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2024/05/16 16:33 |
番劇/ランディ(スケミ)
場所 : ソフィニア・マジエ氏邸宅
PC : アダム ランディ シックザール
NPC: ル・グラン=マジエ
―――――――――――――――――――――

「さて、それでは早速以来内容をお教えしたいと思います。」

そう言ってアダムさんの依頼人――マジエ氏は書斎にあるソファの内、周囲に
本が高く積まれている方へと座った。
どうやらこのソファは日常的に使われているらしく、ソファの前におかれたデ
スクの上には開かれた本が何冊が規則正しく置かれている。
デスクの上だけではなく本棚に置かれた本も、大きさやページ数、本のジャン
ルなどで等間隔に整頓されていた。
この本で満ちた部屋を見ていると、マジエ氏の趣味がひしひしと伝わってく
る。
すなわち、読書・または本の蒐集。

(これは同時に読んでる……ということなのでしょうか。)

視線を目の前のデスクにうつし、ぼんやりとそう思う。
デスクの前に開かれた本は、よく見るとそれぞれ別の言語で記述されている。
物質や生き物を元にしたと思われる象形文字に近い文字やその系統とはまった
く外れた魔術文字。
本の冊数は十数冊。
この様々な言語をマジエ氏は理解しているのだろうか。
もちろん、僕たち魔族でもそのようなことを軽々と行う者はいる。
しかしながら、人間の身でそこまでできるとは中々侮れないものだ。

(人間……かぁ。)

僕の隣に座るアダムさんは、真面目な顔をしてマジエ氏を見ている。
その表情にはめんどくさそうな色がちらりとにじみ出ており、アダムさんがこ
の依頼に乗り気ではないことを表していた。
例え一時期のものであろうとも、惑星や空間、次元、世界軸を異なる無数の魔
界を統一した魔王である彼。
もちろん、僕の魔王様が支配する第二魔界も例外ではない。
そんな彼と、ただの人間であるアダムさんがどのようにして出会ったのか。
個人的に興味をそそられるものである。
まあ、人間人間いっている僕も、現在はその人間に近いものなのではあるが。

「これは、私がもっとも愛する本のうちの一つです。」

そう言ってマダム氏は本棚の隣にあるガラスでつくられたショウケースから、
慎重に一冊の本を取り出した。
古ぼけた、オリーブ色の本。表紙は皮でできているのだろうか、丈夫そうだ。
マジエ氏の手にま真っ白な手袋がいつのまにかはめられており、彼がいかにそ
の本を大事にしているかがわかる。

「物騒な本だな。」

堂々とそう漏らすアダムさん。いつの間にか依頼人に対する敬語がなくなって
いる。
……って、そういうことを持ち主の前で言ってしまってもいいのでしょう
か……。
飄々とした外見とは裏腹にアダムさんはとても我が強いのかもしれない。
だけど、アダムさんの言葉は確かだった。
――なぜなら、その本を見た瞬間。僕の身体は不覚にも戦いてしまったから
だ。

「そのことは否定しません。しかし、こんな存在になってしまった罪はこの本
にはないのです。」

優しげに、まるでわが子をなだめるように本の表紙で撫でる。
しかしその本はまるで泣き止むことなく、声にならない咆哮をあげている。
いや、それはもう咆哮というよりは単純な力の放出に近い。
無遠慮なその放出が、酷く、癇に障る。
僕は無意識に拳をきつく握った。

「……俺も骨董品には興味があってな。どこで手に入れたのか気になっただけ
さ。」

「それを貴方に教える必要は皆無です。」

その返答を予想していたのか、アダムさんは「はいはい。わかりましたよ。」
と肩をすくめる。
それにしても先ほどまで元気だったシックザール様(仮にも魔界統一を成し遂
げた方に「さん」付けは無礼だろう)が静かだ。
仕事モードに入ったアダムさんがかまってくれなくてすねてるのだろうか?
――嗚呼、それにしてもあの本を誰か止めてはくれないだろうか。
ひどく、身体の中がかきまわされる。

「依頼はこの本の番である、桜という木から作られた箱を入手することで
す。」

差し出された写真。
セピア色のその写真には色素の薄い木の箱と、マジエ氏の持つ本が写ってい
た。

「An angel's miniature garden……<天使の箱庭>。この本の、そして番の名
です。」


放出は絶え間なく僕を襲う。
箱庭を失った生身の天使はただただ鳴き続けるのみだ。



――ああ、その本の中に、天使が、いる。
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2007/01/17 23:35 | Comments(0) | TrackBack() | ▲劇(まめ子&アダム&ランディ)
東方見聞劇/まめ子(葉月瞬)
PC:まめ子、アダム、ランディ
NPC:シックザール
場所:ソフィニア――マジエ邸~東方へ向かう街道
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 “桜”と聞いてまず思い浮かんだのは、“東方”の二文字だった。

「じゃあさ、東の方へでも行って見ようぜ」

 アダムの無作為な一言がきっかけだった。

「それじゃあ、東方見聞録とでも洒落込みましょうか」

 ランディは、その尻馬に乗っかっただけだった。
 まめ子は何も言えなかった――。

 思い立ったが吉日、アダム達の行動は正に風の如しだった。その後ろから掛
けられたマジエ氏の言葉など、今正に部屋を後にしようとしている、数多の剣
に飾られたアダムの背を貫通する事は出来なかった。その隣に居る、緑髪の魔
族の耳にも届かなかった。

「君達! 番の在り処は既にアキラカ――」

 その言葉が言い終わるか終わらないかの内に、木製の何の変哲も無い扉は閉
められたのだった――。


    ◇ ◆ ◇ ◆


 アダム達がマジエ邸を後にした時、まめ子は今だ小箱の中であった。
 一行の向かう先は、既に決定しているようである。

――東方へ。

 向かう先には何が待ち受けているのか。アダムもそしてランディも期待と好
奇心で、胸の動悸を抑える事が出来なかった。
 石畳の上を歩き出したその時、ランディが突然アダムに声を掛けた。

「ちょっと待って下さい。アダムさん。まだ紹介していない方がいるんじゃあ
りませんか?」

 アダムは疑問に思い振り向いた。いったい誰の事だと言おうとして、心当た
りが有ったらしくやおら腰にぶら下げた日本刀を引き抜くと、そっとランディ
に向けて正眼に構えた。

「ひょっとして、こいつのことか?」

 こいつ――そう紹介された運命[シックザール]は憮然として答えた。

『こいつ、とはご挨拶だなぁ。アダム。もっと他に言い方があるだロ★』
「うるさい! お前なんかなぁ、“こいつ”でいいんだよ! 他にどんな言い
方があるっていうんだよ」

 暫くランディは楽しそうにシックザールとアダムの掛け合いを眺めていた
が、徐に口を開くとアダムの予想を大きく裏切った。

「いえいえ。もう既にシックザール様の事は紹介済みですよ。それより
も……」

 ランディは値踏みするような眼差しをアダムの、ズボンのポケットに注ぎ込
む。ランディには薄々解っていた。アダムが隠し持っているであろう小箱の中
身を。そして、その小箱の中身に興味を覚えていた。

「小箱の中身……?」

 アダムは嫌な予感を通り越して、戦慄をすら感じていた。この小箱を空けた
ら、何が飛び出てくるか。一瞬だけ見えたあの植物の種子の様なもの――どう
しても生物には見えないのに手足が付いている不可思議なもの――が飛び出て
くるであろう事は明白だった。そして、それが自分の平穏な生活を脅かすであ
ろう事を薄々感付いていたのだ。だから今の今まで、必死に小箱の蓋が開かな
いように守っていたのだ。
 それが――今正に脅かされようとしている。

「な、何で今そんな事を気にするんだよ」

 声が裏返っているのは動揺しているからだ。アダムは必死に小箱を死守しよ
うとポケットに手を当てた。

「でも、だって、可哀想じゃないですか。その……中の人が」
「中に人なんか居ない!」

 ランディの言葉に、全力で否定するアダム。「それよりも」と、東方へ向か
う街道への道を急いで突き進む。ランディが慌てて追いかけて横に並びなが
ら、さらに会話を続けようと試みる。

「あ、ちょっと待って下さいよぅ、アダムさん。紹介して下さいよ、その小箱
の中身」
「うるせぇ! 今はそんな事より、依頼だよ! 依頼! 東方へ行かなきゃ、
だろ!」

 何とか小箱を開けるのを、回避する努力をしてみるアダム。
 だが、その努力も東方へ向かう街道へ一歩足を踏み出した途端、霧散するこ
とになる――。

 辻を四つ程曲がり、市場通りの裏手を抜けて東門の方角へと進路を取るアダ
ム達。東の外壁門は貴族達の屋敷がある区画から東南の方角にあった。
 外壁門を守る兵士に一礼し、ギルドカードを提示して二、三今回の依頼につ
いての説明をしてから外壁門を潜るアダム達。兵士の許可を得なければ、外壁
門を潜る事は出来ないのだ。それは、外から内へ入る時も同じだ。ギルドカー
ドは一種の身分証明書みたいなものだから、提示するだけで外壁門を通しても
らえる。今回の依頼について話したのは、兵士が好奇心から尋ねて来たから
だ。愛想を振りまくのも、ギルドハンターとしての勤めである。
 門を潜ると、長閑な田園風景が広がっていた。畑と畑の合間に平屋の家が
点々と建てられており、それが東の空の下まで続いているかのような錯覚さえ
起こさせる風景だった。広大な畑で作られた野菜達は、直接ソフィニアに運ば
れて市場に並ぶ。それは、日常のごくごく一部だ。
 そんな日常の一部分に溶け込んだ田園風景を背景にアダム達は東への道をひ
たすら歩いていく。どこまでも続く田園風景。まるで代わり映えしない風景
に、些か飽きてきた頃、行き先に一点の変化が見られた。
 最初それは土埃にしか見えなかった。
 段々近付いてくるにしたがって、それが何なのか、はっきりと見て取れるよ
うになって来た。
 それは、馬だった。
 馬が暴走してこちら――アダム達の方へと駆けて来ているのだ。馬は、かな
り興奮状態に置かれているようだった。一体何があったのか、推察する暇も無
くそれは起こった。

「ブヒヒーーン!」

 近付いてみて始めて分かった事だが、その馬はかなり高齢の葦毛――つまり
白馬だった。
 白馬が暴走して来ている。それも、真っ直ぐアダム達の方へ。
 当然、アダムは慌てた。ランディも慌てた。アダムの特殊能力、“少し先が
見える”能力も今回ばかりは役に立たない。何故なら、先日の無理が祟ってい
まだに能力が回復していないからだ。

「ランディ、よけろおぉぉぉぉ!」
「ひひひひ~~~~~~んん!」

 アダムが叫ぶのと、馬の嘶きと、蹄で何かを蹴飛ばす音はほぼ同時に起こっ
た――。


    ◇ ◆ ◇ ◆


 そのときわたしは、なにか、よかんめいたものをかんじたの。
 おおきなひとの、「よけろ!」というさけびこえとなにかをけとばすおと
は、ほぼどうじにおこったわ。
 そして――いってんのひかりが、みえた――ようなきがしたの。
 わたしにとってそれは、きぼうのひかりになる、そんなきがしたの。
 だからわたしは、いっしゅんとじためをゆうきをもってひらくことにしたの
よ。
 そうしたら、めのまえには――。


    ◇ ◆ ◇ ◆


 あっと叫ぶ暇も有らばこそ、アダムが気が付いた時には既に小箱はアダムの
ポケットから躍り出て蓋が開いていた。そして――小箱の付近には、なにやら
植物の種子に手足が生えたモノ――正に異形としか言い表せられないモノが転
がっていた。
 その植物の種子は徐に両の足で立ち上がると、アダムとその後ろでやっと大
人しくなって草を食んでいる白馬に潤んだ視線を投げかけている。


    ◇ ◆ ◇ ◆


 わたしは、ついにみつけたの。
 わたしのりそうのひと――はくばのおうじさまを。

2007/01/19 23:39 | Comments(0) | TrackBack() | ▲劇(まめ子&アダム&ランディ)
会話劇/アダム(Caku)
PC★アダム ランディ まめ子
NPC★馬、マジエ氏の使い
場所★ソフィニアを出た通り~東への街道

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



知ってるかい?かつて狂気は、神聖なものだった。
神聖なものは、かつては狂気の部類に属したんだよ。


『だからねアダム、あれは神聖なものだ。人間が決して手を出しちゃいけない
ものだよ』

開口一番、日本刀は口のない口でそう言ってきた。
がらがら、がらがら。
間合いをぬって響くのは馬車の轍の音。煩くて和む心地よい音。

『あのおじさんの“本”に関わらない方が、絶対今後の預金口座とアダムの人
生設計のためにいいよ』

がらがら、がらがら。ついでに微かな馬の嘶き。
馬車の荷台にだらしなく両足をかけてだらけたポーズの茶髪の青年は無言だ。
ふと、目をこすり虚空を睨む。
彼の特殊能力『異常眼(イーヴル・アイ)』の調子が戻ったようだ。瞳の瞳孔
が機械的に収斂、拡大して、そしてもとの青と緑の混じった色に戻る。




『ねえアダム』

無言。

『いや、真面目な話なんだけど』

無言。

『ひょっとして新手の嫌がらせ?』

「無言」

一言だけの、無言の返事が音になって返ってきた。




街道沿いに見える風景は、実に穏やかなものだった。
日本刀を片手にだらける青年と、緑の髪の魔族と、その隣によぉぉぉっーく見
れば小さなまめのような(実際豆だが)女の子が馬車の荷台で座り込んでい
る。
ちなみに、あの後しきりに王子様王子様連呼する豆物体をアダムは「二度と言
ったら潰して埋めるぞ」などと脅迫し、またランディは「駄目ですよ、可哀想
じゃないですか」と宥めてまめ子は「私も一緒にお供しますわ」などと呟い
て……今に至る。
シリアスなのだか、コメディだかわからないが、とりあえず今の状況はサイコ
ホラーだと阿呆な確信を持つアダムであった。


途中で拾った馬車の、引く馬の息遣いと引き摺る車輪の音だけが聞こえる。
落ち着いてきた一行は、のどかな街道の風景と心地よい風に吹かれてそれぞれ
思うことに心を馳せていたのである。

「アダムさん、彼の話を聞いてあげましょうよ」

ランディが穏やかに、日本刀の発言を促す。魔族の知り合いは何人かいるが、
ここまで平和主義っつうか円滑な和み属性の奴もそうそう珍しい、と彼は心の
中で呟く。

「彼の話を……」

「聞くまでもないよ、分かってる」


断言。自信、とは違うが明快な信頼と理解を滲ませる発言。口元に浮かぶ笑み
は、やや苦笑げに告げる。

「俺はこいつの見えるものは見えないし、俺ほどこいつは未来の瞬間は見えな
い。
でも、こいつの思ってることぐらい、口で伝えるほど意思疎通できてない訳じ
ゃぁない」

『…………』

過剰なまでの期待と信頼に、もし日本刀に顔があったら思わず照れながらも笑
顔で頷いただろう。
その日本刀に、『運命(シックザール)』にとってアダムは名付け親で危なっ
かしい奴でお人よしで、いつも損得勘定や賭けに弱くて……無二の相棒で親友
で、そして仲間なのだ。
言葉にしなくても伝わるなら、言葉にする意味はないのに、日本刀はアダムを
説得しようとしている。
この件から、手を引け。これは危険すぎると。


どこか嬉しそうに「そうですか」と頷いて微笑むランディを横目で見て、瞳を
閉じるアダム。
彼とて、全ての未来が見えるわけでもない。見えるのは、この瞬間の確実な、
熱力学的な世界だけだから。だから彼は相棒の言葉にいつも信頼を置いてき
た。

『東、太陽の昇る場所にある封印なんて都合が良すぎるよ。
それは神の封印だ、神様の領域の魔法だ。“天使の箱庭”の物語りが事実なら
それはー』

シックザール、運命の剣。
運命の剣は真剣に、アダムを気遣うように喋る。

「……物語?」

ランディが不思議そうに聞き返す。
異界の魔族に、この世界の伝承など知る術もない。と、隣に座っていたまめ子
がぴょーんと飛び込んで、彼の膝の上でちょこんと降りて発言する。

「わたししってるわ、よくきくはなしだもの。ばべるのとう、とおなじほんに
のってたいましめのおはなしでしょ?」

「ああ…有名なお伽噺なんだよ。“奢り高ぶる人間の罪業”の一つとしてね」

アダムが相槌を打つ。
やる気がまったくなさそうな半眼、それ以上は黙ってしまったので、まめ子が
後を引き継ぐ。

「それはね、まだかみさまとてんしが、だいちのそらのうえにいたころのおは
なしなのー…」





人々は、火を手にいれ鋼を溶かし、剣を掲げて金を奪い合った昔昔の話だ。
人はだんだん知恵と武器を手に入れるごとに、本と金塊を集めるごとに高慢に
なっていった。
獣の皮を剥がして加工し、宝石の輝きを身に着けるごとに、人は世界の支配者
となった。
愚かにも、彼らは自分たちが次の神だと主張したのだ。

神の似姿たる人間、なら、次の神は我らではないか。最も神に近しい我らでは
ないか。
そうして、彼らはあらゆる学問の術と魔法を駆使して、一つの本を作り上げ
た。
神の後釜に座るには、まず神の僕を自分たちの足元へひれ伏せるために。

「かみさまのしもべ、みつかいであるてんしさまを、つかまえるためのほん。
てんしさまをね、かいならすためのほんだよ。そうして、むかしのにんげんは
てんしさまをつかまえてしまったの」

次々と本に絡め取られる天使。
しかし、そこまでだった。所詮は似姿である土くれの人間は、やはり神になど
なれはしなかった。
神は怒り、囚われた天使達に黒い雷(イカヅチ)を与えた。冥府の神を退けた
ことのある、裁きの雷だ。



がらがら、がらがら。
馬の嘶き、轍の叫び。のどかな風景、堕ちゆく斜陽。
いつの間にか空は赤く、血を流したような真っ赤な夕暮れ。太陽の暮れる時
刻。

「…本の枷は強力で、神にもそれを解くことはできなかった。誰も囚われた天
使を救うことなんてできなくなった。神は有能だが、万能ではねぇってことだ
な。
天使達は今もどこかで“本”に繋ぎ止められて世界を、人を、神を呪ってるっ
て話」

それが“アレ”なのか。自分の身の回りで存在するとは信じ難い代物だが。
日本刀の言いよどむ気配を見る限り、ランディのあの恐怖の表情を見る限り。
あれは、正真正銘の『天使の箱庭』なのだろう。




赤い光に染まる三人、馬車と馬使いと、風景。
実は屋敷の後、急いで追いかけてきたマジエの召使に「これを」と東の地図を
渡されていた。
なかなかの美人で、茶色の瞳に金髪の好みのタイプだったので、しぶしぶ受け
取った次第である。
赤く塗れそぼる斜陽に使って、気のなさそうに地図を広げる。

大陸地図、そこらで売ってるものの中では意外と細かい方だった。
マジエ氏の財力は、こんな所にまで現れていると気がついて「金持ちの道楽だ
よなぁ」とぼやいた。


目的地はリードリース王国のangs(アンガス)と描いてある。
道は二つだ。
コールベルを経由して、クレイスヘンの魔獣の森を少し経由してサメク、リー
ドリースへ出る方法。
都市なりに行くので、こちらのほうが安全で、しかも物資の補給もしやすく、
道も安全だ。
魔獣の森を通るといってもかする程度だし、そんなに危険はないだろう。
見ないようにしている豆物体はどうなのか不明だが、自分は剣の扱いの心得が
あるし、何より緑の魔族ランディがこちらにいる。アダムは気配とか魔法力は
感じ取れないタイプだが、ランディは相当な使い手であると、短い人生の経験
論が警告している。

もう一つの道は、新エディウスとパウラという紛争地帯を通り、アンガスへ向
かう方法。
こちらは危険極まりないし、自殺志願者でも二の足を踏む冥途の片道列車だ。
町はないし、道は危険だし、そして何よりアダムが避けたい道筋。わざわざこ
ちらを選ぶ必要もない と判断し、二人に意見を伝える。


「俺は行くよ、アンガスまで。
お二人に強制はしないけど、多分ちと長くて。ついでに後味悪い結果になりそ
うだ。
降りるなら、ここらへんがいいと思うぜ?」

『アダムは本当、損得勘定できないんだから……』

日本刀が、そっと溜息をついた。
ばしっと指ではじいて、鞘にある朱色の絹糸をぐるぐる振り回す。

「やだなぁアダムさん、最後の聖戦を友情と汗で乗り切った私達でしょう?今
更水臭…」

「俺の周囲でんな間違い戦争は起こってねぇ。ついでに馬乗りと鼻水の仲だ
ろ」

「はくばのおうじさまをまもるためなら、どこへでもおともしますわっ!」

「白馬の王子様が守られてどーする、ついでに王子発言は禁止、潰して豆乳プ
リンにするぞ」



突っ込んでから、前の重い空気が軽くなったような気がした。
もしかしたら二人が、馬鹿に一人で悩んでいる自分を元気つけようとしてくれ
たのかもしれない。
まだまだ、自分も情けないなと苦笑して、血の光をばら撒く夕日を見つめて笑
った。



「それにな、俺にはジンクスがあるんだよ」

「ジンクスですか?」

ランディが、不思議そうに聞き返す。こいつ天然系か?

「あの馬鹿(イカレ帽子屋)が持ってきた依頼はな、必ず成功するっていう、
な」








ようやく地平に沈むことのできた太陽が、鮮血の残滓を夜空に残して眠りにつ
く。
赤紫の夜空に輝く星は、あらゆる人々を見下ろしている。例えその結末がいか
ようであろうとも、彼らは決して語りはしないだろう。未来を予知すること
は、最大の禁忌故に。
それは、神にすら不可能の方法であるが故に。

誰かの絶叫と怨嗟が、どこかで泣いてる気がした。

2007/01/23 22:16 | Comments(0) | TrackBack() | ▲劇(まめ子&アダム&ランディ)
想定外劇/ランディ(スケミ)
PC:アダム ランディ まめ子
NPC:魔獣の森の獣の皆さん
場所:クレイスヘンの魔獣の森

/////////////////////////////////////////////////



人間が排斥された、魔獣のための森。
魔獣の楽園。
魔獣の安息の地。
魔獣の住処。
魔獣の庭園。
魔獣の、ゆりかご。
それが、クレスヘインの魔獣の森。

そう。
ここが、クレスヘインの魔獣の森。


■■■■■■■■■


雨が、酷い。
森を覆うようなその雨は、否応無しに体温を低下させる。
服を、肌を滴り落ちるその雫と共に、体力も零れ落ちているようだとおもった。


――判断を……誤まったッ!


荒い息で後方を見やる。
ただひたすらに続く暗い木々達。遥か彼方の闇には、小さな赤い輝きが沢山見える。

森近くの村から出発した時間から考えて、まだ夜ではないようだ。
ねばねばと糸引く粘液に包まれた相棒を引きずりながら、アダムは後退する。
その粘液は厚く、厚く巻かれ煌びやかな刀身は少しも見えない。
いつもはおしゃべりであるはずの相棒は、無言だ。
いや、それだけではない。
気配が、感じられないのだ。

「す、すみません~……すいませんアダムさん~~……!」

アダムの隣にいる緑の魔族――ランディが、苦しげな声でいう。
ずずり、ずずりと引きずる右足全体に、アダムの相棒を包む粘液と同じものが付
着している。
こちらはそんなに厚く纏ってはいないが……ランディの顔は蒼白だ。

「まさか、こんな所に聖獣がいるだなんてぇ~~……うっうっ」

目を細めた視線の先には右足を纏う粘液。
薄暗い闇だからこそわかる、微かな光を発している。

「謝るなって。死んでないだけまだマシだ。」

そうは言うものの、この状況は何も変わらない。

■■■■■■■■■


――事の成り行きはこうだ。
依頼のため、リードリース王国へと向かうことになったアダム達。
アンガスに向かう二つの道の内、安全とされるここ――クレイスヘンの魔獣の森を
通る道を選んだ。
森を通るといってもかする程度、そんなに危険はないと思われた。
多少危険だとしても切り抜ける自信はあった。
実際、あと少しで森を抜けることができた。

だが、想定外のことは起こるもので。

まずは聖獣。
位としては下位のもので、アダム一人でも軽くあしらえる程度だ。
しかし、魔族としてのランディにとっては例外らしく。
聖なる力に当てられ、ランディはマトモに動けなくなってしまう。
アダムは一人で聖獣五匹の相手をしなくてはいけなくなった。

そして、粘液。
まったくもって話は飛ぶがアダムの相棒である日本刀、彼には苦手なものがある。
――それは、ガムのような粘質のものだ。
聖獣が放った粘液は、マトモに彼に直撃し、あまりのショックに気絶してしまった。
その粘液はランディにまで直撃し、ますます身動きが取れなくなる。


かくして、ランディは戦闘不能になり、
相棒は沈黙する。


まめ族の少女が奮闘しようとするも、それを押さえ、


そして今、戦局的不利な彼らは逃げているわけだ。


■■■■■■■■■


「ねえ、みて!みて!あそこ!あそこ!あそこがいいわ!」

何かを見つけたのか、アダムの肩にひっついていた豆――まめ族の少女、まめ子が
叫ぶ。

「あそこにこやがあるわ!」
「小屋……!」

確かに、何処か落ち着ける場所での休息が必要だ。
この粘液を、どうにかできるかもしれない。
……しかし、こんな森の中に人が住んでいるような形跡が残されていること自体お
かしい。
何故ならここはクレイスヘンの魔獣の森。

――はたして、そのような場所に人間が安全でいられる場所などあるのだろうか。

「……大丈夫です……あそこの小屋は安全です。それに……」

アダムの心配に気づいたのか、ランディがいう。
その視線はじっと小屋を見ている。

「あの小屋には、結界が張ってあります。魔獣は近寄れない……はず。」
「……お前は、大丈夫か?」

その問いに、ランディは笑顔で答えた。

「はやくはやく!はやくしないと<おいつかれてしまう>わ!」

まめ子がアダムの耳元で叫ぶ。
小さな叫びは、不思議とこの森に響いた。

2007/02/06 22:39 | Comments(0) | TrackBack() | ▲劇(まめ子&アダム&ランディ)
小屋劇/まめ子(葉月瞬)
PC:アダム ランディ まめ子
NPC:獣魔の剣
場所:クレイスヘンの魔獣の森
++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 それは、小さな森小屋だと思ったが意外と大きかった。館と見紛うことはな
いが、樵小屋にしては大きすぎる代物だった。だが、あくまでも森の中に建て
られている事を考えれば、それは森小屋でしかありえなかった。つまり、樵達
の休憩場所として元来使われているはずの、小屋だった。
 その小屋の硬く閉ざされている扉の手前まで何とか足を這って辿り着いた一
行は、扉に手を掛けた。蝶番が錆びたような、歪な擬音を響かせて扉は開け放
たれた。中は暗かった。斜陽の刻限である今の時分では当然の事ではあった
が、それにしても床や家具に降り積もっている白い埃は尋常ではなかった。そ
れは長い間ここを誰も使用した事が無い事を意味していた。
 乾いた木板を踏み鳴らしてアダム達は中へと入った。降り積もった埃に足跡
が残る。

「におうわ」
「ああ。木と埃の匂いがプンプンだ」
「ちがうわよ!」


      *○●*


 ちがう。
 なにかをかんじる。
 なにを? ときかれてもよくわからないけれど、えたいのしれないなにかを
かんじるの。
 なにか、すさまじいちからのようなものを。
 ちからはゆかしたからせまってくるようなきがしたわ。とてつもなくおおき
な、なにか。そんなすごいいあつかんをかんじる。わたしはむねがさざめくの
をおぼえたわ。なにか、いやなかんじ。でも、わたしたちのてきじゃないよう
なきがするの。わたしたちのみかたになってくれるような。そんなきがする。
 わたしはゆうきをふりしぼって、おおきなちからのはっするゆかしたへすべ
りこもうとけついしたわ。そうしたら――


      *○●*


「おい、まめ子、何やってるんだ?」

 十センチほど間近まで近付かないと見えない目で、アダムはまめ子を覗き込
んで言った。先程、使った異常眼の後遺症がもろに出ているのだ。異常眼を使
った後の目はただひたすらに悪くなる視力で物を見るしかないアダムだった。
当然、目つきは自然と悪くなる。その悪くなった目つきで覗き込まれたものだ
から、まめ子は自分の王子様に睨まれたと思い気もそぞろになった。

「……あの、おうじさ――」
「王子様って呼ぶなって言っただろ!」

 まめ子の発言とアダムの怒鳴り声とが見事に重なり合った。ランディはそん
な二人の様子を見て感心するばかりであった。

(まるで、おしどり夫婦のようですね)

 おしどり夫婦の意味を解っていないランディであった。


      *○●*


 わたしは、ゆかしたにきょうだいなちからがねむっていることをひっしにう
ったえたわ。え? だれにですって? きまってるじゃない。おうじさまと、
そのおつきのひとよ。たしか、あだむさまとらんでぃさまとかっていってたわ
ね。
 あだむさまは、おっしゃったわ。「それはたしかか? この、ゆかしたか
ら?」と。
 あだむさまはまだ、はんしんはんぎだったけれど、やってくれたわ。へやの
まんなかのゆかいたを、ちょっとこじあけてみてくれたの。そうしたら、ゆか
したにみじかいかいだんがつづいていて、もうひとつのとびらがみえたわ。わ
たしは、かいだんをいっぽいっぽ、いちだんいちだん、かくじつにおりていっ
たわ。
 わたしがやっととびらのまえまでたどりついたとき、あだむさまとらんでぃ
さまもとびらのまえまでいどうしていたの。わたしは、ふたりのじゃまになら
ないように、もくせいのとびらのくちてあながあいているぶぶんから、なかを
のぞきみてみたわ。
 そうしたら、まっくらななか、けんがじめんにつきささっていて――。


      *○●*


 朽ちかけた扉はアダムが手を触れると錆びた蝶番の軋む音を響かせて、自然
と開かれていった。中に新鮮な空気が入り込んだため、床に降り積もった埃な
どが舞い上がり、さながら霧か霞の如く流れ出て来た。
 室内は暗かった。明かり一つ無い狭い空間で、ほぼ真四角にあつらえてあっ
た。三方を木の壁に囲まれ、一方が扉になっていた。今、アダム達が立ってい
る所だ。壁には明り取りの一つもなく、ここが地下である事を思い知らされ
る。組まれた柱は頑丈で、土圧に耐えられるように作られている。部屋の中央
には一振りの剣が刺さっていた。そこだけ床板が剥がれて、灰色の地面がむき
出しになっている。剣は刀身が幅広で、柄には装飾が一切成されていない簡素
で無骨な剣だった。ブロードソードというには大きすぎて、バスタードソード
というにはやや小さい剣だ。

『我を呼び起こすのは、誰ぞ』

 声は何処からか響いて来た。
 アダム達は何処から響いて来たのか、不確かな場所を特定しようと首を巡ら
す。そうして、一箇所に視線が止まった。そう。剣の上に――。

『何処を見ておる? 我はここぞ。――そう。そうだ。ここだ。我はここにお
る』

 そして、何度か眼を瞬きながら、じっと剣を見詰める。まるで信じられない
というような面持ちだ。

「どうしたの? ふたりとも。つるぎさんのいうことがわからないの?」

 まめ子はいたって不思議な面持ちで二人を見上げる。剣が喋るという事に、
この少女は疑念すら抱いていないようだった。
 場を凍りついた時間が支配した。張り裂けんばかりの静寂が時の流れを凍て
付かせる。
 アダムがやっとの思いで口に出した言葉は、以外にも簡潔だった。

「誰? 剣? 今話したのひょっとしてお前か?」

 その場にいた全員が剣が頷いたように思えた。

『うむ。その通りだ。我は、聖なる獣を殺したものなり。新たなる主よ。我を
手に取れ。我は、汝の力となろう……』
「新たなる主って誰だ? ひょっとして、これのこと?」

 アダムはまめ子を指差した。
 剣は横に頭[かぶり]を振った、かのように思えた。

「じゃあ、こいつか?」

 次にアダムはランディを指差す。
 剣は当然横に頭を振った。
 暫く場を沈黙が支配した。
 そして、ゆっくりと息を吸い込むと、アダムはその場で振り返って扉を閉め
ようとした。

『ああっ! 待て! いや、待って! 我を見捨てないで――』

 剣の絶叫と剣の傍まで近付いていたまめ子を残して、扉は閉じられた。

「今の、何だったんだ?」
「今のは、獣魔の剣ですね」

 アダムが疑問を口にすると、ランディが知っていて当然の如く口を開いた。

「おい、何でお前が剣の名前なんか知ってんだよ」
「いや、何となく。何となくそんな名前なんじゃないかなーなんて……」

 ランディの語尾は虚しく暗闇に溶けて消えた。

2007/02/08 21:57 | Comments(0) | TrackBack() | ▲劇(まめ子&アダム&ランディ)

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