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2024/05/17 03:37 |
浅葱の杖――其の十/トノヤ(ヒサ)
キャスト:トノヤ・ファング
NPC:ワッチ・月見・アイボリー
場所:ヴァルカン/炭鉱の中
―――――――――――――――
「ほらほら、あたふたしている場合ではありませんよ」
「だいたいどれくらいでゲームオーバーなんだ?」
「そうですね、私がこの本を読み終わるくらいの間でしょうか」

と言ってアイボリーは懐からぶあつい辞書のような本を取り出して硬い表紙をめくっ
た。
よくよくみると、

「ウ、ウィルド聖書……」
「あなたのコトも載ってますよファング」
「ウハァ!それは是非とも読ませて頂きた……グゥ」
「そんな暇ないだろ月見!」

ワッチの太い頑強な腕にガッツリ固定され、青くなったり赤くなったりしている月見。
アイボリーは本を開いてから一度も顔をあげることもなくウィルド聖書なるものを読
みふけっている。
気付けばもうかなりのページをめくっている。

「オイオイ早すぎだろ読むの」
「大した内容じゃないんだって、きっと。絶対ロクなもんじゃない。絶対」

そこでやっとアイボリーが顔をあげる。

「なかなか面白いですよ。『そう、あれはファングがまだ歩き始めた頃のことだ…な
んとファングのやつピョ……』」
「だーーーー!!!音読しなくていいっての!!」
「ピョってなんですかー!ピョって!気になりまくりですよっ」
「どーでもいいけど早くいかないとヤバいんじゃないのー?」

ウィルド聖書を強奪しようとする月見と、ソレを必死の形相で阻止しようとしている
ファングを、ワッチは遠くから寂しそうに催促するが2人とも聞いちゃいない。
トノヤはこちらから丸見えのトラップを眺めながら、隣であくびなんぞかましている。

「なぁオヤジ殿。アレ、持ち上げられっか?」
「ん?どれだ?」

アレだよアレ、とトラップの一部を指さすトノヤ。
ヒトの頭程の大きさをした鉄球のようだ。
鎖で歯車と連結している。

「なめるなよ少年。こんなもの……フンッ!!」
「おーすげーすげー。じゃあさ、それをこの歯車に噛ませてさぁ」
「フムフム……よっと!」

ガションッ!と一瞬トラップが作動しかけたが、ワッチが置いた鉄球が動きそうになっ
た歯車にひっかかり不発に終わる。
トノヤは得意げに口の端を歪め、ワッチを見た。

「どうよオヤジ殿。地道にこーやってきゃあ、後ろから丸見えのトラップを逆走する
なんてワケないぜ」
「やるねえ少年。よし次はどこだ!?」
「あのロープをだなぁ……」


「月見ーー!いいかげんにしろよーー!!」
「ハァハァなんのっ!そんなまでして阻止しようとするなんて、どんな秘密が書いて
あるのやらっ!」
「おやめなさいって。おやめなさいってお嬢さん……ところで後ろの2人はもうずい
ぶんと先に進んでいるようですが宜しいのですか?」
『ええ!?』

同時にファングと月見が後ろを振り返る。
非情な2人はもうすでにいくつものトラップをはさんで頭のてっぺんしか見えない。

「何!?何!?ひどくない!?ワッチまで先行っちゃったのォ!?」
「放置プレイですかい!?」
「さ、気を取り直して。ほらほらもう杖は動きだしてますよ」

ハッ、と手元の杖を見ると杖が手首の方まで侵食してきていた。
喰われたらしい左手は杖とおなじガラス化し、感覚も無かった。

「や、やばいってーー!」
「うひょー左手が素敵なことに★是非とも私の手をもば!」

騒ぐ2人をよそにアイボリーはウィルド聖書なるモノを読みふけっている。
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2007/03/09 01:00 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖――其の十一/ファング(熊猫)
アイボリーは顔を上げもしない。先に走っていった月見を追おうとして、ふと
立ち止まって振り返る。何か彼女に言いたかったが、喉から出てこない。
ためらっていると、ぽつりとアイボリーが呟いた。

「お父上は、良い人でしたよ」

その一言を聞いて、ファングはようやく自分の父を、ウィルドの事を――
少し尊敬できたような気がした。

「…じゃね」
「えぇ」

・・・★・・・

3人の姿は、やたら乱雑な通路の先にあった。
走ってきた勢いでトノヤの隣に並ぶと、

「俺が分析するに、あの聖書とかいうやつはただのオヤジの日記だな」
「…なんだそれ」

笑いながら言ったこちらのセリフにさして興味を示すこともなく、トノヤは
虫でも追い払うかのような手つきをして、目をくれもしなかった。

「あーん見たかったッス!ファング君の秘密やらパパンの秘密やら!」
「見たがるな!」
「でもよ、謎が解けるまでここから出さないつってるのに、謎を解くには
ここから出なきゃいけないって・・・ムジュンしてるよな」

ワッチの姿がない。かわりに頭上から金属的な音が響いている。
と、巨大な影がそこから降って来た。

「少年。なんとかできたぜ」
「どーも」
「ぅおう!さすがオヤジ殿!何したんですか自分の筋肉を挟んできたのですかぃ!?」
「挟むか!」
「そういえば一回り小さく…」
「なってないッ!」

いつものように始まったやりとりを遠巻きに、トノヤが苛々と急かしてくる。

「なんでもいいから早くしろよオラ」
「はーいっ!」

無闇に元気よく返事する月見。ワッチと顔を見合わせて、ファングはバンダナに
手をやろうとするが、左手はガラスになっているため動かない。
ふと、詩を思い出す。

【月も太陽も星もいらぬ。欲望は闇に埋まる―――闇を食らう浅葱の杖】

「! わかった!」

ぱし、と膝を叩いて、立ち止まる。このすっきりとした閃きは、
これまで一度も間違いなど弾き出したことはないと、ファング自身自負していた。

「欲望は闇に埋まって、その闇を食うっていうのは、別に俺達が食われるんじゃなくて
俺らを閉じ込めた『闇だけ』を食うってことだ!」

大仰に右手をぶんぶん振って、ただひたすら口を動かす。

「じゃあ闇ってなんだ?俺らの心の闇だよ!欲望はその闇に埋まっているんだ!
心の闇なら照らすのは太陽とかの光じゃない――きっとそうだ!
浅葱の杖は心を浄化するアイテムなんだよ!」
「――じゃあなんで、お前ガラスになってんだよ」

静かに問いかけられて、自分も左手を見ながら考える。

「…わかんねぇ…もしかしたら、この浅葱の杖ってのは、浄化=ガラス化って
いうふうに考えてるんじゃないのかな?」
「うわー。じゃああんま時間ないな」
「どういう意味だよ!?俺は心に一点の曇りもねぇぞ!?」

言ってはみるが、やおら彼はこちらを指差してきた。

「ほらほらもう肘までガラスになってんじゃんお前」
「ファング君、嘘なんかつくから♪」
「どわぁああ!?ていうか嘘じゃねぇって!」

月見の横槍に混乱しかけるこちらに、あくまでも冷めた表情で、トノヤが
周囲を隙なく見渡す。

「とりあえず、ここから出るのに一週間はかけらんねぇな。
あのねーちゃんなら、あと数刻で『聖書』を読み終わりかねねぇ」
「う・・・どうする?俺的にはさっきの坑道を逆戻りしたほうが速いと思う」

すると、はぁ?と、人と会話するために必要ななにかの感情を欠落させた――
つまりつっけんどんな態度で、トノヤが目つきを悪くさせて見てくる。

「バーカ。それ以外に方法ねぇだろ。だからこうやってシチ面倒くせーことしてたんじゃねぇか」
「なっ…そーゆー言い方ないだろ!?お前かわいくなーい!」
「うるせー!男に可愛さとかいらねーだろ!?」

ごん。

「い!?」
「ってぇ…何すんだよオヤジ殿」
「なんで俺まで」
「ケンカ両成敗だ!時間ないんだろ!?とにかくファングは上に行ったら走るんだ!」

ワッチの怒号が、いつもより大きく聞こえた。

2007/03/09 01:00 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖――其の十二+あらすじ/ファング(熊猫)
・・・いままでのあらすじ・・・

怪力の剣闘士ワッチ、出所不明のテンション右肩上がり少女、月見と、
父の残した『遺産』を探しているトレジャーハンター、ファングは、
ひょんな事から出会い、共に『遺産』を探すことになった。

今回のお宝は『浅葱の杖』。

【月も太陽も星もいらぬ。欲望は闇に埋まる――闇を食らう浅葱の杖】

という詩のみを頼りに、勢いで炭鉱まできた3人。
正体不明でしかもヤル気ゼロのトノヤを加え、さらに進む一行。

だが、なぜか炭鉱内はトラップだらけ!
それでもなんとかそこを突破した一行は、ファングの父、ウィルドから
『浅葱の杖』を守護するようにと命(めい)を受けたという、
アイボリーという女に出会う。

なんと、この炭鉱こそが『浅葱の杖』の在り処だったのだ!
そして彼女は、『浅葱の杖』を前に戸惑うファング達に、最後の謎を投げかける。

―この杖に喰らわれないうちに、この杖をここから運び出してください―

浅葱の杖とは、心の闇を喰うアイテム。
だが、『心の闇を喰う』というのは、穢れた心を持つ者を
ガラスにしてしまうという事だった。

助かる方法はただ一つ。
アイボリーが『ウィルド聖書』を読み終わるまでに、外に出ることだった――

既にファングの左腕はガラスになってしまっている。急げ一行!

・・・★・・・

キャスト:トノヤ・ファング
NPC:ワッチ・月見
場所:ヴァルカン/炭鉱の中
―――――――――――――――

「んなぁっ!もしさっ!このガラっ!スが!壊れたら!どーすんだよ!?」
「やっぱ!今後は片腕で過ごすしかねぇだろっ!」
「えー!」

走りながら喋るのは容易ではない。ましてや、片腕が固定されているため
バランスが取りにくい。

四人は全力疾走して、今来た道を引き返していた。
もう、あと数メートルで炭鉱から出ることができる。さきほどトノヤが倒したという賊の姿はなかった。
だが、ファングは違和感を感じて立ち止まった。

見れば、『浅葱の杖』を掴んだままの手から、肩、わき腹、
太ももまでガラスの波が滲出していた。
こうなってしまうと、歩くのも難しい。

「やっべー…」
「ファング!」

ランタンを持った月見を背中に背負ったまま、ワッチが走り戻ってくる。
もう灯りは必要ないだろうが、消すのを忘れているらしい。
トノヤも足を止めて、遠巻きにこちらの様子を伺っているようだった。

「…」

空いている右手で肩をさすってみるが、温度も鼓動もない。
血液も通っていないらしいが、肩が動かないだけであって、ほかの部位も
壊死した様子がないのが幸いだった。

出口まではそう距離はないが、それは走ったらの話だ。
頭(こうべ)を垂れるファングに向けて、黙っていたトノヤが決心したように
声を発した。

「オヤジ殿!こうなったら最後の手段だ!」
「え?オイラ?」

意外そうに、ワッチが自分を指差してトノヤを見る。

「要は外にでりゃーいいんだろ。だったら…」

トノヤが、こちらを見ながらにぃっと口の端を吊り上げた。

「え。いや待てお前。なんか俺スゲー心配」

ふつふつと、冷たい汗がファングの背中をつたう。
半身はほぼガラスになってしまっているせいで、後退ることもできない。
と、ワッチの背中に張り付いている月見が、ピンと来たようににっこりした。

「出口に投げるんですな☆」
「あったりー!」
「やっぱりー!」

背中に月見を張りつけたまま、片腕でファングの襟首を掴む。

「行くぞ!」
「行くなー!」
「ありがとうさよならファング君!」
「礼かと思えば別れの挨拶かよ!?」

左半身が、完全にガラスになった。

「あ…」

喉さえ動かない。視線を動かして横を見ると、トノヤが一心不乱に
走っていた。

「オヤジ殿、俺が先に行って向こうで受け止める!」
「おう!」

視界が回った。ワッチが自分を掴んでいる手を後ろに振ったらしい。

「おおおおおお――!」

・・・★・・・

「・・・」

アイボリー=ドルーウィは、静かに聖書の最後のページをめくり、
ぱたんと本を閉じた。

「ティーザでも、パールでもなく…なぜあなたがあの子を選んだのか、
 わかったような気がしますよ」

本を脇に抱えて立ち上がり、彼女は今はもう誰もいない暗闇の
向こうを、そっと微笑しながら見つめた。

「あの子は、あなたにそっくりです」

・・・★・・・

気がついたら、宙に浮いていた。

目を見開いて、自分の身体が回転しているのを感じる。
だが、一瞬後には、もう落ちている――

どさぁっ!

「いって!」
「つ…」

自分の上げた声に驚いて、はっと顔を上げる。
下敷きになったトノヤは無視して、まだ『杖』を握ったままの
左手を開いて、握る。
握れた。動いた。

「戻ったァ――――――!!!」

諸手を上げて、跳ね上がる。ひとしきり騒いでから、
ふと背中で乾いた音を聞いた。

ぱりん。

最初は、その音がなんなのかわからなかった――

2007/03/09 01:01 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖――其の十三/月見(スケミ)
『微妙なあらすじ』

まさに死ぬような思いをしてようやく『浅葱の杖』を手に入れたファング達。
喜びにはしゃぐファング。

しかし、その時聞いてはならない音がしたような気がした。

……………………………………………………
PC:ファング、トノヤ、月見
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/炭坑付近~ヴァルカン/元鍛冶屋の家
……………………………………………………



ぱりん。




一瞬、耳に入って来た音が幻聴だと思った。
いや、正確にいうと思いたかった、だが。

「あ。」
「あ★」

ファングの背後、しかも乾いた音がしたあたりから情けない声が聞こえた。
そういえば喜んでいる間、自分は何かしてはいけないことをしたような気がした。
『杖』の原料はガラスだ。

いくら良質のガラスというども、力強く握りしめてしまえば……

「ま、まーさーか……」

振り返る際の、砂利を踏み締める音がやけに強く強く響く。
ゆっくりと、ゆっくりと振り返れども現実は否応無しに襲ってくる。
視界に飛び込んで来たのは………

美しい虹色の輝き。

半分の長さになった『杖』の割れた断面が、青空に浮かぶ太陽の光を反射してきらき
らきらきらと虹色に輝いていた。
『杖』は心の闇を喰らうアイテム。
その虹色は生物のあらゆる感情の闇を網羅したような色だった。
輝く虹色の断片に自分の闇があるのだとしたら、意外と闇というものはは美しいもの
なのかもしれないと思った。

そして、もう『杖』のもう半分はファングの手の中にある。

(これは。ほんとう。どうしよう。)

思わず動きを止めたファングに、『杖』が割れた場面を目撃したワッチと月見の二人
が興奮しながら詰め寄ってくる。

「バ、バンダナ殿!何だか『杖』が素敵分裂しましたぞッ★」

「………あー。いや、うん、そう、アレって分裂するんだよ、うん。」

「スゴイなー!『杖』ってのはこんなことも出来るのかー!」

「え、いや、あの……いや、仕様だよ、うん。」

『スゲー!!』

謎のテンションではしゃぐ二人を虚ろな気分で見つめつつ、ファングの心の中は混乱
していた。

(やべやべやべやべやべー!これはトレジャーハンターとしてどうよ俺?!命からが
ら生き延びてこれってどうなのよ俺?!っていうかここ掃除しとかなきゃ駄目だよな。
もしも子供とかきたら足の裏切って泣くし!それで治療費請求されてもどうしような
いじゃん!困る、果てしなく困る。…………あ、でもよく見たら破片はまったく散ら
ばって無い……?そうだ!!今の状態なら断面を接着すればきっと元の『杖』に戻っ
たりしちゃったりなんだりするかもしれない!そうだそうに違いないッ!)

そう思ったファングは地面に落ちた『杖』の半身を拾おうと身を傾けた。
一抹の希望に縋るように、溺れた者が藁をも掴む心境で。

「オイッ!人を下敷きにしたら謝れっつーのー!」

怒ったようなトノヤの声と背中に衝撃。
ファングの視界は、何が起こったか分からないままどんどんと砂利ばかりの地面へ近
付いていく。
ヤケに、その光景がスローモーションのようにゆっくり、ゆっくりと進む。

「へぶしッ!」

今度は顔面の衝撃。


ぱりん


そして自分の腹の方から鈍く響くかわいた音。
その時ファングは、既視感にも似た目眩を感じた。

またまた興奮する月見とワッチの声が何故か遠く聞こえた。


父の『遺産』はその息子の手によって欠片となった。





「オーイ!鍛冶屋のおっちゃーん!!」

勢いよく木製のドアがあけられる。
あまりの勢いのよさに壁にバウンドしてドアが閉じそうになるが、ワッチは素早い動
きでそれを制した。
小屋の中には以前と同じように、ガランとした部屋の中にぽつん、とドワーフの鍛冶
屋が座っていた。
物がないこの部屋に、ドワーフのような体格が良い者が一人だけいる風景はどこか滑
稽にも思える。

「なんじゃ……またオマエらか」

どうやら寝起きらしく、ちょっと不機嫌そうな顏をしてワッチ達を迎え入れる。

「ん?新しい奴が増えてるの。………変な格好じゃな」

新しい奴……則ちトノヤだ。
確かにトノヤの格好はあまり見ない素材・形状で一般的に見ても奇抜な格好である。
それに加えてここは火山の漢達の町、彼等にとって服は機能性が一番なのでトノヤの
格好は余計奇抜に見えるのである。
初対面のドワーフに変な格好と言われたトノヤはムスッとした顔をして、静かに睨む。
自分のセンスを馬鹿にされて、いい気分のはずがない。

「おー。ケンカ売ってんのかジジイ。」
「ほほー。若造がワシに喧嘩をふっかけるのか?」

流石は年長者トノヤの睨みにも動じる事無く余裕で答える。
だが。

「うっせ。このデブハゲ。独身。無職。チーーーーーーーーーーーーーービ。」
「……な……なんじゃと若造ーーーーーーーー!!!」

見事にコンプレックスを刺激した罵倒に激昂するドワーフ。
どうやら気にしていたことらしく顔が真っ赤になっている。

「おじいちゃん!このお方は変な格好だけど先の副将軍トノヤ殿っすよー!」

そんな彼等を制止しようと間にはいる月見だが言ってることがトンチンカンであまり
効果がない。
うっかり一般人が間に入ったことでワルガキと鍛冶屋のパワフルクロスカウンター一
身に受けることになってしまった月見であった。
大回転。


ひとしきり問答を繰り広げた後、ふとドワーフの視線がワッチの背後にいるファング
にが止まった。
いや、止まらざるをえないと言ったほうが正しいか。

「お、おい、どうしたんじゃ……ソイツは……」
「…………………………………あー」

ファングはどんよりとした顔でひたすら唸っていた。
泣きそうな来るしそうな痛いそうな死にそうな顏をしながらお腹をさすっている。
吐きそうなのだろうか?


「そうそう!それできたんだよオイラ達!実をいうと『杖』がさ……」

いまだ色々と唸りまくってるファングを除いたワッチ達は、ドワーフに今までのいき
さつを身ぶり手ぶりを加え、賑やかに話した。


宝の場所をつきとめたこと。

暗闇ハードプレイSM(襲撃)があったこと。

トノヤに出会ったこと。

その他諸々のこと。

そして


「そんなワケでですね~!おじいちゃん、コレ直せないッスか?」


月見はバッグの中からスナック菓子の袋を取り出してドワーフに渡した。
怪訝に思いながらも袋の中を覗く。

「ほぉ……!これは!」

ドワーフは思わず感嘆の声をもらした。
そこにあったのは上質なガラスの破片。
その品質は破片になっても未だ美しい断面の輝きでわかる。



上質なガラスの欠片………
『浅葱の杖』の破片である。

2007/03/09 01:01 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖――其の十四/トノヤ(ヒサ)
……………………………………………………
PC:ファング、トノヤ、月見
NPC:ワッチ
場所:元鍛冶屋の家/ヴァルカン
……………………………………………………

 塩っ気たっぷりの袋の中へ無造作に入れられた杖に、魅入られながらドワーフの親
父は

「ふむ。わしゃぁ、ガラス細工は専門外での」

 あっさり言いのけた。

「え、ええっ!まじっすか!」

 本気でファングの顔から色が無くなった。

「ジャガバタおでん風味がいけなかったのですかっ。これは思わぬ落とし穴!コンソ
メパンチにしとけばよかった……!」
「オレはジャガバタおでん風味の方が好きだけどな」
「おっ!流石副将軍トノヤ殿っ★通ですなぁウヒヘヘヘ。実はわたしも……」
「いい加減にしてくれよオマエラ」

 ワッチが拳を「は~っ」と息を吹き掛けながら月見とトノヤを見おろした。
 それだけでワッチが暗に言わんとしていることが二人に充分と伝わった。

「お、俺どうすれば……」
「まあまあ、ファングもそう落ち込むことないって。親父なんとかしてやってくれよ」
「うむ」

 うむ、といったままドワーフは店の奥に入っていってしまった。
 その言葉は了解の意なのか、ただのあいづちなのか曖昧な言い方だった。

「手に追えなくて逃げたかあのハゲ」
「じっちゃまハゲ!?つるぴかですか!?」
「キツキツの帽子から毛ぇ見えてた気がするけど?老人だからってだれでもハゲてる
とはかぎらないんだぞ少年」
「いや、精神的に」
「誰がハゲじゃっ!それに逃げとらんわい!失礼極まりない若造じゃの」

 短い足をせわしなく動かしながらドワーフは戻ってきた。
 手には、地図らしき紙とメモ用の羊皮紙がにぎられている。
 工具やら商品やらがごっちゃになって散らかったカウンターに顔を出し、おもむろ
に、地図を広げられるだけのスペースを両手でかき分け無理矢理作った。
 ガチャガチャといくつか物が落ちたが、そんなことは気にも止めていない。
 使い込まれて年季の入っているらしいボロボロの地図をカウンターに広げた。
 この町の地図らしい。
 そうとう古い物らしく記述されている地形すら違うように見える。

「ここがワシの店」

 といって、そこらに落ちていた石炭で迷いもなく印をつけた。
 紙の左下の隅の方、川を示しているのであろう水色の線が書かれている横が現在位
置らしい。
 地図で見るとここが町のずいぶん外れにあるのがわかる。

「で、ここ」

 地図の対角線上、右上の隅、ここから真逆の方角だ。これまたずいぶんと町に外れ
ている場所を、石炭でまた印をつけた。
 短い腕をのばしたときに、さっきつけた現在位置の印がこすれて消えかかった。

「ここらへんにワシの知り合いのガラス職人がおるのじゃよ。これがまた良い仕事を
するやつでの」
「こんなに遠いの!?下手したら隣の町に行けちゃうくらい距離あるよこれ」
「町の中に行けば列車でもなんでも交通手段はあるでの」

 簡単に言ってくれる。

「だりーなオイ」
「文句言わない」
「うっひょーう、列車移動ですかっ!修学旅行のノリですな★ドッキドキー」
「金……あったかな」

 四人の意見などなんのその。我関せず。ドワーフは羊皮紙に何か書き出した。今度
はちゃんとインクを使っているようだ。

「ほれっ紹介状じゃ。さっさと行ってくるんじゃな」

 といって、紙を四つ折にして差し出し、地図をクルクルとまるめてカウンターから
おりてしまった。

「えっ!ちょっと待って、場所まだ良く見てな……」
「なんじゃと!?ぐずじゃのう。しょうがないこの地図持って行くがええ」

 別にもう一度見せてくれるだけで良いのに、ドワーフは地図まで持たせてくれた。
 中途半端に大きい古臭い地図でなくても、最新の地図(ガイド付)をファングは持っ
ていた。
 だが、強引ではあるが好意なのだろう。断わることも出来ず、受け取ってしまった。

 一行はとりあえず、鍛冶屋"暴れ山羊"を出て、宿に戻り今後の予定をきちんとたて
ることにした。
 草を除けただけの粗末な小道を通り、川を渡ろうとしたあたりで、

「そういや少年はいつまで一緒にいるんだ?」
「あん?」

 四人の足は自然と止まった。

「あー……そうだな。っていうか何でオレここにいるんだっけ?」
「盗賊っぽいやつらとトノヤん一緒にいて、何か、良く覚えてないけどついてきたん
じゃん」

『……………』

「まあ、あれだ。ノリだなノリ。いーじゃん気にすんなよ、たびは道連れ世は情けっ
てな!ハッハッ」

しばらくの間のあと、トノヤはやけに軽いノリで言い放った。
別に害はなさそうだと踏んだらしく、そのまま一行は宿場の方へ歩き出した。

2007/03/09 01:02 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖

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