーツの姿は、一瞬後には、其処になかった。

「おねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃん…」
「ああ、ちょっと待って下さいよ!今日くらいは!!」
 嬉しそうにお茶を運ぶ市長-クリスティをと、それを必死で止めるイートンは、書斎の扉を開けた瞬間、キョトンと目を瞠った。其処には誰もおらず、開け放たれた窓から入ってくる夜風が、カーテンを揺らすのみ。
「おや…留守ですか…」
「えー、おねぇちゃんいないのぉ?」
「あの…何度も言うようですが、ニーツ君は女の子じゃないですよ」
「違うよぅ。おねぇちゃん、男の子じゃないわ」
 ある意味、どちらも正しい。
「と、とにかく、今日はいないんですから、仕方ありませんよ」
「え~!!おねぇちゃんと遊びたい!!」
「遊ぶほど、ニーツ君は暇じゃないんですから。ほら、今日は僕が遊んであげますから」
 エドガーとか、ハドソン夫人と入れ替わらなければ。心の中で、こっそりと付け足す。
「えー、じゃあ、仕方ないわ。イートンおにいちゃんで我慢してあげる」
「あ、ありがとうございます…」
(僕も明日は、蝙蝠とか運ばなきゃいけないのに…とほほ)
 クリスティに答えながら、心から涙するイートンであった。

-トン-
 軽い音を立てて、ニーツはその場に降り立つ。
「来よったな」
「来て悪いか」
 すぐ右手の暗がりから聞こえてきた声に不機嫌に答える。
「此処は静かに本を読む場所だぞい。騒がれると困るのじゃがな」
「どうせ、俺しか来る奴はいないんだろう?」
「言いよるわい」
 フッと奥の声の主は、鼻で笑った。
「久しぶり、という感じは全然しないのぅ」
「当たり前だろう」
「お前が来るんだったら、ポポル辺りを呼んでおけば良かったかの?」
「嫌味か?それは」
「おや?嫌いだったかね?ニーツちゃんニーツちゃん騒いでおるぞ?」
「その呼び方がなければ、な」
 心底嫌そうに呟いたニーツに、奥の声は可笑しそうに笑った。
「今日は調べ物かね」
「ああ。見るくらいは良いだろう?」
「別に構わんよ。お前以外、来る者もいないしな」
 ニーツは、声の方を見た。其処には、見覚えのある老人-クーロンの姿。
「それにしても、どうしてお前は、人間の為などに其処までするんじゃ?」
 ふと、クーロンが尋ねた。次の瞬間、辺りの景色が一変する。真っ暗闇だった空間が、天まで届きそうなほど高く、広い本棚群に変わる。
 普段は”知識”という形で保管されている膨大な量の蔵書は、こうして、司書の手によって”本”という形で再現されるのだ。勿論、来た客にどれほど知識を与えるかも、司書はコントロールする事も出来る。特に、貸し出し禁止の指定がされている本は、危険な知識等もあるため、司書が認めた一部の者たちしか見ることが出来なかった。
 彼らが『知識の番人』と称される所以である。
「さあ、な」
 本を一冊手に取りながら、ニーツは答える。本来なら、”知識”を全て把握しているクーロンに、蔵書の内容を尋けば良いだけの話なのだが、ニーツはこうやって、本を捲りつつ自分で探すのが好きだった。
 それを知っているから、クーロンも何も言わないし、教えない。
「単なる好奇心って奴さ」
「ほおう…」
 小さく関心の声を上げながら、クーロン。
「そう言えば、あやつも同じ事を言っておったのう…」
「あやつ?」
「お前を育てた男だ」
 一瞬、ニーツのページを捲る手が止まった。そして、
「ああ」
 気のない返事と共に本を閉じ、別の本を取り出す。
「人間とは、とても興味深い生き物だ。いつか人間と魔族が一緒に暮らせる日が来るとか何とか言っておったわい。所詮は夢物語だと思っておったがの。お前もその影響か?」
「………養父の事は、あまり覚えていない」
 寧ろ、忘れていた。あの、エルフの森の一件以来、ぼんやりと思い出しているのだが…
「ふん。そうかい。では、今度ゆっくり話しでもするかの……それにしても、お前やあやつを見ていると、どうしても、思うな。知識ばかりのワシらより。お主らの方が色んな物を知り、様々な物が見えておると。羨ましいことだ」
「クーロン…」
「さて、これ以上邪魔しても悪いからの。ワシは退散するよ。また、見付からなかったら声を掛けておくれ」
「あ、ああ、悪いな」
 小さな笑い声をあげて、クーロンの姿が消えた。
「人間との、共存か…」
 一人残されたニーツは、静かに手に持っていた本を開く。
 ニーツの、紙を捲る音以外、何も聞こえないこの空間で、ニーツは一人、思いを馳せる。
 自分の生まれてきたことの意味。長く、考え続けていたその答を。

「これ、借りて行くぞ」
 漸く見つけた『ドクター・レン』に関する本数冊を片手に、ニーツはクーロンに話しかけた。
「おや?お前は貸し出し禁止にしていた筈じゃぞ?見るだけだと言っておったじゃないか」
「まあ、良いじゃないか」
「駄目だ。…まあ、どうしても、って言うなら反省作文10枚追加で手を打っても良いが」
 にやりと、意地悪そうな笑みを浮かべ、クーロンが言い放つ。
「せめて5枚」
「聞けんなあ」
「6枚」
「ふふふ」
 一向に折れる様子のないクーロンに、ニーツは小さく舌打ちする。
「チッ。仕方ない」
「お前がどんな反省文を書いてくれるか楽しみだわい」
「追加分はお前への恨みで埋めてやるよ」
 そう言って立ち去ろうとしたニーツを、クーロンはニーツ、と名を呼んで引き留めた。
「…何?」
「気を付けなされよ。あの土地には、未だレンの影響が色濃く残っている。あと、リアン兄弟のもな」
「ああ」
「ちゃんと戻ってくるのじゃぞ?まだ説教聞かせてないからな」
「…」
 曖昧な笑みを浮かべ、ニーツの姿が消える。
 それを見届けたクーロンは、寂しそうに呟いた。
「それにしても、あやつの事を忘れているとは。いや、自分で忘れたのかな。余程…」

 メイルーン市長邸に戻ってきたとき、既に月は沈みきり、太陽が主導権を握る時刻となっていた。
 今頃は、いつものごとく八重がハドソン夫人に追いかけられ、イートンは材料調達に行っていることだろう。実際、書斎の窓から中庭を見下ろすと、市長らしき人物が誰かを捜し回っているのが見える。八重は、今日も草むらに隠れているのが見えた。良い囮、というか生け贄になってくれている。夜もそうしてくれれば有り難いのだが。
「さあて。後はこの本に載っていた理論を組み込めば完成、だな」
 ニーツは、一つ大きな伸びをして、窓から離れた。窓は、そのまま開け放しておく。
 明日の夜までには十分間に合うだろう。
 取りあえず、少し眠ろうとニーツは思った。

 満月まで、あと二日。

2007/02/17 23:40 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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