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2024/05/17 00:15 |
浅葱の杖――其の十五/ファング(熊猫)
キャスト:トノヤ・月見・ファング
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/炭鉱の中
―――――――――――――――

今夜で2泊目になる宿は、相変わらず騒々しかった。

それは月見のテンションが下がるどころか、上がる一方だったからという
だけではなく、単に泊り客が多いというだけである。

観光業も盛んなヴァルカンでは、郊外でもない限り、こういう光景は
さほど珍しいものではない。

そんな騒がしい食堂の一画で、4人は夕食をとっている。

「なぁ、あのアイボリーっていう人、『ンルディはオヤジが嫌う者が作った』
とか言ってたよな」

野菜と肉がふんだんに入った煮込みスープをすすって、ファングは
なんとなく向かいに座っているトノヤに言った。

彼は字が読めない(というか、文字自体初めて見た顔をしていた)らしく、
ワッチにメニューを読み上げてもらっていた。
月見も同様で、身を乗り出してはいちいち騒いでいる。

「この剣を作ったのって…あの『暴れ山羊』の親父だろ?お前のオヤジさん、
あのジジィになんか怨みでもあんのかねぇ?」
「うーん…」
「このあたりは前菜だな。俺野菜嫌いだから読んでねぇ」

ファングが言葉に詰まると、月見が振り返った。

「詐欺られたとかッ!」
「俺にしてみればこのパーティが詐欺っぽいぞ。なんか」
「ひでぇなトノヤー」
「ここから先は肉料理だぜ…えーっと『鶏肉の山賊焼き』と」

ま、とりあえず、と話を切ってスプーンを置く。

「明日はそのガラス職人の所に行って、話をつけてから『暴れ山羊』で
オヤジのことを聞けばいーよ」
「何を使ってそこまで行くんですかファング君ッ」

月見が半分タックルするようにして訊いてくる。そのせいで横手の壁に
思い切り頭をぶつけながらも、手を振って答えてやる。

「あー…列車で行けば早いんだけど、路銀ないから合同馬車かな…」
「馬車!」
「デザートは…」

何がそんなに嬉しいのか、嬉々とした表情で目を輝かせる月見。
ワッチが面倒見よく二人にメニューの説明をしているが、もはや誰も
聞いていない。

「今日はなんか超忙しかったからなー…早く寝ないと明日起きられなくなるぞ
…てゆーか既に眠ぃけど」

熱気にうかされているような気分で、テーブルに突っ伏そうとすると、
テーブルの向こうからトノヤに肩を叩かれた。

「何言ってんだよお前、夜はこれからだぜ?」
「――はい?」

目の前に、巨大なジョッキが突き出される。なみなみと液体の入ったそれを、
なんとなく受取ってしまう――

「かんぱーいっ」
「カンパーイ☆」
「エ――!?」

酒盛りは夜更けまで続いた。
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2007/03/09 01:02 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖――其の十六/月見(スケミ)
キャスト:トノヤ・月見・ファング
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/炭鉱の中

……………………………………………

 空はどこまでも青く、透き通っていた。
 そんな青空の下、彼らの気持ちも……。

「……一体誰だ、馬車なんかで行こうって言ったチャレンジャーは……」
「オマエの確率に10万ボルト。」
「明らかにファングだとオイラは思う。」
「バンダナ殿ってばチャレン精神モリモリッ…………うぇっぷ。」


「吐くな。頼むから呑み込んでても耐えてくれ。いや、本当、マジで勘弁。」


 不吉な音を漏らした月見の頭を鷲掴み、自分とは反対方向に向けながら言う。そう
いえば昨日、乗り合い馬車で行こうと言ったのは自分だったかもしれない、そんな事
を思いながらひっそりとファングは溜め息をついた。
 溜め息一つするのにも、頭の中がぐわんぐわんと揺れるのが憎らしい。
 
 天気は快晴、気候も上々。そんなお出かけ日和の日、ヴァルカンの街道を少しくた
びれた馬車が進んでいた。大人数で乗り合うことで安い運賃で乗れる乗り合い馬車の
中は今日も所狭しと人が座っていた。ファング達の他にも旅人や商人、親子連れなど
が乗っており、彼等は一様にファング達の方を不審そうにちらちら見ている。
 確かに彼等の出で立ちや組み合わせ(筋肉・トレジャーハンター・サングラス・ふ
んどし)は異様ではあるが、原因はその他にあった。
 小刻みな揺れから時々「がたたんっ」と馬車が大きく揺れる。乗客の殆どは少し驚
きすらするものの、もう慣れてしまったようで動じない。小さな子供の歓声が無邪気
に響く。
 子供の無邪気な歓声は、今のファング達にとっては悪魔のこう笑だ。

 ヴァルカンの街道は火山や岩場が多いこともあり、大きな砂利がしきつめられた道
である。なので時おり大きな砂利につまづくとこうして馬車が大きく揺れることもあ
るのだが……。
 一通り揺れがおさまったころ、ファング達は口を抑えながら何かに耐えていた。そ
の顔は皆、真っ青である。その行動に馬車の中の人々が一斉に不審の色を濃くした。
 
「まさか二日酔いになるなんてな……あはははは………はぁ。」

 もはや乾いた笑いしかでないファングをトノヤが横目で睨む。色んな意味で必死な
その表情は鬼気迫るものがある。よくみるとサングラスに隠れた目の下はうっすらと
黒い隈が見えた。どうやら寝不足のようだ。

「だからオレはもう一泊した方がイイっつったんだヨしかも道はボコボコしてやが
るし。あー……クソ」
「……ところで、もう一泊する金が無くなる位に酒を頼んだのは一体何処のどいつだー
……?」
「オレ。」

 悪びれもなく即答され、もはや乾ききった笑いすら出ない。涙すらもう、涸れてし
まったような気さえする。
 昨日、必死の思いで手に入れた『浅葱の杖』を粉砕してしまったファング一行。そ
の『浅葱の杖』をドワーフの鍛冶屋の知り合いに修理してもらうことになり、一晩宿
屋で休んでから出発することになった。食事の際、新しい仲間のトノヤから酒盛りを
誘われた末、それは本日の早朝まで続き今にいたる。

 二日酔いの頭痛、それに加えて極度の寝不足によるだるさと先日の疲労。
 もはや最悪の状態が続いている。

「結局ファングも酒呑んでたんだからトノヤと同罪だと思うぞ……うぅ。」
「そうっすそうっす!あ……でも、そーいうことになるとあたしとオヤジ殿も同」
 

がたたたたたたたたッ!


「いぢぢッ……し、舌かんだーッ!!」

 突如急停止した馬車の激しい揺れに、月見が思わず舌を噛む。
 そして、あまりにも突然の出来事にファング達の腹の底から何かがこみあげてくる。
未だ舌を噛んでごろごろとのたうち回る月見を除いた三人の額から脂汗が分泌された。
体の何処かの器官が、危険だ危険だと悲鳴をあげている。

「なあ。オイラの口から『鶏肉の山賊焼き』とか出ちゃいなんだけどどうする?」
「……オレはジントニックにソルティドックにエールにその他諸々をミックスしたどー
にもイイカンジなカクテルが出てきそう。」
「貴重な金で頼んだ諸々が口から…………ううううう」


(なにはともあれ、このままではヤバイ。)


 そう思った彼等は今だ停止したままの馬車の扉を開け放ち外へと退避する。限界は
もうすぐそこまできている。


 外に出た瞬間、視界に入ったのは…………。

2007/03/09 01:02 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖――其の十七/トノヤ(ヒサ)
キャスト:トノヤ・月見・ファング
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/街道
……………………………………………

必死に馬車から這い出て、無意識に空を仰いだら思いっきり太陽を直視した。
反射的に目を閉じるが、遅い。
まぶたの上から網膜が焼かれるような重い痛みが襲った。
チカチカする目をこすりながら前を見ると、

削げた鼻。

「うっわ!!」

トノヤはうしろにのけぞり、馬車の車輪に後頭部を強打した。
馬車から降りようとしていた月見が、その衝撃でトノヤの上に落ちてきた。
乱暴に月見をはねのけ、情況を把握しようと周りを見回した。
頭がグルグルする。

目の前には、触ったら崩れてしまいそうな粗末なアーマーを着けている汚い男。
頬も目も肉という肉が落ちて、骨と皮だけで出来ているようで気味が悪い。
こいつのドアップを不意打ちに当てられ、二日酔いでヒィヒィ言っている内臓が悪化
した。
賊か?と思ったが様子がおかしい。

「くぁ…………いぃ……」

目の焦点が合っていない。

「うっはー!こーゆーオジサマはノーセンキゥですぁ……うえっぷ」
「吐くな吐くな。頼むからやめてくれ」

ファングが月見の頭をフラフラとわしずかむ。

「と、盗賊だーー!」

乗客だか乗員だか誰かが叫んだ。
場は、あっという間に混乱した。

「おえぇえええ……!うはっ★気分爽か……い、うおえっ」
「リバース!?ふざけんなテメェ!!!うおっ服についたし……ってまだ吐く気かっ」

違うところでモメはじめた月見とトノヤを横目に、ワッチとファングは情況を把握し
ようと急いで馬車から飛び出た。

すでに馬車は囲われていた。
数は八人。
大型馬車ではないので少人数で十分囲える。
二日酔いなんて言っていられない情況なのは充分わかった。
一般の乗客はさっさと馬車に逃げ込み息をひそめてしまっていた。
下手に外に居られても邪魔な分、ありがたかった。

「な、なんか気持悪いやつらだな。ワッチんよろしくぅ~、ぅぇ」
「なにゆってんだ!みんなで力を合わせて……こらぁ!月見!トノヤ!加勢してくれ
よ!」

ヒィヒィ言ったり、汚れた服を脱いだりとマイペースな二人を横目に、ワッチは駆け
出した。
ファングもとりあえず鞄をゴゾゴソと探っている。

「いくぜ!ンルディ!!」

一番近い、すでにボロボロの男を斬り付けようとンルディを振りかぶった。
ゆらり、と、やる気のない動きでうまく躱される。
続けざまに横薙ぎに剣を振るが、手応えは軽い。
片腕を削っただけだった。

「おっ、やるねぇゾンビ君」

覇気のない顔がワッチを向いたとき、男の身体が分裂した。
正確には腕が、飛んだ。

「こんなヤツに躱されるなんてワッチん二日酔い酷いんじゃない。おっととぉ」

片腕を無くした男越しにファングがチャクラムを片手に他の敵と応戦しているのが見
えた。
気が付けばトノヤも一人に馬乗りになりボコボコに殴りつけていた。
月見も、本当にそれはフンドシなのかというようなモノを片手に敵を打ち付けている。

「こりゃぁ気合い入れないとねっ」

言い終わる前にうしろから忍び寄っていた一人を、振向きざまに一薙ぎ。
敵は言葉にもならない声で倒れた。

あいにく戦闘能力のある同乗者はいなかったようだが、敵は本当にたいしたことなく
あっという間に片づいた。
と、思ったのもつかの間で。

「あれ……なんか……増えてない?っつぅか不死身ですかこいつら!?」

ファングのセリフは間違ってはいなかった。
どうりで様子がおかしいと思っていたら、敵は不死者だったらしい。
落ちた腕や足まで意志を持っているかのように動いている。

「二日酔いにコイツぁ辛いゼ~~」
「うひゃ~!中身丸見えってやつですな★しかしこういう中身は嬉しくないですって
…!」
「キリがないよこれ」
「あ、でもオイラが斬ったヤツラはそのまま倒れてるぞ。三人とも根性がたりんぞ!」
「いや、そういう問題じゃないんじゃ」
「刃物でやればヤれるんか?」

何を勘違いしているのかトノヤはポケットからナイフをとりだし敵に突っ込んで入っ
た。

「そうじゃないって……」

ファングのつぶやきも聞こえるわけもなく。

「トノヤ殿~~!違いますぞ~~!オヤジ殿のよーなペカペカ光るスペシアルな刃物
で斬らないと意味がナッスィングッ」
「何!?ずりぃぞコラ!」

言いながらもドンパチやっているトノヤ。

「ってことはオイラ一人でやらないと……ダメ?」
「がんばってワッチん~」

はぁ、とため息をつき、足元にウゾウゾ動いていた腕を弾いてから、グロテスクな戦
場へと向った。

「こなくそーーーー!!!」

ヤケになったワッチは最強だった。



一方馬車の中。

外の恐怖に身を縮め、一固まりになったとある一角。

「おかーさーんどうしたのぉ?」

小さな子供が理解しきれず母親に聞くが、母親は黙って子供を抱きしめた。

「ねぇねぇ、あのシト、ガクガクブツブツしてるよ?だいじょーぶなのかなぁ」

みんなガクガクしてるだろうと思いながら、子供の指さすほうを見た。
薄汚いマントを目深にかぶった一人の老人。
馬車の窓にかじりつき、目はヒン剥き、血が出るほど爪をかんでいた。
呪でもかけているかのように裏返った声でブツブツと何か独り言を言っている
あきらかに他より挙動不審。

「ひぃっ!み、見ちゃいけません!」

子供の首を無理矢理そむけ、更にきつく抱きしめた。

「ひ、ひひ。……いぞ……やはり……アレは……ディ……」
「しいぞ……見つけた……ヒヒ。。ヒヒヒ」

噛んだ指は血でまみれていた。

2007/03/09 01:03 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖――其の十八/ファング(熊猫)
キャスト:トノヤ・月見・ファング
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/街道
―――――――――――――――

相変わらず空は青い。そして眩しいほど明るい。

雲ひとつない、マットな蒼の向こうへと視線を投げながら、
ファングは組んだ腕を頭の後ろに回した。

こういう時は天気の話をするに限る。
むしろ天気のことしか考えられない。そうだ、今日は晴れだ。

「――あぁ、いい天気だぁ」
「お客さん早く乗らないと置いてくよ」

サービス精神のかけらもない、御者のセリフを
聞いて振り返ると、すえた匂いが鼻腔を突いた。

わかりきったことだが、天国の反対は、地獄である。

人間の五体(や中身)が容赦なくぶちまけられた街道のど真ん中に、
彼らは立っていた。
気の早い蝿が、それら腐乱した死体に群がりかけている。

「ごめん、今行く」

なるたけ地面を見ないようにして、歩く。
すると、やたら輝く笑顔で、月見がにょきっと乗合馬車の窓から
顔を出してきた。

「できるだけ激しく足を交差してくだされー!ぶっちゃけ、この場を
高速で離れたい感じですぞー!」
「走れって言えよ!なんか気持悪いから!」

馬車に飛び乗ると同時に、御者は馬に鞭を当てた。ぴしりという小気味良い音
のあとに、二匹の馬は何事もなかったかのように走り出した。

奥では、いまだ胃に違和感を感じているらしいワッチと、いつにも増して
目つきが(機嫌が)悪いトノヤが座り込んでいた。
彼は上着を着ていなかった――結局そのあたりに捨てたらしい。

「てか、何だったんだよ。今のはよ。オヤジ殿の剣でしか倒せねーし」
「あれってば…明らかにアンデットだよね」

げんなりと、バッグを尻の下に敷いて床に座る。ファングとトノヤの会話を聞いて、
他の乗客も口々に何事か喋りあっている。
それを聞き流しつつ、バンダナの位置を意味も確認して汗をぬぐう。
これだけの人数が一箇所にいて、しかも外は晴天だ。馬車の中は蒸す。

「つうことはさ、なんだっけ。操ってる奴がいるわけじゃん。
根暗なんとかっていう」
「ネクロマンサー」
「そう。ネクロマンサー」

まだ鼻腔に残っている腐敗臭をぬぐうように親指で鼻をこすって、
トノヤを見る――が、相手はきょとんとこちらを見ていた。
ふと不安になって、ファングは聞き返した。

「今の、お前が言ったんだよな?」
「いや…」

彼の視線が馬車の隅に伸びる。ファングの言葉を訂正したのは
トノヤではなかったらしい。つられてそちらを見る。そこには。

「ひ…ひひひ」

一人の老人が宙を見つめて陰鬱に笑いながら、死に掛けた
蜘蛛のような手つきで印を切っている。

その指先が、まだ乾ききらない血に濡れているのを呆然と見つめながら、
ネクロマンサーというものが存在するなら、この老人のような格好を
しているのだろうと、ファングは即座に悟っていた。

2007/03/09 01:03 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖――其の十九/月見(スケミ)
キャスト:トノヤ・月見・ファング
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/街道(馬車の中)
―――――――――――――――

本当にいい天気。
まっさらな青空、清清しい風。
だというのに、だというのに、何故こんなにも。


――澱んだ目をしているのだろう。


まるで絵の具を流したかのように、印を切る指を伝う赤ははっきりと見えて思
わずその光景が幻想だと勘違いしてしまう。
しかし、老人が纏う死臭がその幻想をぶち壊す。

「勘弁してくんねぇー?いや、マジ勘弁。」

ファングの隣でトノヤが両手を顔を覆いうめく。
先ほどの戦闘で上着が被害にあった彼にとって、これ以上の被害は御免こうむ
りたい。
トノヤが着ている服は特殊な服でファングはあのようなデザインの服を見たこ
とがない。
ハンドメイドのものだろうか……ならばトノヤの焦燥も頷ける。

周囲の乗客も老人に奇行に気づき、ざわめきをひそめる。
数秒もたつと乗客は皆、老人から離れた位置へと退避していた。
それほどまでに、老人のまとう雰囲気は常人のものとはかけ離れたものだっ
た。
乗客が一方面へと集まったため、馬車が前方向にギシギシと沈む。
馬の苦しげな嘶きが静寂の中に響いた。
それでもなお、馬車は動きを止めない。
岩道に入ったのだろうか、ガタガタと大きく揺れる、

「ひひひ……ネクロマンサー……そう、それだ……それだよ!」

何がうれしいのか、まるで笑いが止まらないとでもいうように小刻みに肩を震
わせながら言葉をつむぐ。
引きつったその声は不思議と苦痛に満ちていた。
印を切るスピードが段々と加速していく。

「ややややややややばい感じじゃないっすかー?!運転手さーん!」

大声で呼びかけるが、馬車の走る音にかき消されているのか返答はない。
無駄に混乱しているの高い月見が運転席へと詰め寄る。

「どうしようか。」

どうしようもないこの状況、ただただ印をきる不気味な老人。
まだこの老人がネクロマンサーと確定したわけではないが、先ほどのアンデッ
ドと何らかの関係があることは確かだ。
警戒は解けないが、だからといってどうすることもできない。

「とかいいつつなんでオイラを盾にするかなファング。」
「……いや、だって俺って非戦闘要員だし。」

それにこの狭い場所では自分の武器は不利だ、とつけくわえる。
ファングの武器、チャクラムはドーナツ型の薄い刃物だ。
敵に投擲して使用する武器のため、広い場所や遠い敵を対象とする場合に力を
発揮するため馬車のような狭い場所には向かないのだ。

(オイラの剣も狭い場所で使うには向かないんだけどなぁ)

ワッチの武器は使用者が大柄なため、通常の剣よりもサイズが大きいのだ。
ゆえに小回りがきかない。
もちろん、月見のフンドシは論外だ。さまざまな意味で。
となるとこの場所で一番有効な武器を持っているのは……。

「………うっわ、スッゲェ。」

この場所で一番有効な武器の持ち主――トノヤは微かにドアを開けて外を見て
いる。
この場の状況などお構いなしにただただ外の風景にはしゃいでいる。
まるで子供のような無邪気な態度に毒気を抜かれる。
しかし。

「空飛んでら。」

その言葉に、乗客全員の視線が一気にドアの外へと注がれる。
そこにはファング達が再度馬車に乗り込むときに見た雲ひとつない青空が広が
っている。
ただ、それだけ。
そこにあるのは透き通るような蒼穹のみ。
――そういえば、馬車の振動はいつのまにかなくなっていた。

「お前達……ひひひ……『アレ』を持ってるんだろう……ひひひひ」




その時、運転席へと詰め寄った月見は呆然とその風景を見ていた。
大きな鳥の足が馬車を掴み、大空を舞っている。
その鳥の向かう先の荒涼ろした更地に、古い屋敷のようなものが立っていた。
周囲には、大小様々な土の山が無数に存在している。


馬車と舞うその鳥は、骨で出来ていた。

2007/03/09 01:04 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖

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