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2024/05/19 06:38 |
小屋劇/まめ子(葉月瞬)
PC:アダム ランディ まめ子
NPC:獣魔の剣
場所:クレイスヘンの魔獣の森
++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 それは、小さな森小屋だと思ったが意外と大きかった。館と見紛うことはな
いが、樵小屋にしては大きすぎる代物だった。だが、あくまでも森の中に建て
られている事を考えれば、それは森小屋でしかありえなかった。つまり、樵達
の休憩場所として元来使われているはずの、小屋だった。
 その小屋の硬く閉ざされている扉の手前まで何とか足を這って辿り着いた一
行は、扉に手を掛けた。蝶番が錆びたような、歪な擬音を響かせて扉は開け放
たれた。中は暗かった。斜陽の刻限である今の時分では当然の事ではあった
が、それにしても床や家具に降り積もっている白い埃は尋常ではなかった。そ
れは長い間ここを誰も使用した事が無い事を意味していた。
 乾いた木板を踏み鳴らしてアダム達は中へと入った。降り積もった埃に足跡
が残る。

「におうわ」
「ああ。木と埃の匂いがプンプンだ」
「ちがうわよ!」


      *○●*


 ちがう。
 なにかをかんじる。
 なにを? ときかれてもよくわからないけれど、えたいのしれないなにかを
かんじるの。
 なにか、すさまじいちからのようなものを。
 ちからはゆかしたからせまってくるようなきがしたわ。とてつもなくおおき
な、なにか。そんなすごいいあつかんをかんじる。わたしはむねがさざめくの
をおぼえたわ。なにか、いやなかんじ。でも、わたしたちのてきじゃないよう
なきがするの。わたしたちのみかたになってくれるような。そんなきがする。
 わたしはゆうきをふりしぼって、おおきなちからのはっするゆかしたへすべ
りこもうとけついしたわ。そうしたら――


      *○●*


「おい、まめ子、何やってるんだ?」

 十センチほど間近まで近付かないと見えない目で、アダムはまめ子を覗き込
んで言った。先程、使った異常眼の後遺症がもろに出ているのだ。異常眼を使
った後の目はただひたすらに悪くなる視力で物を見るしかないアダムだった。
当然、目つきは自然と悪くなる。その悪くなった目つきで覗き込まれたものだ
から、まめ子は自分の王子様に睨まれたと思い気もそぞろになった。

「……あの、おうじさ――」
「王子様って呼ぶなって言っただろ!」

 まめ子の発言とアダムの怒鳴り声とが見事に重なり合った。ランディはそん
な二人の様子を見て感心するばかりであった。

(まるで、おしどり夫婦のようですね)

 おしどり夫婦の意味を解っていないランディであった。


      *○●*


 わたしは、ゆかしたにきょうだいなちからがねむっていることをひっしにう
ったえたわ。え? だれにですって? きまってるじゃない。おうじさまと、
そのおつきのひとよ。たしか、あだむさまとらんでぃさまとかっていってたわ
ね。
 あだむさまは、おっしゃったわ。「それはたしかか? この、ゆかしたか
ら?」と。
 あだむさまはまだ、はんしんはんぎだったけれど、やってくれたわ。へやの
まんなかのゆかいたを、ちょっとこじあけてみてくれたの。そうしたら、ゆか
したにみじかいかいだんがつづいていて、もうひとつのとびらがみえたわ。わ
たしは、かいだんをいっぽいっぽ、いちだんいちだん、かくじつにおりていっ
たわ。
 わたしがやっととびらのまえまでたどりついたとき、あだむさまとらんでぃ
さまもとびらのまえまでいどうしていたの。わたしは、ふたりのじゃまになら
ないように、もくせいのとびらのくちてあながあいているぶぶんから、なかを
のぞきみてみたわ。
 そうしたら、まっくらななか、けんがじめんにつきささっていて――。


      *○●*


 朽ちかけた扉はアダムが手を触れると錆びた蝶番の軋む音を響かせて、自然
と開かれていった。中に新鮮な空気が入り込んだため、床に降り積もった埃な
どが舞い上がり、さながら霧か霞の如く流れ出て来た。
 室内は暗かった。明かり一つ無い狭い空間で、ほぼ真四角にあつらえてあっ
た。三方を木の壁に囲まれ、一方が扉になっていた。今、アダム達が立ってい
る所だ。壁には明り取りの一つもなく、ここが地下である事を思い知らされ
る。組まれた柱は頑丈で、土圧に耐えられるように作られている。部屋の中央
には一振りの剣が刺さっていた。そこだけ床板が剥がれて、灰色の地面がむき
出しになっている。剣は刀身が幅広で、柄には装飾が一切成されていない簡素
で無骨な剣だった。ブロードソードというには大きすぎて、バスタードソード
というにはやや小さい剣だ。

『我を呼び起こすのは、誰ぞ』

 声は何処からか響いて来た。
 アダム達は何処から響いて来たのか、不確かな場所を特定しようと首を巡ら
す。そうして、一箇所に視線が止まった。そう。剣の上に――。

『何処を見ておる? 我はここぞ。――そう。そうだ。ここだ。我はここにお
る』

 そして、何度か眼を瞬きながら、じっと剣を見詰める。まるで信じられない
というような面持ちだ。

「どうしたの? ふたりとも。つるぎさんのいうことがわからないの?」

 まめ子はいたって不思議な面持ちで二人を見上げる。剣が喋るという事に、
この少女は疑念すら抱いていないようだった。
 場を凍りついた時間が支配した。張り裂けんばかりの静寂が時の流れを凍て
付かせる。
 アダムがやっとの思いで口に出した言葉は、以外にも簡潔だった。

「誰? 剣? 今話したのひょっとしてお前か?」

 その場にいた全員が剣が頷いたように思えた。

『うむ。その通りだ。我は、聖なる獣を殺したものなり。新たなる主よ。我を
手に取れ。我は、汝の力となろう……』
「新たなる主って誰だ? ひょっとして、これのこと?」

 アダムはまめ子を指差した。
 剣は横に頭[かぶり]を振った、かのように思えた。

「じゃあ、こいつか?」

 次にアダムはランディを指差す。
 剣は当然横に頭を振った。
 暫く場を沈黙が支配した。
 そして、ゆっくりと息を吸い込むと、アダムはその場で振り返って扉を閉め
ようとした。

『ああっ! 待て! いや、待って! 我を見捨てないで――』

 剣の絶叫と剣の傍まで近付いていたまめ子を残して、扉は閉じられた。

「今の、何だったんだ?」
「今のは、獣魔の剣ですね」

 アダムが疑問を口にすると、ランディが知っていて当然の如く口を開いた。

「おい、何でお前が剣の名前なんか知ってんだよ」
「いや、何となく。何となくそんな名前なんじゃないかなーなんて……」

 ランディの語尾は虚しく暗闇に溶けて消えた。
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2007/02/08 21:57 | Comments(0) | TrackBack() | ▲劇(まめ子&アダム&ランディ)

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