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PC:クレイ カイ
NPC:デュラン ウルザ ルキア ロイヤー マグダネル カシュー
場所:王都イスカーナ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
蓋を開けてみると、ソレは一方的にも近い戦いだった。
実戦経験で劣るハズのクレイ側には怪我すら殆どなく、マグダネル側にはもう本人
以外戦闘に耐えられる者はいない。
実際、クレイは自分も敵を相手にしながら、周りの状況をよく見ていた。特筆する
べき点は、個人の戦闘力及びクセとも云うべき戦闘スタイルの見極めが絶妙なところ
だろう。
「カイ! 下がって左だ、深追いするな! 二号はそのまま突っ込んで速攻!」
他人から指示を受けながらの戦闘経験がカイにはない。それでも分かり易い言葉で
的確に自分の欠点を指摘されると、どこか小気味よくすらある。
カイが負傷するときには、大抵「自分の身の安全に対する配慮」が足りないからな
のだ。身を挺して対象者の安全を確保する教育を受けたせいだけではなく、本来の気
性の問題かもしれない。が、クレイにはそれが分かるのか、けして深追いさせようと
はしない。
二号ことルキアに対してもそうだ。それぞれが動きやすい、なおかつ無理をさせな
い指示。負傷覚悟でいたカイとルキア、そして高い位置から見守っていたウルザは、
クレイの予想以上の指揮能力に口角を上げた。
「周りを見る余裕があるのか?」
マグダネルは強い。だが、相手に致命的な攻撃を仕掛けることを優先せず、足止め
と防御に重点を置けば、話は少し変わってくる。
クレイが追いつめられたかと思うと、後ろからカイやルキアの攻撃が迫る。そう、
マグダネルの方も、意識をクレイに集中させることが難しくなってきているのだっ
た。ソレを意識してやっているのは他でもない、クレイなのだが。
三方から囲まれる形になったマグダネルは、舌打ちをして言った。
「個々の能力でオレに勝てるヤツはいないと侮ったか」
だが、未だ諦めたわけではないのだろう、目に力がある。
クレイはその視線を正面で受けながら、眉をひそめた。
「アンタより俺が強いなんて思っちゃいない。
だけど、弱いなら弱いなりの戦い方だってあるんだ」
クレイが視線を急に外すと、マグダネルがつい視線の先を追う。そちらからの攻撃
を警戒したのか、それとも心理的反射的な行動だろうか。どちらにしても、その行動
が、彼の致命的な隙を作った。
「ぐっ……かはぁっ!!」
その攻撃は、マグダネルの視界の端で僅かに動いたカイではなく、後方、完全に死
角となった位置からのルキアの不意打ちであった。
「猪口才な真似を……コレでチェックメイトなのか!?」
吐血し、拭われもしない口元が皮肉に歪む。
マグダネルをルキアとカイで取り押さえ、残る二人はルキアがどこからともなく調
達したロ-プで縛られていた。デュランを後ろ手に庇うように立つクレイは、ウルザ
に縛られたロイヤーを見上げ、声を挙げた。
「コレで貴方達の命は私達が握ったことになります」
ロイヤーは顔面蒼白になりながらも、何も言えずにいた。
「ですが、私は貴方達を殺すつもりはない。取り引きしませんか」
クレイは言葉を継ぎ、なにかを取り出そうと腰元に手をやる。
「それはっ!?」
叫んだのはロイヤー。無造作に布に包まれた琥珀を、クレイが取り出したのだ。
「さて、コレが元凶?」
「またんか! そんな大事なモノを……っ!!」
デュラン老がクレイの手から取り上げようとするのを、腕を上に伸ばすようにして
かわした。
遠目にも琥珀だと分かる色、実物をまだ目にしていなくても、大きさから例の琥珀
だと推測出来る。ソレを目の当たりにしたロイヤーが、感動に震え、戦慄いた。
「そ、それさえあれば、私は……」
ロイヤーは身を乗り出そうとするが、ウルザに阻止され、渋々座り込む。
「貴方に諦めろ、と言っても難しいでしょう。
しかも、もう二度とこういうことを起こさないという保証はどこにもない
……ですよね? コレがここにある限り」
クレイの掌で琥珀が踊る。
デュランが慌てふためき、ルキアとウルザも息を呑んだ。
カイはクレイに頷き、マグダネルをルキアに任せ、腰の得物を構えた。
「ダメじゃ! やめるんじゃ!」
「貴様ら~、何をしようとしているのか解っているのか~!?」
デュラン老とロイヤーが叫ぶ。
全員の視線が琥珀に向いた時、マグダネルはルキアを振り切り、クレイへと突進し
た。
「させるかぁ!!」
しかし、クレイの手には既に琥珀はない。
宙高く放り上げられた石に向かい、カイの発する気の風が襲いかかる。
「やめてくれ~!!!」
「やめるんじゃ~!!!」
悲痛な声を余所に、無惨にも幾筋ものかまいたちが琥珀を砕く。無数に砕かれた琥
珀は粉と化し、空から日を浴びて金色に輝きながら降り注ぐ。
「そ、そんなぁ……」
「ワシの、ワシの人生が……」
放心するロイヤーを置いて、ウルザは一人、ルキアの元へ降り立った。
「ワシは、守ってくれると信じてたから琥珀を預けたんじゃー!」
半泣きのデュラン老がクレイに縋り付く。
「でもな、じいさん。アンタが守ってきたのはそれだけじゃないだろう?」
クレイは静かにデュランの肩に手を置いた。
「アンタには守ってきた誇りがあるだろう。悪用させちゃいけないんだ、絶対に」
ルキアとウルザがデュラン老を連れ、クレイから離れる。
複雑な表情の二人は、クレイに声を掛けようとし、やめた。
「ご老体を先にお連れしてくれ。クレイと後から追いかける」
カイの言葉に小さく頷き、ルキアとウルザがデュランと共に去る。
残されたロイヤーと動けないマグダネルを一瞥し、カイがいった。
「そちらの負けだ。復讐を考えたところで石はもう無い」
返ってくる言葉はなかった。クレイとカイは頷き合い、屋敷を後にした。
帰り道。
「さ、て。どうしたものかなぁ?」
クレイの思案顔に、カイが首を傾げた。
「何を今更考えることがある?」
「いや、だってさ……味方騙したわけだし」
クレイは髪をわしわしと掻く。
「ああ、気の毒だがデュラン老にはそのまま信じてもらったほうがいいだろう。彼が
すぐ元気になるようでは、味方を騙してまで相手に信じ込ませた意味が無くなるから
な」
カイは涼しい顔でそう言うと、珍しく「くっくっ」と笑い出した。
「……珍しいじゃないか、そんなにオカシイかよ」
憮然とするクレイに、カイが肩を竦める。
「”敵を欺くには先ず味方から”という言葉もある。が、カラスの方はもう状況が飲
み込めている頃だろうと思ってな」
「あちゃー」
がっくりと肩を落とし、クレイはとぼとぼと歩き出した。
「まあ、何か事情があるんだろうとは思いましたけど……」
「打ち合わせなしとはね」
落胆するデュラン老を送り届け、ルキアとウルザはカシューの元へ戻っていた。
勿論、替わりの琥珀を用意したカシューは、クレイの事情が飲み込めている。
「私達まで騙す必要が……」
「コラコラ、あったんだよ必要が。お前達が動揺しなければ勘繰られるだろう?」
「それはそうなんですが……悔しいですね」
ルキアとウルザは顔を見合わせる。
「仕方ありません、クレイには『桃色キノコ』で手を打ちましょう」
「ソレくらいが妥当でかもね」
……カシューは何も聞かなかったコトにした。
PC:クレイ カイ
NPC:デュラン ウルザ ルキア ロイヤー マグダネル カシュー
場所:王都イスカーナ
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蓋を開けてみると、ソレは一方的にも近い戦いだった。
実戦経験で劣るハズのクレイ側には怪我すら殆どなく、マグダネル側にはもう本人
以外戦闘に耐えられる者はいない。
実際、クレイは自分も敵を相手にしながら、周りの状況をよく見ていた。特筆する
べき点は、個人の戦闘力及びクセとも云うべき戦闘スタイルの見極めが絶妙なところ
だろう。
「カイ! 下がって左だ、深追いするな! 二号はそのまま突っ込んで速攻!」
他人から指示を受けながらの戦闘経験がカイにはない。それでも分かり易い言葉で
的確に自分の欠点を指摘されると、どこか小気味よくすらある。
カイが負傷するときには、大抵「自分の身の安全に対する配慮」が足りないからな
のだ。身を挺して対象者の安全を確保する教育を受けたせいだけではなく、本来の気
性の問題かもしれない。が、クレイにはそれが分かるのか、けして深追いさせようと
はしない。
二号ことルキアに対してもそうだ。それぞれが動きやすい、なおかつ無理をさせな
い指示。負傷覚悟でいたカイとルキア、そして高い位置から見守っていたウルザは、
クレイの予想以上の指揮能力に口角を上げた。
「周りを見る余裕があるのか?」
マグダネルは強い。だが、相手に致命的な攻撃を仕掛けることを優先せず、足止め
と防御に重点を置けば、話は少し変わってくる。
クレイが追いつめられたかと思うと、後ろからカイやルキアの攻撃が迫る。そう、
マグダネルの方も、意識をクレイに集中させることが難しくなってきているのだっ
た。ソレを意識してやっているのは他でもない、クレイなのだが。
三方から囲まれる形になったマグダネルは、舌打ちをして言った。
「個々の能力でオレに勝てるヤツはいないと侮ったか」
だが、未だ諦めたわけではないのだろう、目に力がある。
クレイはその視線を正面で受けながら、眉をひそめた。
「アンタより俺が強いなんて思っちゃいない。
だけど、弱いなら弱いなりの戦い方だってあるんだ」
クレイが視線を急に外すと、マグダネルがつい視線の先を追う。そちらからの攻撃
を警戒したのか、それとも心理的反射的な行動だろうか。どちらにしても、その行動
が、彼の致命的な隙を作った。
「ぐっ……かはぁっ!!」
その攻撃は、マグダネルの視界の端で僅かに動いたカイではなく、後方、完全に死
角となった位置からのルキアの不意打ちであった。
「猪口才な真似を……コレでチェックメイトなのか!?」
吐血し、拭われもしない口元が皮肉に歪む。
マグダネルをルキアとカイで取り押さえ、残る二人はルキアがどこからともなく調
達したロ-プで縛られていた。デュランを後ろ手に庇うように立つクレイは、ウルザ
に縛られたロイヤーを見上げ、声を挙げた。
「コレで貴方達の命は私達が握ったことになります」
ロイヤーは顔面蒼白になりながらも、何も言えずにいた。
「ですが、私は貴方達を殺すつもりはない。取り引きしませんか」
クレイは言葉を継ぎ、なにかを取り出そうと腰元に手をやる。
「それはっ!?」
叫んだのはロイヤー。無造作に布に包まれた琥珀を、クレイが取り出したのだ。
「さて、コレが元凶?」
「またんか! そんな大事なモノを……っ!!」
デュラン老がクレイの手から取り上げようとするのを、腕を上に伸ばすようにして
かわした。
遠目にも琥珀だと分かる色、実物をまだ目にしていなくても、大きさから例の琥珀
だと推測出来る。ソレを目の当たりにしたロイヤーが、感動に震え、戦慄いた。
「そ、それさえあれば、私は……」
ロイヤーは身を乗り出そうとするが、ウルザに阻止され、渋々座り込む。
「貴方に諦めろ、と言っても難しいでしょう。
しかも、もう二度とこういうことを起こさないという保証はどこにもない
……ですよね? コレがここにある限り」
クレイの掌で琥珀が踊る。
デュランが慌てふためき、ルキアとウルザも息を呑んだ。
カイはクレイに頷き、マグダネルをルキアに任せ、腰の得物を構えた。
「ダメじゃ! やめるんじゃ!」
「貴様ら~、何をしようとしているのか解っているのか~!?」
デュラン老とロイヤーが叫ぶ。
全員の視線が琥珀に向いた時、マグダネルはルキアを振り切り、クレイへと突進し
た。
「させるかぁ!!」
しかし、クレイの手には既に琥珀はない。
宙高く放り上げられた石に向かい、カイの発する気の風が襲いかかる。
「やめてくれ~!!!」
「やめるんじゃ~!!!」
悲痛な声を余所に、無惨にも幾筋ものかまいたちが琥珀を砕く。無数に砕かれた琥
珀は粉と化し、空から日を浴びて金色に輝きながら降り注ぐ。
「そ、そんなぁ……」
「ワシの、ワシの人生が……」
放心するロイヤーを置いて、ウルザは一人、ルキアの元へ降り立った。
「ワシは、守ってくれると信じてたから琥珀を預けたんじゃー!」
半泣きのデュラン老がクレイに縋り付く。
「でもな、じいさん。アンタが守ってきたのはそれだけじゃないだろう?」
クレイは静かにデュランの肩に手を置いた。
「アンタには守ってきた誇りがあるだろう。悪用させちゃいけないんだ、絶対に」
ルキアとウルザがデュラン老を連れ、クレイから離れる。
複雑な表情の二人は、クレイに声を掛けようとし、やめた。
「ご老体を先にお連れしてくれ。クレイと後から追いかける」
カイの言葉に小さく頷き、ルキアとウルザがデュランと共に去る。
残されたロイヤーと動けないマグダネルを一瞥し、カイがいった。
「そちらの負けだ。復讐を考えたところで石はもう無い」
返ってくる言葉はなかった。クレイとカイは頷き合い、屋敷を後にした。
帰り道。
「さ、て。どうしたものかなぁ?」
クレイの思案顔に、カイが首を傾げた。
「何を今更考えることがある?」
「いや、だってさ……味方騙したわけだし」
クレイは髪をわしわしと掻く。
「ああ、気の毒だがデュラン老にはそのまま信じてもらったほうがいいだろう。彼が
すぐ元気になるようでは、味方を騙してまで相手に信じ込ませた意味が無くなるから
な」
カイは涼しい顔でそう言うと、珍しく「くっくっ」と笑い出した。
「……珍しいじゃないか、そんなにオカシイかよ」
憮然とするクレイに、カイが肩を竦める。
「”敵を欺くには先ず味方から”という言葉もある。が、カラスの方はもう状況が飲
み込めている頃だろうと思ってな」
「あちゃー」
がっくりと肩を落とし、クレイはとぼとぼと歩き出した。
「まあ、何か事情があるんだろうとは思いましたけど……」
「打ち合わせなしとはね」
落胆するデュラン老を送り届け、ルキアとウルザはカシューの元へ戻っていた。
勿論、替わりの琥珀を用意したカシューは、クレイの事情が飲み込めている。
「私達まで騙す必要が……」
「コラコラ、あったんだよ必要が。お前達が動揺しなければ勘繰られるだろう?」
「それはそうなんですが……悔しいですね」
ルキアとウルザは顔を見合わせる。
「仕方ありません、クレイには『桃色キノコ』で手を打ちましょう」
「ソレくらいが妥当でかもね」
……カシューは何も聞かなかったコトにした。
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