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2025/03/10 07:32 |
東方見聞劇/まめ子(葉月瞬)
PC:まめ子、アダム、ランディ
NPC:シックザール
場所:ソフィニア――マジエ邸~東方へ向かう街道
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 “桜”と聞いてまず思い浮かんだのは、“東方”の二文字だった。

「じゃあさ、東の方へでも行って見ようぜ」

 アダムの無作為な一言がきっかけだった。

「それじゃあ、東方見聞録とでも洒落込みましょうか」

 ランディは、その尻馬に乗っかっただけだった。
 まめ子は何も言えなかった――。

 思い立ったが吉日、アダム達の行動は正に風の如しだった。その後ろから掛
けられたマジエ氏の言葉など、今正に部屋を後にしようとしている、数多の剣
に飾られたアダムの背を貫通する事は出来なかった。その隣に居る、緑髪の魔
族の耳にも届かなかった。

「君達! 番の在り処は既にアキラカ――」

 その言葉が言い終わるか終わらないかの内に、木製の何の変哲も無い扉は閉
められたのだった――。


    ◇ ◆ ◇ ◆


 アダム達がマジエ邸を後にした時、まめ子は今だ小箱の中であった。
 一行の向かう先は、既に決定しているようである。

――東方へ。

 向かう先には何が待ち受けているのか。アダムもそしてランディも期待と好
奇心で、胸の動悸を抑える事が出来なかった。
 石畳の上を歩き出したその時、ランディが突然アダムに声を掛けた。

「ちょっと待って下さい。アダムさん。まだ紹介していない方がいるんじゃあ
りませんか?」

 アダムは疑問に思い振り向いた。いったい誰の事だと言おうとして、心当た
りが有ったらしくやおら腰にぶら下げた日本刀を引き抜くと、そっとランディ
に向けて正眼に構えた。

「ひょっとして、こいつのことか?」

 こいつ――そう紹介された運命[シックザール]は憮然として答えた。

『こいつ、とはご挨拶だなぁ。アダム。もっと他に言い方があるだロ★』
「うるさい! お前なんかなぁ、“こいつ”でいいんだよ! 他にどんな言い
方があるっていうんだよ」

 暫くランディは楽しそうにシックザールとアダムの掛け合いを眺めていた
が、徐に口を開くとアダムの予想を大きく裏切った。

「いえいえ。もう既にシックザール様の事は紹介済みですよ。それより
も……」

 ランディは値踏みするような眼差しをアダムの、ズボンのポケットに注ぎ込
む。ランディには薄々解っていた。アダムが隠し持っているであろう小箱の中
身を。そして、その小箱の中身に興味を覚えていた。

「小箱の中身……?」

 アダムは嫌な予感を通り越して、戦慄をすら感じていた。この小箱を空けた
ら、何が飛び出てくるか。一瞬だけ見えたあの植物の種子の様なもの――どう
しても生物には見えないのに手足が付いている不可思議なもの――が飛び出て
くるであろう事は明白だった。そして、それが自分の平穏な生活を脅かすであ
ろう事を薄々感付いていたのだ。だから今の今まで、必死に小箱の蓋が開かな
いように守っていたのだ。
 それが――今正に脅かされようとしている。

「な、何で今そんな事を気にするんだよ」

 声が裏返っているのは動揺しているからだ。アダムは必死に小箱を死守しよ
うとポケットに手を当てた。

「でも、だって、可哀想じゃないですか。その……中の人が」
「中に人なんか居ない!」

 ランディの言葉に、全力で否定するアダム。「それよりも」と、東方へ向か
う街道への道を急いで突き進む。ランディが慌てて追いかけて横に並びなが
ら、さらに会話を続けようと試みる。

「あ、ちょっと待って下さいよぅ、アダムさん。紹介して下さいよ、その小箱
の中身」
「うるせぇ! 今はそんな事より、依頼だよ! 依頼! 東方へ行かなきゃ、
だろ!」

 何とか小箱を開けるのを、回避する努力をしてみるアダム。
 だが、その努力も東方へ向かう街道へ一歩足を踏み出した途端、霧散するこ
とになる――。

 辻を四つ程曲がり、市場通りの裏手を抜けて東門の方角へと進路を取るアダ
ム達。東の外壁門は貴族達の屋敷がある区画から東南の方角にあった。
 外壁門を守る兵士に一礼し、ギルドカードを提示して二、三今回の依頼につ
いての説明をしてから外壁門を潜るアダム達。兵士の許可を得なければ、外壁
門を潜る事は出来ないのだ。それは、外から内へ入る時も同じだ。ギルドカー
ドは一種の身分証明書みたいなものだから、提示するだけで外壁門を通しても
らえる。今回の依頼について話したのは、兵士が好奇心から尋ねて来たから
だ。愛想を振りまくのも、ギルドハンターとしての勤めである。
 門を潜ると、長閑な田園風景が広がっていた。畑と畑の合間に平屋の家が
点々と建てられており、それが東の空の下まで続いているかのような錯覚さえ
起こさせる風景だった。広大な畑で作られた野菜達は、直接ソフィニアに運ば
れて市場に並ぶ。それは、日常のごくごく一部だ。
 そんな日常の一部分に溶け込んだ田園風景を背景にアダム達は東への道をひ
たすら歩いていく。どこまでも続く田園風景。まるで代わり映えしない風景
に、些か飽きてきた頃、行き先に一点の変化が見られた。
 最初それは土埃にしか見えなかった。
 段々近付いてくるにしたがって、それが何なのか、はっきりと見て取れるよ
うになって来た。
 それは、馬だった。
 馬が暴走してこちら――アダム達の方へと駆けて来ているのだ。馬は、かな
り興奮状態に置かれているようだった。一体何があったのか、推察する暇も無
くそれは起こった。

「ブヒヒーーン!」

 近付いてみて始めて分かった事だが、その馬はかなり高齢の葦毛――つまり
白馬だった。
 白馬が暴走して来ている。それも、真っ直ぐアダム達の方へ。
 当然、アダムは慌てた。ランディも慌てた。アダムの特殊能力、“少し先が
見える”能力も今回ばかりは役に立たない。何故なら、先日の無理が祟ってい
まだに能力が回復していないからだ。

「ランディ、よけろおぉぉぉぉ!」
「ひひひひ~~~~~~んん!」

 アダムが叫ぶのと、馬の嘶きと、蹄で何かを蹴飛ばす音はほぼ同時に起こっ
た――。


    ◇ ◆ ◇ ◆


 そのときわたしは、なにか、よかんめいたものをかんじたの。
 おおきなひとの、「よけろ!」というさけびこえとなにかをけとばすおと
は、ほぼどうじにおこったわ。
 そして――いってんのひかりが、みえた――ようなきがしたの。
 わたしにとってそれは、きぼうのひかりになる、そんなきがしたの。
 だからわたしは、いっしゅんとじためをゆうきをもってひらくことにしたの
よ。
 そうしたら、めのまえには――。


    ◇ ◆ ◇ ◆


 あっと叫ぶ暇も有らばこそ、アダムが気が付いた時には既に小箱はアダムの
ポケットから躍り出て蓋が開いていた。そして――小箱の付近には、なにやら
植物の種子に手足が生えたモノ――正に異形としか言い表せられないモノが転
がっていた。
 その植物の種子は徐に両の足で立ち上がると、アダムとその後ろでやっと大
人しくなって草を食んでいる白馬に潤んだ視線を投げかけている。


    ◇ ◆ ◇ ◆


 わたしは、ついにみつけたの。
 わたしのりそうのひと――はくばのおうじさまを。
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2007/01/19 23:39 | Comments(0) | TrackBack() | ▲劇(まめ子&アダム&ランディ)

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