キャスト:トノヤ・月見・ファング
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/街道
―――――――――――――――
相変わらず空は青い。そして眩しいほど明るい。
雲ひとつない、マットな蒼の向こうへと視線を投げながら、
ファングは組んだ腕を頭の後ろに回した。
こういう時は天気の話をするに限る。
むしろ天気のことしか考えられない。そうだ、今日は晴れだ。
「――あぁ、いい天気だぁ」
「お客さん早く乗らないと置いてくよ」
サービス精神のかけらもない、御者のセリフを
聞いて振り返ると、すえた匂いが鼻腔を突いた。
わかりきったことだが、天国の反対は、地獄である。
人間の五体(や中身)が容赦なくぶちまけられた街道のど真ん中に、
彼らは立っていた。
気の早い蝿が、それら腐乱した死体に群がりかけている。
「ごめん、今行く」
なるたけ地面を見ないようにして、歩く。
すると、やたら輝く笑顔で、月見がにょきっと乗合馬車の窓から
顔を出してきた。
「できるだけ激しく足を交差してくだされー!ぶっちゃけ、この場を
高速で離れたい感じですぞー!」
「走れって言えよ!なんか気持悪いから!」
馬車に飛び乗ると同時に、御者は馬に鞭を当てた。ぴしりという小気味良い音
のあとに、二匹の馬は何事もなかったかのように走り出した。
奥では、いまだ胃に違和感を感じているらしいワッチと、いつにも増して
目つきが(機嫌が)悪いトノヤが座り込んでいた。
彼は上着を着ていなかった――結局そのあたりに捨てたらしい。
「てか、何だったんだよ。今のはよ。オヤジ殿の剣でしか倒せねーし」
「あれってば…明らかにアンデットだよね」
げんなりと、バッグを尻の下に敷いて床に座る。ファングとトノヤの会話を聞いて、
他の乗客も口々に何事か喋りあっている。
それを聞き流しつつ、バンダナの位置を意味も確認して汗をぬぐう。
これだけの人数が一箇所にいて、しかも外は晴天だ。馬車の中は蒸す。
「つうことはさ、なんだっけ。操ってる奴がいるわけじゃん。
根暗なんとかっていう」
「ネクロマンサー」
「そう。ネクロマンサー」
まだ鼻腔に残っている腐敗臭をぬぐうように親指で鼻をこすって、
トノヤを見る――が、相手はきょとんとこちらを見ていた。
ふと不安になって、ファングは聞き返した。
「今の、お前が言ったんだよな?」
「いや…」
彼の視線が馬車の隅に伸びる。ファングの言葉を訂正したのは
トノヤではなかったらしい。つられてそちらを見る。そこには。
「ひ…ひひひ」
一人の老人が宙を見つめて陰鬱に笑いながら、死に掛けた
蜘蛛のような手つきで印を切っている。
その指先が、まだ乾ききらない血に濡れているのを呆然と見つめながら、
ネクロマンサーというものが存在するなら、この老人のような格好を
しているのだろうと、ファングは即座に悟っていた。
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/街道
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相変わらず空は青い。そして眩しいほど明るい。
雲ひとつない、マットな蒼の向こうへと視線を投げながら、
ファングは組んだ腕を頭の後ろに回した。
こういう時は天気の話をするに限る。
むしろ天気のことしか考えられない。そうだ、今日は晴れだ。
「――あぁ、いい天気だぁ」
「お客さん早く乗らないと置いてくよ」
サービス精神のかけらもない、御者のセリフを
聞いて振り返ると、すえた匂いが鼻腔を突いた。
わかりきったことだが、天国の反対は、地獄である。
人間の五体(や中身)が容赦なくぶちまけられた街道のど真ん中に、
彼らは立っていた。
気の早い蝿が、それら腐乱した死体に群がりかけている。
「ごめん、今行く」
なるたけ地面を見ないようにして、歩く。
すると、やたら輝く笑顔で、月見がにょきっと乗合馬車の窓から
顔を出してきた。
「できるだけ激しく足を交差してくだされー!ぶっちゃけ、この場を
高速で離れたい感じですぞー!」
「走れって言えよ!なんか気持悪いから!」
馬車に飛び乗ると同時に、御者は馬に鞭を当てた。ぴしりという小気味良い音
のあとに、二匹の馬は何事もなかったかのように走り出した。
奥では、いまだ胃に違和感を感じているらしいワッチと、いつにも増して
目つきが(機嫌が)悪いトノヤが座り込んでいた。
彼は上着を着ていなかった――結局そのあたりに捨てたらしい。
「てか、何だったんだよ。今のはよ。オヤジ殿の剣でしか倒せねーし」
「あれってば…明らかにアンデットだよね」
げんなりと、バッグを尻の下に敷いて床に座る。ファングとトノヤの会話を聞いて、
他の乗客も口々に何事か喋りあっている。
それを聞き流しつつ、バンダナの位置を意味も確認して汗をぬぐう。
これだけの人数が一箇所にいて、しかも外は晴天だ。馬車の中は蒸す。
「つうことはさ、なんだっけ。操ってる奴がいるわけじゃん。
根暗なんとかっていう」
「ネクロマンサー」
「そう。ネクロマンサー」
まだ鼻腔に残っている腐敗臭をぬぐうように親指で鼻をこすって、
トノヤを見る――が、相手はきょとんとこちらを見ていた。
ふと不安になって、ファングは聞き返した。
「今の、お前が言ったんだよな?」
「いや…」
彼の視線が馬車の隅に伸びる。ファングの言葉を訂正したのは
トノヤではなかったらしい。つられてそちらを見る。そこには。
「ひ…ひひひ」
一人の老人が宙を見つめて陰鬱に笑いながら、死に掛けた
蜘蛛のような手つきで印を切っている。
その指先が、まだ乾ききらない血に濡れているのを呆然と見つめながら、
ネクロマンサーというものが存在するなら、この老人のような格好を
しているのだろうと、ファングは即座に悟っていた。
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