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2024/05/06 05:23 |
イェルヒ&ジュリア1/イェルヒ(フンヅワーラー)
キャスト:イェルヒ
NPC:イェルヒの先生
場所:宿屋
―――――――――――――――

 その香りに、人は2種類の反応を示す。落ち着くか、それとも圧迫感を感じるのか。その二つに一つだ。
 その狭い部屋には、古い書物だけが放つ匂いが染み付いていた。その部屋には数十冊ほどの本があるだけであるから、普段から本を持ち込んでいるのだろう。
 その空間の中に、書物を読んでいる、少し小柄な男性がいる。けだるげに、頬杖をつきながら、ただ、ひたすら紙面につづられた文字に目だけを走らせていた。
 まずは、その男性の耳に目が行くことだろう。長く、先の尖った耳。エルフ種族の一番の特徴でもある。そして、もう一つの特徴である容姿も、秀麗と呼べる顔立ちであった。
 次に、彼についての特徴は、前髪であった。ザックリと短めに切られているのだが、妙に似合ってもいるのだから不思議なものである。

 ノック音がした。だが、エルフの青年は、その音に反応もしない。そして、もう一度、同じ音が繰り返され、今度は間髪いれず、ドアが開けられた。
 そこで、初めて、エルフの青年は本から視線を外した。
 そこには、一枚の4つ折りにされた紙を片手に持った老年の男性が立っていた。頭髪も、長く蓄えている髭も灰色に染まってはいるものの、眼鏡越しから見えるその目の鋭さからは、確実に現役であることを物語っている。

「……先生でしたか」

 先生と呼ばれた人物は、ドアのノックにも反応しなかったことに関しては、さほど気にも留めてもいないようであった。
 そして、持っていた紙を突き出す。

「イェルヒ君。君宛に書類だ」

 眉をひそめながらも、その差し出された紙を受け取る。

「何の書類です? 特待に関すること……しか心当たりはありませんが。
 ……しかし、この時期にはまだ少し早くないですか?」

「勘が鋭いではないか。特待に関することだよ」

 その渡された書類を見て、イェルヒの顔つきは苦々しいものへと変わっていく。

「……何の冗談ですかね? コレ」

「冗談でそんな高価な紙を無駄に使わん。そこに書いてある通りだよ。
 特待の条件に、『ボランティア』が必須になった。」

 イェルヒは、再びその紙を元の通りに折りたたみこみ、ぴしりと机に軽く叩き付けるように置いた。

「……なんで魔法技術を指針とする学び舎である魔術学院の、優秀人材確保の制度にボランティアが必要なんですか」

「ちゃんと読んでないのか? 人格優秀の定義の物差しだよ」

 老人の顔色や口調は、この部屋に入った当初から全く変わらない。どうやら、そういう性格らしい。

「読みましたよ。なんでこんなアホらしいことがまかり通るのか、ということをお聞きしたいんですよ、私は」

「私に聞かれても困るな。上の決めたことだよ。
 それに、いくつかの授業で、ボランティア活動は奨励している。それを一つも取得していないのはオマエくらいだ」

 その言葉に、一瞬イェルヒは言葉に詰まり、更なる渋面が作られていく。

「……私はフィールドワークが嫌いなんですよ。あと、タダ働きも」

「いいから、とっととボランティアの一つぐらいこなして来い。事務に問い合わせれば、いくらでもあるだろうよ。
 嫌なら故郷に帰るんだな。特待無しで授業費を払える身分でもないのだろう」

 そう言って、老人は背を向け、ドアのノブに手をかける。
 が、その動きがふと止まり、ちらりとだけ振り返り、言葉を付け足した。

「そうそう。
 ずっと出歩かないイェルヒ君のことだから、知らないとは思うが。
 最近、真昼間にも堂々とした連続殺人事件があるみたいだからな。まぁ、死なん程度にでも頑張ってくれ。
 ホラ。死なれたら、ナンだ。後見人代わりである私の手間がかかるし、外聞も悪いからな。
 ま、程ほどにな」

 そう言って、老人は部屋を出た。
 その際、ドアの閉まる音が、無駄に響いた。

 イェルヒは、机に置かれた書類の端を掴む。

「クソジジィが」

 イェルヒは、小さくそう呟くと同時に、その書類に火がついた。手からその紙は離され、空中にて、それは燃え広がり、床に着く前には炭と化し、崩れ落ちた。

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2007/02/10 16:40 | Comments(0) | TrackBack() | ●もやしーず

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