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2024/05/21 14:31 |
立金花の咲く場所(トコロ) 5/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:男達 学者 老人
場所:村はずれの洞窟

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「アベル君大丈夫かしら?」

呟いてから、ヴァネッサはしばらく考え込んだ。
自分に求められている役目は、怪我人の治療である。
しかし、現段階でそれは一段落している。
既に治療を終えた二人は、毛布をかけられ、寝かされている。
おとなしく休んでいれば、数日のうちには以前と同じ生活に戻れるだろう。
後は……まだ洞窟の中に残っている者達が救助され次第、というところだ。
(他に何か手伝えないかしら……)
ヴァネッサは、自分の手に視線を落とす。
頼りない手だ。
腕力なんてないから、重い物を運んだりすることはできない。
手伝います、と申し出たところでかえって足を引っ張ることになるかもしれない。
しかし、ただじっとしているのは正直苦痛だった。
――自分の無力さを、思い知らされる気がして。

その時、テントの出入り口の幕がめくられた。
「ヴァネッサちゃん、いるかい!?」
入ってきたのは、大柄な男だった。
やせぎすな男性の襟首を掴みながら、テントの中に入ってくる。
「こいつを大急ぎで治療してくれ。手が……」
「ばかやろ……! これぐらい平気だ……!」
言いながらも、かなり辛そうに男は顔をしかめている。
左手を布でぐるぐる巻きにして押さえていることから、そこを怪我したのだとわかっ
た。
押さえている指の隙間からのぞく布が、赤く染まっている。
「平気なワケあるか!」
連れてきた男が一喝する。
「傷を、見せてください」
ヴァネッサは、左手に巻かれた布をそっとほどいた。
あらわになった左手の甲には、裂傷がある。
まるで、鋭利な刃物でやられたような傷である。
「しばらくじっとしていて下さい」
ヴァネッサはその傷の上に指をかざし、治療のために意識を集中した。

――ほどなく、治療は無事に終了した。

「作業中の怪我かね?」
「それが……」
老人に尋ねられた途端に、怪我をしていた男は口篭もる。
やましいことがある、という感じではなく、どう説明していいかわからないという、
戸惑いのようなものが現れていた。
「よく、わからねぇんだ」
「何じゃ、わからんというのは。自分の怪我じゃろうに」
呆れたように呟く老人に、彼はガリガリと頭をかいた。
「そりゃそうなんだがよ、じいさん……」
彼はしばらく思案した末に、ため息をついた。

「じゃあ話すけどよ……信じてくれねぇかもしれねえけど、本当のことだからな? 
土石を運んでたら、『立ち去れ』って誰かが言った気がしたんだよ。で、気がついた
ら手の甲がスパッと切れてたんだ」

「……僕も、洞窟の中で同じ言葉を聞きました」

不意に、声が上がる。
目を向けると、頭部に怪我を負っていた方の学者が、いつの間にか起き上がってこち
らを見ていた。

「詳しく話してみなさい」
老人が『師』の表情になり、詳しい説明を促す。
学者は小さく頷き、ゆっくりと口を開いた。

「洞窟の中に入って、調査を始めたすぐ後に、『立ち去れ』って声が聞こえたような
気がしたんです。最初は、空耳かと思って無視していたんですけど、だんだん、声が
大きくなって……そうしたら、突然天井が……」

それを聞いていた大柄な男の顔色が、サッと変わった。
学者の前に詰め寄り、
「それ、本当なのか?」
かすれた声でそう尋ねる。
「本当です……」
学者は静かに呟くと、疲れた様子で目を閉じた。

「まずいな」

大柄な男は、やや青ざめた顔で呟くとヴァネッサに向き直った。
「ヴァネッサちゃん、すまねぇ」
「え?」
突然謝られて、ヴァネッサは困惑する。

「あんたの弟……アベルっていうんだったな? アベルは、今、洞窟の中にいるん
だ」


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2007/02/12 21:29 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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