PC:アベル ヴァネッサ
NPC:リリア リック 胸像
場所:エドランス国 アカデミー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「じゃーん。次は図書館にてございまーす」
すっかり案内役と化したリリアが、次に案内したのはアカデミー内にある図書館。
これは少々特殊な場所で、アカデミーの敷地内に独立して建てられている。
何故図書館に来ているのかというと、次に行きたいところがあるかと尋ねられた際、
横のリックが「あ、本返しに行かなきゃ」と呟いたため。
アベルかヴァネッサが返答する前に、リリアによって「じゃあ図書館行こう!」と決
定されたのである。
――別段、文句はなかったが。
図書館は石の土台を組んだ上に建てられていて、出入り口である巨大な両開きの扉の
前には階段がある。
階段を上ると太い石の柱が両脇に並んだ扉の前に辿りつく。
中は二階建てだが吹きぬけになっており、天井が高く感じられる。
広間のような一階中央部分には、巨大な机がずらりと並び、読書をする者や、本を見
ながら書きものをしている者、絵本を読む親子などがそれぞれそっと距離を置いて思
い思いの過ごし方をしていた。
壁には本棚が隙間なく並び、その前を本を探す者が歩いている。
静かで厳かな空気の中にただよう、古い書物の匂い。
時折交わされる短い言葉が、すうっと壁や床に吸いこまれて消えていくような雰囲
気。
独特な場所であった。
「じゃ、ちょっと本を返してくるから」
リックは図書館に入るなり、一人ずんずんと歩いていってしまった。
その行く先を目で追うと、木製のカウンターに座っている女性のもとに近寄り、本を
差し出して何やら二言、三言言葉を交わしている。
「あ。そうだ」
リリアは、くるっと振り向いた。
「ねえ、アベル。ちょっとこれ叩いてみてよ」
そう言って指差したのは、一体の胸像である。
出入り口のすぐそばに置かれたそれは、ちょうどリリアの背丈ほどの高さだった。
上半身裸の男性で、たくましい筋肉を惜しげもなくさらしている。
しかし、どういうわけか頭は牛であった。
牛の頭のかぶり物をかぶっているのかと思い、ヴァネッサは観察してみたが、やはり
かぶり物などではなかった。
(えぇと……何ていう魔物だったかな……)
昔、ランバートに見せてもらった図鑑の内容を、ヴァネッサは必死に思い出してい
た。
図鑑の中で、こんな魔物を見た記憶が、うっすらと残っていたのだ。
そう、確かこれは……
(ミノタウロス……?)
そう結論づけようとして、ヴァネッサはやめた。
あれは確か、迷宮にいるという魔物ではないか。
それが図書館に、しかも胸像として存在しているのは何だかおかしい。
「叩けって……いいのかよ?」
一方、胸像を見つめ、アベルは首を傾げている。
物は大事にしなさい、と日頃カタリナに教えられてきた性分が出ていた。
「いいからいいから。軽くね」
「いいのか…なぁ……?」
アベルは、うーん、と悩んだ末……
ぴちっ。
その額に、デコピンを食らわした。
「こらああああ!!」
突然、男の怒鳴り声が雷のように空気をつんざいた。
「きゃっ」
ヴァネッサは思わず身をすくめ、アベルは顔を引きつらせて固まっていた。
――館内の視線が集中していることに気付くほどの余裕は、ない。
「馬鹿者! 私の額を指ではじくとは、一体何を考えている!」
よく見ると、怒鳴り声を上げているのは……眼前の胸像であった。
「や、やだっ……石像がしゃべってる!」
慌てるヴァネッサに、リリアはぱっと両手を広げて笑顔を見せた。
「えっへへー。これってね、ただの像じゃないんだ。図書館の守り主っていうか、管
理人っていうか、番人ていうか、そんなところなのね」
「そんなのまであるんだ……」
「うん。さっき、リックが本を返しに行ったでしょ? あそこで本を借りたり返した
りする手続きをするの。そんで、ここってね、一般にも開放してるのね。でも、ここ
の本って、国の物ってことになってるの。だから、本を無断で持ち出されたり、返し
てくれなかったりすると困るから、こうやって番人を置いてるのよ」
「無断で本を持っていこうとすると、どうなるんだ?」
「うん? 出口で番人が捕まえちゃうよ。それで、返してくれなかった人のところに
は司書の人が直接取りに行くの。……無断で本を持ち出そうとするとどうなるか、見
たい?」
いたずらっぽく笑うリリアに、二人は、申し合わせたわけではないが、同時に「い
い」と断った。
かたや、胸像はリリアをじろりと睨む。
牛の頭であり、牛の顔なのだから、怒っているのかどうかなんて区別がつきそうにな
いのだが、何故か今の『彼』はヴァネッサにも『怒っている』とわかった。
「……リリアとかいったな。いい加減私で遊ぶのはやめてもらおうか。私には全うす
べき任務があるのだ」
「だって、新しく入った人にはちゃーんと説明しなくっちゃ」
「だからと言って、何もこんなことをさせなくても良いだろう」
「やっだー、そんな怒らないでよー。あんまり怒ってると、眉間にシワがよって、石
が欠けちゃうかもよー?」
人間と胸像が、ごく普通の友人のように話をしている。
(リリアちゃんって……実はすごいのかも……)
それとも、慣れてしまえば皆このようになるものだろうか?
とてもそこまで打ち解ける自信のないヴァネッサであった。
「とにかく……少年。今後、このようなことをしないように」
「やだー。愛想わるーい」
後は普通の胸像に戻った『彼』に、リリアはぶーぶーと口をとがらせていた。
NPC:リリア リック 胸像
場所:エドランス国 アカデミー
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「じゃーん。次は図書館にてございまーす」
すっかり案内役と化したリリアが、次に案内したのはアカデミー内にある図書館。
これは少々特殊な場所で、アカデミーの敷地内に独立して建てられている。
何故図書館に来ているのかというと、次に行きたいところがあるかと尋ねられた際、
横のリックが「あ、本返しに行かなきゃ」と呟いたため。
アベルかヴァネッサが返答する前に、リリアによって「じゃあ図書館行こう!」と決
定されたのである。
――別段、文句はなかったが。
図書館は石の土台を組んだ上に建てられていて、出入り口である巨大な両開きの扉の
前には階段がある。
階段を上ると太い石の柱が両脇に並んだ扉の前に辿りつく。
中は二階建てだが吹きぬけになっており、天井が高く感じられる。
広間のような一階中央部分には、巨大な机がずらりと並び、読書をする者や、本を見
ながら書きものをしている者、絵本を読む親子などがそれぞれそっと距離を置いて思
い思いの過ごし方をしていた。
壁には本棚が隙間なく並び、その前を本を探す者が歩いている。
静かで厳かな空気の中にただよう、古い書物の匂い。
時折交わされる短い言葉が、すうっと壁や床に吸いこまれて消えていくような雰囲
気。
独特な場所であった。
「じゃ、ちょっと本を返してくるから」
リックは図書館に入るなり、一人ずんずんと歩いていってしまった。
その行く先を目で追うと、木製のカウンターに座っている女性のもとに近寄り、本を
差し出して何やら二言、三言言葉を交わしている。
「あ。そうだ」
リリアは、くるっと振り向いた。
「ねえ、アベル。ちょっとこれ叩いてみてよ」
そう言って指差したのは、一体の胸像である。
出入り口のすぐそばに置かれたそれは、ちょうどリリアの背丈ほどの高さだった。
上半身裸の男性で、たくましい筋肉を惜しげもなくさらしている。
しかし、どういうわけか頭は牛であった。
牛の頭のかぶり物をかぶっているのかと思い、ヴァネッサは観察してみたが、やはり
かぶり物などではなかった。
(えぇと……何ていう魔物だったかな……)
昔、ランバートに見せてもらった図鑑の内容を、ヴァネッサは必死に思い出してい
た。
図鑑の中で、こんな魔物を見た記憶が、うっすらと残っていたのだ。
そう、確かこれは……
(ミノタウロス……?)
そう結論づけようとして、ヴァネッサはやめた。
あれは確か、迷宮にいるという魔物ではないか。
それが図書館に、しかも胸像として存在しているのは何だかおかしい。
「叩けって……いいのかよ?」
一方、胸像を見つめ、アベルは首を傾げている。
物は大事にしなさい、と日頃カタリナに教えられてきた性分が出ていた。
「いいからいいから。軽くね」
「いいのか…なぁ……?」
アベルは、うーん、と悩んだ末……
ぴちっ。
その額に、デコピンを食らわした。
「こらああああ!!」
突然、男の怒鳴り声が雷のように空気をつんざいた。
「きゃっ」
ヴァネッサは思わず身をすくめ、アベルは顔を引きつらせて固まっていた。
――館内の視線が集中していることに気付くほどの余裕は、ない。
「馬鹿者! 私の額を指ではじくとは、一体何を考えている!」
よく見ると、怒鳴り声を上げているのは……眼前の胸像であった。
「や、やだっ……石像がしゃべってる!」
慌てるヴァネッサに、リリアはぱっと両手を広げて笑顔を見せた。
「えっへへー。これってね、ただの像じゃないんだ。図書館の守り主っていうか、管
理人っていうか、番人ていうか、そんなところなのね」
「そんなのまであるんだ……」
「うん。さっき、リックが本を返しに行ったでしょ? あそこで本を借りたり返した
りする手続きをするの。そんで、ここってね、一般にも開放してるのね。でも、ここ
の本って、国の物ってことになってるの。だから、本を無断で持ち出されたり、返し
てくれなかったりすると困るから、こうやって番人を置いてるのよ」
「無断で本を持っていこうとすると、どうなるんだ?」
「うん? 出口で番人が捕まえちゃうよ。それで、返してくれなかった人のところに
は司書の人が直接取りに行くの。……無断で本を持ち出そうとするとどうなるか、見
たい?」
いたずらっぽく笑うリリアに、二人は、申し合わせたわけではないが、同時に「い
い」と断った。
かたや、胸像はリリアをじろりと睨む。
牛の頭であり、牛の顔なのだから、怒っているのかどうかなんて区別がつきそうにな
いのだが、何故か今の『彼』はヴァネッサにも『怒っている』とわかった。
「……リリアとかいったな。いい加減私で遊ぶのはやめてもらおうか。私には全うす
べき任務があるのだ」
「だって、新しく入った人にはちゃーんと説明しなくっちゃ」
「だからと言って、何もこんなことをさせなくても良いだろう」
「やっだー、そんな怒らないでよー。あんまり怒ってると、眉間にシワがよって、石
が欠けちゃうかもよー?」
人間と胸像が、ごく普通の友人のように話をしている。
(リリアちゃんって……実はすごいのかも……)
それとも、慣れてしまえば皆このようになるものだろうか?
とてもそこまで打ち解ける自信のないヴァネッサであった。
「とにかく……少年。今後、このようなことをしないように」
「やだー。愛想わるーい」
後は普通の胸像に戻った『彼』に、リリアはぶーぶーと口をとがらせていた。
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