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2024/05/21 13:24 |
紫陽花/セシル(小林悠輝)
PC  :クランティーニ セシル フロウ イヴァン
場所  :ポポル
NPC :フィーク フィル・パンドゥール
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「あの人が猫さんですか?」

「まったく時間の数え方から始めればいいってのか?」

 フロウが的外れな問いを誰かに発したのに被せて、別の声が聞こえた。
 奇妙な口調とアクセントだったが、だいたいそんな感じの声だったと思う。
 青ローブの奥の唇が引き結ばれたままだったのを見ていたセシルは、周囲を見渡して、
他にそれらしい人物がいないことを確認してから僅かによろめくと、小さく唸った。

「俺もう駄目かもしんない。幻聴が聞こえた」

「幻聴じゃないですよー。
 猫さんのお友達さんみたいです」

 フロウが暢気に言いながら青ローブの足元を指差す。
 奇妙に盛り上がった影が立ち上がるのが見えた。

 物理法則とかそういう常識的なものをあっさりと無視したそれは、先にゴールしたば
かりに標的にされたらしいクランティーニに向かって、何かを捲くし立てている。
 早口過ぎて、直接言われているわけではないセシルには聞き取れなかったが。
 妖精は意外と要領がいいのか、しっかり逃げていた。

「……フィル」

 青ローブが低く呟いた途端に影は口を噤んだ。
 不満げに彼を仰ぎ、一言、ぽつりとこぼす。

「旦那がいいんならいいけどよォ」

 投げやりな諫めなのか、或いは自分がうるさいと思ったから止めたに過ぎないのか。
どちらにしろ影は渋々と主に従い地面に落ちて、それきり静かになった。

「まぁ、そーいうわけで、今日からよろしく」

 クランティーニの言葉に青ローブが頷く。
 その背後に佇んでいる馬車が、今回の仕事の“荷物”なのだろう。それは外観からし
て、明らかに常軌を逸していた――少なくとも、こんな街中にあるようなものではない。

 軍用といえばしっくりくるような厳つい金属の装甲は「ヤバいものが入っています」
叫んでいるようだ。特別に訓練されていそうな体格のいい二頭の馬が、妙にスレた目つ
きで周囲を睥睨していた。

 ……ああそういえばこいつら何気にA級だっけ。

 青ローブはともかく、クランティーニにはそういう雰囲気がないから、忘れかけてい
た。この男がどうしてそんな上位の仕事に自分たちまで誘ったのかはわからないけど。
フロウはクーロンに用があるらしいから。じゃあ……俺は?
 まぁいいや。こいつの考えが読めないのはいつものことだし。深い意味なんかないの
かも知れない。

 とりあえず、とっても素敵な旅になりそうだということはよくわかった。
 生きて目的地に辿り付ければいいな。そしたらしばらく危ないこととは無関係に過ご
してやる。いちど家に帰るのも悪くないかも。

 空き巣に入られたところで、めぼしい物はすべて金に換えたあとだけど、たまには手
入れをしてやらないと、人のいない建物は傷むから……
 あの馬鹿兄はそんなこと思いつきもしなさそうから、自分が掃除しなければいけない。





 天気はよかった。季節を考えれば少し強すぎる日の光の下を行く馬車と、すれ違う者
はあまりない。もう使われていないような道が明るい青空から太陽に見下ろされながら
続いているのは、逆に寂れた雰囲気を際立たせているだけだった。

(明らかにコッソリコースだよなぁコレ)

 予想していなかったことではないのだが。乗り心地や印象といった一般感覚を限界ま
で排除して代わりに物騒な役割に特化した馬車。変人ばかりのA級ハンター。
 蒼烈の彗星は滅多に喋らないからよくわからないけれど。

 ここまでの備えをしないといけないような状況というのはあまり想像できなかった。
ヤバすぎる、ということしか。

 フロウの帽子の上に座っている妖精に視線を移す。実はまだ名前を覚えていないなん
てとても言えたものではないが、知っていても呼ばないから関係ないといえば関係ない。

「何見てんだよ」

「え? ……ああ、別に」

 いきなりくるりと振り向いて言われたので、思わず間抜けな声が出た。
 今いるメンツをなんとなく見渡しただけで本当に用はない。確かに退屈だからちょっ
かいかけるのも悪くないかも知れないけど。

「……そういえばお前、キツそうだけど大丈夫?」

 とセシルが続けたのは別に何かを考えてのことではなかったが、妖精は驚いたように
目を見開いた。

「うっわぁ人のこと心配するなんて悪いもの食べた?」

「…………小さい虫には、この揺れは、たいそう辛かろうと思ってな」

「だからまた虫って言う! お前ゼッタイ友達いないだろ!」

「いねェし。悪いかよ」

「うわ認めた! ねぇフロウこいつ痛いよ!」

「テメエこそ痛ェ呼ばわりすんじゃね…っえよ!!」

「え? どっか痛いんですか?」

 意味を勘違いして心配そうに覗き込んでくるフロウに、セシルはわずかに体を引いて
目を逸らす。
 近くで苦笑の気配がしたから見てみれば、金髪の方の変人が笑っていた。

「舌噛まないように気をつけろよ」

「大丈夫ですよ」

 にこにこと笑いながらフロウが応える。セシルは無言のまま顔をしかめた。叫んだと
きに実際に噛んでしまって痛いから表情を誤魔化しただけだが。

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2007/02/12 22:25 | Comments(0) | TrackBack() | ▲紫陽花

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