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PC 八重 ニーツ イートン
場所 ヴェルン湖遺跡
NPC 木兎
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「ヴェルンの涙?」
『そうだ』
イートンの呟きに、木兎が何故か偉そうに返す。
「”あの”市長の所からですか?」
『どんな市長かは、我が輩は知らん』
イートンの問いに、木兎はプイッと顔を逸らす。
「と…とにかく、それを取り返せば、<ルナシー>の事を教えてもらえるんだな!?」
そんな2人のやり取りの間に、八重が勢い込んで、問いかけの声を投げかけた。
その後、痛そうにうずくまる。
「焦るな、馬鹿」
八重を冷ややかに見下ろして、ニーツが呆れたように声を掛けた。
「…全く、その話題になると我を忘れるんだな。お前は」
危なかしくて見てられない、とでも言いたげに、ニーツは溜息をつく。
「それで?その『ヴェルンの涙』とやらを取り返せば、話してくれるんだな?」
八重が言った事を、念を押すようにニーツが繰り返し尋ねると、
『当然だ。我輩に二言はない』
フン、とふんぞり返って、ウサギが返し…
そのままの勢いで、後ろに”コロン”と転がる。
その様を見ながら、ニーツはハア、と額に手をやった。
「とにかく、一度街に戻らなきゃいけないみたいだな」
「ええ。そうですね。上手く取り返せればよいのですが…」
イートンが溜息と共に呟く。
「簡単なことじゃないのか?」
「いえ、ちょっと市長に問題が…
…ニーツ君、ひょっとして疲れてます?」
ふと、イートンがニーツを見て言った。心なしか、顔が蒼い。
「まあ、少し、な」
「…年のせ…」
年の所為か?と尋ねようとしたであろう八重の頭を、思わずニーツははたく。蹲った八重と、「自業自得だ」と呟くニーツの姿を見て、イートンは話に付いていけず、首を傾げた。
ついでに言うと、メイルーンの街を出た頃と比べ、二人の雰囲気はかなり変わっているように、イートンには思える。
「とにかく…八重が今の状態では帰れないな」
そう言って、ニーツは八重を引き倒した。仰向けに寝かせる。
「魔力も大分回復したし…治してやるよ」
手に魔力を宿したニーツの横では、ウサギがようやく起き上がって…
-また転がった。
八重は、ざっと身体を見回す。流石、ニーツの治療は完璧だ。
傷一つ、残ってない。寧ろ、以前よりも体調が良いくらいだ。
「ありがたい。助かった。何処も痛くない」
「当たり前だ…」
お礼を言いつつ振り返った八重に、ニーツは億劫そうに返事をした。そして、「…眠い…」
気怠げに言うと、そのままずるずると近くの木に凭れて座り込む。
「少ししたら、起こせ…」
言うやいなや、ニーツは目を閉じて眠り込んだ。それを唖然として八重とイートンが見つめ、次いで顔を見合わせた。
「…寝ちゃい、ましたね」
「うむ…」
意外そうに、八重がニーツの側に寄る。見れば、完璧に眠り込んでいた。
少しどころか、三日は起きなさそうだ。
以前見た、浅い眠りとは違う、無防備で、何処かあどけない寝顔。
こんな顔もするのか、と少々感心する。
「まあ、色々ありましたしね。あの魔法とか、魔法陣とか…
ニーツ君まだ幼いですし。無理してたかもしれませんね」
イートンの言葉の、「幼いですし」の所で、八重は一瞬苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
ニーツの年齢を知ったらどうするのか少々興味があったが、まあ、伏せておくことにする。
それはともかく、ニーツが消耗していたのは、確かかもしれない。
魔力は回復できても、身体に受けたダメージまではなんともできないだろう。
-今回の相手は、手強かった。
『おい、お前達!!我が輩を起こせ!!』
ふと聞こえてきた声に、二人は声の主を見下ろした。ウサギが転がったまま、棒のような手足をバタつかせている。
どうやら、自分で起きることは難しいようだ。
「あ-、はいはい」
イートンが、苦笑しながらそれを起こした。ようやく起き上がったウサギが、やはり偉そうな態度で言い放つ。
『とにかく、”ヴェルンの涙”を早く市長の所から取り返してこい』
「……本気で、あの市長の所にあるんですか…」
情けない声でイートンが言うと、八重が不思議そうに彼に問い掛けた。先程のニーツと同じように。
「難しいことなのか?」
「いや…難しいというか…何しろ、”あの”市長ですし。僕はなるべく会いたくないし。
ただ、女好きなので其処をどうにかならないかな、とは思うんですが。女なら簡単に屋敷に入り込めそうな気がするんですが…」
ぐるっと、一同を見回す。
「このメンバーじゃどうしようも。男ばっかりだし」
『…?おなごならいるではないか。何か問題があるのか?』
溜め息を零したイートンに、不思議そうなウサギの声が掛かる。
は?とウサギを見ると、ウサギは短い手でペチペチとニーツを叩いて指し示していた。
つまり、ニーツが女だと言いたいわけだ。
「いや、確かにニーツ君は…」
女の子に見えるけど、と言いかけて、イートンは言葉を切った。
今言いかけた通り、黙っていれば、ニーツは女の子に見える。実際、ユサ達はまだそう信じているのだろう。
それを使えば…
イートンの頭の中に、名案が生まれた。八重も、同じ事を考えたらしく、イートンを見ている。
「戻りましょう。八重さん」
「ああ、そうだな」
頷いて、八重はウサギと一緒に、一向に起きる気配のないニーツを抱えて立ち上がった。ウサギはすばやい動きでニーツの膝の上に移動する。一緒に運んで貰うつもりらしい。
ついでに言うと、ニーツが、余計な魔力を使ってまで八重の傷を治していったのは、正解だった。
身体の大きい八重を誰かが運ぶのは、大変だろう。逆に、ニーツの身体は思っていたより軽かった。-軽すぎるほどに。これならば、運ぶのは楽だ。
「ユサ達はどうする?まだ街にいるんだろう?」
「うーん…何とかなるでしょう。シニワン達も、もういないわけですし」
尋ねる八重に、曖昧な笑みを浮かべてイートンが答える。
「とにかく、行きましょう」
『ああ…我がヴェルンよ…我が輩は、きっと戻ってくるからな…』
ウサギが寂しそうに呟く声を聞きながら、二人は街に向かって歩き出した。後にはただ、完膚無きまでに破壊し尽くされた遺跡のみが、残されていた。
PC 八重 ニーツ イートン
場所 ヴェルン湖遺跡
NPC 木兎
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「ヴェルンの涙?」
『そうだ』
イートンの呟きに、木兎が何故か偉そうに返す。
「”あの”市長の所からですか?」
『どんな市長かは、我が輩は知らん』
イートンの問いに、木兎はプイッと顔を逸らす。
「と…とにかく、それを取り返せば、<ルナシー>の事を教えてもらえるんだな!?」
そんな2人のやり取りの間に、八重が勢い込んで、問いかけの声を投げかけた。
その後、痛そうにうずくまる。
「焦るな、馬鹿」
八重を冷ややかに見下ろして、ニーツが呆れたように声を掛けた。
「…全く、その話題になると我を忘れるんだな。お前は」
危なかしくて見てられない、とでも言いたげに、ニーツは溜息をつく。
「それで?その『ヴェルンの涙』とやらを取り返せば、話してくれるんだな?」
八重が言った事を、念を押すようにニーツが繰り返し尋ねると、
『当然だ。我輩に二言はない』
フン、とふんぞり返って、ウサギが返し…
そのままの勢いで、後ろに”コロン”と転がる。
その様を見ながら、ニーツはハア、と額に手をやった。
「とにかく、一度街に戻らなきゃいけないみたいだな」
「ええ。そうですね。上手く取り返せればよいのですが…」
イートンが溜息と共に呟く。
「簡単なことじゃないのか?」
「いえ、ちょっと市長に問題が…
…ニーツ君、ひょっとして疲れてます?」
ふと、イートンがニーツを見て言った。心なしか、顔が蒼い。
「まあ、少し、な」
「…年のせ…」
年の所為か?と尋ねようとしたであろう八重の頭を、思わずニーツははたく。蹲った八重と、「自業自得だ」と呟くニーツの姿を見て、イートンは話に付いていけず、首を傾げた。
ついでに言うと、メイルーンの街を出た頃と比べ、二人の雰囲気はかなり変わっているように、イートンには思える。
「とにかく…八重が今の状態では帰れないな」
そう言って、ニーツは八重を引き倒した。仰向けに寝かせる。
「魔力も大分回復したし…治してやるよ」
手に魔力を宿したニーツの横では、ウサギがようやく起き上がって…
-また転がった。
八重は、ざっと身体を見回す。流石、ニーツの治療は完璧だ。
傷一つ、残ってない。寧ろ、以前よりも体調が良いくらいだ。
「ありがたい。助かった。何処も痛くない」
「当たり前だ…」
お礼を言いつつ振り返った八重に、ニーツは億劫そうに返事をした。そして、「…眠い…」
気怠げに言うと、そのままずるずると近くの木に凭れて座り込む。
「少ししたら、起こせ…」
言うやいなや、ニーツは目を閉じて眠り込んだ。それを唖然として八重とイートンが見つめ、次いで顔を見合わせた。
「…寝ちゃい、ましたね」
「うむ…」
意外そうに、八重がニーツの側に寄る。見れば、完璧に眠り込んでいた。
少しどころか、三日は起きなさそうだ。
以前見た、浅い眠りとは違う、無防備で、何処かあどけない寝顔。
こんな顔もするのか、と少々感心する。
「まあ、色々ありましたしね。あの魔法とか、魔法陣とか…
ニーツ君まだ幼いですし。無理してたかもしれませんね」
イートンの言葉の、「幼いですし」の所で、八重は一瞬苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
ニーツの年齢を知ったらどうするのか少々興味があったが、まあ、伏せておくことにする。
それはともかく、ニーツが消耗していたのは、確かかもしれない。
魔力は回復できても、身体に受けたダメージまではなんともできないだろう。
-今回の相手は、手強かった。
『おい、お前達!!我が輩を起こせ!!』
ふと聞こえてきた声に、二人は声の主を見下ろした。ウサギが転がったまま、棒のような手足をバタつかせている。
どうやら、自分で起きることは難しいようだ。
「あ-、はいはい」
イートンが、苦笑しながらそれを起こした。ようやく起き上がったウサギが、やはり偉そうな態度で言い放つ。
『とにかく、”ヴェルンの涙”を早く市長の所から取り返してこい』
「……本気で、あの市長の所にあるんですか…」
情けない声でイートンが言うと、八重が不思議そうに彼に問い掛けた。先程のニーツと同じように。
「難しいことなのか?」
「いや…難しいというか…何しろ、”あの”市長ですし。僕はなるべく会いたくないし。
ただ、女好きなので其処をどうにかならないかな、とは思うんですが。女なら簡単に屋敷に入り込めそうな気がするんですが…」
ぐるっと、一同を見回す。
「このメンバーじゃどうしようも。男ばっかりだし」
『…?おなごならいるではないか。何か問題があるのか?』
溜め息を零したイートンに、不思議そうなウサギの声が掛かる。
は?とウサギを見ると、ウサギは短い手でペチペチとニーツを叩いて指し示していた。
つまり、ニーツが女だと言いたいわけだ。
「いや、確かにニーツ君は…」
女の子に見えるけど、と言いかけて、イートンは言葉を切った。
今言いかけた通り、黙っていれば、ニーツは女の子に見える。実際、ユサ達はまだそう信じているのだろう。
それを使えば…
イートンの頭の中に、名案が生まれた。八重も、同じ事を考えたらしく、イートンを見ている。
「戻りましょう。八重さん」
「ああ、そうだな」
頷いて、八重はウサギと一緒に、一向に起きる気配のないニーツを抱えて立ち上がった。ウサギはすばやい動きでニーツの膝の上に移動する。一緒に運んで貰うつもりらしい。
ついでに言うと、ニーツが、余計な魔力を使ってまで八重の傷を治していったのは、正解だった。
身体の大きい八重を誰かが運ぶのは、大変だろう。逆に、ニーツの身体は思っていたより軽かった。-軽すぎるほどに。これならば、運ぶのは楽だ。
「ユサ達はどうする?まだ街にいるんだろう?」
「うーん…何とかなるでしょう。シニワン達も、もういないわけですし」
尋ねる八重に、曖昧な笑みを浮かべてイートンが答える。
「とにかく、行きましょう」
『ああ…我がヴェルンよ…我が輩は、きっと戻ってくるからな…』
ウサギが寂しそうに呟く声を聞きながら、二人は街に向かって歩き出した。後にはただ、完膚無きまでに破壊し尽くされた遺跡のみが、残されていた。
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