◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー ジュヴィア リング
NPC:ユリア ジン
場所:天界格闘場~館の地下室“儀式の間”
----------------------†----------------------
残念なことに、貴方にはもう時間がありません。
姿を変えてもなお、リングの優勢は変わらなかった。自分からは仕掛けず
ジンの攻撃を受け流すように動いている。
「降参してください。あなたに勝ち目はありません」
「うるさい!黙れ!」
醜く叫ぶその様を、ジュヴィアは見たくなかった。いつかは向き合わなく
てはいけない忌まわしい記憶を、無理やり引きずり出されている感覚に襲わ
れるのだ。
――貴方は、死んでからも尚私を苦しめるの?
貴方が私を苦しめるから、貴方が私を殺そうとしたから私は貴方を殺したの
に。
『貴様の血は淫らな魔物の血だ!』
――まもの。
そう口に出したとたん、全身がぞわりと総毛立つような感じがした。
――いる。すぐちかくに、いる
ぎゅ、と斧を握り締め、ジュヴィアは廊下へと急いだ。リングは勝つに違い
ない。彼女―今は彼だが―に関しては今は心配要らないが…
「ギゼーさん」
先ほどユリアと一緒に姿を消した彼のことを考えると、自分の弱さが悔や
まれた。死人の面影に振り回されて、案ずるべき事に目を向けられなかった
弱さ。
「……美人だと思ってついていくからそんなことになるんです」
封印するには、壁を厚くするしかないから。
「バカね、貴方。大人しく犯されていれば、極楽を味わいながら死ねたのに」
ユリアはすでに人ならぬものの姿を完全に顕していた。美貌は見る影もな
い。わざとらしく爪を立てるような仕草をして、ギゼーに見せつけた。
「お前のようなバケモンは俺の趣味じゃない。それはお断りだな」
余裕を無くしたら、すぐにつけこまれる…
ギゼーはそう言いながら、魔方陣の端ぎりぎりまであとずさった。その様子を
見てユリアがまた凄絶な笑みを浮かべる。
「ふぅん。後ずさるほどいやなのね。なぁに?女性恐怖症かなにか?」
にじり寄ってくるユリア。逃げ道はない。ギゼーは破れかぶれでナイフを構
えた。と、その時。
「その人は少女嗜好だからです」
聞き覚えのある幼い声が、部屋の入り口から届いた。
「ジュヴィアちゃん!」
ギゼーが会心の表情を浮かべる。ジュヴィアは冷ややかにユリアを眺めやると、
静かに手に握った斧を差し向けた。ユリアが恐ろしい形相で彼女を睨みつける。
「何故邪魔立てする!」
「ギゼーさんを見殺しにすると夢見が悪いからです」
その言葉に、ユリアの表情がたちまち解け、代わりに皮肉がましい笑みが浮
かぶ。
「へぇ、貴女は同族とばかり思っていたけれど、人間の男になど執着するのね?
何の意義もない、ただの食料に?」
「ど、同族!」
ギゼーはユリアのほうへ向き直り、そして彼女とジュヴィアを交互に見た。
「何のことだ!?」
「ギゼーさん、話ならこのおばさんを片付けてからいくらでもします。今は止
めて下さい」
そう言って、ジュヴィアは一歩ユリアに近づいた。だが、ユリアの手がそれよ
り早くギゼーの胸倉を掴み、引き寄せる。
「お黙り小娘!それ以上動いて御覧なさい、この男の喉を掻っ切るわよ!」
だがジュヴィアは眉一つ動かさず、じっとユリアを見た。
「……貴女のような存在は嫌いです」
そして肩に力を入れる。ユリアの顔が驚愕に引き攣った。
「バカな!何故お前ごとき小娘がそんな!」
しかし、もう遅い。ユリアの腕から見る見る力が抜け、ギゼーはたちまち自由
になる。それを見るが早いかジュヴィアはユリアに肉薄した。
ざん、と音がする。ユリアの首が派手に血飛沫を上げて飛んだ。同時にギゼー
を閉じ込めていた結界が消える。だが、無事に助かったことよりも、ギゼーの
頭の中にあることは――
「…ジュヴィアちゃん」
「解っています。まさかあなたにお話しすることになるとは思いませんでした」
「話したくないなら、俺は聞かないぜ」
ジュヴィアはうつむくと、ぎゅっと拳を握った。唇を噛んで僅かに震える。
「……誰にも、話したことなんて……無かったから……」
だから、と消え入るような声で言って、ジュヴィアは背を向けた。
「…ごめんなさい……でも、きっとお話しします……リングさんにも…聞いて
貰おうと思うから……後で……」
「…そっか」
ギゼーはぽん、とジュヴィアの肩に手を置いた。即座にジュヴィアが振り向
く。
「…油断も隙もありませんね。人が真剣な話をしているのに早速少女嗜好全開
ですか」
「な!?今まで泣いてたのは誰だよ!」
「泣いてなんかいません!」
「泣いてただろ!」
「しつこい言いがかりは止めて下さい!それよりリングさんが危ないかもしれ
ません」
リングが危ない。
「何で?」
「回転の遅い人ですね。ユリアは魔物だったんですよ。当然ラオウも魔物でしょ
う」
大体あんな貴族が居るわけないと思っていました――とぶつぶつ言いながらジュ
ヴィアが廊下に走って消える。ギゼーも後を追った。
「……そういえば、もうリング『ちゃん』て言えないのかな」
という、いささかどうでもいいことを考えながらではあったが。
PC:ギゼー ジュヴィア リング
NPC:ユリア ジン
場所:天界格闘場~館の地下室“儀式の間”
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残念なことに、貴方にはもう時間がありません。
姿を変えてもなお、リングの優勢は変わらなかった。自分からは仕掛けず
ジンの攻撃を受け流すように動いている。
「降参してください。あなたに勝ち目はありません」
「うるさい!黙れ!」
醜く叫ぶその様を、ジュヴィアは見たくなかった。いつかは向き合わなく
てはいけない忌まわしい記憶を、無理やり引きずり出されている感覚に襲わ
れるのだ。
――貴方は、死んでからも尚私を苦しめるの?
貴方が私を苦しめるから、貴方が私を殺そうとしたから私は貴方を殺したの
に。
『貴様の血は淫らな魔物の血だ!』
――まもの。
そう口に出したとたん、全身がぞわりと総毛立つような感じがした。
――いる。すぐちかくに、いる
ぎゅ、と斧を握り締め、ジュヴィアは廊下へと急いだ。リングは勝つに違い
ない。彼女―今は彼だが―に関しては今は心配要らないが…
「ギゼーさん」
先ほどユリアと一緒に姿を消した彼のことを考えると、自分の弱さが悔や
まれた。死人の面影に振り回されて、案ずるべき事に目を向けられなかった
弱さ。
「……美人だと思ってついていくからそんなことになるんです」
封印するには、壁を厚くするしかないから。
「バカね、貴方。大人しく犯されていれば、極楽を味わいながら死ねたのに」
ユリアはすでに人ならぬものの姿を完全に顕していた。美貌は見る影もな
い。わざとらしく爪を立てるような仕草をして、ギゼーに見せつけた。
「お前のようなバケモンは俺の趣味じゃない。それはお断りだな」
余裕を無くしたら、すぐにつけこまれる…
ギゼーはそう言いながら、魔方陣の端ぎりぎりまであとずさった。その様子を
見てユリアがまた凄絶な笑みを浮かべる。
「ふぅん。後ずさるほどいやなのね。なぁに?女性恐怖症かなにか?」
にじり寄ってくるユリア。逃げ道はない。ギゼーは破れかぶれでナイフを構
えた。と、その時。
「その人は少女嗜好だからです」
聞き覚えのある幼い声が、部屋の入り口から届いた。
「ジュヴィアちゃん!」
ギゼーが会心の表情を浮かべる。ジュヴィアは冷ややかにユリアを眺めやると、
静かに手に握った斧を差し向けた。ユリアが恐ろしい形相で彼女を睨みつける。
「何故邪魔立てする!」
「ギゼーさんを見殺しにすると夢見が悪いからです」
その言葉に、ユリアの表情がたちまち解け、代わりに皮肉がましい笑みが浮
かぶ。
「へぇ、貴女は同族とばかり思っていたけれど、人間の男になど執着するのね?
何の意義もない、ただの食料に?」
「ど、同族!」
ギゼーはユリアのほうへ向き直り、そして彼女とジュヴィアを交互に見た。
「何のことだ!?」
「ギゼーさん、話ならこのおばさんを片付けてからいくらでもします。今は止
めて下さい」
そう言って、ジュヴィアは一歩ユリアに近づいた。だが、ユリアの手がそれよ
り早くギゼーの胸倉を掴み、引き寄せる。
「お黙り小娘!それ以上動いて御覧なさい、この男の喉を掻っ切るわよ!」
だがジュヴィアは眉一つ動かさず、じっとユリアを見た。
「……貴女のような存在は嫌いです」
そして肩に力を入れる。ユリアの顔が驚愕に引き攣った。
「バカな!何故お前ごとき小娘がそんな!」
しかし、もう遅い。ユリアの腕から見る見る力が抜け、ギゼーはたちまち自由
になる。それを見るが早いかジュヴィアはユリアに肉薄した。
ざん、と音がする。ユリアの首が派手に血飛沫を上げて飛んだ。同時にギゼー
を閉じ込めていた結界が消える。だが、無事に助かったことよりも、ギゼーの
頭の中にあることは――
「…ジュヴィアちゃん」
「解っています。まさかあなたにお話しすることになるとは思いませんでした」
「話したくないなら、俺は聞かないぜ」
ジュヴィアはうつむくと、ぎゅっと拳を握った。唇を噛んで僅かに震える。
「……誰にも、話したことなんて……無かったから……」
だから、と消え入るような声で言って、ジュヴィアは背を向けた。
「…ごめんなさい……でも、きっとお話しします……リングさんにも…聞いて
貰おうと思うから……後で……」
「…そっか」
ギゼーはぽん、とジュヴィアの肩に手を置いた。即座にジュヴィアが振り向
く。
「…油断も隙もありませんね。人が真剣な話をしているのに早速少女嗜好全開
ですか」
「な!?今まで泣いてたのは誰だよ!」
「泣いてなんかいません!」
「泣いてただろ!」
「しつこい言いがかりは止めて下さい!それよりリングさんが危ないかもしれ
ません」
リングが危ない。
「何で?」
「回転の遅い人ですね。ユリアは魔物だったんですよ。当然ラオウも魔物でしょ
う」
大体あんな貴族が居るわけないと思っていました――とぶつぶつ言いながらジュ
ヴィアが廊下に走って消える。ギゼーも後を追った。
「……そういえば、もうリング『ちゃん』て言えないのかな」
という、いささかどうでもいいことを考えながらではあったが。
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