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2025/04/21 19:55 |
63.「大脱出」/リング(果南)
PC:ギゼー メデッタ
NPC:リング
場所:白の遺跡
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

「メデッタさーん! 俺はここです!」
 その声にメデッタは上方を振り仰いだ。間違いない、ギゼーの声だ。
「ギゼー君!そこにいるのか!?」
 そう言ってメデッタは目の前にある螺旋階段を、リングを抱えたまま上り始
めた。しかし、リングを抱えているせいで、その足取りは沈み込むように重
い。いつもは涼しい表情を絶やさない彼だが、今、メデッタの顔からは、滝の
ように汗が流れ出し、必死な形相で階段の段を一歩一歩、踏みしめるように上
っている。…しかし、メデッタはリングを抱える手の力を、一度も緩めようと
はしない。
 遠くで「ガコン」と遺跡の床が脆く崩れ落ちた音が聴こえた。
 メデッタが階段を必死に半分ほど上りきったところだろうか。
「メデッタさん!」
 階段を上から駆け下りてきたギゼーとようやく合流することができた。
「ギゼー君!」
 メデッタの表情から安堵の色が漏れる。
「…よかった、無事だったのだな」
「そんな…っ、メデッタさんこそ!すごい汗じゃないですか!ずっとここまで
リングちゃんを抱えて歩いてきたんですか!?」
 そういってメデッタの腕の中のリングをギゼーは不安そうに覗き込んだ。リ
ングは発光はおさまっていたが、うつろな瞳を虚空に向けて全く動かないのは
先ほどと同じである。そのギゼーの言葉にメデッタはふっと笑みを漏らした。
「…そんなこと、なんてことはないさ。リングもこうなっているが、身体は無
事だろう。さあ、もう時間がない。あの男と、こんなところで心中は御免
だ。…この遺跡の構造、頭に入っているだろうな?」
 メデッタがそう問うと、ギゼーはふっ…と不敵な笑みを漏らした。
「メデッタさん、俺、何年トレジャーハンターやってると思うんです?」
「…それを聞いて安心したよ」
 メデッタはリングを抱える腕に力を込めると、ギゼーとともに階段を上り始
めた――。


 階段を上りきり、それから休むことなく遺跡を走り続け、途中遺跡の陥没を
注意深く避けながらメデッタたちはようやく、遺跡の入り口まで戻ってくるこ
とができた。
「はぁはぁ…、ようやくここまで戻ってこれましたね、メデッタさん。地上ま
であと少し…ってええええ!!」
 ギゼーの驚く声に、メデッタは、汗でぐっしょりと濡れた額の汗を拭うと遺
跡の入り口を見た。
 そこに立っていたのは、遺跡の入り口でメデッタたちを分裂させたあの「フ
レッシュゴーレム」だった。そいつが、入り口を塞ぐようにのっそりと立って
いる。しかし、このゴーレムもこの遺跡の魔力の産物であったらしく、最初見
た姿とは違い、ゴーレムの顔の肉は半分どろどろに「溶けて」いた。腐った身
体からは前にも増した異臭が漂ってきている。しかも、こんな姿になってもま
だ戦う気があるようだ。ギゼーたちの姿を見ると、「まぁぁぁぁぁ!!!」と
いう悲鳴のような声を上げて、一歩一歩近づいてくる。
「…全く。これではゴーレムではなくゾンビだ」
 ゴーレムを見てメデッタは、最初に出会ったときよりも性質が悪い怪物にな
ったな…、と、一人息を吐いた。そんなメデッタの黒マントを、ギゼーは焦っ
た表情でぐいぐいと引っ張った。
「メデッタさん!ちょっ、呑気に見てないで何とかしてください!早く倒さな
いと俺たち遺跡と一緒に心中ですよ!」
「ギゼー君、そういう君こそ、まず戦ったらどうだね」
 すると、ギゼーは自信たっぷりにこう答えた。
「俺はあんな怪物と真正面から戦うのは嫌です!」
「…」
 メデッタは「仕方がない」と一つ息を吐くと、ギゼーの腕にリングをそっと
預けた。
「君にはここまで案内してもらった借りがある。今は戦ってやろうじゃない
か。すまんがリングの持っている扇子から水を出してもらえんかね。私もリン
グと同じく、水を操る技を使うのだ」
 言われるままに、ギゼーはリングが服のポケットに入れていた扇子を出す
と、扇子の先から水を出した。とたんに、水がメデッタの、前に突き出した両
手の先に、槍状になって集まっていく。メデッタは近づいてくるゴーレムの腹
に狙いを定め、呟いた。
「あんな奴は、一撃で撃破する」
 するとメデッタの手の先に集まった水の槍が、勢いよくゴーレムめがけて発
射された。水の槍はゴーレムの腹を、勢いよく貫く!
 とたんに、ゴーレムの全身の肉が弾けるようにバラバラに飛び散った。同時
に、ゴーレムによって塞がれていた入り口からの外の光が一筋遺跡に差し込ん
だ。
 ゴーレムを破壊したメデッタは、ギゼーのほうを振り向いた。
「ギゼー君、行こうか。早く脱出して、リングを病院に連れて行かねばならん
な」
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2007/02/14 23:47 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
クロスフェードB 第一話 requesut/ギュンター(たじぽん)
PC:ギュンター ジェナス
NPC:ゼリック=ベルナール
場所:クーロン近郊
________________________________ 
 クーロン近郊にある安宿内の食堂の最奥のテーブルに三人の男が向かい合
うように座っていた。一人はメガネをかけた学者肌の男。そしてその向かい
に座るのは小柄で筋肉質な男と長身で細身な男であった。

「時間がないから単刀直入に言おう。君たち二人にはある姉弟の警護をして
もらいたい」

全員が卓に着くや否やいきなりそう切り出したメガネ男、確か名前はゼリッ
ク=ベルナールだったか。彼の向かい側に座っている私は不機嫌そうに鼻を
鳴らし組んだ腕はそのままに顎で先を促した。私の不機嫌の理由は隣に座る
ジェナス=ディラという男である。ついさっき遅刻してきたそいつはやたら
派手な服装の見るからに女たらしといった感じのヘリウムガスのように軽い
男であった。要するに私の一番嫌いなタイプの男である。こんな奴に背中を
預けると思うと正直吐き気がするが何かと面倒を見てくれた情報屋直々の紹
介とあっては断るわけにはいかなかった。

「姉の名はリーズ=エルダート。弟はラーズだ。二人ともライカンスロープ
族で私の患者だった子供たちだ」

ライカンスロープ族とは違法な遺伝子実験によって人工的に作られた種族で
あり見た目は人間と何ら変わりがないこと以外一般人には詳しいことは知ら
れていないきわめて珍しいヒトである・・・らしい。今まで軍隊一筋で外界
との交渉のなかった私にとっては目の前のゼリックの説明にもいまいちピン
と来ないがそんなことは私にとってはどうでもいいことだった。今重要なの
は敵は誰なのか?金は入るのか?この二点だ。

「へぇー。そいつはめずらしいねぇ。まっ、とにかく二人を守ればいいんだ
ね?りょーかいしま・・・」

とあっさり仕事を引き受けようとするジェナスを制して私は言った。

「ちょっと待て。ただ単に警護しろといわれても困る。具体的に誰から狙わ
れているんだ?もう少し詳しい事情を聞かないことには受けるも受けないも
ない」

ゼリックとしてはあまり触れられたくなかったことらしく渋々といった感じ
で話し始めた。

「私はアスクレビオスという製薬会社で研究員をしている。五年前新薬を開
発して巨万の富を築いた会社だ。君たちも名前くらい聞いたことがあるだろ
う。アスクレビオスでは極秘裏にライカンスロープ族の研究が進められてい
て今回守ってもらいたい二人はアスクレビオスではじめて種の変更に成功し
たケースなんだ。ただ社長のディアン=ローガンの方針次第ではこれから先
さらなる投薬実験が続けられる可能性がある。少し前まで自分もその実験に
参加していてこんなこと言う資格はないのだけれど、せめてもの罪滅ぼしに
二人が正気でいるうちに逃がしてやりたいと思ったんだ。頼む手を貸してく
れ」そう言ってゼリックは頭を下げた。

(うーむ)これは厄介な仕事を掴まされたものだ、下手をすれば破滅しかね
ないアスクレビオスとしてはなんとしても姉弟を取り返すか始末するか、い
ずれにしろ必死だろうことは明白だ。聞いた話から察するに金には困らない
連中であるようだし。果たして私の手に負える仕事なのだろうか?などと考
えつつも目の前で必死に頭を下げるゼリックの様子を見たら無下に断るのも
気の毒に思えた。それに祖国を失った私にとっては失うものなど何もない。
命でさえも惜しいとは思わない。そう決めた私にとって断る理由もないよう
に思われた。結局私は依頼を引き受けることに決めて言った。

「分かった。引き受けよう。最後に報酬について聞きたいのだがいいか?」

するとゼリックは胸元から皮の袋を取り出して言った

「本当か?ありがとう。報酬についてだが前金として今この場でこれだけ払
う。残りは姉弟と一緒に動いてるケヴィン=ローグからもらってくれ。三人
は今朝E24街道を通ってデューロンに向かって出発した。君たちは先回り
して三人に合流して欲しい明日になればアスクレビオス側も動いてくるだろ
うからなるべく早く合流してくれ。頼む」

「私たちはすぐにでも発つがあんたはどうするんだ?こんなことしているの
がバレたらまずいんじゃないか?」

「私のことは気にしなくていい、とにかく二人を頼む」

「そうかそれならいい。おいジェナス行くぞ」

そうして立ち上がって隣を見た私は正直我が目を疑った。何とジェナスは気
持ちよさそうに寝息を立てているではないか。イライラがピークに達した私
は無言で剣を抜くといすの後ろ足をスパッと切り倒し店の外へと歩き出した
。後ろで派手にひっくり返ったジェナスをおいて外に出た私はこの日何度目
かわからないため息をついて派手で能天気な相棒が出てくるのを待った。

2007/02/17 00:22 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードB
クロスフェード B 第二話 「襲撃」/ジェナス(鷹塔将文)
「んで、一応合流地点には来たが、これからどうすりゃいいんだ??」
「知るか。 大体合流地点だって大体のところしか聞いていないだろう」

ここは街道と街道の合流地点。
にも関わらず、辺りには人通りは全くない。
そよぐ風に揺れる草原の草々と、戯れる小動物の影だけの世界だ。
「ったく、なんでそこんとこを聞かないで契約するかねぇ」
草むらに横になり、空を見上げるジェナス。
「寝ていた人間に言われたくはない」
側の木に寄りかかっているギュンター。
二人はそれっきり黙ってしまった。

刻は静寂と共に刻々と流れていく。

「・・・!」
「来たな・・・」
街道の向こう側から、馬車が一台こちらに向かってくる。
白煙を上げながら猛然と走っている。
「・・・妙だな、あそこまでとばして来る必要性はないと思うんだが・・・」
「おい、ギュンター! 戦闘準備をしろ!」
ジェナスが勢いよく立ち上がり、馬車の方に向かって身構える。
続いてギュンターも弓を構え、矢をあてがう。
馬車は二人にグングン近づいてくるが、一向にスピードを緩める気配はない。
ようやく馬車がはっきり見えるくらいに近づいてくるころに、ギュンターは馬車の後
ろに黒いいくつかの影を認めた。
「馬車が襲われている!? ジェナス!」
「分かってるよ! 来い、シヴァ!」
ジェナスの声に答え、集まった冷気が精霊としての実体を形作る。
「シヴァ、俺の合図で氷壁を馬車の後方に作ってくれ!」
〈分かったわ!〉
その間にも馬車は物凄い勢いを保ちつつ突っ込んでくる。
後方からは黒い影が何かを馬車に向かって打ち続けつつ、じりじりとその距離を詰め
始めていた。
「おい、ジェナス! このままではやられるぞ!!」
「もう少し・・・もう少しだ・・・・!」
ジェナスは何かを必死に耐えるように呟く。
あと数メートルという距離に馬車が近づき、黒い影はその馬車に手をかけようと手を
伸ばした。
「! 今だシヴァ!」
〈フリーズウォール!!〉
シヴァが両手を天にかかげ、勢いよく振り下ろす。
馬車の上空に巨大な氷の結晶が出現し、馬車と黒い影を見事に分断する。
氷壁にぶつかる澄んだ音と、なにやら鈍い音が同時にいくつか聞こえた。
「よっしゃあ!」
ジェナスは派手にガッツポーズを決める。
しかし彼は忘れていた、馬車が物凄い勢いで彼の横を通り過ぎようとしていること
を。
「げっ、しまっ・・・ぐぇっ!?」
最後まで言葉を終えることなく、ジェナスは思いっきり後方に引っ張られた。
しばしの浮遊感の後、彼は馬車の中にいた。
「詰めが甘いんだ、お前は」
それだけ言うと、ギュンターはジェナスを掴んでいた手を離した。
この男、いつの間にか馬車に飛び乗っていたようだ。
(・・・このスピードでどうやったんだ、コイツ?)

襲撃を振り切り、ようやく一息ついてスピードを緩めた馬車内で、ようやくケヴィン
が口を開いた。
「申し訳ない、非常事態が発生した」
「どういうことだ?」
手綱を握るケヴィンの横に、ギュンターが歩み寄る。
「姉妹の主治医だったゼリッグ・ベルナールが拉致された。それによってこの計画が
筒抜けになり、ある組織に追われることになってしまった」
「なるほど、さっきの黒い奴らだな」
先ほどのやたらと俊敏な襲撃者を思い出す。動きからいって、暗殺などの専門集団だ
ろう。
「面倒なことになったな・・・。ところで、その問題の姉妹は・・・、!?」
突如馬車が大きく弾む。
横転しそうになるも、なんとかこれを堪えて立て直す。
「また来たぞ! あれでやられてないってのかよ~!?」
ジェナスの声がギュンターにも聞こえた。
馬車後方に目を向けると、確かに黒い影が数人、こちらに向かいつつ攻撃してくる。
「しゃあないなぁ、またシヴァを呼んで・・・」
「いや、ここは俺に任せろ。お前はここで見物していろ」
飛び出そうとするジェナスを押さえ、ギュンターが前にでる。

「まだ弓の腕前は見せたことなかったな・・・。よく見ておいてくれ」
そう言ってギュンターは、獰猛な笑みを浮かべた。



2007/02/17 00:23 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードB
クロスフェードB第3話『剣の意思』/ギュンター(たじぽん)
PC ギュンター ジェナス
NPC 芥火薙真
場所 デューロンへ続く街道
________________________________

 街道を疾走するボロ馬車とそれを追走する一団の馬群。しかしその馬群は街
道を行く隊商などを襲う馬賊とは趣を異にする集団で、どちらかといえば忍者
が便宜上馬を使っている、という表現の方が正しい。

 先ほどジェナスが不意を付いて放った氷塊に激しく激突し、その数を4割ほ
ど減らしたものの、追撃者たちの戦意は衰えることなく、今にも馬車へと迫ろ
うとしていた。

「わざわざ死に急ぐとは愚かな」

 弓を構えたギュンターは目を細めると一言そうつぶやき、速さと正確さを兼
ね備えた射撃を披露した。彼の弓から放たれた矢は、唸りをあげて鞍上の追撃
者の眉間に突き刺さる。一人また一人と脱落していくが、それでもなお敵は追
撃の手を緩めようとはしなかった。

「このままでは埒が明かない、やつらは私が食い止めるからひとまず先に行っ
てくれ」

「あの人数だ、それなら俺も・・・」
「いや、お前は馬車に残れ。恐らく伏手がいるはずだ。私もやつらを片付けた
らすぐに追いかけるがそれまでは頼むぞ」

ジェナスの言葉を一方的に退けると、ギュンターは馬車から飛び降り受身を取
った。そして間を置くことなく跳ね起き、腰につけていた小型の連弩を放った
。この連弩は射程距離は極端に短いかわりに、一度に12本の矢を放つことがで
き、さらに次の矢の装填がすばやく簡単にできるもので、彼の祖国では歩兵の
基本装備であったものである。

 放たれた矢はことごとく先頭を走る数人の体に吸い込まれ、彼らは鮮血とと
もに鞍上から転げ落ちていったが、残りの者たちは私を一瞥しただけで通り過
ぎて行った。

「はなから私など眼中にないようだな」

乱戦を予測していたギュンターは肩透かしを食らわされた形となったが、すぐ
さま射倒した敵の馬に飛び乗ると追撃を開始した。逃げる敵を追いかけるとい
う形は追う方が一方的に有利な形である。この場合敵は前を追いかけているの
で決して逃げているわけではないがその点はあまり関係がなかった。私は両足
でがっちりと馬の体を締め上げ、人馬一体となると、空いた両手で弓を構え一
人ずつ射落としていった。

 一人、また一人と倒されていく中で敵もようやくギュンターを振り切ること
を断念したのか、見慣れない反身の剣を抜き放って向かってきた。彼は弓を矢
筒にしまい、剣を抜き放つと一番に切りかかってきた刃をかわし、同時に敵の
首筋を切り裂いた。
敵集団は騎乗しての戦いに慣れていないのか、向かってきては弾き飛ばされ、
まともに打ち合うことすらかなわない有様だったが、ただやられるだけではな
かった。途中から打ち合うことを諦めた彼らは馬を捨て距離をとって飛び道具
を使い始めたのである。それでもギュンターは動きを止めることなく一人ずつ
距離を詰め討ち取っていった。
しかし体に手裏剣やら小刀が突き立って、馬が棹立ちになりギュンターが地に
叩きつけられると、瞬時に間合いを詰めた敵は上段から剣を振り下ろした。一
本は剣で弾き飛ばし、一本は左腕の関節以外を守るアームガードを使って防ぎ
、さらに体を傾けもう一本を避けながら二人目に覆いかぶさるようになりなが
ら、剣を突き立てた。さらにさらに、背後から突き出された剣を半身になって
かわし、相手の腕を取って後ろに回りこみ頚骨を折って仕留める。次の挙動で
最初に弾き飛ばした敵に備えるべくそちらへ向き直るが、それよりも先に相手
は両手に持てるだけ持った小刀を放っていた。

「くっ・・がっ・・・」

上半身に迫る4本のうち、体の中心と顔に飛来したものは防いだものの残りは
右のわき腹と左肩にそれぞれ突き刺さり、下半身に迫った4本は1本が外れ残
り3本が左右の腿に突き刺さった。さらに相手は一気に勝負を決めるべく着火
した癇癪球を投げつけた。それらはギュンターの目前で火薬に引火し炸裂、そ
して粗悪な火薬特有の黒煙を上げた。
 その様子を見届けると追撃者の中で唯一生き残った男は、もくもくと上がる
煙に背を向けた。

「詰めを誤ったな」

煙の中から聞こえたギュンターの声に男は驚愕し慌てて振り返ったが、その時
には既にギュンターが剣を投げつけた後であった。男は自分の胸に生える剣を
見下ろし何が起こったのか理解せぬまま絶命した。

「ふぅ・・」

(私はまたこの剣に救われたのか)地に伏した男から剣を抜きながらギュンタ
ーはそう思った。爆発の直前剣が光を発するのを見たこと、さらに小刀の傷以
外どこにも傷を負っていない自分の体、もう認めないわけにはいかなかった。
理由や仕組みは分からないが自分はこの件に生かされているということを。
 ギュンターはとりあえず傷口を簡単に止血すると馬に乗り馬車を追いかけて
走り出した。

2007/02/17 00:24 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードB
クロスフェードB 第四話「ライカンスロープ」/ジェナス(鷹塔将文)
敵の襲撃をなんとか切り抜け、一息つける程には落ち着いた一行。

「ふう、なんとなくヤバそうな依頼だとは思っていたが、こうもいきなり襲撃を受け
るたぁな~」
「すまない、こちらも予想外の出来事だ。こうも早く情報が漏れるとは・・・」
ケヴィンは馬車を制御しながら、ジェナスに答える。
馬はまだ多少興奮してはいたが、除々に落ち着きを取り戻しつつある。
「君達と連絡を取った後、ベルナールの消息が途絶えた。先ほどの黒い連中が襲って
きたタイミングを考えると、やはりベルナールが捕らえられたと考えるしかない・・
・」
「そうか、またやっかいなことになったなぁ」
ジェナスはどかっと馬車内に腰を下ろす。
「いたっ!!」
「・・・ん??」
きょろきょろとあたりを見回すジェナス。
怪訝そうな顔つきのギュンターと目が合う。
「・・・何アホ面をさらしている?」
「・・・お前、俺のこと嫌いだろ・・・」
ジェナスはギュンターに意見を求めるのを却下し、自分の足元を調べる。
すると、わずかな隙間を発見。
「なぁケヴィンさん、馬車って隠し部屋とかあったりする?」
「いや、ないはずだが・・・」
こちらを見ようともせず、淡々とした返事が返ってくる。
その様子に逆に不信感を募らせたジェナスは、いきなり床にがばっと伏せると、隙間
に指をねじ込み床を引っぺがした。
「うわっ!!」
「きゃあっ!!」
二種類の声が足元から聞こえた。
ゆっくりとその穴を覗き込むと、可愛らしい二人組みの子供が抱き合って収まってい
た。
「ははぁ、この二人が護衛対象ってやつですか」
「ほう、これがライカンスロープ族か・・・」
ギュンターも興味を示し、覗きにくる。
「見つかってしまったか・・・いや、君達に隠していたわけではない。安全のため
だ」
「こんなとこにすし詰めでか??」
「いや、先ほどのような飛び道具などに当る危険性があるからな。少しは頭を使え」
ギュンターが見下ろして言う。
しかしジェナスの興味は二人の子供に向いている。
「お二人さ~ん、こんにちは~♪ 怯えなくていいよ~ん。俺はジェナス・ディラっ
てんだ、よろしくぅ!」
びしっと敬礼の真似事をして、軽い感じで話し掛ける。
「・・・・・・ちょっと! なんて荒っぽいことするのよ!!」
「へ??・・・ぶはっ!!」
へらへらしていたジェナスが、少女の正拳突きをモロに喰らって吹っ飛ぶ。
積んであった木箱に頭から突っ込み、しばらく痙攣していたがやがて大人しくぐった
りする。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! あの人動かなくなっちゃったよ!!」
「いいのよ、別に。どうせしばらくしたら復活するんだろうし。でしょ、そこの陰気
なおじさん?」
少女はギュンターを見て言い放つ。
ギュンターの頬がピクリと微妙に動いたが、誰も気づかなかった。
「まったく、もうちょっとスマートに戦ってよね! がたがた揺れて頭打っちゃった
わよ。あんたたちギルドから来たんでしょ?? ならもっとしっかり守ってよね! 
怪我したらどう責任とってくれるつもり!?」
少女はギュンターに向かって激しく、しかもねちねちと小言を浴びせ続ける。
子供相手に、しかも護衛対象に手を上げるわけにもいかず、しかし無視できるほどの
余裕のあるセリフでもない。
ギュンターはこめかみをぴくぴくさせながら、横で失神しているジェナスを見やり、
あとでコイツに八つ当たりしてやろうと心のなかで決めた。

「楽しい時間はそこまでだ」

「!?」
「動くな。・・・首から呼吸が出来るようになりたいか?」
ギュンターの背後で黒装束、いや、全身を影で覆われたという表現の方が似つかわし
い奴が、首筋に錐のようなものをギュンターに当てている。
ギュンターは剣に手が触れる直前で固まっている。
「・・・この俺に気配を感じさせないとは、大した奴だ」
「強がりは身を滅ぼす・・・ギュンター・オルトルート」
影はギュンターを牽制したまま、幼い姉妹を見やる。
弟がビクリと身を震わせ、姉の背後に素早く隠れる。姉はかばうように一歩前にで
る。
「よせ、リーズ!! 迂闊に動くんじゃない!」
ケヴィンが二人に叫ぶ。
彼は馬を制御しているため、その場から動けない。
「その二人を渡して貰おう。命ぐらいは保障してやる」
影は微動だにすることなく、その目的を口にする。
「・・・答えはわかってるんだろう? 回りくどいのはやめたらどうだ?」
「強がりは身を滅ぼすと言ったはずだがな・・・」
「油断も身を滅ぼすんだぜ?」
突然足元に衝撃が走り、影の注意が一瞬途切れる。
その隙にギュンターは体をひねりながら剣を引き抜き、その勢いのまま袈裟切りに切
りつける。
「ぐぅっ・・・!」
「油断大敵火がボーボーってか?」
「・・・相変わらずのペテン師ぶりだな」
ジェナスがギュンターの隣に並ぶ。
ジェナスは気を失ったフリを続けていただけだった。実際に失ってはいたが。
「くっ・・・ここは引くとしよう・・・」
「逃がすかよ!!」
馬車から飛び降りる影を追おとするうジェナス。と、突如影が体を反転させ、無数の
針を打ち出した。
ジェナスはすんでのところで踏みとどまり、その場に伏せてかわした。
その隙に影は大きく跳んで、遥か後方に消えていった。
「くそっ、やらしい野郎だ!」
「ラーズ! ラーズしっかりして!」
背後からリーズの金切り声が響く。
リーズの腕の中で、ラーズが苦しげに喘いでいる。
「どうした!?」
「どうやら先ほどの針が刺さったらしい。ご丁寧に毒まで塗ってあるようだ」
ギュンターが針のささった箇所を見ながら説明する。
針は抜いたものの、出血h一向に止まる気配を見せない。
「ケヴィンさんよ!」
「あと少しでアルフォード家だ!! そこでなら何とかできるはずだ!」
ケヴィンは馬に鞭を入れ、スピードを上げさせる。
馬車は、人気のない街道を猛スピードで走り始めた。 

2007/02/17 00:24 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードB

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