キャスト:イェルヒ
NPC:イェルヒの先生
場所:宿屋
―――――――――――――――
その香りに、人は2種類の反応を示す。落ち着くか、それとも圧迫感を感じるのか。その二つに一つだ。
その狭い部屋には、古い書物だけが放つ匂いが染み付いていた。その部屋には数十冊ほどの本があるだけであるから、普段から本を持ち込んでいるのだろう。
その空間の中に、書物を読んでいる、少し小柄な男性がいる。けだるげに、頬杖をつきながら、ただ、ひたすら紙面につづられた文字に目だけを走らせていた。
まずは、その男性の耳に目が行くことだろう。長く、先の尖った耳。エルフ種族の一番の特徴でもある。そして、もう一つの特徴である容姿も、秀麗と呼べる顔立ちであった。
次に、彼についての特徴は、前髪であった。ザックリと短めに切られているのだが、妙に似合ってもいるのだから不思議なものである。
ノック音がした。だが、エルフの青年は、その音に反応もしない。そして、もう一度、同じ音が繰り返され、今度は間髪いれず、ドアが開けられた。
そこで、初めて、エルフの青年は本から視線を外した。
そこには、一枚の4つ折りにされた紙を片手に持った老年の男性が立っていた。頭髪も、長く蓄えている髭も灰色に染まってはいるものの、眼鏡越しから見えるその目の鋭さからは、確実に現役であることを物語っている。
「……先生でしたか」
先生と呼ばれた人物は、ドアのノックにも反応しなかったことに関しては、さほど気にも留めてもいないようであった。
そして、持っていた紙を突き出す。
「イェルヒ君。君宛に書類だ」
眉をひそめながらも、その差し出された紙を受け取る。
「何の書類です? 特待に関すること……しか心当たりはありませんが。
……しかし、この時期にはまだ少し早くないですか?」
「勘が鋭いではないか。特待に関することだよ」
その渡された書類を見て、イェルヒの顔つきは苦々しいものへと変わっていく。
「……何の冗談ですかね? コレ」
「冗談でそんな高価な紙を無駄に使わん。そこに書いてある通りだよ。
特待の条件に、『ボランティア』が必須になった。」
イェルヒは、再びその紙を元の通りに折りたたみこみ、ぴしりと机に軽く叩き付けるように置いた。
「……なんで魔法技術を指針とする学び舎である魔術学院の、優秀人材確保の制度にボランティアが必要なんですか」
「ちゃんと読んでないのか? 人格優秀の定義の物差しだよ」
老人の顔色や口調は、この部屋に入った当初から全く変わらない。どうやら、そういう性格らしい。
「読みましたよ。なんでこんなアホらしいことがまかり通るのか、ということをお聞きしたいんですよ、私は」
「私に聞かれても困るな。上の決めたことだよ。
それに、いくつかの授業で、ボランティア活動は奨励している。それを一つも取得していないのはオマエくらいだ」
その言葉に、一瞬イェルヒは言葉に詰まり、更なる渋面が作られていく。
「……私はフィールドワークが嫌いなんですよ。あと、タダ働きも」
「いいから、とっととボランティアの一つぐらいこなして来い。事務に問い合わせれば、いくらでもあるだろうよ。
嫌なら故郷に帰るんだな。特待無しで授業費を払える身分でもないのだろう」
そう言って、老人は背を向け、ドアのノブに手をかける。
が、その動きがふと止まり、ちらりとだけ振り返り、言葉を付け足した。
「そうそう。
ずっと出歩かないイェルヒ君のことだから、知らないとは思うが。
最近、真昼間にも堂々とした連続殺人事件があるみたいだからな。まぁ、死なん程度にでも頑張ってくれ。
ホラ。死なれたら、ナンだ。後見人代わりである私の手間がかかるし、外聞も悪いからな。
ま、程ほどにな」
そう言って、老人は部屋を出た。
その際、ドアの閉まる音が、無駄に響いた。
イェルヒは、机に置かれた書類の端を掴む。
「クソジジィが」
イェルヒは、小さくそう呟くと同時に、その書類に火がついた。手からその紙は離され、空中にて、それは燃え広がり、床に着く前には炭と化し、崩れ落ちた。
NPC:イェルヒの先生
場所:宿屋
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その香りに、人は2種類の反応を示す。落ち着くか、それとも圧迫感を感じるのか。その二つに一つだ。
その狭い部屋には、古い書物だけが放つ匂いが染み付いていた。その部屋には数十冊ほどの本があるだけであるから、普段から本を持ち込んでいるのだろう。
その空間の中に、書物を読んでいる、少し小柄な男性がいる。けだるげに、頬杖をつきながら、ただ、ひたすら紙面につづられた文字に目だけを走らせていた。
まずは、その男性の耳に目が行くことだろう。長く、先の尖った耳。エルフ種族の一番の特徴でもある。そして、もう一つの特徴である容姿も、秀麗と呼べる顔立ちであった。
次に、彼についての特徴は、前髪であった。ザックリと短めに切られているのだが、妙に似合ってもいるのだから不思議なものである。
ノック音がした。だが、エルフの青年は、その音に反応もしない。そして、もう一度、同じ音が繰り返され、今度は間髪いれず、ドアが開けられた。
そこで、初めて、エルフの青年は本から視線を外した。
そこには、一枚の4つ折りにされた紙を片手に持った老年の男性が立っていた。頭髪も、長く蓄えている髭も灰色に染まってはいるものの、眼鏡越しから見えるその目の鋭さからは、確実に現役であることを物語っている。
「……先生でしたか」
先生と呼ばれた人物は、ドアのノックにも反応しなかったことに関しては、さほど気にも留めてもいないようであった。
そして、持っていた紙を突き出す。
「イェルヒ君。君宛に書類だ」
眉をひそめながらも、その差し出された紙を受け取る。
「何の書類です? 特待に関すること……しか心当たりはありませんが。
……しかし、この時期にはまだ少し早くないですか?」
「勘が鋭いではないか。特待に関することだよ」
その渡された書類を見て、イェルヒの顔つきは苦々しいものへと変わっていく。
「……何の冗談ですかね? コレ」
「冗談でそんな高価な紙を無駄に使わん。そこに書いてある通りだよ。
特待の条件に、『ボランティア』が必須になった。」
イェルヒは、再びその紙を元の通りに折りたたみこみ、ぴしりと机に軽く叩き付けるように置いた。
「……なんで魔法技術を指針とする学び舎である魔術学院の、優秀人材確保の制度にボランティアが必要なんですか」
「ちゃんと読んでないのか? 人格優秀の定義の物差しだよ」
老人の顔色や口調は、この部屋に入った当初から全く変わらない。どうやら、そういう性格らしい。
「読みましたよ。なんでこんなアホらしいことがまかり通るのか、ということをお聞きしたいんですよ、私は」
「私に聞かれても困るな。上の決めたことだよ。
それに、いくつかの授業で、ボランティア活動は奨励している。それを一つも取得していないのはオマエくらいだ」
その言葉に、一瞬イェルヒは言葉に詰まり、更なる渋面が作られていく。
「……私はフィールドワークが嫌いなんですよ。あと、タダ働きも」
「いいから、とっととボランティアの一つぐらいこなして来い。事務に問い合わせれば、いくらでもあるだろうよ。
嫌なら故郷に帰るんだな。特待無しで授業費を払える身分でもないのだろう」
そう言って、老人は背を向け、ドアのノブに手をかける。
が、その動きがふと止まり、ちらりとだけ振り返り、言葉を付け足した。
「そうそう。
ずっと出歩かないイェルヒ君のことだから、知らないとは思うが。
最近、真昼間にも堂々とした連続殺人事件があるみたいだからな。まぁ、死なん程度にでも頑張ってくれ。
ホラ。死なれたら、ナンだ。後見人代わりである私の手間がかかるし、外聞も悪いからな。
ま、程ほどにな」
そう言って、老人は部屋を出た。
その際、ドアの閉まる音が、無駄に響いた。
イェルヒは、机に置かれた書類の端を掴む。
「クソジジィが」
イェルヒは、小さくそう呟くと同時に、その書類に火がついた。手からその紙は離され、空中にて、それは燃え広がり、床に着く前には炭と化し、崩れ落ちた。
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