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2024/05/21 17:06 |
紫陽花 其の弐/クランティーニ(生物)
PC:クランティーニ・ブランシュ セシル・カース フロウリッド・ファーレン
イヴァン・ルシャヴナ
場所:ポポル付近・裏街道
NPC:フィーク フィル・パンデゥール フィール・マグラルド 五代目志士川茣蓙衛
門 その他色々(ぉ)


 一台の馬車が木漏れ日の中を緩やかに進んで行く。極々普通の光景だが、それは普
通の馬車で普通の街道であればの話だ。
 馬車にはこれでもかというほど幾重にも頑丈に張られた鉄板、前後に一つだけしか
ない空気を入れるための窓も無い、空気入れのための細い隙間が前後についているだ
けだ。極悪犯の護送車、もしくは軍用の重要物資搬送用の物にも似たなんとも厳つい
馬車であった。
 大陸に張り巡らされた街道の中には、捨てられた道も多い。今、この厳つい馬車が
行く道も捨てられた一つ街道だった。この光景が普通だと言い張れる人物はよほどの
大物か、もしくは……。
「それじゃあ、私はこれで」
 御者台に座った男はそう言うと地面に降りた。今まで色々な馬車を走らせてきたが
これほど乗り心地が悪い物は初めてだった。
「ごくろうさん」
 金髪碧眼の優男が人懐っこい微笑みを浮かべて御者に金貨を二枚ほど手渡した。こ
こまでの賃金、ということなのだろう。朝方にポポルを出立してからまだ四半日ほど
しか走っていない、それでこの金額というのはかなりヤバイ物を運んでいるのだろ
う。
 あの中の誰かが極悪犯か、それともよほどの物があの荷台の中には入っているのだ
ろう。金貨を懐の財布にしまいながら御者の男はそこで想像を中断した。
 先ほどの金貨は口止め料込みだろう、出なければたった四半日で金貨二枚はボロ過
ぎる。そもそも、すでに廃棄された街道を、こんな厳つい馬車で進んでいるのだ、危
ないに決まっている。こういう仕事の時はさっさと街に戻って酒でも飲んで忘れるに
限る。それが代行御者の鉄則である。
「あれ、御者さん帰っちゃうのですか?」
 小首を傾げてフロウは去っていく御者の姿を見送る。
「こっからは俺達だけ。そういう仕事だからね」
 不思議そうな表情のフロウリッドに、御者を見送りながらクランティーニはやはり
笑顔で応えた。
「代わりは誰がやるんだよ」
 腰を伸ばしていたセシルが尋ねる。ポポルから四半日ほど離れた場所で、御者は帰
ってしまった。捨てられた名も無き街道であるこの道には町や村は無い。代わりの御
者を雇う場など無い。
「それは俺」
 口に銜えたタバコに火をつけながらクランティーニは言った。
「なんで?」
 疑いの眼差しでセシルはクランティーニを見やる。どうもいつまで経っても疑われ
ているらしい。今までの経緯からならしょうがないかもしれないが。
「荷台の中が煙たくなってもいいなら交代でやるか?」
 タバコをくゆらせながら微笑むクランティーニ、セシルはその顔をうんざりした顔
で睨むと、小さくため息をついた。どうやら納得したようだ。
「私も御者さんやりたいのです!」
 元気よくフロウリッドが手を上げる。その肩でフィークが肩をすくめて首を横に振
っている。止めとけ、と言いたいらしい。
「まあ、クーロンが近くなってからね」
 クランティーニは微苦笑して言った。
「で、クーロンまでこの厳つい馬車でいくのか?」
 後の馬車を指しながら嫌そうな顔で言う。はっきり言って乗り心地最悪である。や
たら揺れるわ、椅子はやたら硬いわで、長時間乗るのはお断りな馬車だ。セシルの気
持ちもわからなくは無い。
「ま、しょーがないさ。あの人の趣味だし」
 表情は相変わらず笑っているが、苦笑の色合いが強かった。
「趣味? 依頼人のか? アホか」
 セシルは吐き捨てるように言う。依頼人には直接会ってはいないが、どうせ神経質
そうなオッサンだろうと勝手に決め付ける。
「でもよぉ、これにずーっと乗って行くのはなぁ……」
 馬車の周りをぐるぐる回っていたフィークが「うー」と唸る。
「あっしもだぜ。この馬車、魔封じの術がかかってやがる」
 木陰でぼけーっとしているイヴァンの影がゆらゆらと立ち上がる。
「なんでもコンセプトは『ドラゴンがやってきても大丈夫』らしいからなぁ。フィー
とフッさんには辛いかもな」
 吸殻をブーツで踏みつけて、クランティーニはフィークとフィルに微笑を交互に送
る。
「虫と異常生命体なんざ気にしてられるか」
「「あんだとぉ!」」
 フィークとフィル声が重なり、かくて二対一の口喧嘩が始まる。
「やれやれっと」
 クランティーニはイヴァンの隣に腰を下ろす。低レベルの口喧嘩を他所にコートか
ら小さめのポットを取り出す。
「飲むか?」
 カップの代わりのフタに入ったコーヒーを立ったままのイヴァンに差し出す。イヴ
ァンは少し黒いコーヒーを眺め――鼻がひくついているところを見ると匂いを嗅いで
いるのだろう――静かに首を横に振った。
「そっか、旨いんだけどな」
 コーヒーに口をつけながらそう言ってクランティーニは笑う。このメンツだとコー
ヒーをブラックで飲むのは自分だけだなと苦笑交じりだ。
「……これ」
 ふと思い出したのか、イヴァンは懐から一通の封筒を取り出しだ。
「ん?」
 イヴァンから封筒を受け取る。表には「クラン君へ」とかわいらしい文字で宛名書
きされている。差出人は十中八九想像通りで間違いないだろうが、一応、念のためイ
ヴァン聞いてみる。
「誰から?」
「クライアントの秘書」
 一言だけ言うと、イヴァンは再び視線をクランティーニから空に向ける。
「あ、やっぱし」
 代用カップの中のコーヒーを一気に飲み干して、封筒の端を細く破る。どうせロク
な事は書いてないだろうが、読んでも読まなくても一緒なんだろうと苦笑する。
 新しいタバコに火を点けて封筒の中から取り出した手紙に目を落とす。案の定ロク
でも無い内容だった……。

         ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「手はず通り、情報は流しました」
「そう、ご苦労様」
 質素なドレスに身を包み、フィール・マグラルドは優雅に食後の紅茶を楽しんでい
た。
「ですが……、あの、本当に良かったのですか?」
 フィールよりも少し年上の女性が戸惑った様子で問いかける。身なりがきちっとし
た正装のところを見ると秘書なのだろう。
「いーのよ」
 わざわざ遠方から取り寄せた最上級の紅茶を一口飲んだだけでフィールはティーカ
ップを下げさせる。
「だって、どっちに転んだって入ってくるお金は変わらないもの。だったら楽しい方
がいいに決まってるじゃない」
 ほほほほと、楽しそうにフィークは笑う。
「……クラン君がウチの仕事を請けたがらないのはお嬢様の性格のせいなんだろうな
ぁ」
 女性秘書は眉間を抑えて小さく呟く。今頃あの手紙を読んで苦笑しているクランテ
ィーニの様子が目に浮ぶ。
「だーいじょうぶよ。私のくーちゃんがそう簡単にヘマしたりしないわよ」
「だといいんですけどね……」
 秘書はため息を一つついてクランティーニに、そして彼の仲間に心底同情した。

         ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「だいたいなぁ、虫のくせに偉そうなんだよ。虫は虫らしく葉っぱでも食ってろ」
「はっ、友達が一人もいない奴に言われたかないね」
「そうだそうだ、てめぇみたいな根暗野郎はダンジョンの最下層で「の」の字でも書
いてやがれってんだ!」
「キーキー、ヒステリー女みたいな声で叫ぶな! お前こそ海の底にでも沈めてやろ
うか?」
 そろそろ低次元な争いに突入し始めた口喧嘩を聞きながらクランティーニは小さく
ため息をついた。
「やれやれ、あの人の考えそうなことだな」
 今まで読んでいた手紙を封筒の中に戻しコートの中にしまう。
「……」
 今までーっとしていたイヴァンの雰囲気が鋭いものに変わる。
「はぁ……、相変わらず早いなぁ」
 クランティーニは後に回した手の中に銃を発現させ、もはや悪口の応酬になった三
人に向ける。
「おーい、危ないぞ」
「あ?」
 声に反応して振り返ったセシルの顔の横を弾丸が通り抜ける。
「な、なにすんだよ!」
「文句は後で聞いてやるよ。それよりもとっとと獲物抜かないとヤバイぞ」
 相変わらず緊張感の無いタレ目の笑顔で言われても説得力は無いが、さっきの銃声
と同時に複数の殺気が表れたのがセシルにもわかった。
「ぶわーっはっはっはっは、相変わらず食えん奴よの。こちらが仕掛ける前に気付く
とは。しかぁし今日こそ秘伝の巻物返してもらうぞ、クラン!」
 どこからとも無くやたらと野太い声が響いたかと思うと、クランティーニ達を取り
囲むように黒装束に覆面をつけた集団が姿を現した。
 クランティーニはあくまで笑顔で黒装束集団の一人に声をかけた。
「よ、久しぶりだなシッシー」
「誰がシッシーじゃ、誰が! 俺の名は無く子も黙る天下の大義賊五代目志士川茣蓙
衛門様じゃあ!」
「……シシカワゴザエモン? 変な名前なのですのね」
「ありゃ、変態だぜ、変態。フロウ、あんなのに関わらない方がいいぜ」
「黙れ! 小娘に虫!」
「誰が虫だ!」
 フィークの抗議を無視してビシッと擬音が入りそうな姿勢で志士川はクランティー
ニを指差す。
「さあクランよ巻物と、ついでにその馬車の積荷を渡して貰おう!」
「あー、巻物?」
 タバコを銜えたままで腕組みして考え込むクランティーニに、志士川はこめかみに
ぶち切れるんじゃないかと思うほど血管を浮き上がらせて叫ぶ。
「貴様が二年前に俺から奪った巻物だ!」
「……ああ! あれか」
 ぽん、と手を打ってクランティーニは後頭部を掻きながら笑顔で志士川を見やっ
た。
「ようやく思い出したか。さあ、命が惜しくば荷共々渡して貰おう」
「悪い、あの後燃やす物無くなった時あってさ。その時に薪代わりにつかっちゃっ
た」
 …………………………………………………………。
 長い沈黙が立ち込める。悪びれた様子も無いクランティーニの笑顔に、志士川の中
で何かがキレた。
「きっ、きっ、きっさまぁああああああああああああああああああああ」
「あちゃ、怒った? 悪い悪い」
「……お前さ。わかってからかってるだろ」
 セシルのツッコミにこれまたクランティーニは笑顔を向ける。
「あ、やっぱわかる?」
「ええい、もう許さん! 者供、構わん皆殺しだぁああああ!」
「義賊がそんな台詞吐くかってんだ、てやんでぃ」
 フィルの言葉でイヴァンの姿が消える。同時にクランティーニが黒装束に向かって
トリガーを引く。
「ほら、お前も手伝え」
「お前な、まともな知り合いはいないのか?」
 ため息交じりのセリフを吐いて、セシルはナイフを抜いた。デタラメーズの二人は
ともかく、女の子のフロウにまで戦闘で遅れを取ったら虫と異常生命体に後で馬鹿に
されそうだ。
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2007/02/12 22:30 | Comments(0) | TrackBack() | ▲紫陽花

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