PC:ギゼー、リング
NPC:メデッタ=オーシャン、影の男、春姫(ハルキ)、夏姫(ナツキ)、
秋姫(アキ)、冬姫(ユキ)
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
--------------------------------------------------------------------
「俺はっ! 俺は勿論、永遠を選ぶぜっっ!! 春姫(ハルキ)ちゅわぁぁ~ん
vv」
『即答っ!?』
春姫(ハルキ)、夏姫(ナツキ)、秋姫(アキ)、冬姫(ユキ)、リングの声が協和
し、白き大海に響き渡る。真っ白き空間は漣を立ててその驚声を吸収し、拡大
し、霧散させる。影の男は、鼓膜が破れぬよう、耳――実際耳という物があるの
かどうか甚だ疑問だが――を両手で塞いでいた。
五人の少女達のハーモニーなどまるで耳に入っていないかの如く、ギゼーは春
姫の胸の内に飛び込んで、鼻の下を伸ばしている。
どうやらギゼーは、黒髪で長髪の色白の美女に特に弱いようだ。
「春姫ちゃんと一緒に居られるなら、俺、永遠に此処に居たって構わな~い」
「ええいっ! 離れろっ! 離れんかいっ!!
……冬姫、良いからこやつを氷付けにしてしまいなさいっ!!!」
ところが、春姫はギゼーのそんな愛情表現を足蹴にしたばかりか、黒檀のよう
な眼を吊り上げ、妹である冬姫に命令口調で戦闘行動を促した。ところが当の冬
姫は姉の命令に逆らうように、いっかな微動だにしない。訝しげに見遣る春姫の
長女としての覚悟が色濃く出ている瞳に、信じられない光景が飛び込んできた。
こともあろうに冬姫は、真っ白い頬を朱に染めて何かに見惚れていた。その、
蕩(とろ)ける様な瑠璃色の瞳いっぱいに映し出されたそれは――ギゼーの姿だっ
た。
経験豊かな春姫は妹の動向を見、ピンと来るものがあった。
「冬姫……まさか…………」
「その、まさかですわ。春姉様。私、その殿方に一目惚れしてしまったみた
い……」
顔をより一層赤らめ腰をくねらせる仕草をすればこそ、正に恋する乙女のそれ
だった。
春姫の声にならない悲鳴が、白き霞の彼方へと木霊した――。
――― ○ ―――
実際、ギゼーの心中は穏やかではなかった。冬姫に愛される事に抵抗を感じて
いたから、堪らないという気持ちで一杯だった。
彼が冬姫を最初に見た時の印象は、「雪の女王」と言う架空の存在に擬(なぞ
ら)えたものだった。美少年が好きで、自分が好きになった少年達を氷付けにし
て自分だけのものにする、独占欲が強く、そして何処か寂しげな女性。最初、冬
姫の凍れる微笑を目の当たりにした時、その「雪の女王」の印象を重ね合わせて
見ていたのだ。だから多分に、自分も氷付けにされ彼女の“コレクション”の一
部に加えられるのではないか、そのように危惧した事は間違いない。気が気で無
かった事も否定しない。
だから敢えて危惧を口に出さずとも、ギゼーの顔は青一色に染められていた。
恐怖の色に、染められていたのだ。例え危惧で終わると言う事が明白であって
も、彼の恐怖は拭えないだろう。
ギゼーの危惧も何処の空、春姫と冬姫は互いの威信を掛けて激突する寸前だっ
た。
「ええぃっ! こうなったら、いくわよ! 冬姫! 妹だからって、手加減しな
いんだからねっ!!」
「望むところよ、春姉様っ!!」
彼女達の言葉が合図ででもあったかの様に、桜吹雪と吹雪が激突した。薄紅色
と白色の帯が、寒気と暖気が、ぶつかり合って巨大な空気の渦となる。遥か上空
にたなびいている霞を巻き込んで、さながら台風の様相を呈していた。
争いの原因たるギゼー当人は、戦闘地域から離脱し安全圏まで下がって茶など
を啜りながら、傍観ムードを満喫している。
「ギゼー君、その茶は何処から出したんだね?」
「あ、メデッタさんも飲みますか? 美味しいですよ。淹れてあげますよ」
何時の間に横に並んだのか、メデッタが物欲しそうにギゼーの啜っている茶を
見詰めている。
メデッタの視線に気付いたギゼーは、彼の意思を汲んだのか、はたまた自慢の
アイテムをお披露目したいだけなのか、何やら得意気に扇子のような物を取り出
し上に掲げた。そして、厳かに告げる。
「チャカチャチャ~ン、水芸扇子~! ポワンポワンポワ~ン」
「は!?」
「俺の自慢のマジックアイテムの一つ、“水芸扇子”ですよ。これは、念じた物
を噴出する事が出来るんですよ。ほら、この、柄の先端の部分からね。ただし、
液体限定ですけど。
因みに、この湯飲みは、“絶対に冷めない湯呑”です」
ギゼーの説明に、メデッタは些か引き気味の視線を向けるだけに留めた。だ
が、その視線を受けたギゼーは直感した。この人は、ほぼ一般的な感覚しか持ち
合わせていないのだな、と。別にだからって、どうすると言う事もないのだけれ
ど。
春姫、冬姫、二人の戦闘行動に一種の諦念感をもって臨んでいるギゼーとは対
照的に、リングの方は二人を止めようと躍起になっていた。
「二人共、争いは駄目ですよぅ。落ち着いて話し合えば、きっと解り合えます。
今、すっごくくだらない事で争ってますよ!?」
『くだらないこと、ですってぇぇっ!? 貴女には解らないでしょうけどねぇ、
これは私達姉妹にとってはすっごく大問題なんだからねぇっ!!』
リングが嘆願するように叫ぶと、夏姫、秋姫が挙って食って掛かってきた。姉
妹の威信を背中に背負っている二人は、同時にリングに対して八つ当たりを敢行
して来た。
二人は怒りの度合いを顕すかの如く、リングに対する攻撃の激烈さを増してい
った。
一方、攻撃を受ける側であるリングは、最初の内こそ余裕の表情を見せつつか
わしているだけであったが、段々その余裕の表情も消えていった。それだけ夏
姫、秋姫の戦闘能力が高いと言う事の表れでもある。
リングは、本気モードに入ると同時に二人に対して高らかに宣言した。
「私、もう怒っちゃいました! 本気でいきますよ!!」
宣言と同時にリングは夏姫、秋姫の二人に向かって突進する。
――― ○ ―――
ギゼーは戦闘区域から少し離れた安全地帯にマントを敷いて、その上に鎮座し
て茶を啜っていた。
彼は思う。「何もそんな事で怒って、本気出さなくても」と。だが、敢えて口
に出して言の葉に乗せるのは差し控える事にした。命の危険を感じ取っていたか
らかもしれない。
「やれやれ。あの子を怒らせると、怖いんだがね」
「そのようですね」
「ギゼー君。あの子は、ああいう風になるとちと手が付けられなくなるが、基本
的に良い子だよ」
「ええ、解っています」
メデッタの場にそぐわぬ惚けた会話に付き合いながら、ギゼーは茶を啜ってい
た。
暫く。二人は茶を互いに啜りあっているだけ――途中、メデッタは茶菓子が無
いぞと辺りを探したりしたが――であったが、唐突にメデッタがギゼーの方へ首
を巡らすと疑問を口にした。
「ところでギゼー君。彼の影法師君は何処へ行ったのかね? 先程から姿が見え
ない様だが……」
「影法師君? ああ、“影の男”のことですね。あいつなら、つい先刻まだ用事
があるからとか何とか言ってどっかに消えて行きましたよ。またかよって感じで
したけどね。……もう、突っ込む気にもなれねぇ」
ギゼーの最後の台詞は独白めいて空気に溶け込んだ。そして、肩を竦めて、全
身で呆れ果てて見せる。
彼らから少し離れた戦闘区域では、熱気と冷気が渦を巻いていた――。
NPC:メデッタ=オーシャン、影の男、春姫(ハルキ)、夏姫(ナツキ)、
秋姫(アキ)、冬姫(ユキ)
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
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「俺はっ! 俺は勿論、永遠を選ぶぜっっ!! 春姫(ハルキ)ちゅわぁぁ~ん
vv」
『即答っ!?』
春姫(ハルキ)、夏姫(ナツキ)、秋姫(アキ)、冬姫(ユキ)、リングの声が協和
し、白き大海に響き渡る。真っ白き空間は漣を立ててその驚声を吸収し、拡大
し、霧散させる。影の男は、鼓膜が破れぬよう、耳――実際耳という物があるの
かどうか甚だ疑問だが――を両手で塞いでいた。
五人の少女達のハーモニーなどまるで耳に入っていないかの如く、ギゼーは春
姫の胸の内に飛び込んで、鼻の下を伸ばしている。
どうやらギゼーは、黒髪で長髪の色白の美女に特に弱いようだ。
「春姫ちゃんと一緒に居られるなら、俺、永遠に此処に居たって構わな~い」
「ええいっ! 離れろっ! 離れんかいっ!!
……冬姫、良いからこやつを氷付けにしてしまいなさいっ!!!」
ところが、春姫はギゼーのそんな愛情表現を足蹴にしたばかりか、黒檀のよう
な眼を吊り上げ、妹である冬姫に命令口調で戦闘行動を促した。ところが当の冬
姫は姉の命令に逆らうように、いっかな微動だにしない。訝しげに見遣る春姫の
長女としての覚悟が色濃く出ている瞳に、信じられない光景が飛び込んできた。
こともあろうに冬姫は、真っ白い頬を朱に染めて何かに見惚れていた。その、
蕩(とろ)ける様な瑠璃色の瞳いっぱいに映し出されたそれは――ギゼーの姿だっ
た。
経験豊かな春姫は妹の動向を見、ピンと来るものがあった。
「冬姫……まさか…………」
「その、まさかですわ。春姉様。私、その殿方に一目惚れしてしまったみた
い……」
顔をより一層赤らめ腰をくねらせる仕草をすればこそ、正に恋する乙女のそれ
だった。
春姫の声にならない悲鳴が、白き霞の彼方へと木霊した――。
――― ○ ―――
実際、ギゼーの心中は穏やかではなかった。冬姫に愛される事に抵抗を感じて
いたから、堪らないという気持ちで一杯だった。
彼が冬姫を最初に見た時の印象は、「雪の女王」と言う架空の存在に擬(なぞ
ら)えたものだった。美少年が好きで、自分が好きになった少年達を氷付けにし
て自分だけのものにする、独占欲が強く、そして何処か寂しげな女性。最初、冬
姫の凍れる微笑を目の当たりにした時、その「雪の女王」の印象を重ね合わせて
見ていたのだ。だから多分に、自分も氷付けにされ彼女の“コレクション”の一
部に加えられるのではないか、そのように危惧した事は間違いない。気が気で無
かった事も否定しない。
だから敢えて危惧を口に出さずとも、ギゼーの顔は青一色に染められていた。
恐怖の色に、染められていたのだ。例え危惧で終わると言う事が明白であって
も、彼の恐怖は拭えないだろう。
ギゼーの危惧も何処の空、春姫と冬姫は互いの威信を掛けて激突する寸前だっ
た。
「ええぃっ! こうなったら、いくわよ! 冬姫! 妹だからって、手加減しな
いんだからねっ!!」
「望むところよ、春姉様っ!!」
彼女達の言葉が合図ででもあったかの様に、桜吹雪と吹雪が激突した。薄紅色
と白色の帯が、寒気と暖気が、ぶつかり合って巨大な空気の渦となる。遥か上空
にたなびいている霞を巻き込んで、さながら台風の様相を呈していた。
争いの原因たるギゼー当人は、戦闘地域から離脱し安全圏まで下がって茶など
を啜りながら、傍観ムードを満喫している。
「ギゼー君、その茶は何処から出したんだね?」
「あ、メデッタさんも飲みますか? 美味しいですよ。淹れてあげますよ」
何時の間に横に並んだのか、メデッタが物欲しそうにギゼーの啜っている茶を
見詰めている。
メデッタの視線に気付いたギゼーは、彼の意思を汲んだのか、はたまた自慢の
アイテムをお披露目したいだけなのか、何やら得意気に扇子のような物を取り出
し上に掲げた。そして、厳かに告げる。
「チャカチャチャ~ン、水芸扇子~! ポワンポワンポワ~ン」
「は!?」
「俺の自慢のマジックアイテムの一つ、“水芸扇子”ですよ。これは、念じた物
を噴出する事が出来るんですよ。ほら、この、柄の先端の部分からね。ただし、
液体限定ですけど。
因みに、この湯飲みは、“絶対に冷めない湯呑”です」
ギゼーの説明に、メデッタは些か引き気味の視線を向けるだけに留めた。だ
が、その視線を受けたギゼーは直感した。この人は、ほぼ一般的な感覚しか持ち
合わせていないのだな、と。別にだからって、どうすると言う事もないのだけれ
ど。
春姫、冬姫、二人の戦闘行動に一種の諦念感をもって臨んでいるギゼーとは対
照的に、リングの方は二人を止めようと躍起になっていた。
「二人共、争いは駄目ですよぅ。落ち着いて話し合えば、きっと解り合えます。
今、すっごくくだらない事で争ってますよ!?」
『くだらないこと、ですってぇぇっ!? 貴女には解らないでしょうけどねぇ、
これは私達姉妹にとってはすっごく大問題なんだからねぇっ!!』
リングが嘆願するように叫ぶと、夏姫、秋姫が挙って食って掛かってきた。姉
妹の威信を背中に背負っている二人は、同時にリングに対して八つ当たりを敢行
して来た。
二人は怒りの度合いを顕すかの如く、リングに対する攻撃の激烈さを増してい
った。
一方、攻撃を受ける側であるリングは、最初の内こそ余裕の表情を見せつつか
わしているだけであったが、段々その余裕の表情も消えていった。それだけ夏
姫、秋姫の戦闘能力が高いと言う事の表れでもある。
リングは、本気モードに入ると同時に二人に対して高らかに宣言した。
「私、もう怒っちゃいました! 本気でいきますよ!!」
宣言と同時にリングは夏姫、秋姫の二人に向かって突進する。
――― ○ ―――
ギゼーは戦闘区域から少し離れた安全地帯にマントを敷いて、その上に鎮座し
て茶を啜っていた。
彼は思う。「何もそんな事で怒って、本気出さなくても」と。だが、敢えて口
に出して言の葉に乗せるのは差し控える事にした。命の危険を感じ取っていたか
らかもしれない。
「やれやれ。あの子を怒らせると、怖いんだがね」
「そのようですね」
「ギゼー君。あの子は、ああいう風になるとちと手が付けられなくなるが、基本
的に良い子だよ」
「ええ、解っています」
メデッタの場にそぐわぬ惚けた会話に付き合いながら、ギゼーは茶を啜ってい
た。
暫く。二人は茶を互いに啜りあっているだけ――途中、メデッタは茶菓子が無
いぞと辺りを探したりしたが――であったが、唐突にメデッタがギゼーの方へ首
を巡らすと疑問を口にした。
「ところでギゼー君。彼の影法師君は何処へ行ったのかね? 先程から姿が見え
ない様だが……」
「影法師君? ああ、“影の男”のことですね。あいつなら、つい先刻まだ用事
があるからとか何とか言ってどっかに消えて行きましたよ。またかよって感じで
したけどね。……もう、突っ込む気にもなれねぇ」
ギゼーの最後の台詞は独白めいて空気に溶け込んだ。そして、肩を竦めて、全
身で呆れ果てて見せる。
彼らから少し離れた戦闘区域では、熱気と冷気が渦を巻いていた――。
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