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2024/11/06 09:04 |
会話劇/アダム(Caku)
PC★アダム ランディ まめ子
NPC★馬、マジエ氏の使い
場所★ソフィニアを出た通り~東への街道

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知ってるかい?かつて狂気は、神聖なものだった。
神聖なものは、かつては狂気の部類に属したんだよ。


『だからねアダム、あれは神聖なものだ。人間が決して手を出しちゃいけない
ものだよ』

開口一番、日本刀は口のない口でそう言ってきた。
がらがら、がらがら。
間合いをぬって響くのは馬車の轍の音。煩くて和む心地よい音。

『あのおじさんの“本”に関わらない方が、絶対今後の預金口座とアダムの人
生設計のためにいいよ』

がらがら、がらがら。ついでに微かな馬の嘶き。
馬車の荷台にだらしなく両足をかけてだらけたポーズの茶髪の青年は無言だ。
ふと、目をこすり虚空を睨む。
彼の特殊能力『異常眼(イーヴル・アイ)』の調子が戻ったようだ。瞳の瞳孔
が機械的に収斂、拡大して、そしてもとの青と緑の混じった色に戻る。




『ねえアダム』

無言。

『いや、真面目な話なんだけど』

無言。

『ひょっとして新手の嫌がらせ?』

「無言」

一言だけの、無言の返事が音になって返ってきた。




街道沿いに見える風景は、実に穏やかなものだった。
日本刀を片手にだらける青年と、緑の髪の魔族と、その隣によぉぉぉっーく見
れば小さなまめのような(実際豆だが)女の子が馬車の荷台で座り込んでい
る。
ちなみに、あの後しきりに王子様王子様連呼する豆物体をアダムは「二度と言
ったら潰して埋めるぞ」などと脅迫し、またランディは「駄目ですよ、可哀想
じゃないですか」と宥めてまめ子は「私も一緒にお供しますわ」などと呟い
て……今に至る。
シリアスなのだか、コメディだかわからないが、とりあえず今の状況はサイコ
ホラーだと阿呆な確信を持つアダムであった。


途中で拾った馬車の、引く馬の息遣いと引き摺る車輪の音だけが聞こえる。
落ち着いてきた一行は、のどかな街道の風景と心地よい風に吹かれてそれぞれ
思うことに心を馳せていたのである。

「アダムさん、彼の話を聞いてあげましょうよ」

ランディが穏やかに、日本刀の発言を促す。魔族の知り合いは何人かいるが、
ここまで平和主義っつうか円滑な和み属性の奴もそうそう珍しい、と彼は心の
中で呟く。

「彼の話を……」

「聞くまでもないよ、分かってる」


断言。自信、とは違うが明快な信頼と理解を滲ませる発言。口元に浮かぶ笑み
は、やや苦笑げに告げる。

「俺はこいつの見えるものは見えないし、俺ほどこいつは未来の瞬間は見えな
い。
でも、こいつの思ってることぐらい、口で伝えるほど意思疎通できてない訳じ
ゃぁない」

『…………』

過剰なまでの期待と信頼に、もし日本刀に顔があったら思わず照れながらも笑
顔で頷いただろう。
その日本刀に、『運命(シックザール)』にとってアダムは名付け親で危なっ
かしい奴でお人よしで、いつも損得勘定や賭けに弱くて……無二の相棒で親友
で、そして仲間なのだ。
言葉にしなくても伝わるなら、言葉にする意味はないのに、日本刀はアダムを
説得しようとしている。
この件から、手を引け。これは危険すぎると。


どこか嬉しそうに「そうですか」と頷いて微笑むランディを横目で見て、瞳を
閉じるアダム。
彼とて、全ての未来が見えるわけでもない。見えるのは、この瞬間の確実な、
熱力学的な世界だけだから。だから彼は相棒の言葉にいつも信頼を置いてき
た。

『東、太陽の昇る場所にある封印なんて都合が良すぎるよ。
それは神の封印だ、神様の領域の魔法だ。“天使の箱庭”の物語りが事実なら
それはー』

シックザール、運命の剣。
運命の剣は真剣に、アダムを気遣うように喋る。

「……物語?」

ランディが不思議そうに聞き返す。
異界の魔族に、この世界の伝承など知る術もない。と、隣に座っていたまめ子
がぴょーんと飛び込んで、彼の膝の上でちょこんと降りて発言する。

「わたししってるわ、よくきくはなしだもの。ばべるのとう、とおなじほんに
のってたいましめのおはなしでしょ?」

「ああ…有名なお伽噺なんだよ。“奢り高ぶる人間の罪業”の一つとしてね」

アダムが相槌を打つ。
やる気がまったくなさそうな半眼、それ以上は黙ってしまったので、まめ子が
後を引き継ぐ。

「それはね、まだかみさまとてんしが、だいちのそらのうえにいたころのおは
なしなのー…」





人々は、火を手にいれ鋼を溶かし、剣を掲げて金を奪い合った昔昔の話だ。
人はだんだん知恵と武器を手に入れるごとに、本と金塊を集めるごとに高慢に
なっていった。
獣の皮を剥がして加工し、宝石の輝きを身に着けるごとに、人は世界の支配者
となった。
愚かにも、彼らは自分たちが次の神だと主張したのだ。

神の似姿たる人間、なら、次の神は我らではないか。最も神に近しい我らでは
ないか。
そうして、彼らはあらゆる学問の術と魔法を駆使して、一つの本を作り上げ
た。
神の後釜に座るには、まず神の僕を自分たちの足元へひれ伏せるために。

「かみさまのしもべ、みつかいであるてんしさまを、つかまえるためのほん。
てんしさまをね、かいならすためのほんだよ。そうして、むかしのにんげんは
てんしさまをつかまえてしまったの」

次々と本に絡め取られる天使。
しかし、そこまでだった。所詮は似姿である土くれの人間は、やはり神になど
なれはしなかった。
神は怒り、囚われた天使達に黒い雷(イカヅチ)を与えた。冥府の神を退けた
ことのある、裁きの雷だ。



がらがら、がらがら。
馬の嘶き、轍の叫び。のどかな風景、堕ちゆく斜陽。
いつの間にか空は赤く、血を流したような真っ赤な夕暮れ。太陽の暮れる時
刻。

「…本の枷は強力で、神にもそれを解くことはできなかった。誰も囚われた天
使を救うことなんてできなくなった。神は有能だが、万能ではねぇってことだ
な。
天使達は今もどこかで“本”に繋ぎ止められて世界を、人を、神を呪ってるっ
て話」

それが“アレ”なのか。自分の身の回りで存在するとは信じ難い代物だが。
日本刀の言いよどむ気配を見る限り、ランディのあの恐怖の表情を見る限り。
あれは、正真正銘の『天使の箱庭』なのだろう。




赤い光に染まる三人、馬車と馬使いと、風景。
実は屋敷の後、急いで追いかけてきたマジエの召使に「これを」と東の地図を
渡されていた。
なかなかの美人で、茶色の瞳に金髪の好みのタイプだったので、しぶしぶ受け
取った次第である。
赤く塗れそぼる斜陽に使って、気のなさそうに地図を広げる。

大陸地図、そこらで売ってるものの中では意外と細かい方だった。
マジエ氏の財力は、こんな所にまで現れていると気がついて「金持ちの道楽だ
よなぁ」とぼやいた。


目的地はリードリース王国のangs(アンガス)と描いてある。
道は二つだ。
コールベルを経由して、クレイスヘンの魔獣の森を少し経由してサメク、リー
ドリースへ出る方法。
都市なりに行くので、こちらのほうが安全で、しかも物資の補給もしやすく、
道も安全だ。
魔獣の森を通るといってもかする程度だし、そんなに危険はないだろう。
見ないようにしている豆物体はどうなのか不明だが、自分は剣の扱いの心得が
あるし、何より緑の魔族ランディがこちらにいる。アダムは気配とか魔法力は
感じ取れないタイプだが、ランディは相当な使い手であると、短い人生の経験
論が警告している。

もう一つの道は、新エディウスとパウラという紛争地帯を通り、アンガスへ向
かう方法。
こちらは危険極まりないし、自殺志願者でも二の足を踏む冥途の片道列車だ。
町はないし、道は危険だし、そして何よりアダムが避けたい道筋。わざわざこ
ちらを選ぶ必要もない と判断し、二人に意見を伝える。


「俺は行くよ、アンガスまで。
お二人に強制はしないけど、多分ちと長くて。ついでに後味悪い結果になりそ
うだ。
降りるなら、ここらへんがいいと思うぜ?」

『アダムは本当、損得勘定できないんだから……』

日本刀が、そっと溜息をついた。
ばしっと指ではじいて、鞘にある朱色の絹糸をぐるぐる振り回す。

「やだなぁアダムさん、最後の聖戦を友情と汗で乗り切った私達でしょう?今
更水臭…」

「俺の周囲でんな間違い戦争は起こってねぇ。ついでに馬乗りと鼻水の仲だ
ろ」

「はくばのおうじさまをまもるためなら、どこへでもおともしますわっ!」

「白馬の王子様が守られてどーする、ついでに王子発言は禁止、潰して豆乳プ
リンにするぞ」



突っ込んでから、前の重い空気が軽くなったような気がした。
もしかしたら二人が、馬鹿に一人で悩んでいる自分を元気つけようとしてくれ
たのかもしれない。
まだまだ、自分も情けないなと苦笑して、血の光をばら撒く夕日を見つめて笑
った。



「それにな、俺にはジンクスがあるんだよ」

「ジンクスですか?」

ランディが、不思議そうに聞き返す。こいつ天然系か?

「あの馬鹿(イカレ帽子屋)が持ってきた依頼はな、必ず成功するっていう、
な」








ようやく地平に沈むことのできた太陽が、鮮血の残滓を夜空に残して眠りにつ
く。
赤紫の夜空に輝く星は、あらゆる人々を見下ろしている。例えその結末がいか
ようであろうとも、彼らは決して語りはしないだろう。未来を予知すること
は、最大の禁忌故に。
それは、神にすら不可能の方法であるが故に。

誰かの絶叫と怨嗟が、どこかで泣いてる気がした。
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2007/01/23 22:16 | Comments(0) | TrackBack() | ▲劇(まめ子&アダム&ランディ)

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