PC:アベル ヴァネッサ
NPC:ギア ラズロ セリア クラスメイト
場所:エドランス国 アカデミー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「来たか」
場所は、教務室。
セリアは、三日ぶりに会った三人を見て目を細めた。
「よ、よろしくお願いします」
すっかり恐縮したヴァネッさが頭を下げると、セリアは微笑ましいものを見るように
目元を緩めた。
「そう気をつかうな。今からそれでは正直もたんぞ」
「は、はい」
そう言われても、ますます上がってしまう一方のヴァネッサである。
「ヴァネッサって、昔っから上がり性だったもんなぁ」
傍らのアベルは平然としている。
彼も緊張しているには違いないのだが、ヴァネッサほどではないので、平然として見
えてしまうのだ。
ラズロの方はもともと人の多い場所に慣れているらしく、既に見なれたぶ然とした表
情に戻っていた。
「そろそろ点呼を取る時間だ。そこでクラスの連中に紹介する。ついてきなさい」
セリアは何かの書類らしいものを片手に、歩き出した。
やがてセリアはとあるドアの前で立ち止まる。
ここがいわゆる『教室』なのだろう。
中からはざわざわとした雑多な話し声が聞こえていた。
ヴァネッサの緊張が、より一層強まる。
村にいた時には聞いたこともない人数の声。
――この中に、大勢の人がいるのだ。
そう思うと、足がすくむ。
とある一室の前に立ち止まると、セリアはくるりと三人の方を向いた。
「これから全員に紹介するが……自己紹介、できるな?」
「え、えぇと……何を言えばいいんでしょう?」
村から出たことのないヴァネッサは、自己紹介なんてものをしたことがない。
思いきり不安な顔をして、すがりつかんばかりにセリアを見上げた。
「まずは名前。それから年齢だの趣味だの特技だの……まあ、名前が言えれば充分
だ」
聞いているうちにどんどん不安そうな顔をするヴァネッサを見て、セリアは簡潔にま
とめ
た。
「ヴァネッサって、ホント上がり性だもんなぁ」
これから非常に困難な作業に向かうかのような表情で立ち尽くすヴァネッサを見て、
アベルは頬をかく。
「とにかく、今から始めるぞ」
セリアは言うと、ドアを開けた。
「ヴァネッサ、がんばれ」
アベルは小声で言い、ぽんと軽く背中を叩いた。
「う、うん」
そうとしか返事ができない。
開けたままのドアからは、室内に入っていったセリアの姿が見える。
彼女は前方中央にある教壇の前に立つと、室内を見渡した。
「全員、そろっているな?」
よく通る声で、彼女は語り出す。
「えー。今日からこのクラスに三人が加わることになった。今から紹介する」
「はいはーい、しってまーす。噂になってたもーん」
少女の明るい声が言う。
(う、噂……?)
一体どんな噂だったんだろう、とヴァネッサは思った。
変な噂じゃないといいが。
「……静粛に」
「はーい」
反省したとはあまり思えない明るい変事に、セリアは咳払いをすると、開けたままの
ドア――三人のいる方に顔を向けた。
「入ってきなさい」
ヴァネッサは、思わず、アベルの顔を見た。
「誰が先頭になるの?」
「……先に行く」
ラズロがスタスタと先に入っていった。
気をつかったのかもしれないし、単にさっさと済ませたいだけなのかもしれない。
「んじゃ、次俺が行くから。後からついてこい」
「ご、ごめんね、アベル君」
「別にいいって」
……ちょっと情けない姉である。
教壇の隣に三人は横並びになる。
「えー、一番左から、ラズロ=ブライ=アルトゥール=オーベンス、アベル、ヴァネッ
サだ」
一人ずつ名前を読み上げながら、セリアは背後の黒板に名前を書いていく。
ラズロを見た女性達の間では、早くも熱っぽいヒソヒソ話が始まっていた。
おそらくは、「カッコイイよね」とかそんなことを言っているのだろう。
「……じゃ、自己紹介をしなさい」
ちら、とやや心配そうにヴァネッサを見て、セリアは自己紹介を促す。
「ラズロ=ブライ=アルトゥール=オーベンスだ。よろしく」
ラズロの自己紹介に、「きゃあ」と、どこかで女子数名の歓声が上がった。
「アベルです、よろしく」
「ヴァ、ヴァネッサ、です……」
ガチガチに緊張しながら、どうにか名前だけを告げると、ヴァネッサはもう顔を上げ
ていられなかった。
「それでは席のほうだが……窓際の前から5列目に用意してあるから、そこに座って
くれ」
セリアが指した位置には、誰もついていない長机が一つあった。
ここでは一人に一つずつ机があてがわれているのではなく、長机に三人ずつ腰掛けて
いるのだ。
ラズロはさっさと歩いていくと、一番窓際の場所に座った。
「ヴァネッサ、どっちにする?」
「私、端っこに座る……」
なんとなく、ラズロの隣に座るのが怖い。
先ほど歓声をあげた女子数名が、じっとこっちを見ているからだ。
なんとなく、その視線が怖い。
「三人は何かと不慣れなこともあるだろうから、親切にするんだぞ」
セリアの言葉に、はぁい、とあちこちから返事が上がった。
――点呼を確認したセリアが立ち去った後、三人がさっそく囲まれたのは言うまでも
ない。
「ねーねー、どこから来たの?」
「お父さんとかお母さんは?」
「寮に入ったの? それとも下宿?」
うるさいぐらいの質問の大洪水である。
もっとも、詰め掛けてきた女子の大半はラズロに夢中のようだった。
アベルとヴァネッサに主に話し掛けてきたのは、茶色の巻き髪の少女だった。
……ちなみに、先ほどセリアに三人のことを噂で知っていると明るい声で告げた人物
である。
「ね、呼び捨てでいい?」
「え、はい」
大きなクリッとした目で見つめられ、ヴァネッサの警戒心が少し和らいだ。
「じゃ、ヴァネッサね。んで、兄弟いるの?」
「あ、あの……私、弟がいます」
「えっ、弟?」
少女は興味ありげに目を輝かせた。
「今日、一緒にアカデミーに来たんですけど……」
「わかったぁ!」
と言って、彼女がぐいっと掴んだのはラズロの腕。
思わぬ事態にアベルとヴァネッサは固まる。
「弟クンって、こっちでしょ! カッコイイ弟がいるのって、自慢よねぇ!」
「あ、あの……違います」
「えっ? うそぉ、髪の色とか似てるから、てっきりそう思ったぁ!」
ごめんねぇ~、と言いつつ彼女はラズロの腕を離す。
ラズロはぶ然とした表情のまま、そっぽを向いていた。
髪の色から考えると、ヴァネッサの髪は金色に近い亜麻色の髪だから、黒髪のアベル
よりは金髪のラズロと血が繋がっていると思うのが自然なのかもしれない。
「ふーん、こっちの、髪の黒いほうが弟クンなのぉ? あんまり似てないじゃん」
アベルをしげしげと観察しながらの、はっきりとした物言いに、ヴァネッサは困惑し
た。
年上ばかり話し相手にしてきたせいか、どうも同い年の女の子との会話が上手くいか
ない。
「だって……」
血が繋がってないから、と言おうとして、ヴァネッサははたと思った。
初対面の相手に、そういうことを言っていいものだろうか。
仮に言ったとして、この場の空気が悪くならないだろうか。
そういうことを、つらつらと思ってしまう。
「だって俺ら、血、繋がってないもん」
しかし、傍らのアベルはあっさりと告げた。
「ちょっ、アベル君っ」
「だって、事実なんだもん。隠したって仕方ねーじゃん」
慌てるヴァネッサに、アベルは「なんで隠すんだ?」という目をする。
「ふーん、そうなんだ。別に気にしなくたっていいのに。ここ、そういう子結構いる
よ? 孤児とか、親戚中たらい回しとか、一家離散とか、親がロクデナシとか」
(それじゃあ……)
今、目の前にいるこの明るい少女も、そういった辛い境遇なのだろうか。
そうなのかもしれないし、違うのかもしれない。
しかしヴァネッサは、どうしても聞けなかった。
「でも……血の繋がらない姉と弟ねぇ」
腕組をし、少女は何やら考えている。
……やがて、その顔にニヤニヤ笑いが浮かんできた。
「なーんか、それってちょーっと、ねぇ?」
「……何がですか?」
「だってさ、血が繋がってないわけでしょ?」
「そう、ですけど」
ヴァネッサが答えると、少女はキランと目を輝かせた。
「ってことは、恋に落ちたっていいわけじゃない! いいわあ~、燃えるわあぁ、そ
ういう設定! 小さい時はそんなの関係ナシに仲良くしてて、成長するとともにお互
い意識しちゃったりして! いつしか二人は、お互いに不器用な淡い恋心を抱いてし
まうの!」
拳を握り締め、少女は熱い情熱のこもった口調で語り出す。
……何やら思考があさっての方向に飛んでいるらしい。
ヴァネッサとアベルはぽかんとした顔でそれを見つめ、ラズロは珍しい生き物を見る
ような視線を少女に向けた。
「あ、コイツ、いつもこうだから。あんま気にしないで」
隣からひょこりと顔を出した別の少年が、ペシペシと少女のひたいをはたく。
少女は全く意に介した様子もなく、うっとりと己の妄想の世界に浸っている。
「な? こうなるともう、誰の話も聞いてないし、何が起きてもお構いナシなわけ」
ずけずけと物を言う態度から察するに、少女とは随分昔からの付き合いがあるよう
だ。
「……変な女」
「同感だ」
アベルの一言に、思わず、といった感じでラズロが同意する。
取り囲む女子達の視線や好奇心剥き出しの質問に、正直げんなりしているように見え
る。
「でも二人の間には『長年姉弟として生活してきた』っていう壁が! 無意識のうち
に壁があるの! 相手の気持ちを知るのが怖くて、お互い距離を置いてしまうの!
そのうち、それぞれ無理矢理別の人に恋をしてみたりして! でも、私の――俺の本
当に愛する人は一体誰なのか! それに気付いた二人はやっと素直になって!」
……しばらく、少女の妄想語りは続いた。
NPC:ギア ラズロ セリア クラスメイト
場所:エドランス国 アカデミー
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「来たか」
場所は、教務室。
セリアは、三日ぶりに会った三人を見て目を細めた。
「よ、よろしくお願いします」
すっかり恐縮したヴァネッさが頭を下げると、セリアは微笑ましいものを見るように
目元を緩めた。
「そう気をつかうな。今からそれでは正直もたんぞ」
「は、はい」
そう言われても、ますます上がってしまう一方のヴァネッサである。
「ヴァネッサって、昔っから上がり性だったもんなぁ」
傍らのアベルは平然としている。
彼も緊張しているには違いないのだが、ヴァネッサほどではないので、平然として見
えてしまうのだ。
ラズロの方はもともと人の多い場所に慣れているらしく、既に見なれたぶ然とした表
情に戻っていた。
「そろそろ点呼を取る時間だ。そこでクラスの連中に紹介する。ついてきなさい」
セリアは何かの書類らしいものを片手に、歩き出した。
やがてセリアはとあるドアの前で立ち止まる。
ここがいわゆる『教室』なのだろう。
中からはざわざわとした雑多な話し声が聞こえていた。
ヴァネッサの緊張が、より一層強まる。
村にいた時には聞いたこともない人数の声。
――この中に、大勢の人がいるのだ。
そう思うと、足がすくむ。
とある一室の前に立ち止まると、セリアはくるりと三人の方を向いた。
「これから全員に紹介するが……自己紹介、できるな?」
「え、えぇと……何を言えばいいんでしょう?」
村から出たことのないヴァネッサは、自己紹介なんてものをしたことがない。
思いきり不安な顔をして、すがりつかんばかりにセリアを見上げた。
「まずは名前。それから年齢だの趣味だの特技だの……まあ、名前が言えれば充分
だ」
聞いているうちにどんどん不安そうな顔をするヴァネッサを見て、セリアは簡潔にま
とめ
た。
「ヴァネッサって、ホント上がり性だもんなぁ」
これから非常に困難な作業に向かうかのような表情で立ち尽くすヴァネッサを見て、
アベルは頬をかく。
「とにかく、今から始めるぞ」
セリアは言うと、ドアを開けた。
「ヴァネッサ、がんばれ」
アベルは小声で言い、ぽんと軽く背中を叩いた。
「う、うん」
そうとしか返事ができない。
開けたままのドアからは、室内に入っていったセリアの姿が見える。
彼女は前方中央にある教壇の前に立つと、室内を見渡した。
「全員、そろっているな?」
よく通る声で、彼女は語り出す。
「えー。今日からこのクラスに三人が加わることになった。今から紹介する」
「はいはーい、しってまーす。噂になってたもーん」
少女の明るい声が言う。
(う、噂……?)
一体どんな噂だったんだろう、とヴァネッサは思った。
変な噂じゃないといいが。
「……静粛に」
「はーい」
反省したとはあまり思えない明るい変事に、セリアは咳払いをすると、開けたままの
ドア――三人のいる方に顔を向けた。
「入ってきなさい」
ヴァネッサは、思わず、アベルの顔を見た。
「誰が先頭になるの?」
「……先に行く」
ラズロがスタスタと先に入っていった。
気をつかったのかもしれないし、単にさっさと済ませたいだけなのかもしれない。
「んじゃ、次俺が行くから。後からついてこい」
「ご、ごめんね、アベル君」
「別にいいって」
……ちょっと情けない姉である。
教壇の隣に三人は横並びになる。
「えー、一番左から、ラズロ=ブライ=アルトゥール=オーベンス、アベル、ヴァネッ
サだ」
一人ずつ名前を読み上げながら、セリアは背後の黒板に名前を書いていく。
ラズロを見た女性達の間では、早くも熱っぽいヒソヒソ話が始まっていた。
おそらくは、「カッコイイよね」とかそんなことを言っているのだろう。
「……じゃ、自己紹介をしなさい」
ちら、とやや心配そうにヴァネッサを見て、セリアは自己紹介を促す。
「ラズロ=ブライ=アルトゥール=オーベンスだ。よろしく」
ラズロの自己紹介に、「きゃあ」と、どこかで女子数名の歓声が上がった。
「アベルです、よろしく」
「ヴァ、ヴァネッサ、です……」
ガチガチに緊張しながら、どうにか名前だけを告げると、ヴァネッサはもう顔を上げ
ていられなかった。
「それでは席のほうだが……窓際の前から5列目に用意してあるから、そこに座って
くれ」
セリアが指した位置には、誰もついていない長机が一つあった。
ここでは一人に一つずつ机があてがわれているのではなく、長机に三人ずつ腰掛けて
いるのだ。
ラズロはさっさと歩いていくと、一番窓際の場所に座った。
「ヴァネッサ、どっちにする?」
「私、端っこに座る……」
なんとなく、ラズロの隣に座るのが怖い。
先ほど歓声をあげた女子数名が、じっとこっちを見ているからだ。
なんとなく、その視線が怖い。
「三人は何かと不慣れなこともあるだろうから、親切にするんだぞ」
セリアの言葉に、はぁい、とあちこちから返事が上がった。
――点呼を確認したセリアが立ち去った後、三人がさっそく囲まれたのは言うまでも
ない。
「ねーねー、どこから来たの?」
「お父さんとかお母さんは?」
「寮に入ったの? それとも下宿?」
うるさいぐらいの質問の大洪水である。
もっとも、詰め掛けてきた女子の大半はラズロに夢中のようだった。
アベルとヴァネッサに主に話し掛けてきたのは、茶色の巻き髪の少女だった。
……ちなみに、先ほどセリアに三人のことを噂で知っていると明るい声で告げた人物
である。
「ね、呼び捨てでいい?」
「え、はい」
大きなクリッとした目で見つめられ、ヴァネッサの警戒心が少し和らいだ。
「じゃ、ヴァネッサね。んで、兄弟いるの?」
「あ、あの……私、弟がいます」
「えっ、弟?」
少女は興味ありげに目を輝かせた。
「今日、一緒にアカデミーに来たんですけど……」
「わかったぁ!」
と言って、彼女がぐいっと掴んだのはラズロの腕。
思わぬ事態にアベルとヴァネッサは固まる。
「弟クンって、こっちでしょ! カッコイイ弟がいるのって、自慢よねぇ!」
「あ、あの……違います」
「えっ? うそぉ、髪の色とか似てるから、てっきりそう思ったぁ!」
ごめんねぇ~、と言いつつ彼女はラズロの腕を離す。
ラズロはぶ然とした表情のまま、そっぽを向いていた。
髪の色から考えると、ヴァネッサの髪は金色に近い亜麻色の髪だから、黒髪のアベル
よりは金髪のラズロと血が繋がっていると思うのが自然なのかもしれない。
「ふーん、こっちの、髪の黒いほうが弟クンなのぉ? あんまり似てないじゃん」
アベルをしげしげと観察しながらの、はっきりとした物言いに、ヴァネッサは困惑し
た。
年上ばかり話し相手にしてきたせいか、どうも同い年の女の子との会話が上手くいか
ない。
「だって……」
血が繋がってないから、と言おうとして、ヴァネッサははたと思った。
初対面の相手に、そういうことを言っていいものだろうか。
仮に言ったとして、この場の空気が悪くならないだろうか。
そういうことを、つらつらと思ってしまう。
「だって俺ら、血、繋がってないもん」
しかし、傍らのアベルはあっさりと告げた。
「ちょっ、アベル君っ」
「だって、事実なんだもん。隠したって仕方ねーじゃん」
慌てるヴァネッサに、アベルは「なんで隠すんだ?」という目をする。
「ふーん、そうなんだ。別に気にしなくたっていいのに。ここ、そういう子結構いる
よ? 孤児とか、親戚中たらい回しとか、一家離散とか、親がロクデナシとか」
(それじゃあ……)
今、目の前にいるこの明るい少女も、そういった辛い境遇なのだろうか。
そうなのかもしれないし、違うのかもしれない。
しかしヴァネッサは、どうしても聞けなかった。
「でも……血の繋がらない姉と弟ねぇ」
腕組をし、少女は何やら考えている。
……やがて、その顔にニヤニヤ笑いが浮かんできた。
「なーんか、それってちょーっと、ねぇ?」
「……何がですか?」
「だってさ、血が繋がってないわけでしょ?」
「そう、ですけど」
ヴァネッサが答えると、少女はキランと目を輝かせた。
「ってことは、恋に落ちたっていいわけじゃない! いいわあ~、燃えるわあぁ、そ
ういう設定! 小さい時はそんなの関係ナシに仲良くしてて、成長するとともにお互
い意識しちゃったりして! いつしか二人は、お互いに不器用な淡い恋心を抱いてし
まうの!」
拳を握り締め、少女は熱い情熱のこもった口調で語り出す。
……何やら思考があさっての方向に飛んでいるらしい。
ヴァネッサとアベルはぽかんとした顔でそれを見つめ、ラズロは珍しい生き物を見る
ような視線を少女に向けた。
「あ、コイツ、いつもこうだから。あんま気にしないで」
隣からひょこりと顔を出した別の少年が、ペシペシと少女のひたいをはたく。
少女は全く意に介した様子もなく、うっとりと己の妄想の世界に浸っている。
「な? こうなるともう、誰の話も聞いてないし、何が起きてもお構いナシなわけ」
ずけずけと物を言う態度から察するに、少女とは随分昔からの付き合いがあるよう
だ。
「……変な女」
「同感だ」
アベルの一言に、思わず、といった感じでラズロが同意する。
取り囲む女子達の視線や好奇心剥き出しの質問に、正直げんなりしているように見え
る。
「でも二人の間には『長年姉弟として生活してきた』っていう壁が! 無意識のうち
に壁があるの! 相手の気持ちを知るのが怖くて、お互い距離を置いてしまうの!
そのうち、それぞれ無理矢理別の人に恋をしてみたりして! でも、私の――俺の本
当に愛する人は一体誰なのか! それに気付いた二人はやっと素直になって!」
……しばらく、少女の妄想語りは続いた。
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