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2024/11/01 08:02 |
立金花の咲く場所(トコロ) 31/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:リリア リック
場所:エドランス国 アカデミー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「アカデミーって、やったら広いんだよ」

というのが、リリアという少女の意見である。
彼女は、いつの間にやらヴァネッサの隣を陣取り、てくてくと歩いている。
どうやら、すっかり『仲良し』と見なしたらしい。
正直に言うと、同年代の女の子と話す機会があまりなく、同性の友人というものがで
きるかどうか心配していたヴァネッサは、ホッとしていた。

「あたしね、入ってからしばらく、アカデミーを歩いてると絶対食堂に到着しちゃっ
て。変だよねー」
「そりゃ、お前が食欲魔人だからだろ」
ぼそりと後ろから指摘する声。
リックである。
こちらは二人の後を、アベルと共についていく形で歩いている。
横に並んでいるわけではないが、近い位置を歩いているところから、取りあえず嫌っ
ているわけではなさそうである。
「にゃにをー!」
リックの言い様にリリアがカチンと来たらしく、立ち止まってバッと振り向く。
「ほいほい」
出来の悪い妹を扱うがごとく、リックはムキになって向かってくるリリアのおでこを
押さえ、前進を阻止した。
リリアは両手を必死で伸ばして攻撃を試みるが、手が届かないので、おでこを押さえ
られて腕をじたばたする、ただの間抜けな行動を取ることになった。

「いい加減学習しろよなー……」

リックは空いている片手で己の額を押さえ、あきれた声で呟く。
「あやまれリックー!」
「ほいほい、悪ぅござんした」
言葉の割にはちっとも謝罪するような態度ではないリックは、リリアのおでこから手
を離し、ぺたぺた、と軽く叩いた。
リリアはおでこを押さえ、「うー」とリックを睨むように見上げている。

「……なんだか、慣れてるね」

ヴァネッサは、そんな様子をちょっと微笑ましいと思った。
なんというのか、仲の良さが伝わってくるやり取りのように思えたから。
「まあなー。こいつ、初対面の時からこうだったから」
リックはからりとした笑顔を見せ、
「そんじゃリリア、まず得意な食堂から案内してやったらどうだー?」
にやにやとちょっと意地悪い笑みをリリアに向けた。
「うぐぐ……っ」
リリアはしばし、何やら言い返す言葉を考えていたが、やがて妙案が浮かんだのだろ
う、その目をキラリと一瞬輝かせた。

「何さ、リックだってしょっちゅう壁に向かってしゃべってるネクラ男のくせにー
!」

その瞬間、アベルがギョッとしたというか、ハッとしたというか、何か思い当たるフ
シのある気配を見せた。
「……アベル君、どうしたの?」
「い、いや……」
ガリガリ、と頭をかく。
「なんでもない」
「……?」
ヴァネッサは、珍しくはっきりしないアベルの態度に首をかしげた。

「ネクラとは何だよネクラとはっ!」
今度はリックがムキになる。
ネクラ発言には寛容になれないらしい。
「ふっふーんだ。壁に向かってしゃべってるのはホントでしょ~」
「あ、あのなぁっ」
「ほら、否定できないじゃーん」

あっという間に形勢逆転である。
……二人は、おそらくこんなことを長いこと繰り返しているのだろう。
そこに恋愛感情的なものがあるかどうか、とちょっと気にするヴァネッサは、やはり
年頃の少女である。

「だいたい、俺のは仮にネクラだとしても、お前ほど影響はないからな。お前は物凄
い方向音痴じゃねえか。いいのか? 冒険者が方向音痴で。どっかの迷宮で迷ったり
したらオシマイだぜ」
「ふんだっ、目印つければ大丈夫だもんっ。それよりネクラの方が、迷宮で迷った時
に精神的にまいっちゃうじゃない。もう俺おしまいだーいやだー動きたくないーっ
て、きっと諦めて飢え死によ!」
「お~ま~え~な~……っ」

放っておくと、いつまでもやっていそうな雰囲気である。
おそらく、完全にアベルとヴァネッサのことを忘れているだろう。

「あ、あの……案内、頼んでいいのかな……?」
おずおずと声をかけてみると、二人はハタと動きを止めた。
「あ、ごっめーん。忘れてた。行こ行こ」
パッと気分を切り替えたリリアは、ヴァネッサの手を取ると、元気な笑顔を見せて歩
き出した。

「あのね、アカデミーの食堂ってね、学生参加なんだよ」
「え? 食堂で働いてる人がいるんじゃないの?」
「うん。食堂で働いてる人もいるんだけど、学生も申請すれば働かせてくれるんだっ
て。学費を稼ぎたいけど、外に働きに行く暇がない人とか、外で稼ぐより、知ってる
人がいる学校で稼ぎたいっていう人が働いてるんだって」

食堂に近付いていることは、匂いでわかる。
なんともおいしそうな揚げ物やスープの匂いが入り混じり、こちらに漂ってくるの
だ。
お昼ご飯にはまだ早い時間だが、おいしそうな匂いをかぐと、急に空腹感を覚えるの
は何故だろうか。

「そういえば、二人って学費どうしてるの? 親が払ってくれてるとか?」
リリアが小首をかしげている。
ヴァネッサは、ふるふる、と首を横に振った。
「ううん、自分で稼ぐよ」
「えーっ、どこどこ、どこで稼ぐのっ?」
「あの、せせらぎ亭って知ってる……?」
「せせらぎ亭? あの煮込み料理のおいしいトコ?」
どうやら、ウサギの女将の店の評判は本物のようだ。
これから自分が下宿して働くところと考えると、ちょっと嬉しいヴァネッサである。
「うん……そこで下宿しながら、働かせてもらって、学費を稼ぐの」
ね?と、リリアの会話スピードについて行けていないアベルを気遣って見ると、彼は
なんとなく苦笑いしながら頷いた。
アベルは、よくしゃべる女の子という生き物に不慣れで、戸惑っているのかもしれな
い。
同年代の女の子といえば、おとなしいヴァネッサしかいなかったから。

「わーっ、じゃあ、あたし常連さんになって、売り上げに貢献してあげるっ! でも
額は期待しないでね、貧乏学生なんだから」
リリアは、茶目っ気たっぷりにウィンクをしている。
(カワイイなあ……)
なんというか、じゃれてくる子猫のような可愛らしさをヴァネッサは感じていた。
そう、子猫のような気配を。
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2007/02/12 21:45 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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