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PC 八重 ニーツ イートン
場所 ヴェルン湖畔
NPC ベル=リアン シュワルツェネ=リアン
---------------------------------------------------
咄嗟に後ろへ跳んだが、腹部への直撃はかなり堪えた。
「くぅ…」
「しぶといな」
腹部をおさえ、蹲る八重を見て、シュワルツェネが舌打ちをした。そんな魔族達に、小さく唇を吊り上げて、立ち上がり、八重が答える。
「…生憎な」
人間の生への執着をなめるな、と八重は心の中で呟いた。ヒエログリフの謎を解く前に、死ぬなんてもってのほかだ。それに、もし此処で八重がやられでもしたら…
「ニーツに、馬鹿にされるだろう?」
もう、なりふり構っていられなかった。
八重は<ルナ>を両手に宿し、再び二人の方へ向かっていった。
「見つけた…。イ-トン、此処で降ろせ…」
そう言ってニーツが指し示したのは、地面に半ば埋まった石版の前。石版には、紅い光を放つ珠が埋め込まれていた。
「ニーツ君、これは?」
「魔法陣の…発動装置…。これを起動すれば…魔法陣も…発動するはずだ…」
「本当ですか?」
「ああ…」
頷くニーツを見て、イ-トンはニーツの身体を地面に降ろした。途端にガクンとニーツがバランスを崩し、慌ててそれを支える。
「大丈夫ですか!?」
「ああ…大したこと…ない」
明らかにニーツは無理をしているようだったが、イ-トンはそれ以上何も言わなかった。ニーツはスッと息を一つ吸うと、イ-トンの手から離れて石版に触れる。
辺りの魔力の流れが変わった。人間では到底扱いきれない圧倒的な量の魔力が、ニーツに従う。
「イ-トン…今から…すぐに引き返せ」
「え、でも…」
ニーツを放っておいて良いのか、とでも問いたげな瞳を、イ-トンは向ける。だが、ニーツは無視して続けた。
「魔法陣が…起動したら、爆薬を使え…そしてすぐに、八重を連れて…逃げるんだ」
「ニーツ君は…」
なおも逡巡するイ-トンに、ニーツはフッと笑顔を向けた。これまでの人を馬鹿にしたような笑いではない、人を安心させるような、落ち着いた笑顔。
「俺は…大丈夫だから」
「……」
「行け!」
強い響きでニーツは言った。イ-トンは、無言で裾を翻す。
イ-トンが戻るのを横目で見て、ニーツは小さく呟いた。
「さあて…本当に…どうなるかな…」
魔法陣の発動には、相当な魔力が要った。此程大きな魔力は、久しく扱っていない。シュワルツェネと闘っていたときさえも。
内で反乱する魔力に、ニーツの身体は悲鳴を上げていた。
呼吸一つが、苦しいくらいに。
元々、この魔法陣の発動、維持には、何百人もの人間が、増幅装置を使って当たっていたという。それを魔族とはいえ、一人でやろうというのは、流石に骨が折れる。
(それでも…やるしかないし…な)
-グア-
ニーツの魔力が、一層増した。答えるように、石版の珠が、そしてニーツの右目が爛々と輝く。
(あの兄弟に…なめられっ放しというのも…癪だし…)
「死なせるわけにも…いかないしな…」
そう口にして、ニーツは苦笑を浮かべる。
意外と、自分はあの二人を気に入っているのかもしれないと思う。
長い、退屈な生活の中で、此程刺激を受ける出来事はそうないだろう。
珠の中に、フワリと六芒星のが浮かび上がった。同時に、ヴェルン湖の北方、南方、そして東と西、それぞれを挟んで二つずつ、計六ヶ所から、光が空に向けて走った。
ヴェルン遺跡の魔法陣が発動したのだ。
「…しくじるなよ」
PC 八重 ニーツ イートン
場所 ヴェルン湖畔
NPC ベル=リアン シュワルツェネ=リアン
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咄嗟に後ろへ跳んだが、腹部への直撃はかなり堪えた。
「くぅ…」
「しぶといな」
腹部をおさえ、蹲る八重を見て、シュワルツェネが舌打ちをした。そんな魔族達に、小さく唇を吊り上げて、立ち上がり、八重が答える。
「…生憎な」
人間の生への執着をなめるな、と八重は心の中で呟いた。ヒエログリフの謎を解く前に、死ぬなんてもってのほかだ。それに、もし此処で八重がやられでもしたら…
「ニーツに、馬鹿にされるだろう?」
もう、なりふり構っていられなかった。
八重は<ルナ>を両手に宿し、再び二人の方へ向かっていった。
「見つけた…。イ-トン、此処で降ろせ…」
そう言ってニーツが指し示したのは、地面に半ば埋まった石版の前。石版には、紅い光を放つ珠が埋め込まれていた。
「ニーツ君、これは?」
「魔法陣の…発動装置…。これを起動すれば…魔法陣も…発動するはずだ…」
「本当ですか?」
「ああ…」
頷くニーツを見て、イ-トンはニーツの身体を地面に降ろした。途端にガクンとニーツがバランスを崩し、慌ててそれを支える。
「大丈夫ですか!?」
「ああ…大したこと…ない」
明らかにニーツは無理をしているようだったが、イ-トンはそれ以上何も言わなかった。ニーツはスッと息を一つ吸うと、イ-トンの手から離れて石版に触れる。
辺りの魔力の流れが変わった。人間では到底扱いきれない圧倒的な量の魔力が、ニーツに従う。
「イ-トン…今から…すぐに引き返せ」
「え、でも…」
ニーツを放っておいて良いのか、とでも問いたげな瞳を、イ-トンは向ける。だが、ニーツは無視して続けた。
「魔法陣が…起動したら、爆薬を使え…そしてすぐに、八重を連れて…逃げるんだ」
「ニーツ君は…」
なおも逡巡するイ-トンに、ニーツはフッと笑顔を向けた。これまでの人を馬鹿にしたような笑いではない、人を安心させるような、落ち着いた笑顔。
「俺は…大丈夫だから」
「……」
「行け!」
強い響きでニーツは言った。イ-トンは、無言で裾を翻す。
イ-トンが戻るのを横目で見て、ニーツは小さく呟いた。
「さあて…本当に…どうなるかな…」
魔法陣の発動には、相当な魔力が要った。此程大きな魔力は、久しく扱っていない。シュワルツェネと闘っていたときさえも。
内で反乱する魔力に、ニーツの身体は悲鳴を上げていた。
呼吸一つが、苦しいくらいに。
元々、この魔法陣の発動、維持には、何百人もの人間が、増幅装置を使って当たっていたという。それを魔族とはいえ、一人でやろうというのは、流石に骨が折れる。
(それでも…やるしかないし…な)
-グア-
ニーツの魔力が、一層増した。答えるように、石版の珠が、そしてニーツの右目が爛々と輝く。
(あの兄弟に…なめられっ放しというのも…癪だし…)
「死なせるわけにも…いかないしな…」
そう口にして、ニーツは苦笑を浮かべる。
意外と、自分はあの二人を気に入っているのかもしれないと思う。
長い、退屈な生活の中で、此程刺激を受ける出来事はそうないだろう。
珠の中に、フワリと六芒星のが浮かび上がった。同時に、ヴェルン湖の北方、南方、そして東と西、それぞれを挟んで二つずつ、計六ヶ所から、光が空に向けて走った。
ヴェルン遺跡の魔法陣が発動したのだ。
「…しくじるなよ」
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PC 八重 イートン (ニーツ)
場所 ヴェルン湖遺跡
NPC ベル=リアン シュワルツェネ=リアン 木兎
---------------------------------------------------
煌く星屑を静かに湛える水面が波立つ。ヴェルン湖を大きく囲むように光の筋が円を描いた。魔方陣の内部の温度がぐんと上昇し、昼間に劣らぬ明るさを辺りに与える。
そんな中で、イートンは素早く装置をセットして立ち上がった。
(爆発まで・・・あと5分)
ニーツがあの体で動けるのか、不安は拭えなかったが彼の元に戻るわけにもいかない。爆発が起こればこの魔法陣内に存在するすべてのものが消滅するのだ。
発動した魔法は結界。唯一つの空を戴くこの大地を空間ごと切り離し、性質を変化させる。ヴェルンの魔方陣なら強大な爆発にも十分耐えられるはずだ。
「八重さん!時間が!」
二人の魔族と戦う彼の名前を呼ぶ。相変わらず不利には変わりなかったが、動きを読まれたベル=リアンがだいぶ苛立っているのが分かった。しかし、二人の魔族を置いて結界から脱出するほどの一撃も与えられない・・・。
「先に行け!」
シュワルツネの攻撃をかわして八重が怒鳴り返す。こちらを振り向く余裕も無い。
「で、でも」
先ほどの繰り返しであるのは分かっていたが、イートンは言葉を濁さずにはいられなかった。自分ばかりが安全でいるわけにはいかないのだから。
「逃げちゃえばいいのに。折角この人間が頑張ってるんだからさ!」
ベルが笑みを浮かべながら手を振り上げる。途端、いくつもの風の刃がイートンを襲い、皮膚を裂いた。反射的に両手で庇う。
「イートン!?・・くっ」
慌てて八重が振り向くが、その隙を逃さずシュワルツェネの一撃が来る。
「・・・・・・」
その様子を唇を噛み締めて見ていたイートンは何も言わず踵を返した。ベルの嘲笑が背後から聞こえたが、イートンはあえて耳から閉め出すことにした。
(私が足手まといになったら何の意味も無い!結界から出ないと・・・)
光の一線を越えると、涼やかな風がイートンに吹き当てられた。急に視界が暗くなる。
(このままでは二人とも助からない)
動かしていた足から意識を切り離し、イートンは必死で頭を回転させた。
だから、気が付かなかったのだ。暗い木の影に不自然に積まれた瓦礫の山に。
イートンは正面から思い切りその山に突っ込んだ―――――――。
「いたたた・・・なんでこんな所に・・・」
それは遺跡の一部だった。おそらく湖から引き上げられ、市長によって『不用』と判断された出土品の山。思い切り突っ込んだため、頂上の一部が転がり落ちてくる。 コロコロとイートンの元にやってきたのは、不思議な木像だった。よく見れば、木馬ならぬ木兎。木目一つ無い不思議な白い木の球ふたつ、団子のように串刺しに繋がっている。それを興味深げに見ていたイートンだが、すぐに今置かれた状況を思い出す。
「ハッ!そんなことより八重さんとニーツ君を助けないと!!」
『それが願いか?』
聞き覚えの無い低い声が急に頭に響いた。
「え・・・?」
『我輩はヴェルンの兎。この地の守護を引継ぎし者。汝が望むなら、それを叶えようヴェルンの民よ』
(兎さんが喋った・・・・)
驚くことこの上ないが、イートンはその言葉にすがらずにはいられなかった。
「お願いしますッ!!急がないとッ。あの魔族の動きを止めて―――」
最後まで言えなかった。
木兎の三角の口から凄まじい魔力が放出されたのだ。
ゴォォォォォォ!!
尾は途切れることなく、その白熱の塊をシュワルツェネにぶつける。
「――――なに!?」
シュワルツネが慌てて棍を縦にして障壁を張るが、圧倒的な力に湖の中央まで弾き飛ばされる。
「な、なんだ・・・?」
八重もまた攻撃の元を探すが輝く結界に阻まれ、外の世界を見ることは出来ない。兄に駆け寄るベルを見て、八重は呟いた。
「とりあえず、チャンスだな」
「なんて・・・出鱈目な…」
直線的で、圧倒的。無駄で荒削りとも言える攻撃にただ驚くばかり。そんなイートンに木兎はしれっと答えた。
『たとえ滅びた都であっても、この地に破壊をもたらす者。当然の制裁である』
「・・・・あ」
木兎の言葉に引っ掛かりを覚え、イートンは口を開いた。
そして、結界の中で爆発が起こった―――――。
背を向けていたイートンであっても、目を焼くような白い閃光に顔を覆った。爆音はない。ただヒュウと空気を擦るような高い音を響かせ、光が天を越えた。
『・・・・・・』
大きく抉られた底。遺跡のあとなどまるきり無い。落ちてきた水滴がその無残な跡を隠すように溜まった。
呆然とその場所をみつめる木兎にイートンは言いにくそうに謝った。
「スイマセン・・・破壊・・・しちゃいました」
PC 八重 イートン (ニーツ)
場所 ヴェルン湖遺跡
NPC ベル=リアン シュワルツェネ=リアン 木兎
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煌く星屑を静かに湛える水面が波立つ。ヴェルン湖を大きく囲むように光の筋が円を描いた。魔方陣の内部の温度がぐんと上昇し、昼間に劣らぬ明るさを辺りに与える。
そんな中で、イートンは素早く装置をセットして立ち上がった。
(爆発まで・・・あと5分)
ニーツがあの体で動けるのか、不安は拭えなかったが彼の元に戻るわけにもいかない。爆発が起こればこの魔法陣内に存在するすべてのものが消滅するのだ。
発動した魔法は結界。唯一つの空を戴くこの大地を空間ごと切り離し、性質を変化させる。ヴェルンの魔方陣なら強大な爆発にも十分耐えられるはずだ。
「八重さん!時間が!」
二人の魔族と戦う彼の名前を呼ぶ。相変わらず不利には変わりなかったが、動きを読まれたベル=リアンがだいぶ苛立っているのが分かった。しかし、二人の魔族を置いて結界から脱出するほどの一撃も与えられない・・・。
「先に行け!」
シュワルツネの攻撃をかわして八重が怒鳴り返す。こちらを振り向く余裕も無い。
「で、でも」
先ほどの繰り返しであるのは分かっていたが、イートンは言葉を濁さずにはいられなかった。自分ばかりが安全でいるわけにはいかないのだから。
「逃げちゃえばいいのに。折角この人間が頑張ってるんだからさ!」
ベルが笑みを浮かべながら手を振り上げる。途端、いくつもの風の刃がイートンを襲い、皮膚を裂いた。反射的に両手で庇う。
「イートン!?・・くっ」
慌てて八重が振り向くが、その隙を逃さずシュワルツェネの一撃が来る。
「・・・・・・」
その様子を唇を噛み締めて見ていたイートンは何も言わず踵を返した。ベルの嘲笑が背後から聞こえたが、イートンはあえて耳から閉め出すことにした。
(私が足手まといになったら何の意味も無い!結界から出ないと・・・)
光の一線を越えると、涼やかな風がイートンに吹き当てられた。急に視界が暗くなる。
(このままでは二人とも助からない)
動かしていた足から意識を切り離し、イートンは必死で頭を回転させた。
だから、気が付かなかったのだ。暗い木の影に不自然に積まれた瓦礫の山に。
イートンは正面から思い切りその山に突っ込んだ―――――――。
「いたたた・・・なんでこんな所に・・・」
それは遺跡の一部だった。おそらく湖から引き上げられ、市長によって『不用』と判断された出土品の山。思い切り突っ込んだため、頂上の一部が転がり落ちてくる。 コロコロとイートンの元にやってきたのは、不思議な木像だった。よく見れば、木馬ならぬ木兎。木目一つ無い不思議な白い木の球ふたつ、団子のように串刺しに繋がっている。それを興味深げに見ていたイートンだが、すぐに今置かれた状況を思い出す。
「ハッ!そんなことより八重さんとニーツ君を助けないと!!」
『それが願いか?』
聞き覚えの無い低い声が急に頭に響いた。
「え・・・?」
『我輩はヴェルンの兎。この地の守護を引継ぎし者。汝が望むなら、それを叶えようヴェルンの民よ』
(兎さんが喋った・・・・)
驚くことこの上ないが、イートンはその言葉にすがらずにはいられなかった。
「お願いしますッ!!急がないとッ。あの魔族の動きを止めて―――」
最後まで言えなかった。
木兎の三角の口から凄まじい魔力が放出されたのだ。
ゴォォォォォォ!!
尾は途切れることなく、その白熱の塊をシュワルツェネにぶつける。
「――――なに!?」
シュワルツネが慌てて棍を縦にして障壁を張るが、圧倒的な力に湖の中央まで弾き飛ばされる。
「な、なんだ・・・?」
八重もまた攻撃の元を探すが輝く結界に阻まれ、外の世界を見ることは出来ない。兄に駆け寄るベルを見て、八重は呟いた。
「とりあえず、チャンスだな」
「なんて・・・出鱈目な…」
直線的で、圧倒的。無駄で荒削りとも言える攻撃にただ驚くばかり。そんなイートンに木兎はしれっと答えた。
『たとえ滅びた都であっても、この地に破壊をもたらす者。当然の制裁である』
「・・・・あ」
木兎の言葉に引っ掛かりを覚え、イートンは口を開いた。
そして、結界の中で爆発が起こった―――――。
背を向けていたイートンであっても、目を焼くような白い閃光に顔を覆った。爆音はない。ただヒュウと空気を擦るような高い音を響かせ、光が天を越えた。
『・・・・・・』
大きく抉られた底。遺跡のあとなどまるきり無い。落ちてきた水滴がその無残な跡を隠すように溜まった。
呆然とその場所をみつめる木兎にイートンは言いにくそうに謝った。
「スイマセン・・・破壊・・・しちゃいました」
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PC 八重 イートン ニーツ
場所 ヴェルン湖遺跡
NPC 木兎
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ヴェルン湖を見つめ、困ったような笑みを浮かべるイートンと、その丸っこい瞳で、呆然と元遺跡の場所を見つめるウサギ。その表情は、アボーンという効果音が最もふさわしい程だ。
「あの・・・、えと・・・」
イートンは困ったような笑みをウサギに向ける。
「とりあえず・・・、ごめんなさい・・・」
「ふ・・・ふ・・・」
ウサギの体がわなわなと震えたと思うと、
「ふざけるなーーー!!謝って済むなら警察はいらんわーーー!!!」
言うなり、ウサギはその短い前足でぽかぽかとイートンの体を殴り始めた。
「チクショウ、こんなことなら貴様など助けるんじゃなかったわい!チクショウ!」
「わっ、痛い痛い、何するんですか!」
「チクショウ、先ほどあんなに魔力を使わなければ、貴様など一撃で倒せるのだ!チクショウ!」
チクショウと何度も言いながらぽかぽかイートンを叩くウサギの目には、涙が滲んでいた。しかし、魔力のなくなったウサギの短い手足が繰り出す攻撃は、単にかわいらしいだけでイートンには全く利いていない。
そうしてイートンがウサギ相手に苦戦していると、
「ふん、生きていたのか、イートン」
ぱっと、イートンが見た目線の先には、八重を背負って茂みから出てくるニーツの姿があった。
「ニーツ君!!」
思わず瞳が潤むイートン。ニーツはそのイートンをはんっと鼻であしらうと、「ふん、俺が出てきたことぐらいでそんなに感動されても困るんだが」
と、不機嫌そうに答えた。
「まさか、この俺があんなヤツの魔法で死ぬとでも思ってたのか」
「だって、ニーツ君、あんなに苦しそうで・・・、それにあの爆発・・・」
「あんなの、俺の魔力が戻れば回避するぐらいわけないね」
「とりあえず、よかった・・・、ニーツ君・・・」
ほっとしたような表情を浮かべるイートンを見て、ニーツは少しすねたような顔でぷいっと横を向いた。
「それより、問題はコイツだ。腹にくらった一撃が相当に効いているらしい」
その言葉で、初めてイートンはニーツの背中で苦しそうに呻いている八重に気が付いた。
「っ・・・!八重さんっ!!」
イートンは思わずウサギを手から放り出すと、背負われている八重の元へと駆け寄った。
「八重さんっ!大丈夫なんですか!八重さん!」
「・・・心配するな。こんな傷・・・、すぐに治るさ・・・。何時ものこと・・・」
うぐっ・・・と、八重は苦しそうな声を上げた。
「八重さん!!」
草の上に仰向けに寝かせた八重の腹の上には、痛々しいほどの火傷の跡が付いていた。その姿に、イートンの瞳が潤む。
(八重さん・・・、僕とニーツ君のために、こんな無理してまで戦ってくれて・・・)
「心配するな、俺の魔力がもう少し回復したら回復魔法をかけてやる」
心配そうな顔のイートンにニーツが言う。
「お前は俺のためにも戦ってくれたわけだからな。その礼だ」
「すまない・・・な・・・」
痛みに額が汗ばみながらも、八重はニーツに少し微笑んだ。そして、
「ところで・・・、アレは、何だ・・・?」
先ほどから、草むらから顔を出してウーッと牙をむき出して唸っている物体を指差した。
「あ、ウサギさん!」
「我輩は唯のウサギさんなどではない!ヴェルンの守護霊であるぞ!!」
そういってウサギはせいいっぱい強がってみせる。しかし、なにぶん、ダンゴのような体と丸っこい瞳である。そう言われても当然、何の迫力も感じられない。
「我が都を滅ばした罪は重罪であるぞ!いかにして償ってもらおうか!!」
「ヴェルンの・・・守護霊・・・」
口の中で八重は呟いた。が、突然、八重はがばっと起き上がると、ウサギをむんずと捕まえた。
「おい、オマエ!」
「オマエなどではない!我輩はヴェルンの守護霊であるぞ!!」
「そんなのどうだっていい!オマエ、<ルナシー>を知っているか?」
八重のその問いに、二人ははっと息を飲んでウサギを見つめる。
「ルナシー・・・、・・・ヒエログリフの対になる人間」
「そうだ!そのルナシーだ!!オマエの都に昔ルナシーとヒエログリフが来たはずだ!覚えていないか?」
しばらくの沈黙の後、ウサギは呟いた。
「確かに来た・・・、知っている・・・」
「本当か!!ならオマエがルナシーとヒエログリフについて知っていることを洗いざらい話してもらおう!」
「断る」
そう言うと、ウサギはつーんと横を向いた。
「我が都を滅ぼした極悪人どもに、話す事など何もないわ」
「なっ・・・」
その言葉に、思わず八重はへたり込んだ。
「そんな・・・」
「話してほしければ」
ここでウサギは三人を見てにやりと笑った。
「市長のところから<ヴェルンの涙>を取り戻してもらおう」
PC 八重 イートン ニーツ
場所 ヴェルン湖遺跡
NPC 木兎
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ヴェルン湖を見つめ、困ったような笑みを浮かべるイートンと、その丸っこい瞳で、呆然と元遺跡の場所を見つめるウサギ。その表情は、アボーンという効果音が最もふさわしい程だ。
「あの・・・、えと・・・」
イートンは困ったような笑みをウサギに向ける。
「とりあえず・・・、ごめんなさい・・・」
「ふ・・・ふ・・・」
ウサギの体がわなわなと震えたと思うと、
「ふざけるなーーー!!謝って済むなら警察はいらんわーーー!!!」
言うなり、ウサギはその短い前足でぽかぽかとイートンの体を殴り始めた。
「チクショウ、こんなことなら貴様など助けるんじゃなかったわい!チクショウ!」
「わっ、痛い痛い、何するんですか!」
「チクショウ、先ほどあんなに魔力を使わなければ、貴様など一撃で倒せるのだ!チクショウ!」
チクショウと何度も言いながらぽかぽかイートンを叩くウサギの目には、涙が滲んでいた。しかし、魔力のなくなったウサギの短い手足が繰り出す攻撃は、単にかわいらしいだけでイートンには全く利いていない。
そうしてイートンがウサギ相手に苦戦していると、
「ふん、生きていたのか、イートン」
ぱっと、イートンが見た目線の先には、八重を背負って茂みから出てくるニーツの姿があった。
「ニーツ君!!」
思わず瞳が潤むイートン。ニーツはそのイートンをはんっと鼻であしらうと、「ふん、俺が出てきたことぐらいでそんなに感動されても困るんだが」
と、不機嫌そうに答えた。
「まさか、この俺があんなヤツの魔法で死ぬとでも思ってたのか」
「だって、ニーツ君、あんなに苦しそうで・・・、それにあの爆発・・・」
「あんなの、俺の魔力が戻れば回避するぐらいわけないね」
「とりあえず、よかった・・・、ニーツ君・・・」
ほっとしたような表情を浮かべるイートンを見て、ニーツは少しすねたような顔でぷいっと横を向いた。
「それより、問題はコイツだ。腹にくらった一撃が相当に効いているらしい」
その言葉で、初めてイートンはニーツの背中で苦しそうに呻いている八重に気が付いた。
「っ・・・!八重さんっ!!」
イートンは思わずウサギを手から放り出すと、背負われている八重の元へと駆け寄った。
「八重さんっ!大丈夫なんですか!八重さん!」
「・・・心配するな。こんな傷・・・、すぐに治るさ・・・。何時ものこと・・・」
うぐっ・・・と、八重は苦しそうな声を上げた。
「八重さん!!」
草の上に仰向けに寝かせた八重の腹の上には、痛々しいほどの火傷の跡が付いていた。その姿に、イートンの瞳が潤む。
(八重さん・・・、僕とニーツ君のために、こんな無理してまで戦ってくれて・・・)
「心配するな、俺の魔力がもう少し回復したら回復魔法をかけてやる」
心配そうな顔のイートンにニーツが言う。
「お前は俺のためにも戦ってくれたわけだからな。その礼だ」
「すまない・・・な・・・」
痛みに額が汗ばみながらも、八重はニーツに少し微笑んだ。そして、
「ところで・・・、アレは、何だ・・・?」
先ほどから、草むらから顔を出してウーッと牙をむき出して唸っている物体を指差した。
「あ、ウサギさん!」
「我輩は唯のウサギさんなどではない!ヴェルンの守護霊であるぞ!!」
そういってウサギはせいいっぱい強がってみせる。しかし、なにぶん、ダンゴのような体と丸っこい瞳である。そう言われても当然、何の迫力も感じられない。
「我が都を滅ばした罪は重罪であるぞ!いかにして償ってもらおうか!!」
「ヴェルンの・・・守護霊・・・」
口の中で八重は呟いた。が、突然、八重はがばっと起き上がると、ウサギをむんずと捕まえた。
「おい、オマエ!」
「オマエなどではない!我輩はヴェルンの守護霊であるぞ!!」
「そんなのどうだっていい!オマエ、<ルナシー>を知っているか?」
八重のその問いに、二人ははっと息を飲んでウサギを見つめる。
「ルナシー・・・、・・・ヒエログリフの対になる人間」
「そうだ!そのルナシーだ!!オマエの都に昔ルナシーとヒエログリフが来たはずだ!覚えていないか?」
しばらくの沈黙の後、ウサギは呟いた。
「確かに来た・・・、知っている・・・」
「本当か!!ならオマエがルナシーとヒエログリフについて知っていることを洗いざらい話してもらおう!」
「断る」
そう言うと、ウサギはつーんと横を向いた。
「我が都を滅ぼした極悪人どもに、話す事など何もないわ」
「なっ・・・」
その言葉に、思わず八重はへたり込んだ。
「そんな・・・」
「話してほしければ」
ここでウサギは三人を見てにやりと笑った。
「市長のところから<ヴェルンの涙>を取り戻してもらおう」
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PC 八重 ニーツ イートン
場所 ヴェルン湖遺跡
NPC 木兎
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「ヴェルンの涙?」
『そうだ』
イートンの呟きに、木兎が何故か偉そうに返す。
「”あの”市長の所からですか?」
『どんな市長かは、我が輩は知らん』
イートンの問いに、木兎はプイッと顔を逸らす。
「と…とにかく、それを取り返せば、<ルナシー>の事を教えてもらえるんだな!?」
そんな2人のやり取りの間に、八重が勢い込んで、問いかけの声を投げかけた。
その後、痛そうにうずくまる。
「焦るな、馬鹿」
八重を冷ややかに見下ろして、ニーツが呆れたように声を掛けた。
「…全く、その話題になると我を忘れるんだな。お前は」
危なかしくて見てられない、とでも言いたげに、ニーツは溜息をつく。
「それで?その『ヴェルンの涙』とやらを取り返せば、話してくれるんだな?」
八重が言った事を、念を押すようにニーツが繰り返し尋ねると、
『当然だ。我輩に二言はない』
フン、とふんぞり返って、ウサギが返し…
そのままの勢いで、後ろに”コロン”と転がる。
その様を見ながら、ニーツはハア、と額に手をやった。
「とにかく、一度街に戻らなきゃいけないみたいだな」
「ええ。そうですね。上手く取り返せればよいのですが…」
イートンが溜息と共に呟く。
「簡単なことじゃないのか?」
「いえ、ちょっと市長に問題が…
…ニーツ君、ひょっとして疲れてます?」
ふと、イートンがニーツを見て言った。心なしか、顔が蒼い。
「まあ、少し、な」
「…年のせ…」
年の所為か?と尋ねようとしたであろう八重の頭を、思わずニーツははたく。蹲った八重と、「自業自得だ」と呟くニーツの姿を見て、イートンは話に付いていけず、首を傾げた。
ついでに言うと、メイルーンの街を出た頃と比べ、二人の雰囲気はかなり変わっているように、イートンには思える。
「とにかく…八重が今の状態では帰れないな」
そう言って、ニーツは八重を引き倒した。仰向けに寝かせる。
「魔力も大分回復したし…治してやるよ」
手に魔力を宿したニーツの横では、ウサギがようやく起き上がって…
-また転がった。
八重は、ざっと身体を見回す。流石、ニーツの治療は完璧だ。
傷一つ、残ってない。寧ろ、以前よりも体調が良いくらいだ。
「ありがたい。助かった。何処も痛くない」
「当たり前だ…」
お礼を言いつつ振り返った八重に、ニーツは億劫そうに返事をした。そして、「…眠い…」
気怠げに言うと、そのままずるずると近くの木に凭れて座り込む。
「少ししたら、起こせ…」
言うやいなや、ニーツは目を閉じて眠り込んだ。それを唖然として八重とイートンが見つめ、次いで顔を見合わせた。
「…寝ちゃい、ましたね」
「うむ…」
意外そうに、八重がニーツの側に寄る。見れば、完璧に眠り込んでいた。
少しどころか、三日は起きなさそうだ。
以前見た、浅い眠りとは違う、無防備で、何処かあどけない寝顔。
こんな顔もするのか、と少々感心する。
「まあ、色々ありましたしね。あの魔法とか、魔法陣とか…
ニーツ君まだ幼いですし。無理してたかもしれませんね」
イートンの言葉の、「幼いですし」の所で、八重は一瞬苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
ニーツの年齢を知ったらどうするのか少々興味があったが、まあ、伏せておくことにする。
それはともかく、ニーツが消耗していたのは、確かかもしれない。
魔力は回復できても、身体に受けたダメージまではなんともできないだろう。
-今回の相手は、手強かった。
『おい、お前達!!我が輩を起こせ!!』
ふと聞こえてきた声に、二人は声の主を見下ろした。ウサギが転がったまま、棒のような手足をバタつかせている。
どうやら、自分で起きることは難しいようだ。
「あ-、はいはい」
イートンが、苦笑しながらそれを起こした。ようやく起き上がったウサギが、やはり偉そうな態度で言い放つ。
『とにかく、”ヴェルンの涙”を早く市長の所から取り返してこい』
「……本気で、あの市長の所にあるんですか…」
情けない声でイートンが言うと、八重が不思議そうに彼に問い掛けた。先程のニーツと同じように。
「難しいことなのか?」
「いや…難しいというか…何しろ、”あの”市長ですし。僕はなるべく会いたくないし。
ただ、女好きなので其処をどうにかならないかな、とは思うんですが。女なら簡単に屋敷に入り込めそうな気がするんですが…」
ぐるっと、一同を見回す。
「このメンバーじゃどうしようも。男ばっかりだし」
『…?おなごならいるではないか。何か問題があるのか?』
溜め息を零したイートンに、不思議そうなウサギの声が掛かる。
は?とウサギを見ると、ウサギは短い手でペチペチとニーツを叩いて指し示していた。
つまり、ニーツが女だと言いたいわけだ。
「いや、確かにニーツ君は…」
女の子に見えるけど、と言いかけて、イートンは言葉を切った。
今言いかけた通り、黙っていれば、ニーツは女の子に見える。実際、ユサ達はまだそう信じているのだろう。
それを使えば…
イートンの頭の中に、名案が生まれた。八重も、同じ事を考えたらしく、イートンを見ている。
「戻りましょう。八重さん」
「ああ、そうだな」
頷いて、八重はウサギと一緒に、一向に起きる気配のないニーツを抱えて立ち上がった。ウサギはすばやい動きでニーツの膝の上に移動する。一緒に運んで貰うつもりらしい。
ついでに言うと、ニーツが、余計な魔力を使ってまで八重の傷を治していったのは、正解だった。
身体の大きい八重を誰かが運ぶのは、大変だろう。逆に、ニーツの身体は思っていたより軽かった。-軽すぎるほどに。これならば、運ぶのは楽だ。
「ユサ達はどうする?まだ街にいるんだろう?」
「うーん…何とかなるでしょう。シニワン達も、もういないわけですし」
尋ねる八重に、曖昧な笑みを浮かべてイートンが答える。
「とにかく、行きましょう」
『ああ…我がヴェルンよ…我が輩は、きっと戻ってくるからな…』
ウサギが寂しそうに呟く声を聞きながら、二人は街に向かって歩き出した。後にはただ、完膚無きまでに破壊し尽くされた遺跡のみが、残されていた。
PC 八重 ニーツ イートン
場所 ヴェルン湖遺跡
NPC 木兎
---------------------------------------------------
「ヴェルンの涙?」
『そうだ』
イートンの呟きに、木兎が何故か偉そうに返す。
「”あの”市長の所からですか?」
『どんな市長かは、我が輩は知らん』
イートンの問いに、木兎はプイッと顔を逸らす。
「と…とにかく、それを取り返せば、<ルナシー>の事を教えてもらえるんだな!?」
そんな2人のやり取りの間に、八重が勢い込んで、問いかけの声を投げかけた。
その後、痛そうにうずくまる。
「焦るな、馬鹿」
八重を冷ややかに見下ろして、ニーツが呆れたように声を掛けた。
「…全く、その話題になると我を忘れるんだな。お前は」
危なかしくて見てられない、とでも言いたげに、ニーツは溜息をつく。
「それで?その『ヴェルンの涙』とやらを取り返せば、話してくれるんだな?」
八重が言った事を、念を押すようにニーツが繰り返し尋ねると、
『当然だ。我輩に二言はない』
フン、とふんぞり返って、ウサギが返し…
そのままの勢いで、後ろに”コロン”と転がる。
その様を見ながら、ニーツはハア、と額に手をやった。
「とにかく、一度街に戻らなきゃいけないみたいだな」
「ええ。そうですね。上手く取り返せればよいのですが…」
イートンが溜息と共に呟く。
「簡単なことじゃないのか?」
「いえ、ちょっと市長に問題が…
…ニーツ君、ひょっとして疲れてます?」
ふと、イートンがニーツを見て言った。心なしか、顔が蒼い。
「まあ、少し、な」
「…年のせ…」
年の所為か?と尋ねようとしたであろう八重の頭を、思わずニーツははたく。蹲った八重と、「自業自得だ」と呟くニーツの姿を見て、イートンは話に付いていけず、首を傾げた。
ついでに言うと、メイルーンの街を出た頃と比べ、二人の雰囲気はかなり変わっているように、イートンには思える。
「とにかく…八重が今の状態では帰れないな」
そう言って、ニーツは八重を引き倒した。仰向けに寝かせる。
「魔力も大分回復したし…治してやるよ」
手に魔力を宿したニーツの横では、ウサギがようやく起き上がって…
-また転がった。
八重は、ざっと身体を見回す。流石、ニーツの治療は完璧だ。
傷一つ、残ってない。寧ろ、以前よりも体調が良いくらいだ。
「ありがたい。助かった。何処も痛くない」
「当たり前だ…」
お礼を言いつつ振り返った八重に、ニーツは億劫そうに返事をした。そして、「…眠い…」
気怠げに言うと、そのままずるずると近くの木に凭れて座り込む。
「少ししたら、起こせ…」
言うやいなや、ニーツは目を閉じて眠り込んだ。それを唖然として八重とイートンが見つめ、次いで顔を見合わせた。
「…寝ちゃい、ましたね」
「うむ…」
意外そうに、八重がニーツの側に寄る。見れば、完璧に眠り込んでいた。
少しどころか、三日は起きなさそうだ。
以前見た、浅い眠りとは違う、無防備で、何処かあどけない寝顔。
こんな顔もするのか、と少々感心する。
「まあ、色々ありましたしね。あの魔法とか、魔法陣とか…
ニーツ君まだ幼いですし。無理してたかもしれませんね」
イートンの言葉の、「幼いですし」の所で、八重は一瞬苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
ニーツの年齢を知ったらどうするのか少々興味があったが、まあ、伏せておくことにする。
それはともかく、ニーツが消耗していたのは、確かかもしれない。
魔力は回復できても、身体に受けたダメージまではなんともできないだろう。
-今回の相手は、手強かった。
『おい、お前達!!我が輩を起こせ!!』
ふと聞こえてきた声に、二人は声の主を見下ろした。ウサギが転がったまま、棒のような手足をバタつかせている。
どうやら、自分で起きることは難しいようだ。
「あ-、はいはい」
イートンが、苦笑しながらそれを起こした。ようやく起き上がったウサギが、やはり偉そうな態度で言い放つ。
『とにかく、”ヴェルンの涙”を早く市長の所から取り返してこい』
「……本気で、あの市長の所にあるんですか…」
情けない声でイートンが言うと、八重が不思議そうに彼に問い掛けた。先程のニーツと同じように。
「難しいことなのか?」
「いや…難しいというか…何しろ、”あの”市長ですし。僕はなるべく会いたくないし。
ただ、女好きなので其処をどうにかならないかな、とは思うんですが。女なら簡単に屋敷に入り込めそうな気がするんですが…」
ぐるっと、一同を見回す。
「このメンバーじゃどうしようも。男ばっかりだし」
『…?おなごならいるではないか。何か問題があるのか?』
溜め息を零したイートンに、不思議そうなウサギの声が掛かる。
は?とウサギを見ると、ウサギは短い手でペチペチとニーツを叩いて指し示していた。
つまり、ニーツが女だと言いたいわけだ。
「いや、確かにニーツ君は…」
女の子に見えるけど、と言いかけて、イートンは言葉を切った。
今言いかけた通り、黙っていれば、ニーツは女の子に見える。実際、ユサ達はまだそう信じているのだろう。
それを使えば…
イートンの頭の中に、名案が生まれた。八重も、同じ事を考えたらしく、イートンを見ている。
「戻りましょう。八重さん」
「ああ、そうだな」
頷いて、八重はウサギと一緒に、一向に起きる気配のないニーツを抱えて立ち上がった。ウサギはすばやい動きでニーツの膝の上に移動する。一緒に運んで貰うつもりらしい。
ついでに言うと、ニーツが、余計な魔力を使ってまで八重の傷を治していったのは、正解だった。
身体の大きい八重を誰かが運ぶのは、大変だろう。逆に、ニーツの身体は思っていたより軽かった。-軽すぎるほどに。これならば、運ぶのは楽だ。
「ユサ達はどうする?まだ街にいるんだろう?」
「うーん…何とかなるでしょう。シニワン達も、もういないわけですし」
尋ねる八重に、曖昧な笑みを浮かべてイートンが答える。
「とにかく、行きましょう」
『ああ…我がヴェルンよ…我が輩は、きっと戻ってくるからな…』
ウサギが寂しそうに呟く声を聞きながら、二人は街に向かって歩き出した。後にはただ、完膚無きまでに破壊し尽くされた遺跡のみが、残されていた。
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PC 八重 イートン ニーツ
場所 メイルーン
NPC 木兎 伯父
---------------------------------------------------
「伯父さーん、開けてくれませんかぁ」
結局メイルーンに戻っても行くあては無かったし、未だ文無しだし、ニーツに借りた本を置いていった事に気が付いたイートンはかつて自分が住んでいた伯父の家に戻ってきた。
「随分と、早いお戻りだなぁ。イートン」
時刻もすでに明け方。それでも、イートンのことを心配していたのか、伯父は会った時のまま白衣の姿で顔を出した。寝ていなかったのだろう。
「ちなみにお土産付きです」
イートンは、八重の方を振り返る。もちろん、その腕で眠っているニーツではなく、その彼の上にいる、不思議な生き物、ナマモノでは無いのだが、木兎の存在である。
「なんだ、それは?」
早速興味を惹かれたらしい伯父が木兎を取り上げる。
『なんだとは何だ!我輩はヴェルンの守護霊であるぞ!!』
「ほぉ、霊なのか。なるほど」
その会話に苦笑しながら、イートンは八重を招き入れる。
「あ、足が抜けた」
『ギャー!!!』
-----
「それで?アノ、市長のところに乗り込むのか」
「はい」
ニーツを寝台の上にそっと乗せた八重は、複雑そうな顔で見合わせる二人の方へ戻ってきた。
「一体何が問題なんだ?」
ただの女好きならこの世に星の数ほど居る。そしてまた、財宝のコレクターも珍しくは無い。
「市長は俺の妹に骨抜きだったから、イートンに危険は無いだろうが・・・」
「別の危険があります・・・」
伯父の言葉に何か思い出したのか、青い顔でイートンが訂正する。
「あいつは地元派の人間でね。奴の屋敷は仕掛けだらけだ」
「全ての井戸は市長邸に繋がってるなんて噂もありますしね。うちは勢力争いが激しいから、警備も厳しいですし。入るのに・・・てこずると思うんです。やはり正面からが・・・」
そして、ちらりと寝室の方へ目を向ける。
「まぁ、人柄的にも・・・問題が」
『そんな輩、殴って気絶させれば関係あるまい』
意外に凶悪な木兎がじれったそうに口を挟んだ。
「それに~視覚的にも問題が・・・」
イートンはあまり乗り気ではないようだ。
「取りあえずは、ニーツ君が起きるのを待ちましょう」
そして結論は持ち越された。
PC 八重 イートン ニーツ
場所 メイルーン
NPC 木兎 伯父
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「伯父さーん、開けてくれませんかぁ」
結局メイルーンに戻っても行くあては無かったし、未だ文無しだし、ニーツに借りた本を置いていった事に気が付いたイートンはかつて自分が住んでいた伯父の家に戻ってきた。
「随分と、早いお戻りだなぁ。イートン」
時刻もすでに明け方。それでも、イートンのことを心配していたのか、伯父は会った時のまま白衣の姿で顔を出した。寝ていなかったのだろう。
「ちなみにお土産付きです」
イートンは、八重の方を振り返る。もちろん、その腕で眠っているニーツではなく、その彼の上にいる、不思議な生き物、ナマモノでは無いのだが、木兎の存在である。
「なんだ、それは?」
早速興味を惹かれたらしい伯父が木兎を取り上げる。
『なんだとは何だ!我輩はヴェルンの守護霊であるぞ!!』
「ほぉ、霊なのか。なるほど」
その会話に苦笑しながら、イートンは八重を招き入れる。
「あ、足が抜けた」
『ギャー!!!』
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「それで?アノ、市長のところに乗り込むのか」
「はい」
ニーツを寝台の上にそっと乗せた八重は、複雑そうな顔で見合わせる二人の方へ戻ってきた。
「一体何が問題なんだ?」
ただの女好きならこの世に星の数ほど居る。そしてまた、財宝のコレクターも珍しくは無い。
「市長は俺の妹に骨抜きだったから、イートンに危険は無いだろうが・・・」
「別の危険があります・・・」
伯父の言葉に何か思い出したのか、青い顔でイートンが訂正する。
「あいつは地元派の人間でね。奴の屋敷は仕掛けだらけだ」
「全ての井戸は市長邸に繋がってるなんて噂もありますしね。うちは勢力争いが激しいから、警備も厳しいですし。入るのに・・・てこずると思うんです。やはり正面からが・・・」
そして、ちらりと寝室の方へ目を向ける。
「まぁ、人柄的にも・・・問題が」
『そんな輩、殴って気絶させれば関係あるまい』
意外に凶悪な木兎がじれったそうに口を挟んだ。
「それに~視覚的にも問題が・・・」
イートンはあまり乗り気ではないようだ。
「取りあえずは、ニーツ君が起きるのを待ちましょう」
そして結論は持ち越された。