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2024/05/21 16:28 |
立金花の咲く場所(トコロ) 3/ヴァネッサ(周防松)
PC:ヴァネッサ アベル
NPC:男 学者 老人
場所:村はずれの洞窟前

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まっくら洞窟。

ギサガの子供らが、村外れにある洞窟につけた呼び名である。
その名の通り、どんなに天気の良い日でも奥の方まで見通すことができず、いつから
か子供らは、「洞窟の奥には悪魔がいる」 「入った人は悪魔につかまって、二度と
帰って来られなくなる」と噂しあっていた。
まあ、そう噂するに至ったのは、あまりに言う事をきかない子供に発せられた、
『そんなにわがままばっかり言ってると、村外れの洞窟に置いてくるからね。あそこ
には、怖いものがいるんだから!』
という母親のおどかしが原因だったりするのだが。

洞窟前に着いた2人は、大勢の男達がせわしなく動き回るさまを目にした。
おそらく、村中の手の空いている男をかき集めてきたのだろう。
大声でわあわあと会話しながら、彼らは木材や救助に必要な道具を運んだり、崩れ落
ちた岩の撤去作業を進めている。
さて誰に声をかけたら良いものか、と思っていると、
「あ、来た来た。おーい、こっちだ!」
さきほど、落盤事故のことを教えに来た男が手を振る。
近づいてきた彼はアベルを見て、
「お。お前も来たのか。ちょうどいい、人手が少しでも欲しいところなんだ」
「アベル君、力持ちですから。きっとお役に立てると思いますよ」
ね、とヴァネッサが微笑みかけると、
「まかせとけって!」
アベルは片手でこぶしを作った。
それを頼もしく思いながら見つめ――それからヴァネッサは、表情を引きしめた。

「あの……ところで、ケガをした人は、どこにいるんですか? 早く手当てをしない
と……」
あまり話しこんでいるわけにもいかない。
こうしている間にも、ケガ人の状態は悪化していくのだ。
「今のところ、助け出せた奴はそこに寝かせてるよ。まだ四人、洞窟の中に閉じ込め
られちまってるんだ」
言って男が示した方向には、テントがあった。
周囲の喧騒とは逆に、こちらは静かである。
(今のところ、なのね……)
ヴァネッサは、わずかに顔をしかめた。
まだ四人が、閉じ込められているという。
その中の一体何人が、助かることだろう。
できれば全員、助けたいのだが。

「んじゃ、俺は何したらいい?」 
「そうだな……」
アベルの言葉に、男は考え始めたが、
「おい! 話してないで早く戻れよ!」 
向こうから乱暴な声が聞こえ、男は頭をかいた。
「そんじゃ、まず岩の撤去を手伝ってくれ。こっちだ」
アベルの肩を叩き、男は移動をうながす。
「ヴァネッサ、絶対無理すんなよ。いいな?」
「私なら大丈夫よ。アベル君こそ、無茶しないでね?」
「おう!」
そう言い、アベルは男の後を追って行った。
その背中を見送ると、ヴァネッサはテントへと足を向けた。

テントの出入り口に、男が一人、座りこんでいた。
身なりから想像するに、『学者先生』のうちの一人なのだろう。
どうやら、頭部にケガをしたらしい。
布でぐるぐる巻きにされたところからのぞく髪の毛が、血で固まっていた。
ヴァネッサが歩み寄ると、彼は暗い瞳を向けた。
「……貴方は?」
「あ、あの、私、治癒魔法が使えるので、ケガをした人の治療に来たんです」
男はぼそりと「そうですか」と呟いた。
「じっとしててください。今、治しますから……」
ヴァネッサがさっそく治癒魔法を使おうとすると、彼はやんわりと首を振った。
「僕は大丈夫ですから……それより、中にいる奴を治してやってください。あいつの
方が重症なんです」
「わかりました……でも、少しでもひどくなったら、すぐ言ってくださいね」
男は返事をせず、暗い瞳を地面に向けたままだった。
それを心配げに見ながら、出入り口の幕を持ち上げ、ヴァネッサは中へと入った。

ひどい、という他になかった。

止血だろう、あちこちにぼろ切れをきつく巻きつけられた男が寝かされていた。
腹部に、ざっくり裂けた傷がある。
青白い彼の顔には生気が感じられない。
「もう少しだけ、辛抱してください。今、治療しますから……」
ヴァネッサは、傷口の上にそっと指をかざした。
そして、意識を集中させる。

彼女の指先に、淡い光がまとわりつく。
それは徐々にふくらみ、手の中からも溢れて広がっていく。
同時に男の傷がうごめき、やがて元通りにふさがっていった。

男の顔に、血の気が戻る。
まぶたを震わせ、彼は何事かをうめいた。
「まだ無理しちゃ駄目です。傷はふさがりましたけど、しばらく安静にして下さい」
ヴァネッサはそう声をかけ、手近にあったブランケットをかけてやった。

「しばらく見ないうちに、ずいぶんと成長したのぉ。ヴァネッサ」

そこへかけられた、老人の声。
「先生っ」
振り向いたヴァネッサは、目を丸くした。
そこにいたのは、一人の老人。
この老人は、ヴァネッサにとって師匠に近い存在である。
まだ幼かった頃、彼は宿に滞在していたことがあった。
その時にヴァネッサの潜在能力に気付き、魔法の使い方を指南したのである。
まあ、半年といないうちに宿を出ることになったため、指南はなんとも中途半端なと
ころで終わってしまったのだが。
そこからは、完全にヴァネッサの独学である。

「先生、どうしてここに?」
ヴァネッサは思わず尋ねていた。
この老人は普段、ギルドアカデミー……簡単に説明すると、エドランスのギルドが国
と共同で設立した学校で教鞭を取っている。
アカデミーは村から遠く離れたところにあり、偶然、こんなところで出くわすなどと
いうことはあり得ない。
「まあ、弟子の研究に付き合っての……それが、こんなことになるとは思わなんだ」
老人は、難しい顔をして白いひげをなでる。
「迷惑をかけてすまんのぉ」
「いえ、そんな……それに、落盤は先生のせいで起きたわけじゃありません」
「落盤が起こる危険性を見抜けず、弟子に探査の許可を出したのじゃ。同じことじゃ
よ」
ヴァネッサはどう声をかけて良いのかわからず、黙りこんだ。
「……すまんのぉ。年を取ると、どうも愚痴っぽくなっていかん」
老人はほんのわずかに苦笑いを浮かべ、
「それにしても、じゃ。四人を探知しようとしておるんじゃが、どうしてか探知の魔
法が洞窟にはじかれてしまって上手くいかん。一体どうしたものか……」
「え……?」
ヴァネッサの頭を、幼い頃に子供同士で交わした噂がよぎる。

――洞窟の奥には、悪魔がいる。

――入った人は悪魔につかまって、二度と帰って来られなくなる。


(……まさか)
そんなの、子供の噂話だ。
ヴァネッサは、脳内から噂の記憶を追い出した。

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2007/02/12 21:28 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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