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2024/11/19 02:35 |
四海の詩1~季節の幕開け~/狛楼櫻華(生物)
PC:狛楼櫻華 ノクテュルヌ・ウィンデッシュグレーツ ソアラ・シャルダ

場所:ソフィニア
NPC:魔術学院農学部の面々 サクラバ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 間が抜けたほどの青い空に、ふらふらふわふわと白い雲が流れていく。その
下を飛ぶ鳥もどことなくゆったりと飛んでいるようだ。周りを見れば畑に囲ま
れ、農作業に精を出す人がのんびりと働いている。
 そんなのどかな風景の中をソフィニアから徒歩で半日ほどの距離を乗り合い
馬車が走っていた。走るといっても全力疾走する人間には軽く追い抜いていか
れそうな速度だが。
「むー、櫻華ちゃん」
 ノクテュルヌが不満そうな声を上げる。金髪に赤い瞳、空の青さをそのまま
切り取ったような紺碧の服をまとったノクテュルヌはなかなかの美人なのだ
が、馬車を待っている間に買ったりんご飴やら駄菓子がいっぱいに詰め込まれ
た袋を抱えた姿は実際よりも幼く見える。
「のくてぃ、人前で名前を呼ぶのは止めろと言っただろう」
 表情を変えず、視線も窓の外に固定したまま櫻華は言葉を返す。闇夜に舞う
桜吹雪を思わせる着物に身を包み、静かに外を見つめる表情は、その外見より
もずっと大人びた雰囲気を感じさせる。
「いーじゃん、どうせ二人しかいないんだし。櫻華ちゃんは気にしすぎなんだ
よ」
 袋から取り出したりんご飴を器用にくるくると回すノクテュルヌ。櫻華はた
め息を一つついて視線をノクテュルヌに向けた。
「まあ、いい。で、なんだ?」
「むあ? つあんあーい」
「食べながら喋るな」
 櫻華はノクテュルヌががぶりついているりんご飴を引き抜く。引き抜いたり
んご飴にはノクテュルヌの歯形がしっかりと残っている。
「つまらないなら歩くか?」
「……我慢する」
 両手いっぱいの駄菓子を持って歩くのはさすがにノクテュルヌも嫌だったら
しい。櫻華からりんご飴を取り戻すと再びかじりついて視線を外に向ける。
 この後も何度かノクテュルヌがぐずりはしたが、ゆったりと馬車は走り続け
ソフィニアの手前で停車する。
「お嬢ちゃん達。ついたよ」
 御者の老人が小窓を開けて報せてくる。待ってましたとばかりにノクテュル
ヌが飛び出していく。ちなみに袋いっぱいの駄菓子はすべてノクテュルヌが食
べて馬車の中に袋が丸まって捨てられている。
 袋を拾って、櫻華は馬車を降りた。御者に料金を払い、短く礼を言うとノク
テュルヌの後を追った。やや小高い丘の上に作られた待合所の後ろにはレンガ
造りの円筒状をした小さな建物があった。
「櫻華ちゃん、こっちこっち。早く」
 丸まった駄菓子の袋をゴミ箱に入れ、円筒状の建物のドアを開けると地下へ
と続く階段が伸びていた。両脇には魔法灯が等間隔に設置され、十分な明かり
が空間内を包んでいる。
「楽しみだねぇ、魔法列車って乗るの初めてだよ」
 階段を軽やかに下りていきながらノクテュルヌがはしゃぐ。ソフィニアには
大陸唯一の地下を走る魔法列車が整備されている。わざわざ街の手前で馬車を
降りたのはこれに乗るためである。
「あまりはしゃぐと転ぶぞ」
「大丈夫だよ」
 階段を下りたところで視界が開ける。俗にホームと呼ばれている場所だ。地
下のせいか閑散としているにも関わらず空気が淀んでいる。向かい側の壁には
「市営ソフィニア線:魔術学院東市外施設前」と書かれた看板が貼り付けられ
ている。
「わー、ひろーい」
「お嬢さん、ホームで走ると危ないよ」
 興味津々であちこち駆け回るノクテュルヌに初老の男性が声をかけてきた。
年は六十前だろうか、白髪頭に平べったい帽子をかぶっている。濃紺の制服の
胸元には市営ソフィニア線と書かれたエンブレムが貼り付けてあった。両手に
ほうきとちりとりを持っているところをみると掃除をしていたらしい。
「ああ、すまない。魔法列車に乗るのは初めてで少し興奮しているんだ。のく
てぃ、少し落ち着け」
「はーい」
「お嬢さん達は地下鉄に乗るのは初めてかい? ならこっちの窓口で切符を買
っておくれよ、今開けるから」
 人好きしそうな笑顔で駅員は先ほど降りてきた階段の横にあるドアを開け
て、その横の小窓から顔を出す。
「大人二人で銅貨四枚だよ」
 櫻華は着物の裾から出した銅貨を駅員に渡し、代わりに小さな紙切れを二枚
渡された。
「それが切符だよ。なくすとまたお金かかるからね、なくさないようにね」
 そう言って駅員は再び掃除に精を出し始めた。切符を袖に入れ――ノクテュ
ルヌに渡すとなくしそうなので二枚とも――櫻華は備え付けのベンチに腰をお
ろす。ホームには駅員のほうきが床を掃く音とわーきゃー騒ぐノクテュルヌの
声が響く。しばらくすると地上のドアが開く音と共に大勢の足音と賑やかな話
し声が響いてきた。
「おや、農学部の子達。今日は早いね」
 一人つぶやいて駅員の老人は窓口に駆け込みいそいそと切符の準備を始め
た。いつものことなのか、その手つきには手馴れた感じが見て取れる。
「見てみて、櫻華ちゃん。すごい。シマシマの馬だ」
 櫻華の隣に座ってノクテュルヌが話しかけてくる。
 何を馬鹿な、櫻華はため息をついた。ここは地下だ、しかもこれから列車に
乗ろうというのに馬を連れてくる者などいないだろう、ましてシマシマの馬な
ど櫻華は見たことがなかった。たしかにカッポカッポという蹄のような音が聞
こえなくもないが。
「のくてぃ、そう言う事はせめて……」
 宿屋についてから、と言いかけた櫻華の目映ったのは馬だった。たしかに馬
だった。馬には違いない、そう違いないのだが……。
「は、花柄ぁ!?」
 絶叫して、立ち上がった櫻華の前には馬がいた。普通の馬に比べるとやや小
ぶりだが、その容姿は間違いなく普通の馬だった。ただ一つ、模様が花柄だと
いうことを除けば。
「あ、こんにちは」
 花柄馬の顔がこちら向き、もごもごと口を動かす。一瞬この馬が喋ったのか
と思ったが、その影から一人の少女が笑顔で姿をみせた。

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2007/02/12 21:24 | Comments(0) | TrackBack() | ○四海の詩
立金花の咲く場所(トコロ) 1/ヴァネッサ(周防松)
PC:ヴァネッサ アベル
NPC:男
場所:エドランス国のギサガ村

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エドランスという国のギサガ村には、冒険者向けに宿屋を兼ねた酒場がある。
切り盛りしているのは元冒険者の夫婦である。
夫の方は一年前に行方不明となっているが、残された妻は気丈に切り盛りしていた。

そこへと続く小道を、亜麻色の髪をした少女が歩いていた。
両手に、はちきれんばかりに野菜の入った袋をぶら下げている。
袋の持ち手が指に食い込むのが辛いのだろう、道の途中で何度か袋を降ろしてみた
り、持ち替えてみたりしながら、ヨタヨタと歩を進める。
彼女にしてみれば、腕が抜けてしまいそうなほどの重さだった。

――不意に、腕の抜けそうな感覚が消える。

もしかして落としたのだろうか。
彼女は、視線を巡らせ――
「あ」
かすかに声を上げた。
「『あ』って何だよ『あ』って」
彼女の視線の先では、黒髪の少年がむすっとした表情を浮かべていた。
その両手に、先ほどまで彼女の持っていた袋がぶら下がっていた。
どうやら、感覚がなくなったのは、少年が彼女の手から袋を取り上げたためらしい。
この少年は、彼女のよく知る人物だ。
血の繋がらない弟である。
「アベル君、ありがとう」
彼女が微笑むと、少年――アベルは頬を赤く染めつつ「別に」と呟き、先に歩き出し
た。

「しっかし、どうしたんだよコレ」
コレ、の部分で彼は袋をガサリといわせた。
「野菜の仕入れなら、こないだ行ったばっかりだろ。なんか足りないモンでもあった
のか?」
「違うの」
彼女は首を横に振る。
「三軒向こうに住んでるおじさん、薪割りしていてケガしたんですって。それで頼ま
れて、ケガを治しに行ったの。そうしたら、お礼に、って……」
彼女には、傷を治癒する魔法が生まれつき備わっている。
村の人間はそれを知っていて、時折、彼女に治療を頼んだりするのだ。
別にそのことは苦ではない。
むしろ人の役に立つのならと、喜んで駆けつけるところである。
だが、その後が少しゆううつなのだ。

田舎の人間特有の行動なのだろうか、彼らはお礼にと自宅で取れた野菜をくれるの
だ。
しかもその量が半端ではない。
最初はイモをくれると言っていたものが、じゃあついでにアレもコレもといった具合
にどんどん増えていくのだ。
そんなにいただけません、と遠慮しても、彼らには通じない。

「……頼まれて行っただけなのに、こんなにもらっちゃって。なんだか申し訳ない
なぁ」
「お礼だって言ってるんだから、素直に受け取っておけよ。変に遠慮する方が失礼っ
てモンだろ」
アベルの言葉に、彼女はやや悩みつつ、小さく頷いた。
わかってはいるんだけど……と言いたいところなのだろう。

「ヴァネッサちゃーん!!」

突然大声で呼ばれ、彼女――ヴァネッサは振り返った。
今来た方角から、一人の男がこちらに向かって走ってくる。
ただならない雰囲気を、その身にまとって。
「今すぐ来てくれないか、大変なんだ!」
駆けてきた男は、いきなりヴァネッサの手首をつかみ、元来た道を戻ろうとする。
説明も何もナシ、である。
「いきなり何なんですかっ」
ヴァネッサは警戒し、足に力を入れて突っ張った。
「大変って、何が大変なんだよ?」
「村はずれの洞窟で、落盤があったんだ!」
横からアベルが投げかけた疑問に、男は早口に述べた。

村はずれの洞窟。
ヴァネッサは思い出した。
そういえば、しばらく前から、どこかの学者だかが、洞窟で取れた鉱石を研究したい
と言って調査に来ていた。
そんな状況で、洞窟の落盤が起きたとすると……。
「運の悪いことに学者先生が何人か巻き込まれてる。ケガ人の治療をして欲しいん
だ。だから来てくれ」
そういうことならば、話は早い。

「わかりました……でも、お義母さんに伝えてからじゃ、駄目ですか? 一言伝えて
から行けば、余計な心配をかけなくて済むと思うんです」



2007/02/12 21:27 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 2/アベル(ひろ)
PC:ヴァネッサ アベル
NPC:カタリナ
場所:エドランス国のギサガ村

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「わかりました……でも、お義母さんに伝えてからじゃ、駄目ですか?
一言伝えてから行けば、余計な心配をかけなくて済むと思うんです」
 ヴァネッサの答えに男はなにかに思いついたように頷いた。
「悪いけどついでにギルドへの連絡もカタリナに頼んどいてくれ。」
 ギルドの名にアベルが首をかしげる。
「あれ? どこぞの研究機関とかなんとかいってなかったけ?」
 男にというより、ヴァネッサに聞きながら、荷物を持ち直す。
 ヴァネッサも、そういえばと少し首をかしげる。
「ああ、なんだかわからんが、ギルド出資のアカデミーがどうとか……
って、いけね、まだ長にも報告にいかにゃならんかった!」
 答えかけた男はそのことばも終わらないうちにもう駆け出していた。
 そしてそのまま振り返らずに後ろ手で合図を送る。
「じゃあ頼んだよ! 俺も一回りしたらてつだいにもどるからさ!」
「「わかりましたー!」」
 アベルとヴァネッサは遠ざかる背に向けて声をかけると、顔を見合わ
せて頷きあった。
「さ、急がなきゃね。」
「ああ、ヴァネッサは先にかーちゃんのトコロに。荷物は俺が納屋にも
っていっとくからさ。」
「うん、お願い。」
 家路を駆け出したヴァネッサに遅れまいと、アベルは袋の口をしっか
りと閉じると抱えあげるようにして走り出した。
 
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
  

「そいつはたいへんだねぇ。」
 ヴァネッサから話をきいたカタリナは眉をひそめながらいった。
 アベルの実母であり、ヴァネッサの義母でもあるところのカタリナは、
ギサガ村唯一の宿兼酒場、いわゆる「冒険者の店」を切り盛りする女将で
あった。
 もともと冒険者として、おもに遺跡探査を主とするハンターとして夫の
グラントと各地を巡る生活をしていたのだが、ヴァネッサをあずあかるこ
とになった時にギルドが世話をしてくれてこの店を出すことになった経緯
があるため、ギルドの窓口として村では「何でも屋」のように頼られてい
る。
 そしてヴァネッサが魔法を学びだし、独学ながら治癒魔法を使うように
なってからは、まともな医者のいない村という事情もあって、なにか事故
がおきると今回のようにヴァネッサが出て行くことが恒例化していた。
 そんなわけであったから、カタリナは肩をすくめたものの特に反対する
ことはなかった。
「ただし、遅くならないうちにかえるんだよ。」
 元戦士といいつついまでも鍛錬が日課からはずせないカタリナの、女性
にしては大柄で迫力の有る巨体をずいっと乗り出して声を少し落とす。
「夜になったらまたいつ……。」
「お義母さん、大丈夫。」
 心配げに言いかけたカタリナの言葉の先をさえぎるようにしてヴァネッサ
が笑顔できっぱりと言い切る。
 無理をしている風でもなく、あくまでいつもどおりの笑顔を見せる娘に何
を見たのか、カタリナは笑いながら娘の頭を軽くたたく。
「まったく、無理するなってのはあたしの娘にかける言葉じゃなかったね!」
 そこに心配をはるかに超える信頼を感じヴァネッサは力がわいてくるのを感
じるのだ。
「まあいいさ、倒れたら迎えに行ってやるからほどほどに無理してきな。」
「はい、いってきます。」
 ヴァネッサはそう元気に返事をすると、すぐに外へとかけていく。
 その後姿を見送りながら、髪に片手を突っ込み頭をかきながらため息をつく
カタリナ。
(まったく、無理してるわけじゃなさそうなんだけど、なんだか生き急いでる
きがして……って、なーに考えてんだぁあたしは……はぁ)
 まさしく母のカンというやつが働いているのかもしれないのだが、確証もそ
れらしい予兆も思い当たらなかったので、頭を振って考えを振り払う。
「あー、ちょっと! ヴァネッサ!」
 そこらのものをひっくり返しでもしたのか、納屋から裏口を通って店に入っ
てきたアベルが、引っかかっている剣を無理やり引き剥がしながら、転がるよ
うに出てくる。
 ちょうど入り口をくぐるヴァネッサを見たところのようで、あわてて後を追
おうとしてるようで、そのありさまをみてカタリナは苦笑いをする。
「アベル! そんなところで騒いでないで、さっさとヴァネッサの手伝いにい
きな!」
 母の叱咤にむっとしながらアベルもどなりかえす。
「わ、わかってるよ! 今でるとこなんじゃないか!」
 そのあまりに頼もしい様に、カタリナはやれやれとため息をつく。
(力ばっか強くなって、いらんとこばっかり私に似るなぁ)
 カタリナはしゃーないとばかりに、アベルにむけてはよいけと手を振って見
送った。
 アベルはカタリナにはそれ以上かまわずに、蹴りやぶらんばかりの勢いで扉
をあけると、すぐ先にヴァネッサの背を見つけて後を追った。
(ヴァネッサは俺が護ってやんなきゃ!)


2007/02/12 21:28 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 3/ヴァネッサ(周防松)
PC:ヴァネッサ アベル
NPC:男 学者 老人
場所:村はずれの洞窟前

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まっくら洞窟。

ギサガの子供らが、村外れにある洞窟につけた呼び名である。
その名の通り、どんなに天気の良い日でも奥の方まで見通すことができず、いつから
か子供らは、「洞窟の奥には悪魔がいる」 「入った人は悪魔につかまって、二度と
帰って来られなくなる」と噂しあっていた。
まあ、そう噂するに至ったのは、あまりに言う事をきかない子供に発せられた、
『そんなにわがままばっかり言ってると、村外れの洞窟に置いてくるからね。あそこ
には、怖いものがいるんだから!』
という母親のおどかしが原因だったりするのだが。

洞窟前に着いた2人は、大勢の男達がせわしなく動き回るさまを目にした。
おそらく、村中の手の空いている男をかき集めてきたのだろう。
大声でわあわあと会話しながら、彼らは木材や救助に必要な道具を運んだり、崩れ落
ちた岩の撤去作業を進めている。
さて誰に声をかけたら良いものか、と思っていると、
「あ、来た来た。おーい、こっちだ!」
さきほど、落盤事故のことを教えに来た男が手を振る。
近づいてきた彼はアベルを見て、
「お。お前も来たのか。ちょうどいい、人手が少しでも欲しいところなんだ」
「アベル君、力持ちですから。きっとお役に立てると思いますよ」
ね、とヴァネッサが微笑みかけると、
「まかせとけって!」
アベルは片手でこぶしを作った。
それを頼もしく思いながら見つめ――それからヴァネッサは、表情を引きしめた。

「あの……ところで、ケガをした人は、どこにいるんですか? 早く手当てをしない
と……」
あまり話しこんでいるわけにもいかない。
こうしている間にも、ケガ人の状態は悪化していくのだ。
「今のところ、助け出せた奴はそこに寝かせてるよ。まだ四人、洞窟の中に閉じ込め
られちまってるんだ」
言って男が示した方向には、テントがあった。
周囲の喧騒とは逆に、こちらは静かである。
(今のところ、なのね……)
ヴァネッサは、わずかに顔をしかめた。
まだ四人が、閉じ込められているという。
その中の一体何人が、助かることだろう。
できれば全員、助けたいのだが。

「んじゃ、俺は何したらいい?」 
「そうだな……」
アベルの言葉に、男は考え始めたが、
「おい! 話してないで早く戻れよ!」 
向こうから乱暴な声が聞こえ、男は頭をかいた。
「そんじゃ、まず岩の撤去を手伝ってくれ。こっちだ」
アベルの肩を叩き、男は移動をうながす。
「ヴァネッサ、絶対無理すんなよ。いいな?」
「私なら大丈夫よ。アベル君こそ、無茶しないでね?」
「おう!」
そう言い、アベルは男の後を追って行った。
その背中を見送ると、ヴァネッサはテントへと足を向けた。

テントの出入り口に、男が一人、座りこんでいた。
身なりから想像するに、『学者先生』のうちの一人なのだろう。
どうやら、頭部にケガをしたらしい。
布でぐるぐる巻きにされたところからのぞく髪の毛が、血で固まっていた。
ヴァネッサが歩み寄ると、彼は暗い瞳を向けた。
「……貴方は?」
「あ、あの、私、治癒魔法が使えるので、ケガをした人の治療に来たんです」
男はぼそりと「そうですか」と呟いた。
「じっとしててください。今、治しますから……」
ヴァネッサがさっそく治癒魔法を使おうとすると、彼はやんわりと首を振った。
「僕は大丈夫ですから……それより、中にいる奴を治してやってください。あいつの
方が重症なんです」
「わかりました……でも、少しでもひどくなったら、すぐ言ってくださいね」
男は返事をせず、暗い瞳を地面に向けたままだった。
それを心配げに見ながら、出入り口の幕を持ち上げ、ヴァネッサは中へと入った。

ひどい、という他になかった。

止血だろう、あちこちにぼろ切れをきつく巻きつけられた男が寝かされていた。
腹部に、ざっくり裂けた傷がある。
青白い彼の顔には生気が感じられない。
「もう少しだけ、辛抱してください。今、治療しますから……」
ヴァネッサは、傷口の上にそっと指をかざした。
そして、意識を集中させる。

彼女の指先に、淡い光がまとわりつく。
それは徐々にふくらみ、手の中からも溢れて広がっていく。
同時に男の傷がうごめき、やがて元通りにふさがっていった。

男の顔に、血の気が戻る。
まぶたを震わせ、彼は何事かをうめいた。
「まだ無理しちゃ駄目です。傷はふさがりましたけど、しばらく安静にして下さい」
ヴァネッサはそう声をかけ、手近にあったブランケットをかけてやった。

「しばらく見ないうちに、ずいぶんと成長したのぉ。ヴァネッサ」

そこへかけられた、老人の声。
「先生っ」
振り向いたヴァネッサは、目を丸くした。
そこにいたのは、一人の老人。
この老人は、ヴァネッサにとって師匠に近い存在である。
まだ幼かった頃、彼は宿に滞在していたことがあった。
その時にヴァネッサの潜在能力に気付き、魔法の使い方を指南したのである。
まあ、半年といないうちに宿を出ることになったため、指南はなんとも中途半端なと
ころで終わってしまったのだが。
そこからは、完全にヴァネッサの独学である。

「先生、どうしてここに?」
ヴァネッサは思わず尋ねていた。
この老人は普段、ギルドアカデミー……簡単に説明すると、エドランスのギルドが国
と共同で設立した学校で教鞭を取っている。
アカデミーは村から遠く離れたところにあり、偶然、こんなところで出くわすなどと
いうことはあり得ない。
「まあ、弟子の研究に付き合っての……それが、こんなことになるとは思わなんだ」
老人は、難しい顔をして白いひげをなでる。
「迷惑をかけてすまんのぉ」
「いえ、そんな……それに、落盤は先生のせいで起きたわけじゃありません」
「落盤が起こる危険性を見抜けず、弟子に探査の許可を出したのじゃ。同じことじゃ
よ」
ヴァネッサはどう声をかけて良いのかわからず、黙りこんだ。
「……すまんのぉ。年を取ると、どうも愚痴っぽくなっていかん」
老人はほんのわずかに苦笑いを浮かべ、
「それにしても、じゃ。四人を探知しようとしておるんじゃが、どうしてか探知の魔
法が洞窟にはじかれてしまって上手くいかん。一体どうしたものか……」
「え……?」
ヴァネッサの頭を、幼い頃に子供同士で交わした噂がよぎる。

――洞窟の奥には、悪魔がいる。

――入った人は悪魔につかまって、二度と帰って来られなくなる。


(……まさか)
そんなの、子供の噂話だ。
ヴァネッサは、脳内から噂の記憶を追い出した。


2007/02/12 21:28 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 4/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:男達 学者 老人
場所:村はずれの洞窟

――――――――――――――――――――――――

「こりゃぁ……。」
 男について洞窟にはいったアベルは、落石現場に着くなり思わず
うめいてしまった。
 落石と一口に言ってもさまざまで、天井の岩盤が一塊に落ちてく
るものもあれば、緩んだ土砂が左右から崩れてくるものなど、それ
ぞれによって状況はかなりの違いがある。
 今回の落石は、見たところ比較的小さめの岩が道をふさいでいて、
岩をどけること自体はそんなに難しくはなさそうだった。
 ただ、天井が崩れているところを見ると上から崩れているようで、
この場合は、下をとっても上から次が流れてくるので、大岩よりも
かえって厄介だったりする。
 なにしろ補強を同時にしながら撤去作業を進めることになるので、
力はともかく、とにかく時間がかかるのだ。
「もたもたしてらんねーな。オジさん!こっちからいくよ!」
 のんきにしてられないのがわかったアベルは、案内してくれた男
に一声かけると、すぐにあいてるところに取り付き、土石の撤去の
列に加わった。
 その様子に任せられそうだと判断した男も、すぐに自分の持ち場
へと戻って言った。

「オジさん、壁からあそこのとこ支えたら、この岩いけそうじゃな
い?」
 しばらく土石を黙々と取り除いていたアベルは、並んで作業する
村の男に尋ねた。
 アベルが指で指し示した箇所を眼で追った男は、壁際に姿を見せ
た比較的大きめの岩に眼を戻し、アベルの言いたいことにきがつい
た。
 一部分だけではあるが、このあたりは比較的大岩が積み重なって
いて、うまく支えを入れれば結構奥のほうまでどかせそうなのだ。
 大人の男が5人も並べば十分の洞窟は、広いとはいえないものの
むしろ、一度に作業にかかれる人数が限られるにもかかわらず、天
井や壁の破損部を修復して、二次災害を防ぎつつ土砂をのけるのは
一日やそこらでは終わりそうに無い。
 しかし、この中には緊急を要するけが人がいるのだ。
「……そうだな、応急処置だけでも急ぎたいところだしな。」
 男は他の仲間に声をかけ集める。
「馬鹿正直にやってたら何日かかるかわからん。こっちのやりやす
そうなとこだけ抜いて、志願者で救助に行く。」
 男達はすぐに納得してそれぞれに作業にかかる。
(あまり大きな穴は明けれそうにないなぁ。となると、俺の出番だ
な。)
 しばらくしてなんとか向こうへと通った穴は、補強の資材に場所
をとられていることもあり、アベルの予感したとおり、人が通るぎ
りぎりの幅だった。
 結局比較的小柄な男二人とアベルが中に入り、他は少しでも穴を
広げるためこちらがわにのこることになった。
 まずは大人からと言うことで、アベルは二人の後を這うようにし
て穴の中を進んだ。


「こちらはもう心配なさそうですね。」
 怪我をした二人をテントの中にいれ、念のためと様子を見ていた
ヴァネッサは、かつての師にそう言った。
 傷はふさいでも、内臓などに深刻なダメージを受けていた場合な
ど、命に関わることは無いことではない。
 そうした深刻な怪我や、重い病気などをなおすには、周囲の気を
取り込んで治癒力を強化したりする高度な魔法が必要になってくる
が、正式な修行をしたことの無いヴァネッサはそこまでの技術はも
ち得ないため、こうして念のために様子を見ていたのだ。
「うむ、ヴァネッサがいなければどうなってたか……。」
 二人を見て安心した老人は、あらためてヴァネッサに礼をのべた。
「それにしても、よくここまで鍛えたものじゃの。」
「私にはこれくらいのことしかできませんから。」
 ヴァネッサは謙遜するようにして苦笑するが、老人はかなり本気
でおどろいていた。
「素質があるのはわかっておったが、ちゃんと学べば医療魔法の学
位ぐらいはとりそうだのう。」
「そんなこと……、それならまた先生が教えてくれるわけにはいき
ませんか?」
「うーむ、残念じゃが、基礎は教えれてもそれ以上は専門外でのぅ。」
 老人は申し訳なさそうに頬をかく。
「わしは研究者での、使える魔法も探査・感知といった感覚系のも
のが主なんじゃ。」
 ヴァネッサの素質をおもえば習得するのは可能に思えた。
 ただ、老人も短い付き合いながら、この少女が求めているものが
「誰かの役に立てる魔法」であることは想像に難くなかったため、
あえてそのことには触れなかった。
「そうですか。」
 もっとも、ヴァネッサとしても困らせるつもりたずねたわけでも
なかったので、なるほどとうなづいただけだった。
 ヴァネッサは、なんとなく考えこんだ様子の老人の肩越しに、洞
窟のほうに視線をやった。
「アベル君大丈夫かしら?」
 

2007/02/12 21:29 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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