◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー (ジュヴィア リング
NPC:ユリア
場所:天界闘技場~館の地下室“儀式の間”
*++―――――++**++―――――++**++―――――++**++―――――++*
貴方をもう二度と手放さない。
貴方はもう、私だけのもの。
私はもう、貴方だけのものだから…。
暗い廊下をユリアに連れられて歩いているギゼーは、先程から妙な胸騒ぎを覚えて
いた。
(…………妙だな……?俺だけに話って、いったい何処へ連れて行く気だ……?先程
のジュヴィアちゃんの様子も気になるし………これは……ひょっとすると……)
不審に思ったギゼーは、おもむろに足を止める。そして、躊躇いがちに口を開い
た。
「あの…さ、ユリアちゃん。俺に話って、何かな……?あの場で、言えない事……な
のかな?」
その質問が心外だとでも言いたげに、前を歩いていたユリアは足を止め振り向く。
その表情は、心なしか少し悲しげに見える。
「……ギゼーさん……それを、私に言わせるのですか?……今直ぐ、此処で?」
彼女が何か腹黒いことを抱えているとしたら、それは迫真の演技だった。まるで、
ギゼーに対し彼女が恋心とでも呼べるものを抱いているかのごとく、瞳を潤ませて訴
えるその様はギゼーの心を打つのには十分だった。そして、その唇から吐き出される
一語一句が、ギゼーにとって真実味を帯びた言葉になる。ギゼーの警戒心を解くに
は、それで十分だった。
―美人に弱い男供は、これで十分よ…。チョロイもんね。男なんて……。
ギゼーが警戒心を解いて謝る様をみて、ユリアは密かにほくそえんだ。
そして、再び向きを変え歩き始める。元々向かっていた場所へ向けて、二人は再び
暗い廊下を歩み始めた。
だが、ギゼーは完全に警戒心を解いたわけではなかった。未だに心の何処かで燻っ
ている、疑心というものがあった。そして、ユリアの背をじっと見詰めながら、腰の
ポーチの中に眠る“アイテム”にそっと手を伸ばすのであった。
☆…………☆
(……今頃闘技場の方では、もう決着が付いているんだろうなぁ……)
そう、思考を巡らせるギゼーの佇むその場所は、館の地下の一室だった。
ユリアの導きで長くて薄暗い廊下を延々と歩かされた末、辿り着いたのは、ラオウ
邸の地下室の一室に当たる“儀式の間”と呼ばれる何もない、魔法陣だけが描かれた
部屋だった。
目の前にはユリアがいる。二人は、魔法陣のほぼ中央に立っていた。そして、見詰
め合っていた。
(………どーしたもんか、この状況………)
ユリアの潤んだ瞳を見て、ギゼーは思案するばかりであった。
ユリアはギゼーの首に自身の腕を巻きつけ、逃れられないようにしながら艶やかな
声音で話し出した。
「ギゼーさん、知ってます?私達の一族はね、貴方の様なバカな人間から精気を吸い
取って、自分達を繁栄させる力とするのよ。私達はそれで、今まで成功を収めて来た
わ。そして、これからもね………」
そう、言うが早いかユリアは、ギゼーの首筋に赤黒く鋭く尖った“爪”を立てた。
そして、自分の唇をギゼーの唇に這わせる。桃色の美麗な舌が、その輪郭をなぞ
る。二人の睫毛が触れるか触れないか、紙一重の所まで近付く。両手の指に生え揃っ
ている、赤黒い“爪”をギゼーの肌に食い込ませようと、力を込めた瞬間、ギゼーの
腰の辺りでカチリと硬くて鋭い音が、小さく響いた。
暗闇に閃いたのは、銀の閃光だった。
ギゼー後自慢のアイテムの一つ、“ミスリル銀製のスイッチナイフ”を翳したの
だ。純度99.99%の純正のミスリル銀製で、柄の部分が昇竜を模って作られてい
る。刀身が僅かばかりの光を発している所を見ると、少なからず魔力を帯びているの
が解る。ギゼーが今までの人生の中で手に入れた、お宝の内の一つだ。大抵の宝は売
り払ってしまうが、自分が特別に気に入った宝だけは、手元に残しておくのだ。これ
は、その内の一つである。
(……これが、こんな時に役に立つとはね。俺の悪運も、中々捨てたもんじゃないな
…)
「………くっ!ミスリル銀か…」
ミスリルのスイッチナイフを見せ付けられて、一歩後退って苦虫を噛み潰したよう
な表情を見せるユリア。その美麗な顔立ちは、もはや僅かばかりの面影を留めている
だけに過ぎない。
―…ここまで来ると、もはや化け物だな。
ギゼーの、今のユリアに対するその感想は、尤もなものだった。
ギゼーは、少しでもユリアとの間合いを取ろうと後ろに下がる。
すると、足元の魔法陣が仄かに明るくなり、見えない壁を形成してゆく。円を描く
魔方陣全体が壁を形成して行き、やがてドーム状になる。
「ホホホ、これは魔法の壁よ。最早、貴方は此処から逃げられないわよ。覚悟しなさ
い」
(………くっ、俺ってば、何気にピンチ………?)
PC:ギゼー (ジュヴィア リング
NPC:ユリア
場所:天界闘技場~館の地下室“儀式の間”
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貴方をもう二度と手放さない。
貴方はもう、私だけのもの。
私はもう、貴方だけのものだから…。
暗い廊下をユリアに連れられて歩いているギゼーは、先程から妙な胸騒ぎを覚えて
いた。
(…………妙だな……?俺だけに話って、いったい何処へ連れて行く気だ……?先程
のジュヴィアちゃんの様子も気になるし………これは……ひょっとすると……)
不審に思ったギゼーは、おもむろに足を止める。そして、躊躇いがちに口を開い
た。
「あの…さ、ユリアちゃん。俺に話って、何かな……?あの場で、言えない事……な
のかな?」
その質問が心外だとでも言いたげに、前を歩いていたユリアは足を止め振り向く。
その表情は、心なしか少し悲しげに見える。
「……ギゼーさん……それを、私に言わせるのですか?……今直ぐ、此処で?」
彼女が何か腹黒いことを抱えているとしたら、それは迫真の演技だった。まるで、
ギゼーに対し彼女が恋心とでも呼べるものを抱いているかのごとく、瞳を潤ませて訴
えるその様はギゼーの心を打つのには十分だった。そして、その唇から吐き出される
一語一句が、ギゼーにとって真実味を帯びた言葉になる。ギゼーの警戒心を解くに
は、それで十分だった。
―美人に弱い男供は、これで十分よ…。チョロイもんね。男なんて……。
ギゼーが警戒心を解いて謝る様をみて、ユリアは密かにほくそえんだ。
そして、再び向きを変え歩き始める。元々向かっていた場所へ向けて、二人は再び
暗い廊下を歩み始めた。
だが、ギゼーは完全に警戒心を解いたわけではなかった。未だに心の何処かで燻っ
ている、疑心というものがあった。そして、ユリアの背をじっと見詰めながら、腰の
ポーチの中に眠る“アイテム”にそっと手を伸ばすのであった。
☆…………☆
(……今頃闘技場の方では、もう決着が付いているんだろうなぁ……)
そう、思考を巡らせるギゼーの佇むその場所は、館の地下の一室だった。
ユリアの導きで長くて薄暗い廊下を延々と歩かされた末、辿り着いたのは、ラオウ
邸の地下室の一室に当たる“儀式の間”と呼ばれる何もない、魔法陣だけが描かれた
部屋だった。
目の前にはユリアがいる。二人は、魔法陣のほぼ中央に立っていた。そして、見詰
め合っていた。
(………どーしたもんか、この状況………)
ユリアの潤んだ瞳を見て、ギゼーは思案するばかりであった。
ユリアはギゼーの首に自身の腕を巻きつけ、逃れられないようにしながら艶やかな
声音で話し出した。
「ギゼーさん、知ってます?私達の一族はね、貴方の様なバカな人間から精気を吸い
取って、自分達を繁栄させる力とするのよ。私達はそれで、今まで成功を収めて来た
わ。そして、これからもね………」
そう、言うが早いかユリアは、ギゼーの首筋に赤黒く鋭く尖った“爪”を立てた。
そして、自分の唇をギゼーの唇に這わせる。桃色の美麗な舌が、その輪郭をなぞ
る。二人の睫毛が触れるか触れないか、紙一重の所まで近付く。両手の指に生え揃っ
ている、赤黒い“爪”をギゼーの肌に食い込ませようと、力を込めた瞬間、ギゼーの
腰の辺りでカチリと硬くて鋭い音が、小さく響いた。
暗闇に閃いたのは、銀の閃光だった。
ギゼー後自慢のアイテムの一つ、“ミスリル銀製のスイッチナイフ”を翳したの
だ。純度99.99%の純正のミスリル銀製で、柄の部分が昇竜を模って作られてい
る。刀身が僅かばかりの光を発している所を見ると、少なからず魔力を帯びているの
が解る。ギゼーが今までの人生の中で手に入れた、お宝の内の一つだ。大抵の宝は売
り払ってしまうが、自分が特別に気に入った宝だけは、手元に残しておくのだ。これ
は、その内の一つである。
(……これが、こんな時に役に立つとはね。俺の悪運も、中々捨てたもんじゃないな
…)
「………くっ!ミスリル銀か…」
ミスリルのスイッチナイフを見せ付けられて、一歩後退って苦虫を噛み潰したよう
な表情を見せるユリア。その美麗な顔立ちは、もはや僅かばかりの面影を留めている
だけに過ぎない。
―…ここまで来ると、もはや化け物だな。
ギゼーの、今のユリアに対するその感想は、尤もなものだった。
ギゼーは、少しでもユリアとの間合いを取ろうと後ろに下がる。
すると、足元の魔法陣が仄かに明るくなり、見えない壁を形成してゆく。円を描く
魔方陣全体が壁を形成して行き、やがてドーム状になる。
「ホホホ、これは魔法の壁よ。最早、貴方は此処から逃げられないわよ。覚悟しなさ
い」
(………くっ、俺ってば、何気にピンチ………?)
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