PC:リーデル ライン チップ
NPC:ローガン
場所:ソフィニア(アスクレピオス本社)
___________________________________
「よく来てくれましたね」
製薬会社アスクレピオスの社長ディアン・ローガンは、部屋に入ってきた俺を
にこやかな笑顔で迎えた。やや白髪の混じった壮年の容貌は柔和で、その筋で
は梟雄として名を馳せる男としては驚くほど穏やかな物腰だ。だが、口元に浮
かべた笑みは作り物めいており、瑪瑙色の瞳はどこか昏く、底が知れない。
「まあ、掛けてください。今、秘書がコーヒーを持ってきます」
俺はローガン氏の指差した革張りのソファーに視線を向けた。そこには、す
でに二人の先客がいた。窓側に座った常に笑顔を浮かべているような白に近い
銀灰髪の男、もう一人はどこか緊張の表情を浮かべた戦士風の青年。
「ああ、彼らも私が同じ目的で雇った人たちですよ。こちらの窓側の青年がラ
イン・トェイブさん、そしてこちらがチップリード・ラクフェールさん。報酬
は山分けではなく人数分払いますので、協力を忌避しなくても結構ですよ」
俺はうなずくと、上座にローガンが座るのを確認してから、ソファーの一角
に腰を下ろした。
「さて、では早速仕事の話に移らせてもらいます」
ローガン氏は紙袋に入った資料をテーブル上に広げた。
「皆さんは事前に大まかな話を聞いていると思いますが、あなた方にはある誘
拐犯の追跡をお願いしたい」
ローガン氏が示したのは一枚の写真だった。まだ若い男女が二人写ってい
る。二人ともまだ若い。年上に見える女の方も、おそらく20歳に届いていな
いだろう。
よく似通った容姿を見る限り、姉弟のようだ。
「攫われたのは、ここに写っている二人――リーズ・エルダートとラーズ・エ
ルダート。我が社の新薬開発研究所に入院していた患者です」
「新薬開発研究所?」
首を傾げたのは、戦士風の青年――チップリード・ラクフェールだ。
「文字通り、新薬を開発すべく5年前に作られた研究所です。うちの社員の間
では、初代所長の名をとって『グレゴール研究所』と呼ばれています」
「そこの患者ということは、この姉弟は何かの病気だったんですか?」
「はい――ラクフェールさんは、『遺伝子』というものをご存知ですか?」
逆に聞き返され、答えたのは反対側に座るライン・トェイブだった。
「確か、人の身体の中に『人間の設計図』があるとかいう話ですか?」
「大まかな認識はそれで構いません。人を人たらしめているもの。存在の決定
因子。少しロマンチックな科学者は神の設計図とも呼びますがね――グレゴー
ル研究所では、この遺伝子と、そして遺伝子の欠陥から来る様々な遺伝病の治
療法を研究していました」
「すると、この二人にも何か遺伝子的な欠陥が?」
「はい、私たちは『月光病』と呼んでいました」
「月光病……ですか」
「はい、ある一定の周波数の光線――この姉弟の場合は月の光ですね――を視
神経が捉えると全神経が過剰反応を起こし、脳内で一種の興奮物質が異常分泌
される状態に陥ります。つまり、まるで人が変わったように凶暴化するので
す。さながら、伝説上の人狼のように。実際、中世期にはこの遺伝病が原因で
人狼だと勘違いされ、迫害されたケースも少なくないようです」
ラインが粛然と頷いたところで、俺は口を挟んだ。
「……それで、犯人の目星は?」
「すでに判明しています」
と、ローガン氏はもう二枚、新たな写真を差し出した。年齢は20代半ばら
しい若い男と壮年の男性の写真だ。
二人とも生真面目さそうな容貌をしており、パッと見た感じでは誘拐犯という
単語から程遠い。だが、人物の容姿と中身が一致しないことなど、この稼業に
ついてから無数にあったことだ。
「若い男はケヴィン・ローグ。グレゴール研究所では月光病治療の第一人者
で、エルダート姉弟の治療にあたっていた男です。もう一人は、グレゴール研
究所第3研究室室長のゼリッグ・ベルナール」
「この二人が姉弟を攫う理由は?」
俺の質問に、ローガンは首を傾げてみせた。
「さあ、誘拐犯の気持ちなど私には分かりかねますが――おそらく、月光病の
治療薬の独占を狙っているのでしょう。実際、ケヴィン・ローグは研究資料を
洗いざらい持ち出していますしね。姉弟は生きたサンプルというわけです」
「それは違うな」
俺は即座に首を振った。
「遺伝子の研究なんて大層なものは、ちょっとやそっとの施設できるもんじゃ
ない。ただの一研究員でしかなかった二人が、一体どこで治療薬を作るってい
うんだ?」
それなりに核心を突いたつもりだったが、ローガン氏の口元に浮かべた笑み
はいささかも揺らぎはしなかった。
「ふふ、『ただの研究員』ですか。たしかにゼリッグ・ベルナールについては
その単語もあてはまります。が、ケヴィン・ローグは違いますよ。何といって
も彼はデューロンのローグ家の次期当主ですからね」
それは俺も予想していなかった答えだった。デューロンのローグ家といえ
ば、元々はとある王家の宮廷医師を務めていた名家の一族で、数多くの優秀な
医者を世に輩出している。また、医療の世界においては最大の派閥を持つ一族
としても知られており、ローグ家資本の製薬会社『エリクサー』は、このアス
クレピオスに匹敵する規模を持つ。
「ケヴィン・ローグがローグ家の次期当主……だが、ならばなぜ彼はエリクサ
ーではなく、アスクレピオスに?」
「本人は経営方針の違いから父と諍いとなり、家を勘当されて当主の座は弟が
継ぐことになった、と言っていたそうですが……おそらく今の状況から察する
に、それも嘘でしょうね。そう言ってこちらの研究を盗む機会を窺っていたの
かもしれません」
「――となると、ケヴィン達の目的地は……」
俺はテーブルに広げられた世界地図の一点を指で示した。
「デューロンのエリクサー本社、か」
NPC:ローガン
場所:ソフィニア(アスクレピオス本社)
___________________________________
「よく来てくれましたね」
製薬会社アスクレピオスの社長ディアン・ローガンは、部屋に入ってきた俺を
にこやかな笑顔で迎えた。やや白髪の混じった壮年の容貌は柔和で、その筋で
は梟雄として名を馳せる男としては驚くほど穏やかな物腰だ。だが、口元に浮
かべた笑みは作り物めいており、瑪瑙色の瞳はどこか昏く、底が知れない。
「まあ、掛けてください。今、秘書がコーヒーを持ってきます」
俺はローガン氏の指差した革張りのソファーに視線を向けた。そこには、す
でに二人の先客がいた。窓側に座った常に笑顔を浮かべているような白に近い
銀灰髪の男、もう一人はどこか緊張の表情を浮かべた戦士風の青年。
「ああ、彼らも私が同じ目的で雇った人たちですよ。こちらの窓側の青年がラ
イン・トェイブさん、そしてこちらがチップリード・ラクフェールさん。報酬
は山分けではなく人数分払いますので、協力を忌避しなくても結構ですよ」
俺はうなずくと、上座にローガンが座るのを確認してから、ソファーの一角
に腰を下ろした。
「さて、では早速仕事の話に移らせてもらいます」
ローガン氏は紙袋に入った資料をテーブル上に広げた。
「皆さんは事前に大まかな話を聞いていると思いますが、あなた方にはある誘
拐犯の追跡をお願いしたい」
ローガン氏が示したのは一枚の写真だった。まだ若い男女が二人写ってい
る。二人ともまだ若い。年上に見える女の方も、おそらく20歳に届いていな
いだろう。
よく似通った容姿を見る限り、姉弟のようだ。
「攫われたのは、ここに写っている二人――リーズ・エルダートとラーズ・エ
ルダート。我が社の新薬開発研究所に入院していた患者です」
「新薬開発研究所?」
首を傾げたのは、戦士風の青年――チップリード・ラクフェールだ。
「文字通り、新薬を開発すべく5年前に作られた研究所です。うちの社員の間
では、初代所長の名をとって『グレゴール研究所』と呼ばれています」
「そこの患者ということは、この姉弟は何かの病気だったんですか?」
「はい――ラクフェールさんは、『遺伝子』というものをご存知ですか?」
逆に聞き返され、答えたのは反対側に座るライン・トェイブだった。
「確か、人の身体の中に『人間の設計図』があるとかいう話ですか?」
「大まかな認識はそれで構いません。人を人たらしめているもの。存在の決定
因子。少しロマンチックな科学者は神の設計図とも呼びますがね――グレゴー
ル研究所では、この遺伝子と、そして遺伝子の欠陥から来る様々な遺伝病の治
療法を研究していました」
「すると、この二人にも何か遺伝子的な欠陥が?」
「はい、私たちは『月光病』と呼んでいました」
「月光病……ですか」
「はい、ある一定の周波数の光線――この姉弟の場合は月の光ですね――を視
神経が捉えると全神経が過剰反応を起こし、脳内で一種の興奮物質が異常分泌
される状態に陥ります。つまり、まるで人が変わったように凶暴化するので
す。さながら、伝説上の人狼のように。実際、中世期にはこの遺伝病が原因で
人狼だと勘違いされ、迫害されたケースも少なくないようです」
ラインが粛然と頷いたところで、俺は口を挟んだ。
「……それで、犯人の目星は?」
「すでに判明しています」
と、ローガン氏はもう二枚、新たな写真を差し出した。年齢は20代半ばら
しい若い男と壮年の男性の写真だ。
二人とも生真面目さそうな容貌をしており、パッと見た感じでは誘拐犯という
単語から程遠い。だが、人物の容姿と中身が一致しないことなど、この稼業に
ついてから無数にあったことだ。
「若い男はケヴィン・ローグ。グレゴール研究所では月光病治療の第一人者
で、エルダート姉弟の治療にあたっていた男です。もう一人は、グレゴール研
究所第3研究室室長のゼリッグ・ベルナール」
「この二人が姉弟を攫う理由は?」
俺の質問に、ローガンは首を傾げてみせた。
「さあ、誘拐犯の気持ちなど私には分かりかねますが――おそらく、月光病の
治療薬の独占を狙っているのでしょう。実際、ケヴィン・ローグは研究資料を
洗いざらい持ち出していますしね。姉弟は生きたサンプルというわけです」
「それは違うな」
俺は即座に首を振った。
「遺伝子の研究なんて大層なものは、ちょっとやそっとの施設できるもんじゃ
ない。ただの一研究員でしかなかった二人が、一体どこで治療薬を作るってい
うんだ?」
それなりに核心を突いたつもりだったが、ローガン氏の口元に浮かべた笑み
はいささかも揺らぎはしなかった。
「ふふ、『ただの研究員』ですか。たしかにゼリッグ・ベルナールについては
その単語もあてはまります。が、ケヴィン・ローグは違いますよ。何といって
も彼はデューロンのローグ家の次期当主ですからね」
それは俺も予想していなかった答えだった。デューロンのローグ家といえ
ば、元々はとある王家の宮廷医師を務めていた名家の一族で、数多くの優秀な
医者を世に輩出している。また、医療の世界においては最大の派閥を持つ一族
としても知られており、ローグ家資本の製薬会社『エリクサー』は、このアス
クレピオスに匹敵する規模を持つ。
「ケヴィン・ローグがローグ家の次期当主……だが、ならばなぜ彼はエリクサ
ーではなく、アスクレピオスに?」
「本人は経営方針の違いから父と諍いとなり、家を勘当されて当主の座は弟が
継ぐことになった、と言っていたそうですが……おそらく今の状況から察する
に、それも嘘でしょうね。そう言ってこちらの研究を盗む機会を窺っていたの
かもしれません」
「――となると、ケヴィン達の目的地は……」
俺はテーブルに広げられた世界地図の一点を指で示した。
「デューロンのエリクサー本社、か」
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PC:リーデル ライン チップ
NPC:ローガン
場所:ソフィニア(酒場)
___________________________________
どうしてこんな事になったのだろうか…? リーデルはため息を吐きながら考
えた。
辺りには散乱した酒瓶と今日知り合った奴らの寝相。むせ返るようなアルコー
ルの匂いを嗅ぎながら、リーデルは今日一日を振り返った。
事の起こりは三時間前の話だった。アスクレピオスの会社を出た三人。
「とりあえず作戦会議がてらに酒場にでも行きませんか?」
というラインの話に乗ったのが、そもそもの間違いだったのかもしれな
い…。最初の一時間はまともだった。デューロンのエリクサー本社に向かう
事。そして旅の用意もあるのでソフィニアに一泊して、次の日に必需品を揃え
る事。
「じゃぁ大体決まったことですし、軽く食事でもとりましょう。」
そうラインは言ってボーイを呼んだ。
「これとこのお酒をボトルで下さい」
軽く食事といっておいていきなり酒を頼む奴も始めて見た、しかもボトル
で。
「んじゃぁ、俺はここから…ここまで一個ずつ持ってきて。」
軽く食事といったのに店のメニューの3分の1を頼む奴も始めて見た。
「あ、大盛りで!」
しかも大盛りで。
「軽い食事か…?」
言わずにはいられなくなってリーデルは言ってしまう。
「はい、お酒は百薬の長ですから!」
「腹が減っては戦は出来ぬっていうだろ!?」
………。
「そうか…」
絶対おかしいと思いながらも運ばれてくる酒と食事に軽く手をつける。
そして問題はその一時間後。まずラインがよった調子に12皿目(大盛り)を
平らげたチップに酒を飲ませたことから始まった…。
「俺…、ずっとついてないんだ…。仕事貰っても八百屋の手伝いとか…、迷子
の猫の探索とか…。朝は犬の糞を踏むし…、昼はマンホールの穴に落ちる
し…。夜は寝込みを野党に襲われるし。お金が無いからご飯食べられない
し…。」
しまった、こいつ泣き上戸か…。
「私もついてないですよ…。三食全て水とか…。」
しまった、こいつはつられ酒か…。
自分達の不幸を話す二人を見て、酔うしかこの場を打開できないと悟ったリ
ーデスは、やたらアルコールの強い酒を無理にあおり早めに酔う事に決めた。
そして現在に至る…。マスターに起こされたリーデルは、どうしたものかと
ため息を吐いていた。
幸いだったのは、酒場の2階が宿になっていた事。不幸だったのは、食事代と
宿代を払ったら旅費として貰ったお金が3分の2になってい
た事…。
重い二人をマスターに手伝ってもらいながら2階へとあがる。疲れとアルコ
ールが抜け切ってないせいか、二人に怒る気も起きず。落ちるかのようにベッ
ドの中に沈み込んだ…。
NPC:ローガン
場所:ソフィニア(酒場)
___________________________________
どうしてこんな事になったのだろうか…? リーデルはため息を吐きながら考
えた。
辺りには散乱した酒瓶と今日知り合った奴らの寝相。むせ返るようなアルコー
ルの匂いを嗅ぎながら、リーデルは今日一日を振り返った。
事の起こりは三時間前の話だった。アスクレピオスの会社を出た三人。
「とりあえず作戦会議がてらに酒場にでも行きませんか?」
というラインの話に乗ったのが、そもそもの間違いだったのかもしれな
い…。最初の一時間はまともだった。デューロンのエリクサー本社に向かう
事。そして旅の用意もあるのでソフィニアに一泊して、次の日に必需品を揃え
る事。
「じゃぁ大体決まったことですし、軽く食事でもとりましょう。」
そうラインは言ってボーイを呼んだ。
「これとこのお酒をボトルで下さい」
軽く食事といっておいていきなり酒を頼む奴も始めて見た、しかもボトル
で。
「んじゃぁ、俺はここから…ここまで一個ずつ持ってきて。」
軽く食事といったのに店のメニューの3分の1を頼む奴も始めて見た。
「あ、大盛りで!」
しかも大盛りで。
「軽い食事か…?」
言わずにはいられなくなってリーデルは言ってしまう。
「はい、お酒は百薬の長ですから!」
「腹が減っては戦は出来ぬっていうだろ!?」
………。
「そうか…」
絶対おかしいと思いながらも運ばれてくる酒と食事に軽く手をつける。
そして問題はその一時間後。まずラインがよった調子に12皿目(大盛り)を
平らげたチップに酒を飲ませたことから始まった…。
「俺…、ずっとついてないんだ…。仕事貰っても八百屋の手伝いとか…、迷子
の猫の探索とか…。朝は犬の糞を踏むし…、昼はマンホールの穴に落ちる
し…。夜は寝込みを野党に襲われるし。お金が無いからご飯食べられない
し…。」
しまった、こいつ泣き上戸か…。
「私もついてないですよ…。三食全て水とか…。」
しまった、こいつはつられ酒か…。
自分達の不幸を話す二人を見て、酔うしかこの場を打開できないと悟ったリ
ーデスは、やたらアルコールの強い酒を無理にあおり早めに酔う事に決めた。
そして現在に至る…。マスターに起こされたリーデルは、どうしたものかと
ため息を吐いていた。
幸いだったのは、酒場の2階が宿になっていた事。不幸だったのは、食事代と
宿代を払ったら旅費として貰ったお金が3分の2になってい
た事…。
重い二人をマスターに手伝ってもらいながら2階へとあがる。疲れとアルコ
ールが抜け切ってないせいか、二人に怒る気も起きず。落ちるかのようにベッ
ドの中に沈み込んだ…。
PC:チップリード、ライン、リーゼル
NPC:箭霧集団、漸黄(幹部)
場所:ソフィニアの宿屋、その周辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――
月の輝く深夜、ふとしたときに俺は目覚めた。
辺りを見ると狭い部屋に安っぽいベット・・・ここは宿屋のようだ。
二階の窓から射す月の光は俺を暖かく包んでくれているはずなのに。
目覚めたとき俺はこの感情を抑え切れなかった。
「ああ、頭が痛い・・・。気持ちが悪い・・・」
なんだか数時間前の記憶が曖昧だ・・・。完全に二日酔いの症状である。
自分が今置かれている状況をもう一度考えてみよう・・・。
まず、俺はチョロさんに依頼を受けた。依頼内容はとある人物のサポート、集
合場所はクーロンだった。俺がクーロンに着くまでの間に起きた出来事は思い
出したくない・・・苦い思い出だ。
そしてクーロンでの集合場所、酒場の裏路地で俺を待っていたのは・・・依頼者と
思われる人物の死体だった。
俺はただならぬ雰囲気を感じたが、依頼者の死体を調べた。すると「ミスリル
社」がこの依頼に関わっていることが分かった。どうやらこの依頼者も俺を
「ミスリル社」に送り込むつもりだったらしい。
そして俺は依頼者の死体を弔ってからミスリル社に向かった・・・。
まあミスリルの社長が自らおいでになって依頼の説明をしていたのは驚きだっ
た。
依頼の内容も驚きだったが・・・。正直これはすでにランクAの部類だ。それなの
に俺のランクはE・・・。間違いなくこれはギルドのミスだな。チョロさんめ・・・何
やってんだか・・・。
まあ、この依頼を受けていたのは俺だけではないのがせめてもの救いか・・・。特
にあのリーゼルとかいうやつはただならぬ雰囲気を持っていたな。持っている
獲物もまた大きいし・・・しかも酒豪だったとは・・・。ラインっていうやつもなか
なかの実力を持っているだろうし、恐らく俺らよりも常識人だろう。まあ俺が
役立たずでも何とかなるだろう・・・。もしかしたら“あの人”が来るかもしれな
いし、今はこの状況を保つのが優先だな。
「しかし、自棄酒しすぎた・・・。水でももらって気分を落ち着かせよう」
俺はベットから起き上がってドアに向かった・・・向かおうとしたのだが、何かが
おかしい・・・。
そう、誰にでもあるだろう?虫の知らせってやつが、俺の虫はいつも厄災を運
ぶ虫なのだ。
この気分は二日酔いのせいか?いや、違う。この感覚は・・・・・・“あの人”に訓
練と称して行われた“俺”がターゲットのハンティングに似ている・・・つまり!
「俺は狙われている!?」
とっさに伏せる俺。
恐らく窓際は危険だろう・・・。相手は飛び道具を使う相手か?それともドアの向
こうにはもう・・・。
俺はベッドの隣においてある装備をすばやく身につけた。俺の武器・・・“あの
人”から教わった中でも短剣が一番使いやすかった。短剣といっても一種類で
はない。多種多様の短剣が俺の服には巧妙に隠してある、その数13本。服の
左右にそれぞれ5本ずつ、そして足に1本ずつ、最後に俺が腰に下げている少
し長めの短剣が俺の装備一式だ。
俺は長剣を抜き、そっと窓に近づく・・・。窓の端からそっと覗くが周りには怪し
い人物はおろか、人すら見当たらない。
「俺の勘違い、か・・・まだ酒が残ってるのかなぁ・・・」
俺は剣を鞘にしまいドアに再度向かった・・・その瞬間。
窓ガラスが割れ、ガラスが俺の頬をかすりながら矢がドアの真ん中に矢が突き
刺さっていた・・・。
「う、うそ、だろ?」
しかし頬を流れる俺の血がそれを否定していた。
俺はとっさにドアから飛び出た。ここにいてはまずい!
ドアを出て廊下へ、そして俺は力の限り叫んだ。
「うああぁぁぁぁーーーーーー!!」
まずドアを蹴り破って出てきたのはリーゼルだった。どうやら二日酔いの兆候
は見られない、相当なタフガイ野郎だな・・・。頼むからその持っているでかい獲
物で俺とかをなぎ払わないでくれよ・・・。
次に遅れて出てきたのはラインだった。まだ寝ぼけた様子で、襲撃に驚いたと
いうより、安眠を邪魔されて怒っているようにも思える表情だ。それでも棍棒
を持ってるのは長年の技なのか?だからそんな目で俺を見るな・・・頼むから。
「「一体どうした!!」」
見事にハモっている、意思の疎通はばっちりだな。
「どうしたもこうしたも・・・たった今窓から狙撃されたんだ!」
「な、なんだって!?」
驚いて返事をしたのはラインだった。俺並に慌てているな・・・。
「やはり、素直には通してくれないか・・・」
落ち着いて返事をしたのはリーゼルだった。こっちは経験慣れしてるのか?
それはそれで嫌な生活だなよな・・・。ああはなりたくない・・・。
「と、とにかく!すぐにここから出な・・・あれ?」
今になって気づいた。この騒ぎの中、ドアから出てきたのは俺ら三人だけ。他
の宿泊者は一体どうしたんだ・・・?
俺のその疑問を悟ったのか、リーゼルが口を開いた。
「気づいたか?俺も不審に思っていた。この場合、経験から言うと次の展開
は・・・・・・」
「て、展開は・・・?」
俺が恐る恐る聞いてみる。
「パーティ(乱戦)だな!!」
まるでその掛け声を待っていたかのように次々とドアから黒ずくめの集団が現
れた。
1人、2人、3人・・・・10人もいる・・・。
その上、俺達は宿屋の角部屋に泊まっていた。俺達の背後は強固の壁、前方に
は黒ずくめの集団、そして奴らは懐から次々と奇妙な形の獲物を取り出した。
「暗器・・・か」
俺は一人つぶやいた。“あの人”との訓練で暗器の使い方も習ったから俺はそ
の方面にいろいろと知識がある。恐らく奴らの武器には・・・・・・。
「気をつけろ、奴らの武器には毒が塗ってある可能性が高い。かすりでもした
ら・・・やばいぞ」
「そうか・・・なら、一掃するだけだな。喰らいな!バルバルス!!」
リーゼルの篭手から何か弾けるような音がすると、彼の台詞とともに彼の持っ
ていた剣から灼熱の炎が出現した。
「「なっ!?」」
見事に俺とラインの台詞がかぶった。まあ、無理もないだろう。いきなり剣か
ら炎が沸いて出てきたんだから・・・。
もっと驚いたのは前方の敵だろう、いきなり灼熱の炎に自分たちが焼かれるの
だから。
だがさすがプロ、とっさに反応したやつはドアの向こうに引き返した者もい
た。まあ極少数であるが・・・。
この戦闘で10人いた敵は半分に減っていた。なんていう戦闘力・・・むちゃくち
ゃだ。というかこの有様はさすがにまずいような・・・店の主人もびっくりするだ
ろうなぁ・・・。
「よし、この隙に逃げるぞ!弁償なんてしたくないからな!」
そう言ってリーゼルは走り出した。炎に向かって。
「ふう、なんでこんなことに・・・」
そう言いながらラインも共に走っていく・・・。
2人は炎をもろともせずに走り抜けて行った。超人か?あいつら・・・。
「・・・・・・・・え?」
そして1人取り残された俺・・・。
「逃がすな!!」
敵の怒号が響く。それに呼応して3人が彼らを追っていった。
目の前に立ちはだかる2人の黒ずくめ・・・・。もしかして、俺ピンチ・・・かな?
「ほう、始まったか・・・」
襲撃の場所となる宿から少しはなれた木の上に男は立っていた。
男は宿を襲った集団と同じ格好をしていたが、その漂わせる気迫はまったく違
うものだった。
「ほう、2人逃げたか・・・。その中でもあの刀を持ってる輩、なかなか出来る
な。部下では少々荷が重いか・・・」
そう言うと男は木から飛び降りた。その高さはゆうに4~5mはある。しかし
男は体を空中で捻り、音もなく着地した。その動きはとある国に存在したと言
い伝わる忍者のようである。
「我ら箭霧からは逃げられん。漸黄・・・参る!」
そして男は風の如く走り出した・・・逃げたリーゼルたちに向かって・・・。
NPC:箭霧集団、漸黄(幹部)
場所:ソフィニアの宿屋、その周辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
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月の輝く深夜、ふとしたときに俺は目覚めた。
辺りを見ると狭い部屋に安っぽいベット・・・ここは宿屋のようだ。
二階の窓から射す月の光は俺を暖かく包んでくれているはずなのに。
目覚めたとき俺はこの感情を抑え切れなかった。
「ああ、頭が痛い・・・。気持ちが悪い・・・」
なんだか数時間前の記憶が曖昧だ・・・。完全に二日酔いの症状である。
自分が今置かれている状況をもう一度考えてみよう・・・。
まず、俺はチョロさんに依頼を受けた。依頼内容はとある人物のサポート、集
合場所はクーロンだった。俺がクーロンに着くまでの間に起きた出来事は思い
出したくない・・・苦い思い出だ。
そしてクーロンでの集合場所、酒場の裏路地で俺を待っていたのは・・・依頼者と
思われる人物の死体だった。
俺はただならぬ雰囲気を感じたが、依頼者の死体を調べた。すると「ミスリル
社」がこの依頼に関わっていることが分かった。どうやらこの依頼者も俺を
「ミスリル社」に送り込むつもりだったらしい。
そして俺は依頼者の死体を弔ってからミスリル社に向かった・・・。
まあミスリルの社長が自らおいでになって依頼の説明をしていたのは驚きだっ
た。
依頼の内容も驚きだったが・・・。正直これはすでにランクAの部類だ。それなの
に俺のランクはE・・・。間違いなくこれはギルドのミスだな。チョロさんめ・・・何
やってんだか・・・。
まあ、この依頼を受けていたのは俺だけではないのがせめてもの救いか・・・。特
にあのリーゼルとかいうやつはただならぬ雰囲気を持っていたな。持っている
獲物もまた大きいし・・・しかも酒豪だったとは・・・。ラインっていうやつもなか
なかの実力を持っているだろうし、恐らく俺らよりも常識人だろう。まあ俺が
役立たずでも何とかなるだろう・・・。もしかしたら“あの人”が来るかもしれな
いし、今はこの状況を保つのが優先だな。
「しかし、自棄酒しすぎた・・・。水でももらって気分を落ち着かせよう」
俺はベットから起き上がってドアに向かった・・・向かおうとしたのだが、何かが
おかしい・・・。
そう、誰にでもあるだろう?虫の知らせってやつが、俺の虫はいつも厄災を運
ぶ虫なのだ。
この気分は二日酔いのせいか?いや、違う。この感覚は・・・・・・“あの人”に訓
練と称して行われた“俺”がターゲットのハンティングに似ている・・・つまり!
「俺は狙われている!?」
とっさに伏せる俺。
恐らく窓際は危険だろう・・・。相手は飛び道具を使う相手か?それともドアの向
こうにはもう・・・。
俺はベッドの隣においてある装備をすばやく身につけた。俺の武器・・・“あの
人”から教わった中でも短剣が一番使いやすかった。短剣といっても一種類で
はない。多種多様の短剣が俺の服には巧妙に隠してある、その数13本。服の
左右にそれぞれ5本ずつ、そして足に1本ずつ、最後に俺が腰に下げている少
し長めの短剣が俺の装備一式だ。
俺は長剣を抜き、そっと窓に近づく・・・。窓の端からそっと覗くが周りには怪し
い人物はおろか、人すら見当たらない。
「俺の勘違い、か・・・まだ酒が残ってるのかなぁ・・・」
俺は剣を鞘にしまいドアに再度向かった・・・その瞬間。
窓ガラスが割れ、ガラスが俺の頬をかすりながら矢がドアの真ん中に矢が突き
刺さっていた・・・。
「う、うそ、だろ?」
しかし頬を流れる俺の血がそれを否定していた。
俺はとっさにドアから飛び出た。ここにいてはまずい!
ドアを出て廊下へ、そして俺は力の限り叫んだ。
「うああぁぁぁぁーーーーーー!!」
まずドアを蹴り破って出てきたのはリーゼルだった。どうやら二日酔いの兆候
は見られない、相当なタフガイ野郎だな・・・。頼むからその持っているでかい獲
物で俺とかをなぎ払わないでくれよ・・・。
次に遅れて出てきたのはラインだった。まだ寝ぼけた様子で、襲撃に驚いたと
いうより、安眠を邪魔されて怒っているようにも思える表情だ。それでも棍棒
を持ってるのは長年の技なのか?だからそんな目で俺を見るな・・・頼むから。
「「一体どうした!!」」
見事にハモっている、意思の疎通はばっちりだな。
「どうしたもこうしたも・・・たった今窓から狙撃されたんだ!」
「な、なんだって!?」
驚いて返事をしたのはラインだった。俺並に慌てているな・・・。
「やはり、素直には通してくれないか・・・」
落ち着いて返事をしたのはリーゼルだった。こっちは経験慣れしてるのか?
それはそれで嫌な生活だなよな・・・。ああはなりたくない・・・。
「と、とにかく!すぐにここから出な・・・あれ?」
今になって気づいた。この騒ぎの中、ドアから出てきたのは俺ら三人だけ。他
の宿泊者は一体どうしたんだ・・・?
俺のその疑問を悟ったのか、リーゼルが口を開いた。
「気づいたか?俺も不審に思っていた。この場合、経験から言うと次の展開
は・・・・・・」
「て、展開は・・・?」
俺が恐る恐る聞いてみる。
「パーティ(乱戦)だな!!」
まるでその掛け声を待っていたかのように次々とドアから黒ずくめの集団が現
れた。
1人、2人、3人・・・・10人もいる・・・。
その上、俺達は宿屋の角部屋に泊まっていた。俺達の背後は強固の壁、前方に
は黒ずくめの集団、そして奴らは懐から次々と奇妙な形の獲物を取り出した。
「暗器・・・か」
俺は一人つぶやいた。“あの人”との訓練で暗器の使い方も習ったから俺はそ
の方面にいろいろと知識がある。恐らく奴らの武器には・・・・・・。
「気をつけろ、奴らの武器には毒が塗ってある可能性が高い。かすりでもした
ら・・・やばいぞ」
「そうか・・・なら、一掃するだけだな。喰らいな!バルバルス!!」
リーゼルの篭手から何か弾けるような音がすると、彼の台詞とともに彼の持っ
ていた剣から灼熱の炎が出現した。
「「なっ!?」」
見事に俺とラインの台詞がかぶった。まあ、無理もないだろう。いきなり剣か
ら炎が沸いて出てきたんだから・・・。
もっと驚いたのは前方の敵だろう、いきなり灼熱の炎に自分たちが焼かれるの
だから。
だがさすがプロ、とっさに反応したやつはドアの向こうに引き返した者もい
た。まあ極少数であるが・・・。
この戦闘で10人いた敵は半分に減っていた。なんていう戦闘力・・・むちゃくち
ゃだ。というかこの有様はさすがにまずいような・・・店の主人もびっくりするだ
ろうなぁ・・・。
「よし、この隙に逃げるぞ!弁償なんてしたくないからな!」
そう言ってリーゼルは走り出した。炎に向かって。
「ふう、なんでこんなことに・・・」
そう言いながらラインも共に走っていく・・・。
2人は炎をもろともせずに走り抜けて行った。超人か?あいつら・・・。
「・・・・・・・・え?」
そして1人取り残された俺・・・。
「逃がすな!!」
敵の怒号が響く。それに呼応して3人が彼らを追っていった。
目の前に立ちはだかる2人の黒ずくめ・・・・。もしかして、俺ピンチ・・・かな?
「ほう、始まったか・・・」
襲撃の場所となる宿から少しはなれた木の上に男は立っていた。
男は宿を襲った集団と同じ格好をしていたが、その漂わせる気迫はまったく違
うものだった。
「ほう、2人逃げたか・・・。その中でもあの刀を持ってる輩、なかなか出来る
な。部下では少々荷が重いか・・・」
そう言うと男は木から飛び降りた。その高さはゆうに4~5mはある。しかし
男は体を空中で捻り、音もなく着地した。その動きはとある国に存在したと言
い伝わる忍者のようである。
「我ら箭霧からは逃げられん。漸黄・・・参る!」
そして男は風の如く走り出した・・・逃げたリーゼルたちに向かって・・・。
PC:リーデル ライン チップ
NPC:漸黄
場所:ソフィニア
______________________________
ろくな目にあわないことは覚悟していたが、まさか初日の夜に襲撃があると
は思わなかった。半ば嘆息しながら逃げつづける俺の目の前に、黒装束の男た
ちが地を蹴りつけながら現れる。やはりこの一帯は完全に包囲されていたらし
い。
斬魔刀『羅綺のルッケバイン』の刀身の向こう側で、暗殺者の手首で何かが
閃いた。とっさに仰け反った俺のすぐ横を何かが掠めて飛んでいく。おそら
く、ばね仕掛けで小さな矢を飛ばす、「袖箭」と呼ばれる暗器だろう。ラクフ
ェールの言う通り、これもなんらかの毒が塗られていたのか、矢の突き立った
木壁にはゆるゆると黒い染みが広がっていた。
こんなものを使うヤツに遠慮などしていられない。
爆裂系錬成術式『ヴァール』を包囲網の中心に撃ち放つ。生成されたこの世
で最も危険な白色針状結晶――ヘキソーゲン爆薬の閃光が数人の男を薙ぎ払っ
た。穴の開いた包囲網に先陣を切ったトェイブが身を躍らせる。旋回した棍が
暗殺者の身体を打ち付け、それに一体どれほどの力が込められていたのか、暗
殺者はまるで冗談のように吹っ飛び、近くの民家に叩きつけられた。
一瞬、その光景に目を奪われた俺の視界の隅で、爆煙を割って銀光がきらめ
く。だが、俺の死角をカバーするように動いていたラクフェールの剣閃が、極
小の矢を数本まとめて払い飛ばしていた。さらにラクフェールの手首が翻り、
いつの間にか手にしていたスローイングダガーが暗殺者の眼窩に突き立つ。
「貸し、ひとつだな」
ニヤリと笑ったラクフェールの顔が、一瞬で凍りつく。俺が後ろ腰に差して
あったもう一振りの斬魔刀『景仰のフェルナトーレ』を投げつけたからだ。回
転しながら飛ぶ刀身はラクフェールの顔面を掠め、後ろに迫っていた暗殺者の
一人に突き立った。
「返したぞ」
ラクフェールが何かを言う前に、俺は次の術式の発動をしていた。鋼成系術
式『サブナック』――炭素フラーレン単分子製のワイヤカッターが、死の旋風
となって生き残りの暗殺者を薙ぎ払う。
「……まさかこれほど早く全滅するとはな」
心臓を鷲摑みにされるような冷たい声は背後からだった。振り向くまもな
く、俺の心臓に短剣が突き立っていた。咄嗟にピアノ線をメッシュ状に編み込
んだ防刃装甲を生成する、鋼成系術式『オズ』を発動していなかったらと思う
と、我ながらゾッとする。
「ふん、面白い術を使う……」
短剣を投げ放ったらしい人物は、覆面の奥で乾いた笑い声をもらした。全身
黒装束という出で立ちは他の暗殺者と変わらないが、その身体から発する圧力
は全くの別物だ。おそらく、幹部クラスの人間だ。
左腕には手甲を装着しており、そこに刻まれていたのは、三本の矢をデルタ
状に配置した紋章だった。その紋章を目にした途端、俺は思わずうめき声を漏
らしていた。
「箭霧……」
聞き覚えがあるのか、他の二人も思わず俺に振り返っていた。
箭霧とは、大陸に数ある暗殺者集団の中でもトップクラスに位置する『四大
凶名(マガツナ)』と称される組織のひとつだ。本来はその名の通り、弓矢を
はじめとする遠距離武器による狙撃を得意とする集団だったが、5年前に当主
の座が本流の箭霧家から傍流の芥火家に移ってからは、そのスタイルが変化
し、今では暗器専門の暗殺者という認識が強い。
他の凶名――鬼人ごとき強さを持ちながら、構成員はわずかに5名しかいな
い『刀闇』や、奇人変人妖人怪人揃いで裏社会の人間からさえ忌み嫌われる
『薙祓』、その存在さえ疑問視されている『巫覡』などに比べ、圧倒的に裏社
会での知名度は高く、組織の規模も大きい。
「貴様たちもあの姉弟を狙っているようだが………諦めるのだな」
その言葉に俺はひっかかりを覚えた。
俺はてっきり例の誘拐犯の依頼でこいつらは襲いにきたと考えたのだが……
どうやら、箭霧自身がエルダート姉弟を追っているようだ。だとすると、これ
は意図された襲撃ではなく、アスクレピオスの動向を探っていた箭霧の警戒網
に俺たちが引っかかった結果のようだ。
つまり、あの姉弟にはあの箭霧さえ動かす何かがあるということだ。おそら
く唯の遺伝病患者などではないのだろう。いよいよきな臭い仕事になってき
た。
それにしても、こんな連中の目に初日から引っかかるとは、どうやら俺たち
3人の運は全部足しても常人に及ばないらしい。
ゆらりとした足運びで暗殺者が進み出る。一応、斬魔刀を構えたが相手は暗
器使い。正攻法など使ってこないだろう。ならば、やることはひとつだ。
先手必勝。
炎熱系術式『バルバルス』を発動。アセチレンガスと100%酸素の混合ガ
スによって生み出された炎の竜は、凄まじい咆哮を上げてその顎に暗殺者を捉
えた。かに見えた。次の瞬間、炎の龍の背を突き破って黒装束が現れる。
そのままの勢いで繰り出された逆手に握った小太刀を、俺はすんでのところ
で躱した、はずだった。だが、実際には胸部に血の一文字が生まれる。血が吹
き出す寸前で、俺は黒装束の握った小太刀の正体に気づいた。鈍く輝く鋼の刃
の延長に、もうひとつ透明な刃が存在していたのだ。いわゆる偽剣の一種なの
だろう。
無論、見えにくいだけで全く見えないというわけではないのだが、高速で振
り抜かれる小太刀を視認しようとすると、どうしても鋼の刃のほうに目がいっ
てしまい、正確な間合いを計ることは極めて困難だった。
俺は吹き上がった鮮血と強烈な熱さを伴う激痛に抗うように、治癒系術式
『フェリックス』を発動。細胞の活性化による急速治癒と未分化細胞による傷
の癒着を同時進行。傷そのものは塞いだが、失しなった血液まではどうするこ
ともできず、その場に膝をついた。
さらに悪いことに、上級術式である『バルバルス』を2発、さらに『ヴァー
ル』、『サブナック』、『オズ』、『フェリックス』と立て続けに発動したせ
いで、両腕のプロテクターも兼ねた錬成手套内に収められていた計20基の呪
封子の残基はゼロになっていた。
錬成術式を拳銃に例えれば、呪封子は弾丸に相当する。つまり、これがなけ
ればいくら本人の魔力が有り余っていようが一切の術式が使えなくなる。特殊
な神経配置によって、限りなく発動時間を削り取った代償がこれだった。呪封
子を収めた呪封倉の交換時が、錬成術式士の最大の隙となるのだ。
だが、黒装束の追撃は、真横から伸びた銀光によって遮られる。突き出した
長剣を再び引き戻しながら、ラクフェールが前進。それに合わせるように黒装
束が後退したが、ラクフェールの足捌きの方が速い。再び襲いかかった長剣を
黒装束が偽剣で受け止めた。と、その刹那、偽剣にかかる圧力が消失する。
長剣を手放したラクフェールの両手には、まるで魔法のように2本のナイフ
が握られていた。長剣が重力によって地面に接するより早く、二条の剣閃が奔
る。それを黒装束は偽剣と手甲によって防いだが、安堵するには早すぎた。
挟撃の形をとったトェイブが、黒装束を背後から襲ったのだ。完全な奇襲で
あるにも関わらず、身を捻って棍の一撃を偽剣で受け止めた黒装束の体捌き
は、いっそ見事という他ない。だが、黒装束の誤算はトェイブの棍に込められ
た、あの不可思議な力だ。
暗殺者たちを容易く薙ぎ倒した棍の一撃が、偽剣ごと黒装束の右腕を砕い
た。時間差で繰り出されたラクフェールの斬撃は後方に大きく跳躍して辛くも
避けたが、その左胸には深い裂傷が刻み込まれていた。即死に繋がるような致
命傷ではないが、放っておけば命に関わるだろう。
敗色濃厚と判断したのか、黒装束は炸裂弾にも似た筒状の物体を2~3個ま
とめてこちらに向けて投げつけた。それは地面に接触した途端、凄まじい閃光
と大音響が炸裂し、さらに煙幕らしき白煙が吹き上がる。
「クソッ!!」
ラクフェールが悪態をついて追撃しようとしたが、トェイブの冷静な声がそ
れを押しとどめる。確かに、視界の効かない状態で暗殺者を追うなど無謀以外
の何者でもない。
と、俺が視認できたのはそれまでだった。どうやらご多分に漏れず、あの偽
剣にも毒が仕込まれていたらしい。震える指先で新たな10連装型呪封倉を手
套に装填しつつ、俺は暗くなりかけた意識の隅で、解毒用の術式をいくつか思
い出していた。
NPC:漸黄
場所:ソフィニア
______________________________
ろくな目にあわないことは覚悟していたが、まさか初日の夜に襲撃があると
は思わなかった。半ば嘆息しながら逃げつづける俺の目の前に、黒装束の男た
ちが地を蹴りつけながら現れる。やはりこの一帯は完全に包囲されていたらし
い。
斬魔刀『羅綺のルッケバイン』の刀身の向こう側で、暗殺者の手首で何かが
閃いた。とっさに仰け反った俺のすぐ横を何かが掠めて飛んでいく。おそら
く、ばね仕掛けで小さな矢を飛ばす、「袖箭」と呼ばれる暗器だろう。ラクフ
ェールの言う通り、これもなんらかの毒が塗られていたのか、矢の突き立った
木壁にはゆるゆると黒い染みが広がっていた。
こんなものを使うヤツに遠慮などしていられない。
爆裂系錬成術式『ヴァール』を包囲網の中心に撃ち放つ。生成されたこの世
で最も危険な白色針状結晶――ヘキソーゲン爆薬の閃光が数人の男を薙ぎ払っ
た。穴の開いた包囲網に先陣を切ったトェイブが身を躍らせる。旋回した棍が
暗殺者の身体を打ち付け、それに一体どれほどの力が込められていたのか、暗
殺者はまるで冗談のように吹っ飛び、近くの民家に叩きつけられた。
一瞬、その光景に目を奪われた俺の視界の隅で、爆煙を割って銀光がきらめ
く。だが、俺の死角をカバーするように動いていたラクフェールの剣閃が、極
小の矢を数本まとめて払い飛ばしていた。さらにラクフェールの手首が翻り、
いつの間にか手にしていたスローイングダガーが暗殺者の眼窩に突き立つ。
「貸し、ひとつだな」
ニヤリと笑ったラクフェールの顔が、一瞬で凍りつく。俺が後ろ腰に差して
あったもう一振りの斬魔刀『景仰のフェルナトーレ』を投げつけたからだ。回
転しながら飛ぶ刀身はラクフェールの顔面を掠め、後ろに迫っていた暗殺者の
一人に突き立った。
「返したぞ」
ラクフェールが何かを言う前に、俺は次の術式の発動をしていた。鋼成系術
式『サブナック』――炭素フラーレン単分子製のワイヤカッターが、死の旋風
となって生き残りの暗殺者を薙ぎ払う。
「……まさかこれほど早く全滅するとはな」
心臓を鷲摑みにされるような冷たい声は背後からだった。振り向くまもな
く、俺の心臓に短剣が突き立っていた。咄嗟にピアノ線をメッシュ状に編み込
んだ防刃装甲を生成する、鋼成系術式『オズ』を発動していなかったらと思う
と、我ながらゾッとする。
「ふん、面白い術を使う……」
短剣を投げ放ったらしい人物は、覆面の奥で乾いた笑い声をもらした。全身
黒装束という出で立ちは他の暗殺者と変わらないが、その身体から発する圧力
は全くの別物だ。おそらく、幹部クラスの人間だ。
左腕には手甲を装着しており、そこに刻まれていたのは、三本の矢をデルタ
状に配置した紋章だった。その紋章を目にした途端、俺は思わずうめき声を漏
らしていた。
「箭霧……」
聞き覚えがあるのか、他の二人も思わず俺に振り返っていた。
箭霧とは、大陸に数ある暗殺者集団の中でもトップクラスに位置する『四大
凶名(マガツナ)』と称される組織のひとつだ。本来はその名の通り、弓矢を
はじめとする遠距離武器による狙撃を得意とする集団だったが、5年前に当主
の座が本流の箭霧家から傍流の芥火家に移ってからは、そのスタイルが変化
し、今では暗器専門の暗殺者という認識が強い。
他の凶名――鬼人ごとき強さを持ちながら、構成員はわずかに5名しかいな
い『刀闇』や、奇人変人妖人怪人揃いで裏社会の人間からさえ忌み嫌われる
『薙祓』、その存在さえ疑問視されている『巫覡』などに比べ、圧倒的に裏社
会での知名度は高く、組織の規模も大きい。
「貴様たちもあの姉弟を狙っているようだが………諦めるのだな」
その言葉に俺はひっかかりを覚えた。
俺はてっきり例の誘拐犯の依頼でこいつらは襲いにきたと考えたのだが……
どうやら、箭霧自身がエルダート姉弟を追っているようだ。だとすると、これ
は意図された襲撃ではなく、アスクレピオスの動向を探っていた箭霧の警戒網
に俺たちが引っかかった結果のようだ。
つまり、あの姉弟にはあの箭霧さえ動かす何かがあるということだ。おそら
く唯の遺伝病患者などではないのだろう。いよいよきな臭い仕事になってき
た。
それにしても、こんな連中の目に初日から引っかかるとは、どうやら俺たち
3人の運は全部足しても常人に及ばないらしい。
ゆらりとした足運びで暗殺者が進み出る。一応、斬魔刀を構えたが相手は暗
器使い。正攻法など使ってこないだろう。ならば、やることはひとつだ。
先手必勝。
炎熱系術式『バルバルス』を発動。アセチレンガスと100%酸素の混合ガ
スによって生み出された炎の竜は、凄まじい咆哮を上げてその顎に暗殺者を捉
えた。かに見えた。次の瞬間、炎の龍の背を突き破って黒装束が現れる。
そのままの勢いで繰り出された逆手に握った小太刀を、俺はすんでのところ
で躱した、はずだった。だが、実際には胸部に血の一文字が生まれる。血が吹
き出す寸前で、俺は黒装束の握った小太刀の正体に気づいた。鈍く輝く鋼の刃
の延長に、もうひとつ透明な刃が存在していたのだ。いわゆる偽剣の一種なの
だろう。
無論、見えにくいだけで全く見えないというわけではないのだが、高速で振
り抜かれる小太刀を視認しようとすると、どうしても鋼の刃のほうに目がいっ
てしまい、正確な間合いを計ることは極めて困難だった。
俺は吹き上がった鮮血と強烈な熱さを伴う激痛に抗うように、治癒系術式
『フェリックス』を発動。細胞の活性化による急速治癒と未分化細胞による傷
の癒着を同時進行。傷そのものは塞いだが、失しなった血液まではどうするこ
ともできず、その場に膝をついた。
さらに悪いことに、上級術式である『バルバルス』を2発、さらに『ヴァー
ル』、『サブナック』、『オズ』、『フェリックス』と立て続けに発動したせ
いで、両腕のプロテクターも兼ねた錬成手套内に収められていた計20基の呪
封子の残基はゼロになっていた。
錬成術式を拳銃に例えれば、呪封子は弾丸に相当する。つまり、これがなけ
ればいくら本人の魔力が有り余っていようが一切の術式が使えなくなる。特殊
な神経配置によって、限りなく発動時間を削り取った代償がこれだった。呪封
子を収めた呪封倉の交換時が、錬成術式士の最大の隙となるのだ。
だが、黒装束の追撃は、真横から伸びた銀光によって遮られる。突き出した
長剣を再び引き戻しながら、ラクフェールが前進。それに合わせるように黒装
束が後退したが、ラクフェールの足捌きの方が速い。再び襲いかかった長剣を
黒装束が偽剣で受け止めた。と、その刹那、偽剣にかかる圧力が消失する。
長剣を手放したラクフェールの両手には、まるで魔法のように2本のナイフ
が握られていた。長剣が重力によって地面に接するより早く、二条の剣閃が奔
る。それを黒装束は偽剣と手甲によって防いだが、安堵するには早すぎた。
挟撃の形をとったトェイブが、黒装束を背後から襲ったのだ。完全な奇襲で
あるにも関わらず、身を捻って棍の一撃を偽剣で受け止めた黒装束の体捌き
は、いっそ見事という他ない。だが、黒装束の誤算はトェイブの棍に込められ
た、あの不可思議な力だ。
暗殺者たちを容易く薙ぎ倒した棍の一撃が、偽剣ごと黒装束の右腕を砕い
た。時間差で繰り出されたラクフェールの斬撃は後方に大きく跳躍して辛くも
避けたが、その左胸には深い裂傷が刻み込まれていた。即死に繋がるような致
命傷ではないが、放っておけば命に関わるだろう。
敗色濃厚と判断したのか、黒装束は炸裂弾にも似た筒状の物体を2~3個ま
とめてこちらに向けて投げつけた。それは地面に接触した途端、凄まじい閃光
と大音響が炸裂し、さらに煙幕らしき白煙が吹き上がる。
「クソッ!!」
ラクフェールが悪態をついて追撃しようとしたが、トェイブの冷静な声がそ
れを押しとどめる。確かに、視界の効かない状態で暗殺者を追うなど無謀以外
の何者でもない。
と、俺が視認できたのはそれまでだった。どうやらご多分に漏れず、あの偽
剣にも毒が仕込まれていたらしい。震える指先で新たな10連装型呪封倉を手
套に装填しつつ、俺は暗くなりかけた意識の隅で、解毒用の術式をいくつか思
い出していた。
PC:リーデル ライン チップ
NPC:無し
場所:ソフィニア近郊
____________________________
運と力は、切っても切れない関係にある。
運が回ってきたら、やり遂げる力がいる。
また、運がつくまで待つ力も必要だ。
焚き火の周りに、男が三人…。
ソフィニアを旅だったリーデル一行は、夜と言う事もあり休みも兼ねて野宿を
する事にした。
「クソ、毒か!」
毒に侵されたリーデルに、チップが近寄る。
「どいて下さい」
すかさずラインが近寄ると傷口に、そっと手を当てる。
緑色の淡い光と共に、傷口が薄っすらと消え。
毒のせいでどす黒く変色していた皮膚が、ゆっくりと元の色に戻っていった。
「凄いな…、それはどんな術なんだ?」
面食らったかのようにチップが聞いてくる。
「軽い精霊魔法の応用です、あまり深い傷には効果がありませんが。」
傷を治したリーデルを、半壊したベットの上に乗せ。
宿主に、お詫びとアスクレピオスに請求を回すように言い。
その日はチップとラインが交代しながら夜を過ごした。
次の日旅に必要な物を揃え(食事と酒瓶が何故か多かった気がするが)、ソフ
ィニアを後にした。
デューロンまでは、少し遠く。
二三回の野宿を、交えながら一行は向かった。
三人は交代しながら野宿をし、謎の集団に備えた。
「しかしあの集団はなんだったんだ?」
チップが悪態と共に、話題を出す。
「たぶんあの紋様は箭霧の一行だろうな…。」
「あの四大凶名(まがつな)の一派の?」
リーデルの答えに、ラインが質問をする。
「そう、『鬼哭人』の刀闇家、『闇祓い』の薙祓家、『荒人神』の巫覡家、そ
して『暗殺士』の箭霧だ。箭霧は弓矢を主体とする遠距離からの狙撃が得意な
一派だったが、今は芥家の圧力によって暗器集団になってるらしい。」
「へぇー、詳しいなぁ」
チップが感嘆の言葉を漏らす。
「まぁこれ位は一般常識だろ。それよりライン…、お前に聞きたい事がある」
「はい?何ですか?」
疑問符を浮かべるライン。
「お前が使っていた棍棒はなにか仕掛けがあるのか?それともなにかの術
か?」
「あれは…、そうですね聞いた事は無いかも知れませんが精霊魔法と言う魔法
の一種です。」
「ふむ精霊魔法か…、聞いたことの無い魔法だ…。」
「でしょうね、私も今まで精霊魔法使いには私も含めて二人しか知りませ
ん。」
ラインが苦笑を浮かべながら答える。
「精霊とは一般的には精霊獣が有名でしょうね、それを操る召喚術士もまた有
名です。ですが私の使う精霊魔法はもっと根源の存在…、つまり物質に宿る精
霊その物達の力を借ります。」
ラインが説明しながら土に絵を描く。
「まぁ誓約も多いですが治癒や肉体強化、物質強化等幅広い魔法ですね。」
「後先に言っておきますが敵には使えません、誓約と言うか…、精霊と波長を
一緒にするのには最低でも2時間は一緒にいなければなりません。」
「ふむ…多種多様な能力を持っているが、誓約が多いって事か…」
チップが頷きながら地面を見る。
「ところでそれは…、何だ?」
ラインが地面に書いていたのは精霊魔法の説明でもなんでもなくただの落書き
だった。
「え…?みて分かりませんか?牛ですよー。」
そうなのだ度重なる野宿は仕様が無い…、夜は危険だし…、休息も必要だっ
た。
しかし…、しかしだ!これは誰しもが予想できなかっただろう…。
チップの性で…、もう食料が底をついた事を…。
ぐ~ギュルギュル、三人のお腹が鳴る…。
俺達は待つ力と言うものをもっとつけた方がいいのかもしれない…。
「牛食べたいな…。」
NPC:無し
場所:ソフィニア近郊
____________________________
運と力は、切っても切れない関係にある。
運が回ってきたら、やり遂げる力がいる。
また、運がつくまで待つ力も必要だ。
焚き火の周りに、男が三人…。
ソフィニアを旅だったリーデル一行は、夜と言う事もあり休みも兼ねて野宿を
する事にした。
「クソ、毒か!」
毒に侵されたリーデルに、チップが近寄る。
「どいて下さい」
すかさずラインが近寄ると傷口に、そっと手を当てる。
緑色の淡い光と共に、傷口が薄っすらと消え。
毒のせいでどす黒く変色していた皮膚が、ゆっくりと元の色に戻っていった。
「凄いな…、それはどんな術なんだ?」
面食らったかのようにチップが聞いてくる。
「軽い精霊魔法の応用です、あまり深い傷には効果がありませんが。」
傷を治したリーデルを、半壊したベットの上に乗せ。
宿主に、お詫びとアスクレピオスに請求を回すように言い。
その日はチップとラインが交代しながら夜を過ごした。
次の日旅に必要な物を揃え(食事と酒瓶が何故か多かった気がするが)、ソフ
ィニアを後にした。
デューロンまでは、少し遠く。
二三回の野宿を、交えながら一行は向かった。
三人は交代しながら野宿をし、謎の集団に備えた。
「しかしあの集団はなんだったんだ?」
チップが悪態と共に、話題を出す。
「たぶんあの紋様は箭霧の一行だろうな…。」
「あの四大凶名(まがつな)の一派の?」
リーデルの答えに、ラインが質問をする。
「そう、『鬼哭人』の刀闇家、『闇祓い』の薙祓家、『荒人神』の巫覡家、そ
して『暗殺士』の箭霧だ。箭霧は弓矢を主体とする遠距離からの狙撃が得意な
一派だったが、今は芥家の圧力によって暗器集団になってるらしい。」
「へぇー、詳しいなぁ」
チップが感嘆の言葉を漏らす。
「まぁこれ位は一般常識だろ。それよりライン…、お前に聞きたい事がある」
「はい?何ですか?」
疑問符を浮かべるライン。
「お前が使っていた棍棒はなにか仕掛けがあるのか?それともなにかの術
か?」
「あれは…、そうですね聞いた事は無いかも知れませんが精霊魔法と言う魔法
の一種です。」
「ふむ精霊魔法か…、聞いたことの無い魔法だ…。」
「でしょうね、私も今まで精霊魔法使いには私も含めて二人しか知りませ
ん。」
ラインが苦笑を浮かべながら答える。
「精霊とは一般的には精霊獣が有名でしょうね、それを操る召喚術士もまた有
名です。ですが私の使う精霊魔法はもっと根源の存在…、つまり物質に宿る精
霊その物達の力を借ります。」
ラインが説明しながら土に絵を描く。
「まぁ誓約も多いですが治癒や肉体強化、物質強化等幅広い魔法ですね。」
「後先に言っておきますが敵には使えません、誓約と言うか…、精霊と波長を
一緒にするのには最低でも2時間は一緒にいなければなりません。」
「ふむ…多種多様な能力を持っているが、誓約が多いって事か…」
チップが頷きながら地面を見る。
「ところでそれは…、何だ?」
ラインが地面に書いていたのは精霊魔法の説明でもなんでもなくただの落書き
だった。
「え…?みて分かりませんか?牛ですよー。」
そうなのだ度重なる野宿は仕様が無い…、夜は危険だし…、休息も必要だっ
た。
しかし…、しかしだ!これは誰しもが予想できなかっただろう…。
チップの性で…、もう食料が底をついた事を…。
ぐ~ギュルギュル、三人のお腹が鳴る…。
俺達は待つ力と言うものをもっとつけた方がいいのかもしれない…。
「牛食べたいな…。」