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2025/03/09 11:40 |
立金花の咲く場所(トコロ) 27/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ギア ラズロ ウサギの女将さん
場所:エドランス国 せせらぎ亭

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

少しばかり時間の早い夕食は、子供達とギアと女将で一つの丸テーブルを囲んでのも
のだった。
カゴに盛られたパン、魚介のスープ、そしてサラダといったメニューを、談笑と共に
いただくのである。
相変わらずラズロには喋る様子もなかったが、女将の料理が美味しいのだろう、どこ
か雰囲気が和らいで見えた。

会話の内容は、いつしかアカデミーの昔話になっていた。
とは言っても本当に大昔の話ではなく、ギアやグラントやカタリナ、そして女将が学
生だった頃の話である。

「ギアったら本当にワルガキでねぇ、嫌味ったらしい先生の上着に、『毒グモだーっ
!』って言って、大きなクモをくっつけたのよねぇ」
大きなクモ、と聞いて、思わずヴァネッサは全身がザワザワした。
「先生ったら、今まで聞いたこともないような悲鳴を上げて、脱いだ上着を必死で
振ってたわねぇ。しまいにはちょっと泣いてたわぁ。そのクモ、毒なんかなかったの
に」
「女将ぃ……そりゃ時効だろ」
フォークを握り締め、ギアは閉口している。
「うふふふ。だって、あんな事しでかしたのって、あなただけなのよ」
話題は、次第に昔のことに移っていた。
ギア……そしてグラントやカタリナがまだアカデミーの学生だった頃、である。
どうやらギアは長いこと劣等生だったようで、その頃の失敗談が次々に暴露されて
いった。
「でも、先生は優秀な成績を修めて肖像画に残りました」
ただ一人、ラズロがギアの肩を持つ。
「そりゃ……グラントとカタリナがいたからな」
「じゃあ、俺の父ちゃんと母ちゃんがいなかったら、駄目だったんじゃねえの?」
もぐもぐとスープの具である魚の身を頬張りながら、アベル。
嫌味や奢りの感情はない。本人としては「そう思ったから言っただけ」なのだろう。
「そんなことはない。先生は一人でもきっと優秀な成績を残せていたはずだ」
ラズロは真剣な表情で、真っ向から対立する。
「あー、いいからいいから」
ギアは苦笑まじりにラズロをなだめていた。

そうそうそう、と女将は思い出したように口を開いた。
「アカデミー在学中に結婚した人達もいたのよぉ。学生どうしでの恋愛は珍しくもな
んともないんだけど、結婚っていうのは初めてのことだったの。普通はどんなに進ん
でても婚約どまりですもの。結構な騒ぎになったのよねぇ」
誰も気にとめなかったが、途端、ギアの表情が強張った。
「どんな人なんですか?」
ヴァネッサは、食事を一旦中断してでも話を聞くつもりで質問した。
恋愛とか婚約とか結婚とか、そういうことに興味のある年齢なのだ。
「えぇえぇえぇ、男の子の方は18歳で、女の子の方は16歳だったわぁ。しかも、
もう身ごもってるとかで、随分お腹も大きくなってて、それはそれは大騒ぎになった
ものよぉ」
「身ごもって……」
ぼんやりと呟いた後、ラズロは不自然に黙りこくった。
なんとなく頬が赤い。
「なんだ? 風邪か?」
「うるさいっ」
そういった手合いの話に疎いアベルは、ラズロからゲンコツを一発食らった。

「あの……その二人はどうなったんですか?」
十六歳という年齢で子供を宿し、結婚したという少女がどうなったのか、ヴァネッサ
は気になった。
幸せな家庭を築くことができたのだろうか? 是非そうであって欲しいのだけど。
女将は、手をアゴに当てて、考え込むように小首を傾げた。
「それがねぇ……結局、二人ともアカデミーを退学してしまったのよねぇ。その後ど
うなったかはわからないの……ああそうだわ、ヴァネッサちゃんって、今幾つだった
かしら?」
「十七歳、です」
「そうそうそう、二人の赤ちゃん、生きていればヴァネッサちゃんと同い年のはずだ
わぁ」
「そうなんですか? 会ってみたいなぁ……」
一体どんな子なんだろう。
ヴァネッサは興味を持った。
「うふふふ、きっと可愛いわよぉ。男の子に似てたら髪は金髪で、女の子に似てた
ら……」

その時、ガタン、とテーブルが鳴った。
ギアが魚介のスープが入った皿を引っくり返したのだとすぐに知れた。
「あ……と、すまん、落としちまった」
テーブルクロスの上に、魚介のスープがひたひたと染み渡っていく。
「大変っ」
ヴァネッサは、汚れないようにと近いところの食器を別のテーブルへと移動させた。
誰に言われるでもなくアベルがテーブルクロスを外している。
「まあまあまあ! ちょっと待っててね」
女将は慌てた様子で奥の部屋へ駆けこむと、雑巾を持って戻ってきた。
「悪い、考えごとしてたもんで……」
そのままテーブルを拭き始めた女将に、ギアは、申し訳なさそうに頬をかく。
「別に良いのよぉ。その代わりお皿洗いでもやってもらおうかしらぁ」
「勘弁してくれぇ」
「だーめ」
「なあ、このテーブルクロスどうしたらいいんだ?」
「奥に洗い場があるから、そこにでも放り込んでおいて頂戴」
「はーい」
アベルは明るく返事をし、奥の部屋へと急ぎ足で向かった。


……あとは特に何事もなく、食事の時間は過ぎていった。

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2007/02/12 21:44 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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