PC:アベル ヴァネッサ
NPC:リリア リック ギア ランバート
場所:エドランス国 アカデミー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「師匠」
長い廊下の前方に見知った背中を見かけて、ギアは声をかけた。
その声に、相手――ランバートはゆっくりと振り向く。
「ギアか……」
それから、シワの深く刻まれた目元をゆるめた。
「ギサガ村で話をしたのが、随分前の事のように思えるのぅ」
その目は、なつかしむように遠くを見つめていた。
が、すぐに意識をを現実に戻し、顔つきを引き締める。
「お前がいるということは、あの二人もアカデミーに来たということじゃな」
「師匠、ラズロも忘れないでくださいよ」
「そうじゃったな」
ランバートはほんの少し、苦笑いを浮かべる。
「……ギア」
「はい?」
「運命とは、何なのじゃろうな」
「ヴァネッサのこと、ですか?」
「……そうなのかもしれん。違うのかもしれん。頭の中がゴチャゴチャとして、よく
わからんのじゃよ……」
悩みのためか、シワが深くなったように見える。
「師匠……」
「わしは、ヴァネッサの両親のことを知っておる。そして……祖父母のことも。彼ら
は皆、呪いというものに立ち向かいながら、結局は次の世代に引き継いだまま、死ん
でいったのじゃ。わしは……わしは恐ろしくてたまらん。またしても呪いを克服でき
ず、次の世代に引き継いでしまうだけに終わるのではないかと思うと……わしは、三
代にわたる悲劇の目撃者になるのではないか……そんな気がしてならんのじゃ……」
「師匠、悲劇に終わるかどうかは、まだわかりませんよ」
目を閉じ、頭を軽く振り――ギアにはそれだけしか言えなかった。
一方、こちらはギルドが出している店を覗いている四人である。
教えると言うほどのこともないが、取りあえず覗いていこうというような感じで、置
いてある品を眺めている。
「ここで扱ってるのはねー、マジックアイテムとか、武器とか、あんまり重たくない
防具とか、そんなとこだよ」
綺麗な飾りのついた道具に目を奪われながら、リリアは言う。
「マジックアイテムって……?」
聞きなれない言葉にアベルとヴァネッサはきょとんとする。
「うんとね、あたしも実はよく知らないんだけど、なんだか魔法の効果を封じこめた
道具らしいよ。使うと、その魔法を使ったときと同じ効果があるんだって」
「要するに、魔法が使えないやつが持つ物だな。ただし、効果はあまり強くないから
な」
リリアの説明をリックが補う。
「でもね、その分、お金は高いのよ」
神妙な顔つきで頷くリリア。
「そんでね、時々だけど、在庫セールしたりするの。いつまでも買い手がつかなくて
残ってるやつとか、大量に仕入れたけど売りさばききれてないやつとか、さっき言っ
た『教室』で作ったやつを破格で売ったりとか。でもさ、すんごい混むんだよ」
「せめて、取り置きしてくれたらいいんだけどな……」
リックが、心からの本音を呟いた。
「ところで、ヴァネッサって、お買い物好き?」
一転、ぱっと明るい表情でリリアが聞く。
「うーん……嫌いじゃないけど……」
「けど?」
「村で買い物ができるところって、なかったの。たまに行商の人が来た時に、品物を
見せてもらうぐらいで……だから、あまり慣れてないっていうか」
ギサガ村には、店がない。
二人が育ったところは宿兼酒場であって店というものとは違うし、商品というものは
なかった。
もしかしたら、傷薬程度のものなら置いていたのかもしれないが、出番というものが
ないあまり、忘れ去られていたのかもしれない。
また、食料に関してはほとんど自給自足で補っていた。
自分の家の畑で作物を育て、牧場で牛や羊などを育ててその乳を採取して加工したり
する、実につつましい食生活である。
時折、近所どうしで交換しあったりして融通していたが、あれは物々交換というべき
で、売買とは言えない。
そんな村で育ったヴァネッサが唯一知る売買行為が、行商である。
どうしても自給自足できない物……皿やシーツなどの日用品を、カタリナは時折やっ
て来る行商人から買っていたのである。
ただ、これもあまり種類がなく、「次に来る時にこれを持って来て」と言っておかな
いと、いつも似たような品揃えであった。
ちなみに、他の村人ならば、どうしても必要なものがある場合、遠い隣町まで出かけ
ていくことはあった。
カタリナが行商を利用していたのは、店を空けて出かけることができないためであ
る。
「じゃあ、服とかはどうしてるのよ? おしゃれしたいじゃない」
リリアは首を傾げている。
「小さい時はお義母さんが作ってくれてたよ。大きくなってからは、近所の人に頼ん
で作ってもらったりしたの。昔、王都で仕立て屋さんをしてたっていう人がいたか
ら、お金とか食料とかを渡して、それで作ってもらっていたの。古着を持っていく
と、それで作りなおしてくれたりもしていたよ」
「へえ~。でもいいわねぇ、そういう暮らしも」
「そう……?」
「なんか、のんびりしてそうでいいじゃない。私、将来ギサガ村に住もうかなー」
女子二人がそんな会話をする横で、アベルは、カウンター奥の壁にかけられた剣を見
つめていた。
「どうした?」
気付いたリックは声をかけ、その方向へと視線をやり――
「あの剣か、目が高いな」
感心したように頷いた。
「ああ、あれ、高いのか?」
「値段もあるけど、ちょっと違うぞ。あれは今まで誰にも売られたことがない剣なん
だ」
「何だそれ?」
「アカデミーで作られたものなんだけど、たった一本じゃ売るに売れないし、それに
何やら物凄い切れ味とかで、扱える奴がいなかったらしい。だから今はアカデミーの
長の物ってことになってる」
「へぇ~……凄いんだな」
アベルは素直に感想を述べる。
そんなアベルに、リックは挑むように笑みを浮かべた。
「欲しいか?」
「え?」
「一応、アカデミーの長は納得する剣の腕と心の持ち主にこの剣を渡すつもりらし
い。だから、頑張ればお前のものになるかもな。ただ、この剣が出来てから数十年
間、ずっと、該当する奴がいなかったわけだから……その道は恐ろしく険しいと、そ
ういうことだ」
ぽん、とリックはアベルの肩を叩く。
「ふーん……」
アベルは、ぼんやりと呟いた。
「何してるのよ、二人とも」
そこへ、がば、とリリアがアベルとリックの間に割り込み、両脇に頭を抱え込む。
ヴァネッサには真似のできないコミュニケーションの取り方である。
「そろそろ帰ろ? 案内なら一通り終わったし」
「その前に講座の受け付けを済ませた方がいいんじゃないか?」
「それもそうね。じゃ、移動移動~っ」
元気なリリアに先導される形で、四人は移動することになった。
NPC:リリア リック ギア ランバート
場所:エドランス国 アカデミー
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「師匠」
長い廊下の前方に見知った背中を見かけて、ギアは声をかけた。
その声に、相手――ランバートはゆっくりと振り向く。
「ギアか……」
それから、シワの深く刻まれた目元をゆるめた。
「ギサガ村で話をしたのが、随分前の事のように思えるのぅ」
その目は、なつかしむように遠くを見つめていた。
が、すぐに意識をを現実に戻し、顔つきを引き締める。
「お前がいるということは、あの二人もアカデミーに来たということじゃな」
「師匠、ラズロも忘れないでくださいよ」
「そうじゃったな」
ランバートはほんの少し、苦笑いを浮かべる。
「……ギア」
「はい?」
「運命とは、何なのじゃろうな」
「ヴァネッサのこと、ですか?」
「……そうなのかもしれん。違うのかもしれん。頭の中がゴチャゴチャとして、よく
わからんのじゃよ……」
悩みのためか、シワが深くなったように見える。
「師匠……」
「わしは、ヴァネッサの両親のことを知っておる。そして……祖父母のことも。彼ら
は皆、呪いというものに立ち向かいながら、結局は次の世代に引き継いだまま、死ん
でいったのじゃ。わしは……わしは恐ろしくてたまらん。またしても呪いを克服でき
ず、次の世代に引き継いでしまうだけに終わるのではないかと思うと……わしは、三
代にわたる悲劇の目撃者になるのではないか……そんな気がしてならんのじゃ……」
「師匠、悲劇に終わるかどうかは、まだわかりませんよ」
目を閉じ、頭を軽く振り――ギアにはそれだけしか言えなかった。
一方、こちらはギルドが出している店を覗いている四人である。
教えると言うほどのこともないが、取りあえず覗いていこうというような感じで、置
いてある品を眺めている。
「ここで扱ってるのはねー、マジックアイテムとか、武器とか、あんまり重たくない
防具とか、そんなとこだよ」
綺麗な飾りのついた道具に目を奪われながら、リリアは言う。
「マジックアイテムって……?」
聞きなれない言葉にアベルとヴァネッサはきょとんとする。
「うんとね、あたしも実はよく知らないんだけど、なんだか魔法の効果を封じこめた
道具らしいよ。使うと、その魔法を使ったときと同じ効果があるんだって」
「要するに、魔法が使えないやつが持つ物だな。ただし、効果はあまり強くないから
な」
リリアの説明をリックが補う。
「でもね、その分、お金は高いのよ」
神妙な顔つきで頷くリリア。
「そんでね、時々だけど、在庫セールしたりするの。いつまでも買い手がつかなくて
残ってるやつとか、大量に仕入れたけど売りさばききれてないやつとか、さっき言っ
た『教室』で作ったやつを破格で売ったりとか。でもさ、すんごい混むんだよ」
「せめて、取り置きしてくれたらいいんだけどな……」
リックが、心からの本音を呟いた。
「ところで、ヴァネッサって、お買い物好き?」
一転、ぱっと明るい表情でリリアが聞く。
「うーん……嫌いじゃないけど……」
「けど?」
「村で買い物ができるところって、なかったの。たまに行商の人が来た時に、品物を
見せてもらうぐらいで……だから、あまり慣れてないっていうか」
ギサガ村には、店がない。
二人が育ったところは宿兼酒場であって店というものとは違うし、商品というものは
なかった。
もしかしたら、傷薬程度のものなら置いていたのかもしれないが、出番というものが
ないあまり、忘れ去られていたのかもしれない。
また、食料に関してはほとんど自給自足で補っていた。
自分の家の畑で作物を育て、牧場で牛や羊などを育ててその乳を採取して加工したり
する、実につつましい食生活である。
時折、近所どうしで交換しあったりして融通していたが、あれは物々交換というべき
で、売買とは言えない。
そんな村で育ったヴァネッサが唯一知る売買行為が、行商である。
どうしても自給自足できない物……皿やシーツなどの日用品を、カタリナは時折やっ
て来る行商人から買っていたのである。
ただ、これもあまり種類がなく、「次に来る時にこれを持って来て」と言っておかな
いと、いつも似たような品揃えであった。
ちなみに、他の村人ならば、どうしても必要なものがある場合、遠い隣町まで出かけ
ていくことはあった。
カタリナが行商を利用していたのは、店を空けて出かけることができないためであ
る。
「じゃあ、服とかはどうしてるのよ? おしゃれしたいじゃない」
リリアは首を傾げている。
「小さい時はお義母さんが作ってくれてたよ。大きくなってからは、近所の人に頼ん
で作ってもらったりしたの。昔、王都で仕立て屋さんをしてたっていう人がいたか
ら、お金とか食料とかを渡して、それで作ってもらっていたの。古着を持っていく
と、それで作りなおしてくれたりもしていたよ」
「へえ~。でもいいわねぇ、そういう暮らしも」
「そう……?」
「なんか、のんびりしてそうでいいじゃない。私、将来ギサガ村に住もうかなー」
女子二人がそんな会話をする横で、アベルは、カウンター奥の壁にかけられた剣を見
つめていた。
「どうした?」
気付いたリックは声をかけ、その方向へと視線をやり――
「あの剣か、目が高いな」
感心したように頷いた。
「ああ、あれ、高いのか?」
「値段もあるけど、ちょっと違うぞ。あれは今まで誰にも売られたことがない剣なん
だ」
「何だそれ?」
「アカデミーで作られたものなんだけど、たった一本じゃ売るに売れないし、それに
何やら物凄い切れ味とかで、扱える奴がいなかったらしい。だから今はアカデミーの
長の物ってことになってる」
「へぇ~……凄いんだな」
アベルは素直に感想を述べる。
そんなアベルに、リックは挑むように笑みを浮かべた。
「欲しいか?」
「え?」
「一応、アカデミーの長は納得する剣の腕と心の持ち主にこの剣を渡すつもりらし
い。だから、頑張ればお前のものになるかもな。ただ、この剣が出来てから数十年
間、ずっと、該当する奴がいなかったわけだから……その道は恐ろしく険しいと、そ
ういうことだ」
ぽん、とリックはアベルの肩を叩く。
「ふーん……」
アベルは、ぼんやりと呟いた。
「何してるのよ、二人とも」
そこへ、がば、とリリアがアベルとリックの間に割り込み、両脇に頭を抱え込む。
ヴァネッサには真似のできないコミュニケーションの取り方である。
「そろそろ帰ろ? 案内なら一通り終わったし」
「その前に講座の受け付けを済ませた方がいいんじゃないか?」
「それもそうね。じゃ、移動移動~っ」
元気なリリアに先導される形で、四人は移動することになった。
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