PC:アベル ヴァネッサ
NPC:ギア ラズロ ウサギの女将さん
場所:エドランス国 せせらぎ亭
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うーん、せせらぎ亭は単なる大衆食堂とちがって、朝方から昼ごろまで仕込
んだ料理を、昼過ぎから主に黄昏から日が落ちるぐらいにガッツリ味わう店だ
から、当然味が命。となると、そこらはヴァネッサ以外は無理だろうからなぁ。」
ふむ、とギアが女将を見る。
「あらあらあら、それは暗にほめてくれてるの?」
女将はまんざらでもない様ににっこりと笑った。
「あの。アベル君も簡単な調理とか盛り付けとかできます。」
遠慮がちにそういったのはヴァネッサだった。
へぇと見直したようにギアと女将が目を向けたアベルはため息で答えた。
「家が冒険者の店で、酒場もかねてたんですよ。」
アベルとしては半ば無理やりに手伝わされていたので、好きも嫌いもないが、
なんとなく男らしくないと思い込んでいるため、あまり外では言いたくない特
技になっていた。
もっとも野営料理になると別というあたり、気にしているといっても知れた
もので、ヴァネッサあたりからすると、『素直になればいいのに』といったと
ころだった。
「ほー、そういやカタリナの手伝いは嬢ちゃんと二人でやっていたんだったな
ぁ。」
あんなはずれの村ではどこかから働きに来てももらえず、ましてや村人は家
のことだけで手一杯なため、必然的にあの村で店をやると家族が手伝うことに
なるのだった。
ギアがよったときも、実際の調理とかはカタリナとヴァネッサがやっていた
が、準備や下味や盛り付けなどはアベルもかな手伝っていた。
「だったら、厨房は二人で接客はラズロでどうだい?ラズロのマナーは社交界
でも通じる筋金入りだからよ。」
ギアの発言に今度はラズロが何かいいたそうにしたが、ギアのいたずらっぽ
い笑みをみて、仕方ないという風に肩をすくめた。
「あらあらあら、なんだかあつらえたようにうまく決まったわね。」
女将がうれしそうに手を合わせる。
「じゃあ、割り振りは今言ったとおりで、ての空いてるときはそのつど雑用で
いいわね。」
「まさか、それも……。」
ふとなにかきになったのかギアが確認をする。
「まあまあまあ、アースマスターは一日中掃除するスキルがあるの?」
女将じゃなく、そうカタリナあたりなら間違いなく怒鳴りあいの喧嘩になり
そうなこんなセリフも、この人(?)が言うとなぜか心が温かくなる。
さすがにギアも苦笑するしかなかった。
「しゃーねぇな。こいつらがなれるまでは付き合うつもりだったし。」
「それじゃあ、少し早いけど、夕食にしましょうか。今日は疲れただろうから
はやくやすんだほうがいいしね。」
女将のその言葉に、子供たちはお腹がすいていることにようやく気がついた
のだった。
NPC:ギア ラズロ ウサギの女将さん
場所:エドランス国 せせらぎ亭
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うーん、せせらぎ亭は単なる大衆食堂とちがって、朝方から昼ごろまで仕込
んだ料理を、昼過ぎから主に黄昏から日が落ちるぐらいにガッツリ味わう店だ
から、当然味が命。となると、そこらはヴァネッサ以外は無理だろうからなぁ。」
ふむ、とギアが女将を見る。
「あらあらあら、それは暗にほめてくれてるの?」
女将はまんざらでもない様ににっこりと笑った。
「あの。アベル君も簡単な調理とか盛り付けとかできます。」
遠慮がちにそういったのはヴァネッサだった。
へぇと見直したようにギアと女将が目を向けたアベルはため息で答えた。
「家が冒険者の店で、酒場もかねてたんですよ。」
アベルとしては半ば無理やりに手伝わされていたので、好きも嫌いもないが、
なんとなく男らしくないと思い込んでいるため、あまり外では言いたくない特
技になっていた。
もっとも野営料理になると別というあたり、気にしているといっても知れた
もので、ヴァネッサあたりからすると、『素直になればいいのに』といったと
ころだった。
「ほー、そういやカタリナの手伝いは嬢ちゃんと二人でやっていたんだったな
ぁ。」
あんなはずれの村ではどこかから働きに来てももらえず、ましてや村人は家
のことだけで手一杯なため、必然的にあの村で店をやると家族が手伝うことに
なるのだった。
ギアがよったときも、実際の調理とかはカタリナとヴァネッサがやっていた
が、準備や下味や盛り付けなどはアベルもかな手伝っていた。
「だったら、厨房は二人で接客はラズロでどうだい?ラズロのマナーは社交界
でも通じる筋金入りだからよ。」
ギアの発言に今度はラズロが何かいいたそうにしたが、ギアのいたずらっぽ
い笑みをみて、仕方ないという風に肩をすくめた。
「あらあらあら、なんだかあつらえたようにうまく決まったわね。」
女将がうれしそうに手を合わせる。
「じゃあ、割り振りは今言ったとおりで、ての空いてるときはそのつど雑用で
いいわね。」
「まさか、それも……。」
ふとなにかきになったのかギアが確認をする。
「まあまあまあ、アースマスターは一日中掃除するスキルがあるの?」
女将じゃなく、そうカタリナあたりなら間違いなく怒鳴りあいの喧嘩になり
そうなこんなセリフも、この人(?)が言うとなぜか心が温かくなる。
さすがにギアも苦笑するしかなかった。
「しゃーねぇな。こいつらがなれるまでは付き合うつもりだったし。」
「それじゃあ、少し早いけど、夕食にしましょうか。今日は疲れただろうから
はやくやすんだほうがいいしね。」
女将のその言葉に、子供たちはお腹がすいていることにようやく気がついた
のだった。
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PC:アベル ヴァネッサ
NPC:ギア ラズロ ウサギの女将さん
場所:エドランス国 せせらぎ亭
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
少しばかり時間の早い夕食は、子供達とギアと女将で一つの丸テーブルを囲んでのも
のだった。
カゴに盛られたパン、魚介のスープ、そしてサラダといったメニューを、談笑と共に
いただくのである。
相変わらずラズロには喋る様子もなかったが、女将の料理が美味しいのだろう、どこ
か雰囲気が和らいで見えた。
会話の内容は、いつしかアカデミーの昔話になっていた。
とは言っても本当に大昔の話ではなく、ギアやグラントやカタリナ、そして女将が学
生だった頃の話である。
「ギアったら本当にワルガキでねぇ、嫌味ったらしい先生の上着に、『毒グモだーっ
!』って言って、大きなクモをくっつけたのよねぇ」
大きなクモ、と聞いて、思わずヴァネッサは全身がザワザワした。
「先生ったら、今まで聞いたこともないような悲鳴を上げて、脱いだ上着を必死で
振ってたわねぇ。しまいにはちょっと泣いてたわぁ。そのクモ、毒なんかなかったの
に」
「女将ぃ……そりゃ時効だろ」
フォークを握り締め、ギアは閉口している。
「うふふふ。だって、あんな事しでかしたのって、あなただけなのよ」
話題は、次第に昔のことに移っていた。
ギア……そしてグラントやカタリナがまだアカデミーの学生だった頃、である。
どうやらギアは長いこと劣等生だったようで、その頃の失敗談が次々に暴露されて
いった。
「でも、先生は優秀な成績を修めて肖像画に残りました」
ただ一人、ラズロがギアの肩を持つ。
「そりゃ……グラントとカタリナがいたからな」
「じゃあ、俺の父ちゃんと母ちゃんがいなかったら、駄目だったんじゃねえの?」
もぐもぐとスープの具である魚の身を頬張りながら、アベル。
嫌味や奢りの感情はない。本人としては「そう思ったから言っただけ」なのだろう。
「そんなことはない。先生は一人でもきっと優秀な成績を残せていたはずだ」
ラズロは真剣な表情で、真っ向から対立する。
「あー、いいからいいから」
ギアは苦笑まじりにラズロをなだめていた。
そうそうそう、と女将は思い出したように口を開いた。
「アカデミー在学中に結婚した人達もいたのよぉ。学生どうしでの恋愛は珍しくもな
んともないんだけど、結婚っていうのは初めてのことだったの。普通はどんなに進ん
でても婚約どまりですもの。結構な騒ぎになったのよねぇ」
誰も気にとめなかったが、途端、ギアの表情が強張った。
「どんな人なんですか?」
ヴァネッサは、食事を一旦中断してでも話を聞くつもりで質問した。
恋愛とか婚約とか結婚とか、そういうことに興味のある年齢なのだ。
「えぇえぇえぇ、男の子の方は18歳で、女の子の方は16歳だったわぁ。しかも、
もう身ごもってるとかで、随分お腹も大きくなってて、それはそれは大騒ぎになった
ものよぉ」
「身ごもって……」
ぼんやりと呟いた後、ラズロは不自然に黙りこくった。
なんとなく頬が赤い。
「なんだ? 風邪か?」
「うるさいっ」
そういった手合いの話に疎いアベルは、ラズロからゲンコツを一発食らった。
「あの……その二人はどうなったんですか?」
十六歳という年齢で子供を宿し、結婚したという少女がどうなったのか、ヴァネッサ
は気になった。
幸せな家庭を築くことができたのだろうか? 是非そうであって欲しいのだけど。
女将は、手をアゴに当てて、考え込むように小首を傾げた。
「それがねぇ……結局、二人ともアカデミーを退学してしまったのよねぇ。その後ど
うなったかはわからないの……ああそうだわ、ヴァネッサちゃんって、今幾つだった
かしら?」
「十七歳、です」
「そうそうそう、二人の赤ちゃん、生きていればヴァネッサちゃんと同い年のはずだ
わぁ」
「そうなんですか? 会ってみたいなぁ……」
一体どんな子なんだろう。
ヴァネッサは興味を持った。
「うふふふ、きっと可愛いわよぉ。男の子に似てたら髪は金髪で、女の子に似てた
ら……」
その時、ガタン、とテーブルが鳴った。
ギアが魚介のスープが入った皿を引っくり返したのだとすぐに知れた。
「あ……と、すまん、落としちまった」
テーブルクロスの上に、魚介のスープがひたひたと染み渡っていく。
「大変っ」
ヴァネッサは、汚れないようにと近いところの食器を別のテーブルへと移動させた。
誰に言われるでもなくアベルがテーブルクロスを外している。
「まあまあまあ! ちょっと待っててね」
女将は慌てた様子で奥の部屋へ駆けこむと、雑巾を持って戻ってきた。
「悪い、考えごとしてたもんで……」
そのままテーブルを拭き始めた女将に、ギアは、申し訳なさそうに頬をかく。
「別に良いのよぉ。その代わりお皿洗いでもやってもらおうかしらぁ」
「勘弁してくれぇ」
「だーめ」
「なあ、このテーブルクロスどうしたらいいんだ?」
「奥に洗い場があるから、そこにでも放り込んでおいて頂戴」
「はーい」
アベルは明るく返事をし、奥の部屋へと急ぎ足で向かった。
……あとは特に何事もなく、食事の時間は過ぎていった。
NPC:ギア ラズロ ウサギの女将さん
場所:エドランス国 せせらぎ亭
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
少しばかり時間の早い夕食は、子供達とギアと女将で一つの丸テーブルを囲んでのも
のだった。
カゴに盛られたパン、魚介のスープ、そしてサラダといったメニューを、談笑と共に
いただくのである。
相変わらずラズロには喋る様子もなかったが、女将の料理が美味しいのだろう、どこ
か雰囲気が和らいで見えた。
会話の内容は、いつしかアカデミーの昔話になっていた。
とは言っても本当に大昔の話ではなく、ギアやグラントやカタリナ、そして女将が学
生だった頃の話である。
「ギアったら本当にワルガキでねぇ、嫌味ったらしい先生の上着に、『毒グモだーっ
!』って言って、大きなクモをくっつけたのよねぇ」
大きなクモ、と聞いて、思わずヴァネッサは全身がザワザワした。
「先生ったら、今まで聞いたこともないような悲鳴を上げて、脱いだ上着を必死で
振ってたわねぇ。しまいにはちょっと泣いてたわぁ。そのクモ、毒なんかなかったの
に」
「女将ぃ……そりゃ時効だろ」
フォークを握り締め、ギアは閉口している。
「うふふふ。だって、あんな事しでかしたのって、あなただけなのよ」
話題は、次第に昔のことに移っていた。
ギア……そしてグラントやカタリナがまだアカデミーの学生だった頃、である。
どうやらギアは長いこと劣等生だったようで、その頃の失敗談が次々に暴露されて
いった。
「でも、先生は優秀な成績を修めて肖像画に残りました」
ただ一人、ラズロがギアの肩を持つ。
「そりゃ……グラントとカタリナがいたからな」
「じゃあ、俺の父ちゃんと母ちゃんがいなかったら、駄目だったんじゃねえの?」
もぐもぐとスープの具である魚の身を頬張りながら、アベル。
嫌味や奢りの感情はない。本人としては「そう思ったから言っただけ」なのだろう。
「そんなことはない。先生は一人でもきっと優秀な成績を残せていたはずだ」
ラズロは真剣な表情で、真っ向から対立する。
「あー、いいからいいから」
ギアは苦笑まじりにラズロをなだめていた。
そうそうそう、と女将は思い出したように口を開いた。
「アカデミー在学中に結婚した人達もいたのよぉ。学生どうしでの恋愛は珍しくもな
んともないんだけど、結婚っていうのは初めてのことだったの。普通はどんなに進ん
でても婚約どまりですもの。結構な騒ぎになったのよねぇ」
誰も気にとめなかったが、途端、ギアの表情が強張った。
「どんな人なんですか?」
ヴァネッサは、食事を一旦中断してでも話を聞くつもりで質問した。
恋愛とか婚約とか結婚とか、そういうことに興味のある年齢なのだ。
「えぇえぇえぇ、男の子の方は18歳で、女の子の方は16歳だったわぁ。しかも、
もう身ごもってるとかで、随分お腹も大きくなってて、それはそれは大騒ぎになった
ものよぉ」
「身ごもって……」
ぼんやりと呟いた後、ラズロは不自然に黙りこくった。
なんとなく頬が赤い。
「なんだ? 風邪か?」
「うるさいっ」
そういった手合いの話に疎いアベルは、ラズロからゲンコツを一発食らった。
「あの……その二人はどうなったんですか?」
十六歳という年齢で子供を宿し、結婚したという少女がどうなったのか、ヴァネッサ
は気になった。
幸せな家庭を築くことができたのだろうか? 是非そうであって欲しいのだけど。
女将は、手をアゴに当てて、考え込むように小首を傾げた。
「それがねぇ……結局、二人ともアカデミーを退学してしまったのよねぇ。その後ど
うなったかはわからないの……ああそうだわ、ヴァネッサちゃんって、今幾つだった
かしら?」
「十七歳、です」
「そうそうそう、二人の赤ちゃん、生きていればヴァネッサちゃんと同い年のはずだ
わぁ」
「そうなんですか? 会ってみたいなぁ……」
一体どんな子なんだろう。
ヴァネッサは興味を持った。
「うふふふ、きっと可愛いわよぉ。男の子に似てたら髪は金髪で、女の子に似てた
ら……」
その時、ガタン、とテーブルが鳴った。
ギアが魚介のスープが入った皿を引っくり返したのだとすぐに知れた。
「あ……と、すまん、落としちまった」
テーブルクロスの上に、魚介のスープがひたひたと染み渡っていく。
「大変っ」
ヴァネッサは、汚れないようにと近いところの食器を別のテーブルへと移動させた。
誰に言われるでもなくアベルがテーブルクロスを外している。
「まあまあまあ! ちょっと待っててね」
女将は慌てた様子で奥の部屋へ駆けこむと、雑巾を持って戻ってきた。
「悪い、考えごとしてたもんで……」
そのままテーブルを拭き始めた女将に、ギアは、申し訳なさそうに頬をかく。
「別に良いのよぉ。その代わりお皿洗いでもやってもらおうかしらぁ」
「勘弁してくれぇ」
「だーめ」
「なあ、このテーブルクロスどうしたらいいんだ?」
「奥に洗い場があるから、そこにでも放り込んでおいて頂戴」
「はーい」
アベルは明るく返事をし、奥の部屋へと急ぎ足で向かった。
……あとは特に何事もなく、食事の時間は過ぎていった。
PC:アベル ヴァネッサ
NPC:ギア ラズロ ウサギの女将さん
場所:エドランス国 せせらぎ亭 アカデミー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからの三日は実に忙しく、そして充実していた。
三人は早速せせらぎ亭の手伝いをしつつ、時間を見ては町をみて歩き、
当面の生活に困らないぐらいの地理を把握した。
ラズロにとっては店の手伝いは初体験なだけに、なかなか苦戦していた
が、すでに生活の一部になっていたアベルとヴァネッサが旨く助けること
で、三日で十分にこなせるようになっていた。
「忘れ物ない?」
いよいよアカデミー初日。
まだこの街にきてから数日しかたってないが、すっかり自分の家のよう
に馴染んだせせらぎ亭の前で、ウサギの女将さんはいつものよう朗らかな
声で子供たちに念を押した。
「え、と・・・・・・大丈夫です。」
言われて素直に持ち物を確認するヴァネッサ。
それをみたアベルは義姉の肩を軽くたたいて、笑いそうになりながら言
った。
「いや、初日じゃ持ち物ってほどの用意もないし。」
この国のアカデミーは冒険者育成を軸にすえるだけに、いわゆる学期制
や年度といった概念がない個人主体のシステムを採っている。
そのため、生徒の入ってくる時期もばらばらで入学式はもちろん、事前
の説明などいちいち行ったりはしない。
そのため初日は用意も何もないので、とりあえず荷物ができた時のサッ
クとメモを取れるようにしとくぐらいしか準備するものはないのだ。
それは女将にもわかっていることだが、定期的に生徒を預かり続けてき
た彼女は、朝の見送りがるとつい言ってしまう癖のようになっていたのだ。
そのことを良く知るギアは、なんとなくほほえましい気分になった。
「でも、弁当は忘れるなよ。お前らはまだ金がないからな。」
これにはアベルが反応し、念のためといいつつサックを確認する。
その中には、紙袋に入れられた女将さん特性のパンにヴァネッサが作っ
た野菜とひき肉を炒めたアンをつめた今日の弁当が収まっていた。
「どうやら良いみたいだな。 それじゃいくか。」
ギアに促され、その後ろを子供たちがついていくのを女将が見送った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
四日前来たときはもう各自が教室やら実習に出ていた上、事務のほうに
しかカオを出さなかったため思いのほか静かだったのだが、今朝は登校し
てくる生徒・職員があふれていた。
アカデミーが近づくにつれ増える人の群れが、アカデミーの門というに
はひろい敷地を区切る入り口にすいこまれていくさまをみた子供たちは驚
いていた。
この街に着いたときも驚いたが、こう一つのところに人が集中している
光景はさすがに想像を超えていた。
「・・・・・・村人全部集めたって・・・・・・。」
声に出して言おうとして言葉を飲み込んだアベルにヴァネッサも珍しく
呆けたようにうなづくだけだった。
ここでいつもなら皮肉を飛ばすラズロでも威圧されたようになっている
のだから田舎育ちの二人の反応は当然だろう。
またこの「人々」というのがさまざまな国、種族のごちゃ混ぜで、衣装
が違うのは当然で、あきらかに異形の種族も多数見られた。
ウサギの女将が店を出して定住するぐらいだから、ここではそれが日常
なのだ。
「ははは、この朝の光景をある吟遊詩人は『世界の広さを垣間見れる』っ
て唄ったぐらいだからな。ほれ、突っ立ってるとあぶねーぞ、いくぞ。」
ひと笑いしたギアに背中を押された子供たち顔を見合わせると、何かを
期待するようにうなづきあって足を踏み出した。
NPC:ギア ラズロ ウサギの女将さん
場所:エドランス国 せせらぎ亭 アカデミー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからの三日は実に忙しく、そして充実していた。
三人は早速せせらぎ亭の手伝いをしつつ、時間を見ては町をみて歩き、
当面の生活に困らないぐらいの地理を把握した。
ラズロにとっては店の手伝いは初体験なだけに、なかなか苦戦していた
が、すでに生活の一部になっていたアベルとヴァネッサが旨く助けること
で、三日で十分にこなせるようになっていた。
「忘れ物ない?」
いよいよアカデミー初日。
まだこの街にきてから数日しかたってないが、すっかり自分の家のよう
に馴染んだせせらぎ亭の前で、ウサギの女将さんはいつものよう朗らかな
声で子供たちに念を押した。
「え、と・・・・・・大丈夫です。」
言われて素直に持ち物を確認するヴァネッサ。
それをみたアベルは義姉の肩を軽くたたいて、笑いそうになりながら言
った。
「いや、初日じゃ持ち物ってほどの用意もないし。」
この国のアカデミーは冒険者育成を軸にすえるだけに、いわゆる学期制
や年度といった概念がない個人主体のシステムを採っている。
そのため、生徒の入ってくる時期もばらばらで入学式はもちろん、事前
の説明などいちいち行ったりはしない。
そのため初日は用意も何もないので、とりあえず荷物ができた時のサッ
クとメモを取れるようにしとくぐらいしか準備するものはないのだ。
それは女将にもわかっていることだが、定期的に生徒を預かり続けてき
た彼女は、朝の見送りがるとつい言ってしまう癖のようになっていたのだ。
そのことを良く知るギアは、なんとなくほほえましい気分になった。
「でも、弁当は忘れるなよ。お前らはまだ金がないからな。」
これにはアベルが反応し、念のためといいつつサックを確認する。
その中には、紙袋に入れられた女将さん特性のパンにヴァネッサが作っ
た野菜とひき肉を炒めたアンをつめた今日の弁当が収まっていた。
「どうやら良いみたいだな。 それじゃいくか。」
ギアに促され、その後ろを子供たちがついていくのを女将が見送った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
四日前来たときはもう各自が教室やら実習に出ていた上、事務のほうに
しかカオを出さなかったため思いのほか静かだったのだが、今朝は登校し
てくる生徒・職員があふれていた。
アカデミーが近づくにつれ増える人の群れが、アカデミーの門というに
はひろい敷地を区切る入り口にすいこまれていくさまをみた子供たちは驚
いていた。
この街に着いたときも驚いたが、こう一つのところに人が集中している
光景はさすがに想像を超えていた。
「・・・・・・村人全部集めたって・・・・・・。」
声に出して言おうとして言葉を飲み込んだアベルにヴァネッサも珍しく
呆けたようにうなづくだけだった。
ここでいつもなら皮肉を飛ばすラズロでも威圧されたようになっている
のだから田舎育ちの二人の反応は当然だろう。
またこの「人々」というのがさまざまな国、種族のごちゃ混ぜで、衣装
が違うのは当然で、あきらかに異形の種族も多数見られた。
ウサギの女将が店を出して定住するぐらいだから、ここではそれが日常
なのだ。
「ははは、この朝の光景をある吟遊詩人は『世界の広さを垣間見れる』っ
て唄ったぐらいだからな。ほれ、突っ立ってるとあぶねーぞ、いくぞ。」
ひと笑いしたギアに背中を押された子供たち顔を見合わせると、何かを
期待するようにうなづきあって足を踏み出した。
PC:アベル ヴァネッサ
NPC:ギア ラズロ セリア クラスメイト
場所:エドランス国 アカデミー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「来たか」
場所は、教務室。
セリアは、三日ぶりに会った三人を見て目を細めた。
「よ、よろしくお願いします」
すっかり恐縮したヴァネッさが頭を下げると、セリアは微笑ましいものを見るように
目元を緩めた。
「そう気をつかうな。今からそれでは正直もたんぞ」
「は、はい」
そう言われても、ますます上がってしまう一方のヴァネッサである。
「ヴァネッサって、昔っから上がり性だったもんなぁ」
傍らのアベルは平然としている。
彼も緊張しているには違いないのだが、ヴァネッサほどではないので、平然として見
えてしまうのだ。
ラズロの方はもともと人の多い場所に慣れているらしく、既に見なれたぶ然とした表
情に戻っていた。
「そろそろ点呼を取る時間だ。そこでクラスの連中に紹介する。ついてきなさい」
セリアは何かの書類らしいものを片手に、歩き出した。
やがてセリアはとあるドアの前で立ち止まる。
ここがいわゆる『教室』なのだろう。
中からはざわざわとした雑多な話し声が聞こえていた。
ヴァネッサの緊張が、より一層強まる。
村にいた時には聞いたこともない人数の声。
――この中に、大勢の人がいるのだ。
そう思うと、足がすくむ。
とある一室の前に立ち止まると、セリアはくるりと三人の方を向いた。
「これから全員に紹介するが……自己紹介、できるな?」
「え、えぇと……何を言えばいいんでしょう?」
村から出たことのないヴァネッサは、自己紹介なんてものをしたことがない。
思いきり不安な顔をして、すがりつかんばかりにセリアを見上げた。
「まずは名前。それから年齢だの趣味だの特技だの……まあ、名前が言えれば充分
だ」
聞いているうちにどんどん不安そうな顔をするヴァネッサを見て、セリアは簡潔にま
とめ
た。
「ヴァネッサって、ホント上がり性だもんなぁ」
これから非常に困難な作業に向かうかのような表情で立ち尽くすヴァネッサを見て、
アベルは頬をかく。
「とにかく、今から始めるぞ」
セリアは言うと、ドアを開けた。
「ヴァネッサ、がんばれ」
アベルは小声で言い、ぽんと軽く背中を叩いた。
「う、うん」
そうとしか返事ができない。
開けたままのドアからは、室内に入っていったセリアの姿が見える。
彼女は前方中央にある教壇の前に立つと、室内を見渡した。
「全員、そろっているな?」
よく通る声で、彼女は語り出す。
「えー。今日からこのクラスに三人が加わることになった。今から紹介する」
「はいはーい、しってまーす。噂になってたもーん」
少女の明るい声が言う。
(う、噂……?)
一体どんな噂だったんだろう、とヴァネッサは思った。
変な噂じゃないといいが。
「……静粛に」
「はーい」
反省したとはあまり思えない明るい変事に、セリアは咳払いをすると、開けたままの
ドア――三人のいる方に顔を向けた。
「入ってきなさい」
ヴァネッサは、思わず、アベルの顔を見た。
「誰が先頭になるの?」
「……先に行く」
ラズロがスタスタと先に入っていった。
気をつかったのかもしれないし、単にさっさと済ませたいだけなのかもしれない。
「んじゃ、次俺が行くから。後からついてこい」
「ご、ごめんね、アベル君」
「別にいいって」
……ちょっと情けない姉である。
教壇の隣に三人は横並びになる。
「えー、一番左から、ラズロ=ブライ=アルトゥール=オーベンス、アベル、ヴァネッ
サだ」
一人ずつ名前を読み上げながら、セリアは背後の黒板に名前を書いていく。
ラズロを見た女性達の間では、早くも熱っぽいヒソヒソ話が始まっていた。
おそらくは、「カッコイイよね」とかそんなことを言っているのだろう。
「……じゃ、自己紹介をしなさい」
ちら、とやや心配そうにヴァネッサを見て、セリアは自己紹介を促す。
「ラズロ=ブライ=アルトゥール=オーベンスだ。よろしく」
ラズロの自己紹介に、「きゃあ」と、どこかで女子数名の歓声が上がった。
「アベルです、よろしく」
「ヴァ、ヴァネッサ、です……」
ガチガチに緊張しながら、どうにか名前だけを告げると、ヴァネッサはもう顔を上げ
ていられなかった。
「それでは席のほうだが……窓際の前から5列目に用意してあるから、そこに座って
くれ」
セリアが指した位置には、誰もついていない長机が一つあった。
ここでは一人に一つずつ机があてがわれているのではなく、長机に三人ずつ腰掛けて
いるのだ。
ラズロはさっさと歩いていくと、一番窓際の場所に座った。
「ヴァネッサ、どっちにする?」
「私、端っこに座る……」
なんとなく、ラズロの隣に座るのが怖い。
先ほど歓声をあげた女子数名が、じっとこっちを見ているからだ。
なんとなく、その視線が怖い。
「三人は何かと不慣れなこともあるだろうから、親切にするんだぞ」
セリアの言葉に、はぁい、とあちこちから返事が上がった。
――点呼を確認したセリアが立ち去った後、三人がさっそく囲まれたのは言うまでも
ない。
「ねーねー、どこから来たの?」
「お父さんとかお母さんは?」
「寮に入ったの? それとも下宿?」
うるさいぐらいの質問の大洪水である。
もっとも、詰め掛けてきた女子の大半はラズロに夢中のようだった。
アベルとヴァネッサに主に話し掛けてきたのは、茶色の巻き髪の少女だった。
……ちなみに、先ほどセリアに三人のことを噂で知っていると明るい声で告げた人物
である。
「ね、呼び捨てでいい?」
「え、はい」
大きなクリッとした目で見つめられ、ヴァネッサの警戒心が少し和らいだ。
「じゃ、ヴァネッサね。んで、兄弟いるの?」
「あ、あの……私、弟がいます」
「えっ、弟?」
少女は興味ありげに目を輝かせた。
「今日、一緒にアカデミーに来たんですけど……」
「わかったぁ!」
と言って、彼女がぐいっと掴んだのはラズロの腕。
思わぬ事態にアベルとヴァネッサは固まる。
「弟クンって、こっちでしょ! カッコイイ弟がいるのって、自慢よねぇ!」
「あ、あの……違います」
「えっ? うそぉ、髪の色とか似てるから、てっきりそう思ったぁ!」
ごめんねぇ~、と言いつつ彼女はラズロの腕を離す。
ラズロはぶ然とした表情のまま、そっぽを向いていた。
髪の色から考えると、ヴァネッサの髪は金色に近い亜麻色の髪だから、黒髪のアベル
よりは金髪のラズロと血が繋がっていると思うのが自然なのかもしれない。
「ふーん、こっちの、髪の黒いほうが弟クンなのぉ? あんまり似てないじゃん」
アベルをしげしげと観察しながらの、はっきりとした物言いに、ヴァネッサは困惑し
た。
年上ばかり話し相手にしてきたせいか、どうも同い年の女の子との会話が上手くいか
ない。
「だって……」
血が繋がってないから、と言おうとして、ヴァネッサははたと思った。
初対面の相手に、そういうことを言っていいものだろうか。
仮に言ったとして、この場の空気が悪くならないだろうか。
そういうことを、つらつらと思ってしまう。
「だって俺ら、血、繋がってないもん」
しかし、傍らのアベルはあっさりと告げた。
「ちょっ、アベル君っ」
「だって、事実なんだもん。隠したって仕方ねーじゃん」
慌てるヴァネッサに、アベルは「なんで隠すんだ?」という目をする。
「ふーん、そうなんだ。別に気にしなくたっていいのに。ここ、そういう子結構いる
よ? 孤児とか、親戚中たらい回しとか、一家離散とか、親がロクデナシとか」
(それじゃあ……)
今、目の前にいるこの明るい少女も、そういった辛い境遇なのだろうか。
そうなのかもしれないし、違うのかもしれない。
しかしヴァネッサは、どうしても聞けなかった。
「でも……血の繋がらない姉と弟ねぇ」
腕組をし、少女は何やら考えている。
……やがて、その顔にニヤニヤ笑いが浮かんできた。
「なーんか、それってちょーっと、ねぇ?」
「……何がですか?」
「だってさ、血が繋がってないわけでしょ?」
「そう、ですけど」
ヴァネッサが答えると、少女はキランと目を輝かせた。
「ってことは、恋に落ちたっていいわけじゃない! いいわあ~、燃えるわあぁ、そ
ういう設定! 小さい時はそんなの関係ナシに仲良くしてて、成長するとともにお互
い意識しちゃったりして! いつしか二人は、お互いに不器用な淡い恋心を抱いてし
まうの!」
拳を握り締め、少女は熱い情熱のこもった口調で語り出す。
……何やら思考があさっての方向に飛んでいるらしい。
ヴァネッサとアベルはぽかんとした顔でそれを見つめ、ラズロは珍しい生き物を見る
ような視線を少女に向けた。
「あ、コイツ、いつもこうだから。あんま気にしないで」
隣からひょこりと顔を出した別の少年が、ペシペシと少女のひたいをはたく。
少女は全く意に介した様子もなく、うっとりと己の妄想の世界に浸っている。
「な? こうなるともう、誰の話も聞いてないし、何が起きてもお構いナシなわけ」
ずけずけと物を言う態度から察するに、少女とは随分昔からの付き合いがあるよう
だ。
「……変な女」
「同感だ」
アベルの一言に、思わず、といった感じでラズロが同意する。
取り囲む女子達の視線や好奇心剥き出しの質問に、正直げんなりしているように見え
る。
「でも二人の間には『長年姉弟として生活してきた』っていう壁が! 無意識のうち
に壁があるの! 相手の気持ちを知るのが怖くて、お互い距離を置いてしまうの!
そのうち、それぞれ無理矢理別の人に恋をしてみたりして! でも、私の――俺の本
当に愛する人は一体誰なのか! それに気付いた二人はやっと素直になって!」
……しばらく、少女の妄想語りは続いた。
NPC:ギア ラズロ セリア クラスメイト
場所:エドランス国 アカデミー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「来たか」
場所は、教務室。
セリアは、三日ぶりに会った三人を見て目を細めた。
「よ、よろしくお願いします」
すっかり恐縮したヴァネッさが頭を下げると、セリアは微笑ましいものを見るように
目元を緩めた。
「そう気をつかうな。今からそれでは正直もたんぞ」
「は、はい」
そう言われても、ますます上がってしまう一方のヴァネッサである。
「ヴァネッサって、昔っから上がり性だったもんなぁ」
傍らのアベルは平然としている。
彼も緊張しているには違いないのだが、ヴァネッサほどではないので、平然として見
えてしまうのだ。
ラズロの方はもともと人の多い場所に慣れているらしく、既に見なれたぶ然とした表
情に戻っていた。
「そろそろ点呼を取る時間だ。そこでクラスの連中に紹介する。ついてきなさい」
セリアは何かの書類らしいものを片手に、歩き出した。
やがてセリアはとあるドアの前で立ち止まる。
ここがいわゆる『教室』なのだろう。
中からはざわざわとした雑多な話し声が聞こえていた。
ヴァネッサの緊張が、より一層強まる。
村にいた時には聞いたこともない人数の声。
――この中に、大勢の人がいるのだ。
そう思うと、足がすくむ。
とある一室の前に立ち止まると、セリアはくるりと三人の方を向いた。
「これから全員に紹介するが……自己紹介、できるな?」
「え、えぇと……何を言えばいいんでしょう?」
村から出たことのないヴァネッサは、自己紹介なんてものをしたことがない。
思いきり不安な顔をして、すがりつかんばかりにセリアを見上げた。
「まずは名前。それから年齢だの趣味だの特技だの……まあ、名前が言えれば充分
だ」
聞いているうちにどんどん不安そうな顔をするヴァネッサを見て、セリアは簡潔にま
とめ
た。
「ヴァネッサって、ホント上がり性だもんなぁ」
これから非常に困難な作業に向かうかのような表情で立ち尽くすヴァネッサを見て、
アベルは頬をかく。
「とにかく、今から始めるぞ」
セリアは言うと、ドアを開けた。
「ヴァネッサ、がんばれ」
アベルは小声で言い、ぽんと軽く背中を叩いた。
「う、うん」
そうとしか返事ができない。
開けたままのドアからは、室内に入っていったセリアの姿が見える。
彼女は前方中央にある教壇の前に立つと、室内を見渡した。
「全員、そろっているな?」
よく通る声で、彼女は語り出す。
「えー。今日からこのクラスに三人が加わることになった。今から紹介する」
「はいはーい、しってまーす。噂になってたもーん」
少女の明るい声が言う。
(う、噂……?)
一体どんな噂だったんだろう、とヴァネッサは思った。
変な噂じゃないといいが。
「……静粛に」
「はーい」
反省したとはあまり思えない明るい変事に、セリアは咳払いをすると、開けたままの
ドア――三人のいる方に顔を向けた。
「入ってきなさい」
ヴァネッサは、思わず、アベルの顔を見た。
「誰が先頭になるの?」
「……先に行く」
ラズロがスタスタと先に入っていった。
気をつかったのかもしれないし、単にさっさと済ませたいだけなのかもしれない。
「んじゃ、次俺が行くから。後からついてこい」
「ご、ごめんね、アベル君」
「別にいいって」
……ちょっと情けない姉である。
教壇の隣に三人は横並びになる。
「えー、一番左から、ラズロ=ブライ=アルトゥール=オーベンス、アベル、ヴァネッ
サだ」
一人ずつ名前を読み上げながら、セリアは背後の黒板に名前を書いていく。
ラズロを見た女性達の間では、早くも熱っぽいヒソヒソ話が始まっていた。
おそらくは、「カッコイイよね」とかそんなことを言っているのだろう。
「……じゃ、自己紹介をしなさい」
ちら、とやや心配そうにヴァネッサを見て、セリアは自己紹介を促す。
「ラズロ=ブライ=アルトゥール=オーベンスだ。よろしく」
ラズロの自己紹介に、「きゃあ」と、どこかで女子数名の歓声が上がった。
「アベルです、よろしく」
「ヴァ、ヴァネッサ、です……」
ガチガチに緊張しながら、どうにか名前だけを告げると、ヴァネッサはもう顔を上げ
ていられなかった。
「それでは席のほうだが……窓際の前から5列目に用意してあるから、そこに座って
くれ」
セリアが指した位置には、誰もついていない長机が一つあった。
ここでは一人に一つずつ机があてがわれているのではなく、長机に三人ずつ腰掛けて
いるのだ。
ラズロはさっさと歩いていくと、一番窓際の場所に座った。
「ヴァネッサ、どっちにする?」
「私、端っこに座る……」
なんとなく、ラズロの隣に座るのが怖い。
先ほど歓声をあげた女子数名が、じっとこっちを見ているからだ。
なんとなく、その視線が怖い。
「三人は何かと不慣れなこともあるだろうから、親切にするんだぞ」
セリアの言葉に、はぁい、とあちこちから返事が上がった。
――点呼を確認したセリアが立ち去った後、三人がさっそく囲まれたのは言うまでも
ない。
「ねーねー、どこから来たの?」
「お父さんとかお母さんは?」
「寮に入ったの? それとも下宿?」
うるさいぐらいの質問の大洪水である。
もっとも、詰め掛けてきた女子の大半はラズロに夢中のようだった。
アベルとヴァネッサに主に話し掛けてきたのは、茶色の巻き髪の少女だった。
……ちなみに、先ほどセリアに三人のことを噂で知っていると明るい声で告げた人物
である。
「ね、呼び捨てでいい?」
「え、はい」
大きなクリッとした目で見つめられ、ヴァネッサの警戒心が少し和らいだ。
「じゃ、ヴァネッサね。んで、兄弟いるの?」
「あ、あの……私、弟がいます」
「えっ、弟?」
少女は興味ありげに目を輝かせた。
「今日、一緒にアカデミーに来たんですけど……」
「わかったぁ!」
と言って、彼女がぐいっと掴んだのはラズロの腕。
思わぬ事態にアベルとヴァネッサは固まる。
「弟クンって、こっちでしょ! カッコイイ弟がいるのって、自慢よねぇ!」
「あ、あの……違います」
「えっ? うそぉ、髪の色とか似てるから、てっきりそう思ったぁ!」
ごめんねぇ~、と言いつつ彼女はラズロの腕を離す。
ラズロはぶ然とした表情のまま、そっぽを向いていた。
髪の色から考えると、ヴァネッサの髪は金色に近い亜麻色の髪だから、黒髪のアベル
よりは金髪のラズロと血が繋がっていると思うのが自然なのかもしれない。
「ふーん、こっちの、髪の黒いほうが弟クンなのぉ? あんまり似てないじゃん」
アベルをしげしげと観察しながらの、はっきりとした物言いに、ヴァネッサは困惑し
た。
年上ばかり話し相手にしてきたせいか、どうも同い年の女の子との会話が上手くいか
ない。
「だって……」
血が繋がってないから、と言おうとして、ヴァネッサははたと思った。
初対面の相手に、そういうことを言っていいものだろうか。
仮に言ったとして、この場の空気が悪くならないだろうか。
そういうことを、つらつらと思ってしまう。
「だって俺ら、血、繋がってないもん」
しかし、傍らのアベルはあっさりと告げた。
「ちょっ、アベル君っ」
「だって、事実なんだもん。隠したって仕方ねーじゃん」
慌てるヴァネッサに、アベルは「なんで隠すんだ?」という目をする。
「ふーん、そうなんだ。別に気にしなくたっていいのに。ここ、そういう子結構いる
よ? 孤児とか、親戚中たらい回しとか、一家離散とか、親がロクデナシとか」
(それじゃあ……)
今、目の前にいるこの明るい少女も、そういった辛い境遇なのだろうか。
そうなのかもしれないし、違うのかもしれない。
しかしヴァネッサは、どうしても聞けなかった。
「でも……血の繋がらない姉と弟ねぇ」
腕組をし、少女は何やら考えている。
……やがて、その顔にニヤニヤ笑いが浮かんできた。
「なーんか、それってちょーっと、ねぇ?」
「……何がですか?」
「だってさ、血が繋がってないわけでしょ?」
「そう、ですけど」
ヴァネッサが答えると、少女はキランと目を輝かせた。
「ってことは、恋に落ちたっていいわけじゃない! いいわあ~、燃えるわあぁ、そ
ういう設定! 小さい時はそんなの関係ナシに仲良くしてて、成長するとともにお互
い意識しちゃったりして! いつしか二人は、お互いに不器用な淡い恋心を抱いてし
まうの!」
拳を握り締め、少女は熱い情熱のこもった口調で語り出す。
……何やら思考があさっての方向に飛んでいるらしい。
ヴァネッサとアベルはぽかんとした顔でそれを見つめ、ラズロは珍しい生き物を見る
ような視線を少女に向けた。
「あ、コイツ、いつもこうだから。あんま気にしないで」
隣からひょこりと顔を出した別の少年が、ペシペシと少女のひたいをはたく。
少女は全く意に介した様子もなく、うっとりと己の妄想の世界に浸っている。
「な? こうなるともう、誰の話も聞いてないし、何が起きてもお構いナシなわけ」
ずけずけと物を言う態度から察するに、少女とは随分昔からの付き合いがあるよう
だ。
「……変な女」
「同感だ」
アベルの一言に、思わず、といった感じでラズロが同意する。
取り囲む女子達の視線や好奇心剥き出しの質問に、正直げんなりしているように見え
る。
「でも二人の間には『長年姉弟として生活してきた』っていう壁が! 無意識のうち
に壁があるの! 相手の気持ちを知るのが怖くて、お互い距離を置いてしまうの!
そのうち、それぞれ無理矢理別の人に恋をしてみたりして! でも、私の――俺の本
当に愛する人は一体誰なのか! それに気付いた二人はやっと素直になって!」
……しばらく、少女の妄想語りは続いた。
PC:アベル ヴァネッサ
NPC:ギア ラズロ セリア クラスメイト
場所:エドランス国 アカデミー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さて、今日からまた一からはじめるわけだが、飛び込みの三人はべつにして、
皆、期間休の間に研鑽は積んだことと思う。」
そういってセリアはぐるりと教室内を見回した。
アベル達が後で知ったところによると、普通、入学希望者は短期の仮入学をへ
て適正と志望を確認し、その上で現在の能力を元にバランスを考えてクラスわけ
することになるらしい。
その仮入学期間は、前学期までに2階位にあがれなかったものたちと合同で学
びクラスを馴染ませていることもり、普通はアベルたちのようにいきなり放り込
まれるというのはないのだ。
それが許可されるのは特別で、れゆえ噂にもなっていたのだが・・・・・・。
「なかには、既に顔なじみの奴もいるので、詳しいことはそいつらにきいてもら
えばいいが、基本的なことだけ入っておく。」
生徒を見回すセリアに目をとめられた何人かが、苦笑を浮かべて肩をすくめる。
(お、女将さんとご同輩なのかな?)
なんとなくセリアの視線を追って教室を眺め回していたアベルは、何人か獣人
のような者もいることに気がついた。
「一階生とはいえ、それぞれの力は違い成長の仕方も違う。だからここでは一定
の基準を超えたものは昇格試験を受けられ、通れば学期の途中でもあがることも
できるし、ゆっくりと繰り返し一階生を続けてもかまわない。中には何年も同じ
階位にとどまるものもいるぐらいだから、自分のペースで挑んでほしい。」
セリアは一枚の紙を出しみんなに見えるように掲げて見せた。
「これが昇格試験の申請書だ。みてとおり、ここに取得単位の欄があるだろう。
アカデミーでは大別して修学科と実技科があり、それぞれにある課が講習単位
となるわけだが、この各課の修了印を五つあつめれば、申請出るというわけだ。
階位が上がらないうちは各課でも教える内容に限りがあるので、先を急ぎたいな
ら必死で集めるとだ。あと、言っておくが、いくら単位を取得してても、このク
ラスでやる基礎過程が不十分と判断すれば申請は通らないので、気をつけるよう
に。」
そういわれて頭をかいたものも入るところを見ると、単位不足や試験不合格だ
けでなく、基礎過程で落とされたものもいるらしい。
「では、早速・・・・・・といきたいところだが、まずは全員の基礎知識を測ら
せても
らう。」
かわいいというより不敵としかいいようない太い笑みを浮かべたセリアは机の
下から紙束を引き上げて目の前にいた。
「なに、あくまで現在の知識を計るだけのもだ。気軽にやればいい。」
さっきまでは浮ついたような雰囲気があったクラスもさすがにテストは気がめ
いるようでなんとなく静まる。
「では、受け取ったものからはじめてかまわない。筆記具はなければここまで取
りにこい。今日の基礎過程はこれだけなので、終わったものから各講座をまわる
なりかえるなり好きにするといい。もし講座の受付をしたのならかえる前に入り
口の受付で手続きをしておくように。しておかないと講座で終了を認められても
単位が入らんからな。・・・・・・よし、もらってない奴はいないな、私はここ
にいる
がテストに関する質問は受け付けないからそのつもりで。」
紙を配り終えたセリアは前にある教壇まで戻ると、軋みを上げる木の椅子に腰
をかけて腕組みをして目を瞑った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「アベル君どうだった?」
テストを終えて教室を出ると少し早く出ていたヴァネッサが待っていた。
「うーん・・・・・・。」
アベルはなんだか変な感じに首をひねった。
テストは地理に関するものや、冒険中に関係しそうな細かい知識についてのも
ので、いわゆる学問というよりも雑学に似た感じだった。
それだけに範囲は広いというかひとくくりにできない多岐にわたるものだった。
「おやおや~、そのようすだとできなかったのかな?」
ヴァネッサの後ろから元気な声をかけてきたのは、先ほど授業前に騒いでいた少
女だった。
「えーと?」
「あ?アベル君にはまだ名乗ってなかったね。リリア、ただのリリアだよ、よろし
く!。」
リリアと名乗ったその少女は相変わらずの元気よさだった。
ヴァネッサは家が客商売立っただけに人見知りはしないが、あえて積極的に人に
触れていくとも思えないので、おそらく強引に巻きこまれたというところだろう。
そのリリアの頭にポンと手を載せてこれも先ほど顔を合わせた少年がたしなめた。
「こら、ぶしつけなことを聞くんじゃないの。あ、俺は一応こいつの保護者みたい
なものでリックってんだ、よろしく。」
リックは手を差し出しアベルと握手をした時、思い出したように付け足した。
「あ、名前は似てるけどこっちは義理も何にもない赤の他人だから。」
リックがそういって手を離そうとしたとき、アベルはなにかきこえたきがした。
(・・・・・・まめ~??? 聞こえたの俺だけ??)
ヴァネッサとリリアは反応していないところを見ると聞いたのはアベルだけらし
い。
こりゃ気のせい、とアベルはきかなかったことにした。
「あ、ラズロ。」
挨拶を交わしている間にでてきたラズロはアベルたちに目を向けると、軽く手を
上げて離れていった。
「あ、おい。」
「講座は固まっていたって仕方ないだろう。俺は俺でやらせてもらう。」
たしかに個人の知識とスキルを磨くのに誰かに合わせて都は行かないのは事実で
もある。
「うーん、でもどうせアベル君とかぶるとおもうけど。」
さすがにラズロの正確もわかってきてるので、遠ざかるその瀬に声をかけたりは
しなかったが、まるっりアベルに対するように、困った弟を見るようにわらいなが
らヴァネッサがいった。
「まあいいさ、でも俺たちはどうする?」
アベルは魔法よりも剣ではあったが、両親や宿に来る冒険者たちの話から知識と
しては取得してそんなことは何もないと知っていたので、実技は武闘関連に絞るに
しても学科のほうは魔法関連も受けるつもりだった。
「お、お、いっしょにいくなら私が案内してあげるよ。」
ヴァネッサが口を開く前にリリアが「はい、はい!」と手を上げて割り込む。
「ふふ、そうね。まだ勝手もわからないし、案内してもらいましょうか。」
笑いながらそういうヴァネッサに、アベルも特に繁多する理由はなかったのでう
なづいた。
NPC:ギア ラズロ セリア クラスメイト
場所:エドランス国 アカデミー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さて、今日からまた一からはじめるわけだが、飛び込みの三人はべつにして、
皆、期間休の間に研鑽は積んだことと思う。」
そういってセリアはぐるりと教室内を見回した。
アベル達が後で知ったところによると、普通、入学希望者は短期の仮入学をへ
て適正と志望を確認し、その上で現在の能力を元にバランスを考えてクラスわけ
することになるらしい。
その仮入学期間は、前学期までに2階位にあがれなかったものたちと合同で学
びクラスを馴染ませていることもり、普通はアベルたちのようにいきなり放り込
まれるというのはないのだ。
それが許可されるのは特別で、れゆえ噂にもなっていたのだが・・・・・・。
「なかには、既に顔なじみの奴もいるので、詳しいことはそいつらにきいてもら
えばいいが、基本的なことだけ入っておく。」
生徒を見回すセリアに目をとめられた何人かが、苦笑を浮かべて肩をすくめる。
(お、女将さんとご同輩なのかな?)
なんとなくセリアの視線を追って教室を眺め回していたアベルは、何人か獣人
のような者もいることに気がついた。
「一階生とはいえ、それぞれの力は違い成長の仕方も違う。だからここでは一定
の基準を超えたものは昇格試験を受けられ、通れば学期の途中でもあがることも
できるし、ゆっくりと繰り返し一階生を続けてもかまわない。中には何年も同じ
階位にとどまるものもいるぐらいだから、自分のペースで挑んでほしい。」
セリアは一枚の紙を出しみんなに見えるように掲げて見せた。
「これが昇格試験の申請書だ。みてとおり、ここに取得単位の欄があるだろう。
アカデミーでは大別して修学科と実技科があり、それぞれにある課が講習単位
となるわけだが、この各課の修了印を五つあつめれば、申請出るというわけだ。
階位が上がらないうちは各課でも教える内容に限りがあるので、先を急ぎたいな
ら必死で集めるとだ。あと、言っておくが、いくら単位を取得してても、このク
ラスでやる基礎過程が不十分と判断すれば申請は通らないので、気をつけるよう
に。」
そういわれて頭をかいたものも入るところを見ると、単位不足や試験不合格だ
けでなく、基礎過程で落とされたものもいるらしい。
「では、早速・・・・・・といきたいところだが、まずは全員の基礎知識を測ら
せても
らう。」
かわいいというより不敵としかいいようない太い笑みを浮かべたセリアは机の
下から紙束を引き上げて目の前にいた。
「なに、あくまで現在の知識を計るだけのもだ。気軽にやればいい。」
さっきまでは浮ついたような雰囲気があったクラスもさすがにテストは気がめ
いるようでなんとなく静まる。
「では、受け取ったものからはじめてかまわない。筆記具はなければここまで取
りにこい。今日の基礎過程はこれだけなので、終わったものから各講座をまわる
なりかえるなり好きにするといい。もし講座の受付をしたのならかえる前に入り
口の受付で手続きをしておくように。しておかないと講座で終了を認められても
単位が入らんからな。・・・・・・よし、もらってない奴はいないな、私はここ
にいる
がテストに関する質問は受け付けないからそのつもりで。」
紙を配り終えたセリアは前にある教壇まで戻ると、軋みを上げる木の椅子に腰
をかけて腕組みをして目を瞑った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「アベル君どうだった?」
テストを終えて教室を出ると少し早く出ていたヴァネッサが待っていた。
「うーん・・・・・・。」
アベルはなんだか変な感じに首をひねった。
テストは地理に関するものや、冒険中に関係しそうな細かい知識についてのも
ので、いわゆる学問というよりも雑学に似た感じだった。
それだけに範囲は広いというかひとくくりにできない多岐にわたるものだった。
「おやおや~、そのようすだとできなかったのかな?」
ヴァネッサの後ろから元気な声をかけてきたのは、先ほど授業前に騒いでいた少
女だった。
「えーと?」
「あ?アベル君にはまだ名乗ってなかったね。リリア、ただのリリアだよ、よろし
く!。」
リリアと名乗ったその少女は相変わらずの元気よさだった。
ヴァネッサは家が客商売立っただけに人見知りはしないが、あえて積極的に人に
触れていくとも思えないので、おそらく強引に巻きこまれたというところだろう。
そのリリアの頭にポンと手を載せてこれも先ほど顔を合わせた少年がたしなめた。
「こら、ぶしつけなことを聞くんじゃないの。あ、俺は一応こいつの保護者みたい
なものでリックってんだ、よろしく。」
リックは手を差し出しアベルと握手をした時、思い出したように付け足した。
「あ、名前は似てるけどこっちは義理も何にもない赤の他人だから。」
リックがそういって手を離そうとしたとき、アベルはなにかきこえたきがした。
(・・・・・・まめ~??? 聞こえたの俺だけ??)
ヴァネッサとリリアは反応していないところを見ると聞いたのはアベルだけらし
い。
こりゃ気のせい、とアベルはきかなかったことにした。
「あ、ラズロ。」
挨拶を交わしている間にでてきたラズロはアベルたちに目を向けると、軽く手を
上げて離れていった。
「あ、おい。」
「講座は固まっていたって仕方ないだろう。俺は俺でやらせてもらう。」
たしかに個人の知識とスキルを磨くのに誰かに合わせて都は行かないのは事実で
もある。
「うーん、でもどうせアベル君とかぶるとおもうけど。」
さすがにラズロの正確もわかってきてるので、遠ざかるその瀬に声をかけたりは
しなかったが、まるっりアベルに対するように、困った弟を見るようにわらいなが
らヴァネッサがいった。
「まあいいさ、でも俺たちはどうする?」
アベルは魔法よりも剣ではあったが、両親や宿に来る冒険者たちの話から知識と
しては取得してそんなことは何もないと知っていたので、実技は武闘関連に絞るに
しても学科のほうは魔法関連も受けるつもりだった。
「お、お、いっしょにいくなら私が案内してあげるよ。」
ヴァネッサが口を開く前にリリアが「はい、はい!」と手を上げて割り込む。
「ふふ、そうね。まだ勝手もわからないし、案内してもらいましょうか。」
笑いながらそういうヴァネッサに、アベルも特に繁多する理由はなかったのでう
なづいた。