PC リング・ギゼー
場所 白の遺跡(ソフィニア北)
NPC メデッタ・影の男・ハルキ・ナツキ・アキ・ユキ
___________________________________
「オメデトウ、ついにこの部屋まで来たか」
何度見ても、この男の姿は見ていてムカムカするものだ…とギゼーは思っ
た。それはこの男が「半分影」という異様な姿をしているだけではないような
気がする。見ているだけで起こる、不快感。
「この部屋は…えっと…」
「何かな?リングちゃん?」
辺りを見回し、そわそわしているリングに影の男が笑いかける。
「その…、部屋なんですか?ここ?」
「どういう意味かね?」
「だって…。ここは、どこまでもまっすぐじゃないですか?」
いつのまにか、入ってきた扉が消えていた。代わりに広がるのはどこまでも
果てしない地平。下が白い床で、上がもやがかかったような白い空間。それが
どこまでもどこまでも、果てしなく続いていた。
「永遠の部屋…か」
きょろきょろしているリングとギゼーを尻目に、メデッタが冷静に呟く。
「案ずる事はない。単なる<位階>を使ったまやかしだよ。まあ、異次元にで
も入り込んだと思えばいい」
「い、異次元…!」
驚くギゼー。リングはほやっとした顔で「そうなんですかぁ」と一言。彼女
は状況を理解し、受け入れる情報はそれで十分らしい。
「さて、一通り反応も観察できたし、本題に移ろうかな」
その声に、ギゼーがきっと影の男を睨み、リングがほえっと自分を見つめる
のを確認すると、影の男はぱちん、と、陰になってないほうの手で指を鳴らし
た。
「出番だ、四人の姫」
『お呼びで?ご主人』
四人の声が重なったようなその声とともに、目の前の空間がゆがみ、さざな
みを立てた水面のような空間から、それぞれ四つの人影が現れた。
「我は、春姫(ハルキ)」
初めに現れたのは、蝶の絵柄の桃色の着物を着た、黒髪の美少女だった。彼
女の周りにはふわりと桜の花びらが舞い、さざなみの空間から現れ、彼女がふ
わりと地面に降り立つと、桃色の着物が軽くふわっと膨らみ、それは蝶が羽を
広げた姿に似ていた。
「我は、夏姫(ナツキ)」
二番目に現れたのは、きりっとした目の、空色の着物を着た少女だった。彼
女の明るい茶色の髪はポニーテールにまとめられてあり、着物の柄には向日葵
が使われている。彼女の周りには向日葵の花びらが舞っている。
「我は、秋姫(アキ)」
三番目に現れたのは、茜色の髪が印象的な、山吹色の着物を着た美少女だっ
た。大きな瞳は知的そうで、彼女の周りには木の葉が舞い、空間から降りる動
作や、立っている時には隙がない。
「我は、冬姫(ユキ)」
最後に現れたのは、白い髪の、灰色の着物を着た少女だった。彼女の周りに
はちらちらと雪が舞い、こちらを見据える瞳はすっと細く、冷淡だった。
『試練を受けるものよ』
そう言って四人の姫はいっせいにギゼー、リング、メデッタの方を見た。
『永遠を選ぶか、我らと戦うか、二つに一つだ』
場所 白の遺跡(ソフィニア北)
NPC メデッタ・影の男・ハルキ・ナツキ・アキ・ユキ
___________________________________
「オメデトウ、ついにこの部屋まで来たか」
何度見ても、この男の姿は見ていてムカムカするものだ…とギゼーは思っ
た。それはこの男が「半分影」という異様な姿をしているだけではないような
気がする。見ているだけで起こる、不快感。
「この部屋は…えっと…」
「何かな?リングちゃん?」
辺りを見回し、そわそわしているリングに影の男が笑いかける。
「その…、部屋なんですか?ここ?」
「どういう意味かね?」
「だって…。ここは、どこまでもまっすぐじゃないですか?」
いつのまにか、入ってきた扉が消えていた。代わりに広がるのはどこまでも
果てしない地平。下が白い床で、上がもやがかかったような白い空間。それが
どこまでもどこまでも、果てしなく続いていた。
「永遠の部屋…か」
きょろきょろしているリングとギゼーを尻目に、メデッタが冷静に呟く。
「案ずる事はない。単なる<位階>を使ったまやかしだよ。まあ、異次元にで
も入り込んだと思えばいい」
「い、異次元…!」
驚くギゼー。リングはほやっとした顔で「そうなんですかぁ」と一言。彼女
は状況を理解し、受け入れる情報はそれで十分らしい。
「さて、一通り反応も観察できたし、本題に移ろうかな」
その声に、ギゼーがきっと影の男を睨み、リングがほえっと自分を見つめる
のを確認すると、影の男はぱちん、と、陰になってないほうの手で指を鳴らし
た。
「出番だ、四人の姫」
『お呼びで?ご主人』
四人の声が重なったようなその声とともに、目の前の空間がゆがみ、さざな
みを立てた水面のような空間から、それぞれ四つの人影が現れた。
「我は、春姫(ハルキ)」
初めに現れたのは、蝶の絵柄の桃色の着物を着た、黒髪の美少女だった。彼
女の周りにはふわりと桜の花びらが舞い、さざなみの空間から現れ、彼女がふ
わりと地面に降り立つと、桃色の着物が軽くふわっと膨らみ、それは蝶が羽を
広げた姿に似ていた。
「我は、夏姫(ナツキ)」
二番目に現れたのは、きりっとした目の、空色の着物を着た少女だった。彼
女の明るい茶色の髪はポニーテールにまとめられてあり、着物の柄には向日葵
が使われている。彼女の周りには向日葵の花びらが舞っている。
「我は、秋姫(アキ)」
三番目に現れたのは、茜色の髪が印象的な、山吹色の着物を着た美少女だっ
た。大きな瞳は知的そうで、彼女の周りには木の葉が舞い、空間から降りる動
作や、立っている時には隙がない。
「我は、冬姫(ユキ)」
最後に現れたのは、白い髪の、灰色の着物を着た少女だった。彼女の周りに
はちらちらと雪が舞い、こちらを見据える瞳はすっと細く、冷淡だった。
『試練を受けるものよ』
そう言って四人の姫はいっせいにギゼー、リング、メデッタの方を見た。
『永遠を選ぶか、我らと戦うか、二つに一つだ』
PR
PC:ギゼー、リング
NPC:メデッタ=オーシャン、影の男、春姫(ハルキ)、夏姫(ナツキ)、
秋姫(アキ)、冬姫(ユキ)
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
--------------------------------------------------------------------
「俺はっ! 俺は勿論、永遠を選ぶぜっっ!! 春姫(ハルキ)ちゅわぁぁ~ん
vv」
『即答っ!?』
春姫(ハルキ)、夏姫(ナツキ)、秋姫(アキ)、冬姫(ユキ)、リングの声が協和
し、白き大海に響き渡る。真っ白き空間は漣を立ててその驚声を吸収し、拡大
し、霧散させる。影の男は、鼓膜が破れぬよう、耳――実際耳という物があるの
かどうか甚だ疑問だが――を両手で塞いでいた。
五人の少女達のハーモニーなどまるで耳に入っていないかの如く、ギゼーは春
姫の胸の内に飛び込んで、鼻の下を伸ばしている。
どうやらギゼーは、黒髪で長髪の色白の美女に特に弱いようだ。
「春姫ちゃんと一緒に居られるなら、俺、永遠に此処に居たって構わな~い」
「ええいっ! 離れろっ! 離れんかいっ!!
……冬姫、良いからこやつを氷付けにしてしまいなさいっ!!!」
ところが、春姫はギゼーのそんな愛情表現を足蹴にしたばかりか、黒檀のよう
な眼を吊り上げ、妹である冬姫に命令口調で戦闘行動を促した。ところが当の冬
姫は姉の命令に逆らうように、いっかな微動だにしない。訝しげに見遣る春姫の
長女としての覚悟が色濃く出ている瞳に、信じられない光景が飛び込んできた。
こともあろうに冬姫は、真っ白い頬を朱に染めて何かに見惚れていた。その、
蕩(とろ)ける様な瑠璃色の瞳いっぱいに映し出されたそれは――ギゼーの姿だっ
た。
経験豊かな春姫は妹の動向を見、ピンと来るものがあった。
「冬姫……まさか…………」
「その、まさかですわ。春姉様。私、その殿方に一目惚れしてしまったみた
い……」
顔をより一層赤らめ腰をくねらせる仕草をすればこそ、正に恋する乙女のそれ
だった。
春姫の声にならない悲鳴が、白き霞の彼方へと木霊した――。
――― ○ ―――
実際、ギゼーの心中は穏やかではなかった。冬姫に愛される事に抵抗を感じて
いたから、堪らないという気持ちで一杯だった。
彼が冬姫を最初に見た時の印象は、「雪の女王」と言う架空の存在に擬(なぞ
ら)えたものだった。美少年が好きで、自分が好きになった少年達を氷付けにし
て自分だけのものにする、独占欲が強く、そして何処か寂しげな女性。最初、冬
姫の凍れる微笑を目の当たりにした時、その「雪の女王」の印象を重ね合わせて
見ていたのだ。だから多分に、自分も氷付けにされ彼女の“コレクション”の一
部に加えられるのではないか、そのように危惧した事は間違いない。気が気で無
かった事も否定しない。
だから敢えて危惧を口に出さずとも、ギゼーの顔は青一色に染められていた。
恐怖の色に、染められていたのだ。例え危惧で終わると言う事が明白であって
も、彼の恐怖は拭えないだろう。
ギゼーの危惧も何処の空、春姫と冬姫は互いの威信を掛けて激突する寸前だっ
た。
「ええぃっ! こうなったら、いくわよ! 冬姫! 妹だからって、手加減しな
いんだからねっ!!」
「望むところよ、春姉様っ!!」
彼女達の言葉が合図ででもあったかの様に、桜吹雪と吹雪が激突した。薄紅色
と白色の帯が、寒気と暖気が、ぶつかり合って巨大な空気の渦となる。遥か上空
にたなびいている霞を巻き込んで、さながら台風の様相を呈していた。
争いの原因たるギゼー当人は、戦闘地域から離脱し安全圏まで下がって茶など
を啜りながら、傍観ムードを満喫している。
「ギゼー君、その茶は何処から出したんだね?」
「あ、メデッタさんも飲みますか? 美味しいですよ。淹れてあげますよ」
何時の間に横に並んだのか、メデッタが物欲しそうにギゼーの啜っている茶を
見詰めている。
メデッタの視線に気付いたギゼーは、彼の意思を汲んだのか、はたまた自慢の
アイテムをお披露目したいだけなのか、何やら得意気に扇子のような物を取り出
し上に掲げた。そして、厳かに告げる。
「チャカチャチャ~ン、水芸扇子~! ポワンポワンポワ~ン」
「は!?」
「俺の自慢のマジックアイテムの一つ、“水芸扇子”ですよ。これは、念じた物
を噴出する事が出来るんですよ。ほら、この、柄の先端の部分からね。ただし、
液体限定ですけど。
因みに、この湯飲みは、“絶対に冷めない湯呑”です」
ギゼーの説明に、メデッタは些か引き気味の視線を向けるだけに留めた。だ
が、その視線を受けたギゼーは直感した。この人は、ほぼ一般的な感覚しか持ち
合わせていないのだな、と。別にだからって、どうすると言う事もないのだけれ
ど。
春姫、冬姫、二人の戦闘行動に一種の諦念感をもって臨んでいるギゼーとは対
照的に、リングの方は二人を止めようと躍起になっていた。
「二人共、争いは駄目ですよぅ。落ち着いて話し合えば、きっと解り合えます。
今、すっごくくだらない事で争ってますよ!?」
『くだらないこと、ですってぇぇっ!? 貴女には解らないでしょうけどねぇ、
これは私達姉妹にとってはすっごく大問題なんだからねぇっ!!』
リングが嘆願するように叫ぶと、夏姫、秋姫が挙って食って掛かってきた。姉
妹の威信を背中に背負っている二人は、同時にリングに対して八つ当たりを敢行
して来た。
二人は怒りの度合いを顕すかの如く、リングに対する攻撃の激烈さを増してい
った。
一方、攻撃を受ける側であるリングは、最初の内こそ余裕の表情を見せつつか
わしているだけであったが、段々その余裕の表情も消えていった。それだけ夏
姫、秋姫の戦闘能力が高いと言う事の表れでもある。
リングは、本気モードに入ると同時に二人に対して高らかに宣言した。
「私、もう怒っちゃいました! 本気でいきますよ!!」
宣言と同時にリングは夏姫、秋姫の二人に向かって突進する。
――― ○ ―――
ギゼーは戦闘区域から少し離れた安全地帯にマントを敷いて、その上に鎮座し
て茶を啜っていた。
彼は思う。「何もそんな事で怒って、本気出さなくても」と。だが、敢えて口
に出して言の葉に乗せるのは差し控える事にした。命の危険を感じ取っていたか
らかもしれない。
「やれやれ。あの子を怒らせると、怖いんだがね」
「そのようですね」
「ギゼー君。あの子は、ああいう風になるとちと手が付けられなくなるが、基本
的に良い子だよ」
「ええ、解っています」
メデッタの場にそぐわぬ惚けた会話に付き合いながら、ギゼーは茶を啜ってい
た。
暫く。二人は茶を互いに啜りあっているだけ――途中、メデッタは茶菓子が無
いぞと辺りを探したりしたが――であったが、唐突にメデッタがギゼーの方へ首
を巡らすと疑問を口にした。
「ところでギゼー君。彼の影法師君は何処へ行ったのかね? 先程から姿が見え
ない様だが……」
「影法師君? ああ、“影の男”のことですね。あいつなら、つい先刻まだ用事
があるからとか何とか言ってどっかに消えて行きましたよ。またかよって感じで
したけどね。……もう、突っ込む気にもなれねぇ」
ギゼーの最後の台詞は独白めいて空気に溶け込んだ。そして、肩を竦めて、全
身で呆れ果てて見せる。
彼らから少し離れた戦闘区域では、熱気と冷気が渦を巻いていた――。
NPC:メデッタ=オーシャン、影の男、春姫(ハルキ)、夏姫(ナツキ)、
秋姫(アキ)、冬姫(ユキ)
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
--------------------------------------------------------------------
「俺はっ! 俺は勿論、永遠を選ぶぜっっ!! 春姫(ハルキ)ちゅわぁぁ~ん
vv」
『即答っ!?』
春姫(ハルキ)、夏姫(ナツキ)、秋姫(アキ)、冬姫(ユキ)、リングの声が協和
し、白き大海に響き渡る。真っ白き空間は漣を立ててその驚声を吸収し、拡大
し、霧散させる。影の男は、鼓膜が破れぬよう、耳――実際耳という物があるの
かどうか甚だ疑問だが――を両手で塞いでいた。
五人の少女達のハーモニーなどまるで耳に入っていないかの如く、ギゼーは春
姫の胸の内に飛び込んで、鼻の下を伸ばしている。
どうやらギゼーは、黒髪で長髪の色白の美女に特に弱いようだ。
「春姫ちゃんと一緒に居られるなら、俺、永遠に此処に居たって構わな~い」
「ええいっ! 離れろっ! 離れんかいっ!!
……冬姫、良いからこやつを氷付けにしてしまいなさいっ!!!」
ところが、春姫はギゼーのそんな愛情表現を足蹴にしたばかりか、黒檀のよう
な眼を吊り上げ、妹である冬姫に命令口調で戦闘行動を促した。ところが当の冬
姫は姉の命令に逆らうように、いっかな微動だにしない。訝しげに見遣る春姫の
長女としての覚悟が色濃く出ている瞳に、信じられない光景が飛び込んできた。
こともあろうに冬姫は、真っ白い頬を朱に染めて何かに見惚れていた。その、
蕩(とろ)ける様な瑠璃色の瞳いっぱいに映し出されたそれは――ギゼーの姿だっ
た。
経験豊かな春姫は妹の動向を見、ピンと来るものがあった。
「冬姫……まさか…………」
「その、まさかですわ。春姉様。私、その殿方に一目惚れしてしまったみた
い……」
顔をより一層赤らめ腰をくねらせる仕草をすればこそ、正に恋する乙女のそれ
だった。
春姫の声にならない悲鳴が、白き霞の彼方へと木霊した――。
――― ○ ―――
実際、ギゼーの心中は穏やかではなかった。冬姫に愛される事に抵抗を感じて
いたから、堪らないという気持ちで一杯だった。
彼が冬姫を最初に見た時の印象は、「雪の女王」と言う架空の存在に擬(なぞ
ら)えたものだった。美少年が好きで、自分が好きになった少年達を氷付けにし
て自分だけのものにする、独占欲が強く、そして何処か寂しげな女性。最初、冬
姫の凍れる微笑を目の当たりにした時、その「雪の女王」の印象を重ね合わせて
見ていたのだ。だから多分に、自分も氷付けにされ彼女の“コレクション”の一
部に加えられるのではないか、そのように危惧した事は間違いない。気が気で無
かった事も否定しない。
だから敢えて危惧を口に出さずとも、ギゼーの顔は青一色に染められていた。
恐怖の色に、染められていたのだ。例え危惧で終わると言う事が明白であって
も、彼の恐怖は拭えないだろう。
ギゼーの危惧も何処の空、春姫と冬姫は互いの威信を掛けて激突する寸前だっ
た。
「ええぃっ! こうなったら、いくわよ! 冬姫! 妹だからって、手加減しな
いんだからねっ!!」
「望むところよ、春姉様っ!!」
彼女達の言葉が合図ででもあったかの様に、桜吹雪と吹雪が激突した。薄紅色
と白色の帯が、寒気と暖気が、ぶつかり合って巨大な空気の渦となる。遥か上空
にたなびいている霞を巻き込んで、さながら台風の様相を呈していた。
争いの原因たるギゼー当人は、戦闘地域から離脱し安全圏まで下がって茶など
を啜りながら、傍観ムードを満喫している。
「ギゼー君、その茶は何処から出したんだね?」
「あ、メデッタさんも飲みますか? 美味しいですよ。淹れてあげますよ」
何時の間に横に並んだのか、メデッタが物欲しそうにギゼーの啜っている茶を
見詰めている。
メデッタの視線に気付いたギゼーは、彼の意思を汲んだのか、はたまた自慢の
アイテムをお披露目したいだけなのか、何やら得意気に扇子のような物を取り出
し上に掲げた。そして、厳かに告げる。
「チャカチャチャ~ン、水芸扇子~! ポワンポワンポワ~ン」
「は!?」
「俺の自慢のマジックアイテムの一つ、“水芸扇子”ですよ。これは、念じた物
を噴出する事が出来るんですよ。ほら、この、柄の先端の部分からね。ただし、
液体限定ですけど。
因みに、この湯飲みは、“絶対に冷めない湯呑”です」
ギゼーの説明に、メデッタは些か引き気味の視線を向けるだけに留めた。だ
が、その視線を受けたギゼーは直感した。この人は、ほぼ一般的な感覚しか持ち
合わせていないのだな、と。別にだからって、どうすると言う事もないのだけれ
ど。
春姫、冬姫、二人の戦闘行動に一種の諦念感をもって臨んでいるギゼーとは対
照的に、リングの方は二人を止めようと躍起になっていた。
「二人共、争いは駄目ですよぅ。落ち着いて話し合えば、きっと解り合えます。
今、すっごくくだらない事で争ってますよ!?」
『くだらないこと、ですってぇぇっ!? 貴女には解らないでしょうけどねぇ、
これは私達姉妹にとってはすっごく大問題なんだからねぇっ!!』
リングが嘆願するように叫ぶと、夏姫、秋姫が挙って食って掛かってきた。姉
妹の威信を背中に背負っている二人は、同時にリングに対して八つ当たりを敢行
して来た。
二人は怒りの度合いを顕すかの如く、リングに対する攻撃の激烈さを増してい
った。
一方、攻撃を受ける側であるリングは、最初の内こそ余裕の表情を見せつつか
わしているだけであったが、段々その余裕の表情も消えていった。それだけ夏
姫、秋姫の戦闘能力が高いと言う事の表れでもある。
リングは、本気モードに入ると同時に二人に対して高らかに宣言した。
「私、もう怒っちゃいました! 本気でいきますよ!!」
宣言と同時にリングは夏姫、秋姫の二人に向かって突進する。
――― ○ ―――
ギゼーは戦闘区域から少し離れた安全地帯にマントを敷いて、その上に鎮座し
て茶を啜っていた。
彼は思う。「何もそんな事で怒って、本気出さなくても」と。だが、敢えて口
に出して言の葉に乗せるのは差し控える事にした。命の危険を感じ取っていたか
らかもしれない。
「やれやれ。あの子を怒らせると、怖いんだがね」
「そのようですね」
「ギゼー君。あの子は、ああいう風になるとちと手が付けられなくなるが、基本
的に良い子だよ」
「ええ、解っています」
メデッタの場にそぐわぬ惚けた会話に付き合いながら、ギゼーは茶を啜ってい
た。
暫く。二人は茶を互いに啜りあっているだけ――途中、メデッタは茶菓子が無
いぞと辺りを探したりしたが――であったが、唐突にメデッタがギゼーの方へ首
を巡らすと疑問を口にした。
「ところでギゼー君。彼の影法師君は何処へ行ったのかね? 先程から姿が見え
ない様だが……」
「影法師君? ああ、“影の男”のことですね。あいつなら、つい先刻まだ用事
があるからとか何とか言ってどっかに消えて行きましたよ。またかよって感じで
したけどね。……もう、突っ込む気にもなれねぇ」
ギゼーの最後の台詞は独白めいて空気に溶け込んだ。そして、肩を竦めて、全
身で呆れ果てて見せる。
彼らから少し離れた戦闘区域では、熱気と冷気が渦を巻いていた――。
PC ギゼー リング
場所 白の遺跡
NPC 夏姫 秋姫 メデッタ
___________________________________
ボウッ!
夏姫の放つ向日葵の花は、秋姫の放つ枯葉に触れると高熱を発し、紅蓮の炎
を吐く炎の嵐となって、リングを襲った。
「うわわっ!」
炎の嵐を間一髪のところで避けるリング。しかし、リングに休む隙を与え
ず、炎の嵐がリングを襲う。
「うわわわわっ!!」
『そりゃそりゃそりゃっ!!』
夏姫と秋姫のコンビネーションは憎らしいぐらいピッタリだった。秋姫の木
の葉に必ず引火するように夏姫は向日葵の花を降らし、秋姫はリングの居場所
に狙い違わず木の葉を降らす。初めのうちはただ、攻撃を避けていただけのリ
ングだったが、次第にその動きに疲労が現れ始めた。
『ふふふ、我らの攻撃、いつまで避けきれるかな?』
「う、煩いですっ!本当は、貴方たちの攻撃を避けるのは簡単なんですから
っ!」
「しかし、動きが鈍くなっておるぞ?」
「ホホホ、口では何とでも言えるがの」
「う…っ」
リングは苦しそうに顔をしかめた。が、間髪いれず炎の嵐が襲ってくる。リ
ングは間一髪でその攻撃を避けた。
はあっ はあっ
リングの体からはダラダラと、尋常じゃない量の汗が流れ出ていた。体から
流れ出る汗が、地面に触れてじゅわっ、と蒸発する。
呼吸が苦しい。脳天が、ぐらぐらする…。
(あ…つい…っ…‥)
「ちょっと、リングちゃん大丈夫か?」
ギゼーが尋常じゃないリングの様子に気づいて腰を浮かした。
「なんか…、めずらしく、負けそうになってるんだけど…」
「まあ…」
メデッタは腕を組むと一人、納得して頷いた。
「我々の、弱点だからな。うむ」
「はぁ?」
ギゼーの頭にハテナマークが浮かぶ。
「どういう事ですか?」
「どういう事って、ほら…、私たちは海流族だろ?私たちは水の恩恵で生かさ
れている生き物なんだ。だから、まあ、割と寒さには耐えられるんだが、暑さ
にはめっぽう弱いんだな。まあ、当然といえば当然だが」
「えええっ!それじゃあ、リングちゃんピンチじゃないですか!…‥助けに、
行かないんですか?」
「ギゼー君、君はこんなことを知ってるかい?」
メデッタが人差し指をピンと立てて言う。
「親ペンギンは、子ペンギンを氷山の上から突き落として、這い上がってきた
子だけを自分の子として育てるそうだよ」
(…)
ギゼーの顔に疑い深そうな表情が浮かぶ。
「…メデッタさん、それ、微妙に違うような気がするんですが。…ペンギンの
話でしたっけ?」
「うっ、それは…、ゲフッ、ゲフン、まあ…、しかし」
「あの…」
ギゼーの言葉を完全に無視し、メデッタは話を進める。
「このままでは少しかわいそうな気もするな。私も鬼じゃない。お助けアイテ
ムぐらい、出してやろう」
そしてふいにメデッタは、ひょいっと、ギゼーの手から“水芸扇子”を奪い
取った。
「あっ!」とギゼーが言ったときにはもう、メデッタはそれをピンチのリン
グに向かって放り投げていた。
「リング!これを使え!」
パシィィィっ!
メデッタの声に気がついたリングは、見事水芸扇子を片手でキャッチした。
「う…え…?伯父様??」
「伯父様じゃない!その扇子からはどんな液体でも出るんだ。お前にうってつ
けの道具だろう」
「そ、そうですね!有り難う御座います!伯父様!」
「<伯父様>と呼ぶな!!」
『そんな扇子一つで状況は崩れないわ!!』
ぼわっ、と炎の嵐がリングを襲った。しかし、それを避けたリングの顔には
余裕の笑みが。
「大丈夫です」
夏姫と秋姫に向かってリングはにっ、と笑う。
「<水>さえあれば、負けません」
ばさっ、と扇子を広げると、リングは大声で叫んだ。
「大量の水!」
言葉どおり、扇子からは洪水のように水が流れ、それは蛇のようにリングの
体に絡み付いて、その体を包み込んだ。まるでリングは渦潮の中心にいるよう
だ。
『そんなもの!』
怒った夏姫と秋姫が、炎の蛇のような、火炎の嵐を繰り出してくる。
『蒸発させてやる!!』
炎の蛇は怒り、紅蓮の牙をむき出しながら、うねって、渦潮に噛み付いた。
じゅううう…‥
「げっ、やばいですよ、メデッタさん!」
ギゼーがメデッタのわき腹を小突いた。夏姫と秋の起こした熱風で、ギゼー
の赤茶色の髪がふわりと逆立っている。今、目の前は水蒸気で真っ白になって
いた。
「ホントに蒸発してるぜ!」
夏姫と秋姫の火炎はリングの渦潮に食い込み、その渦潮の水を徐々に蒸発さ
せつつあった。しかし、同じようにその黒い髪の毛を逆立て、腕を組み、前を
見据えるメデッタは冷静だった。
「ギゼー君、これはエンドじゃない」
メデッタの顔をさらりと熱風が撫でる。
「フィニッシュ、だよ」
『聖アルヴァンス伝より…。神は言われる。咎人には死を、死人には永久の安
らぎを、死体には花を』
どこからか朗々としたリングの声が響く。
「この声の感じ…」
何故か、ギゼーの体に鳥肌が立った。メデッタが呟く。
「<聖書>、か…」
『死体に顔は無く、顔のある死体は闇に返さん。我、咎人を闇に返さんとする
者なり』
言葉が終わると同時に、黄色い閃光が空中を走った。
ギゼーとメデッタ、二人の顔を撫でていた熱風が、少しずつやんできた。そ
れと同時に、霞が少しずつ晴れてくる。その霞の中からリングが現れた。その
手には一冊の本。
「終わりました」
彼女はまるで、手術でもしてきたかのように、言った。
場所 白の遺跡
NPC 夏姫 秋姫 メデッタ
___________________________________
ボウッ!
夏姫の放つ向日葵の花は、秋姫の放つ枯葉に触れると高熱を発し、紅蓮の炎
を吐く炎の嵐となって、リングを襲った。
「うわわっ!」
炎の嵐を間一髪のところで避けるリング。しかし、リングに休む隙を与え
ず、炎の嵐がリングを襲う。
「うわわわわっ!!」
『そりゃそりゃそりゃっ!!』
夏姫と秋姫のコンビネーションは憎らしいぐらいピッタリだった。秋姫の木
の葉に必ず引火するように夏姫は向日葵の花を降らし、秋姫はリングの居場所
に狙い違わず木の葉を降らす。初めのうちはただ、攻撃を避けていただけのリ
ングだったが、次第にその動きに疲労が現れ始めた。
『ふふふ、我らの攻撃、いつまで避けきれるかな?』
「う、煩いですっ!本当は、貴方たちの攻撃を避けるのは簡単なんですから
っ!」
「しかし、動きが鈍くなっておるぞ?」
「ホホホ、口では何とでも言えるがの」
「う…っ」
リングは苦しそうに顔をしかめた。が、間髪いれず炎の嵐が襲ってくる。リ
ングは間一髪でその攻撃を避けた。
はあっ はあっ
リングの体からはダラダラと、尋常じゃない量の汗が流れ出ていた。体から
流れ出る汗が、地面に触れてじゅわっ、と蒸発する。
呼吸が苦しい。脳天が、ぐらぐらする…。
(あ…つい…っ…‥)
「ちょっと、リングちゃん大丈夫か?」
ギゼーが尋常じゃないリングの様子に気づいて腰を浮かした。
「なんか…、めずらしく、負けそうになってるんだけど…」
「まあ…」
メデッタは腕を組むと一人、納得して頷いた。
「我々の、弱点だからな。うむ」
「はぁ?」
ギゼーの頭にハテナマークが浮かぶ。
「どういう事ですか?」
「どういう事って、ほら…、私たちは海流族だろ?私たちは水の恩恵で生かさ
れている生き物なんだ。だから、まあ、割と寒さには耐えられるんだが、暑さ
にはめっぽう弱いんだな。まあ、当然といえば当然だが」
「えええっ!それじゃあ、リングちゃんピンチじゃないですか!…‥助けに、
行かないんですか?」
「ギゼー君、君はこんなことを知ってるかい?」
メデッタが人差し指をピンと立てて言う。
「親ペンギンは、子ペンギンを氷山の上から突き落として、這い上がってきた
子だけを自分の子として育てるそうだよ」
(…)
ギゼーの顔に疑い深そうな表情が浮かぶ。
「…メデッタさん、それ、微妙に違うような気がするんですが。…ペンギンの
話でしたっけ?」
「うっ、それは…、ゲフッ、ゲフン、まあ…、しかし」
「あの…」
ギゼーの言葉を完全に無視し、メデッタは話を進める。
「このままでは少しかわいそうな気もするな。私も鬼じゃない。お助けアイテ
ムぐらい、出してやろう」
そしてふいにメデッタは、ひょいっと、ギゼーの手から“水芸扇子”を奪い
取った。
「あっ!」とギゼーが言ったときにはもう、メデッタはそれをピンチのリン
グに向かって放り投げていた。
「リング!これを使え!」
パシィィィっ!
メデッタの声に気がついたリングは、見事水芸扇子を片手でキャッチした。
「う…え…?伯父様??」
「伯父様じゃない!その扇子からはどんな液体でも出るんだ。お前にうってつ
けの道具だろう」
「そ、そうですね!有り難う御座います!伯父様!」
「<伯父様>と呼ぶな!!」
『そんな扇子一つで状況は崩れないわ!!』
ぼわっ、と炎の嵐がリングを襲った。しかし、それを避けたリングの顔には
余裕の笑みが。
「大丈夫です」
夏姫と秋姫に向かってリングはにっ、と笑う。
「<水>さえあれば、負けません」
ばさっ、と扇子を広げると、リングは大声で叫んだ。
「大量の水!」
言葉どおり、扇子からは洪水のように水が流れ、それは蛇のようにリングの
体に絡み付いて、その体を包み込んだ。まるでリングは渦潮の中心にいるよう
だ。
『そんなもの!』
怒った夏姫と秋姫が、炎の蛇のような、火炎の嵐を繰り出してくる。
『蒸発させてやる!!』
炎の蛇は怒り、紅蓮の牙をむき出しながら、うねって、渦潮に噛み付いた。
じゅううう…‥
「げっ、やばいですよ、メデッタさん!」
ギゼーがメデッタのわき腹を小突いた。夏姫と秋の起こした熱風で、ギゼー
の赤茶色の髪がふわりと逆立っている。今、目の前は水蒸気で真っ白になって
いた。
「ホントに蒸発してるぜ!」
夏姫と秋姫の火炎はリングの渦潮に食い込み、その渦潮の水を徐々に蒸発さ
せつつあった。しかし、同じようにその黒い髪の毛を逆立て、腕を組み、前を
見据えるメデッタは冷静だった。
「ギゼー君、これはエンドじゃない」
メデッタの顔をさらりと熱風が撫でる。
「フィニッシュ、だよ」
『聖アルヴァンス伝より…。神は言われる。咎人には死を、死人には永久の安
らぎを、死体には花を』
どこからか朗々としたリングの声が響く。
「この声の感じ…」
何故か、ギゼーの体に鳥肌が立った。メデッタが呟く。
「<聖書>、か…」
『死体に顔は無く、顔のある死体は闇に返さん。我、咎人を闇に返さんとする
者なり』
言葉が終わると同時に、黄色い閃光が空中を走った。
ギゼーとメデッタ、二人の顔を撫でていた熱風が、少しずつやんできた。そ
れと同時に、霞が少しずつ晴れてくる。その霞の中からリングが現れた。その
手には一冊の本。
「終わりました」
彼女はまるで、手術でもしてきたかのように、言った。
PC:ギゼー、リング
NPC:メデッタ、春姫(ハルキ)、冬姫(ユキ)、
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
---------------------------------------------------------------------
「リングちゃん、今の……」
余裕の笑みを見せ、霞にも似た霧の中から一寸した仕事をやり終えたように
出て来たリングに対し最初に声を掛けたのは、<聖書>の力を目の当たりに
し、衝撃を受けたギゼーだった。
「ええ。今のが私の力の一つ、<聖書>です。……驚かせてしまって、すいま
せんでした」
リングは微笑みの中に微かな悲しみを浮かべ、先程見せた強大な力の説明を
口頭に上らせた。自分の中に聖書が封印されていること。それを取り出し、一
説を朗読することにより聖書の内に秘められた魔法的な力を解放できる事。
その話の始終、リングは声に哀愁を漂わせていた。
「……リングは、その<聖書>の力を余り良くは思っていないのかね?」
「……はい」
リングは己の力に対する想いを伏目がちに打ち明けた。
力などあるから、他人を傷つけてしまうのだと。自分は戦いなど望んでいな
い。もっと平和的な解決方法がきっと、ある筈だと。人間は、言葉を重ねれば
きっと解り合えるとも言っていた。リングの平和主義的な思考が、ひしひしと
伝わってくるようだ。
「だけど、平和的に解決できない問題というのもあるんだよ。リングちゃん」
むしろ其方の方が世界中に蔓延っていたりする。その事を半分でも解っても
らおうと、ギゼーは口を開く。
今まで、数多くの血生臭い事を体験してきた。
自分なりに、数多の不正を目撃しても来た。
世の中の表と裏、全くの正反対だが互いに無くては成らない物達を目の当た
りにして来たのだ。ギゼーは。戦いだって、時として必要になることもある。
まあ、平和的に解決出来るに越したことは無いが……。
「そんなに、悲しそうな顔をしないで欲しい。君の力は、きっと誰かの為にな
っているんだから。その強大な力を、誰かの盾になる為だけに使う……そんな
風に生きられたら……俺……幸せだなって、思うよ」
「……盾ですか。それもいいかもしれませんね」
微かに笑みを浮かべるリング。
その微笑が、自分ではなく自分を通り越した大勢の弱気者達、盾となってリ
ング自身が守るべき者達に向けられていることを、ギゼーは無意識の内に感じ
取っていた。
◆◇◆
「さてと。残るは、春姫(ハルキ)と冬姫(ユキ)だけだな」
「俺、思うんですけど、冬姫(ユキ)は放って置いても良いのではないでしょう
か?」
メデッタの、駆除し切れなかった害虫を始末しようとでもするかのような口
調に、ギゼーは全く相反する様な提案を口にした。メデッタは当然不可思議な
視線をギゼーに向ける。それは、リングも同然だった。
「何故だね?」
メデッタが不審に問うのも当然の話である。
実際、春姫も冬姫もそれから先程リングが倒した二人の姫もギゼー達の前に
現れた時、敵として紹介されたのだ。敵以外の何者であろうというのか。その
彼女達――ギゼーが言っているのは冬姫だけだが――を擁護しようとしてい
る。それはいったい何故なのか、疑問に思わない方がおかしい。
「いいですか? 冬姫の方は俺に惚れています。それはまず間違いないでしょ
う」
「……おひ、自分で言うかフツー……」
メデッタもリングもほぼ同時にギゼーをジト目で見る。二人とも彼の事を、
余程のナルシスだと思ったのだろう。それを察知してか、ギゼーは慌てて否定
する。
「……やっ、俺は、ただ事実を言ったまでですよー。やだなー、もー……」
ギゼーの自己弁護は最後まで言い切れず、冷や汗に流された。
二人のジト目攻撃は尚も続いたが、ギゼーは構わず先を続ける。
「……冬姫が俺に惚れているというのは事実でしょう。だから、彼女は別に放
って置いても、俺達にとって害にはならないと思うんです。いくらなんでも、
惚れた人間に刃を向ける様な真似はしないでしょうから。……逆にそれを利用
してやればいいんですよ。つまり、共同戦線ということですが」
「……刃を向けて来たらどうするんだね?」
「その時はその時です」
「……共同戦線……でもやっぱり戦うしかないんですね。もっと平和的に、話
し合いで解決出来る方法はないんでしょうか?」
珍しくリングが自分の意見を明確に言ってのけている。二人は、彼女の身に
何が起こったのかと彼女を括目する。リングが少し、成長したように見えた。
「やっ、何です? 二人共。私はただ、話し合いで解決出来ないかなーと思っ
て……」
「いや、リングちゃんの言わんとしている事は大体解るよ。話し合いで解決出
来るなら、それに越した事は無いと思う。でも……見ろよ、アレ。あんな状況
で話し合いに持って行けると思うか?」
ギゼーの指差した方向、丁度春姫と冬姫が凄絶なる死闘を繰り広げている辺
りを見遣るリング。戦いの様子を視界に納めると同時に、首を横に往復させる
リングであった。
「……だろ? 共同戦線しかないって」
◆◇◆
三人の背後では、桜吹雪が織り成す桃色の奔流と吹雪が織り成す白色の奔流
とが激突し、白桜色の竜巻と化したものが暴れていた。
NPC:メデッタ、春姫(ハルキ)、冬姫(ユキ)、
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
---------------------------------------------------------------------
「リングちゃん、今の……」
余裕の笑みを見せ、霞にも似た霧の中から一寸した仕事をやり終えたように
出て来たリングに対し最初に声を掛けたのは、<聖書>の力を目の当たりに
し、衝撃を受けたギゼーだった。
「ええ。今のが私の力の一つ、<聖書>です。……驚かせてしまって、すいま
せんでした」
リングは微笑みの中に微かな悲しみを浮かべ、先程見せた強大な力の説明を
口頭に上らせた。自分の中に聖書が封印されていること。それを取り出し、一
説を朗読することにより聖書の内に秘められた魔法的な力を解放できる事。
その話の始終、リングは声に哀愁を漂わせていた。
「……リングは、その<聖書>の力を余り良くは思っていないのかね?」
「……はい」
リングは己の力に対する想いを伏目がちに打ち明けた。
力などあるから、他人を傷つけてしまうのだと。自分は戦いなど望んでいな
い。もっと平和的な解決方法がきっと、ある筈だと。人間は、言葉を重ねれば
きっと解り合えるとも言っていた。リングの平和主義的な思考が、ひしひしと
伝わってくるようだ。
「だけど、平和的に解決できない問題というのもあるんだよ。リングちゃん」
むしろ其方の方が世界中に蔓延っていたりする。その事を半分でも解っても
らおうと、ギゼーは口を開く。
今まで、数多くの血生臭い事を体験してきた。
自分なりに、数多の不正を目撃しても来た。
世の中の表と裏、全くの正反対だが互いに無くては成らない物達を目の当た
りにして来たのだ。ギゼーは。戦いだって、時として必要になることもある。
まあ、平和的に解決出来るに越したことは無いが……。
「そんなに、悲しそうな顔をしないで欲しい。君の力は、きっと誰かの為にな
っているんだから。その強大な力を、誰かの盾になる為だけに使う……そんな
風に生きられたら……俺……幸せだなって、思うよ」
「……盾ですか。それもいいかもしれませんね」
微かに笑みを浮かべるリング。
その微笑が、自分ではなく自分を通り越した大勢の弱気者達、盾となってリ
ング自身が守るべき者達に向けられていることを、ギゼーは無意識の内に感じ
取っていた。
◆◇◆
「さてと。残るは、春姫(ハルキ)と冬姫(ユキ)だけだな」
「俺、思うんですけど、冬姫(ユキ)は放って置いても良いのではないでしょう
か?」
メデッタの、駆除し切れなかった害虫を始末しようとでもするかのような口
調に、ギゼーは全く相反する様な提案を口にした。メデッタは当然不可思議な
視線をギゼーに向ける。それは、リングも同然だった。
「何故だね?」
メデッタが不審に問うのも当然の話である。
実際、春姫も冬姫もそれから先程リングが倒した二人の姫もギゼー達の前に
現れた時、敵として紹介されたのだ。敵以外の何者であろうというのか。その
彼女達――ギゼーが言っているのは冬姫だけだが――を擁護しようとしてい
る。それはいったい何故なのか、疑問に思わない方がおかしい。
「いいですか? 冬姫の方は俺に惚れています。それはまず間違いないでしょ
う」
「……おひ、自分で言うかフツー……」
メデッタもリングもほぼ同時にギゼーをジト目で見る。二人とも彼の事を、
余程のナルシスだと思ったのだろう。それを察知してか、ギゼーは慌てて否定
する。
「……やっ、俺は、ただ事実を言ったまでですよー。やだなー、もー……」
ギゼーの自己弁護は最後まで言い切れず、冷や汗に流された。
二人のジト目攻撃は尚も続いたが、ギゼーは構わず先を続ける。
「……冬姫が俺に惚れているというのは事実でしょう。だから、彼女は別に放
って置いても、俺達にとって害にはならないと思うんです。いくらなんでも、
惚れた人間に刃を向ける様な真似はしないでしょうから。……逆にそれを利用
してやればいいんですよ。つまり、共同戦線ということですが」
「……刃を向けて来たらどうするんだね?」
「その時はその時です」
「……共同戦線……でもやっぱり戦うしかないんですね。もっと平和的に、話
し合いで解決出来る方法はないんでしょうか?」
珍しくリングが自分の意見を明確に言ってのけている。二人は、彼女の身に
何が起こったのかと彼女を括目する。リングが少し、成長したように見えた。
「やっ、何です? 二人共。私はただ、話し合いで解決出来ないかなーと思っ
て……」
「いや、リングちゃんの言わんとしている事は大体解るよ。話し合いで解決出
来るなら、それに越した事は無いと思う。でも……見ろよ、アレ。あんな状況
で話し合いに持って行けると思うか?」
ギゼーの指差した方向、丁度春姫と冬姫が凄絶なる死闘を繰り広げている辺
りを見遣るリング。戦いの様子を視界に納めると同時に、首を横に往復させる
リングであった。
「……だろ? 共同戦線しかないって」
◆◇◆
三人の背後では、桜吹雪が織り成す桃色の奔流と吹雪が織り成す白色の奔流
とが激突し、白桜色の竜巻と化したものが暴れていた。
PC ギゼー リング
場所 白の遺跡
NPC メデッタ 冬姫 春姫
___________________________________
さて、困ったものだ…。
リングは頭を悩ませていた。
ここはギゼーのいうとおり、冬姫と共同戦線を張り、春姫を倒すのが正しい
のだろう。メデッタ伯父様も反論しない。
けれど、そうするということはつまり、春姫を傷つけなくてはならない、と
いうことだ。どうあっても。
(うう…、ギゼーさんは正しいです…。しかし、しかし、春姫さんを傷つける
のはやはり…)
そうやってリングがうだうだ悩んでいる間に、ギゼーはつかつかと戦いの場
に歩み寄ると、さっそく冬姫に接触を試みていた。
「あ、ギゼーさんっ!」
「おい、冬姫!ゆ・きぃっ!」
ごおおおおおお!!!
しかし、二人とも、今はそれどころではない様子だ。
舞い散る、桜吹雪と吹雪。
姉妹の力はほぼ互角。
その吹雪の中で踊るように戦っている二人の美女の姿は、観ている側として
は美しいとすら思ってしまうものなのだが、二人の厳しい表情から、それが精
神をギリギリまで追い詰める厳しい戦いだということが分かる。
「ど、どうしましょうっ、伯父様!私、こんなに真剣に戦っていらっしゃるお
二人の、どちらにも加勢できません!」
「しかしだね…、リング、考えてもご覧よ」
瞳をうるうるさせて必死に訴えるリングとは違い、メデッタの反応は冷静
だ。
「そもそもの原因はギゼー君なんだよ。冷静に考えてごらん。この二人はたか
だか男一人を取り合って、こうして暴れまわっているわけだよ。考えてみると
馬鹿馬鹿しい話じゃないか、全く」
「ええ…。そ、そんなこと言われましても、やはり争いは止めさせなくて
は…」
メデッタとリングがこうして話している間にも、ギゼーは必死で冬姫に呼び
かけ続けていた。
「冬姫ー!冬姫ーっ!!ええいっ、くそっ!かわいい冬姫ちゃーんっ!」
くるっ
ギゼーが半ばやけくそ気味で叫んだこの言葉に、冬姫が反応した。
「なんですの~、ギゼー殿~」
「冬姫ちゃん!ちょっとていあ…」
ギゼーの眼が、凍りついた。
そこには背中に、無数の桜の花びらが突き刺さる冬姫の姿。
ふわり
冬姫はその場に、羽のように倒れこんだ。
「冬姫ぃぃっ!!」
ギゼーが冬姫の側に駆け寄り、その身体を抱き起こす。
「おい!大丈夫か!しっかりしろっ!!」
「私は…平気…ですわ、ギゼー殿、早く…逃げないと姉様が…」
「ふふふっ、男に気を取られたのが運の尽きよ!」
冬姫の背後に、春姫が、自信たっぷりの笑みを浮かべて立ちはだかってい
た。
「おい!お前!いくらなんでも妹にこんな怪我させることなかったんじゃない
のか!?大体、卑怯じゃないか!今のは!」
「ふふっ、これくらいやらないと妹は懲りないわよ。さあ、冬姫の次は貴方。
私たちの<永遠>に、貴方は要らないわ」
不敵な笑みを浮かべて、春姫がギゼーと冬姫に歩み寄る。
「消えておしまいっ!」
「くっ!」
冬姫を抱えているため、ギゼーは動けない。桜の花びらをまとった春姫が、
二人に迫る。
その時、
「…ダメです」
春姫の前にリングが立ちふさがった。
「ギゼーさんと冬姫さんを、傷つけてはいけません。…そんなこと、私が赦せ
ません」
「うむ。リングが赦せないのなら、私も加勢しようかね」
メデッタも、すっとリングの隣に並ぶ。
「貴方たち…。まとめて私の餌食になりたいらしいわね」
今や、敵意をむき出しにしている春姫に、リングは言い放った。
「いいえ、餌食になってしまわれるのは、貴女かもしれませんよ。春姫さん」
場所 白の遺跡
NPC メデッタ 冬姫 春姫
___________________________________
さて、困ったものだ…。
リングは頭を悩ませていた。
ここはギゼーのいうとおり、冬姫と共同戦線を張り、春姫を倒すのが正しい
のだろう。メデッタ伯父様も反論しない。
けれど、そうするということはつまり、春姫を傷つけなくてはならない、と
いうことだ。どうあっても。
(うう…、ギゼーさんは正しいです…。しかし、しかし、春姫さんを傷つける
のはやはり…)
そうやってリングがうだうだ悩んでいる間に、ギゼーはつかつかと戦いの場
に歩み寄ると、さっそく冬姫に接触を試みていた。
「あ、ギゼーさんっ!」
「おい、冬姫!ゆ・きぃっ!」
ごおおおおおお!!!
しかし、二人とも、今はそれどころではない様子だ。
舞い散る、桜吹雪と吹雪。
姉妹の力はほぼ互角。
その吹雪の中で踊るように戦っている二人の美女の姿は、観ている側として
は美しいとすら思ってしまうものなのだが、二人の厳しい表情から、それが精
神をギリギリまで追い詰める厳しい戦いだということが分かる。
「ど、どうしましょうっ、伯父様!私、こんなに真剣に戦っていらっしゃるお
二人の、どちらにも加勢できません!」
「しかしだね…、リング、考えてもご覧よ」
瞳をうるうるさせて必死に訴えるリングとは違い、メデッタの反応は冷静
だ。
「そもそもの原因はギゼー君なんだよ。冷静に考えてごらん。この二人はたか
だか男一人を取り合って、こうして暴れまわっているわけだよ。考えてみると
馬鹿馬鹿しい話じゃないか、全く」
「ええ…。そ、そんなこと言われましても、やはり争いは止めさせなくて
は…」
メデッタとリングがこうして話している間にも、ギゼーは必死で冬姫に呼び
かけ続けていた。
「冬姫ー!冬姫ーっ!!ええいっ、くそっ!かわいい冬姫ちゃーんっ!」
くるっ
ギゼーが半ばやけくそ気味で叫んだこの言葉に、冬姫が反応した。
「なんですの~、ギゼー殿~」
「冬姫ちゃん!ちょっとていあ…」
ギゼーの眼が、凍りついた。
そこには背中に、無数の桜の花びらが突き刺さる冬姫の姿。
ふわり
冬姫はその場に、羽のように倒れこんだ。
「冬姫ぃぃっ!!」
ギゼーが冬姫の側に駆け寄り、その身体を抱き起こす。
「おい!大丈夫か!しっかりしろっ!!」
「私は…平気…ですわ、ギゼー殿、早く…逃げないと姉様が…」
「ふふふっ、男に気を取られたのが運の尽きよ!」
冬姫の背後に、春姫が、自信たっぷりの笑みを浮かべて立ちはだかってい
た。
「おい!お前!いくらなんでも妹にこんな怪我させることなかったんじゃない
のか!?大体、卑怯じゃないか!今のは!」
「ふふっ、これくらいやらないと妹は懲りないわよ。さあ、冬姫の次は貴方。
私たちの<永遠>に、貴方は要らないわ」
不敵な笑みを浮かべて、春姫がギゼーと冬姫に歩み寄る。
「消えておしまいっ!」
「くっ!」
冬姫を抱えているため、ギゼーは動けない。桜の花びらをまとった春姫が、
二人に迫る。
その時、
「…ダメです」
春姫の前にリングが立ちふさがった。
「ギゼーさんと冬姫さんを、傷つけてはいけません。…そんなこと、私が赦せ
ません」
「うむ。リングが赦せないのなら、私も加勢しようかね」
メデッタも、すっとリングの隣に並ぶ。
「貴方たち…。まとめて私の餌食になりたいらしいわね」
今や、敵意をむき出しにしている春姫に、リングは言い放った。
「いいえ、餌食になってしまわれるのは、貴女かもしれませんよ。春姫さん」