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2024/11/19 15:45 |
立金花の咲く場所(トコロ) 31/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:リリア リック
場所:エドランス国 アカデミー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「アカデミーって、やったら広いんだよ」

というのが、リリアという少女の意見である。
彼女は、いつの間にやらヴァネッサの隣を陣取り、てくてくと歩いている。
どうやら、すっかり『仲良し』と見なしたらしい。
正直に言うと、同年代の女の子と話す機会があまりなく、同性の友人というものがで
きるかどうか心配していたヴァネッサは、ホッとしていた。

「あたしね、入ってからしばらく、アカデミーを歩いてると絶対食堂に到着しちゃっ
て。変だよねー」
「そりゃ、お前が食欲魔人だからだろ」
ぼそりと後ろから指摘する声。
リックである。
こちらは二人の後を、アベルと共についていく形で歩いている。
横に並んでいるわけではないが、近い位置を歩いているところから、取りあえず嫌っ
ているわけではなさそうである。
「にゃにをー!」
リックの言い様にリリアがカチンと来たらしく、立ち止まってバッと振り向く。
「ほいほい」
出来の悪い妹を扱うがごとく、リックはムキになって向かってくるリリアのおでこを
押さえ、前進を阻止した。
リリアは両手を必死で伸ばして攻撃を試みるが、手が届かないので、おでこを押さえ
られて腕をじたばたする、ただの間抜けな行動を取ることになった。

「いい加減学習しろよなー……」

リックは空いている片手で己の額を押さえ、あきれた声で呟く。
「あやまれリックー!」
「ほいほい、悪ぅござんした」
言葉の割にはちっとも謝罪するような態度ではないリックは、リリアのおでこから手
を離し、ぺたぺた、と軽く叩いた。
リリアはおでこを押さえ、「うー」とリックを睨むように見上げている。

「……なんだか、慣れてるね」

ヴァネッサは、そんな様子をちょっと微笑ましいと思った。
なんというのか、仲の良さが伝わってくるやり取りのように思えたから。
「まあなー。こいつ、初対面の時からこうだったから」
リックはからりとした笑顔を見せ、
「そんじゃリリア、まず得意な食堂から案内してやったらどうだー?」
にやにやとちょっと意地悪い笑みをリリアに向けた。
「うぐぐ……っ」
リリアはしばし、何やら言い返す言葉を考えていたが、やがて妙案が浮かんだのだろ
う、その目をキラリと一瞬輝かせた。

「何さ、リックだってしょっちゅう壁に向かってしゃべってるネクラ男のくせにー
!」

その瞬間、アベルがギョッとしたというか、ハッとしたというか、何か思い当たるフ
シのある気配を見せた。
「……アベル君、どうしたの?」
「い、いや……」
ガリガリ、と頭をかく。
「なんでもない」
「……?」
ヴァネッサは、珍しくはっきりしないアベルの態度に首をかしげた。

「ネクラとは何だよネクラとはっ!」
今度はリックがムキになる。
ネクラ発言には寛容になれないらしい。
「ふっふーんだ。壁に向かってしゃべってるのはホントでしょ~」
「あ、あのなぁっ」
「ほら、否定できないじゃーん」

あっという間に形勢逆転である。
……二人は、おそらくこんなことを長いこと繰り返しているのだろう。
そこに恋愛感情的なものがあるかどうか、とちょっと気にするヴァネッサは、やはり
年頃の少女である。

「だいたい、俺のは仮にネクラだとしても、お前ほど影響はないからな。お前は物凄
い方向音痴じゃねえか。いいのか? 冒険者が方向音痴で。どっかの迷宮で迷ったり
したらオシマイだぜ」
「ふんだっ、目印つければ大丈夫だもんっ。それよりネクラの方が、迷宮で迷った時
に精神的にまいっちゃうじゃない。もう俺おしまいだーいやだー動きたくないーっ
て、きっと諦めて飢え死によ!」
「お~ま~え~な~……っ」

放っておくと、いつまでもやっていそうな雰囲気である。
おそらく、完全にアベルとヴァネッサのことを忘れているだろう。

「あ、あの……案内、頼んでいいのかな……?」
おずおずと声をかけてみると、二人はハタと動きを止めた。
「あ、ごっめーん。忘れてた。行こ行こ」
パッと気分を切り替えたリリアは、ヴァネッサの手を取ると、元気な笑顔を見せて歩
き出した。

「あのね、アカデミーの食堂ってね、学生参加なんだよ」
「え? 食堂で働いてる人がいるんじゃないの?」
「うん。食堂で働いてる人もいるんだけど、学生も申請すれば働かせてくれるんだっ
て。学費を稼ぎたいけど、外に働きに行く暇がない人とか、外で稼ぐより、知ってる
人がいる学校で稼ぎたいっていう人が働いてるんだって」

食堂に近付いていることは、匂いでわかる。
なんともおいしそうな揚げ物やスープの匂いが入り混じり、こちらに漂ってくるの
だ。
お昼ご飯にはまだ早い時間だが、おいしそうな匂いをかぐと、急に空腹感を覚えるの
は何故だろうか。

「そういえば、二人って学費どうしてるの? 親が払ってくれてるとか?」
リリアが小首をかしげている。
ヴァネッサは、ふるふる、と首を横に振った。
「ううん、自分で稼ぐよ」
「えーっ、どこどこ、どこで稼ぐのっ?」
「あの、せせらぎ亭って知ってる……?」
「せせらぎ亭? あの煮込み料理のおいしいトコ?」
どうやら、ウサギの女将の店の評判は本物のようだ。
これから自分が下宿して働くところと考えると、ちょっと嬉しいヴァネッサである。
「うん……そこで下宿しながら、働かせてもらって、学費を稼ぐの」
ね?と、リリアの会話スピードについて行けていないアベルを気遣って見ると、彼は
なんとなく苦笑いしながら頷いた。
アベルは、よくしゃべる女の子という生き物に不慣れで、戸惑っているのかもしれな
い。
同年代の女の子といえば、おとなしいヴァネッサしかいなかったから。

「わーっ、じゃあ、あたし常連さんになって、売り上げに貢献してあげるっ! でも
額は期待しないでね、貧乏学生なんだから」
リリアは、茶目っ気たっぷりにウィンクをしている。
(カワイイなあ……)
なんというか、じゃれてくる子猫のような可愛らしさをヴァネッサは感じていた。
そう、子猫のような気配を。
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2007/02/12 21:45 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 32/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:リリア リック
場所:エドランス国 アカデミー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・うわぁ!!」
「・・・・・・すっげぇ!!」

 校舎との連絡通路にもうけられた入り口は、教室や職員室と同じ引戸(当た
り前といえば当たり前)をぬけると、そこは想像以上の光景だった。
 人の気配はするし、なんと言ってもアカデミーであることを考えると相当な
ものだと期待していたアベルもヴァネッサも、あまりの光景に感嘆の声を上げ
ずにはいられなかった。

「あはははは、一度外に出てあっちの表口から来るとそうでもないんだけど、
こっちの校舎との連絡口からるとみんな驚くんだよね。」

 アベルたちの育った村の人が全員集まったとしても広すぎるだろうそこは、
軽く500人はゆっくりと食事ができる席とテーブルがきれいにならべられ、昼前
というのに既に席もかなり埋るほどの人がいた。
 あっけにとられながら視線を動かしてみる、長方形の箱型のシンプルなつくり
の空間が左右に広がっており、アベル達の位置からみて、左手にはカウンターの
お化けが中央付近に設置され、奥の厨房との仕切りとなっているようで、客はそ
こで食事を受け取っているようだった。
 そこから、この空間の長い辺と平行に何列ものテーブルと椅子が設置され、リ
リアの指し示した指先へと続いていた。
 おそらく移動しやすいようにとの配慮であろうことは、リリアの指先にある扉
が端から端までいくつもつけられた壁面から沸いて出てくる(アベルにはそうみえ
た)人の群れがじつにスムーズに流れているのを見てわかった。
 後になって知るのだが、立派な扉をでっかく一つ二つつけるよりも、構造の問
題で両開きの普通の扉を端から端まで並べて、一つの扉で一度に通れる人数は限
られるのを数で補ったそのつくりは、外から見ると巨大な建物とそこに並ぶ扉扉
扉・・・・・・で、桁外れのスケールを感じさせるらしい。
 外観で先に予測ができない分、連絡口から入るとより驚くということらしい。

「こんな時間なのに結構人が・・・・・・あら?」

 アベルと並んでぼんやりと食堂を眺めたヴァネッサは、カウンーの光景で何か
に気がついた。

「んー、さすがいいとこにめをつけるわね。」

 その様子にリリアが目ざとく気がつき、説明をしてくれる。
 この食堂に来る人は、カウンターで中の人に注文を出し、トレイにメニューのせ
て席に向かう流れとは別に、なにやら袋詰めされたものを受け取ってそのまま出て
行く流れがあることにヴァネッサは気がついたのだった。

「ここは普通に授業を受けに来る人だけでなくて、旅支度とかをする人もいるのよ。
私たち程度ではまだまだ学ぶのがメインになるんだけど、経験地稼ぎと収入確保を
かねて仕事を初めながら通う人も多いいの。特に修士をとった後の人はほとんどね。
アカデミーは国の補助もあるし、修士以降の学生出身の名士なんかの寄付もあるも
のだから割安で買えるしね。」

 リリアにつづけるようにリックも補足する。

「ほら、アカデミーの施設は学生も働いてるっていったろ。実は学費や生活費以外
にも、アカデミー内にある料理系の教室の実地研修もかねててさ、そこの新作とか
が出るんだけど、それはここでしか売ってないからさ。」

 修士となってもそれでアカデミーから完全に離れるというものではなく、その後
もアカデミーにいくつもある「教室」という研究機関に所属してさらなる高みを目
指すこともできるらしい。
 教室の中には武術や魔法などの闘技関連ももちろんあるが、料理や洋裁など一般
的なものの研究をしているものも数多く存在するという。
 料理の教室では、普通の料理研究のほかにも、保存食や栄養学、薬膳などの特殊
な料理の研究も盛んらしい。
 特殊料理は冒険なんかにも役に立つため、結構アカデミーの名物として定着して
いるという。
 アベルはリリアとリックの話を聞いてますます呆れた。
 料理一つとってもこの有様ではアカデミーというところは桁が違う、と改めて思
っていた。
 
「んー、さすがにお昼にはまだ早いけど、飲み物ぐらい買ってみよっか?」

 リリアの提案に特に反対もなかったため、四人は連れ立ってカウンターの方に向
かっていった。

 カウンターはかなりの人数がいたが、さすがこの大きさだと人が多くても列がで
きたりもせず、むしろすいている風に見えるから不思議だ。
 みたところ、カウンター越しに呼びかけると中の人が注文を受けてその場で品物
を受け取るというシステムのようだった。
 リリアがカウンターに近づくとすぐに白い清潔そうな衣装をみにまとった女性が
顔を出した。

「おねーさん、フルーツミックジュース四人分!」
「はいよ。一緒でいいの?」
「うん、わたしで。」
「はいよ。」

 リリアが注文すると中の女性は手元の紙に何かを書き付け、すぐにリリアに渡し
た。
 リリアがその紙にサインかなにかを書いている間に、中の女性はカウンターの奥
に一度引っ込み、トレイにコップを四つ載せて戻ってきた。
 リリアから紙を受け取り、何かを確認した女性はその紙の一部を切り取りリリア
に手渡した。
 
「ん、ありがと。」
「はいよ、来週にはまた新作出すから、期待しといてね。」
 
 リリアから、ほい、ほい、とてわたされたコップをもって手近な席に腰を下ろし
た四人は、さっそくのどを潤した。

「あ、美味しい。」
「ほんとだ、良く冷えてんなー。」
「でしょでしょ。」
「これだけでも、ここで買う価値あるだろ?」

 確かにアベルもヴァネッサも一口飲んでみて驚いた。
 料理ならある程度調理過程で工夫が聞くのだが、こうした単純なものとなると、
素材の良さが8割、後は配合といったところだがどちらも完璧だった。

「ここは材料の保管もアカデミーで開発した技術使ってるから、いつでも新鮮なま
まなのさ。」

 リックのいうように、保存が完璧でなければ、産地でもない限りこんなに美味し
くはならないだろう。
 
「そういえば、さっきお金払わなかったような?」

 不思議そうにしいるヴァネッサに、リリアはさっきもらった紙の切れ端を見せた。

「ここでは注文をしたら、発注書にサインして版権を受け取るだけでいいんだよ。」
「え、じゃあお金要らないの?」
「んーアカデミー内でかかった費用は後でまとめて清算するんだよ。」

 あの紙もこのアカデミーの開発したもらしく、簡単な制約の魔法が封じられてて
踏み倒せないようになっているらしい。
 もっとも出世払いを認めているところだけあって猶予もかなり長いらしく、いま
だ魔法が発動したという話は聞かないらしい。
 もっとも、国の直営の上ギルドがバックアップするアカデミーで、進んでトラブ
ルをおこそうなどという命知らずはいないだろうが。
 とりあえずお金は後払いというギアの説明が正しかったことを確認できた姉弟は
ひそかに胸をなでおろした。
 信用してるといいたいところだが、ここと村のあまりのギャップが続くので、内
心気が気ではなかったのだ。
 何しろ、あの村にいる限りお金を使うことなんてほとんどなかったのだから、こ
れも田舎者の通る道なのかもしれない。
 そうこうしてるうちにジュースを飲み終わった四人は、リリアに先導されてカウ
ンターに設置された返却口にコップを戻した。

「さーて、次はどこ行く?」

 リリアは、まだまだいくよとヴァネッサとアベルに笑顔を向けた。



2007/02/12 21:46 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 33/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:リリア リック 胸像
場所:エドランス国 アカデミー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「じゃーん。次は図書館にてございまーす」

すっかり案内役と化したリリアが、次に案内したのはアカデミー内にある図書館。
これは少々特殊な場所で、アカデミーの敷地内に独立して建てられている。
何故図書館に来ているのかというと、次に行きたいところがあるかと尋ねられた際、
横のリックが「あ、本返しに行かなきゃ」と呟いたため。
アベルかヴァネッサが返答する前に、リリアによって「じゃあ図書館行こう!」と決
定されたのである。
――別段、文句はなかったが。

図書館は石の土台を組んだ上に建てられていて、出入り口である巨大な両開きの扉の
前には階段がある。
階段を上ると太い石の柱が両脇に並んだ扉の前に辿りつく。
中は二階建てだが吹きぬけになっており、天井が高く感じられる。
広間のような一階中央部分には、巨大な机がずらりと並び、読書をする者や、本を見
ながら書きものをしている者、絵本を読む親子などがそれぞれそっと距離を置いて思
い思いの過ごし方をしていた。
壁には本棚が隙間なく並び、その前を本を探す者が歩いている。
静かで厳かな空気の中にただよう、古い書物の匂い。
時折交わされる短い言葉が、すうっと壁や床に吸いこまれて消えていくような雰囲
気。

独特な場所であった。

「じゃ、ちょっと本を返してくるから」

リックは図書館に入るなり、一人ずんずんと歩いていってしまった。
その行く先を目で追うと、木製のカウンターに座っている女性のもとに近寄り、本を
差し出して何やら二言、三言言葉を交わしている。

「あ。そうだ」

リリアは、くるっと振り向いた。

「ねえ、アベル。ちょっとこれ叩いてみてよ」

そう言って指差したのは、一体の胸像である。
出入り口のすぐそばに置かれたそれは、ちょうどリリアの背丈ほどの高さだった。
上半身裸の男性で、たくましい筋肉を惜しげもなくさらしている。
しかし、どういうわけか頭は牛であった。
牛の頭のかぶり物をかぶっているのかと思い、ヴァネッサは観察してみたが、やはり
かぶり物などではなかった。

(えぇと……何ていう魔物だったかな……)

昔、ランバートに見せてもらった図鑑の内容を、ヴァネッサは必死に思い出してい
た。
図鑑の中で、こんな魔物を見た記憶が、うっすらと残っていたのだ。
そう、確かこれは……

(ミノタウロス……?)

そう結論づけようとして、ヴァネッサはやめた。
あれは確か、迷宮にいるという魔物ではないか。
それが図書館に、しかも胸像として存在しているのは何だかおかしい。

「叩けって……いいのかよ?」

一方、胸像を見つめ、アベルは首を傾げている。
物は大事にしなさい、と日頃カタリナに教えられてきた性分が出ていた。

「いいからいいから。軽くね」
「いいのか…なぁ……?」

アベルは、うーん、と悩んだ末……

ぴちっ。

その額に、デコピンを食らわした。

「こらああああ!!」

突然、男の怒鳴り声が雷のように空気をつんざいた。

「きゃっ」

ヴァネッサは思わず身をすくめ、アベルは顔を引きつらせて固まっていた。
――館内の視線が集中していることに気付くほどの余裕は、ない。

「馬鹿者! 私の額を指ではじくとは、一体何を考えている!」

よく見ると、怒鳴り声を上げているのは……眼前の胸像であった。

「や、やだっ……石像がしゃべってる!」

慌てるヴァネッサに、リリアはぱっと両手を広げて笑顔を見せた。

「えっへへー。これってね、ただの像じゃないんだ。図書館の守り主っていうか、管
理人っていうか、番人ていうか、そんなところなのね」
「そんなのまであるんだ……」
「うん。さっき、リックが本を返しに行ったでしょ? あそこで本を借りたり返した
りする手続きをするの。そんで、ここってね、一般にも開放してるのね。でも、ここ
の本って、国の物ってことになってるの。だから、本を無断で持ち出されたり、返し
てくれなかったりすると困るから、こうやって番人を置いてるのよ」
「無断で本を持っていこうとすると、どうなるんだ?」
「うん? 出口で番人が捕まえちゃうよ。それで、返してくれなかった人のところに
は司書の人が直接取りに行くの。……無断で本を持ち出そうとするとどうなるか、見
たい?」

いたずらっぽく笑うリリアに、二人は、申し合わせたわけではないが、同時に「い
い」と断った。
かたや、胸像はリリアをじろりと睨む。
牛の頭であり、牛の顔なのだから、怒っているのかどうかなんて区別がつきそうにな
いのだが、何故か今の『彼』はヴァネッサにも『怒っている』とわかった。

「……リリアとかいったな。いい加減私で遊ぶのはやめてもらおうか。私には全うす
べき任務があるのだ」
「だって、新しく入った人にはちゃーんと説明しなくっちゃ」
「だからと言って、何もこんなことをさせなくても良いだろう」
「やっだー、そんな怒らないでよー。あんまり怒ってると、眉間にシワがよって、石
が欠けちゃうかもよー?」

人間と胸像が、ごく普通の友人のように話をしている。

(リリアちゃんって……実はすごいのかも……)

それとも、慣れてしまえば皆このようになるものだろうか?
とてもそこまで打ち解ける自信のないヴァネッサであった。

「とにかく……少年。今後、このようなことをしないように」
「やだー。愛想わるーい」

後は普通の胸像に戻った『彼』に、リリアはぶーぶーと口をとがらせていた。

2007/02/12 21:46 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 34/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:リリア リック ダイス
場所:エドランス国 アカデミー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

食堂、図書館と見てきて、校舎の外に出たついでにとアカデミーの敷地内で
校舎の外にある図書館のように独立した施設を見て歩いた。
 
「あとで回るけど、校内にもギルドがメインで出資した店があってそっちは、
例によって出世払いがきくんだけど、外の別棟でたてられた店は普通の店だ
から現金払いだから気をつけてね。」

 いちいち中に入って品揃えを確認するところまではしなかったが、リリア
の話によれば、校内にくらべると上質のものやレアものが取り揃えてあると
のことで、外からの客も多いという。
 武器・防具・道具とそれぞれエリアごとに店を連ね、街中のメインストリ
ートと人気を二分する商店街として、旅人、特に冒険者を自認するものには
有名だという。
 ただ、出世払いがきかなだけに修士以下の生徒はまず利用することはない
そうで、リリアもリックもこっちにはあまりこないようだった。
 商店街を話しながら抜け、ぐるりと表に回って再び校内にあるきだす。

「こっちにいくと別棟があって修士以上のための教室があるんだ。」

 リリアが歩きながら指し示したのは、正面口から入り、今朝方自分たちの
いた教室とは逆方向に進み、さらに手続きの日にきた職員室を過ぎた先にあ
る分岐路の先だった。

「あ、教室って時々出てくるあの?」
「そ、ヴァネッサの思ってるやつ。」

 ヴァネッサの質問に、心持先輩の威厳を込めてリリアが答える。

「修士以上になると私たちが今やってるみたいなクラス分けで、基本授業を
一ならびに受けたりはしなくなって、より専門性の高い事を選択して学び研
究していく。 だから同じ事でも思想や方向性が違えば別の教室になったり
して、ある種独立した研究機関みたいになってるところもあるのよ。」

 食堂の料理人を始め、アカデミー内の様々な部署で実地研修として生徒が
参加しているわけだが、そこで提供される技術や料理はそういった教室で研
究開発されたものなのだ。
 それは市場に出ていないものが多く、アカデミーでしかお目にかかれない
者がほとんどなため、それを目当てに一般人が訪れるのは珍しいことではな
いのだ。

「俺ら授業の中で剣や魔法を学ぶだろ? そこの先生も教室もってたり所属
してたりするから、基礎以上も追求したかったら、教室に行けばいいのさ。」
「へー、道場みたいだなぁ。」

 リックの話にアベルがなんとなく連想できたのは、出稽古にきた剣士に感銘
を受けて道場まで追いかけて弟子入りしたという、昔実家の宿に来た冒険者の
戦士から聞いた話だった。

「ま、今の俺たちのレベルじゃあまり関係ないけど。」

 そういうリックもリリアも少し照れ笑いぎみだった。
 たしかに、修士どころか、一階生でまごついている身でははるか先の話であ
る。

「まあまあ、そっちはともかく、こっちはすぐにでも知っとくべきだよね。」

 話を変えてというよりも、初めからそこが目的地だったのだろう、とってお
きを自慢する子供の笑顔でリリアはもう一つの道を先導して進む。
 廊下を進むと程なく開けたところに出た。
 そこは様々な装備に身を包んだ人目で一般人でないとわかる者たちであふれ
ていた。
 
「ここがアカデミー併設のギルド・エドランス支部よ。」

 周知のとおり、アカデミーはそのままギルドとしての側面を備えているのだ
が、会員に仕事を斡旋したり情報を提供したりするという一番一般的な業務を
行うには、やはりそれ専用の窓口が必要になる。
 まして、ギルド業務それ自体はアカデミーとは関係ないもの達も活用するも
のである。

「そういうわけで、ちゃんと外にも出入り口あるから、本当は正面口から入ら
なくてもいいんだけど、私たちは校内から行き来することが多いから、この道
知らないと大変なのよ。」
「そんなに通うの?」
「もー、ヴァネッサ達も研究志望じゃなくて、冒険者志望でしょ? ここで依
頼をうけたりするのよ。」

 そういってリリアの指し示した一角には掲示板があり、そこには様々な依頼
や告知の紙がはられていた。
 見ていると、そこで気に入った依頼や告知を見つけると、受付に言って詳し
い話をしてもらうという流れのようだ。

「ふーん、あれをもっていけばいいのか。」

 リックがそんなアベルの肩を叩いて首を振る。

「俺たちはあんなふうに依頼をえり好みできるレベルじゃないから、あそこの
受付で、身の丈にあったものを選んでもらうのさ。」
「そうなのか? ん? リック達はもうやったことがあるのか?」
「ああ、っても二度だけだけどな。」
「へー、すごいなぁ。」

 アベルは素直に感心したが、リリアがおかしそうに笑う。

「たいしたことないのよ。単なる配達よ。」

 距離が近くても一般人にとって街の外は安全とはいえない。
 見知らぬ旅人に頼むのは安心できない。 
 そういった事情から、配達の仕事は割りと良くギルドに持ち込まれる。
 冒険者を名乗る以上、未熟とはいえ簡単な仕事である配達の仕事は生徒に優
先的にまわされることが多いのだが、これも立派な仕事なのだ。
 なにより、信用をつけるにはうってつけでもある。

「なーんていっても、大げさに冒険って言うほど出ないのは確かだけどな。」

 肩をすくめるリックに、しかしアベルはうらやましく思っていた。
 たとえ小さくても、「仕事」をこなしたのだから。
 
「お、リトル・ラックじゃないか、今日は仕事探しか?」
 
 通用口のところで固まって話していたら、紙の束を持った男が声をかけてき
た。
 ギルドの職員で、アカデミーから生徒のデータをもらってきた所だという。

「それとも買い物か?」

 先にいわれたー、とリリアがつまらなそうにふくれる。
 
「もう、ダイスさんはいつも間が悪いんだから。 今から案内するところなの
に。」
「え? そいつは悪かったな。」

 ここがつまりギルドがだしているという店でもあるのだ。
 ここでは基本的な装備が購入でき、それの料金は先払いというアカデミーの
システムが使えるため、仕事探しよりもむしろその買い物で通うことが多いと
言う。
 しかしアベルはそんなことよりも気になることがあった。

「なあ、リトル・ラックってリックのこと?」
「え? あ、ああ、まあそんなかんじかな?」

 アベルとしては二つ名(というより単なるあだ名程度なのだが)をもっている
リックに、素直に驚いただけなのだが、なぜかリックの反応はいまいちだった。
 むしろ、あまりそれには触れないでほしいかのような。
 そこら辺の事情はリリアも良く知らないらしく肩をすくめて、

「なんでかリックはあまり気に入ってないみたいなんだよね。」
「あのなー、運だけみたいにいわれて喜ぶ奴はいないって。」
「はいはい、そういうことにしときましょ。」

 なんとなくいわれ方が気に入らないってのとは違う気がしたが、アベルにし
てもそこまで深く追求するつもりはなかった。
 リリアとリックが言い合うのを笑ってみていたダイスは、アベルとヴァネッ
サに、

「こいつらは一階生の中でも場慣れしてるほうだし、仲間するならお勧めだ。」

 そういって肩を叩くと「がんばれよ。」と言い残して離れていった。


2007/02/12 21:46 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 35/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:リリア リック ギア ランバート
場所:エドランス国 アカデミー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「師匠」

長い廊下の前方に見知った背中を見かけて、ギアは声をかけた。
その声に、相手――ランバートはゆっくりと振り向く。

「ギアか……」

それから、シワの深く刻まれた目元をゆるめた。

「ギサガ村で話をしたのが、随分前の事のように思えるのぅ」

その目は、なつかしむように遠くを見つめていた。
が、すぐに意識をを現実に戻し、顔つきを引き締める。

「お前がいるということは、あの二人もアカデミーに来たということじゃな」
「師匠、ラズロも忘れないでくださいよ」
「そうじゃったな」

ランバートはほんの少し、苦笑いを浮かべる。

「……ギア」
「はい?」
「運命とは、何なのじゃろうな」
「ヴァネッサのこと、ですか?」
「……そうなのかもしれん。違うのかもしれん。頭の中がゴチャゴチャとして、よく
わからんのじゃよ……」

悩みのためか、シワが深くなったように見える。

「師匠……」

「わしは、ヴァネッサの両親のことを知っておる。そして……祖父母のことも。彼ら
は皆、呪いというものに立ち向かいながら、結局は次の世代に引き継いだまま、死ん
でいったのじゃ。わしは……わしは恐ろしくてたまらん。またしても呪いを克服でき
ず、次の世代に引き継いでしまうだけに終わるのではないかと思うと……わしは、三
代にわたる悲劇の目撃者になるのではないか……そんな気がしてならんのじゃ……」

「師匠、悲劇に終わるかどうかは、まだわかりませんよ」

目を閉じ、頭を軽く振り――ギアにはそれだけしか言えなかった。


一方、こちらはギルドが出している店を覗いている四人である。
教えると言うほどのこともないが、取りあえず覗いていこうというような感じで、置
いてある品を眺めている。

「ここで扱ってるのはねー、マジックアイテムとか、武器とか、あんまり重たくない
防具とか、そんなとこだよ」

綺麗な飾りのついた道具に目を奪われながら、リリアは言う。

「マジックアイテムって……?」

聞きなれない言葉にアベルとヴァネッサはきょとんとする。

「うんとね、あたしも実はよく知らないんだけど、なんだか魔法の効果を封じこめた
道具らしいよ。使うと、その魔法を使ったときと同じ効果があるんだって」

「要するに、魔法が使えないやつが持つ物だな。ただし、効果はあまり強くないから
な」

リリアの説明をリックが補う。

「でもね、その分、お金は高いのよ」

神妙な顔つきで頷くリリア。

「そんでね、時々だけど、在庫セールしたりするの。いつまでも買い手がつかなくて
残ってるやつとか、大量に仕入れたけど売りさばききれてないやつとか、さっき言っ
た『教室』で作ったやつを破格で売ったりとか。でもさ、すんごい混むんだよ」

「せめて、取り置きしてくれたらいいんだけどな……」

リックが、心からの本音を呟いた。


「ところで、ヴァネッサって、お買い物好き?」

一転、ぱっと明るい表情でリリアが聞く。

「うーん……嫌いじゃないけど……」
「けど?」
「村で買い物ができるところって、なかったの。たまに行商の人が来た時に、品物を
見せてもらうぐらいで……だから、あまり慣れてないっていうか」

ギサガ村には、店がない。
二人が育ったところは宿兼酒場であって店というものとは違うし、商品というものは
なかった。
もしかしたら、傷薬程度のものなら置いていたのかもしれないが、出番というものが
ないあまり、忘れ去られていたのかもしれない。

また、食料に関してはほとんど自給自足で補っていた。
自分の家の畑で作物を育て、牧場で牛や羊などを育ててその乳を採取して加工したり
する、実につつましい食生活である。
時折、近所どうしで交換しあったりして融通していたが、あれは物々交換というべき
で、売買とは言えない。

そんな村で育ったヴァネッサが唯一知る売買行為が、行商である。
どうしても自給自足できない物……皿やシーツなどの日用品を、カタリナは時折やっ
て来る行商人から買っていたのである。
ただ、これもあまり種類がなく、「次に来る時にこれを持って来て」と言っておかな
いと、いつも似たような品揃えであった。

ちなみに、他の村人ならば、どうしても必要なものがある場合、遠い隣町まで出かけ
ていくことはあった。
カタリナが行商を利用していたのは、店を空けて出かけることができないためであ
る。


「じゃあ、服とかはどうしてるのよ? おしゃれしたいじゃない」

リリアは首を傾げている。

「小さい時はお義母さんが作ってくれてたよ。大きくなってからは、近所の人に頼ん
で作ってもらったりしたの。昔、王都で仕立て屋さんをしてたっていう人がいたか
ら、お金とか食料とかを渡して、それで作ってもらっていたの。古着を持っていく
と、それで作りなおしてくれたりもしていたよ」

「へえ~。でもいいわねぇ、そういう暮らしも」
「そう……?」
「なんか、のんびりしてそうでいいじゃない。私、将来ギサガ村に住もうかなー」

女子二人がそんな会話をする横で、アベルは、カウンター奥の壁にかけられた剣を見
つめていた。

「どうした?」

気付いたリックは声をかけ、その方向へと視線をやり――

「あの剣か、目が高いな」

感心したように頷いた。

「ああ、あれ、高いのか?」
「値段もあるけど、ちょっと違うぞ。あれは今まで誰にも売られたことがない剣なん
だ」
「何だそれ?」
「アカデミーで作られたものなんだけど、たった一本じゃ売るに売れないし、それに
何やら物凄い切れ味とかで、扱える奴がいなかったらしい。だから今はアカデミーの
長の物ってことになってる」
「へぇ~……凄いんだな」

アベルは素直に感想を述べる。
そんなアベルに、リックは挑むように笑みを浮かべた。

「欲しいか?」
「え?」

「一応、アカデミーの長は納得する剣の腕と心の持ち主にこの剣を渡すつもりらし
い。だから、頑張ればお前のものになるかもな。ただ、この剣が出来てから数十年
間、ずっと、該当する奴がいなかったわけだから……その道は恐ろしく険しいと、そ
ういうことだ」

ぽん、とリックはアベルの肩を叩く。

「ふーん……」

アベルは、ぼんやりと呟いた。

「何してるのよ、二人とも」

そこへ、がば、とリリアがアベルとリックの間に割り込み、両脇に頭を抱え込む。
ヴァネッサには真似のできないコミュニケーションの取り方である。

「そろそろ帰ろ? 案内なら一通り終わったし」
「その前に講座の受け付けを済ませた方がいいんじゃないか?」
「それもそうね。じゃ、移動移動~っ」

元気なリリアに先導される形で、四人は移動することになった。


2007/02/12 21:47 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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