◆――――――――――――――――――――――――――――
PC ギゼー ジュヴィア リング 場所 ソフィニア 天界格闘場
NPC ラオウ ケン ユリア ジン バッティ リンダ
-にんぎょひめは 十五さいの たんじょう日が くると、
うみの 上に 出ることが ゆるされて いました-
「えっと、次は私の番ですね・・・」
身体から静かに怒りオーラを発しているジュヴィアをちらっとみて、リング
がいそいそと場内に進み出た。
リングには、ジュヴィアの態度が急に変わった理由が解らなかった。ジュヴ
ィアが苦しんでいるときも、ただただおろおろとして見ている事しかできなか
った。そんな自分がとても、情けなくて悔しい。・・・私はもっと、誰かに頼
られるような存在になりたいのに。
(何故でしょう。何故、ジュヴィアさん、急にあんな・・・)
考える度、ジュヴィアのことが不安で、心配になってくる。しかし、今は目
の前に次の対戦相手、ジンがいる。戦うことは好きではないが、今は戦わなけ
ればならない。
(仕方ありません。ジュヴィアさんのことは後で考えましょう)
リングは一つ深呼吸をすると、戦うことに精神を集中させた。
「相手をさせていただきます、リングです。宜しくお願いします」
そう言って、リングはぴしっと礼をする。礼儀正しく接することが、相手に
対する最低限のマナーだと、幾度も教えられてきた結果だ。
すると、
「ああっ・・」
突然、ジンが自分の額を押さえてよろけた。
「あのっ!どうなさいました?」
驚いたリングがジンの傍に駆け寄ると、
「美しい・・・」
突然、そう言ってリングの手を握るジン。
「ええ?」
「ああ、運命というのは残酷なものだ・・・。リング・・・、こんなに美しい
君と戦わなければならないなんて・・・。駄目だ、僕には出来ない!君と戦う
なんて!でも、僕は友人を裏切るわけにはいけない・・・。ああ、なんて残酷
な運命なんだ・・・」
「???」
リングは訳がわからない、という顔でジンを見つめている。どうやら、リン
グはこの手の話はかなりうといようだ。しかし、ジンの言葉が、妙に芝居がか
かっていて訳がわからないというのも原因だろう。
「なあ、アイツ、アレで一応・・・、告白、してるんだよな?」
不審そうな顔で、ギゼーが隣にいるジュヴィアに尋ねる。ジュヴィアは不機
嫌を未だ引きずっているため、冷たく答えた。
「さあ・・・、あんな男の心理なんて、解りたくもありません」
ジュヴィアとギゼーが会話している間も、リングはリングなりに今の状況を
考えていた。ジンが何を言いたいのかはよくわからないが、とりあえず、ジン
がここまで何かに困っているのを放ってはおけない。
「えと・・・、つまり、私が今の姿のままでは、戦うのに不都合だとおっしゃ
りたいのですか?」
おずおずとリングは尋ねた。
「ああ、そうだ、君のその姿はもはや罪・・・」
「あいつ・・・」
ギゼーがその言葉を聞いてため息をついた。
「言ってることが、メチャクチャだな・・・。っていうか、馬鹿・・・」
「・・・私もそう思います。本当に、馬鹿な奴・・・」
珍しく意気投合するジュヴィアとギゼーだった。
「そうなんですか?解りました」
しかし、リングは何故か、その言葉に納得したように頷いた。
「そうですよね。本にも書いてありました。普通、地上の男は女に乱暴をはた
らかないものだと。やはりここはフェアに、<男同士>で、戦うべきですよ
ね」
その言葉に今度はジンが不思議そうな顔をした。
「えっ・・・?<男同士>って、一体・・・?」
「解りました、少し待っててください」
言うと、リングはすっと目を閉じ、胸に手を重ねた。とたんにリングの身体
から、まばゆい金色の光が飛び出す。
「!!!」
その場にいた人々は息をのんだ。光の中で、リングの肩幅が広くなり、胸が
なくなり、顔つきが変わっていく。
「さあ、これで大丈夫ですよ?」
身体を取り巻く光が消え、そう言った声は、少し低音がかかっていた。リン
グの身体は、・・・男のそれに変わっていたのだ。
黒目黒髪の、眼鏡の似合う、知的なイメージは変わらないが、顔つきは、い
わゆる、「医者になったらかっこいい」タイプに変わっていた。唖然としてい
る全員の視線をよそに、リングはにっこりと微笑む。
「これで、フェアに戦えますね、ジンさん」
「ちょっ、ちょっと待て!リングちゃん!」
ギゼーが観客席から呼び止めた。
「リングちゃん!君、まさか・・・男だったのか!?それとも、男に変身する
ことが出来るのか?」
「残念ながら、どちらもハズレです」
自分の方に振り向いたリングの印象があまりに違うので、思わずギゼーはど
きっとする。
「知らなかったですか?竜族は一般的に、二十歳まで性別が存在しないんで
す。ですから、私はいわゆる<男>でも<女>でもないんですね。だから、変
身する際、私は男にも女にもなれるんです。でも、私は女の姿のほうが好きで
すから、いつもは女の姿で通してるんです」
言うとリングはあらためて、ジンのほうに向き合った。
「さあ、準備は整いました。戦いましょう」
ジンは唖然としていたが、それもつかの間、
「ふ・・・ふふっ・・・騙してたんだね、君は私を・・・」
引きつった笑みをリングに向ける。
「え?」
「君は私の・・・、純粋な恋心を踏みにじって・・・、精神的ダメージを与え
たつもりか・・・、しかし、私はそんなことに負けたりはしない・・・」
ジンは不敵ににやりと笑うと言った。
「そうだ、これで対等に戦うことが出来る・・・。君には・・・、感謝する
よ・・・。これでもう、恋心に惑わされることもないのだからな」
「???」
自分はジンと対等に戦うために変身したのに、ジンは何故か、あまり喜んで
はいないことを、リングは不思議に思った。しかも、何か勘違いをしているよ
うだ。
(まあ、いいでしょう、戦うことが目的なのですから。誤解は後から解けばよ
いことですし)
そう勝手に思い、リングはファイティングポーズをとった。
「では、用意はいいですか。戦いましょう」
その言葉と同時に、リングがあらかじめ戦闘用に用意してあった、樽いっぱ
いの水が樽からざばあっと飛び出し、ベールのようにリングを包み込む。
「ふん、そんなこけおどし、私には通用しない!」
そう言うと、猛烈な勢いで、ジンがリングに向かってくる。
「はああああっっ!!!」
そして、強烈なパンチを繰り出してきた。しかし、リング、両腕でそれをし
っかりとガードする。
「!?」
その時に、ジンは気づいた。
自分の拳と、リングの腕の間に水の「膜」が出来ている。膜というより、その
厚い幅、鉄のような硬さから言えばむしろ「壁」だった。それが、リングの守
備を硬くし、ダメージを大幅に減らしている。
「くそっ!!!」
ジンはパンチを連打するが、リングの操る水の「壁」のせいで思うようにダメ
ージが与えられない。しかもその水は、リングの身体の傍を絶対に離れない。
そのすばやい動きにぴったりとついてくるのだ。
「くそっ!!!」
パンチを繰り出しながらジンは叫んだ。
「くそっ!!ナメやがって!!!」
「ギゼーさん」
ふと、振り向くと、ギゼーの背後にいつの間にかユリアが立っていた。優しい
笑みを浮かべ、ギゼーを見つめている。
「おっ、おう、何だ?」
「ギゼーさん、実は、少しお話があるのです。私と一緒に来ていただけないで
しょうか?」
そのユリアを、ジュヴィアが冷たい目で見つめた。その視線に気づいたユリ
アが尋ねる。
「・・・何でしょう?」
「・・・いえ、別に。気にしないでください」
そう言って、ジュヴィアはユリアから目をそらした、しかし、内心は、ざわざ
わとした、不吉な予感を感じていた。
(何か・・・、起こりそうな気がする・・・。ユリアという女に近づいたら、
何か・・・)
しかし、そんな確証もないことを口に出して、ギゼーを引き止めるなどという
ことはジュヴィアには出来ない。
「じゃあ、ジュヴィアちゃん、俺、ちょっと行ってくるな。リングちゃんの応
援、頼むぜっ!」
そう言って、ギゼーはユリアとともに行ってしまった。ジュヴィアはそんな二
人の後ろ姿をじっと見つめた。
(私の予感が・・・、当たらなければいいのですが・・・)
ジュヴィアがそう思って後ろ姿を見つめていたとき、ユリアは内心、ギゼー
を横目で見ながら、ほくそえんでいた。
(これで、カモがまた一人、増えたわね・・・)
PC ギゼー ジュヴィア リング 場所 ソフィニア 天界格闘場
NPC ラオウ ケン ユリア ジン バッティ リンダ
-にんぎょひめは 十五さいの たんじょう日が くると、
うみの 上に 出ることが ゆるされて いました-
「えっと、次は私の番ですね・・・」
身体から静かに怒りオーラを発しているジュヴィアをちらっとみて、リング
がいそいそと場内に進み出た。
リングには、ジュヴィアの態度が急に変わった理由が解らなかった。ジュヴ
ィアが苦しんでいるときも、ただただおろおろとして見ている事しかできなか
った。そんな自分がとても、情けなくて悔しい。・・・私はもっと、誰かに頼
られるような存在になりたいのに。
(何故でしょう。何故、ジュヴィアさん、急にあんな・・・)
考える度、ジュヴィアのことが不安で、心配になってくる。しかし、今は目
の前に次の対戦相手、ジンがいる。戦うことは好きではないが、今は戦わなけ
ればならない。
(仕方ありません。ジュヴィアさんのことは後で考えましょう)
リングは一つ深呼吸をすると、戦うことに精神を集中させた。
「相手をさせていただきます、リングです。宜しくお願いします」
そう言って、リングはぴしっと礼をする。礼儀正しく接することが、相手に
対する最低限のマナーだと、幾度も教えられてきた結果だ。
すると、
「ああっ・・」
突然、ジンが自分の額を押さえてよろけた。
「あのっ!どうなさいました?」
驚いたリングがジンの傍に駆け寄ると、
「美しい・・・」
突然、そう言ってリングの手を握るジン。
「ええ?」
「ああ、運命というのは残酷なものだ・・・。リング・・・、こんなに美しい
君と戦わなければならないなんて・・・。駄目だ、僕には出来ない!君と戦う
なんて!でも、僕は友人を裏切るわけにはいけない・・・。ああ、なんて残酷
な運命なんだ・・・」
「???」
リングは訳がわからない、という顔でジンを見つめている。どうやら、リン
グはこの手の話はかなりうといようだ。しかし、ジンの言葉が、妙に芝居がか
かっていて訳がわからないというのも原因だろう。
「なあ、アイツ、アレで一応・・・、告白、してるんだよな?」
不審そうな顔で、ギゼーが隣にいるジュヴィアに尋ねる。ジュヴィアは不機
嫌を未だ引きずっているため、冷たく答えた。
「さあ・・・、あんな男の心理なんて、解りたくもありません」
ジュヴィアとギゼーが会話している間も、リングはリングなりに今の状況を
考えていた。ジンが何を言いたいのかはよくわからないが、とりあえず、ジン
がここまで何かに困っているのを放ってはおけない。
「えと・・・、つまり、私が今の姿のままでは、戦うのに不都合だとおっしゃ
りたいのですか?」
おずおずとリングは尋ねた。
「ああ、そうだ、君のその姿はもはや罪・・・」
「あいつ・・・」
ギゼーがその言葉を聞いてため息をついた。
「言ってることが、メチャクチャだな・・・。っていうか、馬鹿・・・」
「・・・私もそう思います。本当に、馬鹿な奴・・・」
珍しく意気投合するジュヴィアとギゼーだった。
「そうなんですか?解りました」
しかし、リングは何故か、その言葉に納得したように頷いた。
「そうですよね。本にも書いてありました。普通、地上の男は女に乱暴をはた
らかないものだと。やはりここはフェアに、<男同士>で、戦うべきですよ
ね」
その言葉に今度はジンが不思議そうな顔をした。
「えっ・・・?<男同士>って、一体・・・?」
「解りました、少し待っててください」
言うと、リングはすっと目を閉じ、胸に手を重ねた。とたんにリングの身体
から、まばゆい金色の光が飛び出す。
「!!!」
その場にいた人々は息をのんだ。光の中で、リングの肩幅が広くなり、胸が
なくなり、顔つきが変わっていく。
「さあ、これで大丈夫ですよ?」
身体を取り巻く光が消え、そう言った声は、少し低音がかかっていた。リン
グの身体は、・・・男のそれに変わっていたのだ。
黒目黒髪の、眼鏡の似合う、知的なイメージは変わらないが、顔つきは、い
わゆる、「医者になったらかっこいい」タイプに変わっていた。唖然としてい
る全員の視線をよそに、リングはにっこりと微笑む。
「これで、フェアに戦えますね、ジンさん」
「ちょっ、ちょっと待て!リングちゃん!」
ギゼーが観客席から呼び止めた。
「リングちゃん!君、まさか・・・男だったのか!?それとも、男に変身する
ことが出来るのか?」
「残念ながら、どちらもハズレです」
自分の方に振り向いたリングの印象があまりに違うので、思わずギゼーはど
きっとする。
「知らなかったですか?竜族は一般的に、二十歳まで性別が存在しないんで
す。ですから、私はいわゆる<男>でも<女>でもないんですね。だから、変
身する際、私は男にも女にもなれるんです。でも、私は女の姿のほうが好きで
すから、いつもは女の姿で通してるんです」
言うとリングはあらためて、ジンのほうに向き合った。
「さあ、準備は整いました。戦いましょう」
ジンは唖然としていたが、それもつかの間、
「ふ・・・ふふっ・・・騙してたんだね、君は私を・・・」
引きつった笑みをリングに向ける。
「え?」
「君は私の・・・、純粋な恋心を踏みにじって・・・、精神的ダメージを与え
たつもりか・・・、しかし、私はそんなことに負けたりはしない・・・」
ジンは不敵ににやりと笑うと言った。
「そうだ、これで対等に戦うことが出来る・・・。君には・・・、感謝する
よ・・・。これでもう、恋心に惑わされることもないのだからな」
「???」
自分はジンと対等に戦うために変身したのに、ジンは何故か、あまり喜んで
はいないことを、リングは不思議に思った。しかも、何か勘違いをしているよ
うだ。
(まあ、いいでしょう、戦うことが目的なのですから。誤解は後から解けばよ
いことですし)
そう勝手に思い、リングはファイティングポーズをとった。
「では、用意はいいですか。戦いましょう」
その言葉と同時に、リングがあらかじめ戦闘用に用意してあった、樽いっぱ
いの水が樽からざばあっと飛び出し、ベールのようにリングを包み込む。
「ふん、そんなこけおどし、私には通用しない!」
そう言うと、猛烈な勢いで、ジンがリングに向かってくる。
「はああああっっ!!!」
そして、強烈なパンチを繰り出してきた。しかし、リング、両腕でそれをし
っかりとガードする。
「!?」
その時に、ジンは気づいた。
自分の拳と、リングの腕の間に水の「膜」が出来ている。膜というより、その
厚い幅、鉄のような硬さから言えばむしろ「壁」だった。それが、リングの守
備を硬くし、ダメージを大幅に減らしている。
「くそっ!!!」
ジンはパンチを連打するが、リングの操る水の「壁」のせいで思うようにダメ
ージが与えられない。しかもその水は、リングの身体の傍を絶対に離れない。
そのすばやい動きにぴったりとついてくるのだ。
「くそっ!!!」
パンチを繰り出しながらジンは叫んだ。
「くそっ!!ナメやがって!!!」
「ギゼーさん」
ふと、振り向くと、ギゼーの背後にいつの間にかユリアが立っていた。優しい
笑みを浮かべ、ギゼーを見つめている。
「おっ、おう、何だ?」
「ギゼーさん、実は、少しお話があるのです。私と一緒に来ていただけないで
しょうか?」
そのユリアを、ジュヴィアが冷たい目で見つめた。その視線に気づいたユリ
アが尋ねる。
「・・・何でしょう?」
「・・・いえ、別に。気にしないでください」
そう言って、ジュヴィアはユリアから目をそらした、しかし、内心は、ざわざ
わとした、不吉な予感を感じていた。
(何か・・・、起こりそうな気がする・・・。ユリアという女に近づいたら、
何か・・・)
しかし、そんな確証もないことを口に出して、ギゼーを引き止めるなどという
ことはジュヴィアには出来ない。
「じゃあ、ジュヴィアちゃん、俺、ちょっと行ってくるな。リングちゃんの応
援、頼むぜっ!」
そう言って、ギゼーはユリアとともに行ってしまった。ジュヴィアはそんな二
人の後ろ姿をじっと見つめた。
(私の予感が・・・、当たらなければいいのですが・・・)
ジュヴィアがそう思って後ろ姿を見つめていたとき、ユリアは内心、ギゼー
を横目で見ながら、ほくそえんでいた。
(これで、カモがまた一人、増えたわね・・・)
PR
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー (ジュヴィア リング
NPC:ユリア
場所:天界闘技場~館の地下室“儀式の間”
*++―――――++**++―――――++**++―――――++**++―――――++*
貴方をもう二度と手放さない。
貴方はもう、私だけのもの。
私はもう、貴方だけのものだから…。
暗い廊下をユリアに連れられて歩いているギゼーは、先程から妙な胸騒ぎを覚えて
いた。
(…………妙だな……?俺だけに話って、いったい何処へ連れて行く気だ……?先程
のジュヴィアちゃんの様子も気になるし………これは……ひょっとすると……)
不審に思ったギゼーは、おもむろに足を止める。そして、躊躇いがちに口を開い
た。
「あの…さ、ユリアちゃん。俺に話って、何かな……?あの場で、言えない事……な
のかな?」
その質問が心外だとでも言いたげに、前を歩いていたユリアは足を止め振り向く。
その表情は、心なしか少し悲しげに見える。
「……ギゼーさん……それを、私に言わせるのですか?……今直ぐ、此処で?」
彼女が何か腹黒いことを抱えているとしたら、それは迫真の演技だった。まるで、
ギゼーに対し彼女が恋心とでも呼べるものを抱いているかのごとく、瞳を潤ませて訴
えるその様はギゼーの心を打つのには十分だった。そして、その唇から吐き出される
一語一句が、ギゼーにとって真実味を帯びた言葉になる。ギゼーの警戒心を解くに
は、それで十分だった。
―美人に弱い男供は、これで十分よ…。チョロイもんね。男なんて……。
ギゼーが警戒心を解いて謝る様をみて、ユリアは密かにほくそえんだ。
そして、再び向きを変え歩き始める。元々向かっていた場所へ向けて、二人は再び
暗い廊下を歩み始めた。
だが、ギゼーは完全に警戒心を解いたわけではなかった。未だに心の何処かで燻っ
ている、疑心というものがあった。そして、ユリアの背をじっと見詰めながら、腰の
ポーチの中に眠る“アイテム”にそっと手を伸ばすのであった。
☆…………☆
(……今頃闘技場の方では、もう決着が付いているんだろうなぁ……)
そう、思考を巡らせるギゼーの佇むその場所は、館の地下の一室だった。
ユリアの導きで長くて薄暗い廊下を延々と歩かされた末、辿り着いたのは、ラオウ
邸の地下室の一室に当たる“儀式の間”と呼ばれる何もない、魔法陣だけが描かれた
部屋だった。
目の前にはユリアがいる。二人は、魔法陣のほぼ中央に立っていた。そして、見詰
め合っていた。
(………どーしたもんか、この状況………)
ユリアの潤んだ瞳を見て、ギゼーは思案するばかりであった。
ユリアはギゼーの首に自身の腕を巻きつけ、逃れられないようにしながら艶やかな
声音で話し出した。
「ギゼーさん、知ってます?私達の一族はね、貴方の様なバカな人間から精気を吸い
取って、自分達を繁栄させる力とするのよ。私達はそれで、今まで成功を収めて来た
わ。そして、これからもね………」
そう、言うが早いかユリアは、ギゼーの首筋に赤黒く鋭く尖った“爪”を立てた。
そして、自分の唇をギゼーの唇に這わせる。桃色の美麗な舌が、その輪郭をなぞ
る。二人の睫毛が触れるか触れないか、紙一重の所まで近付く。両手の指に生え揃っ
ている、赤黒い“爪”をギゼーの肌に食い込ませようと、力を込めた瞬間、ギゼーの
腰の辺りでカチリと硬くて鋭い音が、小さく響いた。
暗闇に閃いたのは、銀の閃光だった。
ギゼー後自慢のアイテムの一つ、“ミスリル銀製のスイッチナイフ”を翳したの
だ。純度99.99%の純正のミスリル銀製で、柄の部分が昇竜を模って作られてい
る。刀身が僅かばかりの光を発している所を見ると、少なからず魔力を帯びているの
が解る。ギゼーが今までの人生の中で手に入れた、お宝の内の一つだ。大抵の宝は売
り払ってしまうが、自分が特別に気に入った宝だけは、手元に残しておくのだ。これ
は、その内の一つである。
(……これが、こんな時に役に立つとはね。俺の悪運も、中々捨てたもんじゃないな
…)
「………くっ!ミスリル銀か…」
ミスリルのスイッチナイフを見せ付けられて、一歩後退って苦虫を噛み潰したよう
な表情を見せるユリア。その美麗な顔立ちは、もはや僅かばかりの面影を留めている
だけに過ぎない。
―…ここまで来ると、もはや化け物だな。
ギゼーの、今のユリアに対するその感想は、尤もなものだった。
ギゼーは、少しでもユリアとの間合いを取ろうと後ろに下がる。
すると、足元の魔法陣が仄かに明るくなり、見えない壁を形成してゆく。円を描く
魔方陣全体が壁を形成して行き、やがてドーム状になる。
「ホホホ、これは魔法の壁よ。最早、貴方は此処から逃げられないわよ。覚悟しなさ
い」
(………くっ、俺ってば、何気にピンチ………?)
PC:ギゼー (ジュヴィア リング
NPC:ユリア
場所:天界闘技場~館の地下室“儀式の間”
*++―――――++**++―――――++**++―――――++**++―――――++*
貴方をもう二度と手放さない。
貴方はもう、私だけのもの。
私はもう、貴方だけのものだから…。
暗い廊下をユリアに連れられて歩いているギゼーは、先程から妙な胸騒ぎを覚えて
いた。
(…………妙だな……?俺だけに話って、いったい何処へ連れて行く気だ……?先程
のジュヴィアちゃんの様子も気になるし………これは……ひょっとすると……)
不審に思ったギゼーは、おもむろに足を止める。そして、躊躇いがちに口を開い
た。
「あの…さ、ユリアちゃん。俺に話って、何かな……?あの場で、言えない事……な
のかな?」
その質問が心外だとでも言いたげに、前を歩いていたユリアは足を止め振り向く。
その表情は、心なしか少し悲しげに見える。
「……ギゼーさん……それを、私に言わせるのですか?……今直ぐ、此処で?」
彼女が何か腹黒いことを抱えているとしたら、それは迫真の演技だった。まるで、
ギゼーに対し彼女が恋心とでも呼べるものを抱いているかのごとく、瞳を潤ませて訴
えるその様はギゼーの心を打つのには十分だった。そして、その唇から吐き出される
一語一句が、ギゼーにとって真実味を帯びた言葉になる。ギゼーの警戒心を解くに
は、それで十分だった。
―美人に弱い男供は、これで十分よ…。チョロイもんね。男なんて……。
ギゼーが警戒心を解いて謝る様をみて、ユリアは密かにほくそえんだ。
そして、再び向きを変え歩き始める。元々向かっていた場所へ向けて、二人は再び
暗い廊下を歩み始めた。
だが、ギゼーは完全に警戒心を解いたわけではなかった。未だに心の何処かで燻っ
ている、疑心というものがあった。そして、ユリアの背をじっと見詰めながら、腰の
ポーチの中に眠る“アイテム”にそっと手を伸ばすのであった。
☆…………☆
(……今頃闘技場の方では、もう決着が付いているんだろうなぁ……)
そう、思考を巡らせるギゼーの佇むその場所は、館の地下の一室だった。
ユリアの導きで長くて薄暗い廊下を延々と歩かされた末、辿り着いたのは、ラオウ
邸の地下室の一室に当たる“儀式の間”と呼ばれる何もない、魔法陣だけが描かれた
部屋だった。
目の前にはユリアがいる。二人は、魔法陣のほぼ中央に立っていた。そして、見詰
め合っていた。
(………どーしたもんか、この状況………)
ユリアの潤んだ瞳を見て、ギゼーは思案するばかりであった。
ユリアはギゼーの首に自身の腕を巻きつけ、逃れられないようにしながら艶やかな
声音で話し出した。
「ギゼーさん、知ってます?私達の一族はね、貴方の様なバカな人間から精気を吸い
取って、自分達を繁栄させる力とするのよ。私達はそれで、今まで成功を収めて来た
わ。そして、これからもね………」
そう、言うが早いかユリアは、ギゼーの首筋に赤黒く鋭く尖った“爪”を立てた。
そして、自分の唇をギゼーの唇に這わせる。桃色の美麗な舌が、その輪郭をなぞ
る。二人の睫毛が触れるか触れないか、紙一重の所まで近付く。両手の指に生え揃っ
ている、赤黒い“爪”をギゼーの肌に食い込ませようと、力を込めた瞬間、ギゼーの
腰の辺りでカチリと硬くて鋭い音が、小さく響いた。
暗闇に閃いたのは、銀の閃光だった。
ギゼー後自慢のアイテムの一つ、“ミスリル銀製のスイッチナイフ”を翳したの
だ。純度99.99%の純正のミスリル銀製で、柄の部分が昇竜を模って作られてい
る。刀身が僅かばかりの光を発している所を見ると、少なからず魔力を帯びているの
が解る。ギゼーが今までの人生の中で手に入れた、お宝の内の一つだ。大抵の宝は売
り払ってしまうが、自分が特別に気に入った宝だけは、手元に残しておくのだ。これ
は、その内の一つである。
(……これが、こんな時に役に立つとはね。俺の悪運も、中々捨てたもんじゃないな
…)
「………くっ!ミスリル銀か…」
ミスリルのスイッチナイフを見せ付けられて、一歩後退って苦虫を噛み潰したよう
な表情を見せるユリア。その美麗な顔立ちは、もはや僅かばかりの面影を留めている
だけに過ぎない。
―…ここまで来ると、もはや化け物だな。
ギゼーの、今のユリアに対するその感想は、尤もなものだった。
ギゼーは、少しでもユリアとの間合いを取ろうと後ろに下がる。
すると、足元の魔法陣が仄かに明るくなり、見えない壁を形成してゆく。円を描く
魔方陣全体が壁を形成して行き、やがてドーム状になる。
「ホホホ、これは魔法の壁よ。最早、貴方は此処から逃げられないわよ。覚悟しなさ
い」
(………くっ、俺ってば、何気にピンチ………?)
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PC:ギゼー ジュヴィア リング
NPC:ユリア ジン
場所:天界格闘場~館の地下室“儀式の間”
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残念なことに、貴方にはもう時間がありません。
姿を変えてもなお、リングの優勢は変わらなかった。自分からは仕掛けず
ジンの攻撃を受け流すように動いている。
「降参してください。あなたに勝ち目はありません」
「うるさい!黙れ!」
醜く叫ぶその様を、ジュヴィアは見たくなかった。いつかは向き合わなく
てはいけない忌まわしい記憶を、無理やり引きずり出されている感覚に襲わ
れるのだ。
――貴方は、死んでからも尚私を苦しめるの?
貴方が私を苦しめるから、貴方が私を殺そうとしたから私は貴方を殺したの
に。
『貴様の血は淫らな魔物の血だ!』
――まもの。
そう口に出したとたん、全身がぞわりと総毛立つような感じがした。
――いる。すぐちかくに、いる
ぎゅ、と斧を握り締め、ジュヴィアは廊下へと急いだ。リングは勝つに違い
ない。彼女―今は彼だが―に関しては今は心配要らないが…
「ギゼーさん」
先ほどユリアと一緒に姿を消した彼のことを考えると、自分の弱さが悔や
まれた。死人の面影に振り回されて、案ずるべき事に目を向けられなかった
弱さ。
「……美人だと思ってついていくからそんなことになるんです」
封印するには、壁を厚くするしかないから。
「バカね、貴方。大人しく犯されていれば、極楽を味わいながら死ねたのに」
ユリアはすでに人ならぬものの姿を完全に顕していた。美貌は見る影もな
い。わざとらしく爪を立てるような仕草をして、ギゼーに見せつけた。
「お前のようなバケモンは俺の趣味じゃない。それはお断りだな」
余裕を無くしたら、すぐにつけこまれる…
ギゼーはそう言いながら、魔方陣の端ぎりぎりまであとずさった。その様子を
見てユリアがまた凄絶な笑みを浮かべる。
「ふぅん。後ずさるほどいやなのね。なぁに?女性恐怖症かなにか?」
にじり寄ってくるユリア。逃げ道はない。ギゼーは破れかぶれでナイフを構
えた。と、その時。
「その人は少女嗜好だからです」
聞き覚えのある幼い声が、部屋の入り口から届いた。
「ジュヴィアちゃん!」
ギゼーが会心の表情を浮かべる。ジュヴィアは冷ややかにユリアを眺めやると、
静かに手に握った斧を差し向けた。ユリアが恐ろしい形相で彼女を睨みつける。
「何故邪魔立てする!」
「ギゼーさんを見殺しにすると夢見が悪いからです」
その言葉に、ユリアの表情がたちまち解け、代わりに皮肉がましい笑みが浮
かぶ。
「へぇ、貴女は同族とばかり思っていたけれど、人間の男になど執着するのね?
何の意義もない、ただの食料に?」
「ど、同族!」
ギゼーはユリアのほうへ向き直り、そして彼女とジュヴィアを交互に見た。
「何のことだ!?」
「ギゼーさん、話ならこのおばさんを片付けてからいくらでもします。今は止
めて下さい」
そう言って、ジュヴィアは一歩ユリアに近づいた。だが、ユリアの手がそれよ
り早くギゼーの胸倉を掴み、引き寄せる。
「お黙り小娘!それ以上動いて御覧なさい、この男の喉を掻っ切るわよ!」
だがジュヴィアは眉一つ動かさず、じっとユリアを見た。
「……貴女のような存在は嫌いです」
そして肩に力を入れる。ユリアの顔が驚愕に引き攣った。
「バカな!何故お前ごとき小娘がそんな!」
しかし、もう遅い。ユリアの腕から見る見る力が抜け、ギゼーはたちまち自由
になる。それを見るが早いかジュヴィアはユリアに肉薄した。
ざん、と音がする。ユリアの首が派手に血飛沫を上げて飛んだ。同時にギゼー
を閉じ込めていた結界が消える。だが、無事に助かったことよりも、ギゼーの
頭の中にあることは――
「…ジュヴィアちゃん」
「解っています。まさかあなたにお話しすることになるとは思いませんでした」
「話したくないなら、俺は聞かないぜ」
ジュヴィアはうつむくと、ぎゅっと拳を握った。唇を噛んで僅かに震える。
「……誰にも、話したことなんて……無かったから……」
だから、と消え入るような声で言って、ジュヴィアは背を向けた。
「…ごめんなさい……でも、きっとお話しします……リングさんにも…聞いて
貰おうと思うから……後で……」
「…そっか」
ギゼーはぽん、とジュヴィアの肩に手を置いた。即座にジュヴィアが振り向
く。
「…油断も隙もありませんね。人が真剣な話をしているのに早速少女嗜好全開
ですか」
「な!?今まで泣いてたのは誰だよ!」
「泣いてなんかいません!」
「泣いてただろ!」
「しつこい言いがかりは止めて下さい!それよりリングさんが危ないかもしれ
ません」
リングが危ない。
「何で?」
「回転の遅い人ですね。ユリアは魔物だったんですよ。当然ラオウも魔物でしょ
う」
大体あんな貴族が居るわけないと思っていました――とぶつぶつ言いながらジュ
ヴィアが廊下に走って消える。ギゼーも後を追った。
「……そういえば、もうリング『ちゃん』て言えないのかな」
という、いささかどうでもいいことを考えながらではあったが。
PC:ギゼー ジュヴィア リング
NPC:ユリア ジン
場所:天界格闘場~館の地下室“儀式の間”
----------------------†----------------------
残念なことに、貴方にはもう時間がありません。
姿を変えてもなお、リングの優勢は変わらなかった。自分からは仕掛けず
ジンの攻撃を受け流すように動いている。
「降参してください。あなたに勝ち目はありません」
「うるさい!黙れ!」
醜く叫ぶその様を、ジュヴィアは見たくなかった。いつかは向き合わなく
てはいけない忌まわしい記憶を、無理やり引きずり出されている感覚に襲わ
れるのだ。
――貴方は、死んでからも尚私を苦しめるの?
貴方が私を苦しめるから、貴方が私を殺そうとしたから私は貴方を殺したの
に。
『貴様の血は淫らな魔物の血だ!』
――まもの。
そう口に出したとたん、全身がぞわりと総毛立つような感じがした。
――いる。すぐちかくに、いる
ぎゅ、と斧を握り締め、ジュヴィアは廊下へと急いだ。リングは勝つに違い
ない。彼女―今は彼だが―に関しては今は心配要らないが…
「ギゼーさん」
先ほどユリアと一緒に姿を消した彼のことを考えると、自分の弱さが悔や
まれた。死人の面影に振り回されて、案ずるべき事に目を向けられなかった
弱さ。
「……美人だと思ってついていくからそんなことになるんです」
封印するには、壁を厚くするしかないから。
「バカね、貴方。大人しく犯されていれば、極楽を味わいながら死ねたのに」
ユリアはすでに人ならぬものの姿を完全に顕していた。美貌は見る影もな
い。わざとらしく爪を立てるような仕草をして、ギゼーに見せつけた。
「お前のようなバケモンは俺の趣味じゃない。それはお断りだな」
余裕を無くしたら、すぐにつけこまれる…
ギゼーはそう言いながら、魔方陣の端ぎりぎりまであとずさった。その様子を
見てユリアがまた凄絶な笑みを浮かべる。
「ふぅん。後ずさるほどいやなのね。なぁに?女性恐怖症かなにか?」
にじり寄ってくるユリア。逃げ道はない。ギゼーは破れかぶれでナイフを構
えた。と、その時。
「その人は少女嗜好だからです」
聞き覚えのある幼い声が、部屋の入り口から届いた。
「ジュヴィアちゃん!」
ギゼーが会心の表情を浮かべる。ジュヴィアは冷ややかにユリアを眺めやると、
静かに手に握った斧を差し向けた。ユリアが恐ろしい形相で彼女を睨みつける。
「何故邪魔立てする!」
「ギゼーさんを見殺しにすると夢見が悪いからです」
その言葉に、ユリアの表情がたちまち解け、代わりに皮肉がましい笑みが浮
かぶ。
「へぇ、貴女は同族とばかり思っていたけれど、人間の男になど執着するのね?
何の意義もない、ただの食料に?」
「ど、同族!」
ギゼーはユリアのほうへ向き直り、そして彼女とジュヴィアを交互に見た。
「何のことだ!?」
「ギゼーさん、話ならこのおばさんを片付けてからいくらでもします。今は止
めて下さい」
そう言って、ジュヴィアは一歩ユリアに近づいた。だが、ユリアの手がそれよ
り早くギゼーの胸倉を掴み、引き寄せる。
「お黙り小娘!それ以上動いて御覧なさい、この男の喉を掻っ切るわよ!」
だがジュヴィアは眉一つ動かさず、じっとユリアを見た。
「……貴女のような存在は嫌いです」
そして肩に力を入れる。ユリアの顔が驚愕に引き攣った。
「バカな!何故お前ごとき小娘がそんな!」
しかし、もう遅い。ユリアの腕から見る見る力が抜け、ギゼーはたちまち自由
になる。それを見るが早いかジュヴィアはユリアに肉薄した。
ざん、と音がする。ユリアの首が派手に血飛沫を上げて飛んだ。同時にギゼー
を閉じ込めていた結界が消える。だが、無事に助かったことよりも、ギゼーの
頭の中にあることは――
「…ジュヴィアちゃん」
「解っています。まさかあなたにお話しすることになるとは思いませんでした」
「話したくないなら、俺は聞かないぜ」
ジュヴィアはうつむくと、ぎゅっと拳を握った。唇を噛んで僅かに震える。
「……誰にも、話したことなんて……無かったから……」
だから、と消え入るような声で言って、ジュヴィアは背を向けた。
「…ごめんなさい……でも、きっとお話しします……リングさんにも…聞いて
貰おうと思うから……後で……」
「…そっか」
ギゼーはぽん、とジュヴィアの肩に手を置いた。即座にジュヴィアが振り向
く。
「…油断も隙もありませんね。人が真剣な話をしているのに早速少女嗜好全開
ですか」
「な!?今まで泣いてたのは誰だよ!」
「泣いてなんかいません!」
「泣いてただろ!」
「しつこい言いがかりは止めて下さい!それよりリングさんが危ないかもしれ
ません」
リングが危ない。
「何で?」
「回転の遅い人ですね。ユリアは魔物だったんですよ。当然ラオウも魔物でしょ
う」
大体あんな貴族が居るわけないと思っていました――とぶつぶつ言いながらジュ
ヴィアが廊下に走って消える。ギゼーも後を追った。
「……そういえば、もうリング『ちゃん』て言えないのかな」
という、いささかどうでもいいことを考えながらではあったが。
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC リング ギゼー ジュヴィア 場所 ソフィニア<天界格闘場>
NPC ラオウ(ラオ・コーン) ケン ジン リンダ バッティ
-アンタの「王子様」なんか、一生見つかるわけないじゃない。
-アンタみたいな「怪物」にはねッ!!!アハハハッ!!!
ゴスッ!!!
リングの拳がケンのみぞおちにクリーンヒットした。ケンがぐふっ、ともが
ふっ、とも聞こえる音を出して石畳の上にどっと倒れる。
「・・・だから言ったじゃないですか。貴方はもう死んでいる、と」
リングが冷たい瞳で、倒れた相手を見つめる。・・・と、それは一瞬で。
「すっ、すみません・・・っ、痛かったですよねっ!!」
次の瞬間、リングはケンの前に屈みこみ、ケンを介抱する。
「すみませんっ・・・!これが戦いじゃなければ、私・・・っ・・」
半ば涙目でそう言いながら、リングはケンの額にぬれタオルを当てたりして、
かいがいしくケンを介抱する。自らが今倒した相手なのに、である。その態度
の違いに、周りで見ていた人間は唖然とする。ちなみに、ケンだけが特別な扱
いなワケではなく、さっき倒したジンのときもリングは同じような行動をとっ
ていた。つまり、これで二度目なワケだ。
「・・・リングって変なヤツだな。強いんだか、弱いんだか」
「・・・本当ね」
すでに回復したリンダとバッティがそう言い交わす。
すると、ニヤニヤしながらリングの背後に誰かが近づいた。
「・・・何ですか」
リングは振り返り、不信な表情でその者を見つめる。その視線の先には、気
味が悪いほどの笑みを浮かべながらリングを見下ろす、ラオウがいた。
「さすがだな、リング。さすが<海竜族>なだけはある。君の方からはほとん
ど攻撃せずに二人に勝ったな」
「なぜ今更、私の種族を持ち出すんです?」
その言葉に、リングはきっとした表情でラオウを見つめた。ラオウが魔物だと
いうことにリングは未だ気づいてはいない。しかし、何故だか、今のラオウの
言葉にリングは本能的に「悪意」のようなものを感じ取ったのだ。竜族である
が故の勘というものだろうか。
「何故だって?」
そんなリングに、ラオウは余裕の笑みを見せる。
「君の<身体>が欲しいからだ。リング」
そう言うと、ラオウの身体は突然、むくむくと大きくなり始めた。同時に、
着ていた服がビリビリッと裂け、裂けたところから黒いもしゃもしゃとした毛
が生え始める。頭には角が生え、目が横長に大きくなり赤みを帯びる。
「な・・・っ!!!」
バッティやリンダが驚いて見つめる中、ラオウの身体は巨大な「魔物」と化し
ていた。
「ファッハッハッハッ、驚いただろう?私の正体は魔族・・・」
「・・・魔族ラオ・コーンですね。ランクで言えば中級に属します」
「ぐっ・・・」
自分のセリフをリングに先に言われたラオウことラオ・コーンは、言葉に詰ま
った。
「・・・っ、キサマっ!人のセリフをとるんじゃないっ!!」
「すみませんっ!私、地上はそういうルールだとは知らなくて・・・。私、以
前<地上の魔族達>という本で見たことがあったものですから、つい・・・」
敵の魔族にぺこぺこと謝るリング。つくづくなさけないヤツである。
「・・・まあいい、今頃は、娘のユリアがキサマの仲間の精気を吸い尽くした
頃だろう」
その言葉に、とたんにリングの顔がさあっと青ざめる。
「・・・っギゼーさんとジュヴィアさんに何かなさったのですか!」
「ふふっ、君は知らないだろうが、私たちの種族の好物は<人間の精気>で
ね。・・・今頃、君のお仲間はミイラになってるだろうよ」
「なっ・・・!」
リングの顔が今度は土気色になった。ギゼーの笑顔が、ジュヴィアの静かな横
顔が、リングの脳裏に浮かぶ。二人とも、簡単にやられる人物ではないことは
解っているとはいえ、大切な二人が、今、生命の危機にさらされているなん
て・・・。
「そんな・・・、そんな、ラオ・コーンさん!本当に、そんな酷い事を!」
目に涙を溜めて、リングはラオ・コーンを見つめる。
「ふっ・・・、敵にさんづけられたのは初めてだが・・・、とにかく、今まで
の戦いで、君に<水属性>があることが解った。水属性は、確か<地属性>に
弱いはずだな。そして幸運にも、私の使う魔法は・・・」
言うと、ラオ・コーンは地面に拳を叩きつけた。叩きつけた拳の先から、土柱
がほとばしる。それをリングはとっさに水でガードしたが、
「がぁ・・・っ・・!!」
土柱の攻撃をもろに受けて、リングの肩にざっくりとした切り傷ができた。そ
れを見たラオ・コーンがにやりと笑う。
「ごらんのとおり、地属性だ、君の使う水に強い、な」
「くっ・・・」
リングは唇をかんだ。地属性の魔法に自分が弱いのは事実だ。
(どうしましょう・・・!このままでは、私に勝ち目は・・・!!)
考えている間にも、ラオ・コーンは土柱を撃ってくる。隙がないので、間の長
い「聖書」は、使えない。使っている間に土柱が自分を直撃する。リングは必
死に攻撃をかわすことしか出来なかった。
「何故ですか!ラオ・コーンさん!」
ラオ・コーンの攻撃をかわしながら、リングが叫んだ。
「何故、私の身体を狙うのです!」
「・・・これでも私は<商人>なものでね。君も知っての通り、竜族は高値で
売れる。いわゆる、<レアアイテム>だな。竜族は<金より高い>と言われる
ぐらいのな」
ラオ・コーンはそう言って笑みを浮かべる。・・・その言葉が、あまりの忌ま
わしさに、竜族の中で禁忌とされていることを知っての言葉だ。その言葉でリ
ングの怒りに火がついた。
「竜族に向かって、その言葉を、使わないでくださいっ!!!」
「ふははっ!キサマもすぐに金に換えてやる、リング!」
「誰が貴方などに!!!」
リングがそう言った瞬間、
「あっ!!!」
土柱に一瞬リングは足を取られた。すかさず、土柱がリングを襲う!
そのときだった、
ガッという物音が聞こえ、リングがはっと目を開けると、ジンとケンの二人が
自分の目の前に跪いていた。二人の腹には深い切り傷が、痛々しいほどについ
ている。
「ジンさん!ケンさん!!」
「ふっ、怪我はないみたいだな、リング」
ジンが血を吐きながら、こんな状況でさえキザっぽく言う。
「あんな魔物に君をやらせたりしないさ・・・」
傷をかばい、跪くケン。そんな二人を見て、忌々しそうにラオ・コーンが叫
ぶ。
「ちっ、邪魔しやがって!今度はキサマらも一緒に!」
そのとき、ラオ・コーンの上空にリンダとバッティが浮かぶ。
「風よ!切り裂け!!」
「炎よ!我の手に!!」
二人を見つけたリングの目が点になった。
「駄目です!二人とも!!」
しかし、二人の魔法はラオ・コーンの強靭な肉体にあっけなく跳ね返され、逆
に、ラオ・コーンは二人の腕をつかむと、地面に思いっきり叩きつける。
「がふっ!!」
「あうっ!!」
「リンダさん!バッティさん!!」
リングが泣きそうになって叫ぶ。
(そんな・・・っ、皆さん、私をかばってこんな目に・・・!!)
ラオ・コーンはその様子をめ見て、忌々しさをあらわにして言う。
「どいつもこいつもふざけやがって・・・。こうなったら、ここにいるヤツら
全員殺してやる!・・・まずはキサマだ、<レアアイテム>!」
ブチッ
その時、リングの中で何かが切れた。リングは、すっと立ち上がる。髪と瞳
が・・・、青に変化する。瞳は怒りですうっと細くなり、ラオ・コーンを冷た
く見つめる。
「この・・・、忌々しい、下種が・・・!」
吐き捨てるようにリングは言う。
「貴様の姿を見るのも、不愉快だ。・・・死ね、下等魔族」
その姿に、リングを取り巻く状況が変わっていないにもかかわらず、ラオ・コ
ーンは戦慄を覚えた。何より、リングの口調と態度が180度違う。ラオ・コ
ーンは何故か、直感した。・・・自分はコイツに、勝てない。
息を切らしてかけつけたギゼーとジュヴィアが見たものは、全身に血を浴び
てたたずむリングと、その横にある<肉塊>だった。
「・・・リングちゃん?」
「あ・・・、ジュヴィアさん・・・、ギゼーさん・・・」
二人を視界に捕らえたリングは無理して笑みを作った。色も性格も元に戻って
いる。
「あの・・・、すみません・・・、この方が魔物で、私を襲ってきたもので、
つい、倒してしまいました・・・、二人とも無事だったのですね。よかったで
す・・・」
倒された魔物は、もはや原形をとどめていなかった。
(リングちゃん・・・、いったいどういう倒し方をしたんだ・・・?)
なにより、こんな倒し方は普段のリングからは想像出来ないほど残酷だ。二人
の脳裏に疑問の感情が、残った。
PC リング ギゼー ジュヴィア 場所 ソフィニア<天界格闘場>
NPC ラオウ(ラオ・コーン) ケン ジン リンダ バッティ
-アンタの「王子様」なんか、一生見つかるわけないじゃない。
-アンタみたいな「怪物」にはねッ!!!アハハハッ!!!
ゴスッ!!!
リングの拳がケンのみぞおちにクリーンヒットした。ケンがぐふっ、ともが
ふっ、とも聞こえる音を出して石畳の上にどっと倒れる。
「・・・だから言ったじゃないですか。貴方はもう死んでいる、と」
リングが冷たい瞳で、倒れた相手を見つめる。・・・と、それは一瞬で。
「すっ、すみません・・・っ、痛かったですよねっ!!」
次の瞬間、リングはケンの前に屈みこみ、ケンを介抱する。
「すみませんっ・・・!これが戦いじゃなければ、私・・・っ・・」
半ば涙目でそう言いながら、リングはケンの額にぬれタオルを当てたりして、
かいがいしくケンを介抱する。自らが今倒した相手なのに、である。その態度
の違いに、周りで見ていた人間は唖然とする。ちなみに、ケンだけが特別な扱
いなワケではなく、さっき倒したジンのときもリングは同じような行動をとっ
ていた。つまり、これで二度目なワケだ。
「・・・リングって変なヤツだな。強いんだか、弱いんだか」
「・・・本当ね」
すでに回復したリンダとバッティがそう言い交わす。
すると、ニヤニヤしながらリングの背後に誰かが近づいた。
「・・・何ですか」
リングは振り返り、不信な表情でその者を見つめる。その視線の先には、気
味が悪いほどの笑みを浮かべながらリングを見下ろす、ラオウがいた。
「さすがだな、リング。さすが<海竜族>なだけはある。君の方からはほとん
ど攻撃せずに二人に勝ったな」
「なぜ今更、私の種族を持ち出すんです?」
その言葉に、リングはきっとした表情でラオウを見つめた。ラオウが魔物だと
いうことにリングは未だ気づいてはいない。しかし、何故だか、今のラオウの
言葉にリングは本能的に「悪意」のようなものを感じ取ったのだ。竜族である
が故の勘というものだろうか。
「何故だって?」
そんなリングに、ラオウは余裕の笑みを見せる。
「君の<身体>が欲しいからだ。リング」
そう言うと、ラオウの身体は突然、むくむくと大きくなり始めた。同時に、
着ていた服がビリビリッと裂け、裂けたところから黒いもしゃもしゃとした毛
が生え始める。頭には角が生え、目が横長に大きくなり赤みを帯びる。
「な・・・っ!!!」
バッティやリンダが驚いて見つめる中、ラオウの身体は巨大な「魔物」と化し
ていた。
「ファッハッハッハッ、驚いただろう?私の正体は魔族・・・」
「・・・魔族ラオ・コーンですね。ランクで言えば中級に属します」
「ぐっ・・・」
自分のセリフをリングに先に言われたラオウことラオ・コーンは、言葉に詰ま
った。
「・・・っ、キサマっ!人のセリフをとるんじゃないっ!!」
「すみませんっ!私、地上はそういうルールだとは知らなくて・・・。私、以
前<地上の魔族達>という本で見たことがあったものですから、つい・・・」
敵の魔族にぺこぺこと謝るリング。つくづくなさけないヤツである。
「・・・まあいい、今頃は、娘のユリアがキサマの仲間の精気を吸い尽くした
頃だろう」
その言葉に、とたんにリングの顔がさあっと青ざめる。
「・・・っギゼーさんとジュヴィアさんに何かなさったのですか!」
「ふふっ、君は知らないだろうが、私たちの種族の好物は<人間の精気>で
ね。・・・今頃、君のお仲間はミイラになってるだろうよ」
「なっ・・・!」
リングの顔が今度は土気色になった。ギゼーの笑顔が、ジュヴィアの静かな横
顔が、リングの脳裏に浮かぶ。二人とも、簡単にやられる人物ではないことは
解っているとはいえ、大切な二人が、今、生命の危機にさらされているなん
て・・・。
「そんな・・・、そんな、ラオ・コーンさん!本当に、そんな酷い事を!」
目に涙を溜めて、リングはラオ・コーンを見つめる。
「ふっ・・・、敵にさんづけられたのは初めてだが・・・、とにかく、今まで
の戦いで、君に<水属性>があることが解った。水属性は、確か<地属性>に
弱いはずだな。そして幸運にも、私の使う魔法は・・・」
言うと、ラオ・コーンは地面に拳を叩きつけた。叩きつけた拳の先から、土柱
がほとばしる。それをリングはとっさに水でガードしたが、
「がぁ・・・っ・・!!」
土柱の攻撃をもろに受けて、リングの肩にざっくりとした切り傷ができた。そ
れを見たラオ・コーンがにやりと笑う。
「ごらんのとおり、地属性だ、君の使う水に強い、な」
「くっ・・・」
リングは唇をかんだ。地属性の魔法に自分が弱いのは事実だ。
(どうしましょう・・・!このままでは、私に勝ち目は・・・!!)
考えている間にも、ラオ・コーンは土柱を撃ってくる。隙がないので、間の長
い「聖書」は、使えない。使っている間に土柱が自分を直撃する。リングは必
死に攻撃をかわすことしか出来なかった。
「何故ですか!ラオ・コーンさん!」
ラオ・コーンの攻撃をかわしながら、リングが叫んだ。
「何故、私の身体を狙うのです!」
「・・・これでも私は<商人>なものでね。君も知っての通り、竜族は高値で
売れる。いわゆる、<レアアイテム>だな。竜族は<金より高い>と言われる
ぐらいのな」
ラオ・コーンはそう言って笑みを浮かべる。・・・その言葉が、あまりの忌ま
わしさに、竜族の中で禁忌とされていることを知っての言葉だ。その言葉でリ
ングの怒りに火がついた。
「竜族に向かって、その言葉を、使わないでくださいっ!!!」
「ふははっ!キサマもすぐに金に換えてやる、リング!」
「誰が貴方などに!!!」
リングがそう言った瞬間、
「あっ!!!」
土柱に一瞬リングは足を取られた。すかさず、土柱がリングを襲う!
そのときだった、
ガッという物音が聞こえ、リングがはっと目を開けると、ジンとケンの二人が
自分の目の前に跪いていた。二人の腹には深い切り傷が、痛々しいほどについ
ている。
「ジンさん!ケンさん!!」
「ふっ、怪我はないみたいだな、リング」
ジンが血を吐きながら、こんな状況でさえキザっぽく言う。
「あんな魔物に君をやらせたりしないさ・・・」
傷をかばい、跪くケン。そんな二人を見て、忌々しそうにラオ・コーンが叫
ぶ。
「ちっ、邪魔しやがって!今度はキサマらも一緒に!」
そのとき、ラオ・コーンの上空にリンダとバッティが浮かぶ。
「風よ!切り裂け!!」
「炎よ!我の手に!!」
二人を見つけたリングの目が点になった。
「駄目です!二人とも!!」
しかし、二人の魔法はラオ・コーンの強靭な肉体にあっけなく跳ね返され、逆
に、ラオ・コーンは二人の腕をつかむと、地面に思いっきり叩きつける。
「がふっ!!」
「あうっ!!」
「リンダさん!バッティさん!!」
リングが泣きそうになって叫ぶ。
(そんな・・・っ、皆さん、私をかばってこんな目に・・・!!)
ラオ・コーンはその様子をめ見て、忌々しさをあらわにして言う。
「どいつもこいつもふざけやがって・・・。こうなったら、ここにいるヤツら
全員殺してやる!・・・まずはキサマだ、<レアアイテム>!」
ブチッ
その時、リングの中で何かが切れた。リングは、すっと立ち上がる。髪と瞳
が・・・、青に変化する。瞳は怒りですうっと細くなり、ラオ・コーンを冷た
く見つめる。
「この・・・、忌々しい、下種が・・・!」
吐き捨てるようにリングは言う。
「貴様の姿を見るのも、不愉快だ。・・・死ね、下等魔族」
その姿に、リングを取り巻く状況が変わっていないにもかかわらず、ラオ・コ
ーンは戦慄を覚えた。何より、リングの口調と態度が180度違う。ラオ・コ
ーンは何故か、直感した。・・・自分はコイツに、勝てない。
息を切らしてかけつけたギゼーとジュヴィアが見たものは、全身に血を浴び
てたたずむリングと、その横にある<肉塊>だった。
「・・・リングちゃん?」
「あ・・・、ジュヴィアさん・・・、ギゼーさん・・・」
二人を視界に捕らえたリングは無理して笑みを作った。色も性格も元に戻って
いる。
「あの・・・、すみません・・・、この方が魔物で、私を襲ってきたもので、
つい、倒してしまいました・・・、二人とも無事だったのですね。よかったで
す・・・」
倒された魔物は、もはや原形をとどめていなかった。
(リングちゃん・・・、いったいどういう倒し方をしたんだ・・・?)
なにより、こんな倒し方は普段のリングからは想像出来ないほど残酷だ。二人
の脳裏に疑問の感情が、残った。
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー ジュヴィア リング
NPC:ラオウ<ラオ・コーン>の右腕 リンダ バッティ ジン ケン
場所:天界格闘場
*++―――――++**++―――――++**++―――――++**++―――――++*
闇はわが友
闇はわが親
闇はわが恋人
闇は我を生み育てた
我は闇の中に潜むもの
我は闇と一つとなりたるもの
そして我は、闇に還る―
残酷な死に様をさらしたラオウ<ラオ・コーン>の無残な死骸の一隅に、なぜか原
型を留めているものがあった。
<ラオ・コーン>の右腕である。<ラオ・コーン>の右腕の指の先、赤黒く鋭く光
る“爪”だけがなぜか綺麗に元の形を残していた。そして、何故か“生きて”いた。
最初に“それ”気が付いたのは、ギゼーだった。
“赤黒い爪”。先程のユリアと同じ。そして、彼女自身の口が明かしていた。
―私の一族はね、人間の精気を吸って繁栄して来たの。
そしてその直後に、“爪”を食い込ませて来たのだ。彼女は。
そして、今。無残に潰された死骸の中で、たった一つ原形を留めている“爪”があ
る。そしてそいつは、“生きて”蠢いているのだ。
(まっ、結論としてはその“赤黒い爪”って言うのが、本体なんだろうな)
ギゼーが“爪”を凝視しながら、冷静に分析する。
あの場所でユリアの言動と行動を実際に目の当たりにしたのは、三人の中でギゼー
だけだったから、彼女と同じ血族であるラオウ<ラオ・コーン>も、身体の構造自体
は同じであろうと推測したのだ。
ギゼーが冷静に分析している間でも、他の者達は全くと言って良いほどその危険な
事実に気付いていなかった。ジュヴィアだけは何処か一点を凝視している風でもあっ
たが、リングは今し方共闘した即席の仲間達と喜びを分かち合っていた。
「とにかく、皆さん無事で何よりですぅ~」
涙ながらに、リンダ、バッティ、ケンと交互に手を握り合ったり抱きついたりして
勝利の余韻に浸っている。
「あ、ああっ。俺は、リングさんが無事で何よりですよぅ」
これは、ジンの台詞だ。必死になってリングに抱き付き同じ余韻に浸ろうともがい
ているが、常に空振りに終始している。リングが絶妙なタイミングで、避けるから
だ。それでも必死に取り縋ろうとしているのは、悲しい男の性である。
(………しっかし、あいつは本当に解っているんだろうか?リングちゃんが女でもあ
り、男でもあるって事…。さっき目の前で変身するとこ目撃したのに………。う
うぅっ。同じ男として、恥ずかしいぞ…)
そして、俺はああはなりたくは無いなと、思ってしまうギゼーであった。
周囲の微笑ましい光景にギゼーが見入っている間に、例の右腕に動きが生じた。
ギゼーは眼の端に“それ”の動きを捉え、慌ててその場にいる全員に警告を発す
る。
「…!?リングちゃん、ジュヴィアちゃん、気をつけろ!奴の右腕はまだ…!!」
先程から一点を凝視していたジュヴィアは、ギゼーが警告の言葉を発するより早く
“それ”の動きに反応することが出来た。
ひょっとしたら彼女は魔族の気配を感じ取っていたのかもしれない。そしてその気
配を辿っていった時、気付いたのだ。その、赤黒い“爪”に。
ジュヴィアは戦斧を手にすると、“爪”に向かって一息に走り寄る。行動を起こし
たジュヴィアに眼を走らせると、ギゼーは早口で注意を促す。
「ジュヴィアちゃん!気をつけろ!そいつらの“爪”は…」
だが、最後まで言い終わらない内にジュヴィアは戦斧を振り下ろしていた。
「!?」
だが、振り下ろしたその場に“爪”はなかった。
「ジュヴィアちゃん!腕!」
ギゼーの上げた驚きとも、悲鳴とも付かない声に思わずはっとなって自分の腕を見
遣るジュヴィア。
“爪”は、驚くべき素早さでジュヴィアの利き腕に食い込んでいた。そして、吸っ
ていた。血とも精気とも魔力ともつかない何かを―。
PC:ギゼー ジュヴィア リング
NPC:ラオウ<ラオ・コーン>の右腕 リンダ バッティ ジン ケン
場所:天界格闘場
*++―――――++**++―――――++**++―――――++**++―――――++*
闇はわが友
闇はわが親
闇はわが恋人
闇は我を生み育てた
我は闇の中に潜むもの
我は闇と一つとなりたるもの
そして我は、闇に還る―
残酷な死に様をさらしたラオウ<ラオ・コーン>の無残な死骸の一隅に、なぜか原
型を留めているものがあった。
<ラオ・コーン>の右腕である。<ラオ・コーン>の右腕の指の先、赤黒く鋭く光
る“爪”だけがなぜか綺麗に元の形を残していた。そして、何故か“生きて”いた。
最初に“それ”気が付いたのは、ギゼーだった。
“赤黒い爪”。先程のユリアと同じ。そして、彼女自身の口が明かしていた。
―私の一族はね、人間の精気を吸って繁栄して来たの。
そしてその直後に、“爪”を食い込ませて来たのだ。彼女は。
そして、今。無残に潰された死骸の中で、たった一つ原形を留めている“爪”があ
る。そしてそいつは、“生きて”蠢いているのだ。
(まっ、結論としてはその“赤黒い爪”って言うのが、本体なんだろうな)
ギゼーが“爪”を凝視しながら、冷静に分析する。
あの場所でユリアの言動と行動を実際に目の当たりにしたのは、三人の中でギゼー
だけだったから、彼女と同じ血族であるラオウ<ラオ・コーン>も、身体の構造自体
は同じであろうと推測したのだ。
ギゼーが冷静に分析している間でも、他の者達は全くと言って良いほどその危険な
事実に気付いていなかった。ジュヴィアだけは何処か一点を凝視している風でもあっ
たが、リングは今し方共闘した即席の仲間達と喜びを分かち合っていた。
「とにかく、皆さん無事で何よりですぅ~」
涙ながらに、リンダ、バッティ、ケンと交互に手を握り合ったり抱きついたりして
勝利の余韻に浸っている。
「あ、ああっ。俺は、リングさんが無事で何よりですよぅ」
これは、ジンの台詞だ。必死になってリングに抱き付き同じ余韻に浸ろうともがい
ているが、常に空振りに終始している。リングが絶妙なタイミングで、避けるから
だ。それでも必死に取り縋ろうとしているのは、悲しい男の性である。
(………しっかし、あいつは本当に解っているんだろうか?リングちゃんが女でもあ
り、男でもあるって事…。さっき目の前で変身するとこ目撃したのに………。う
うぅっ。同じ男として、恥ずかしいぞ…)
そして、俺はああはなりたくは無いなと、思ってしまうギゼーであった。
周囲の微笑ましい光景にギゼーが見入っている間に、例の右腕に動きが生じた。
ギゼーは眼の端に“それ”の動きを捉え、慌ててその場にいる全員に警告を発す
る。
「…!?リングちゃん、ジュヴィアちゃん、気をつけろ!奴の右腕はまだ…!!」
先程から一点を凝視していたジュヴィアは、ギゼーが警告の言葉を発するより早く
“それ”の動きに反応することが出来た。
ひょっとしたら彼女は魔族の気配を感じ取っていたのかもしれない。そしてその気
配を辿っていった時、気付いたのだ。その、赤黒い“爪”に。
ジュヴィアは戦斧を手にすると、“爪”に向かって一息に走り寄る。行動を起こし
たジュヴィアに眼を走らせると、ギゼーは早口で注意を促す。
「ジュヴィアちゃん!気をつけろ!そいつらの“爪”は…」
だが、最後まで言い終わらない内にジュヴィアは戦斧を振り下ろしていた。
「!?」
だが、振り下ろしたその場に“爪”はなかった。
「ジュヴィアちゃん!腕!」
ギゼーの上げた驚きとも、悲鳴とも付かない声に思わずはっとなって自分の腕を見
遣るジュヴィア。
“爪”は、驚くべき素早さでジュヴィアの利き腕に食い込んでいた。そして、吸っ
ていた。血とも精気とも魔力ともつかない何かを―。