PC:アベル ヴァネッサ
NPC:男達 学者 老人
場所:村はずれの洞窟
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「アベル君大丈夫かしら?」
呟いてから、ヴァネッサはしばらく考え込んだ。
自分に求められている役目は、怪我人の治療である。
しかし、現段階でそれは一段落している。
既に治療を終えた二人は、毛布をかけられ、寝かされている。
おとなしく休んでいれば、数日のうちには以前と同じ生活に戻れるだろう。
後は……まだ洞窟の中に残っている者達が救助され次第、というところだ。
(他に何か手伝えないかしら……)
ヴァネッサは、自分の手に視線を落とす。
頼りない手だ。
腕力なんてないから、重い物を運んだりすることはできない。
手伝います、と申し出たところでかえって足を引っ張ることになるかもしれない。
しかし、ただじっとしているのは正直苦痛だった。
――自分の無力さを、思い知らされる気がして。
その時、テントの出入り口の幕がめくられた。
「ヴァネッサちゃん、いるかい!?」
入ってきたのは、大柄な男だった。
やせぎすな男性の襟首を掴みながら、テントの中に入ってくる。
「こいつを大急ぎで治療してくれ。手が……」
「ばかやろ……! これぐらい平気だ……!」
言いながらも、かなり辛そうに男は顔をしかめている。
左手を布でぐるぐる巻きにして押さえていることから、そこを怪我したのだとわかっ
た。
押さえている指の隙間からのぞく布が、赤く染まっている。
「平気なワケあるか!」
連れてきた男が一喝する。
「傷を、見せてください」
ヴァネッサは、左手に巻かれた布をそっとほどいた。
あらわになった左手の甲には、裂傷がある。
まるで、鋭利な刃物でやられたような傷である。
「しばらくじっとしていて下さい」
ヴァネッサはその傷の上に指をかざし、治療のために意識を集中した。
――ほどなく、治療は無事に終了した。
「作業中の怪我かね?」
「それが……」
老人に尋ねられた途端に、怪我をしていた男は口篭もる。
やましいことがある、という感じではなく、どう説明していいかわからないという、
戸惑いのようなものが現れていた。
「よく、わからねぇんだ」
「何じゃ、わからんというのは。自分の怪我じゃろうに」
呆れたように呟く老人に、彼はガリガリと頭をかいた。
「そりゃそうなんだがよ、じいさん……」
彼はしばらく思案した末に、ため息をついた。
「じゃあ話すけどよ……信じてくれねぇかもしれねえけど、本当のことだからな?
土石を運んでたら、『立ち去れ』って誰かが言った気がしたんだよ。で、気がついた
ら手の甲がスパッと切れてたんだ」
「……僕も、洞窟の中で同じ言葉を聞きました」
不意に、声が上がる。
目を向けると、頭部に怪我を負っていた方の学者が、いつの間にか起き上がってこち
らを見ていた。
「詳しく話してみなさい」
老人が『師』の表情になり、詳しい説明を促す。
学者は小さく頷き、ゆっくりと口を開いた。
「洞窟の中に入って、調査を始めたすぐ後に、『立ち去れ』って声が聞こえたような
気がしたんです。最初は、空耳かと思って無視していたんですけど、だんだん、声が
大きくなって……そうしたら、突然天井が……」
それを聞いていた大柄な男の顔色が、サッと変わった。
学者の前に詰め寄り、
「それ、本当なのか?」
かすれた声でそう尋ねる。
「本当です……」
学者は静かに呟くと、疲れた様子で目を閉じた。
「まずいな」
大柄な男は、やや青ざめた顔で呟くとヴァネッサに向き直った。
「ヴァネッサちゃん、すまねぇ」
「え?」
突然謝られて、ヴァネッサは困惑する。
「あんたの弟……アベルっていうんだったな? アベルは、今、洞窟の中にいるん
だ」
NPC:男達 学者 老人
場所:村はずれの洞窟
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「アベル君大丈夫かしら?」
呟いてから、ヴァネッサはしばらく考え込んだ。
自分に求められている役目は、怪我人の治療である。
しかし、現段階でそれは一段落している。
既に治療を終えた二人は、毛布をかけられ、寝かされている。
おとなしく休んでいれば、数日のうちには以前と同じ生活に戻れるだろう。
後は……まだ洞窟の中に残っている者達が救助され次第、というところだ。
(他に何か手伝えないかしら……)
ヴァネッサは、自分の手に視線を落とす。
頼りない手だ。
腕力なんてないから、重い物を運んだりすることはできない。
手伝います、と申し出たところでかえって足を引っ張ることになるかもしれない。
しかし、ただじっとしているのは正直苦痛だった。
――自分の無力さを、思い知らされる気がして。
その時、テントの出入り口の幕がめくられた。
「ヴァネッサちゃん、いるかい!?」
入ってきたのは、大柄な男だった。
やせぎすな男性の襟首を掴みながら、テントの中に入ってくる。
「こいつを大急ぎで治療してくれ。手が……」
「ばかやろ……! これぐらい平気だ……!」
言いながらも、かなり辛そうに男は顔をしかめている。
左手を布でぐるぐる巻きにして押さえていることから、そこを怪我したのだとわかっ
た。
押さえている指の隙間からのぞく布が、赤く染まっている。
「平気なワケあるか!」
連れてきた男が一喝する。
「傷を、見せてください」
ヴァネッサは、左手に巻かれた布をそっとほどいた。
あらわになった左手の甲には、裂傷がある。
まるで、鋭利な刃物でやられたような傷である。
「しばらくじっとしていて下さい」
ヴァネッサはその傷の上に指をかざし、治療のために意識を集中した。
――ほどなく、治療は無事に終了した。
「作業中の怪我かね?」
「それが……」
老人に尋ねられた途端に、怪我をしていた男は口篭もる。
やましいことがある、という感じではなく、どう説明していいかわからないという、
戸惑いのようなものが現れていた。
「よく、わからねぇんだ」
「何じゃ、わからんというのは。自分の怪我じゃろうに」
呆れたように呟く老人に、彼はガリガリと頭をかいた。
「そりゃそうなんだがよ、じいさん……」
彼はしばらく思案した末に、ため息をついた。
「じゃあ話すけどよ……信じてくれねぇかもしれねえけど、本当のことだからな?
土石を運んでたら、『立ち去れ』って誰かが言った気がしたんだよ。で、気がついた
ら手の甲がスパッと切れてたんだ」
「……僕も、洞窟の中で同じ言葉を聞きました」
不意に、声が上がる。
目を向けると、頭部に怪我を負っていた方の学者が、いつの間にか起き上がってこち
らを見ていた。
「詳しく話してみなさい」
老人が『師』の表情になり、詳しい説明を促す。
学者は小さく頷き、ゆっくりと口を開いた。
「洞窟の中に入って、調査を始めたすぐ後に、『立ち去れ』って声が聞こえたような
気がしたんです。最初は、空耳かと思って無視していたんですけど、だんだん、声が
大きくなって……そうしたら、突然天井が……」
それを聞いていた大柄な男の顔色が、サッと変わった。
学者の前に詰め寄り、
「それ、本当なのか?」
かすれた声でそう尋ねる。
「本当です……」
学者は静かに呟くと、疲れた様子で目を閉じた。
「まずいな」
大柄な男は、やや青ざめた顔で呟くとヴァネッサに向き直った。
「ヴァネッサちゃん、すまねぇ」
「え?」
突然謝られて、ヴァネッサは困惑する。
「あんたの弟……アベルっていうんだったな? アベルは、今、洞窟の中にいるん
だ」
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PC:アベル ヴァネッサ
NPC:男達(ダントン ロクス) 学者
場所:村はずれの洞窟
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・
「くっそ! なんなんだあいつらは!」
ダントンは荒い息をつきながら吐き捨てた。
小柄ながら、森で狩をして生計を立てるダントンの体は、
程よくひきしまった無駄の無い鍛えられた筋肉をまとってい
るため、脆弱な印象は微塵も感じさせなかった。
そのダントンが青い顔をして、当惑していた。
「……ジャイアントアントではないよな?」
そういって、同じように当惑した顔を見せているのは、同
じく小柄ながら、大工で鍛えられた丸太のような腕を持つロ
クスだった。
二人とも専業の戦士ではないが、日々鍛えられたその力は
駆け出しの戦士など相手にならないほどの実力を持つ。
実際、戦士のアベルもよく練習相手になってもらうのだが
ようやく最近勝てるようになってきた、というところなのだ。
その二人がこんな顔をみせるなど、おそらく村の人間は思
いもよらないだろう。
もっとも、アベルは二人の反応はおおいに納得できるもの
だったのだが……。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
違和感を最初に感じたのはダントンだった。
穴を抜けて、土砂の反対側へと這出た三人は、ランタンに
火を灯し、付近をしばらく探索していた。
重症ということだったので、倒れて岩陰に隠されているこ
ともありえることから、慎重に探したもののみつけることは
できなかったため、奥へと探索の範囲を広げることになった。
そうして落石現場からはなれ、奥へと続く道を歩いてる最
中のことだった。
「ん? まてよ、学者連中が事故にあったのはここじゃない
ってことか?」
ダントンがくびをかしげる。
「んー、ひょっとすると、おもったより怪我が軽くて、とり
あえず現場から離れたんじゃないですか?」
「そうだといいんだが……。」
ダントンはなんとなく釈然としない様子で、アベルの答え
に同意を返した。
「なーんか、ひっかかってんだよな……。」
そんな二人から少し遅れて、見落としの確認をしていたロ
クスが不意に緊張した声で二人を呼び止めた。
「まて!」
「どうした?」
「どうかしました?」
ロクスはふたりに下を良く見るように手で示す。
それになにか思い至ったのか、ダントンは床の土を少し手
にとって灯の元に近づけてみた。
「おい、アベルはここに最近来たか?」
「? いえ。」
「俺達もガキのころにきただけだから気づかなかったが……、
ここは土が違う、俺らの知らない奥にきてるんだ。」
「ええ? そ、そういえば、こんなに深くなかった……。」
アベルもなにか変なことにようやく気づき、同時にむかし
ヴァネッサに言われたことを思い出していた。
――洞窟の奥には、悪魔がいる。
――入ったら悪魔につかまって、二度と帰って来られなくなる。
誰に聞いたのか、ヴァネッサもそんな子供だましを言うのか、
と大人ぶっていたアベルは妙に勝った気になったのを覚えている。
「まさか、学者の人たちは……。」
にわかに悪い予感ばかりが膨れ上がってくる。
そしてそれは、アベルの予想を超えた形で現実となった。
不安を抱えた三人はさらに奥へとすすんだが、
「おい! あれをみろ!」
先行していたダントンが、少し先の曲がり角で二人をよんだ。
岩陰から隠れながら先を見た三人は、巨大なアリのような昆虫
に担ぎ上げられるようにして運ばれる学者達を見つけた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
バックアタックで奇襲をかけた三人は、学者を担ぎ上げて道を
逃げ戻った。
もちろん、巨大アリも獲物を奪い返そうと、奥のほうから追い
かけ てきたのだったが、アベルが戦士の本領を発揮して足止め
をする間に、ダントンとロクスで二人づつはこんで、距離を稼ぎ、
戻ってきて合流した三人はしばらく踏みとどまって戦っていた。
意外としぶとい巨大アリを、十体ほど倒したあたりで、後続が
切れたのに合わせて落石現場まで後退してきたのだった。
「どうします?」
アベルは奥を警戒しいつでも動けるように身構えたまま年長者
に判断を仰いだ。
「幸い学者達は重傷には違いないが、出血は止まっている。」
床に並べて横たえた学者を診ていたダントンが、勤めて明るく
いったが、アベルもロクスも気安めということがわかっていた。
「……やつらのことを向こうの連中に知らせなきゃならん。」
ロクスが重い口を開く。
これはもはや学者の命をこえて村の危機なのである。
わかってはいたのだが三人とも次の言葉が言い出せずにいた。
すなわち、「誰がもどるか。」
あのアリどもが押し寄せてきたとき、二人は残していかねば怪
我人を放り出すことになる。
みたところ、まだ人を担いで通れる穴は開通してないのだ。
「……俺が残ります、戦士ですからね。」
アベルが剣を見せながらそういいきる。
「……そういうことなら、もどんのはロクスだな。」
「おい!」
なにかいいかけるロクスをダントンが制する。
「言い合ってる暇はねえ。俺は大工よりかは件を使える、そうい
うことだ。」
ダントンは狩りで使う小剣を見せた。
ロクスもことの重大性がよくわかるだけに、悔しそうな顔をしな
がらも一つうなづいて穴へともぐり始めた。
「いいか、死ぬんじゃねーぞ。ダントンはともかく、アベルに死な
れたんじゃヴァネッサちゃんに顔向けできねえからな!」
「アリなんかにやられるような鍛え方してませんよ!」
アベルはあながち気休めでもなくそう返した。
NPC:男達(ダントン ロクス) 学者
場所:村はずれの洞窟
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・
「くっそ! なんなんだあいつらは!」
ダントンは荒い息をつきながら吐き捨てた。
小柄ながら、森で狩をして生計を立てるダントンの体は、
程よくひきしまった無駄の無い鍛えられた筋肉をまとってい
るため、脆弱な印象は微塵も感じさせなかった。
そのダントンが青い顔をして、当惑していた。
「……ジャイアントアントではないよな?」
そういって、同じように当惑した顔を見せているのは、同
じく小柄ながら、大工で鍛えられた丸太のような腕を持つロ
クスだった。
二人とも専業の戦士ではないが、日々鍛えられたその力は
駆け出しの戦士など相手にならないほどの実力を持つ。
実際、戦士のアベルもよく練習相手になってもらうのだが
ようやく最近勝てるようになってきた、というところなのだ。
その二人がこんな顔をみせるなど、おそらく村の人間は思
いもよらないだろう。
もっとも、アベルは二人の反応はおおいに納得できるもの
だったのだが……。
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違和感を最初に感じたのはダントンだった。
穴を抜けて、土砂の反対側へと這出た三人は、ランタンに
火を灯し、付近をしばらく探索していた。
重症ということだったので、倒れて岩陰に隠されているこ
ともありえることから、慎重に探したもののみつけることは
できなかったため、奥へと探索の範囲を広げることになった。
そうして落石現場からはなれ、奥へと続く道を歩いてる最
中のことだった。
「ん? まてよ、学者連中が事故にあったのはここじゃない
ってことか?」
ダントンがくびをかしげる。
「んー、ひょっとすると、おもったより怪我が軽くて、とり
あえず現場から離れたんじゃないですか?」
「そうだといいんだが……。」
ダントンはなんとなく釈然としない様子で、アベルの答え
に同意を返した。
「なーんか、ひっかかってんだよな……。」
そんな二人から少し遅れて、見落としの確認をしていたロ
クスが不意に緊張した声で二人を呼び止めた。
「まて!」
「どうした?」
「どうかしました?」
ロクスはふたりに下を良く見るように手で示す。
それになにか思い至ったのか、ダントンは床の土を少し手
にとって灯の元に近づけてみた。
「おい、アベルはここに最近来たか?」
「? いえ。」
「俺達もガキのころにきただけだから気づかなかったが……、
ここは土が違う、俺らの知らない奥にきてるんだ。」
「ええ? そ、そういえば、こんなに深くなかった……。」
アベルもなにか変なことにようやく気づき、同時にむかし
ヴァネッサに言われたことを思い出していた。
――洞窟の奥には、悪魔がいる。
――入ったら悪魔につかまって、二度と帰って来られなくなる。
誰に聞いたのか、ヴァネッサもそんな子供だましを言うのか、
と大人ぶっていたアベルは妙に勝った気になったのを覚えている。
「まさか、学者の人たちは……。」
にわかに悪い予感ばかりが膨れ上がってくる。
そしてそれは、アベルの予想を超えた形で現実となった。
不安を抱えた三人はさらに奥へとすすんだが、
「おい! あれをみろ!」
先行していたダントンが、少し先の曲がり角で二人をよんだ。
岩陰から隠れながら先を見た三人は、巨大なアリのような昆虫
に担ぎ上げられるようにして運ばれる学者達を見つけた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
バックアタックで奇襲をかけた三人は、学者を担ぎ上げて道を
逃げ戻った。
もちろん、巨大アリも獲物を奪い返そうと、奥のほうから追い
かけ てきたのだったが、アベルが戦士の本領を発揮して足止め
をする間に、ダントンとロクスで二人づつはこんで、距離を稼ぎ、
戻ってきて合流した三人はしばらく踏みとどまって戦っていた。
意外としぶとい巨大アリを、十体ほど倒したあたりで、後続が
切れたのに合わせて落石現場まで後退してきたのだった。
「どうします?」
アベルは奥を警戒しいつでも動けるように身構えたまま年長者
に判断を仰いだ。
「幸い学者達は重傷には違いないが、出血は止まっている。」
床に並べて横たえた学者を診ていたダントンが、勤めて明るく
いったが、アベルもロクスも気安めということがわかっていた。
「……やつらのことを向こうの連中に知らせなきゃならん。」
ロクスが重い口を開く。
これはもはや学者の命をこえて村の危機なのである。
わかってはいたのだが三人とも次の言葉が言い出せずにいた。
すなわち、「誰がもどるか。」
あのアリどもが押し寄せてきたとき、二人は残していかねば怪
我人を放り出すことになる。
みたところ、まだ人を担いで通れる穴は開通してないのだ。
「……俺が残ります、戦士ですからね。」
アベルが剣を見せながらそういいきる。
「……そういうことなら、もどんのはロクスだな。」
「おい!」
なにかいいかけるロクスをダントンが制する。
「言い合ってる暇はねえ。俺は大工よりかは件を使える、そうい
うことだ。」
ダントンは狩りで使う小剣を見せた。
ロクスもことの重大性がよくわかるだけに、悔しそうな顔をしな
がらも一つうなづいて穴へともぐり始めた。
「いいか、死ぬんじゃねーぞ。ダントンはともかく、アベルに死な
れたんじゃヴァネッサちゃんに顔向けできねえからな!」
「アリなんかにやられるような鍛え方してませんよ!」
アベルはあながち気休めでもなくそう返した。
PC:アベル ヴァネッサ
NPC:カタリナ ギア ラズロ ダントン ロクス
学者(ニコル シュナップス ヒース ラルフ) 老人(ランバート)
場所:ギサガ村
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――時間を少々さかのぼる。
アベルとヴァネッサが村外れの洞窟に向かったすぐ後のこと。
宿屋と酒場を兼ねたカタリナの店に、一組の客が訪れた。
大柄な中年男と、小柄な少年の二人連れである。
「いらっしゃい! お泊りですか、それともお食事?」
愛想よく笑いながら応対に出て――カタリナは、懐かしそうな声を上げた。
「ギア!」
「よっ。相変わらず頑丈そうだな」
ギアと呼ばれた大柄な中年男は、片手を上げて応える。
「久々に再会した幼なじみに向かって、頑丈そうってのは失礼じゃないかい?」
「なんだ? じゃあ『相変わらずお美しいですね~カタリナさん』なんて言われてぇ
のか?」
やや目を吊り上げたカタリナを、ギアはにやにや笑いながらからかう。
からかうと言っても悪意のようなものは感じられず、言葉には幼なじみどうしの親し
みがあった。
「あんたねぇっ」
「年を取っても女ってことか。 ひゅーひゅー」
……とてもではないが、中年にさしかかった男女の会話ではない。
「……先生、この方は?」
放っておけばいつまでも続くと判断したのだろう、少し後ろの方にたたずんでいた少
年が、ギアに質問をする形で割って入った。
(そういえば、この子のことを聞いてなかったね)と思いながら、カタリナは少年に
ちらりと目をやった。
金色の髪に緑色の瞳。年の頃はアベルと同じぐらいだろうか。
その割に、随分と落ちついた冷静そうな印象を受ける。
「ああ、俺の幼なじみでな。カタリナっていうんだ」
ギアが簡単にカタリナのことを紹介すると、
「そうですか。僕はラズロといいます。」
少年――ラズロは頭を下げた。
親近感を感じさせない、あくまでも儀礼的なものだった。
「ふぅん、あんた、弟子なんて取ったんだ」
「弟子っつーか……ラズロは旅先で世話になったところのお坊ちゃん。剣の道を極め
たいとかで、修行中だ」
「あんた、剣なんて教えられるの?」
カタリナの記憶によれば、ギアの剣の腕前は大したものではない。
彼の才能は、魔法の分野に限られている。
魔法を極めたいと言って、ギアは修行の旅に出たのである。
それが何故、剣の道を志す少年を連れているのか、疑問だった。
「うんにゃ。俺、剣のことはさっぱりだ」
ひらひら、とギアは手を振る。
「じゃあなんで連れて歩いてるんだい? 目指す分野が違うってのに」
「あー……それはな……剣を教えるっていうより、まあ、世間を見て、精神的に成長
してもらうため、ってとこかな」
(精神的に、ねぇ……)
カタリナはラズロをちらりと見、それからギアに視線を戻した。
「それで、どうする? 泊まっていくのかい?」
「そうだな、じゃあ二部屋、空いてるか?」
「空いてるよ。廊下の一番奥から手前に二部屋だけど、いいかい?」
「おう」
「それじゃ、宿帳に名前を書いておくれ。食事はどうする?」
「もらうよ。簡単なのでいい」
「はいよ。適当に座ってておくれ。出来あがったら持ってくるから」
カタリナが厨房に向かうと、ギアとラズロはカウンターの席についた。
「ところでよー、カタリナ」
「なんだい?」
二人分のパンとスープを用意してきたカタリナに、ギアがぽつりと声をかけた。
「お前、知り合いのとこの女の子をもらったって聞いたぞ。なんでも、親が二人とも
死んじまったから、身寄りがなくなったんだってな。名前、ヴァネッサっていうんだ
ろ?」
「あぁ、まあね」
相槌を打ちながら、カタリナはちらりと思い出した。
引き取ることが決まり、家にやってきた時の、まだ幼かったヴァネッサの姿を。
あの時のヴァネッサは、くたびれたぬいぐるみを心細そうに抱きしめ、目にいっぱい
涙をためてうつむいたまま、一言もしゃべろうとしなかった。
両親を相次いで亡くしたことで心に傷を負ったせいなのだろう、声が出なくなってい
たのだ。
「おとうさん」 「おかあさん」 とたどたどしくも呼べるようになったのは、それ
から実に一年近くも後のことである。
「かわいそうになあ、まだ四つだっていうのに……今、何歳なんだっけ?」
「今年で十七歳になるんだよ。まったく、月日の経つのは早いもんだよ」
自分でそう言って、カタリナはしみじみと過ぎた年月の長さを思った。
その間に、いろんなことがあった。
そう、本当に、いろんなことが。
「それじゃ、そろそろ貰い手を見つけなきゃならねぇよな」
パンを一切れ食べ終わったギアは、スープをすすり始める。
「まあ、それは本人次第だからねぇ」
カタリナは頬をかいた。
ヴァネッサの花嫁姿が、なんとなく想像できないのである。
(あの子もいつか、『お世話になりました』なんて言って、惚れた男のところに行く
のかねぇ)
そう思うと、自分が急に年老いたような感覚さえ覚える。
「おし、貰い手がなかったら俺が良い見合い相手を紹介してやろうっ。なんなら俺が
嫁にもらっても」
「手ぇ出したら承知しないからね!!」
ぴしゃり、とカタリナに一喝され、ギアは「冗談、冗談」と引き気味に笑みを返し
た。
「しかし、この店、大丈夫なのか? こんなにガラガラ空いてたら、儲けにならねえ
だろ?」
カタリナの怒りを買わないように、という気持ちからか、ギアは話題を変える。
実際、店内にはギアとラズロ以外の客がおらず、貸し切り状態だった。
「今日は特別なんだよ」
「へぇ、祭りでもあんのか?」
「違うったら。村外れの洞窟で落盤があってね、学者先生が巻き込まれたとかで、村
中の男がそっちに行ってるんだよ。ヴァネッサとアベルも手伝いに行ってるんだ」
「落盤、ねぇ……」
パンをもう一切れ口に押し込み、ギアは隣のラズロに視線を移す。
彼は、二人の会話を聞きながら、黙々と食事をしていた。
どこか、親しげな雰囲気というものを拒絶するような空気さえ漂わせながら。
――場面は再び洞窟の入り口前に戻る。
「ヴァネッサちゃん、 落ちついて!」
「離してくださいっ」
ヴァネッサは、手首を掴むロクスの腕を振り払おうともがいた。
しかし相手は大工仕事を通して鍛えられた男、そう簡単に振り払えるものではない。
「洞窟に入るなんて無茶だ! さっき説明しただろ?」
「でも……でも!」
ヴァネッサは今にも泣き出しそうな声を上げた。
――洞窟の奥で巨大なアリを見た。
それも、一体ニ体といったものではなく、かなりの数だった。
それが、学者の一人を背負って戻ってきたロクスの言葉だった。
しかも、アベルがダントンと共に洞窟の中に残っているという。
それを聞かされたヴァネッサは、救出されてきた学者達――ヒースとラルフの治療を
終えると、自分も洞窟の中に行くと言い出し、全員に引きとめられることになった。
「やめておいた方が賢明です」
頭に怪我をした学者――ニコルが、ぼそぼそと忠告をする。
テントの中でいまだ寝ている方はシュナップスという名前らしい。
「かえって足手まといになるかもしれません。待ちましょう」
「そんな……っ、見殺しにする気なんですか!」
ニコルの言うことはもっともである。
非力な、多少の治癒魔法を使う程度の能力しかないヴァネッサが行ったところで、お
そらく足手まといにしかならないだろう。
それは、ヴァネッサも理解している。
だが、感情がどうしても納得しないのだ。
危険な状況にあるだろう弟を、放っておくことなどどうしてもできない。
そんな感情が、理性を飲みこみつつあった。
「行かせてください、お願いですからっ!」
「駄目だ! 女の子を危険な目に遭わせるわけにはいかねえっ」
『行かせろ』『行かせない』の問答が熱を帯びてきた、その時である。
「なんなら、俺らが行きましょうか?」
唐突に知らない中年男の声が聞こえて、ヴァネッサは目を丸くした。
声のした方を見れば、そこには大柄な中年男と小柄な少年の二人連れ。
「……ギア?」
ヴァネッサの師ともいえる老人――ランバートが、中年男を見て歩み寄っていく。
「師匠、お久しぶりです」
ギアは、ランバートに向かって快活そうな笑顔を見せた。
NPC:カタリナ ギア ラズロ ダントン ロクス
学者(ニコル シュナップス ヒース ラルフ) 老人(ランバート)
場所:ギサガ村
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――時間を少々さかのぼる。
アベルとヴァネッサが村外れの洞窟に向かったすぐ後のこと。
宿屋と酒場を兼ねたカタリナの店に、一組の客が訪れた。
大柄な中年男と、小柄な少年の二人連れである。
「いらっしゃい! お泊りですか、それともお食事?」
愛想よく笑いながら応対に出て――カタリナは、懐かしそうな声を上げた。
「ギア!」
「よっ。相変わらず頑丈そうだな」
ギアと呼ばれた大柄な中年男は、片手を上げて応える。
「久々に再会した幼なじみに向かって、頑丈そうってのは失礼じゃないかい?」
「なんだ? じゃあ『相変わらずお美しいですね~カタリナさん』なんて言われてぇ
のか?」
やや目を吊り上げたカタリナを、ギアはにやにや笑いながらからかう。
からかうと言っても悪意のようなものは感じられず、言葉には幼なじみどうしの親し
みがあった。
「あんたねぇっ」
「年を取っても女ってことか。 ひゅーひゅー」
……とてもではないが、中年にさしかかった男女の会話ではない。
「……先生、この方は?」
放っておけばいつまでも続くと判断したのだろう、少し後ろの方にたたずんでいた少
年が、ギアに質問をする形で割って入った。
(そういえば、この子のことを聞いてなかったね)と思いながら、カタリナは少年に
ちらりと目をやった。
金色の髪に緑色の瞳。年の頃はアベルと同じぐらいだろうか。
その割に、随分と落ちついた冷静そうな印象を受ける。
「ああ、俺の幼なじみでな。カタリナっていうんだ」
ギアが簡単にカタリナのことを紹介すると、
「そうですか。僕はラズロといいます。」
少年――ラズロは頭を下げた。
親近感を感じさせない、あくまでも儀礼的なものだった。
「ふぅん、あんた、弟子なんて取ったんだ」
「弟子っつーか……ラズロは旅先で世話になったところのお坊ちゃん。剣の道を極め
たいとかで、修行中だ」
「あんた、剣なんて教えられるの?」
カタリナの記憶によれば、ギアの剣の腕前は大したものではない。
彼の才能は、魔法の分野に限られている。
魔法を極めたいと言って、ギアは修行の旅に出たのである。
それが何故、剣の道を志す少年を連れているのか、疑問だった。
「うんにゃ。俺、剣のことはさっぱりだ」
ひらひら、とギアは手を振る。
「じゃあなんで連れて歩いてるんだい? 目指す分野が違うってのに」
「あー……それはな……剣を教えるっていうより、まあ、世間を見て、精神的に成長
してもらうため、ってとこかな」
(精神的に、ねぇ……)
カタリナはラズロをちらりと見、それからギアに視線を戻した。
「それで、どうする? 泊まっていくのかい?」
「そうだな、じゃあ二部屋、空いてるか?」
「空いてるよ。廊下の一番奥から手前に二部屋だけど、いいかい?」
「おう」
「それじゃ、宿帳に名前を書いておくれ。食事はどうする?」
「もらうよ。簡単なのでいい」
「はいよ。適当に座ってておくれ。出来あがったら持ってくるから」
カタリナが厨房に向かうと、ギアとラズロはカウンターの席についた。
「ところでよー、カタリナ」
「なんだい?」
二人分のパンとスープを用意してきたカタリナに、ギアがぽつりと声をかけた。
「お前、知り合いのとこの女の子をもらったって聞いたぞ。なんでも、親が二人とも
死んじまったから、身寄りがなくなったんだってな。名前、ヴァネッサっていうんだ
ろ?」
「あぁ、まあね」
相槌を打ちながら、カタリナはちらりと思い出した。
引き取ることが決まり、家にやってきた時の、まだ幼かったヴァネッサの姿を。
あの時のヴァネッサは、くたびれたぬいぐるみを心細そうに抱きしめ、目にいっぱい
涙をためてうつむいたまま、一言もしゃべろうとしなかった。
両親を相次いで亡くしたことで心に傷を負ったせいなのだろう、声が出なくなってい
たのだ。
「おとうさん」 「おかあさん」 とたどたどしくも呼べるようになったのは、それ
から実に一年近くも後のことである。
「かわいそうになあ、まだ四つだっていうのに……今、何歳なんだっけ?」
「今年で十七歳になるんだよ。まったく、月日の経つのは早いもんだよ」
自分でそう言って、カタリナはしみじみと過ぎた年月の長さを思った。
その間に、いろんなことがあった。
そう、本当に、いろんなことが。
「それじゃ、そろそろ貰い手を見つけなきゃならねぇよな」
パンを一切れ食べ終わったギアは、スープをすすり始める。
「まあ、それは本人次第だからねぇ」
カタリナは頬をかいた。
ヴァネッサの花嫁姿が、なんとなく想像できないのである。
(あの子もいつか、『お世話になりました』なんて言って、惚れた男のところに行く
のかねぇ)
そう思うと、自分が急に年老いたような感覚さえ覚える。
「おし、貰い手がなかったら俺が良い見合い相手を紹介してやろうっ。なんなら俺が
嫁にもらっても」
「手ぇ出したら承知しないからね!!」
ぴしゃり、とカタリナに一喝され、ギアは「冗談、冗談」と引き気味に笑みを返し
た。
「しかし、この店、大丈夫なのか? こんなにガラガラ空いてたら、儲けにならねえ
だろ?」
カタリナの怒りを買わないように、という気持ちからか、ギアは話題を変える。
実際、店内にはギアとラズロ以外の客がおらず、貸し切り状態だった。
「今日は特別なんだよ」
「へぇ、祭りでもあんのか?」
「違うったら。村外れの洞窟で落盤があってね、学者先生が巻き込まれたとかで、村
中の男がそっちに行ってるんだよ。ヴァネッサとアベルも手伝いに行ってるんだ」
「落盤、ねぇ……」
パンをもう一切れ口に押し込み、ギアは隣のラズロに視線を移す。
彼は、二人の会話を聞きながら、黙々と食事をしていた。
どこか、親しげな雰囲気というものを拒絶するような空気さえ漂わせながら。
――場面は再び洞窟の入り口前に戻る。
「ヴァネッサちゃん、 落ちついて!」
「離してくださいっ」
ヴァネッサは、手首を掴むロクスの腕を振り払おうともがいた。
しかし相手は大工仕事を通して鍛えられた男、そう簡単に振り払えるものではない。
「洞窟に入るなんて無茶だ! さっき説明しただろ?」
「でも……でも!」
ヴァネッサは今にも泣き出しそうな声を上げた。
――洞窟の奥で巨大なアリを見た。
それも、一体ニ体といったものではなく、かなりの数だった。
それが、学者の一人を背負って戻ってきたロクスの言葉だった。
しかも、アベルがダントンと共に洞窟の中に残っているという。
それを聞かされたヴァネッサは、救出されてきた学者達――ヒースとラルフの治療を
終えると、自分も洞窟の中に行くと言い出し、全員に引きとめられることになった。
「やめておいた方が賢明です」
頭に怪我をした学者――ニコルが、ぼそぼそと忠告をする。
テントの中でいまだ寝ている方はシュナップスという名前らしい。
「かえって足手まといになるかもしれません。待ちましょう」
「そんな……っ、見殺しにする気なんですか!」
ニコルの言うことはもっともである。
非力な、多少の治癒魔法を使う程度の能力しかないヴァネッサが行ったところで、お
そらく足手まといにしかならないだろう。
それは、ヴァネッサも理解している。
だが、感情がどうしても納得しないのだ。
危険な状況にあるだろう弟を、放っておくことなどどうしてもできない。
そんな感情が、理性を飲みこみつつあった。
「行かせてください、お願いですからっ!」
「駄目だ! 女の子を危険な目に遭わせるわけにはいかねえっ」
『行かせろ』『行かせない』の問答が熱を帯びてきた、その時である。
「なんなら、俺らが行きましょうか?」
唐突に知らない中年男の声が聞こえて、ヴァネッサは目を丸くした。
声のした方を見れば、そこには大柄な中年男と小柄な少年の二人連れ。
「……ギア?」
ヴァネッサの師ともいえる老人――ランバートが、中年男を見て歩み寄っていく。
「師匠、お久しぶりです」
ギアは、ランバートに向かって快活そうな笑顔を見せた。
PC:アベル ヴァネッサ
NPC:カタリナ ギア ラズロ ダントン ロクス
学者(ニコル シュナップス ヒース ラルフ) 老人(ランバー
ト)
場所:ギサガ村
――――――――――――――――――――――――
「私も連れて行ってください!」
間髪入れずに強い口調でヴァネッサが言う。
普段は気配りをする性格からか、他人の話に割り込んだ
り、こんなに強く言い放つことは無いのだが、少女を良く知
るロクスやランバートが驚いてしまったほどの変わりようだ
った。
「……嬢ちゃんがヴァネッサちゃんか?」
「え?」
勢いで割り込んだものの、見ず知らずの相手に突然名前を
当てられ、ヴァネッサは思わず気勢をそがれる。
「そうか、ギアはカタリナとは馴染みだったな。」
ランバートが今思い出したとばかりに頷いた。
「カタリナ……母さんのお知り合い?」
「まあそうだ。カタリナやグラントと組んで仕事してたとき
もあるんだぜ。」
初対面にもかかわらず、親戚の子にでも接するようにはな
すギアに気圧されながらも、ヴァネッサは姿勢をただし真っ
直ぐにギアの目を見た。
「ギアさん、私も連れて行ってください。未熟ですが、治癒
の魔法も使えますし、邪魔にならないようにしますから。」
「……うーん、カタリナの娘だし……いやだからしょうがな
いのかなぁ。」
「おねがいします!」
「うーん、しかたねぇな。よし! ラズロはヴァネッサちゃ
んをまもってやんな。」
ギアの言葉にパッと顔を輝かすヴァネッサと対称的に、他
人事とすっかり聞き流していたラズロは、露骨に機嫌を損ね
た様子で、一応反論を試みる。
「無理してまで連れて行く必要があるんですか?」
「ばーか、お前と2人で潜った上、助けを待つのも男ばかり、
正気じゃおれんだろうが。」
「……。」
予想通り、とはいえ、さすがにあきれてだまるラズロ。
「ヴァネッサがいくなら、わしも行くかの。」
さすがにギアもランバートのこの言葉にはなにもいえなか
った。
「まあいいさ。どのみち洞窟の中なら、俺がいれば危険なん
て無いって事を、師匠にお見せするいい機会だ。」
気分をすぐに変えたギアは、軽くいってわらった。
ヴァネッサは洞窟のことで頭がいっぱいだったが、ギアが
現れてから場の空気が軽くなったことに気がついた。
(お父さんとお母さんと一緒に冒険をしていた人……。なん
だか不思議な人。)
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
戦いが始まってからどれぐらいの時間がたったのか……。
おそらく自分が感じているほどにはすぎてないだろう、と
ダントンは冷静に考えていた。
狩をするときには一切の気配を絶ち、闇に潜むことが常の
狩人は体感時間と現実の時間の差を本能的に図ることができ
る。
ダントンはロクスが無理を通して、特に怪我の重い学者の
一人を引きずるように抜け穴に消えてからの時間を計ること
で、限界までを計算していたのだ。
(学者さんにはわりーが、せめてアベルだけでも。)
ダントンは自分の命の賭け時を計っていたわけだが、同時
に意外な頑張りを見せるアベルにいささかの期待を感じても
いた。
アベルはまだまだ技を語るほどの腕ではなかったが、基本
を積み重ねてきた努力を、確実に力にしていることをうかが
わせる堅実な戦い方をしていた。
ジャイアント・アント(以降Gアント)は力も強く、表皮
も装甲のごとき硬さをもっていたが、単調で幅の無い攻撃と
連携をまったくとらない行動パターンが幸いし、確実に一匹
づつしとめることで、Gアントの波に耐えていた。
「結構たった気がしますけど、こいつらはあきらめたりしな
いんですかね?」
アベルはまだ余力を感じさせる声色ながらも、呆れたよう
な口調でぼやいた。
「なりこそでかいけど、ほんとにアリなんだなぁ。」
あいも変わらず体当たりから前足でのホールドそこからの
強靭な顎での喰いつきをしかけるGアントを、剣を上手くつ
かって真っ向から受け止め、その際受ける衝撃と擦り傷にひ
るむこと無く、頭の足りないGアントをねじ伏せ、上段から
渾身の一撃を見舞う――もはや戦闘というよりも作業になる
動作を繰り返しながらアベルがぼやく。
ダントンは主にアベルが二体同時に相手取らずにすむよう
にサポートにまわっているおかげで、まだ体力の消費も抑え
られていたが、やはり戦闘による疲労は確実に積み重ねられ
ていた。
それだけに感心もしていた。
(さすがカタリナさんの息子だ。)
さすがに、このまま虫どもが尽きるまでいけるとおもうほ
どアベルもダントンも楽観できなかったが、ダントンはアベ
ルだけなら助かるかもしれないと思い始めていた。
そんな二人が同時に顔を見合わせる。
「……今、なんか聞こえました?」
「……アベルもきこえたのか?」
体力尽きるまで続くかと思われた虫退治のさなか、二人は
地響きのような音が、よりにもよって後ろから聞こえてきた
のだ。
まさか逃げ道が崩れるのか、とさすがにあけった二人の予
測をおおきくはずれ、突如として、崩れて埋まっていた土砂
の壁が、まるで自らの意思で動いているかのように、見る見
るうちに四方へと移動し、元の洞窟と指して変わらない様子
へと変化した。
「アベル君!」
「ヴァネッサ?!」
聞きなれた声に驚くアベルとロクスは、見知らぬ男と、控
えるように取り巻くランバートと見知らぬ少年、そしてヴァ
ネッサがそこにいる状況についていけないまま、唖然と見
ていた。
NPC:カタリナ ギア ラズロ ダントン ロクス
学者(ニコル シュナップス ヒース ラルフ) 老人(ランバー
ト)
場所:ギサガ村
――――――――――――――――――――――――
「私も連れて行ってください!」
間髪入れずに強い口調でヴァネッサが言う。
普段は気配りをする性格からか、他人の話に割り込んだ
り、こんなに強く言い放つことは無いのだが、少女を良く知
るロクスやランバートが驚いてしまったほどの変わりようだ
った。
「……嬢ちゃんがヴァネッサちゃんか?」
「え?」
勢いで割り込んだものの、見ず知らずの相手に突然名前を
当てられ、ヴァネッサは思わず気勢をそがれる。
「そうか、ギアはカタリナとは馴染みだったな。」
ランバートが今思い出したとばかりに頷いた。
「カタリナ……母さんのお知り合い?」
「まあそうだ。カタリナやグラントと組んで仕事してたとき
もあるんだぜ。」
初対面にもかかわらず、親戚の子にでも接するようにはな
すギアに気圧されながらも、ヴァネッサは姿勢をただし真っ
直ぐにギアの目を見た。
「ギアさん、私も連れて行ってください。未熟ですが、治癒
の魔法も使えますし、邪魔にならないようにしますから。」
「……うーん、カタリナの娘だし……いやだからしょうがな
いのかなぁ。」
「おねがいします!」
「うーん、しかたねぇな。よし! ラズロはヴァネッサちゃ
んをまもってやんな。」
ギアの言葉にパッと顔を輝かすヴァネッサと対称的に、他
人事とすっかり聞き流していたラズロは、露骨に機嫌を損ね
た様子で、一応反論を試みる。
「無理してまで連れて行く必要があるんですか?」
「ばーか、お前と2人で潜った上、助けを待つのも男ばかり、
正気じゃおれんだろうが。」
「……。」
予想通り、とはいえ、さすがにあきれてだまるラズロ。
「ヴァネッサがいくなら、わしも行くかの。」
さすがにギアもランバートのこの言葉にはなにもいえなか
った。
「まあいいさ。どのみち洞窟の中なら、俺がいれば危険なん
て無いって事を、師匠にお見せするいい機会だ。」
気分をすぐに変えたギアは、軽くいってわらった。
ヴァネッサは洞窟のことで頭がいっぱいだったが、ギアが
現れてから場の空気が軽くなったことに気がついた。
(お父さんとお母さんと一緒に冒険をしていた人……。なん
だか不思議な人。)
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
戦いが始まってからどれぐらいの時間がたったのか……。
おそらく自分が感じているほどにはすぎてないだろう、と
ダントンは冷静に考えていた。
狩をするときには一切の気配を絶ち、闇に潜むことが常の
狩人は体感時間と現実の時間の差を本能的に図ることができ
る。
ダントンはロクスが無理を通して、特に怪我の重い学者の
一人を引きずるように抜け穴に消えてからの時間を計ること
で、限界までを計算していたのだ。
(学者さんにはわりーが、せめてアベルだけでも。)
ダントンは自分の命の賭け時を計っていたわけだが、同時
に意外な頑張りを見せるアベルにいささかの期待を感じても
いた。
アベルはまだまだ技を語るほどの腕ではなかったが、基本
を積み重ねてきた努力を、確実に力にしていることをうかが
わせる堅実な戦い方をしていた。
ジャイアント・アント(以降Gアント)は力も強く、表皮
も装甲のごとき硬さをもっていたが、単調で幅の無い攻撃と
連携をまったくとらない行動パターンが幸いし、確実に一匹
づつしとめることで、Gアントの波に耐えていた。
「結構たった気がしますけど、こいつらはあきらめたりしな
いんですかね?」
アベルはまだ余力を感じさせる声色ながらも、呆れたよう
な口調でぼやいた。
「なりこそでかいけど、ほんとにアリなんだなぁ。」
あいも変わらず体当たりから前足でのホールドそこからの
強靭な顎での喰いつきをしかけるGアントを、剣を上手くつ
かって真っ向から受け止め、その際受ける衝撃と擦り傷にひ
るむこと無く、頭の足りないGアントをねじ伏せ、上段から
渾身の一撃を見舞う――もはや戦闘というよりも作業になる
動作を繰り返しながらアベルがぼやく。
ダントンは主にアベルが二体同時に相手取らずにすむよう
にサポートにまわっているおかげで、まだ体力の消費も抑え
られていたが、やはり戦闘による疲労は確実に積み重ねられ
ていた。
それだけに感心もしていた。
(さすがカタリナさんの息子だ。)
さすがに、このまま虫どもが尽きるまでいけるとおもうほ
どアベルもダントンも楽観できなかったが、ダントンはアベ
ルだけなら助かるかもしれないと思い始めていた。
そんな二人が同時に顔を見合わせる。
「……今、なんか聞こえました?」
「……アベルもきこえたのか?」
体力尽きるまで続くかと思われた虫退治のさなか、二人は
地響きのような音が、よりにもよって後ろから聞こえてきた
のだ。
まさか逃げ道が崩れるのか、とさすがにあけった二人の予
測をおおきくはずれ、突如として、崩れて埋まっていた土砂
の壁が、まるで自らの意思で動いているかのように、見る見
るうちに四方へと移動し、元の洞窟と指して変わらない様子
へと変化した。
「アベル君!」
「ヴァネッサ?!」
聞きなれた声に驚くアベルとロクスは、見知らぬ男と、控
えるように取り巻くランバートと見知らぬ少年、そしてヴァ
ネッサがそこにいる状況についていけないまま、唖然と見
ていた。
PC:アベル ヴァネッサ
NPC:ギア ラズロ ダントン ランバート
場所:ギサガ村の洞窟
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「良かった……!」
それが、アベルの姿を目にしたヴァネッサの口から真っ先に出てきた言葉である。
巨大なアリのいる洞窟に残った、と聞いて非常に心配していたのである。
最悪の状況さえ、頭に浮かんでいた。
駆け寄ったヴァネッサは、ひどく息切れしていたのでしばらく呼吸を整えるために深
呼吸を繰り返した。
こんなに速く走ったことなど、今までなかったのである。
「ヴァネッサ、もう治療の方はいいのかよ?」
アベルの問いかけは当然のものだ。
治療役としてテントに向かったはずのヴァネッサがここにいては、誰もがそう思うだ
ろう。
「……だ…大丈夫……み、みんな……治療、終わったわ……」
呼吸が整ったところで、ヴァネッさはハッと気が付いた様子で、
「アベル君、どこか怪我してないっ? 痛いところとか、血が出てるところとかっ」
あたふたとアベルの体の状態を確認しはじめた。
目立った外傷がないとわかると、今度は腕に擦り傷はないかとか、ひざをすりむいて
いないかとか、そんなことを気にしてオロオロしている。
「いや、怪我はしてねえって」
だから落ちつけ、と苦笑いしつつ、アベルはヴァネッサの両肩をそっと押さえた。
姉と弟、というより、兄と妹、といった雰囲気である。
(俺の心配はしてくれねえのかな……)
アベルと一緒にGアントを退治していたダントンは、一抹の寂しさのようなものを感
じていた。
ヴァネッサは、別にダントンのことをどうでもいいと思っていたわけではない。
ただ単に、弟のことで頭がいっぱいになってしまい、他のことに意識が向かなかった
だけなのである。
「うんうん、麗しき姉弟愛だねぇ。良きかな、良きかな」
などと言いつつ、ギアはニコニコ笑っていた。
その視線に気付いたアベルが、首を傾げる。
「ヴァネッサ、このオジさん誰だ?」
「くぉら! 誰がおっさんだ、オレはまだおっさん呼ばわりされる年じゃねえっ」
指差しながらヴァネッサに尋ねるアベルに詰め寄り、ギアは熱く強く主張する。
このギアという人物、男には強く出るらしい。
「え、えぇと、お義父さんとお義母さんの知り合いの人……ギアって名前よ」
ヴァネッサが伝えると、アベルは「ふーん」とギアを見上げた。
その姿に、記憶にある人物の面影を見たギアは、それ以上主張するのをやめた。
代わりに、ゴホン、と咳払いをした。
「あー……それで、こっちはラズロだ」
やや距離を置いたところにたたずむラズロの背中を押し、会話の輪に加える。
「ラズロな。俺、アベル。よろしく」
アベルは快活そうな笑顔を見せると、ラズロに片手を出して握手を求めた。
しかしラズロは、その手を取ろうとしなかった。
どこか冷めたような視線を、差し出された手に向けている。
「ん? どうした?」
「……なんでもない」
素っ気無く告げると、ラズロはこれまた素っ気無く、その手を軽く握った。
「悠長なことはしておれんぞ」
ただ一人、ランバートは洞窟の奥をじっと睨んでいた。
Gアントが再び出現してくるのを警戒しているのだろう。
「アリか……ってことは、ここは連中にとっての巣なんかな」
ランバートと同じく洞窟の奥へと目をやり、ギアは呟く。
「巣!?」
呟きを聞いたダントンは、ギョッとした表情になった。
「巣ってことは、あれか、普通のアリと同じで、女王アリとか卵とか、さなぎもあ
るってことか!?」
「大きい声出しなさんな」
しかめっ面をしてギアは頭をかく。
「無論、その可能性も充分にある」
「あちゃー、そうだったらどうしますかね、お師匠。村の人達に避難でもしてもらい
ます?」
「できることなら、混乱は避けたいのじゃがのう」
「オジさん、洞窟を塞いだらいいんじゃねえか?」
オジさん、という言葉にギアはピクリとこめかみを引きつらせたが、どうにかこらえ
た。
「お前、アリの巣に砂入れて塞いだことねえのかよ。どんなに塞ごうが、連中、必ず
ほじくり返すんだぞ」
「とーちゃんが、そういうことは絶対するなって言ってたから」
「あぁ……あいつならそういう事言いそうだな」
記憶の中のグラントを思い出し、ギアはどこか懐かしそうな顔をした。
NPC:ギア ラズロ ダントン ランバート
場所:ギサガ村の洞窟
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「良かった……!」
それが、アベルの姿を目にしたヴァネッサの口から真っ先に出てきた言葉である。
巨大なアリのいる洞窟に残った、と聞いて非常に心配していたのである。
最悪の状況さえ、頭に浮かんでいた。
駆け寄ったヴァネッサは、ひどく息切れしていたのでしばらく呼吸を整えるために深
呼吸を繰り返した。
こんなに速く走ったことなど、今までなかったのである。
「ヴァネッサ、もう治療の方はいいのかよ?」
アベルの問いかけは当然のものだ。
治療役としてテントに向かったはずのヴァネッサがここにいては、誰もがそう思うだ
ろう。
「……だ…大丈夫……み、みんな……治療、終わったわ……」
呼吸が整ったところで、ヴァネッさはハッと気が付いた様子で、
「アベル君、どこか怪我してないっ? 痛いところとか、血が出てるところとかっ」
あたふたとアベルの体の状態を確認しはじめた。
目立った外傷がないとわかると、今度は腕に擦り傷はないかとか、ひざをすりむいて
いないかとか、そんなことを気にしてオロオロしている。
「いや、怪我はしてねえって」
だから落ちつけ、と苦笑いしつつ、アベルはヴァネッサの両肩をそっと押さえた。
姉と弟、というより、兄と妹、といった雰囲気である。
(俺の心配はしてくれねえのかな……)
アベルと一緒にGアントを退治していたダントンは、一抹の寂しさのようなものを感
じていた。
ヴァネッサは、別にダントンのことをどうでもいいと思っていたわけではない。
ただ単に、弟のことで頭がいっぱいになってしまい、他のことに意識が向かなかった
だけなのである。
「うんうん、麗しき姉弟愛だねぇ。良きかな、良きかな」
などと言いつつ、ギアはニコニコ笑っていた。
その視線に気付いたアベルが、首を傾げる。
「ヴァネッサ、このオジさん誰だ?」
「くぉら! 誰がおっさんだ、オレはまだおっさん呼ばわりされる年じゃねえっ」
指差しながらヴァネッサに尋ねるアベルに詰め寄り、ギアは熱く強く主張する。
このギアという人物、男には強く出るらしい。
「え、えぇと、お義父さんとお義母さんの知り合いの人……ギアって名前よ」
ヴァネッサが伝えると、アベルは「ふーん」とギアを見上げた。
その姿に、記憶にある人物の面影を見たギアは、それ以上主張するのをやめた。
代わりに、ゴホン、と咳払いをした。
「あー……それで、こっちはラズロだ」
やや距離を置いたところにたたずむラズロの背中を押し、会話の輪に加える。
「ラズロな。俺、アベル。よろしく」
アベルは快活そうな笑顔を見せると、ラズロに片手を出して握手を求めた。
しかしラズロは、その手を取ろうとしなかった。
どこか冷めたような視線を、差し出された手に向けている。
「ん? どうした?」
「……なんでもない」
素っ気無く告げると、ラズロはこれまた素っ気無く、その手を軽く握った。
「悠長なことはしておれんぞ」
ただ一人、ランバートは洞窟の奥をじっと睨んでいた。
Gアントが再び出現してくるのを警戒しているのだろう。
「アリか……ってことは、ここは連中にとっての巣なんかな」
ランバートと同じく洞窟の奥へと目をやり、ギアは呟く。
「巣!?」
呟きを聞いたダントンは、ギョッとした表情になった。
「巣ってことは、あれか、普通のアリと同じで、女王アリとか卵とか、さなぎもあ
るってことか!?」
「大きい声出しなさんな」
しかめっ面をしてギアは頭をかく。
「無論、その可能性も充分にある」
「あちゃー、そうだったらどうしますかね、お師匠。村の人達に避難でもしてもらい
ます?」
「できることなら、混乱は避けたいのじゃがのう」
「オジさん、洞窟を塞いだらいいんじゃねえか?」
オジさん、という言葉にギアはピクリとこめかみを引きつらせたが、どうにかこらえ
た。
「お前、アリの巣に砂入れて塞いだことねえのかよ。どんなに塞ごうが、連中、必ず
ほじくり返すんだぞ」
「とーちゃんが、そういうことは絶対するなって言ってたから」
「あぁ……あいつならそういう事言いそうだな」
記憶の中のグラントを思い出し、ギアはどこか懐かしそうな顔をした。