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2025/04/22 01:12 |
第四話「曙光」/オプナ・クロース(葉月瞬)
PT:クロース、オプナ、シオン
場所:マキーナ付近の森~マキーナの街
NPC:魔術学院の方
-------------------------------------------------------------

 それは、白き戯れだった。
 其処だけ何処か、色が抜け落ちているようだった。
 月下の舞踏。
 そんな印象を、オプナはその光景を目の当たりにした時、不謹慎にも抱いて
しまったのだった。

  ◇〇◇

 其の少年は、怪我をしていた。
 オプナ達が罪の意識を少しでも軽くする為に少年に近付いた時、既に少年は
意識を手放した後だった。そして、オプナ達の背後で男の呟きが聞えたと思い
きや、炎が燃え上がる音とほぼ同時に鎮火した時の何とも抜けたような音が聞
えて来た。オプナが咄嗟に振り向いた時には、男は火の粉を一欠けら残し消失
した後だった――。

「……あいつ……、何者だったの……? 少なくとも、只者じゃない事だけは
確かだけれど……。……この、坊やもね」

 オプナが再び見下ろした其の少年の腕は、焼け爛れ酷くボロボロになってい
た。特に痛々しく映えているのが、右腕の燃え縮れた包帯から見え隠れしてい
る、火傷とは明らかに違う黒く走る傷跡だった。たった今付いた訳ではない、
惨憺たる傷跡。其の傷跡に、オプナは只ならぬ力の波動を感じていた。

「……クロース、一寸退いていて。治癒するから」

 自分と同じ銀髪の少年にしがみ付く様に覗き込んでいたクロースが、オプナ
の声に反応して振り仰ぐ。オプナは彼女に向かって一つ頷くと、手で制するよ
うに下がらせる。そして、口の中で小さく何事か呟くと、若葉色をした前袷
(あわせ)の奇妙な服を着た少年の両腕に掌を翳した。

「【治癒(ヒール)】」

 掌が燐光に包まれ、見る間に傷口が癒えていく。
 だが、思った以上に火傷の進行度は深く、広範囲に広がっていた。

「くっ、駄目だわ。私の治癒魔法じゃ追い付かない。せいぜい、応急手当が関
の山か……。早く、病院に連れて行かないと……」

 夜明けが近い事を示すかのように、稜線が徐々に茜色に染め上げられてい
く。
 オプナは其の朝焼けを目に焼き付けながら、街の方角を確認していた。懐か
しき避暑の街、マキーナはもう直ぐ其処だ。

「もう! 仕様が無いわね。感知されるから余り魔法は使いたくはなかったの
だけれど……仕方ない。飛ぶわよ、クロース。【我が内なる魔力よ、この身を
包み給へ……飛翔(フライ)】!!」

 この飛翔の魔法は、精霊力と反発する魔力の性質を利用して移動する魔法
だ。精霊達は魔力を嫌う性質がある。それを利用して、移動する魔法なのだ。
術者自身の身体を魔力で包み込む事によって大地や大気を形成している精霊達
と反発して、移動の原動力を得るのだ。当初この性質が発見された時は、画期
的だと持て囃された。しかし今は、どのような低級魔術師でも扱える一般的な
魔法だ。
 真っ白き少年を胸に抱き、クロースの手を引いたオプナの身体が魔力による
燐光に包まれた。それと同時に、風に乗るように身体がゆっくりと上昇してい
くと、マキーナの街の方角へと飛び去っていった。

 曙光に煙るその飛行影を、森の中で唯一人視認する者が居た。

「クククッ。遂に見つけたぞ。クロース。そして、オプナ!」

 真っ黒きローブに身を包んだ男が呟くように吐いた其の言葉は、外気と同じ
ように何処か寒々としていた。そして、少し皺の寄ったその口元に微笑を浮か
べ、飛び去った人影を何時までも飽きずに見送っていた――。

  ◇○◇

 オプナの中でマキーナの街のイメージは、炭坑の街というよりも寧ろ避暑地
としてのイメージが強い。元々魔法鉱石が発見されるよりも以前のマキーナ
は、避暑地として栄えていた街だったからだ。高原という事もあって、夏の盛
りの時期にも冷気が溜り外界との一寸した寒暖差が発生する。そういう事もあ
ってか夏場、特に盛りの時期には日に数十人は避暑に訪れる。それも、貴族連
中が優先的ではあるが。
 オプナはソフィニアの貴族の家庭に出生した。当然の事ながら、避暑地マキ
ーナへも何度か連れて来てもらった事があるのだ。幼少時で記憶はあやふやだ
が、「来た」という事実は頭脳に刻み込まれていた。だから、彼女にとってマ

ーナは第二の故郷とも言うべき街だった。
 オプナは昔を懐かしむように数度街の上空を旋回すると、街の中央部に位置
する時計塔広場に悠々と着地した。
 着地と同時に、口元も緩むオプナ。
 昔と余り変わらないな、オプナはそう思った。
 昔と余り変わらない。そう、魔法鉱石が発見され、鉱山人足達が駐屯するよ
うになっても長閑(のどか)で緩やかな空気そのものまでが変わった訳ではなか
った。人も土地も高山植物も、緩やかに、そして静かに時を刻んでいた。
 昔と変わらない。だが、昔と変わった所が一点だけあった。

「……雪……?」

 オプナの差し出した掌に、緩やかに舞い落ちる何かがあった。其れは白く、
脆く、儚げで、そして冷たかった。其れは、たった今天より生まれた粉雪だっ
た。
 そもそもオプナが避暑に来ていた幼きあの日には、雪など降る素振りも見せ
ていなかった。雪と呼ばれる氷の結晶体など、生まれてこの間見た事も、触れ
た事も無かったのだ。それは隣にいて首を四方へ伸ばし好奇心を満たそうとし
ているクロースも同じらしく、何処か寒そうに身動ぎしている。

「寒い? クロース」
「……冷たい」
「……そうね。この寒さじゃ、この子も体力を削られるばかりだし……。早く
病院を見つけなきゃ……」

 和装の薄着を身に付けただけの少年に、身を切るようなこの寒さはさぞ堪え
るだろう。それで無くとも、気絶する程の火傷を負っていて体力が削られてい
くのだ。彼の体力が限界を超えるのも、時間の問題か。そう、思考を巡らせな
がら少年に視線を這わせるオプナ。彼女の大方の予想通り、彼は薄着で寒さに
打ち震えているように見える。そして、両腕に負った見事なまでの火傷――。

「!?」

 火傷を見詰めたまま、信じられない物を見たと言うように、オプナは凍りつ
いた。同時に思考も。
 其の火傷は、徐々に回復しつつあった。それも、常人には有り得ないほどの
速度を持って。つまり自然治癒力が常人よりも高いと言うことなのだが、それ
にしてもこの回復の速さは尋常ではなかった。既に皮下組織は再構成を果たし
つつあるようなのだ。そして、表皮も少しずつではあるが再構成されつつあ
る。

(こっ、これはっ!? ……きょっ、興味深い素体ね……。既に病院に連れて
行く必要は無い、と言うことか……。観察のしがいは十分にありそうだけど)

 それにしたって宿屋は取って置くべきねと、オプナは宿を探すべく周囲を見
回した。隣では、クロースが少しでも暖をとるべく両手を口を覆うように揃え
て息を吹き掛けている。微笑ましいその光景にオプナは幽かに微笑を浮かべる
と、クロースの為にも、という言葉も付け加えた。

  ◇○◇

 程なくしてオプナは、“三匹の蛙”という名の宿屋兼酒場を見つけた。広場
に面した商業地帯にそれはあった。時計台の向かい側に、閑静な佇まいを見せ
ていた。
 その宿屋は“一流”とまではいかないまでも、そこそこ評判の良い中規模な
宿屋だった。一階には酒場もあり、食事を楽しみながら酒を嗜めるという。夜
にもなれば鉱山労働者が屯し、一寸した賑わいを見せる。町の人々にとっては
憩いの場所、そんな建築物だった。
 少なく見積もっても築五年は硬いであろう“三匹の蛙”亭の扉を、未だに意
識を取り戻せていない少年を背負ったままのオプナが如何にも難儀な素振りで
押し開く。途端に中から、外の市場から響く喧騒とは裏腹な静寂が鼓膜を静か
に叩いた。丁度今は明け方である。当然の事ながら、酒場には一人の客も見当
たらない。扉に「閉店」の文字が刻まれた掛け板が掛かっている通り、酒場は
店を閉ざしている刻限なのだ。しかし、宿屋としては受け付けているようだ。
カウンターには一人の中年男性が鎮座していた。
 オプナとクロースは、徐にカウンターに近付くと主人らしき男に声を掛け、
部屋を二つばかり手配する。

「今日一日泊めて欲しいのだけれど……空いているかしら?」

 にこやかに微笑んで、愛想を振りまく事もやはりオプナは忘れてはいなかっ
た。その笑顔に差して魅了された風でなく、宿屋兼酒場の主人はぶっきら棒に
言った。

「ああ。今日は、二つばかり空いてるよ。一番奥の部屋だ。……悪いが、うち
は前払い制を取っていてね……」

 そう言い終わるか終わらないかの内に、主人は手を掌を差し出した。どうや
ら金を出せと促している様だ。
 オプナはそれを目の当たりにし、一つ頷くと「それは当然よ」と心の中で呟
きながらも一晩泊まれるだけの銅貨を手渡した。取り敢えずは、相場通りの値
段だ。主人はその銅貨の枚数を数えると、一つ頷いて見せる。今渡した金額は
取り敢えずの値段だ。後は部屋にチップでも数枚置いて宿を発てば十分に満足
して貰える事だろう。

 軋む階段に足を掛け、オプナとクロースと背負われたままの少年は階上に消
えて行った――。
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2007/02/17 00:41 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第五話「ケロヨンの悲劇」/フィミル(セツ)
PC:フィミル ヴォル
場所:街道~三匹の蛙亭
NPC:お客さん モンスター



森を抜けて、街道に出る頃には夜は明けて、悪魔の気配は完全に消えていた
風の通らない森よりも思いのほか寒く、自分の腕を抱いて露出した部分をさする
「砌[みぎり]よ・・・・」
魔力も大分回復して来たようで、難なく置いてきぼりにした荷物を呼び出すことが出来た
遠くにある物を転移させるのは至難の技だが、このレザーザックにはあらかじめ魔方陣が刺繍されていた。そうすることにより呼び出しは初級魔法にまで成り下がる
「へぇ、便利なものだね」
「ええ、特に私なんて忘れ物が多くて、この魔術にはお世話になりっぱなしなんですよ」
「ははは・・・・・は、はっくしょん」
思わず笑うと、お兄さんは「いや、失礼」と顔をしかめた
「防寒具の類はお持ちですか?」
「うん、一応」
と、そこで冷たい風が吹いてきたので、自分も急いでザックを漁る。そろそろ寒くなると思って、前の街で買ったものがあるはずだった
足元まで隠す真っ黒なマントだ。結ぶ紐の先にフワフワしたファーのボールが付いていて、それが子供っぽいと思うのだが、そう思うのは自分だけだと知っていた
羽織って、しっかり前を合わせると結構暖かい
お兄さんも上着を着込んでいる
「砌よ」
今度は悲哀の翼を呼び出した。そう言えば何でこんな名を付けたのだろう?よく思い出せない
まぁいいか、と思ってマントの上から背負う
「物騒だね、何でそんな物背負ってるの?」
ごもっともだ、しかもこれは刃渡り1m強もある長物で、柄も合わせると自分の目線程もある。見た目より遥かに軽いので扱いには困らないが、やはり異様なのだろう
「えっと・・・・一応護身用なんです」
「へ、へぇ~」
納得してくれたのか怪しいところだが、しょうがない。実際この剣は自分にとっての十字架なのだ。我が身の罪深きを忘れないための・・・・
と、急にお兄さんが立ち止まった
「?」
こちらを見て笑む
「雪だ」
見上げた顔に冷たい感触、雪だ
パラパラと、灰色の雲から零れ落ちるように
マントの中から腕を伸ばす、冷たい
雪は好きな物の一つだった。地面に寝転んで、ずっと雪が舞い落ちるのを見ていたいと思ったが、取り敢えず諦めた
「急ごう」
「はい」
既に自己紹介など終えていたので、目的地が同じだと言う事もわかっている
まだ積もる気配さえない雪は風に戯れて、触れた物を次第に凍てつかせるのだった


助けてもらったお礼に、とお兄さんを連れ込んだのは「三匹の蛙亭」と言う宿屋兼食堂兼酒場のようなところだった
どう見ても年下の自分におごらせる事をお兄さんは頑なに拒んだが、実は自分は大金持ちの娘で親のお金だから、と嘘まで付いてやっと承諾した
実は訳あって私にはかなりの貯金があるので、旅費には困らない
街についた時にはもう夕方近くだったので、「三匹の蛙亭」はそれなりの賑わいを見せていた。先にそこで宿を取り(お兄さんの分も取ってしまおうとしたが、気づかれた)久しぶりの温かい食事にありつくことになった
「で、そのお嬢様が何で旅なんかしてるの?」
「かわいい娘には旅をさせろ、ということで」
「ふ~ん、そうなんだ、大変だね。あれ、でも何で魔法が使えるの?」
「えっと・・・・・護身用、です」
「へ~、もうそんな時代なんだ」
・・・・実はこのお兄さん、少し単純というか、人を信じやすいところがあるようだ
「それでですね・・・・・」
「うん?」
お兄さんは嬉々と食事をしていたが、その手を止めてこちらを見る
「あの、えっと・・・私に護衛として雇われてはもらえないでしょうか?」
「いいよ」
その即答ぶりに少し呆気にとられながら、それでもなんとか言葉を続ける
「それで報酬なんですが・・・・・」
「ふぇ?ん・・・・んぐ、ごめん、えっと報酬か・・・・相場はどのくらいなの?」
「私もそれが聞きたかったのですが・・・・」
「う~ん・・・・・あっ、そう言えばこれからの行き先は決めてないって言ったよね」
「はい、特には」
「じゃあ僕についてこない?それならお金もいらないし」
戸惑う。契約関係ならともかく、好意に甘えてこの人を巻き込みたくはなかった。恩を仇で返すようなものだ
「あの、実は私は狙われているんです。ご迷惑をかけるわけには・・・・・」
「え?そなの。でも気にしないで、僕も狙われてるから」
「え?」
「それに今から迷惑掛けるみたいだし?」
お兄さんの視線の先をみると、窓から怪物(大きな鳥のような)が硝子を蹴破って入ってくる所だった
「三匹の蛙亭」はパニックになり、お兄さんは荷物を漁っている。どうやらお兄さんのお客さんのようだ。いいかげんダルい体に鞭打って、とりあえずテーブルの影に身を隠した

2007/02/17 00:41 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第6話「強襲」/ヴォル(暁十夜より改名生物)
PC:ヴォル フィミル シオン クロース オプナ 
場所:マキーナ「三匹の蛙亭」
NPC:ブレッザ・プリマヴェリーレ 鳥怪人素晴しき屍使いツクヨミ ロリコン
魔術師バーキン 

――――――――――――――――――――

 世の中にはごく普通の暮らしをしていても、非常識な災難に見舞われること
もある。
 三匹の蛙亭の主人は何も出来ずにただ突っ立っていた。怪鳥――というよ
り、鳥の姿をした怪人だが――がいきなり窓を突き破って侵入してきたのだ、
それは仕方の無いことだろう。
「これはやっぱり人災なのかなぁ」
『そうね……、だから人助けなんてするものじゃないのよ』
 頭の中で聞こえるブレッザのため息に苦笑しながら、ヴォルペはグローブの
感触を確め、鳥怪人を見据える。
『レン、わかっているとは思うけど』
「わかってるって、変身はしないって。よし、いくぞ鳥怪人!! ……って、
あれ?」
 勢い良く人差し指を怪鳥に突きつけたまではよかったが、相手からの反応が
全くない。それどころか怪鳥の目からはいっさいの生気が見受けられない。
「ブレッザ、何か変だよ。あいつ、まるで死んでるみたいだ」
『あいつ、前に倒したのがアンデットとして蘇生されたみたいね。あんまりわ
からないけど、体は腐りかけてるみたいだし、それに……』
「ぎょGRUuアアアアア」
 気味の悪い叫び声を上げた鳥怪人は翼をばたつかせて必死にヴォルペに飛び
かかろうとするが、羽毛を撒き散らすだけだった。
『脳ミソまで腐ってバカになってるわね』
「あの……、どうしましょう?」
 テーブルの影からフィミルが尋ねてきた。グロテスクな外見に似合わずコメ
ディアンな鳥怪人にどうしていいか迷っているようだ。
「え、えーと、とりあえず隠れてて」
 苦笑ながらそう言ったヴォルペはとりあえず目の前の鳥怪人の処遇を考え
る。
 鳥怪人は翼をばたつかせどうにか飛ぼうと頑張っている、途中疲れたのか肩
を上下させて休んでいる。案外中に人でも入っているんじゃなかろうか……。
「……なんかさ、見てて可愛そうになってきた」
「GuaaああぁUuuu」
 ついに飛んで襲い掛かるのを諦めたのか、鳥怪人は近くにあった備え付けの
テーブルを床から引き剥がしヴォルペに向かって投げつけた。
「よっ、とっと」
 ヴォルペは軽く体をひねってテーブルをかわす。後からなにやらオッサンの
怒鳴り声が聞こえて気がするが、気にせずヴォルペは鳥怪人との間合いを詰め
ようとしたとき。
「伏せて」
「!?」
 不意の声に従うようにヴォルペはその場に伏せると、頭の上を熱の塊が通り
過ぎ、鳥怪人を包み込む。
「GYううあああぁあ」
 熱風を浴び悶絶する鳥怪人。ヴォルペは立ち上がり後を振り返り、一人の青
年を見据えた。熱風を放った張本人だ。近くに桜色のローブを羽織った――恐
らく魔術師の類だろう――女性がいた。
 おそらく彼女が警告をしてくれたのだろう。後でお礼を言わないと。
「ちっちっち、ダメだよおねぇさん。教えちゃさ。おかげで愉しいオモチャが
一つ減ったじゃないか」
 青年はオレンジ色の髪をかき上げながら言った。気のせいだろうかその態度
はひじょーにムカツク。が、それ以前に気になることがある。
「こいつは、あなたがけしかけたんですか!」
 黒コゲになった鳥怪人を指差してヴォルペは叫んだ。
「そうだよ。ここに来る途中に手に入れたんだ。おもしろいオモチャだろ? 
まあ、ホントはキミじゃなくて上の部屋で寝ている彼に使おうと思ったんだけ
どね」
 薄い笑みを浮かべた顔で魔術師の女性を見る。知り合いなのだろうか。
「貴方、あの時の!」
「ふふ、シオンは元気かい?」
 顔に浮かぶ笑みがさらに深く、不気味にしてオレンジ頭は言った。改造人間
としてのヴォルペの感性がかなりヤバイ奴だと警告を発する。
「シオン?」
女性は一瞬不思議そうな顔をする。がそれもすぐに納得のいった表情に変わっ
た。上の階から青年が降りてきたからだ。
「シオンは私のことですよ」
 白髪、と言っても年を経て色が抜けたという感じではない、雪のようなまっ
さらで綺麗な白だ。白髪の青年、シオンの後ろには妹だろうか、似た感じのす
る少女が隠れるようにたたずんでいた。
「逢いたかったよ、シオン。ふふ、キレイなお友達が増えたようだね。ますま
す気に入ったよ」
 魔術師の女性と少女を舐めるような視線をはわすオレンジ頭。その視線から
隠れるように少女はシオンの背後に隠れてしまう。
 なんというか、あの視線で見られると隠れたく気持ちもわかる。
「ねぇブレッザ、普通に僕達現状からおいていかれてない?」
『いいのよ、危ない奴には近づかないにこした事は無いわ。とりあえず逃げる
べきよ』
「そう……だけど」
 普通なら逃げるべき状況だ、狂人の相手をしているヒマなどヴォルペには無
い。だが困っている人を黙って見過ごせない……。
『考えてみなさい。今は貴方一人じゃないのよ? これ以上面倒を増やすつも
り?』
 そうだ、今はフィミルの護衛を受けている立場だ。ヴォルペも彼女も何者か
に追われている、これ以上敵を増やすのは得策ではない。
「フィミル」
 小声で呼びかけると、彼女もそのつもりだったらしくすでに荷物をまとめて
抱えている。
「あの人達には悪いけど、今のうちに」
「わかりました」
 オレンジ頭をシオン達がひきつけて――もともとオレンジ頭の狙いは彼等の
ようだが――いる間にヴォルペとフィミルは静かに出入り口に向かう。
「あがっ!?」
 ヴォルペがドアノブに手をかけようとした時、勢いよく、というか良すぎる
ぐらいドアが開いた。
 扉の向こうからぬそっと入ってきたのは、黒いローブに身を包んだいかにも
といった感じの魔術師だった。
「ふははは、見つけたぞオプナ! 今日こそクロースを渡してもらうぞ!」
 おもわぬ珍客に一瞬その場が凍りつく。その沈黙を破ったのはフィミルだっ
た。
「だ、大丈夫ですか?」
「う、うん。ちょっと痛いけど」
 不覚にもヴォルペは黒い魔術師が開けたドアに顔面からぶつかってしまって
いた。鼻血が出て少々かっこわるい。
「ぬ? なんだお主は? まあ、いい。さぁオプナ、クロースをこちらに渡
せ」
 しりもちをついているヴォルペを一瞥し尊大な態度で黒い魔術師は、オプナ
――桜色のローブを羽織った女性――を指差す。フードを目深にかぶっている
ため顔はよくわからないが、なんとなく喋り方と雰囲気があっていない。
「……誰この変態魔術師?」
 いぶかしげな表情でオレンジ頭は黒い魔術師を見据えた。
「変態とは心外な! 我輩は誇り高き魔術師、バーキン・ファルミーである
ぞ」
 たしかにオレンジ頭に変態呼ばわりされるのは心外だろうが、街中で真っ黒
なフードを目深にかぶっているのもどうかと思う。
「主こそ、体中から屍臭が漂っておるぞ。お主こそ変態ではないか!」
「ふっ、屍臭は僕の証みたいな物だからね。でも変態に変態なんて言われたく
ないね」
 会話の趣旨が微妙にズレているが、なにやら余計に現状がややこしくなった
のには間違いないらしい。
「ならば名を名乗れい! それが礼儀であろう」
 胸をそらし、びしっとオレンジ頭を指差してバーキンはいきりたった。意外
と礼儀正しいようではある。
「ふふ、僕の名前かい? 僕は素晴しき屍使いツクヨミさ。まあ、今は苗字だ
け。ファーストネームは気に入った相手にしか明かさないからね、ふふふふ」
 オレンジ頭、ツクヨミはシオンとその後ろのクロースに向かって不気味な笑
みを飛ばす。
「むぅ、キサマ、キサマもクロースを狙っておるのか!」
「おじさんもかい? 残念だったねあの子も、というかおじさんを除いたここ
にいる子は皆僕の物さ」
 恍惚とした表情で両手を広げるツクヨミ。改めて周りを見渡してみるとヴォ
ルペ達以外誰もいない。当然といえば当然だが。
「それって私もですか!?」
 間の抜けた声で自分を指差すフィミルに、ツクヨミはねちっこい視線を向け
て頷いた。
「ヴォ、ヴォルさ~ん」
「いや、僕に振られても……」
 困ったように苦笑するヴォルペ。フィミルだけではなく、ツクヨミはヴォル
ペも自分の物だと言い張ったのだからヴォルペも被害者である。というかここ
に入ってから時々感じたあの粘着質な視線はツクヨミのだったのか。
「させん! 断じてさせんぞ! そこの頑固一徹傑女オプナはいいとして、ク
ロースだけは断じて渡さんぞ!」
「ちょっと、頑固一徹潔女ってなによ」
「ふふふ、嫌だと言えばどうするんだい? ロリコン変態魔術師さん?」
「ふわっはっはっは。それは決まっておろう。こうするまでよ」
 ロリコン魔術師、もといバーキンはオプナの文句など聞こえない様子で、杖
を取り出し呪文を唱え始める。
「ふふふふふ、いいねぇ、そういうの嫌いじゃないよ」
『呆けてる場合じゃないわよ。今のうちに早く逃げるのよ』
 変態二人のやりとりに呆気にとられていたヴォルペにブレッザが叫ぶ。
「フィミル、今のうちに」
「は、はい」
 逃げる意図をオプナ達に目で告げると、軽く頷いて返してきた。好機ととっ
たのは向こうも同じようだった。
「死の淵よりいでし業火の化身よ……」
「氷艶を司りし狂える女王よ……」
変態二人は呪文の詠唱に入ったようだ。しかし詠唱反応を見る限りかなり大掛
かりな術ようだ……、しかも炎と氷という反属性である。
「今だ、逃げるよ」
「クロース、シオン君逃げるわよ!」
 それぞれ別方向の扉から外に飛び出す。変態二人はそれに気付いたが詠唱を
途中でやめるわけにもいかず、術を解き放った。
「ビックバン・メテオ!」
「トルネイド・ブリザード!」

    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 反属性の魔法がぶつかりあった時の反応は三通りある。一つはどちらか一方
の力が強く、片方が打ち消されてしまう場合。二つ目は両者の力が拮抗し、双
方ともに打ち消される場合。そして最後は……。
 日もすっかり昇り、マキーナの商業地帯にもそれなりに人の姿が目立つよう
になっていた。出勤する人の波に紛れて不幸のオーラを撒き散らす男が一人。
「ああ、店が……私の人生と魂と経験をこめた店が……」
 口ひげを生やした男、三匹の蛙亭の店長ががっくりと膝をつき新地になった
自分の城を眺めていた。
 ツクヨミとバーキンの魔法は互いの反属性に反応し相乗効果で通常以上の威
力を発揮した。その結果三匹の蛙亭は見る影も無く柱一本残さずに消滅してい
た。
「店長、そんなに気を落とさないで。俺がついてますから」
「そうよ店長さん私達だって協力するから」
 店員や常連客の暖かい励ましを受けて一番の被害者であった店長はなんとか
立ち直れそうであった。
「なんというか。よかった、のかな?」
 苦笑してヴォルペはその場を離れた。
『まあ、隣の建物に被害がなかったのは奇跡ね』
「これからどうしましょうか……」
 フィミルがザックを抱えてながら尋ねてきた。とりあえず変態二人の生死を
気にかけて時間が経ってから戻ってきたのだが、店があの状況では確認できな
い。この問題はひとまず棚上げだ。
「そうだなぁ……、とりあえずお腹も減ったし、朝ご飯食べようか」
「そう、ですね」
 中途半端に終わってしまった食事のせいでやたらとお腹が減ってしまってい
る。二人はとりあえず近場の飲食店に立ち寄る事で落ち着いた。
 店に入ると適当なテーブル席に座ってメニューを開く。胃に入ればなんでも
一緒とヴォルペは最初に目に飛び込んできた文字を口にだした。
「「とりあえずモーニングセット」」
 不意にハモった声にヴォルペは驚いて後の席を振り返った。それは三匹の蛙
亭にいたオプナ達であった。
「あ、どうも」
「ど、どうも」
 今朝の朝食は少し重い話に……なりえそうもなかった。

2007/02/17 00:42 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第7話「ツクヨミ」/ヴォル(生物)
PC:ヴォル フィミル シオン クロース オプナ 
場所:マキーナ「ファーストフード店、三匹の蛙亭跡」
NPC:ブレッザ・プリマヴェリーレ 屍使いツクヨミ 魔術師バーキン 店長
(ゴリ男)不幸な店員

―――――――――――――――――――――――――――――

とりあえず同じ席につく一行、とわ言うものの、なかなか気まずい雰囲気を漂
わせている。

「あ、さっきはありがとうね、危うく丸焦げになるところだったよ」

最初に沈黙を破ったのはヴォルぺだった。
彼はツクヨミに焼かれそうになったところをオプナの一声で助けられた時の事
を言っているようだ。オプナもそれに気付いたようだが少々バツが悪そうに答
える。

「そんな、礼を言われるような事じゃないわよ、こっちこそ巻きこんでしまっ
てごめんなさいね」

「あの、あなた方はなんであの二人組に追われているのですか?」

フィミルのいきなり核心を突く質問、あの二人組とは間違いなくあの変態二人
の事だろう、だがどこをどう見ても組んでいる様には見えない。

「ん~まあ、なんて言うのかしら…あ、私の名前はオプナ、オプナ・ハートフ
ォート、でこっちがクロース」

オプナとシオンの間にちょこんと座っていたクロースがぎこちなく会釈する。

「えっと、私はフィミルといいます」

「僕はヴォルペ・アルジェント」

つられてと言うか、その場のノリでヴォルぺも自己紹介をした。

『コレ以上かかわる気?』

ブレッザは本当に心配している様だ、が、少々呆れている様にも聞こえる。

「ん~…仲間は多い方が心強いと思うけど」

『まだ信用できると決まったわけじゃないでしょ』

「大丈夫だと思うけど」

「話しを続けても良いかしら?」

急に黙ったヴォルペとフィミルにコホンと咳を一回ついたオプナが続ける。

「まあ、あいつの名前は自分から言ってたから知ってるわよね、バーキン・フ
ァルミー。クロースを付け狙っている変態魔術師よ。何故付け狙っているのか
は今は言えないけどね」

「お待たせしました、モーニングセットです」

と、そこに5人分のセットを器用に運んできた店員が営業スマイルを浮かべ
る。



「あの、ところでそちらの方は?」

フィミルの目がさっきから黙って何かを考え事をしているシオンに向けられ
る。

「…?」

全員の視線が向けられている事に気付いたシオンは初めて自分が自己紹介して
ない事に気付く。

「あ、すみません、私は…シオン、シオン・エレハインと申します」

「何か考え事?」

微笑するシオンにオプナが問う。

「ええ、ちょっと、それよりすみません、もとはと言うと私の責任でもあるの
です、あのオレンジ頭の…屍使いツクヨミは私を追ってきたのです」

「その事なんだけど、あのオレンジ頭、一体何者?死体を操ってたみたいだけ
ど…」

ヴォルぺがモーニングセットのパンをかじりながら聞く、なかなか美味しいパ
ンだと思う。

「名前、といっても通り名のほうですね、屍使いの名のとうり彼は死者を自由
に操ることができるのです、恐らく先程の鳥人の骸は彼に操られていたのでし
ょう」

「なんてことを、死者を侮辱するなんて」

フィミルが悲痛な表情で呟く、それにシオンも苦い顔で頷く。

「屍使いはコレクションを…こう言う言い方は宜しくないですけど、気に入っ
た身体を集めている様です。私が彼に狙われているのは何者かに依頼されたか
らの様なのですけど、どうやら彼に気に入られた様です……そして…申し上げ
にくいのですけど…彼はあなた方も狙ってくるかもしれません、いえ、もう狙
っているかも…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 同時刻―三匹の蛙亭跡 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「まったくなんだよ、あのオヤジ、もう最っ低」

服についた埃や煤をパンパンと払い、悪態をついて立ちあがる屍使いことツク
ヨミ、すぐ近くには見事に跡形も無く消し飛んだ三匹の蛙邸とその店主+店員
数人と常連客がたたづんでいる、いや店主が呆然と立ち尽くしているのを慰め
ている様にも見える。
と、店員の一人がツクヨミに気付いたらしく怒気も露わに近づいてくる。

「お前!ちゃんと責任とってくれるんだろうな!」

面倒くさそうに立ちあがるツクヨミの襟首を掴み怒鳴る。
正面から怒鳴り散らされてやはりツクヨミは面倒くさそうに顔をしかめる。

「うるさいなぁ、君、僕の興味外だから向こう行ってくれない?」

ツクヨミの態度にあからさまに腹が立ったのか店員の男性は握りこぶしを作り
ツクヨミの顔に叩きこもうとした。

「興味外って言っただろ?」

店員は一瞬何が起こったのかよくわからなかったようだが自分の腹を突き抜け
た剣とツクヨミの冷たい笑みを浮かべた顔を見比べ血を吐いて倒れ込む。

「汚いなぁ、服が汚れちゃったじゃないか」

店員から剣を引き抜き、その店員の服で血を拭う。

「きゃあああぁぁぁ!!」

誰かが悲鳴を上げるのと同時にその場にいた全員が絶叫を上げ逃げ出す。一人
たたずむ店長を残して。

「ん~、いいね、その絶望で満ちた瞳、オーラ」

「あんた誰だ?」

店長は無気力にツクヨミを見返す。

「力が、欲しくないかい?君の生き甲斐を奪った奴らを殺すための、力」

ツクヨミの吸いこまれるような冷たい瞳を眺めていた店長の目が徐々に悲しみ
から憎しみに変わっていく。

「そう、それでいいんだ、憎しみや悲しみ、そう、不の感情で満ちた生物は死
ぬと強~い兵士になるんだ」

鈍い音と共に店長の喉に剣が突き刺さる。

「さあ、宴の始まりだ、存分に暴れるといい」

ツクヨミが人差し指を店長の額に当てる、その瞬間、すでに死んだはずの店長
の体が大きく脈動した。
皮を突き破り異常に強靭な筋肉が盛り上がってくる。
本の数秒で店長の死体はまるで巨大な猿のような全身が毛に被われた化物へと
変貌した。
しかし、それにはまったく生気を感じられない。

「GYAAああああ」

雄叫びを上げ怪物はその濁った瞳でツクヨミを見つめる。

「そうだな、とりあえず彼等を見つけてもらおうかな、ああ、戦闘になっても
あまりぐしゃぐしゃにしちゃいけないよ、まあシオンは少々骨が折れようが目
玉が抉れようが内臓が出ようが…やめた、いくら再生能力が高くても美しさが
売りだもんね彼は、まあつまり全員顔は傷つけちゃいけないよ、それじゃいっ
てらっしゃい、ゴリ男君」

「がRURURUUUUU」

唸って怪物ゴリ男はその姿からは想像もつかないほど素早く飛び去った。

「そう…みんな僕の物さ…みんな…」

ツクヨミの脳裏にシオンと新たに彼の標的になったオプナ、クロース、ヴォル
ぺ、フィミルの顔が浮かぶ。
そして彼はうっとりとした表情を浮かべ人差し指を唇に当てる。


2007/02/17 00:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第八話「猛獣」/オプナ・クロース(葉月瞬)
PC:ヴォルペ、シオン、オプナ、クロース
NPC:フィミル、ゴリ男、ブレッザ・プリマヴェリーレ、屍使いツクヨミ
場所:マキーナのファーストフード店
***********************************

☆あらすじ☆

 夜深き森の中、フィミルは悪魔達の追尾を受けていた。
 執拗に攻撃を仕掛けてくる悪魔達から逃れる術はなく、フィミルは仕方なく
自身の内に眠る天使の力を解放する。しかし、善戦空しくフィミルは力尽きて
倒れてしまう。命を取られそうになったその時、正義感に燃えるヴォルペが現
れる。
 ヴォルペはその内に潜む九尾狐ブレッザ・プリマヴェリーレの力を解放し、
悪魔達を撃退する。その力を目の当たりにしたフィミルは、自身の護衛をヴォ
ルペに頼む。当然の如く引き受けてしまったヴォルペは、傷ついた少女ととも
に一路マキーナの町へと降って行った。
 同じ頃、マキーナ付近の森で追尾されている人物がいた。
 銀髪の人造人間(ホムンクルス)、シオンである。
 追っ手は錬金術師の組織から送られた、屍使い・ツクヨミだった。
 何とかツクヨミを撃退したシオンだったが、ツクヨミが最後に放った炎の魔
法の直撃を受け、瀕死の重傷を負ってしまう。偶然通りがかった、オプナとク
ロースを庇ったためだ。
 オプナは回復魔法で回復しようとするが、間に合わないと見て取るや、一路
付近の町マキーナへと飛んで行くのであった。

 マキーナの宿屋「三匹の蛙」亭に宿を取るオプナ、クロース、シオン。
 そこに、ヴォルペ、フィミルまでがやって来た。
 二人が食事をしようと席に着くと、そこへツクヨミとクロースとオプナを追
って来た魔術師バーキンが襲撃してきた。
 二人の鉢合わせの魔法で壊滅した「三匹の蛙」亭から何とか抜け出た五人
は、朝食を取ろうと立ち寄ったファーストフード店で鉢合わせることになっ
た。

 一方、ツクヨミはコレクションを増やすため「三匹の蛙」亭の主人を魔獣化
してしまうのだった――。

***********************************

 五人が親しくなりつつある最中、突如店の大通りに面している扉が破砕され
た。
 続いて、爆音が轟く。
 その爆音の中に獣特有の唸る様な怒声が聞こえて来たことは、云うまでもな
い。

「何だ!?」

 最初に席を蹴立てて反応したのは、ヴォルペだった。彼の反応速度は、五人
の中において最速なのだ。何しろ九尾狐であるブレッザが体の一部を形成して
いるのだ。常人ではないその体運動は常軌を逸していた。体が反応する前に、
ブレッザの警告がヴォルペの脳内に反響したのは言うまでも無いが。
 次に反応したのは、意外にもフィミルであった。彼女は悪魔との追尾行で感
覚が研ぎ澄まされていた。危機管理能力が極端に高くなっているのだ。当然、
隣に座っていたヴォルペに注意を促されての反応だが。

「獣……いや、人が化身したもの……ですね」

 急激に反応を示した二人に反して、シオンはゆっくりと静かに振り向くと冷
静に分析した。彼の洞察力は、人智を超えていた。人ではない、人造人間(ホム
ンクルス)特有の知性を醸し出していた。
 シオンに対して、同じ人造人間(ホムンクルス)であるクロースの方は無反応
である。感情が乏しい、というよりは感情が欠落している感がある。騒ぎに全
く意を介さず、静かにカウンターに向かってジュースを啜っている。
 オプナは暫く様子を見るつもりでいたが、状況はそう巧く事を運んではくれ
なかった。
 獣人が雄叫びを一声上げると、五人のいるカウンターに向かって突進して来
たのだ。
 完全に獣と化した身ごなしで。
 だが、彼は完全に獣と化していたわけではなかった。
 突進の最中、獣の唸り声の間に僅かに混ざった人としての言語を、オプナは
聞き逃さなかった。

『……よぐも……よぐも、わだじの店をおぉぉぉぉっ!』

 一度目の突進でカウンターは粉砕したが、咄嗟の機転で五人とも飛び退って
いた。
 ヴォルペはフィミルを、シオンはクロースを庇って。そしてオプナは――。


「そういうのを、逆恨みって言うのよ! あの時あの店を壊したのは、私達じ
ゃないでしょっ!!」

 ゴリラのような男――ゴリ男の特攻を間一髪の所で交わすと、オプナは猛然
と叫んでいた。
 猛獣が激突したカウンター付近は、もうもうと埃を舞い立たせている。視界
を遮るかのように。その塵埃(じんあい)から何とか這い出したオプナの額に、
人差し指が突き立てられた。見るとその先端には、魔法の光が浩々と点ってい
る。

「お嬢さん。君はねぇ、逃げちゃいけないんだ。ボクの前から逃げちゃいけな
い。何故なら、これからボクのコレクションになってもらわなきゃいけないか
らねぇ」

 屍使い・ツクヨミが狂気じみた笑みを迸らせると、呪文を唱えだした。

(……儀式魔法!?)

 それが、完成間近の儀式魔法だということを、オプナは瞬時に理解した。そ
してその儀式魔法が、どのような種類のものであるかも。
 オプナは強気に妖艶な笑みを零すと、人差し指から額を逸らし代わりに自分
の左手を押し付けた。彼女の左手には、幾何学的に重ねられた魔法円が描かれ
ていた。

「悪いわね。私の左手は、特別製なの」

 そう言うが早いか、婉然と魔法円に描かれている呪文を解き放つオプナ。僅
かに相手の呪文よりも早い。

「【呪詛返し(カウンターマジック)】!」

  *◆*◆*

 ツクヨミが解き放とうとしていた呪文は、“ネクロマンシー”だった。死霊
や邪霊を呼び寄せ、生気を失った肉体――死体に憑依させ、操る魔法だ。オプ
ナに邪霊を憑依させ、同時に殺す事によって操り人形に仕立て上げようとした
のだ。それが、ツクヨミの常套手段だった。今までは。
 だが、オプナの放った“カウンターマジック”は、相手の放った魔法をそっ
くりそのまま跳ね返す魔法だった。長い詠唱時間を短縮するために、呪文を魔
法円の構成要素の一部に組み込む事によって、咄嗟の機転に用立てたのだ。呪
文を描き込み直す必要があるので、一日に一度しか仕えない手ではあるが、オ
プナにとってそれは必殺の技であった。魔法研究の成果とも言える。
 兎も角、逆にカウンターマジックによってツクヨミの身体に邪霊が憑依して
しまったのだった。これには、流石のツクヨミも読んでおらず面食らった。邪
霊が憑依すると人間の身体はどうなるか。ネクロマンサーでもあるツクヨミは
熟知していた。そしてそれは、オプナも同様だった。
 ツクヨミの身体は極度の拒絶反応を示す。正邪の霊が互いに相殺作用を引き
起こしているのだ。つまり、二匹の蛇の様に互いに喰らい尽くそうと戦ってい
るのだ。その様を見て取るや、ツクヨミが邪霊に完全に喰らわれる前にオプナ
は行動を起こしていた。
 ツクヨミの心臓の辺りには、一本のナイフが突き立っていた。
 それは、呪術用に使うナイフであった。オプナの、ナイフだ。懐から取り出
されたそのナイフの刀身は、赤く塗り込められていた。否、赤く見えるそれ
は、時と共に黒ずんでいく。それは、血液だった。ツクヨミの血液が滴ってい
るのだ。
 未だ、新鮮な肢体に深々と突き刺さったナイフは、ツクヨミの血に染まって
いた。

「コレクションには、貴方自身がおなりなさい」

 オプナは口許を不敵に歪ませると、そのままゆっくりとナイフを引き抜いて
いった。

  *◆*◆*

 邪霊に取り付かれ、止めを刺されて生命活動を手放したツクヨミは、オプナ
の操り人形――否、操り死体と化した。
 それと同時に、ゴリ男の活動も停止した。
 命令を下していた存在が、消失――生ける屍へと変貌したからだ。だから、
命令が反故になったのだ。そして、アンデッドに思考能力などありはしない。
だからこそ、活動を停止したのだ。
 その場の変化に逸早く気付いたヴォルペは、素早く行動に転じていた。


2007/02/17 00:47 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達

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