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2024/11/02 02:33 |
琥珀のカラス・50/カイ(マリムラ)
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PC:クレイ カイ 

NPC:クレア デュラン カシュー

場所:王都イスカーナ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ギルベルトへの報告を済ませると、どこからともなく香ばしい匂いがカイの鼻をく

すぐった。

 何気なく窓の外を見て納得。日は沈みかけて空を紅く染めている。



   ――くぅ



 小さく腹の虫が鳴いたのは、クレイであったかカイであったか。

 二人は顔を見合わせ、僅かに苦い笑みを浮かべた。

「そういや、メシ食ってなかったなぁ」

「腹が減っては戦もできん」

 戦――本当にそうなるのは避けたいがね、とカイは思う。

 軍を動かさねばならなくなる前に、決着を付ける。

 それは二人の共通の願いだった。







 香はしい匂いの出所は、意外なことにクレアの部屋からだった。

 この広い屋敷のこと、勿論広いテーブルと大きなシャンデリアのある食事用の広間

があるわけで、食事は普段そちらでとることになっているのだが。

「ああ、そうだっけ」

 クレイが呟く。クレアが部屋を出ないようにとのカシューの配慮なのだろう。

 小さくノックすると、クレアが満面の笑みで出迎えた。

「おかえりなさい!」

 昨日のごたごたで疲れているだろうに。

 いつもの明るさに「行儀が悪い」と注意するクレイ。しかし、彼女を守り抜こうと

決めた二人の決心は固くなるのだった。



 部屋には料理が準備されていた。

 クレアたちは先に食事を済ませていたらしく、二人分の食事である。

 カイは暖かくも味気のない食事を喉に流し込んだ。

 味気ない、というのはおかしいだろうか。でも、絶品なはずの料理も、年代物のワ

インも、どれもが食欲をそそらない。

「お話、終わったの!?」

 我慢が出来なくなったのか、クレアがわざと明るい声でクレイに話しかけてきた。

「おじいちゃんとずっと二人で遊ぶのも、飽きちゃったよー」

 椅子に座り、足をぶらぶら持て余しながらのクレアにカイは苦笑する。

 部屋の隅の別のテーブルでチェス板とにらめっこをしていたデュランが顔を上げて

こっちを見た。

「有意義な時間と言いなされ」

「だぁって『待った』が多いんだもん」

 クレアが頬を膨らます。

「大人しくしてたんだな、エライエライ」

「わー、クレイったら棒読みー」

 非難する言葉も、どこか楽しげだ。



 カイは考えていた。

 一年くらい前まではセラフィナ以外の誰かをこんな風に守ることになるとは思って

も見なかったのに、この短い期間でそれが当たり前になっている。それがイヤなので

はなく、むしろ自分を再確認させられた気分なのだ。

 そう、やはり自分には守るべき対象が必要なのだと。



 クレイとクレアのやりとりや、時々入るデュランのちょっかいを聞き流しながら、

カイは綺麗に料理を片づけていく。



 この事件が一段落したらイスカーナを去ろう。ここは自分の本来いるべき場所では

ない。

 一度決めてしまうと、もう迷いはなかった。

 相棒に言うのはもう少し先でいい。もう少しだけ、この環境に甘えるのも悪くな

い。



 カイは、グラスに残ったワインを飲み干した。

 その最後の一口の僅かな甘みに、珍しく顔をほころばせて。







 翌日。

「例のモノだ」

「助かります」

 クレイとカイがいる間はお嬢様も大人しくしているだろうと、カシューは姿を消し

ていたのだが、戻ってきたときにはちゃんとクレイに頼まれたモノを調達していた。

「早かったですね」

「急ぎなんだろう?」

 あまり休息もとっていないのだろう、カシューは欠伸をかみ殺しながら言った。

「クレアの方、頼みます」

「言われなくてもわかっているさ。お前さんたちこそ気をつけるんだぞ」

 クレイの頭をわしゃわしゃと乱暴にいじると、笑ってみせる。

「カラスの心配は無用だが、お前たちじゃなぁ」

「帰ってきますよ、まだ死ぬには早いでしょう」

 クレイも、笑った。



「じゃあ、行くから」

 クレイは面倒くさいという顔をしながら、おざなりに告げた。

「え、もう行っちゃうの?」

 折角一緒にいられるかと思ったのに、と拗ねた顔で見上げるのはクレア。

「そうじゃそうじゃ」

 クレアの後ろで口を尖らせるデュラン老に

「って、あんたは一緒に行くんだよ」

 と、クレイが脱力した。

「はて――そうじゃったかいのう?」

「そうなんです」

 クレイは肩を落として大仰に溜め息をついてみせる。

「行くか」

 カイの言葉に

「行こうか」

 クレイが伸びをして答えた。
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2006/08/23 23:50 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・51/クレイ(ひろ)
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PC: クレイ カイ 

NPC:ロイヤー マグダネル カシュー ギルベルト デュラン 

    ルキア ウルザ

場所:王都イスカーナ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 

「……ばかな、なぜ兵が集まらんのだ!」

 指して特徴と呼べるところも無い男は顔面を蒼白にしながら、

誰にとも無く独白した。

 ロイヤー家は落ちぶれたとはいえれっきとした伯爵家である。

 領地をもたないため、独自の兵力は保有してないものの、伯爵

権限で人数と部隊は限られるにしても軍を動かせるはずなのに、

どういうわけかどこに出した要請も不認されたのだ。

 それどころか、個人で雇っていた傭兵達も王宮から私兵を宮殿

から距離のある王都外周部の兵舎に下げるように指示されたのだ。

「ロイヤー殿、こちらもダメでした。」

 王宮からの使いが退出したのを確認して、入れ替わりに部屋に

入ってきたマグダネルが困惑したように報告した。

 マグダネルはロイヤーとは別に、生命の石の奪回を餌に神殿に

話しを付けに行っていたのだ。

 先日はデュランと手を組んだらしいカラスとその仲間と実際に

戦ったわけだが、なかなかに侮りがたい連中だったために、援軍

を求めたのだった。

 しかしほとんど話をする機会も得られず、結局手ぶらで帰るこ

とになったのだ。

「カラスの後ろに誰がついているにしても、私兵の実質的撤収な

んて勝手にめいれいできないはずなのに。」

 もし呼んだ兵達が物理的に何らかの妨害を受けるならまだ想定

内といえるだろう。

 だがこの有様ではまるで貴族としての権限そのものが失効して

いるようではないか。

 仮に相当上のモノが手を回したにしても、平時は査問委員会も

開かずにかってはできないはずなのだ。

(その無茶をなりふりかまずにやる者がいたにしても、神殿にま

で圧力をかけるのはサウディオ様でもないかぎり不可能。)

 おたつくロイヤーを見ているうちに落ち着いてきたのか、マグ

ダネルは状況を分析する。

 もともと私兵で十分と思っていたところに突然の移動命令。

 ならば権限を生かして「自警」目的でのイスカー軍への兵員出

向要請……の不許可。

 別口の神殿ルートもだめ。

 こんなマネ、イスカーナ国王ですらそうそうできるものではな

い。

 ならばいったい何がおきているのか……。





▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ 



「ファーミア大公が離反された。」

 窓の外を眺めながらギルベルトが口にしたのは、さすがのカシ

ューも驚かずにはいられなかった。

「大公様といえばいままで国が割れないように尽力されてた方じ

ゃないですか、そんなお人がなんでまた?」

「詳しいことまではわからんさ。サウディオの話ではディクタで

旗揚げされたリアナ様につい立って話だが……理由まではな。」

 だが、と振り返ったギルベルトは唇に笑みを浮かべていた。

「あの方はこの国でも数少ない本物の尊敬に値する貴族だった。

その方の離反は心を痛めんでもないが、私にとってはむしろあり

がたい。大公とまで呼ばれた貴族が消え、力関係は大きく変化す

る。」

「なるほど、三大公の一角くずれるとなれば、ハーネスは無視で

きませんなぁ。」

「おまけに、サウディオの豚も瑣末な事にかまける余裕はなくな

るしな。これまた不可解だが、あの豚はリアナ姫に執着していた

からな。」

 ギルベルトとてリアナ王女が「闇の姫巫女」とよばれるゆえん

はつかんでいたが、カシューに言うようなことでも無いのであえ

手底は濁した。

「つまり神殿は勝手にてをひくわけですな。」

「そういうことだ。あとは、彼ら次第。」

 今頃はロイヤー邸についているであろう若者達の姿を思い浮か

べる。

「ま、なんだかんだでツキもきてるようだし、きっとうまくいき

ますよ。」

 カシューの言葉の裏に潜む思いはギルベルトにとってはまさに

当事者としての思いでもあった。

「ああ、こんどこそはな。」





▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ 

 

「ははーん、それでこの有様か。」

 ルキアから国の一大事を告げられたクレイの反応はそれだけだ

った。

 ロイヤー邸の様子があまりにも無防備すぎて不審がるクレイに

密偵の側面をもつウルザが極秘としながらもうちあけたのだ。

「そういえば王宮がものものしかったのは……。」

 カイもなにやら納得したようだがそれほど驚いてはいなかった。

 二人にとってはそんな雲の上の話よりも目前のことのほうが大事

というだけなのだ。

「さて、どうしますか?」

 ウルザが屋敷をうかがいながら聞いてくる。

 ちなみにルキアとウルザはここにもカラスとしてきているため、

クレイはルキアを一号、ウルザを二号とよんでいたりする。

「もちろん、正面から堂々とじゃ!」

 デュラン元神官が胸を張りながら宣言する。

 カイと顔を見合わせたクレイは思わず笑ってしまう。

「そうだな、むかしから正義の味方は正々堂々ってきまってる。」

 そのクレイの言葉に何を感じたのか、珍しくカイも少し笑いな

がら冗談めかして言った。

「そうだな。正々堂々な。」

2006/08/28 23:56 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・52/カイ(マリムラ)
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PC:クレイ カイ 

NPC:デュラン ウルザ ルキア

場所:王都イスカーナ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「正々堂々ですか、それはそれで楽しそうですね」

 デュランの言葉に思わず笑ってしまうクレイとカイに、こんな言葉を投げかけたの

はウルザだった。その横でルキアが頷く。

「折角だしご老人には馬にでも乗ってもらって、二人が従者として馬を先導すれ

ば?」

 ウルザとルキアの声は本気だ。

「ちょ、待ってくれ」

 真剣に考え始めているカイとは対照的に、クレイが止めに入る。

「準備に時間がかかれば、誰かに見つかって余計な争いが増えるかもしれないんだ

ぞ」

「だから正面から堂々と行くのよ……『客』としてね」

 ルキアの目が楽しげに光る。

 デュランはデュランで、馬に乗れないと言いつつも楽しみにしているようだし、カ

イは顎に手を当てて黙り込んでしまった。

 それって正々堂々と言うのか?……という発言を、クレイは控えることにした。







「さ、準備オッケー」

 何処からかルキアが馬を連れてきたのだが、その馬というのがまた凄い。

 毛並みの良い栗毛には質素ながらも上質の馬具が載せられ、大人しくウルザの手か

ら小さな砂糖菓子を食べているのだ。

「で、あんた達はどうするんだよ」

 馬の手綱を渡され、振り返ると既に彼女たちの姿がない。

「私たちは影だもの。影には影らしい入り方があるんじゃない?」

 声がしたと思った木の上の方を見上げるがそこにも姿はなく、クレイとカイは顔を

見合わせると、僅かに肩を竦めた。

「行きますか」

 馬上の人は、心なしか普段よりも姿勢良く、前を見据えている。

「……行こうかの」

 馬が静かに歩き出した。







 で、正門。

 私兵が遠ざけられたとはいえ、当然のように門兵はいたりする。

 それなりの家にはそれなりの使用人が居るのだから、まあ当然と言えば当然なのだ

が。

「申し訳ないが、身分を改めさせていただきたい」

 そう足止めをした男は未だ若く、鎧もどこかぎこちない。

「わしはデュラン・レクストン(元)司祭じゃ。火急にロイヤー殿と話がある故、馬

を飛ばして参った」

 と馬上からのたまうデュランの堂々とした態度に気圧されている。もしかしたら遠

ざけられた私兵の代わりに、新しく暫定的にあてがわれた使用人なのかも知れない。

「で、ではただいま確認して参りますので、こちらの厩の方へひとまず……」

「ならん。火急というのがわからんのか!」

 凄い剣幕で怒鳴りつけると、馬を数歩進めようとして、やはり止められた。

「こ、困ります……お通しするには許可が……」

「このわしが直々に伝えることがあって来ておるのじゃ。

 神殿の者が度々出入りしておろう、その者達では埒があかない故……」

 ブツブツ言い続けるデュランのせいで伝令にも行けず足止めを食らっている哀れな

門兵に、クレイが一言囁いた。

「ココで意地張って通さないでいたらさ、後が怖いと思うなぁ」

 一気に門兵の顔が青ざめる。

「ここの仕事が明日もあると思うか?」

 カイの一言で、青を通り越して蒼白になった門兵はガタガタと震え始めた。

「あ、あの、あの……」

「具合が悪そうじゃの。わしらは構わんから休息をとられよ」

 にっこりと、しかし有無を言わせない圧力。

 結果、門兵はがっくりと肩を下ろし、一行は馬のまま敷地内に入ることに成功した

のである。







 敷地内は外から見た以上に閑散としていた。

 私兵の声、鎧や剣の出す耳障りな金属音、足音すらも聞こえない。

 時折強くなる風で木々が揺れ、葉擦れの音がやたらに大きく聞こえたりする。

「罠……ってことではなさそうだな」

 いったん足を止め、屋敷を窺っていたカイが言う。

「しかしじいさん、さっきみたいに堂々と出来るんじゃないか」

「ひょっひょっひょ、アレは面白かったんじゃがなぁ」

「って、本気で遊んでるだろ」

 そんなやりとりをしつつも、やはり緊迫感が拭えない。

 クレイは滲んだ汗を拭って、屋敷の入り口を見やった。

「さ、最終選択。ここで待ち受ける?それとも乗り込む?」

「……という選択肢は、どうやら無くなったようだな……」

 カイの言葉を受けて、クレイがカイの視線を追う。

 窓を開け放ち、二階のベランダにはロイヤーが立っていた。

「き、貴様ら、ふざけた真似をー!」

 その脇にはマグダネル。

 ベランダから飛び降りようと手すりを蹴ったその時、何かに体を絡め取られ、訳の

分からないまま宙づりになってしまう。

「なっ……」

 暴れれば暴れるほど細い紐は体に食い込み、ますます身動きがとれなくなってい

く。

「ご愁傷様」

「邪魔立ては無用ですよ」

 いつからそこにいたのか。

 ルキアとウルザはロイヤーの両脇に立ち、仕掛けて置いた紐で網の目のように張り

巡らせていたのだ。

「ば、ばかな……」

 抵抗らしき抵抗もできないまま、ロイヤーは膝から崩れ落ちた。


2006/08/29 00:27 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・53/クレイ(ひろ)
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PC:クレイ カイ 

NPC:デュラン ウルザ ルキア マグダネル

場所:王都イスカーナ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「マグダネル様!」



 外の見回りでもしていたのか、屋敷の外を回るようにして飛び出してき

た白装束の男が何かを放つ。

 ナイフか魔法かまでは判別できなかったが、マグダネルを縄から解き放

つには十分だったようで、体勢をなおしたマグダネルはそのまま庭に降り

立った。

 少し遅れて現れたもう一人の白装束も合流し三人はマグダネルをはさん

で横に並び構えを取る。

 しかしベランダではロイヤーがカラス達にとらわれたも同然のためか行

動を起せないでいるようだった。

 その様子にクレイがなにかを取り出そうと腰元に手をやったとき、

「おい、あんた達強さが売りなんだってな、だったらこの勝負で片をつけ

ないか?」

 ふいにカイが淡々とした口調でそうきりだした。

「ええ? ちょっと待てよ、何いってんだ?」

 これに驚いたのはマグダネルやロイヤーよりも、仲間のクレイ達のほう

だったようで、思わず振り返ってカイのほうをみた。 

「おちつけクレイ、このままではロイヤーはともかくマグダネルに遺恨を

残すぞ。」

「う……。」

 一言でクレイを黙らすと、正面で警戒を解かずにいる三人のほうに向か

ってさらに声をかける。

「あんた達はどうだ、俺達は石をかけるが?」

「いいだろう、もし我々が負けたならこの命好きにするがいい。」

 マグダネルもあまりに冷静なカイと泡を食っているクレイの様子を見て

決断を下した。

 それにうなづいて返すと、カイはベランダのカラスに手で一人来いと合

図した。

 ウルザとルキアは成り行きを見ていたが、目だけで相談すると、ウルザ

が宙を駆け2人の下へと舞い降りた。

 こちらも戦力が三人になったところで、デュラン老を下がらせたカイは

クレイとウルザにだけ聞こえる声で、

「この戦い指揮はクレイにまかせる。」

 とだけ告げた。

 さすがにそれは、と何か言いかけたウルザにカイは、

(俺とお前にはクレイを試す必要がある。)

 と唇の動きだけで伝える。

 それを見たウルザは言葉を飲み込みうなづいて見せた。

(そうだ、クレイが上へいけるやつだからこそ俺は……。)

 心に伏せた決意、カイはこの戦いでそれが正しかったことを確認しよう

としていた。

 そしてそれは、ベランダにいるルキアも、参戦するウルザも同じだった。

「おいおい、いいのかよ……。」

 前にでて剣を構えるカイにまだ展開に納得いかないクレイが剣を抜きなが

らささやく。

「クレイ、そんなものを用意したのはやつ等を殺したくなかったからでもあ

るんだろう? このまま終わっては間違いなく大公に消されるまでしがらみ

はなくならんだろう。 やつらには先に負けを突きつける必要がある。」

「う……なんか今回のカイは厳しいな。」

 しかし正論ではある。

 しぶしぶながら剣を抜いたクレイは、正面を見据えて気合を入れなおす。

「……よし、二号は速攻のできる技で、術士のほうを止めてくれ。印を使っ

てたから腕を狙えれば効果はかなりある。カイは俺がマグダネルを止めてる

間にもう一人を頼む。まずは数を減らすことからしかける。あとは必要な時

にそのつどってことで。」

 クレイの指示にカイは笑みを浮かべる。

(よくみてる。)

 なんだかんだ言いながら、ほとんど時間をかけずに指示を出せるクレイに

カイは安心していた。

(後は結果が証明するだろう。クレアとクレイの未来を。)

「……では、いくぞ!」

 向こうでも軽く打ち合わせていた三人は、マグダネルの声ではじけるように

距離をとり陣形を組む。 

 クレイにとって始まりの、カイにとって終わりの戦いが今始まった。


2006/08/29 01:05 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・54/カイ(マリムラ)
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PC:クレイ カイ 

NPC:デュラン ウルザ ルキア ロイヤー マグダネル カシュー

場所:王都イスカーナ

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 蓋を開けてみると、ソレは一方的にも近い戦いだった。

 実戦経験で劣るハズのクレイ側には怪我すら殆どなく、マグダネル側にはもう本人

以外戦闘に耐えられる者はいない。

 実際、クレイは自分も敵を相手にしながら、周りの状況をよく見ていた。特筆する

べき点は、個人の戦闘力及びクセとも云うべき戦闘スタイルの見極めが絶妙なところ

だろう。







「カイ! 下がって左だ、深追いするな! 二号はそのまま突っ込んで速攻!」

 他人から指示を受けながらの戦闘経験がカイにはない。それでも分かり易い言葉で

的確に自分の欠点を指摘されると、どこか小気味よくすらある。



 カイが負傷するときには、大抵「自分の身の安全に対する配慮」が足りないからな

のだ。身を挺して対象者の安全を確保する教育を受けたせいだけではなく、本来の気

性の問題かもしれない。が、クレイにはそれが分かるのか、けして深追いさせようと

はしない。

 二号ことルキアに対してもそうだ。それぞれが動きやすい、なおかつ無理をさせな

い指示。負傷覚悟でいたカイとルキア、そして高い位置から見守っていたウルザは、

クレイの予想以上の指揮能力に口角を上げた。



「周りを見る余裕があるのか?」

 マグダネルは強い。だが、相手に致命的な攻撃を仕掛けることを優先せず、足止め

と防御に重点を置けば、話は少し変わってくる。

 クレイが追いつめられたかと思うと、後ろからカイやルキアの攻撃が迫る。そう、

マグダネルの方も、意識をクレイに集中させることが難しくなってきているのだっ

た。ソレを意識してやっているのは他でもない、クレイなのだが。







 三方から囲まれる形になったマグダネルは、舌打ちをして言った。

「個々の能力でオレに勝てるヤツはいないと侮ったか」

 だが、未だ諦めたわけではないのだろう、目に力がある。

 クレイはその視線を正面で受けながら、眉をひそめた。

「アンタより俺が強いなんて思っちゃいない。

 だけど、弱いなら弱いなりの戦い方だってあるんだ」

 クレイが視線を急に外すと、マグダネルがつい視線の先を追う。そちらからの攻撃

を警戒したのか、それとも心理的反射的な行動だろうか。どちらにしても、その行動

が、彼の致命的な隙を作った。

「ぐっ……かはぁっ!!」

 その攻撃は、マグダネルの視界の端で僅かに動いたカイではなく、後方、完全に死

角となった位置からのルキアの不意打ちであった。

「猪口才な真似を……コレでチェックメイトなのか!?」

 吐血し、拭われもしない口元が皮肉に歪む。





 マグダネルをルキアとカイで取り押さえ、残る二人はルキアがどこからともなく調

達したロ-プで縛られていた。デュランを後ろ手に庇うように立つクレイは、ウルザ

に縛られたロイヤーを見上げ、声を挙げた。

「コレで貴方達の命は私達が握ったことになります」

 ロイヤーは顔面蒼白になりながらも、何も言えずにいた。

「ですが、私は貴方達を殺すつもりはない。取り引きしませんか」

 クレイは言葉を継ぎ、なにかを取り出そうと腰元に手をやる。

「それはっ!?」

 叫んだのはロイヤー。無造作に布に包まれた琥珀を、クレイが取り出したのだ。

「さて、コレが元凶?」

「またんか! そんな大事なモノを……っ!!」

 デュラン老がクレイの手から取り上げようとするのを、腕を上に伸ばすようにして

かわした。

 遠目にも琥珀だと分かる色、実物をまだ目にしていなくても、大きさから例の琥珀

だと推測出来る。ソレを目の当たりにしたロイヤーが、感動に震え、戦慄いた。

「そ、それさえあれば、私は……」

 ロイヤーは身を乗り出そうとするが、ウルザに阻止され、渋々座り込む。

「貴方に諦めろ、と言っても難しいでしょう。

 しかも、もう二度とこういうことを起こさないという保証はどこにもない

 ……ですよね? コレがここにある限り」

 クレイの掌で琥珀が踊る。

 デュランが慌てふためき、ルキアとウルザも息を呑んだ。

 カイはクレイに頷き、マグダネルをルキアに任せ、腰の得物を構えた。

「ダメじゃ! やめるんじゃ!」

「貴様ら~、何をしようとしているのか解っているのか~!?」

 デュラン老とロイヤーが叫ぶ。

 全員の視線が琥珀に向いた時、マグダネルはルキアを振り切り、クレイへと突進し

た。

「させるかぁ!!」

 しかし、クレイの手には既に琥珀はない。

 宙高く放り上げられた石に向かい、カイの発する気の風が襲いかかる。

「やめてくれ~!!!」

「やめるんじゃ~!!!」

 悲痛な声を余所に、無惨にも幾筋ものかまいたちが琥珀を砕く。無数に砕かれた琥

珀は粉と化し、空から日を浴びて金色に輝きながら降り注ぐ。

「そ、そんなぁ……」

「ワシの、ワシの人生が……」

 放心するロイヤーを置いて、ウルザは一人、ルキアの元へ降り立った。

「ワシは、守ってくれると信じてたから琥珀を預けたんじゃー!」

 半泣きのデュラン老がクレイに縋り付く。

「でもな、じいさん。アンタが守ってきたのはそれだけじゃないだろう?」

 クレイは静かにデュランの肩に手を置いた。

「アンタには守ってきた誇りがあるだろう。悪用させちゃいけないんだ、絶対に」

 ルキアとウルザがデュラン老を連れ、クレイから離れる。

 複雑な表情の二人は、クレイに声を掛けようとし、やめた。

「ご老体を先にお連れしてくれ。クレイと後から追いかける」

 カイの言葉に小さく頷き、ルキアとウルザがデュランと共に去る。

 残されたロイヤーと動けないマグダネルを一瞥し、カイがいった。

「そちらの負けだ。復讐を考えたところで石はもう無い」

 返ってくる言葉はなかった。クレイとカイは頷き合い、屋敷を後にした。







 帰り道。

「さ、て。どうしたものかなぁ?」

 クレイの思案顔に、カイが首を傾げた。

「何を今更考えることがある?」

「いや、だってさ……味方騙したわけだし」

 クレイは髪をわしわしと掻く。

「ああ、気の毒だがデュラン老にはそのまま信じてもらったほうがいいだろう。彼が

すぐ元気になるようでは、味方を騙してまで相手に信じ込ませた意味が無くなるから

な」

 カイは涼しい顔でそう言うと、珍しく「くっくっ」と笑い出した。

「……珍しいじゃないか、そんなにオカシイかよ」

 憮然とするクレイに、カイが肩を竦める。

「”敵を欺くには先ず味方から”という言葉もある。が、カラスの方はもう状況が飲

み込めている頃だろうと思ってな」

「あちゃー」

 がっくりと肩を落とし、クレイはとぼとぼと歩き出した。







「まあ、何か事情があるんだろうとは思いましたけど……」

「打ち合わせなしとはね」

 落胆するデュラン老を送り届け、ルキアとウルザはカシューの元へ戻っていた。

 勿論、替わりの琥珀を用意したカシューは、クレイの事情が飲み込めている。

「私達まで騙す必要が……」

「コラコラ、あったんだよ必要が。お前達が動揺しなければ勘繰られるだろう?」

「それはそうなんですが……悔しいですね」

 ルキアとウルザは顔を見合わせる。

「仕方ありません、クレイには『桃色キノコ』で手を打ちましょう」

「ソレくらいが妥当でかもね」

 ……カシューは何も聞かなかったコトにした。


2006/08/29 02:05 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス

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