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2025/04/21 12:56 |
53.「待合室」/リング(果南)
PC ギゼー リング
場所 白の遺跡(ソフィニア北)
NPC 影の男
___________________________________

「…ここは?」
 白い光に眼が慣れたころ、リングは真っ白な空間に一人佇んでいた。
 いや、一人ではなかった。目の前には、あの「影の男」が怪しい笑みを浮か
べて立っていた。
 リングは、あたりをきょろきょろと見回してみる。
 誰もいない。
 伯父様も、ギゼーさんも。
「っ...、伯父様とギゼーさんはどうしたのですか!」
<ふふ、竜といえどもかわいいね。...『独り』はそんなに不安かい?>
 茶化すように笑う「影の男」に、リングは眼を見開いて怒鳴った。
「どうしたのかと訊いてるんです!」
<ギゼー君は、『最後の試練』をしている最中だよ。人間である彼は、『王』
になる資格があるからね>
「『王』...?」
<もう一匹の竜は、まあ、大体キミと同じ状況かな。いわゆる、私の遊び相
手、だ>
「どういうことです...?」
 影の男はにやりと笑った。
<竜族であるキミたちは、最後の試練を受ける資格がない者なんだよ。竜が竜
の秘宝を手にしたって何も面白くない。まあそこは私も同感だね。そこでそん
なキミたちは、ギゼー君の試練が終わるまで、この私と遊んでいてもらうこと
になっているんだよ>
「遊ぶ...?」
<ねぇ、リングちゃん、キミは魔族と戦ったことはあるかな?>
 リングはぎょっとした。影の男の姿が、まるでロウソクのロウが溶けるとき
のようにドロドロと、溶け始めたのだ。それに伴って、部屋の色が、純白から
見る見るうちに、血のような赤に変わっていく。
 ドロドロと体が溶けた影の男は、次第に真っ白な球体の姿になっていった。
 たとえるなら、まるで卵のような。
 その卵に、手足と、真っ赤な唇だけがついている。
 その唇が、残酷そうに微笑んで言った。
『さぁ、今から、殺し合いをして遊ぼうか』
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2007/02/14 23:39 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
54.「心の迷宮」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー (リング)
NPC:真実の鍵
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 今までの白い空間とは一転して、其処は黒かった。
 ギゼーは突然、漆黒の只中に放り出されたような格好になっていた。前後左
右上下の別なく、ただ暗黒が支配していた。

「なっ!? どこだ? ここは……」

 ギゼーが驚きの声を上げても、誰も答える者は居なかった。
 漆黒の中にたった一人、宙に浮いている風になっている。

「……!? リングちゃん!? メデッタさん!?」

 ギゼーが呼び掛けても、誰も答えるものは居ない。ただ、声だけが空しく周
囲の暗黒に吸収されるだけであった。

「ここは部屋なのか? それとも……ん?」

 ギゼーは目の前に、己と同じ様に宙に浮くようにして存在している鍵に気付
いた。
 それは、何の変哲も無い鍵だった。素材は、黄金で出来ている事が遠目にも
判別できる。装飾と呼べる装飾も無く、ただ取っ手の部分が鳥の翼の形をして
いて、鍵の部分はそれに付属していた。片羽のそれを徐に手に取ると、不意に
目の前に扉が現れた。何の前触れもなく突如出現したそれに、ギゼーは驚きを
隠せないで居た。

「なっ、なんだっ!?」
『その扉は、君の心を映し出した扉だヨ』

 何処からとも無く声が響いてくる。今までに聞いた事の無い、声。それは影
の男のものでも無く、勿論リングやメデッタのものでも無い声だった。
 声はどうやらギゼーの手元から聞えて来るようだ。

「……これ、か? この、鍵から声が……?」

 ギゼーが自分の手元にある鍵を見遣ると、声は頷くように答えた。

『有無。そうだヨ。ワタシだ。君が手にしている鍵、それがワタシだ。ワタシ
も、この迷宮も、君自身の心を反映しているのだヨ。ワタシをその扉の鍵穴に
差し込んでみたまエ。ギゼー君』
「!? 鍵が……鍵が本当に喋ってる……!?」

 ギゼーは暫し呆然としていたが、ふと我に返ると鍵を鍵穴に差し込んだ。
今、この場において起こせる行動と言えば“鍵”の言うとおりに鍵穴に差し込
んで目前の扉を開けることだけだったからだ。
 鍵を鍵穴に差し込むと、何の装飾もないただの一枚板でしかない石扉は音も
無く開いていった。それを待っていたかの如く、“鍵”は唐突に語りだした。
それは、静寂に満ちた辺りに厳かに響く。

『ギゼー君、君にはこれから試練に臨んでもらウ。この迷宮は、君の心を反映
しているノダ。この迷宮中に数多ある扉群の中から、一つだけ真実の扉を探し
出してもらいたイ。そして、ワタシをその鍵穴に差し込むのダ。ワタシのこと
は、そうだな……、真実の鍵とでも呼んでもらおうカ』

 扉の向こう側は真実の鍵が言う通り、無数の扉がひしめき合っていた。それ
も、上下左右の別も無く。左右に扉があったと思いきや、上方にも扉は存在し
ていたり、正向きの階段があると思いきや、逆さまの階段があったりと、其処
は全くの出鱈目、ランダム性に富んだ迷宮だった。

「あー……、これが、俺の心を反映した迷宮だって?」

 ギゼーは驚愕を通り越して、呆れ果てていた。こんな、途方も無い迷宮が自
分の心を反映した結果生じたものだとは。俄かには信じ難いものがある。
 ギゼーの当然ともいえる疑問に、真実の鍵はあっさりと肯定して見せる。

『ソうだ。確かに、この迷宮はお前の心を反映して作られていル。そして、真
実の扉は君にしか判らない。君にしか、見つけられないのだヨ。ギゼー君』
「俺にしか……? って、お前は如何なんだよ。真実の鍵って言うからには、
お前の方が判るんじゃないのか?」

 ギゼーが問い掛けると、真実の鍵は馬鹿にした様な、或いは自嘲めいた、笑
みを漏らした。含みのあるその笑いに、ギゼーはむかっ腹が立つ。

「なっ、なんだよぅ! 何も、笑わなくたっていいじゃないか! 俺には何が
どうなってるんだかさっぱり解らないんだから!」
『ワタシは、真実の扉を開けるためだけに存在しているモノ……』

 その言葉を背に、ギゼーは手近にあった扉を取り敢えず開けてみる。


    ◆ ◇ ◆


 そこは、地獄の業火に彩られていた。
 紅に染め抜かれた家屋は、今にも崩れ落ちそうだった。
 その紅の渦の中に、二つの人影が窺える。それは、微かに微笑んでいるよう
だった。ギゼーに向かって、微笑みかけているようだった。二人の口元が僅か
に動く。「自分達の事は大丈夫だから、心配しないで」ギゼーにはそう言って
いるように思えた。

「親父……。お袋……。何だ、これ……。何なんだ!」

 ギゼーの目から無意識の内に零れ落ちる涙。
 炎の中から差し伸べられた母の手に、ギゼーは堪え切れ得ぬ思いを胸に詰ま
らせていた。
 お袋、やめてくれ。あんたは死んだんだ。死んじまったんだよ。喉から出る
か出ないかのところで詰まらせている言葉を、必死の思いで飲み込むギゼー。
本当は心の底から信じたかった。両親も、村人達も全て生きていると。元気に
今もアラウネ酒を作って馬鹿騒ぎしていると。
 しかし、実のところギゼーは知っていた。希望は希望でしかないと言うこと
を。希望は希望的観測でしかなく、事実には到底なり得ない。事実を突きつけ
られて、そうはっきりと認識せざるを得なかった。
 ギゼーは、何かを悟ったかのように、静かに一つ目の扉を閉じた。

「なんだ? 何なんだこれは……。ここの扉、全部俺の記憶そのものじゃあな
いか……」

 怒りだか脱力感だかを噛み殺すように、呟くギゼー。その瞳は自分の爪先を
見詰めていた。
 ギゼーの心の叫びと呟きを聞いた真実の鍵は、含むように笑うと呟いた。

『……だから言っただろウ? ココは、お前の心の中だっテ』
「う、うるさい! 黙れ!」

 ギゼーは触れられたくない傷を抉られたような気がして、気分を害した。そ
れもよりにもよって無機物などに。声を荒げ、相手を威嚇するギゼー。既に解
っていることを指摘されることほど、むかつく事は無い。自分に理解力が無
い、と言われているようで腹立たしくなるものだ。
 俺はそれほど馬鹿じゃない。
 ギゼーはそう叫びたかった。ここがどういう所なのか、先程から散々情報提
供されているのだ。それを理解していない訳じゃない。頭の何処かで否定した
がっているだけなのだ。そして、一つ目の扉を開けた時、否定しようとしてい
たこと自体が否定され現実として突き付けられたのだ。脳内で混乱しているの
は事実だが、それも指摘して欲しくない。

「……っ! 真実の扉、とやらを探せばいいんだな……」
『そうだ。それが、最後の試練ダ』

「さ、さぁ、気を取り直してこの調子で次行って見よー!」

 誤魔化し半分、気合半分の掛け声だった――。


2007/02/14 23:39 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
55.「秘めた思い 彼の理由」/リング(果南)
PC ギゼー リング
場所 白の遺跡
NPC メデッタ 影の男
___________________________________

 時を同じくして…。

 メデッタもまた、あの影の男と真っ白な空間の中で対峙していた。
 二人の間に、静かな時間が流れている。
 互いの気が張り詰めた空間、一見談話でもできそうなほどゆるやかな雰囲気
に見えるが、他の感情が入り込めないほどの濃密な気が空間に満ちている。

 この雰囲気の中、姿勢を崩し、最初に口火を切ったのは、影の男だった。

「…キミはおもしろいんだか、クソつまらないんだか」
 影の男がニヤリと笑う。
「…リングちゃんとは、ずいぶん違うねぇ。あの竜は、揺さぶればすぐ感情を
乱すのに」
 <リング>という単語にメデッタが、ピクリと片眉だけを歪める。
「…今、リングと話しているのか?」
 その様子を見て、影の男が微笑んだ。
「ふふ。やっぱりそうなんだ。キミのウィークポイントはあの竜だね?」
 メデッタはただ表情を硬くして黙り込む。
 影の男はにたあっと気持ち悪い笑みを浮かべた。まるでイタズラを思いつい
た子供のように。
「そうだ、キミには肉弾戦を仕掛けるより、こっちのほうがいいかもしれない
ね」
 みるみるうちに、影の男の姿が変わっていく。その笑みは、やがて彼、メデ
ッタがよく見知った顔になった。
「…どうですか、伯父様?なかなかそっくりだと思いません…?」
「…ッ!!」
 メデッタの身体からどっと冷や汗が出てくる。今まで冷静沈着だった彼が始
めて動揺を見せた。メデッタは思わず一歩あとずさる。
 影の男、いや…リングは、ふふ、と微笑むと、さらにメデッタへの間合いを
詰めた。
「伯父様はそんなに私のことが好きなんですか…?」
「…やめろ。やめてくれ…っ」
「かわいそうな伯父様。でも、私は所詮あなたのことを<叔父>としかみてい
ないんですよね?」
「…っ!」
「だから、だから貴方は私に<叔父様>と呼ばれるのを嫌がるのでしょう…?
私に、一人の男として見てもらいたいから」
「知っているさ!」
 思わずメデッタが大声を出した。
「それで構わない。それで良いのだ!私は…っ」

<私は、呪われているのだから>

「<本当に?>」
 リングがそっと、メデッタの頬に触れた。メデッタの瞳の中を、哀願するよ
うに覗き込む。…彼が、ずっと望んでいた眼差しで。
『…私が、貴方の望みを叶えてあげましょうか?』
「…っ!」
 メデッタはリングが頬に触れた手を振り払ったが、力は弱々しかった。
 リングはにやり、と笑うと、横を向いて視線を合わせまいとするメデッタの
顔を両手で掴んでこちらを向かせた。
『ねぇ、どうして私を見て下さらないんですか…?』
 たとえ理性ではニセモノだと解っていても、本物そっくりの姿の「彼女」の
誘惑を拒むことは、メデッタにはできなかった。
 今まで、喉から手が出るほど、欲しくてたまらなかったものをちらつかせる
誘惑。
 堪え切れない感情。
 たとえそれが自分に対する罠だと解っていても。
『答えて…?ねぇ、メデッタ?』

 彼の中で何かが壊れた。

2007/02/14 23:40 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
56.「続・心の迷宮」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー (リング)
NPC:メデッタ 真実の鍵
場所:白の遺跡
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

「な!? だめだっ! 罠だ! メデッタさん、あぶな――」

 ギゼーの発した声はメデッタには届かず、空しく虚空に消えた。
 ギゼーが二つ目に開けた扉は、奇しくもメデッタと影の男との精神戦の最中
[さなか]だった。
 ギゼーが扉を開けた時、メデッタはリングに扮した影の男に誘惑されてい
た。影の男が偽装したリングは、艶やかでどこか生々しい色っぽさを醸し出し
ていた。実物よりも、姿態も良く、色気も上回っているように思える。
 ギゼーもリングのその艶めかしい姿態を目の当たりにし、そそられるものが
あったが、「あれはリングじゃない。リングの姿を模した影の男だ。影の男な
んだ」と自分自身に言い聞かせ何とか自分を持ち直すことに必死だった。

(あんなの、リングちゃんじゃない)

 心に思っても、口に出せないでいるギゼー。例え出せたとしてもメデッタに
は聞こえないが。
 そのリングもどきは身体[からだ]を淫らにくねらせると、メデッタを殊更に
誘惑しようとさらに艶然とした姿態でメデッタの方に近付いて行く。メデッタ
の手が、腕が、肩が、小刻みに震えているのを見逃すギゼーでは無かった。

(……? メデッタさん、何かを堪えている……?)

 その、堪えているものが何なのか、ギゼーには薄々解った。解るような気が
した。
 だが、メデッタが何かを堪えていられた時間はそう長くは無かった。
 何かがぶち切れるそんな音を、ギゼーは聞いた気がした。
 そして――。


    ◇ ◆ ◇


 扉は閉められた。

「ここは違うヨ。真実の扉はココじゃナイ」

 真実の鍵はそう言って、扉を閉めたのだった。
 そう、そこは真実の扉じゃない。ギゼーだとて解っていた筈だ。そこは、現
実と心理が交差した場所なのだ。その扉の先にあったものは、影の男の幻惑に
彩られていた。例え、現実世界で起こっている事実だったとしても、その扉は
真実の扉とは違うものだと解った。

(今この時にも闘っているメデッタさんの為にも、早く真実の扉を見つけなき
ゃ)

 自分の事を信じ、此処まで着いて来てくれた仲間の為にも。新たなる決意を
表すかの如く、自然とギゼーの右手は固く握られていた。

「さあ! 真実の扉はどこかな?」

 少し声が上擦っているのは、動揺しているからだ。その動揺を隠すように、
ギゼーは強がって見せる。そんな事、真実の鍵の前では無意味だと言うのに。
 石畳の上を歩き出したギゼーは、しかし目の前の扉には手を掛けなかった。
そこが真実の扉じゃないと解っているから。

「もっと奥に入った所かな?」

 白々しく言って、石造りの階段に足を掛ける。古びた感はあるが、石造りな
だけあって錆びてもいないし腐ってもいない。一歩一歩上るにつれて砂が、小
石が、パラパラと下に落ちていくだけである。この迷宮に下という方向がある
かどうかは不明だが。
 そこかしこに扉はあった。上にもあるし、左右にもあった。ギゼーが上って
いる階段の真下に位置する地面にも、扉は存在した。
 だが、それらが全て真実の扉では無い事は、明白だった。
 「ここでもない」とか「ここも違う」とか呟きながら、ギゼーは黄土色に彩
られた空間を延々と上って行く。
 階段を上り詰めると、目の前に扉があった。
 ギゼーは何の疑いも無く、それを無造作に開け放った。扉の先には回廊が続
いていた。左右に、幾何学模様の彫り込まれた木製の扉が無数に、等間隔に並
んでいる。それらは全て深緑色だった。
 深緑色の扉群と黄土色の通路がただ延々と続く中、ギゼーはひたすら真っ直
ぐに歩いていく。左右に居並ぶ扉達には目もくれず、ただただ真っ直ぐに。
 やがて、直角に交差する左右に伸びた通路が見えて来た。今まで来た通路は
更に真っ直ぐに伸びている。
 十字路に差し掛かった所でギゼーは、ふと足を止めた。左右に伸びる通路に
も、そして前後に走る通路にも、等しく深緑色の扉が並んでいる。まるで、ギ
ゼーを待ち構えているが如く。
 ギゼーは暫しの間考えると、徐に左へと進路をとった。

「おいおい。ちょっと、ちょっと。もっと良く考えてから行動した方が、良い
んじゃないかネ」

 真実の鍵が焦って制止の声を上げる。その制止の声も聞かずに、ギゼーは左
の道を突き進む。

「最後に頼りになるのは、度胸と勘だ」

 そう、力強く呟きながら――。


    ◇ ◆ ◇


 ギゼーは一つの扉を前にしていた。
 それは他の扉とは明らかに色が違う扉だった。
 他の深緑色の扉とは違って、それは深紅色をしていた。まるで、何か大切な
ものが仕舞い込まれているが如くそれはギゼーの目前に立ちはだかっていた。
 ギゼーは徐に、扉に手を掛け真実の鍵を鍵穴に差し込んだ。そして、そのま
ま重心を掛けていった。前へ、扉の奥へと――。


 そこにはクロースが居た。
 クロースが井戸端に腰掛け、歌を歌っていた。以前“子守唄”だとクロース
自身が言っていたあの歌である。
 歌を歌っているクロースは、ギゼーの知っている年齢よりも成長していて、
美しく育っていた。銀色に霞む長髪は風になびいて、揺れている。どこと無く
翳りのある白磁の顔は上に向けられていて、丁度白んできた空を眺める格好に
なっている。ギゼーの居る辺りからは後ろ向きになっているので、その表情を
事細かに観察する事は出来ないが、顔は見ずとも顔貌は想像出来る。クロース
が子供の頃の顔を、良く覚えているからだ。口唇が微かに動いていて、僅かに
聞き覚えのあるメロディーが耳につく。それは儚くも物悲しい恋歌のようだっ
た。

(……“子守唄”……ねぇ……)

 どう考えても子守唄には似つかわしくないその歌を、ギゼーは只の子守唄で
はないような気がした。

(それにしても……俺の記憶が生み出した迷宮ねぇ……。さっきのメデッタさ
んの戦いにしろ、今度のクロースにしろ、どう考えても俺の記憶外の出来事に
しか思えないけどな……実際のところ、どうなんだ?)

 ともかく奴に聞いてみる必要があるなと、ギゼーは顎に手をあてがいながら
考えていた。奴――真実の鍵に。



 「ここも違う。真実の扉じゃない」と扉を閉めた矢先、ギゼーは徐に口を開
いた。何かを考える仕草をしながら。

「…………なぁ。真実の鍵さんよ。さっきの扉にしろ、今の扉にしろ、どう考
えても明らかに俺の記憶に無い扉なんだけど。さっきの扉――メデッタさんの
戦いなんて、今、現在行われていることだろう? それに、今の扉だって……
俺は、クロースとは5年前に村を出て以来会ってないからな。どういうことな
んだ? これって――」

 真実の鍵は、含み笑いを漏らすと、胸を張り堂々とのたまった。胸があった
ら、の話だが。

「ある特定の条件下において、憶測は記憶を凌駕すル。記憶は経験から生じる
ものであり、性格は経験から発達するものであル。また、事実に基いた憶測
は、時として経験や性格を反映すル。……ソウイウことだよ。ギゼー君」
「……だ、誰の言葉だ……?」

 ギゼーの疑問に、無視して話を進める真実の鍵。

「ツマリね、君の憶測がこの迷宮に反映しているって事だヨ、ギゼー君」

 最終的には、ギゼーの疑問に答えてくれた真実の鍵だったが、しかし――。
 まだ疑問が全て融解した訳ではなかった――。


2007/02/14 23:40 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
57.「お取り込み中。」/リング(果南)
PC ギゼー・リング
場所 白の遺跡(ソフィニア北)
NPC 影の男
___________________________________

 多分これを悪夢というのだろう。

<はぁっ、はあっ、はあっ>
 …息が荒い。呼吸が苦しい。それでもリングはもう何度目かの攻撃を影の男
に放った。
 水が鋭い錐のように、影の男目掛けて放たれる!
 が…。
 
 バシィィィン!

 鉄をも貫く威力を持つはずのリングの水流は、影の男の体に傷ひとつ、つけ
ることが出来なかった。
 影の男がにたあっと、『唇だけの顔』で笑う。
「貴方の攻撃にもだいぶ飽きてきましたね、…もう終わりにしてもいいです
か?」
「…っ!!」
 間髪いれず、水の槍が続けざまに飛ぶ。バシッ、バシッ、バシッ!
 しかし、それは影の男の体に当たってだらりと跳ね返るだけだった。
 影の男が笑う。いや、今は「玉子の男」とでも言うべきか。
「今度はこちらから行きますよ」
 そう男が言うなり、地面から槍のようなものが連続して飛び出す!
 それを体を翻してよけるリング。…しかし、もうこんな戦いを何時間も続け
ているせいだろうか、その一本が足に当たって。
「うああああっ…!!」
 リングは足を押さえてその場に倒れた。跪く様に地面に倒れ、その姿は無様
というしかない。
「もう、終わりにしましょうか?」
 リングに近づき、笑みを浮かべる男。
「私はそれでかまいませんよ。そのほうが貴方も楽でしょう?終わりにしませ
んか、もうこんな勝敗が決まりきっている戦い」
「う…っ」
 男に「私はまだ戦える」と言いたいリングだったが、疲労と痛みでもう、声
が出なかった。追い討ちをかけるように男は片足をゆっくりと宙にあげる
と…。
「うあああああっ!!」
 傷口をぐりぐりと、擦り付けるように踏まれ、リングは声を上げた。
『痛いですか?』
 男は先ほどから残酷そうな笑みを絶やさない。
『貴方はこのままここで死ぬ。…残念でしたね。貴方の望みが叶わなくて』
(私の…望み?)
 意識が飛びそうになっている頭でリングは考える。この遺跡に入ってからず
っと気になっていたこと。何故、どうしてこの遺跡は。
「…どうしてですか」
「ん?」
「答えなさい。どうしてこの遺跡は、『こう』なのですか」
 そういってリングは真摯な眼差しを男に向ける。男はとぼけた口もとで聞き
返す。
「はて?こう、とは?」
「…心、です。どうしてこの遺跡はこうも心の闇を反映するつくりになってい
るのですか」
 そう、それはリングがずっと気になっていたことだった。心の闇。心の一番
奥深くにしまいこんでいるものが、なぜここでは簡単に暴かれ、実体化される
のか。男はふっと口もとを緩める。
「知ってどうするんです?どうせもうすぐ、貴方は死にます」
「質問に答えなさい。どうしてこの遺跡はこんなつくりに…なっているのです
か」
 ぐしゃっ、とまた男が足を踏む。
「うあ…っ!」
「そうそう思い出しました。どうせ貴方は死ぬんです。死ぬのですから、最期
に面白いものを見せてあげましょうね」
 男が思い出したようにそういうと、いきなりリングと男の前の空間がぐに
ゃ、っと捻じ曲がった。
「いいですか、これは別の空間の映像です」
 その言葉に、リングは捻じ曲がった空間に目を凝らす。その空間は最初ぐち
ゃぐちゃの映像が交じり合っていたが、やがて空間の捩れの渦も止まって、あ
る一つの映像が目の前に姿を見せ始めた。
 その映像に写っているのは、なんとメデッタだった。それともう一人。
「え…っ!」
 リングの顔がさあっと真っ赤になる。
 それはどうみても『自分』だった。しかもその自分はなんと、メデッタの顔
に自分の顔を重ねようとしている真っ最中だったのだ。
「え…っ、ちょ…っ、これは…っ!!」
「おやおや、これはまあお取り込み中だったようで」
 男がそういうなり、空間がまたぐんにゃりと捻じ曲がる。
「ちょっ…!待ってください!今の一体…!」
「さて、問題のギゼー君はどうなったかな?」
 無視する男。空間の像が再び結ばれ出す。
 リングは叫んだ。
「ちょっと、待ってください!今の何なんですかー!!」

2007/02/14 23:41 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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