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PC 八重・イートン・ニーツ
場所 ヴェルン市長亭裏庭・地下牢
NPC ナスビ・ワトスン市長(ハドソン夫人)・クリエッド
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じゃあ、私も人間に戻れるのか?
その問いに、ニーツとナスビは同時に言い放った。
「『それは無理だな』」
「八重様~、どこにいらっしゃるのぉぉ~」
草むらに身を潜め、八重は声の主から身を隠した。ここは市長亭裏庭の一角。ハドソン夫人の魔の手から逃れるため、八重はさっきからずっとここに潜んでいる。しばらくこのあたりを執拗に探索していた夫人の足音が、ようやく遠ざかった。
「ふぅ…。あのクソババアめ…」
一息つくため、習慣的に八重は煙草をくわえた。
「いや、元はジジイだからクソジジイかな」
その時、後ろからごそごそっという物音が聞こえた。
『見つけましたわよぉ~』
びくっ、と八重は煙草を口からぽろりと落とした。が、それは一瞬で、八重は振り向くと、
「お前、していいことと悪いことがわかっていないようだな、ナスビ?」
耳をがっと掴んで、ナスビを目の前にぶら~んとぶら下げた。耳を掴まれたナスビは、目の前でじたばたと暴れる。
『痛いッ!離せッ!今のは、少しからかっただけではないかっ!!』
「ああ、離すさ」
ぱっと八重に手を離されたナスビは、そのまま地面に思いっきり叩きつけられた。そのまま目の前の地面をころころと転がり、
『起こせっ!起こさんかッ!!』
仰向けに転がったまま足をじたばたさせる。八重はため息をついた。
「…悪かった。とりあえず、夫人に見つかりたくないから、もう少し静かにしてくれ」
体を持ち上げ、地面にきちんと立たせてやると、ナスビはえらそうにふんっと鼻を鳴らした。
『全く、はじめからこのように丁重に扱えばいいのだ』
しかし八重の反応はない。
『…八重?』
ナスビは八重の顔を覗き込んだ。
『お前、もしや我輩とニーツが言ったことを気にしているのか?』
ナスビがちょこんと首をかしげる。
『お前の<融合>は解けないと言われたのは、そんなにショックか?』
「…悪かったな。ショックじゃないといえば嘘になる」
八重は、とび色の冷めた瞳をナスビに向けた。
「生憎、これでも心は人間のつもりなんだ」
「何故だ?何故私の<融合>は解くことができないんだ?」
牢の中で、八重は目の前にいるニーツに詰め寄った。ニーツはふっとどこか悲しげに目をそらす。
「魔族としての俺の直感だ。お前は、あきらかに市長とは融合の仕方が違う。だから、市長と同じ方法では、おそらくお前の融合は解けないだろう」
『あたりまえだ。マスターの技は偶然の産物の<融合>よりずっと高度であらせられるからな』
ナスビが誇らしげに言う。
『マスターの融合は綿密な計算と理論の元に成り立っている高度なものである。単に召喚術の失敗に巻き込まれたあの市長とは違う』
「そうだったんですか?市長は召喚術の失敗に単に巻き込まれただけだと」
イートンが驚いてナスビの顔を見つめる。ナスビは平然と言い切った。
『あたりまえだ。マスターはあんな中途半端な融合生物を創ったりはしない。
大体、あんなヤツは全然<兵器>に向いてないだろう』
「兵器…」
イートンが呟く。
「やっぱり、ドクター<レン>は融合生物を兵器として開発していたんですね…」
「だから、ヴェルンだってあんなに発展したんだろう」
ニーツはさらりと言ってのける。
「じゃあ、じゃあ…、もし八重さんがそのドクター<レン>に創られたものだとしたら、八重さんは元々<生物兵器>だったと…」
『大体はあってるが、正しくは違うな』
ナスビが言う。
『まあ、詳しいことはこの件が片付いてからでもよかろう。それでいいな、八重』
「…解った」
まずは市長をどうにかするのが先決だ。それでもいい。どうせ…、人間に戻れないのなら、同じことだ。
イートンは、クリエッドと一緒に召喚術に使う材料を探しに行った。数日前、ニーツに材料のメモを渡されたとき、イートンが「うげ…」という顔をした。
「蝙蝠の生き血…、大蛇の抜け殻…」
イートンはおそるおそるクリエッドの顔を見た。
「こんなもの…、手に入れることができるんでしょうか…?」
「大丈夫です。コネがありますから」
クリエッドはきっぱりと言い切った。
「もう少し経ったらそれらの品を受け取りに行きましょうね。イートンさん」
「やっぱり、行かなきゃ、ダメですか…?」
「年寄り一人に荷物を背負わせる気ですか?イートンさん?」
「うう…」
ゲテモノが嫌いなイートンにはかなりの苦行だろう。
ニーツは次の満月に備えて召喚術体系を読みふけっている。書斎をあてがわれ、八重が覗くと、時々、何かうなづきながらメモを取っている姿が見える。
それぞれに仕事があるのだ。
『お前にもあるだろう、仕事が』
ナスビの言葉に、八重はうんざりした顔でふうとため息をついた。
「市長が<ジェームズ>化したときのオトリ」
『解っておるじゃないか』
「しかし、それまではあのババアのお守りだなんてうんざりだな」
市長の足音がまた近づいてきた。八重はまたため息をつく。
次の満月まで、あと、三日。
PC 八重・イートン・ニーツ
場所 ヴェルン市長亭裏庭・地下牢
NPC ナスビ・ワトスン市長(ハドソン夫人)・クリエッド
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じゃあ、私も人間に戻れるのか?
その問いに、ニーツとナスビは同時に言い放った。
「『それは無理だな』」
「八重様~、どこにいらっしゃるのぉぉ~」
草むらに身を潜め、八重は声の主から身を隠した。ここは市長亭裏庭の一角。ハドソン夫人の魔の手から逃れるため、八重はさっきからずっとここに潜んでいる。しばらくこのあたりを執拗に探索していた夫人の足音が、ようやく遠ざかった。
「ふぅ…。あのクソババアめ…」
一息つくため、習慣的に八重は煙草をくわえた。
「いや、元はジジイだからクソジジイかな」
その時、後ろからごそごそっという物音が聞こえた。
『見つけましたわよぉ~』
びくっ、と八重は煙草を口からぽろりと落とした。が、それは一瞬で、八重は振り向くと、
「お前、していいことと悪いことがわかっていないようだな、ナスビ?」
耳をがっと掴んで、ナスビを目の前にぶら~んとぶら下げた。耳を掴まれたナスビは、目の前でじたばたと暴れる。
『痛いッ!離せッ!今のは、少しからかっただけではないかっ!!』
「ああ、離すさ」
ぱっと八重に手を離されたナスビは、そのまま地面に思いっきり叩きつけられた。そのまま目の前の地面をころころと転がり、
『起こせっ!起こさんかッ!!』
仰向けに転がったまま足をじたばたさせる。八重はため息をついた。
「…悪かった。とりあえず、夫人に見つかりたくないから、もう少し静かにしてくれ」
体を持ち上げ、地面にきちんと立たせてやると、ナスビはえらそうにふんっと鼻を鳴らした。
『全く、はじめからこのように丁重に扱えばいいのだ』
しかし八重の反応はない。
『…八重?』
ナスビは八重の顔を覗き込んだ。
『お前、もしや我輩とニーツが言ったことを気にしているのか?』
ナスビがちょこんと首をかしげる。
『お前の<融合>は解けないと言われたのは、そんなにショックか?』
「…悪かったな。ショックじゃないといえば嘘になる」
八重は、とび色の冷めた瞳をナスビに向けた。
「生憎、これでも心は人間のつもりなんだ」
「何故だ?何故私の<融合>は解くことができないんだ?」
牢の中で、八重は目の前にいるニーツに詰め寄った。ニーツはふっとどこか悲しげに目をそらす。
「魔族としての俺の直感だ。お前は、あきらかに市長とは融合の仕方が違う。だから、市長と同じ方法では、おそらくお前の融合は解けないだろう」
『あたりまえだ。マスターの技は偶然の産物の<融合>よりずっと高度であらせられるからな』
ナスビが誇らしげに言う。
『マスターの融合は綿密な計算と理論の元に成り立っている高度なものである。単に召喚術の失敗に巻き込まれたあの市長とは違う』
「そうだったんですか?市長は召喚術の失敗に単に巻き込まれただけだと」
イートンが驚いてナスビの顔を見つめる。ナスビは平然と言い切った。
『あたりまえだ。マスターはあんな中途半端な融合生物を創ったりはしない。
大体、あんなヤツは全然<兵器>に向いてないだろう』
「兵器…」
イートンが呟く。
「やっぱり、ドクター<レン>は融合生物を兵器として開発していたんですね…」
「だから、ヴェルンだってあんなに発展したんだろう」
ニーツはさらりと言ってのける。
「じゃあ、じゃあ…、もし八重さんがそのドクター<レン>に創られたものだとしたら、八重さんは元々<生物兵器>だったと…」
『大体はあってるが、正しくは違うな』
ナスビが言う。
『まあ、詳しいことはこの件が片付いてからでもよかろう。それでいいな、八重』
「…解った」
まずは市長をどうにかするのが先決だ。それでもいい。どうせ…、人間に戻れないのなら、同じことだ。
イートンは、クリエッドと一緒に召喚術に使う材料を探しに行った。数日前、ニーツに材料のメモを渡されたとき、イートンが「うげ…」という顔をした。
「蝙蝠の生き血…、大蛇の抜け殻…」
イートンはおそるおそるクリエッドの顔を見た。
「こんなもの…、手に入れることができるんでしょうか…?」
「大丈夫です。コネがありますから」
クリエッドはきっぱりと言い切った。
「もう少し経ったらそれらの品を受け取りに行きましょうね。イートンさん」
「やっぱり、行かなきゃ、ダメですか…?」
「年寄り一人に荷物を背負わせる気ですか?イートンさん?」
「うう…」
ゲテモノが嫌いなイートンにはかなりの苦行だろう。
ニーツは次の満月に備えて召喚術体系を読みふけっている。書斎をあてがわれ、八重が覗くと、時々、何かうなづきながらメモを取っている姿が見える。
それぞれに仕事があるのだ。
『お前にもあるだろう、仕事が』
ナスビの言葉に、八重はうんざりした顔でふうとため息をついた。
「市長が<ジェームズ>化したときのオトリ」
『解っておるじゃないか』
「しかし、それまではあのババアのお守りだなんてうんざりだな」
市長の足音がまた近づいてきた。八重はまたため息をつく。
次の満月まで、あと、三日。
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