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2024/11/01 22:34 |
琥珀のカラス40/カイ(マリムラ)

――――――――――――――――――――――――――――

PC:カイ クレイ

NPC:クレア デュラン・レクストン ルキア ウルザ

場所:王都イスカーナ

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「よし、コッチから仕掛けよう」

 クレイが廃墟の灯りの下でぽつり。

「え?なにするのなにするの?」

 じゃれ付こうとするクレアを腕一本で押しとどめながら額に手を当てた。

「はいはい、ちょっとはおとなしくしてなさいね」

 ずいぶん扱いも慣れたモノである。ぷうっと頬を膨らませながらもおとなしくなるクレアを見て、カイは微笑ましく思っていた。

「なあカイ、今屋敷内で騒ぎを起こしたら回りはどうするかな?」

「カラスが気付かない間に進入したと思って、押しかけて来るだろうな」

 あまり想像したくない状況だが、嫌味なくらいハッキリと想像できる。

「クレアがいるからソレは無理かぁ」

 カイにはクレイの言わんとするところが分かって苦笑を噛み殺した。



 騒ぎを起こす必要がある。しかし、真の敵をあぶり出すためには欠かせない騒ぎだが、その渦中にいるモノは常に危険に晒される。

 そして、騒ぎの渦中にいるモノには敵の動きを把握することは難しい。

 どちらかが騒ぎを起こす、それが避けることの出来ないことだとしたら、ルキアやウルザを危険に晒すよりも自分が騒ぎを起こそうと考えたのだろう。



 実際、ソレはカイも考えていたコトだった。しかし、予想外のクレアの登場で、変更を余儀なくされたのだ。

 ふくれっ面ながらもおとなしくしているクレアを一瞥し、カイは言った。

「彼女とご老体を連れて、空井戸から避難するんだ」

「なんでじゃ!」

「えー、どうしてぇ?!」

 二人の不満は聞き流す。

「騒ぎを起こすのは任せてくれ」

「……大丈夫なのか?」

「足手まといは少ない方がいい」

 短い沈黙。一旦下を向いたクレイは顔を上げると、カイの肩に手をのせた。

「信用してるぜ、相棒」

「……済んだらすぐに後を追う」



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 廃屋の灯りが揺らめいて消えた。と思ったら、同時に数カ所で物音がする。

 警備の面々に緊張が走った。これだけの厳重警備の網のどこから入り込んだというのか。



 もうメンツも協定も関係なかった。双方入り交じって廃屋に押しかける。

 袋の鼠だ。そう思っていないモノが一人だけいた。

 回りの混乱を後目に、一人だけその場を離れる。男はある屋敷を目指して走った。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 カイは三人を逃がした後、充分時間をとってから行動に移した。



 わざと外から確認できるように灯りを揺らし、吹き消す。

 そして気の風を起こすと、部屋の反対側で物音を立てる。と同時にボロボロの椅子を蹴飛ばす。部屋の向こうに仕掛けて置いた紐を引くと、また別の場所でも音が鳴る。



 屋敷を包む空気が変わった。あまり猶予はないだろう。

 急いで隠し通路に飛び込むと、地下へと下る。後は運を天に任せるしかない。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 呆気にとられたのはルキアだった。

 騒ぎを起こしにこれから潜入しようとしていた廃屋から騒ぎが起こったのだから。

「あの子達、面白いコトしてくれるじゃない?」

 もちろん一人だけ別方向に走り出す男を見逃すはずはなかった。

 気付かれないように、慎重に後を付ける。向かった先は……。

「へぇ、そうだったんだ」

 小さく呟くと、再び闇の中に姿を消した。



 その頃ウルザは別のコトに呆れていた。

「クレア様……何でこんな所に」

 クレイと一緒に慌てて移動する様を目撃してしまったのだ。そして何故か琥珀の持ち主も一緒。

「コレではしばらく手の出しようがないかしらね」

 若干頭を抱えながらも、ルキアと同様、闇に溶けて見えなくなった。
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2006/08/09 01:44 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・41/クレイ(ひろ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:カイ クレイ

場所:王都イスカーナ
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 誤算。

 どんなに有能な策士でも恐れるその事態は、クレイにとっても例外ではなかった。

(っていうか、ルキアの策略だからなー、なんかこんな気はしてたんだ。)

 今更自慢するわけではないが、クレイは自分より弱いものにしか強くない。

 素直にわかりやすく言うなら、一般兵程度ならともかく、それなりに手練をつんだ相手に勝てるほど、自分の「武」に自信がないのだ。

(……それにしても、こいつらカラスじゃなくてこっちにきたのは何でだ?)

 今クレイは眼前に迫る三人の白装束をまとった男たちをにらみつけながら、後ろにクレアとデュランを庇いながら剣を抜いた。



 カイの起こした騒ぎを機に、屋敷に気配が集まるのを背に感じながら、カイと打ち合わせておいた合流地点へと移動を始めたクレイ達は、少し離れたあたりで行く手に立ちふさがる男たちに気がついた。

 その男たちの雰囲気に通りすがりと思うようなクレイではなかったが、気がついたからといってクレアとデュランがいては逃げ切れるわけもないので、へたに背を見せる愚をおかさずに剣を抜いて構えたのだった。

「クレイ……。」

 クレアがさすがに不安を隠しきれずにか細い声でクレイを呼ぶ。

 かつて自分を追ってきていた家の者たちとは違う、剣呑な雰囲気をクレア自身も感じているのだろう。

「クレイ……。」

「……じーさんは黙ってろ。」

 クレアを安心させようとなにかいいかけていたクレイだったが、デュランの冗談に気をそがれてしまった。

「ひょほほほ、この程度で余裕をなくすとはまだまだ若いのう。」

 そういいながらデュランが前に出ようとしたので、あわててクレイが手で制する。

「ちょ! じいさん! やつらはまじだぞ。」

「ひょほほほ、わかっとるよ。 なにしろかおなじみじゃ。」

「え?」

 デュランが前に出ると同時に、三人組の影の中から一人が進み出てくる。

「デュラン・レクストン元司祭、返してもらいますよ。」

 近づいてきた男たちは、声をかけてきた40前後と思われる男と20代と思しき若者が二人であった。

 若い二人は白装束越しにもわかる鍛えられた体を持つ屈強そうな男たちだったが、肉体には普通そうに見える中年の男のほうが、クレイには危険に思えた。

「マグダネル、こいつを返す先はおまえらの下ではないぞ。」

 デュランはいつのまにか別人のように引き締まった顔になっていた。

 いままでは眉唾と思っていたが、神職についていたことをしんじてしまうほどに。

「返すというのが気に入らないなら、『奪う』でもいいのですよ。」

(こいつら、まさか琥珀が目的か?)

「ふん、カラスはほったらかしか?」

「いえいえ、ですが今宵は正面切るには見物人が多すぎますのでね。」

「貴様らはとうに破棄されたはずじゃろに。」

「捨てる神あれば拾う神ありでしてね。」

 マグダネルが片手を挙げると後ろの一人が両の手で印を組み、もう一人が棍棒の先に重りを鎖でつけた武器を出し構える。

(フレイルはともかく、そんな立派な体して術士かよ!)

 実力未知数ながら、すでに絶体絶命の危機に陥った気分で、冷や汗をながすクレイにデュランが小声でささやく。

「わしのことはいいから、そっちのお嬢ちゃんを守ってやってくれ。」

「お、おい。」

「いや、わしの心残りはもうはらせたかもしれんのでな……。」

「じーさん、それはいったい……。」

「お、どうやら来るぞい。 術はわしが引き受ける。 あとはたのむぞい。」

 デュランの引き受けるがその身を盾にしてという意味であることは容易に想像できたが、クレイにとって守るべき優先度の高いクレアとクレア

に預けられた琥珀のことを考えれば、反対することはできなかった。

 なにより、この状況では他に手を考える時間もなかった。

「ちっくしょう!」

 デュランの警告どおり男たちが攻撃に移る気配に反応しながらクレイの口からは、悔しさの叫びがもれた。



 まず最初に仕掛けてきたのはフレイルを掲げた男だった。

 体格からすると速いダッシュで一気に間合いを詰め、クレアに向かってフレイルを振り下ろしてきた。

 クレイは敵がクレアの正体に気づいていないと踏んでいたので、おそらく定石どおり見た目からして弱そうなクレアから狙われると予想していたため、フレイルの一撃を受けきった。

 しかしそのクレイの目は余裕のかけらもなく見開かれた。

 悠然と構えているように見えたマグダネルが駆け出しながら袖から引き出された櫂のような武器、トンファーを回しながらクレイに飛び掛ってくる。

 それと同時に後ろの男が術を解き放ち、白い閃光が走る。

(まずった!)

 こうなれば根性でトンファーの打撃に耐えてみせても、デュランはどうやっても助けるには一手足らない。

「クレイ! おじいちゃん!」

 クレアの悲鳴が事態の絶望を告げていた。



「だぁぁぁぁぁあ!」

「そんな、ばかな!」

 閃光がデュランに届こうとした瞬間、間に湧き出すように現れた黒装束の男が、雄たけびとも怒声ともつかない声を上げながら手をかざした。

 普通ならもろとも巻き込んで焼き尽くす予定であったのだが、閃光は男の前で、まる で見えないたてに阻まれたように滞ると、男が手を返したのにあわせて、空へと消えていく。

 あっけに取られたように男を見るデュランのと同じように、クレイもあっけにとられていた。

 クレイの覚悟した衝撃は訪れず、代わりにマグダネルが地に転がってうめき声を上げていた。

 飛び掛ってきたマグダネルは、クレイとの間に割って入ってきた黒装束の女に、受けから返しを喰らってそのまま投げられたのだった。

 クレイとともにあっけに取られていたフレイルの男もわれを取り戻して行動を起こそうとしたが、それより一瞬早く気を取り戻したクレイが男の腹にけりを入れて押し戻し間合いを取る。

 

「き、きさまらはカラスか!」

 さすがにマグダネルはいつまでも転がったままでなどなく、すぐにたちあがるとと、残りの二人とともに少し下がって体勢を立て直す。

 クレイはすぐに女がウルザかルキアであろうと気がついたが、その女から目配せを受けてクレアがいることを思い出して声をかけるのを思いとどまった。

「おじさま、私はともかくそちらはどうします?」

 揶揄するように、どこかおかしさをこらえるように話す女の声に、クレイはウルザであろうとわかったが、ウルザが言葉に込めた意味までは気づくはずもなかった。

 すなわち、『引退したはずのあなたもカラスを名乗りなおします?』に。

 当然ながら、これまたクレイは知りうるはずもなかったが、ウルザにたきつけられてクレアをひそかに見守っていたカシューが黒装束の男であった。

 カシューは面白そうに眼で笑うと、指先をふって否をマグダネルに告げる。

「俺か? 俺のことはそうだな、宵闇男爵と呼んでくれ!」



 うまく陽動をこなしたカイは、一番警戒していた神殿関係の襲撃がないことをいぶかしみながら、クレイたちの後を追っていた。

 そして先のほうで閃光が夜空に向かって消えていくのを確認し、焦燥の念に駆られながらかけて来た。

 そして、

「俺か? 俺のことはそうだな、宵闇男爵と呼んでくれ!」

 本気か冗談か……。

 なにはともあれ、クレイとクレアの無事な姿に安堵のため息を漏らした。

2006/08/09 01:58 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・42/カイ(マリムラ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ

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 皆の無事に安堵しながらも、カイは走る速度をゆるめなかった。

 白装束の三人が体勢を立て直している。まだ何かを企んでいるのか。

「援護が来ましたよ、どうします?」

 ウルザの声に、男の一人が気を取られた。すかさず間合いを詰め、当て身の後に背

負い投げ。無防備になったところで腕を後ろに絡め取る。

 もちろん宵闇男爵ことカシューも動いていた。

「だぁぁぁぁぁあ!」

 気合い一声、手を翳し、マグダネルに直進する。マグダネルはなんとか避けた。

 ……つもりでいた。にも関わらず、体が衝撃と共に宙を舞う。首を中心に一回転

半、地面に叩き落とされた後に待っていたのは、上からの強力な肘落とし。気を失

い、泡を吹く。

 残されたフレイルの男は、二人のターゲットが自分以外に向いていることを知ると

即座に、デュランを人質に取ろうと武器を振り下ろした。

 

 後ろからクレイに体を引っ張られ、デュランの体がくの字に折れる。間一髪でフレ

イルは空を切り、老人は尻餅を付いた。しかし、次は同じ手は使えない。

 白装束の男はもう一度フレイルを振り上げようとしたが、クレイの脚払いが功を奏

したようで、派手に昏倒した。打ち所が悪かったのか、脳震盪を起こしたのだろう。



 涼しげな顔の黒装束二人に比べ、クレイは幸運に素直に感謝し、冷や汗をかいてい

た。同じコトが二度できるかと聞かれたら、答えは否だ。今のはとっさの賭で、下手

したらデュランも自分も命を落としていたかもしれない。

 ドクドクと頭の中に響きわたる自分の脈拍を聞きながら、訓練中にはない、心臓を

ワシ掴みにされるような緊張感を切に感じていた。



 駆け寄るカイに気付いたクレイは、何とか無事だよと手を挙げて合図する。

「……なーんか、妬けちゃう」

 ぼそっとクレアが洩らした言葉を、クレイは聞かなかったことにした。

「こっちが宵闇男爵、ね。そっちは?」

「私のことはカラスでいいでしょう。デュラン元司祭、無事で何よりです」

 ウルザが小さく会釈する。

「貴方に聞かなければならないことがあるようですから」

「なんじゃ、琥珀は渡さんぞい」

 間髪入れずに切り返すデュラン。さっきの引き締まった顔が見間違いであったかの

ように、老人は口を尖らせ、子供のように拗ねていた。

「おじいちゃーん、一応助けて貰ったお礼くらいは出来るでしょー?」 

 クレアが肘でデュランを小突くと、大げさによろめいたフリをして涙目になる。

「小娘が老人を労[ねぎら]ってくれんのじゃ」

 ふらふらとクレイの後ろに逃げ込もうとして、クレイに首根っこを捕まれた。

「はいはーい、話が進まないからコントはそのくらいにしてねー?」

 何とも緊迫感のない会話である。さっきの命を懸けたやりとりはどこへ行ったのだ

ろうか。

「冗談言ってる場合じゃないんだって神殿側の追っ手が彼等だけとは考えづらいでし

ょ?」

 老人をたしなめるクレイ。嗚呼、何故自分がいつも貧乏くじを引かされるのか。ク

レイはちょっと不幸な気がしてきた。

「空気を和ませようという、わしのささやかなおちゃめではないか……」

 場違い、場違い。

 あえて口に出さずに、胸の内でツッコむクレイ。脱力し、大きな溜め息が漏れる。



「……話、続けてもイイかしら?」

 口を挟むタイミングを窺っていたウルザが、控えめに声をかけた。

 これから、謎が明らかにされていくのだろうか。

 知らず知らずのうちに、クレイとカイは姿勢を正していた。

2006/08/10 01:55 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・43/クレイ(ひろ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:カイ クレイ

場所:王都イスカーナ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「はん! わしに話すようなことは何もありゃせんよ。」

そういってとぼけるデュランを囲むようにして、安全な場所として宵闇男爵ことカシューが一行を連れて行ったのは、かつて初代カラスとしてカシューが利用していたアジトの一つだった。



「ふむ。 ここなら襲撃の心配はなさそうだな。」

 地理を確認したカイが納得したようにいったのに対し、カラスことウルザは呆れた様子でカシューをみた。

「たしかに、こんなところに潜んでるってのは盲点だし、ばれててもここで戦うことは無いでしょうけどね。」

 カシューのことを知らない他のメンバーと違い、正体を知るウルザは、この場所に気づいたときはほんとに驚かされたのだ。

「そうね、まさか王太子府のすぐ隣だなんてね。」

 クレアの言うとおり、カシューのアジトは王宮から少し離れたところにある王太子府のまさに隣の建物だった。

「もともと兵舎の一つなんだが、建てられただけで王子様方はこんなところで政務にいそしむなんてことはまずないんで払い下げられたというが……。」

 クレイはウルザとはまた違った理由で呆れる。

 ジト目で男爵を見た後、嘆かわしげに頭を振る。

「いくらなんでも、こんなのが手に入れられるなんて……、いくら王子が来ないつったって、派閥の貴族は代わりに仕事にくるんだし、身元確認ぐらい……。」

「おいおい、買うときはそれなりにてをうったんだぜ。」

 心外そうにいう黒ずくめの男にクレイはおろか、この場にいる全員が心の中で思った。

 すなわち―――

(いや、今その格好で言われても……)



「……それで、カラスの捕縛はともかく、元神官のデュランさんが狙われたわけを聞きたいんですけど?」

 質素な部屋でこれまた質素なテーブルを囲むようにして落ち着いた一行を見渡した後、気を取り直してウルザが問いかける。

 しかしめんどくさそうな目を向けた後、デュランは子供のようにそっぽを向いた。

「ふん。 おおかた神殿の琥珀を持ち出したもんだから怒ったんじゃろよ。」

 しかしそれで納得させられるのはクレアぐらいで、説得力の足らない説明に頷くものはいなかった。

「あのものたちは明らかに普通ではなかった。」

 カイはいいながらウルザとカシューを目で指し示す。

「こちらの二人がいなければ、例えはじめから私がいたとしても守りきれたかどうかわからないほどの相手だった。」

 それはつまるところ、たんなる武芸自慢の神職者でなく、訓練を受けたプロであったということだ。

「神殿には表と裏があるってのを聞いたことがあるが、あいつらがそうか?」

「……。」

「じーさん、あいつらのことを知っていたからずっと隠れていたんだろう? なのに今回の一件はあまりに急すぎるし、命を危険にさらすにしては目的がはっきりしない。」

 クレイは言葉を切ってデュランを見る。

「……。」

 むっつりと考え込むように黙ったままのデュランは、自分を見つめながらじっと答えを待つ皆の顔をゆっくりと見渡す。

 そして一回りし、クレアのところまで来たところで眼を閉じて大きく深呼吸をする。

「……あの日、カラスの予告が来た日、わしはついに待ち望んだ日が来たことを知った。」

 再び目を開いたデュランは普段の様子とは違い、先ほどの戦いで一瞬見せたあの鋭く引き締まった顔で静かに語り始めた。

「わしには罪が有る。 もうずいぶん昔のことじゃが忘れたことは無かった。 時間を戻して罪を消すことはできぬが、やらねばならないことは残った。」

 デュランはクレアを見ると悲しそうに微笑んだ。

「その琥珀は、本来嬢ちゃんのものなのじゃ。」

「え? え? 私?」

 深刻な話になるのかなーと野次馬好奇心半分、きいてもどうせわからないしと聞き流すの半分で、あからさまに他人事のつもりでいたクレアはいきなり自分のことが出てきて目を丸くする。

 そんなクレアから視線を移したデュランはウルザに目を向ける。

「もともとの予定はカラスが返してくれるはずじゃったんだが、これも縁かのう。 ともかく、わしの目的は琥珀を……生命の石を本来の主にかえすこと。 そのためだけに無駄に生きてきたのじゃ。」

 罪とはなにか、過去に何があり、クレアと何のかかわりがあるのか。

 カシューもウルザも語らない。

 クレイもカイも推測を口にしない。

 しかし、それでもクレアには胸元に入れた琥珀が間違いなく自分と深いかかわりがあることを信じられた。

「あら? 全然無駄ではなくてよ。」

 それぞれの思いでよどみはじめた空気を吹き飛ばすように、明るく弾むような声がする。

「またカラス?」

 そういったクレイに片目を瞑って合図を返したのは、おくれて帰ってきたルキアだった。

 それを待っていたかのように、デュランが話し始める。

「わしらを襲ったのは、かつて神殿に飼われていたものじゃ。 生命の石の力を使って人為的に特異能力者を作る研究がされていて、そのときの試作体たちじゃ。 石の力がうまく制御できず、思うような成果が上げられなかったため廃棄処分にされたはずじゃったのだが……。」

「それで納得。 神殿のあきらめた宝をしつこく狙っているのは……。」

 デュランの後を引き継いでルキアが、先ほどの男をつけた顛末を話す。

「……なーんであんな中級の貴族が生命の石のことを知ってたのかこれでわかったわね。 神殿に捨てられたあいつらがはなしたんだ。」

「どっちかどっちを利用しておるか知らんが、最悪の事態ではなかったか。」

 ルキアの説明を聞いてカシューも安心したようにいった。

(あの時は何もできなかったが、こんどはしくじらねぇ。)

 熱い思いを胸に思わずこぶしを硬くするカシューの黒覆面を、無邪気なクレアの瞳が見上げる。

「ねえ。 最悪って?」

 さすがに自分にかかわりがあると知ってしまえば、無関心ではいられないクレア。

(クレアの正体まではばれてないこと……なんていったらギルベルトに殺される。)

 カシューは自分がうかつなことを口にしたのに気がつくと同時に、頭と腹と足先に激痛を感じてテーブルに突っ伏する。

 事態に気がついたクレイが足をウルザが横から腹を、ルキアが後頭部に一撃を加えてカシューをだまらすとカイが答えた。

「つまり、琥珀はまだこちらの手にありデュラン老も無事だからだ。」

「あ、なるほど~。」

(ないす! カイ。)

 思わずクレイと二人のカラスの心が一つになる。

2006/08/11 01:21 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・44/カイ(マリムラ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:カイ クレイ

場所:王都イスカーナ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「さて、そろそろ役割分担でもしましょうか」

 頃合いを見計らって、ルキアが若干楽しげに言った。

「いつまでもココに篭もっているというわけにはいかないからな」

 カイも頷きながら同意する。

「では、誰をどう使うかだが……」

 宵闇男爵ことカシューを中心に意見が飛び交う。

 誰が残って誰が外へ出るのか。

 その選択肢の中にはクレアとデュランの名はなかった。

「おじいちゃーん、私達邪魔者~?」

「ほっほっほ、そういう面もあるやもしれんなぁ」

 さっきの引き締まった顔はどこへいったのか、のほほーんと答えるデュラン。

 クレアは退屈そうに頬を膨らませると、クレイの裾を引っ張った。

「……あーもう、今忙しいの!」

「けち」

「そういう問題じゃないだろう?!」

 拳を震わせるクレイは、必死に怒りを収める。

 彼女は自分でも何がなんだか分からないウチに今回の最重要になっているのだ。

「クレア、きっと守るから、おとなしくしろよな」

「なんで?私にも関係あるんでしょ?……よく分からないけど」

 俯く彼女の意見はもっともで。

(ちっ……余計なこと話しすぎなんだよ)

 クレイがおっさん等を睨み付ける。

 デュランも反省はしているようで、肩をすくませ、小さくなった。

「お嬢さん、悪いが足手まといにならないでくれ」

 カシューがクレアの肩に手を置く。

「少なくともあんたら二人を守らなきゃならん、勝手に動くとリスクが高くなるんだ

よ……それくらいは分かるだろう?」

 ゆっくりと、諭すような口調。

 クレアは何か言いかけて、目を伏せると押し黙った。

「あら、解決?」

 ルキアの問いに、全員が無言で答える。

「では、護衛班と実働班に分けます」

 静かに、ウルザが言った。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「つまんなーい」

 クレアが愚痴を洩らす。

「あきらめなさい、お嬢さん」

 カシューが白い歯を見せて笑う。

「何でクレイが残ってくれないのー?」

「ワシだっておっさんよりおねえちゃんの方がイイわい!」

『ねー!!』

 声を揃えて不満を言うクレアとデュランにカシューは苦笑する。

(こりゃ大変だ)

 引退して、後は悠々自適なハズだったのに。

「信頼できる護衛となるべく多くの実行班って分け方、本当に大丈夫なの?」

「さあな、どう転ぶかはまだワカランよ」

 宙を見つめ、若者達の無事を願うカシューであった。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「おい、本当に良かったのかな?」

 クレア達と別れて、一度だけクレイが振り返る。

「護衛に彼以上信頼できるモノはいないし、こちらの人数を削るリスクは犯せないか

らな」

「そんなこと、分かってるけどさ」

 カイの指摘にクレイは頭を掻きむしる。

「ま、こちらは最善を尽くしましょ?」

 ウルザはそういうと、先導するように走るルキアの後を追った。

2006/08/14 23:48 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス

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