PC:アベル ヴァネッサ
NPC:カタリナ ギア ラズロ ダントン ロクス
学者(ニコル シュナップス ヒース ラルフ) 老人(ランバート)
場所:ギサガ村
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――時間を少々さかのぼる。
アベルとヴァネッサが村外れの洞窟に向かったすぐ後のこと。
宿屋と酒場を兼ねたカタリナの店に、一組の客が訪れた。
大柄な中年男と、小柄な少年の二人連れである。
「いらっしゃい! お泊りですか、それともお食事?」
愛想よく笑いながら応対に出て――カタリナは、懐かしそうな声を上げた。
「ギア!」
「よっ。相変わらず頑丈そうだな」
ギアと呼ばれた大柄な中年男は、片手を上げて応える。
「久々に再会した幼なじみに向かって、頑丈そうってのは失礼じゃないかい?」
「なんだ? じゃあ『相変わらずお美しいですね~カタリナさん』なんて言われてぇ
のか?」
やや目を吊り上げたカタリナを、ギアはにやにや笑いながらからかう。
からかうと言っても悪意のようなものは感じられず、言葉には幼なじみどうしの親し
みがあった。
「あんたねぇっ」
「年を取っても女ってことか。 ひゅーひゅー」
……とてもではないが、中年にさしかかった男女の会話ではない。
「……先生、この方は?」
放っておけばいつまでも続くと判断したのだろう、少し後ろの方にたたずんでいた少
年が、ギアに質問をする形で割って入った。
(そういえば、この子のことを聞いてなかったね)と思いながら、カタリナは少年に
ちらりと目をやった。
金色の髪に緑色の瞳。年の頃はアベルと同じぐらいだろうか。
その割に、随分と落ちついた冷静そうな印象を受ける。
「ああ、俺の幼なじみでな。カタリナっていうんだ」
ギアが簡単にカタリナのことを紹介すると、
「そうですか。僕はラズロといいます。」
少年――ラズロは頭を下げた。
親近感を感じさせない、あくまでも儀礼的なものだった。
「ふぅん、あんた、弟子なんて取ったんだ」
「弟子っつーか……ラズロは旅先で世話になったところのお坊ちゃん。剣の道を極め
たいとかで、修行中だ」
「あんた、剣なんて教えられるの?」
カタリナの記憶によれば、ギアの剣の腕前は大したものではない。
彼の才能は、魔法の分野に限られている。
魔法を極めたいと言って、ギアは修行の旅に出たのである。
それが何故、剣の道を志す少年を連れているのか、疑問だった。
「うんにゃ。俺、剣のことはさっぱりだ」
ひらひら、とギアは手を振る。
「じゃあなんで連れて歩いてるんだい? 目指す分野が違うってのに」
「あー……それはな……剣を教えるっていうより、まあ、世間を見て、精神的に成長
してもらうため、ってとこかな」
(精神的に、ねぇ……)
カタリナはラズロをちらりと見、それからギアに視線を戻した。
「それで、どうする? 泊まっていくのかい?」
「そうだな、じゃあ二部屋、空いてるか?」
「空いてるよ。廊下の一番奥から手前に二部屋だけど、いいかい?」
「おう」
「それじゃ、宿帳に名前を書いておくれ。食事はどうする?」
「もらうよ。簡単なのでいい」
「はいよ。適当に座ってておくれ。出来あがったら持ってくるから」
カタリナが厨房に向かうと、ギアとラズロはカウンターの席についた。
「ところでよー、カタリナ」
「なんだい?」
二人分のパンとスープを用意してきたカタリナに、ギアがぽつりと声をかけた。
「お前、知り合いのとこの女の子をもらったって聞いたぞ。なんでも、親が二人とも
死んじまったから、身寄りがなくなったんだってな。名前、ヴァネッサっていうんだ
ろ?」
「あぁ、まあね」
相槌を打ちながら、カタリナはちらりと思い出した。
引き取ることが決まり、家にやってきた時の、まだ幼かったヴァネッサの姿を。
あの時のヴァネッサは、くたびれたぬいぐるみを心細そうに抱きしめ、目にいっぱい
涙をためてうつむいたまま、一言もしゃべろうとしなかった。
両親を相次いで亡くしたことで心に傷を負ったせいなのだろう、声が出なくなってい
たのだ。
「おとうさん」 「おかあさん」 とたどたどしくも呼べるようになったのは、それ
から実に一年近くも後のことである。
「かわいそうになあ、まだ四つだっていうのに……今、何歳なんだっけ?」
「今年で十七歳になるんだよ。まったく、月日の経つのは早いもんだよ」
自分でそう言って、カタリナはしみじみと過ぎた年月の長さを思った。
その間に、いろんなことがあった。
そう、本当に、いろんなことが。
「それじゃ、そろそろ貰い手を見つけなきゃならねぇよな」
パンを一切れ食べ終わったギアは、スープをすすり始める。
「まあ、それは本人次第だからねぇ」
カタリナは頬をかいた。
ヴァネッサの花嫁姿が、なんとなく想像できないのである。
(あの子もいつか、『お世話になりました』なんて言って、惚れた男のところに行く
のかねぇ)
そう思うと、自分が急に年老いたような感覚さえ覚える。
「おし、貰い手がなかったら俺が良い見合い相手を紹介してやろうっ。なんなら俺が
嫁にもらっても」
「手ぇ出したら承知しないからね!!」
ぴしゃり、とカタリナに一喝され、ギアは「冗談、冗談」と引き気味に笑みを返し
た。
「しかし、この店、大丈夫なのか? こんなにガラガラ空いてたら、儲けにならねえ
だろ?」
カタリナの怒りを買わないように、という気持ちからか、ギアは話題を変える。
実際、店内にはギアとラズロ以外の客がおらず、貸し切り状態だった。
「今日は特別なんだよ」
「へぇ、祭りでもあんのか?」
「違うったら。村外れの洞窟で落盤があってね、学者先生が巻き込まれたとかで、村
中の男がそっちに行ってるんだよ。ヴァネッサとアベルも手伝いに行ってるんだ」
「落盤、ねぇ……」
パンをもう一切れ口に押し込み、ギアは隣のラズロに視線を移す。
彼は、二人の会話を聞きながら、黙々と食事をしていた。
どこか、親しげな雰囲気というものを拒絶するような空気さえ漂わせながら。
――場面は再び洞窟の入り口前に戻る。
「ヴァネッサちゃん、 落ちついて!」
「離してくださいっ」
ヴァネッサは、手首を掴むロクスの腕を振り払おうともがいた。
しかし相手は大工仕事を通して鍛えられた男、そう簡単に振り払えるものではない。
「洞窟に入るなんて無茶だ! さっき説明しただろ?」
「でも……でも!」
ヴァネッサは今にも泣き出しそうな声を上げた。
――洞窟の奥で巨大なアリを見た。
それも、一体ニ体といったものではなく、かなりの数だった。
それが、学者の一人を背負って戻ってきたロクスの言葉だった。
しかも、アベルがダントンと共に洞窟の中に残っているという。
それを聞かされたヴァネッサは、救出されてきた学者達――ヒースとラルフの治療を
終えると、自分も洞窟の中に行くと言い出し、全員に引きとめられることになった。
「やめておいた方が賢明です」
頭に怪我をした学者――ニコルが、ぼそぼそと忠告をする。
テントの中でいまだ寝ている方はシュナップスという名前らしい。
「かえって足手まといになるかもしれません。待ちましょう」
「そんな……っ、見殺しにする気なんですか!」
ニコルの言うことはもっともである。
非力な、多少の治癒魔法を使う程度の能力しかないヴァネッサが行ったところで、お
そらく足手まといにしかならないだろう。
それは、ヴァネッサも理解している。
だが、感情がどうしても納得しないのだ。
危険な状況にあるだろう弟を、放っておくことなどどうしてもできない。
そんな感情が、理性を飲みこみつつあった。
「行かせてください、お願いですからっ!」
「駄目だ! 女の子を危険な目に遭わせるわけにはいかねえっ」
『行かせろ』『行かせない』の問答が熱を帯びてきた、その時である。
「なんなら、俺らが行きましょうか?」
唐突に知らない中年男の声が聞こえて、ヴァネッサは目を丸くした。
声のした方を見れば、そこには大柄な中年男と小柄な少年の二人連れ。
「……ギア?」
ヴァネッサの師ともいえる老人――ランバートが、中年男を見て歩み寄っていく。
「師匠、お久しぶりです」
ギアは、ランバートに向かって快活そうな笑顔を見せた。
NPC:カタリナ ギア ラズロ ダントン ロクス
学者(ニコル シュナップス ヒース ラルフ) 老人(ランバート)
場所:ギサガ村
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――時間を少々さかのぼる。
アベルとヴァネッサが村外れの洞窟に向かったすぐ後のこと。
宿屋と酒場を兼ねたカタリナの店に、一組の客が訪れた。
大柄な中年男と、小柄な少年の二人連れである。
「いらっしゃい! お泊りですか、それともお食事?」
愛想よく笑いながら応対に出て――カタリナは、懐かしそうな声を上げた。
「ギア!」
「よっ。相変わらず頑丈そうだな」
ギアと呼ばれた大柄な中年男は、片手を上げて応える。
「久々に再会した幼なじみに向かって、頑丈そうってのは失礼じゃないかい?」
「なんだ? じゃあ『相変わらずお美しいですね~カタリナさん』なんて言われてぇ
のか?」
やや目を吊り上げたカタリナを、ギアはにやにや笑いながらからかう。
からかうと言っても悪意のようなものは感じられず、言葉には幼なじみどうしの親し
みがあった。
「あんたねぇっ」
「年を取っても女ってことか。 ひゅーひゅー」
……とてもではないが、中年にさしかかった男女の会話ではない。
「……先生、この方は?」
放っておけばいつまでも続くと判断したのだろう、少し後ろの方にたたずんでいた少
年が、ギアに質問をする形で割って入った。
(そういえば、この子のことを聞いてなかったね)と思いながら、カタリナは少年に
ちらりと目をやった。
金色の髪に緑色の瞳。年の頃はアベルと同じぐらいだろうか。
その割に、随分と落ちついた冷静そうな印象を受ける。
「ああ、俺の幼なじみでな。カタリナっていうんだ」
ギアが簡単にカタリナのことを紹介すると、
「そうですか。僕はラズロといいます。」
少年――ラズロは頭を下げた。
親近感を感じさせない、あくまでも儀礼的なものだった。
「ふぅん、あんた、弟子なんて取ったんだ」
「弟子っつーか……ラズロは旅先で世話になったところのお坊ちゃん。剣の道を極め
たいとかで、修行中だ」
「あんた、剣なんて教えられるの?」
カタリナの記憶によれば、ギアの剣の腕前は大したものではない。
彼の才能は、魔法の分野に限られている。
魔法を極めたいと言って、ギアは修行の旅に出たのである。
それが何故、剣の道を志す少年を連れているのか、疑問だった。
「うんにゃ。俺、剣のことはさっぱりだ」
ひらひら、とギアは手を振る。
「じゃあなんで連れて歩いてるんだい? 目指す分野が違うってのに」
「あー……それはな……剣を教えるっていうより、まあ、世間を見て、精神的に成長
してもらうため、ってとこかな」
(精神的に、ねぇ……)
カタリナはラズロをちらりと見、それからギアに視線を戻した。
「それで、どうする? 泊まっていくのかい?」
「そうだな、じゃあ二部屋、空いてるか?」
「空いてるよ。廊下の一番奥から手前に二部屋だけど、いいかい?」
「おう」
「それじゃ、宿帳に名前を書いておくれ。食事はどうする?」
「もらうよ。簡単なのでいい」
「はいよ。適当に座ってておくれ。出来あがったら持ってくるから」
カタリナが厨房に向かうと、ギアとラズロはカウンターの席についた。
「ところでよー、カタリナ」
「なんだい?」
二人分のパンとスープを用意してきたカタリナに、ギアがぽつりと声をかけた。
「お前、知り合いのとこの女の子をもらったって聞いたぞ。なんでも、親が二人とも
死んじまったから、身寄りがなくなったんだってな。名前、ヴァネッサっていうんだ
ろ?」
「あぁ、まあね」
相槌を打ちながら、カタリナはちらりと思い出した。
引き取ることが決まり、家にやってきた時の、まだ幼かったヴァネッサの姿を。
あの時のヴァネッサは、くたびれたぬいぐるみを心細そうに抱きしめ、目にいっぱい
涙をためてうつむいたまま、一言もしゃべろうとしなかった。
両親を相次いで亡くしたことで心に傷を負ったせいなのだろう、声が出なくなってい
たのだ。
「おとうさん」 「おかあさん」 とたどたどしくも呼べるようになったのは、それ
から実に一年近くも後のことである。
「かわいそうになあ、まだ四つだっていうのに……今、何歳なんだっけ?」
「今年で十七歳になるんだよ。まったく、月日の経つのは早いもんだよ」
自分でそう言って、カタリナはしみじみと過ぎた年月の長さを思った。
その間に、いろんなことがあった。
そう、本当に、いろんなことが。
「それじゃ、そろそろ貰い手を見つけなきゃならねぇよな」
パンを一切れ食べ終わったギアは、スープをすすり始める。
「まあ、それは本人次第だからねぇ」
カタリナは頬をかいた。
ヴァネッサの花嫁姿が、なんとなく想像できないのである。
(あの子もいつか、『お世話になりました』なんて言って、惚れた男のところに行く
のかねぇ)
そう思うと、自分が急に年老いたような感覚さえ覚える。
「おし、貰い手がなかったら俺が良い見合い相手を紹介してやろうっ。なんなら俺が
嫁にもらっても」
「手ぇ出したら承知しないからね!!」
ぴしゃり、とカタリナに一喝され、ギアは「冗談、冗談」と引き気味に笑みを返し
た。
「しかし、この店、大丈夫なのか? こんなにガラガラ空いてたら、儲けにならねえ
だろ?」
カタリナの怒りを買わないように、という気持ちからか、ギアは話題を変える。
実際、店内にはギアとラズロ以外の客がおらず、貸し切り状態だった。
「今日は特別なんだよ」
「へぇ、祭りでもあんのか?」
「違うったら。村外れの洞窟で落盤があってね、学者先生が巻き込まれたとかで、村
中の男がそっちに行ってるんだよ。ヴァネッサとアベルも手伝いに行ってるんだ」
「落盤、ねぇ……」
パンをもう一切れ口に押し込み、ギアは隣のラズロに視線を移す。
彼は、二人の会話を聞きながら、黙々と食事をしていた。
どこか、親しげな雰囲気というものを拒絶するような空気さえ漂わせながら。
――場面は再び洞窟の入り口前に戻る。
「ヴァネッサちゃん、 落ちついて!」
「離してくださいっ」
ヴァネッサは、手首を掴むロクスの腕を振り払おうともがいた。
しかし相手は大工仕事を通して鍛えられた男、そう簡単に振り払えるものではない。
「洞窟に入るなんて無茶だ! さっき説明しただろ?」
「でも……でも!」
ヴァネッサは今にも泣き出しそうな声を上げた。
――洞窟の奥で巨大なアリを見た。
それも、一体ニ体といったものではなく、かなりの数だった。
それが、学者の一人を背負って戻ってきたロクスの言葉だった。
しかも、アベルがダントンと共に洞窟の中に残っているという。
それを聞かされたヴァネッサは、救出されてきた学者達――ヒースとラルフの治療を
終えると、自分も洞窟の中に行くと言い出し、全員に引きとめられることになった。
「やめておいた方が賢明です」
頭に怪我をした学者――ニコルが、ぼそぼそと忠告をする。
テントの中でいまだ寝ている方はシュナップスという名前らしい。
「かえって足手まといになるかもしれません。待ちましょう」
「そんな……っ、見殺しにする気なんですか!」
ニコルの言うことはもっともである。
非力な、多少の治癒魔法を使う程度の能力しかないヴァネッサが行ったところで、お
そらく足手まといにしかならないだろう。
それは、ヴァネッサも理解している。
だが、感情がどうしても納得しないのだ。
危険な状況にあるだろう弟を、放っておくことなどどうしてもできない。
そんな感情が、理性を飲みこみつつあった。
「行かせてください、お願いですからっ!」
「駄目だ! 女の子を危険な目に遭わせるわけにはいかねえっ」
『行かせろ』『行かせない』の問答が熱を帯びてきた、その時である。
「なんなら、俺らが行きましょうか?」
唐突に知らない中年男の声が聞こえて、ヴァネッサは目を丸くした。
声のした方を見れば、そこには大柄な中年男と小柄な少年の二人連れ。
「……ギア?」
ヴァネッサの師ともいえる老人――ランバートが、中年男を見て歩み寄っていく。
「師匠、お久しぶりです」
ギアは、ランバートに向かって快活そうな笑顔を見せた。
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